Peace Maker   作:柴猫侍

6 / 77
№6 意気投合

『個性把握……テストォ!?』

 

 数人の声が重なり、広大な雄英のグラウンドを突き抜けるように響き渡っていく。

 全員、雄英高校指定のジャージを着こみ、まだ糊が効いている生地をほぐすかのように、既に準備運動をし始めている者も何人か窺える。

 しかし、ほとんどの生徒は突然のテストに困惑の色を隠せず、抗議の声を上げた。

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事出る時間ないよ」

 

 ほどよい肉付きで可愛らしい印象を受ける女子生徒・麗日(うららか)茶子(ちゃこ)が、今日参加する予定であった行事の名前を口に出すも、相澤は背中を向けたまま、怠そうな声で応答する。

 なんでも、雄英は“自由”な校風が売りとのこと。先生側もまた然りらしい。

 

 そしてこれから始めるのは“個性”を用いての体力テスト。

 相澤曰く、中学の頃からやっていた“個性”禁止の体力テストは文部科学省の怠慢。この超常社会において、未だに平均を作ろうとしているのは合理性に欠けるらしい。

 

「Hmmm。ま、異形型はどうやって“個性”を禁止するのかって話だもんな」

「だな」

 

 腕のストレッチをしながら、既に仲良くなった切島に耳打ちする熾念。

 

 “個性”の種類は千差万別。発動型、変形型や異形型だ。

 その中でも異形型は、常時人外染みた身体能力を有していることも少なくなく、公共の場での“個性”使用禁止の規則のグレーゾーンとも言うべき存在。

 そんな彼等が居ると言うにも拘わらず、前時代で言う“普通の人間”の平均を作ろうとしているのは、確かに怠慢というべき所業か。

 

「じゃあ試しに……おっと、A組は実技一位が二人居たんだったな。爆豪と波動……あ~、敵Pが高いのは爆豪だから、お前やれ。因みに中学の時のソフトボール投げは何mだった?」

「あ゛ッ!? ……67m」

 

 一瞬、驚いたように声を上げ、熾念に鋭い眼光を向ける爆豪。

 だが、すぐさま相澤に訊かれた記録を口に出す。

 

「じゃあ“個性”を使ってやってみろ」

 

 円から出なきゃなにしてもいいよ、と付け加え、何やらハイテクなボールを爆豪に投げ渡す相澤。

 何度か手の中で転がす爆豪は、途中人を殺しそうな眼力で熾念を睨むも、当の熾念は『同率一位はアイツなのかぁ~』と呑気に身構えている。

 

 そして、

 

「―――死ねぇ!!!」

 

 球威に爆風を乗せるようにしてソフトボールを投擲する爆豪。

 ボールは放物線を描きながら、霞むほどに広大なグラウンドの奥の方に、煙の尾を引きながら落下した。

 するとピピッと電子音が鳴り、相澤の手の中に納められていたタブレットに『705.2m』という規格外の数字が並ぶのが目に入る。人力ではどうやっても不可能な数字だが、“個性”を用いればここまでやれるという良い見本だ。

 

 否応なしに盛り上がる場であったが、喜色とやる気が混じった声の中に聞こえた『面白そう』という言葉に相澤が反応する。

 

「よし……トータル最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 

 突拍子もないトンデモ提案に、クラスが一丸となって驚愕と困惑が入り混じった声を上げた。

 

 己の最大限を知る。そしてそれを乗り越える。

 

 “Plus Ultra(プルスウルトラ)”―――雄英高校の校訓だ。

 

 そして生徒の如何は教師の自由。

 

「HAHA。自由って言うよりはtyranny(横暴)?」

「なんか言ったか、波動?」

「PTAが騒ぎそうだなー、と思いまして」

「……さっさと準備しろ」

「Yes, sir」

 

 成程、自由な校風がプルスウルトラれば、横暴・理不尽となるのか。そんな皮肉が脳裏を過るが、このようなところで内申点を下げられたくはないと、呆れた笑みを浮かべて準備体操に取り掛かる熾念。

 洗礼というには重すぎる試練。

 A組の面々は、ヒーロー養成の最高峰に位置する雄英が与える苦難を前に、緊張、焦燥、不安、好奇などなど、様々な想いを胸に秘め、一歩踏み出すのであった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

