Peace Maker   作:柴猫侍

56 / 77
扉絵的なもの
【挿絵表示】



№56 VS 陸の王者

 熾念や飯田がクラスメイトの補助に奔走してる頃、皆と分断されてしまっていた緑谷は、足場が悪い岩場の中で、一人の受験者と拳を交わしていた。

 鋭利な爪を振るう、百獣の王と―――。

 

「ッラァ!!」

「くっ……!!」

 

 風を切る速度で振るわれる爪をギリギリで躱す緑谷。しかし、僅かに掠ってしまったようであり、鮮血が舞い、頬にも三本の赤い線が刻まれる。

 緑谷は、鋭い痛みに顔を歪めながら次の攻撃を喰らうまいと、フルカウル状態でバク転して突進してくる相手と一定の距離を保とうとするも、超人的な脚力で一気に詰め寄ってくる相手に、中々それも叶うことがない。

 

(なんちゅう力……僕のフルカウルと互角―――いや、それ以上だ!)

 

「避けんなあ!!」

 

 防戦一方の緑谷に、相手は吼える。

 鋭い爪に牙。首には、後ろへ向かって無造作に流れている髪と、首から靡くファーで創られたと思われる黄褐色のマントは、鬣を模しているかのようにうかがえる。さらに、首から腹部にまで及ぶ牙を模したネックレス、腰にはカワイイ肉球がプリントアウトされているベルトなど、統一感のある姿からは威圧感が放たれているように思えた。

 

(たぶん、ライオンの異形型……!)

 

 陸の頂点・獅子(ライオン)

 猫と言えば約一か月前に、モチーフにしたヒーローであるワイルド・ワイルド・プッシーキャッツと会ったことが記憶に新しいが、彼の見た目の猫具合はそれらに勝る。

 

 しかし、見た目の話は至極どうでもいい。

 問題は彼の身体能力。百獣の王を模した異形型とだけあって、“素”でフルカウルに付いてきている。

 尚且つ反応も早い。爆豪を彷彿とさせるような反応の速さは、考えてから動くタイプの人間である緑谷にとって、致命的に相性が悪い相手と言っても過言ではなかった。

 

(単調な攻撃なのが幸いだけど、それでもキツイ! なんとか打開策を……)

 

 少しでも考える時間を得られないかと、逃げながら辺りに散乱する岩の塊を蹴る。

 すると、衝撃によって起動する瞬間二撃のブーツのお陰で、岩の塊は砕け、石礫となってライオン男の元へ飛散していく。

 だが、ライオン男は痒いと言わんばかりに石礫を腕で弾くなりし、緑谷へ肉迫する。

 

「ちょこまかちょこまか逃げやがって! さっさと俺にぶっ殺されろ!!」

「凄い既視感!?」

 

 喋り方まで爆豪にそっくりだ。

 思わずツッコんでしまう緑谷であったが、状況は芳しくない。防戦一方の上、孤立無援。もしも他の受験者にも囲まれて一斉攻撃でもされれば堪ったものではない。

 幸いにも今は一対一。状況を打開するにも、最悪を避けるチャンスもこの間しかない。

 

(今はこの人を何とか退けるしかッ!)

 

 ジリ……ッと後退る緑谷であったが、相手に意識が向き過ぎていた所為か、背後の瓦礫に気が付いていなかった。

 踵が固いものに当たる感覚で、漸く後ろに逃げ場がないことに気が付いた緑谷であったが、ライオン男は獲物の隙を見つけた猛獣のように鋭い笑みを浮かべ、両手を腰の横に構える。

 

「しまっ……!」

「必・殺!」

 

 迎撃を!