 『50m走』

 

「All right!」

「るっせえぞ、似非バイリンガル」

 

 気合い充分の熾念は、隣でクラウチングスタートの体勢をとる様子がない爆豪の横で、苦笑を浮かべて腰を屈ませて位置に着く。しかし、真面に奔るつもりは毛頭ない。

 50m程度の距離であれば、“個性”フルパワーで飛んだ方が早いのだ。

 実技入試の時のような分単位の競技ならば、こまめな調整が必要であるものの、今回はその限りではない。

 

「Ready―――」

「爆速―――」

「GO!!」

「ターボ!!」

 

 爆豪は両腕を背後に構え、実技試験の時と同じように爆破で加速して飛翔する。

 一方熾念は、緑色の光の尾を引きながら、高速でトラック上を飛び去っていく。やや爆風に煽られたものの、両者は共に一陣の風となり、計測器の前を通り過ぎた。

 

『3秒59!!』

WHOO(フー)! Feels good(気持ちいいぜ)♪」

『4秒13!!』

「クソがッ!!」

 

 全身に風を感じて、爽快感に歓喜の声を上げる熾念。

 僅かに自身の記録を超えられたことに憤る爆豪は、親でも殺されたかと疑いそうになる眼力で熾念を睨む。

 更には掌からBBB!と小さい爆発を断続的に起こし、彼の怒りを体現するまでに至っていた。

 

 爆豪勝己:個性『爆破』

 掌の汗腺からニトロのような物質を出し、爆発させることができる! 威力は汗の量に比例する為、夏は強いが冬になるとスロースターターになってしまうぞ!

 

「オイ、良い気になってんじゃねえぞ!? 計測は二回だ!! 次はぶっ殺してやる!!」

「OK! 次もお互い頑張ろうぜ、勝己!」

「誰が握手なんざするかッ! それと名前で呼ぶんじゃねえよ!!」

「……お前ら、いいからさっさと退け」

 

 普通に話しているつもりの熾念と、煽りを受けているかのように憤慨する爆豪が喋っていたが、気怠そうながらも威圧感を含んだ声で退去するよう指示する。

 彼の声に不承不承ながら退ける爆豪。

 そして、そんな彼を見遣りながら颯爽と退ける熾念は、既に一回目の計測を終えた切島の下へ駆け寄る。

 

「Hey、鋭児郎。俺、なんか勝己に悪いことしたか?」

「あ~……ありゃ、単純に波動と爆豪の性格が合わないだけだろうな」

「Oh……」

 

 風のように、飄々とマイペースな性格の熾念。

 炎のように、煽りを受ければ燃え盛る性格の爆豪。

 

 できるだけクラスメートと仲良くなりたい熾念であったが、奇しくも二人の相性は最悪であった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

 『握力』

 

 順番を待つ熾念は、切島と談笑しながら時間を潰していた。

 するとそこへ、一人の女子生徒が……。

 

「ねえ、ちょっといい?」

「Huh?」

「ウチ、耳郎(じろう)響香(きょうか)。アンタさ、入試ん時同じ会場居たっしょ?」

 

 サバサバとした様相の女子が、フレンドリーに笑いながら歩み寄ってくる。

 イヤホンコードのように伸びている耳たぶがチャームポイントに窺える少女―――耳郎響香を数秒凝視する熾念は、入試の時のことを思い返す。

 

「Ah……スタートの時に転んでた子!」

「ちょ、転んだとか言うなよ……アレはホラ。爆豪だっけか? アイツので……」

「お、なになに? 知り合いか!?」

 

 その間に割り込むよう声を上げるのは、金髪に黒い稲妻状のメッシュが入っているお茶らけた雰囲気の男子生徒―――上鳴(かみなり)電気(でんき)だ。

 よっぽど女子と話したいのか、声を掛けられた熾念をも押しのけて、耳郎の前へ歩み出る。

 が、

 

「……アンタらさ、なんかアレだよね」

「「「ん?」」」

「三人並ぶとブフッ……ウェーイ系の男子に見えるよね」

 

 熾念、切島、上鳴の三人が並んだ様を見た耳郎が、口元を手で覆いながら噴き出す。

 確かに髪型や風貌はウェーイ系の男に見えるかもしれないが、熾念と元地味系の見た目の切島は心外だと思うのであった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