 相手の予備動作を前に、頭の中で迎撃を選択しかけた緑谷であったが、ゾクリと脊髄をしゃぶられるような悪寒を覚え、咄嗟に横に飛び跳ねた。

 次の瞬間、ライオン男は両手を前方に突き出す。

 

「―――『ライオンハート』っ!!!」

 

 ROAR!! と放たれた掌打は、先程まで緑谷が佇んでいた場所にあった瓦礫も、いともたやすく亀裂を刻み、果てにはバラバラに吹き飛ばして見せた。

 

「っ! 岩を粉々に……!?」

「チィッ! ウサギみてェにピョンピョンよけやがって……アイツみてえでイラっつくなあ!」

「ええ!?」

 

 完全なる八つ当たりを受けているようだが、今の一撃を喰らっていれば只では済まなかったと、内心ヒヤヒヤだ。

 宙でクルクルと翻り、そのまま綺麗に足場の悪い中着地するものの、依然打開策は浮かばない。

 

(背中を見せるのは危険だ。相手はターゲットにボールを当てるんじゃなくて、確実に僕を倒す気で来てる! まんまと逃げたんじゃ、後ろから追われてやられるのが関の山だ! でも、あんな威力を出す相手……しかもパワーが上の相手に真正面から戦うのは……)

 

「―――てめァ右腕庇ってんな?」

 

 フル回転させていた思考を完全停止させる一言。

 思わず緑谷も目が点になる。

 

「え……」

「怪我かなんか知んねえけど、てめァ右腕で全然殴ってこねえ。左腕の一発はキレがいいのにな」

「なにを……」

「んでもって、脚の攻撃だ! 型ァ出来てるみてえだが、ムラがある!! つまり! てめァ元々パンチャーだったけど、最近右腕怪我したから脚メインで練習してるんだろ!!?」

「―――!」

 

 的確なライオン男の推測に、緑谷の表情は一層険しいものとなる。

 彼の言う通り、緑谷は元々拳メインであったが、サバイバル訓練で着想を得て以来、脚技にも力を入れてきた。

 だが、林間合宿の際に血狂いマスキュラーを倒すべく放った限界を超える一撃が、右腕の靭帯に大きなダメージを負ってしまう。さらに、家庭訪問で母親・引子との約束をしたことにより、例えどのようなピンチに陥っても無理をして怪我をしないことを誓ったのだが、それが無意識の内に体の動きとして表に出てしまい、相手に看破されるに至ってしまったようだ。

 

(なんていう観察眼なんだ! いや、野生の勘……闘争本能!?)

 

 てっきり力にモノを言わせる脳筋タイプの人間だと思っていたが、たった数分の戦闘だけで、現在の戦闘スタイルの弱点を見透かされてしまった。

 

「そんなに右腕ェ大事か!?」

「来る!?」

「おおらあああ!!」

 

 迫るライオン男は、ブンブンと腕を振り回す。

 岩をも抉る爪での斬撃を喰らえば、人の肉など簡単に引き裂かれてしまう。二次試験も突破するためにも、まずこの一次試験を突破する為にも、大きな怪我を作る訳にはいかない。

 フルカウルの機動力を最大限に生かし、防御ではなく回避に徹する。

 緑谷側が主な攻撃“打”である以上、“斬”も有すライオン男とインファイトするのは悪手。

 

(こうやって逃げ回っている内に、合流を……!)

 

 思考を許さぬ怒涛の連撃を前に、仲間との合流を最優先事項に決める。

 しかし、ふと巨大な影が緑谷にかかった。

 

「へ?」

「んあ?」

「シシドく―――ん! 避けてェ!!」

 

 不意に響いてきた女子の声に二人が空を見上げれば、彼らに傘をさすかのように覆いかぶさろうとする瓦礫が目に入った。

 

「おおおお!!?」

「なあああ!!?」

 

 咄嗟に横に飛んで交わす二人。

 凄まじい勢いで振って来た瓦礫は、地面に落ちた衝撃でバラバラになり、更には視界を塞ぐ砂煙も上げる。

 

「か、加西(かさい)くん……もうちょい小さい瓦礫でよかったんだけど……!」

「……!」

「おおい! てめェらオレ殺すつもりか!!?」

 

 『シシド』―――ライオン男の名なのだろうか。

 改造学ランを模したコスチュームに身を包み、片手にモップを携える黒髪の少女はそう叫んだ。一方で、横に佇む灰色の鎧を着こんだような者は、その風貌からサイの異形型にように窺える。

 彼女たちはシシドに援護射撃をしたつもりだったようだが、予想外に飛ばした瓦礫が大きかったらしく、その一端を担った女子の方は口に手を当て、あたふたと慌てふためいていた。

 

(増援!? くそッ、先を越された!)

 

 あの口ぶりを見る限り、彼ら三人は知り合い。

 となれば、他校同士の争いに発展する可能性は極めて低い。寧ろ、三人そろって自分を―――

 

「狙いに来るぅッ!!?」

「おらおら!! もっと死ね―――!!!」

 

 フレンドリーファイアしかけた事は水に流したシシドが、再び緑谷に振り返って猛攻を再開する。

 さらにはやって来た二名の援護射撃つきだ。

 女子の方がモップで瓦礫を磨き、それを『加西』と呼ばれた男が手にもってから、瓦礫を滑らせるように下へ放り投げる。

 すると瓦礫はカーリングの石のように、豪速で滑らか且つ綺麗な軌道を描き、横へ走り逃げようとする緑谷の退路を防ぐように着弾していく。

 

 息の合ったコンビネーションを前に、先程に増して緑谷はピンチとなってしまったようだ。

 

(なんだあの女の子の“個性”!? サイの方は単純にモデルになった動物由来の怪力だろうけど……はッ! もしかして、磨いたものを滑りやすくする“個性”か!?)

 

 普通なら、摩擦やらなにやらで岩が岩の上をカーリングよろしく滑ることなどありえない。

 となれば、ミソはあの瓦礫を磨く動作だ。加西が直接放り投げるのではなく、下を滑らせているのは、上へ投げればどの位置に自分が居るのかを知られてしまうから。故に、敵にバレ辛くなるよう地面を滑らせている訳だが、それを可能にしているのが彼女の“個性”によるものである可能性が高いのだ。

 

 磨いたモノを滑りやすくする―――言い換えれば、磨いた物体の摩擦力を小さくする“個性”と言ったところだろうか。

 

 『“個性”は使いよう』とは言ったものだ。

 

(息を、する、暇もッ!!!)

 

 シシドを始めとした三人の攻撃に、着実に押されていく緑谷。

 次第に距離も詰められ、振りかざされる爪もコスチュームや肌に達するほど迫られていた。

 そして、最悪が訪れる。

 

「詰みだァ、てめァ!」

「なッ……―――!?」

 

 背後に感じる圧迫感。

 『しまった』と考えた時にはもう遅い。そう、シシドの猛攻を凌ぐことにだけ意識が向き過ぎていて、背後に障害物が現れることで退路を断たれる可能性が、頭から抜けてしまっていたのだ。

 

「トドメだァ!! 『ライオン―――」

 

 再びシシドが見せる必殺技の予備動作。

 だが、最初の時とは違い、後方の二人による援護射撃が行われている中、左右に逃げることはできない。

 だからと言って、あの強烈な掌打を真正面から受け止めようとすれば、攻撃する緑谷の骨が折れるまではいかなくとも、罅が入ることで後の行動に支障が出る。

 

 シシドが吼えたように『詰み』に近い状況だ。

 

 

 

 

 

 しかし、手立てがない訳ではない。

 

 

 

 

 

(受けられないなら……受け流す!!!)

 

 その考えが脳裏を過った時には、既に緑谷の体は動いていた。

 シシドが両腕を腰の横まで引くのに合わせ、緑谷は屈伸して次の動作へのエネルギーを溜める。

 

 ありったけの集中力を、目の前の必殺技を受け流す為だけに注ぐ。

 その時、緑谷の体にはいつも以上の“力”が漲っていた。度重なる攻撃に、息もつかせぬ猛攻、そして迫りくる最大の危機。起こる結果には必ず理由がある。この時、緑谷の体に起こった現象は、彼のみに降り注いだピンチが何よりの原因だった。

 

 漲るエネルギーに細胞が奮い立つ。

 

 いつも以上に―――許容限界を超え!

 

「―――ハート』ォッ!!!」

「ッ、らああああああ!!!」

「な゛ッ……!!?」

 

 突き出された掌打に合わせ、緑谷はその場でバク転し、あろうことかシシドの両腕を自分よりも上に逸らした。

 地に両手を付け、体操選手のようなしなやかなバネを用いて行われた受け流しに、流石のシシドも目を点にして、目の前で回った緑谷を睨む。

 

 しかし、緑谷の反撃は始まったばかり。

 後ろへ回る緑谷の足が着くのは他でもない、彼の退路を塞いだ瓦礫だ。そこへピッタリと靴底が平行になるよう足を着ける緑谷は、シシドに直角になった体勢のまま、勢いよく前方へ飛び出す。

 そして、左腕を構える。経験・努力により培われたPlus Ultraした拳を。

 

(『ワン・フォー・オール』、全身常時身体許容上限―――10%!!!!!)