 『ソフトボール投げ』

 

(ボール投げ……一気に勢いつけて投げるのと、飛ぶときみたいに休み休み動かすの。どっちが距離伸びるかなっと……)

 

 ハイテクそうな機器が組み込まれている見た目とは裏腹に、重量はソフトボールとほとんど変わらないボールをお手玉のように弄ぶ熾念。

 熾念の“個性(念動力)”は、自身の念が届く範囲でしか作用しない。

 であるのだが、実際どこまで届くか試したことはないのだ。

 

 実技試験の際、『METEO(メテオ) SMASH(スマッシュ)』を放つ際は、瓦礫やジャンクの塊を三十メートルほど浮かばせていた。だが、思い返せば、その時の距離が“個性”を行使した時の人生最高の距離であったのだ。

 

(とりあえず、最初は慎重に……)

 

 軽く振りかぶって放り投げ、飛行と同じように、一秒使って0.2秒休むという方法で距離を伸ばしていく。

 飛翔と落下。二つの運動を繰り返し行うボールであったが、熾念がボールを目視できなくなった途端、勢いを失くして自由落下をし始める。

 

「Ah……」

「315.8m」

 

 ぶっきらぼうな声で相澤が結果を口にする。

 

(次は思いっきり念込めて投げるか……)

 

 一投目は、自身の“個性”の有効範囲の限界がどの程度のものなのか、大体把握することが叶った。

 その後の二投目はと言えば、342.8mと僅かに伸びた結果が出た為、熾念は満足げに笑みを浮かべるのだった。

 

「なあ波動。おめえの“個性”で女子のスカート捲れねえか?」

「Not do it」

 

 峰田が何か言ったが、熾念は丁重に断った。

 この短時間で理解できたが、彼は性欲の権化らしい。並みには性欲はある熾念だが、心は純情一途な少年である為、彼のショッキングピンクな発言には思わず目が眩んでしまう。

 

 それは兎も角、熾念の後は緑谷出久という地味目の男子生徒に順が回っていたのだが、彼はここまで目立って成績を残せていない。可能性としては、体力テストに応用できそうな“個性”の持ち主であるのか。

 

「Hey、鋭児郎。アイツの“個性”知ってるか?」

「緑谷か? 確か入試ん時に見たんだよな……そうそう! めちゃくちゃ凄ェパワーの“個性”だったんだぜ!? 多分増強系」

「んな訳ねえだろッ! デクは”無個性”だ!」

 

 当時の光景を思いだすかのように嬉々として語る切島であったが、そこへ捲し立てるように怒鳴りながらズケズケと爆豪がやって来た。

 

Quirkless(無個性)?」

「はぁ!? アイツ、0P敵をぶっ飛ばしてたんだぜ!? そんな奴が無個性の訳……」

「てめーの言う通り増強型なら尚更有り得ねー! デクのお袋は物を引き寄せる“個性”で、親父の方は火ィ吹く“個性”だ!! それがどうして増強型になんだよッ!? そうだ、有り得ねー……デクが“個性”持ちなんざ……!」

 

 切島の証言に『信じ難い』とでも言わんばかりの物言いの爆豪―――否、『信じたくない』と見た方が正しいだろう。

 やけに緑谷に突っかかる彼の瞳には、誰が見ても明らかな『憤り』が垣間見えていた。それが何に対しての憤りかまでは測りかねるが、今ボール投げのサークルに佇んでいる緑谷に対してであることは間違いない。

 

 爆豪が緑谷を『デク』と呼ぶように、緑谷も爆豪を『かっちゃん』と呼んでいる。互いに渾名で呼び合っていることから、それなりに長い付き合いなのだろう。仲が良いのかは別として。

 見る限り、爆豪はその付き合いの中でも緑谷の“個性”を一度たりとも見たことが無かった―――“無個性”と断じて疑わなかった。

 確かに、そんな彼が雄英高校に受かったのであれば、もし同じ立場であれば自分も何か思うだろう。

 

 しかし、熾念の場合は例外だ。彼の“個性”の発現は他よりも遅かった為、仮に緑谷が“今更”というタイミングで“個性”が発現したとしても、彼を知る者より軽く受け止められる事実であった。

 

 と、そうこうしている間にも、緑谷は何かしでかしたのか、相澤に謎の長い布で雁字搦めに絡みとられていた。

 お小言を貰った様子の緑谷は、解放された後、意気消沈したままサークル内へ戻っていき、二投目の準備をし始める。

 

それを見て一言。

 

「まあ色々あったんだろ、HAHA!」

「んな軽く済ませてたまるかッ、クソがッ!!」

 

 

 

 

 

「―――SMASH!!!」

 

 

 

 

 

 直後、轟音と共にボールが空を衝かんばかりに投擲され、一つの星となった。

 空気の壁を貫かんと、凄まじい勢いで飛んで行ったボールは見事の放物線を描いており、先程説教したばかりの相澤も驚愕の色を浮かべる。

 

「先生……! まだ……動けます!」

 

 そう言って拳を握る緑谷。彼の人差し指は、日常生活では見ることが叶わないであろうというほど真っ赤に腫れ上がっていた。

 

「Toot♪ Amazing」

「ッ……!!!」

 

 感心してCLAPと拍手を送る熾念の横では、大口を開けて瞠目する爆豪が身を震わせていた。

 その後、爆豪が耐えかねて緑谷の下へ飛び出したり、相澤が“個性”の『抹消』を用いて彼を制止したりなどのトラブル以外はなく、“個性”把握の体力テストは滞りなく終了する。

 

 そして運命の結果発表。最下位の者は除籍処分とのこともあり、一部を除いてほぼ全員に緊張が奔る。特に、ソフトボール投げ以外の成績がほとんど振るわなかった緑谷は、判決を待つ罪人のように、顔を俯かせて現実から目を背けようとしていた。

 

「ちなみに除籍はウソな」

『!?』

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

 ハッと一笑する相澤。

 次の瞬間、慟哭のように驚愕の声を上げる者が居たことは、言わずともいいだろう。

 

 因みに熾念は、クラス中四位であった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

 緑谷出久には秘密がある。

 それは一年前、№1であるオールマイトとの偶然の出会いから始まったことだった。

 

 生まれてこのかた“無個性”であった彼は、“個性”に恵まれた者達のように憧れのヒーローを目指すことさえ困難な状況で、『それでも』と自分なりのヒーロー研究を進めていたのだ。

 十数冊にも渡るヒーロー研究。ヒーローについての知識だけであれば、プロにも負けないという自負があった。

 しかし、そんな努力も“無個性”の自分では実を結ばない。少しでも頑張ろうと思えば、その度に『無個性の癖に』と種は踏みつけられ、一向に芽吹くことはない。

 

 無精卵をどれだけ温めようとも孵らないように―――温めることさえ許されないような環境の中育った彼は、陰鬱な日々を送っていた。

 そんな日々に転機をもたらしたのは他でもない。

 緑谷出久という人間にとって、神にも等しい№1ヒーロー『オールマイト』であった。

 

 ひょんなことから彼の“秘密”を知ってしまった緑谷は、彼との二度の邂逅を経て、ヒーローとしての素質を見出され、あろうことか“個性”の継承者へと選ばれたのだ。

 

―――『ワン・フォー・オール(一人は皆の為に)

 

 それがオールマイトの……そして、緑谷出久という少年に引き継がれた“個性”。

 何代にも渡って引き継がれた“個性”は、芽吹く見込みのなかった種の殻を強引に叩き割り、新たなるヒーローの萌芽を現したのだ。

 今はまだ、使う度に反動で体が壊れてしまうものの、いずれは自由自在に使いこなし、オールマイトのように数多くの人々を救う―――それが緑谷の目標。

 

 だが、早速の洗礼を受けて右手の人差し指をバキバキに骨折した彼は、看護教諭であるリカバリーガールの下に赴き、ケガを治してもらうこととなった。

 治癒して貰った間に、初日のカリキュラムは終了したようであり、教室へ戻る間にもリュックを背負って帰宅し始める生徒たちがちらほら垣間見える。

 

(とほほ、先は長いや……)

 

 この後は、相澤に言われた今後のカリキュラム等書かれている書類に取りに、教室へ戻らなければならない。

 

(まだ誰か居るかな?)