 

「DETROIT SMASH!!!」

「づッ……!!」

 

 空気の壁を押し出す勢いで振るわれた拳。だが、無理やり体をひねって軌道をずらすことにより、頬を掠るだけで直撃は免れる。

 そのまま緑谷の体は、シシドを通り過ぎてしまう……訳はない。

 

 不意にシシドの視界は暗くなる。己に迫った左拳という危機を避けるべく、神経は左にだけ向いていてしまった為、弱点と称していたもう一つの武器が意識から外れてしまっていたが故の結果だ。

 

「本命は―――」

「ッ!!」

「右だあッ!!!」

「があァッ!?」

 

 無防備の顔面へ拳を叩き込む緑谷。ようやく、ようやくだ。ようやく憧れの一割へ達する力を扱えうるだけの体に仕上がってきた。

 それは大変喜ばしい事実ではあるが、今は馬鹿正直に喜んでいる最中ではない。

 

 シシドが殴り飛ばされた光景を前に、彼の背後に飛び出てきた緑谷へ直接投石する学ラン女子と加西。このまま着地すれば直撃軌道上だ。しかし、“個性”で摩擦力が小さくなっている瓦礫を殴るなり蹴るなりの手段で破壊しようとすれば、ツルッと滑ってしまうことが目に見えている。

 

 ならば、触れずにすかせば解決する話だ。

 以前にもやったことのある拳圧で空中移動する技―――上限が上がったことで現実味を帯びてきた『New Hampshire SMASH』が火を噴く時が今である。

 

「SMAAASSSH!!!」

「んナッ!?」

 

 今まさに直撃! という直前で地面へ拳を振るい、それによって得た浮力で着地のタイミングをずらし、見事緑谷は瓦礫の弾を回避した。

 学ランの女子は、その離れ業に分かりやすく驚いたリアクションをしている。

 そんな彼女の姿を尻目に、現時点で今日一番の危機を乗り越えた緑谷は、単純計算で二倍になった出力の脚力で足場の悪い中を駆け抜け、一気に離脱していく。

 

(よしッ! これでようやく皆を探しにいける! ……もう通過してないのが僕一人とかだったら寂しいけど)

 

 一旦落ち着けた矢先に悲しい予想が頭を過るが、チラリと後方を一瞥し、しっかり追われていないことを確かめる緑谷。『待てァ!!』と怒号が聞こえているが、構っている猶予はない。

 

 そして、今度こそ仲間の元へ走る、奔る。

 

 

 

 ☮

 

 

 

「―――その後、麗日さんと瀬呂くんと合流して、なんとか通過したんだ」

「Toot♪ そっちはそっちで大変だったみたいだなっ」

「んん……でも、波動くんと飯田くんに比べれば、普通に通過しただけだから……なんというか、これでよかったのかなあ? みたいな……」

 

 一次試験が終わった控室の中、砂藤のポーチに入っていた菓子を片手に駄弁る熾念と、乾いた笑いを浮かべて語り合う緑谷が居た。無論、秘密事項は省略しているが、本題はそこではない。

 控室に居る―――それ即ち、見事一次試験を突破したということ。

 結果だけを言えば、A組の者達は誰一人欠けることなく突破することが叶った。自分らの力だけで突破した者も居れば、補助に回った二人の手を借りて突破するに至った者も居るが、こうして皆が100名の定員の中に収まれたことは非常に喜ばしいことだ。

 しかし、緑谷はクラスに貢献している二人を前にどこか罪悪感を覚えているのか、口をもにょもにょとしている。

 

 そこへ、真面目委員長こと飯田が颯爽と現れた。

 

「そんなことはないぞ、緑谷くん! 俺は、クラスの皆が少しでも手を必要としていると考え、思うがままに駆け抜けただけだ! 人によっては実力を信頼されていないと捉えかねない差し出がましい真似……皆、済まない!! でも、俺は動かずには―――」

「い、いや! 飯田くんは全然悪くないから!!」

 