 

 そう思いつつ自身の教室の扉を開ければ、所々で談笑している者達の姿が窺える。

 緑谷が教室に入った途端、『指大丈夫か?』などと声を掛けてくれる者が何人か居り、少々感銘を覚えつつ、自身の席に置かれている書類を求め、足を進めようとした。

 

「Hey!」

「うわッ!?」

「おっと、驚かせたか? Sorry!」

「あ、うん……大丈夫だよ。えっと、僕は」

「緑谷出久、だろ? 前の席の波動熾念だ! よろしくな!」

「こ、こちらこそよろしく、波動くん」

 

(うわぁ、爽やかな笑顔……)

 

 思わず身を引いてしまう程の爽やかスマイルに、どちらかと言えば陰キャラ寄りの緑谷は、オドオドした様子で挨拶をすることとなってしまった。

 

 しかし、人当りはいい。

 もしこの人物が居なければ、自分の前の席は幼馴染の爆豪となっていたのだから、それを阻止してくれたというだけで、かなりの恩があると言っても過言ではない。そう考えた途端、胸の中にじわりと何とも言えない有難い感覚が湧き上がってくる。

 

「ありがとう……ははッ」

「Huh? なにがだ?」

「いや、なんでもないんだ!」

「Hmmm……ま、いいか。それよりも出久、お前の“個性”―――」

「へぁッ!? ぼぼぼ、僕の“個性”が何!?」

 

 突然の話題の転換。しかもそれが、自身と憧れの人物の秘密に関わる話題と来た。

 『お前の“個性”はなんだ?』と訊かれれば、単純な増強型と答えればいいのだが、如何せん人付き合いに慣れていない為にあからさまな動揺を見せてしまう。

 

 胸の鼓動が早まる。

 一体何を聞かれるのか。

 嫌な汗が頬を伝う。

 緊張の余り、ゴクリと唾を飲んだ。その時だった。

 

「―――使った時の掛け声……もしかして、オールマイトリスペクトか!?」

「え? ……あ、うん! そうなんだッ! 僕、オールマイトの大ファンで……もしかして波動くんも?」

Of course(もちろん)! ファンもなにも、大ファンさッ! 確か雄英にオールマイトが教師として来てるんだよな? 授業がまだか、今からもう楽しみだぜッ!」

「う、うんッ!! 僕もだよ!」

 

 よかった、直接的な“個性”に関する質問でなくて。

 そう思う一方で緑谷は、前の席の男子生徒が自分と同じオールマイトファンであったことに、パァッと顔を明るくする。

 何を隠そう、彼は筋金入りのオールマイトファンだ。アイドルファンが、好きなアイドルのグッズを部屋中に飾るように、彼の部屋には数々のオールマイトグッズが並んでいる。

 

 小遣いを渡されれば、オールマイトグッズを買うために使う。

 誕生日になにが欲しいかと訊かれれば、迷わずオールマイトグッズと言う。

 

 彼の人生はオールマイトを中心に回っていると言っても過言ではない。

 

「オールマイトが教師ってことだけど、多分ヒーロー科にしかないヒーロー基礎学が担当だよね? でもヒーローの仕事も敵退治から災害救助、治安維持のためのパトロールとか色々あるし、どれから勉強するんだろう? ヒーローになるには法律関係のことも学ばなきゃいけないし、オールマイトもそこを教えてくれるのかな。あ、でも雄英にはたくさんのトップヒーローの方々が教師として務めてる訳だし、分野ごとに分けて担当する可能性も……だとするとオールマイトは―――」

 

 緑谷が、癖である小声でぶつぶつと呟く一人分析を始める。

 初見の人物は、大抵この癖を見てドン引きしてしまうのだ。

 

「俺は対人戦闘関係の授業がオールマイトだったらいいと思ってるぜ!」

「ッ……うん! 僕もだよッ!」

 

 しかし、熾念にはそれなりにスルースキルがあった。と言うよりかは、マイペースなだけだが。

 すっかり意気投合した二人。そこで熾念は、手を叩いて携帯電話を取り出す。

 

「Oh, yeah! 出久、折角だから連絡先交換しようぜ!」

「え、ホント!? ……ぐすッ」

「What`s the matter?」

「い、いやさッ……連絡先交換しようって言われたの、多分初めてで……」

「え?」

「え?」

 

 逆にその方に引かれた緑谷であった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。