 何故か謝り始める飯田を宥める緑谷。それを見て『HAHAHA!』と笑う熾念であるが、一人でも欠けていれば、このような穏やかな空気になることはなかっただろう。

 そう思うだけで、彼ら三人を眺める他の者達も自然と笑みを浮かべるのであった。

 

「ホント、飯田らはケッコー働いたっしょ」

「いーなー、おめーらは。俺らは士傑の先輩さんに絡まれてよー」

「狙い易そうに見えたのね」

「梅雨ちゃん、それ酷くね!?」

 

 感心する耳郎の横で『はー』っとため息を吐く上鳴であったが、蛙吹の毒を含んだ言葉に声を荒げる。

 

 爆豪、切島、上鳴の三人は、緑谷、麗日、瀬呂たちのように飯田たちの補助を受けず通過した面々だ。なにやら、試験官ごっこをしていた肉倉という士傑の生徒に絡まれてしまったようだが、無事に撃退して突破してきたという経緯がある。

 

 一方、熾念&飯田が歩んだ道のりは、こうだ。

 

 砂藤、口田を連れた二人はそのまま周囲を散策し、固まって動いている八百万、耳郎らと合流した。

 対比が激しい(どことは言わないが)二人組と合流した後は、降り注ぐ雨あられ……ではなくボールを、口田が操る鳩や熾念の“個性”で防ぎ、耳郎の“個性”による爆音で行動を阻害、そして八百万が創った投網を砂藤が投げるという連携で複数名を捕らえ、補助組二人を除く四人の通過を成功させた。因みに、投網に捕らえられてしまった鳩’sは、しっかりリリースされ無事である。

 

 そして、次に補助組が合流したのは峰田、芦戸、葉隠、尾白の四人だ。

 ここでは峰田と熾念の“個性”コンビネーションが火を噴いた。まず、葉隠の必殺技『集光屈折ハイチーズ』で目をくらまし、そこへ地味だが強力な『もぎもぎ』を、熾念が『METEOR STREAM SMASH』で受験者に降り注がせるという荒業で、数多くの受験者をもぎもぎの餌食にしたのだ。そして怯んだところを残りの三人が押し倒していき、もぎもぎによって地面に固定することで、相手を動けなくしたのである。

 動けなくなったならば、後は簡単。ボールでターゲットを殴り、ポポンと通過するだけだ。

 

 そんな訳で、その後も一次試験を通過するより前に口田’s鳩が収集してくれた情報を元に、他の者たちが居た場所を地道にめぐって行ったのだが、着いている頃には他全員が合格してしまっていた。

 ちょうど自分たちの任を終え、残りの残席も少なくなってきた試験の佳境に取り残された二人は、必死になり大雑把になってしまっている受験者を念動力で四人ほど攫い、見事彼らを脱落させることで突破したのだ。

 

「ふぅ……一仕事終えた後のお茶は美味いなっ!」

「俺も今の内にガソリンを補給しておかなければ……」

 

 まだ一次試験を終えたばかりだが、水分を補給する二人の姿はどこか眩しい。

 

 閑話休題。

 

 脱落者の撤収作業とのことで待機させられていた受験者の控室。そこに用意されているモニターに、誰も居なくなったフィールドが映し出される。

 全容を俯瞰的に眺めるの二度目だが、やはりその巨大さには圧巻するばかりだ。

 

『えー、100人の皆さん。これご覧下さい』

 

 そう音声が聞こえるや否や、なんとフィールドの各所で爆発が起こっていく。

 かなり派手な爆発だ。建物や崖も崩れるなど、決して小規模の爆発ではない。一気に荒廃と化し、世紀末を見ているような気分になってしまう。

 控室のどこかで『ヒャッハー!』と聞こえた気がするも、誰もモニターから目を離すことはない。

 

 そうして爆破が終わった頃、再び目良によるアナウンスが入る。

 

『次の試験でラストになります! 皆さんはこれからこの被災現場で、バイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』

「救助……」

 

 まさしくヒーローの使命ともいえる『救助』、その演習が最終試験のようだ。

 

 今こそ、ヒーローとしての力を試される時。

 命を救ける憧れのヒーロー―――そのヒヨッ子になれるのは、これから立ちふさがる壁を乗り越えてからだ。

 

 仮免試験は後半へ移る。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。