Peace Maker   作:柴猫侍

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№5 波乱の幕開け

「ねえ、熾念。今日の夕飯はなに食べたい? お父さんは折角だから皆で外食に行こうって言ってるんだけど……」

「俺はなんでもいいよ、量子(りょうこ)さん」

 

 学ラン姿の熾念の隣を歩くのは、グレーのスーツを着こなす落ち着いた雰囲気の女性。

 彼女は、熾念の義理の母である波動量子だ。少し歳を取らせたねじれのような外見の彼女は、肩から下げる一眼レフカメラの画面を差し出しながら、熾念と共に帰路についている途中である。

 

 雄英高校一般入試から一週間。今日はちょうど、熾念や一佳が通う植蘭中学校の卒業式であった。

 左胸のポケットには、卒業生がつけるめでたい紅白の色のリボンで作られた花が、だんだん温かくなってきた風に煽られて、ゆらゆらと揺らめいている。片手には卒業証書が収められている賞状筒もあり、熾念は“個性”を使ってジャグリングのようにして遊んでいた。

 

 春は、出会いの季節でもあり別れの季節。滑り止めの私立は受かっている熾念であるが、雄英の合格通知は未だに届いていない。要綱を確認する限り、今日か明日中には届く筈。

 入試後の一週間は、合否が気になって夜しか眠れない状況が続いたが、いざ通知が届くかもしれない日になってみると、案外冷静になれるものであった。

 

「HAHA! 折角なら、雄英の合格も確認した後でご飯食べに行きたいなんつって!」

「そうねぇ。ねじれが合格した時も嬉しくて気絶しそうになったから、熾念も合格したとなると今度こそ気を失っちゃいそうだわねぇ? 姉弟揃って雄英に行くなんて、親として鼻が高いわ……あ、勿論雄英に合格してなかったからと言って、どうこうって訳じゃないのよ?」

「OK OK。量子さんは心配症だなぁ」

 

 仲睦まじく談笑して歩く二人は、早々に家の前に辿り着いた。

 今日は日曜日であった為、月~土まで授業がみっちりのねじれも家に居る。昼も過ぎたこともあるので、これからは豪勢な夕食の間を埋めるという意味で、ジャスミンティーを片手にお茶会となるだろう。

 

「ただいま、ねじれ」

I`m home(ただいま)♪」

『おかえりなさーい』

 

 玄関の扉を開けると、リビングの方から足音とねじれの声が響いてくる。

 数秒もすれば、部屋着であるワンピースを纏うねじれが、封を切られた封書らしき物と、謎の円型の機器を携えてやって来た。

 

「……What is that ?」

「これー? ねえ聞いて、雄英から熾念くん宛ての通知が届いてたんだよー!」

「Huh?」

「ねえねえ、熾念くん実技試験同率一位で合格だってさ! 凄いよね、お母さん! ね?」

 

 コヤツ、何やら色々と聞き捨てならぬことを口にしている。熾念はそう思った。

 こちらからもねじれに色々物を申したい。しかし、言いたいことが多すぎて何から言えば整理が付かず、頭がこんがらがる。

 そして何よりも、

 

「し、熾念が合格……あぁ」

「量子さ―――んッ!!?」

 

 義理の息子が雄英に合格したと知り、歓喜の衝撃で量子が気を失い、膝から崩れ落ちるように仰向けに倒れそうになった。すかさず“個性”で支えるも、長くは続かない為、すぐに腕で義母の全身を支える。

 これで熾念の両腕は塞がった。

 

 だが、これで終われる筈がない。

 

「Hey ねえちゃん……勝手に他人の合格通知を見たら、メッ!!!」

「ふぇ~~~」

 

 支えつつも掌をねじれに翳し、器用に念動力で彼女の頬を両側へグニグニと引っ張る熾念なのであった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

『私が投影された!!!』

「Wow、オールマイトだ」

『初めまして……ではなくお久し振りだなッ、波動熾念君!』

 

 先程までねじれが携えていた投影機とやらを操作し、二度目の再生に取り掛かった熾念は、どうにか機器の操作に成功した。

 スイッチを入れた途端にデカデカと投影されるオールマイトの姿は、映像越しでも分かるほどに筋骨隆々だ。流石は№1ヒーローと言ったところだろう。

 

 しかし、これが初見であったなら嬉々として驚けたろうに……と残念がる熾念。

 それもこれも、勝手に義弟の合格通知を拝見し、あまつさえ結果を盛大にネタバレしてくれたねじれに原因があった。

 『合格』という結果が分かってる分、気軽に見ることができるという利点はあるが、やはりそこは自分の目で見たかったというのが本心だ。しかしながら、熾念も延々にうじうじとするのは好まない性分。これはこれでいいと割り切り、映像越しのオールマイト観賞に勤しむこととした。

 

『君の名前を見た時、私はビビッときたよ! 運命的だとね!! ……ええ? 巻きで? イ、イヤァ~、ちょっとくらい……あ、やっぱりダメ?』

 

 投影されているのは無論録画映像だが、撮影している人物らしき者とオールマイトがやり取りする様は、やけに生々しい。『やっぱり』と言っている、熾念用のVTRの前に撮影した映像でも同じやり取りが行われていたのだろう。

 それでも個々人に想いを伝えたいと思うオールマイトには、感服せざるを得ない。

 

 常に№1ヒーローとして、燦々と輝いている立場に居るにも拘わらず、時折人間的なポップな部分も垣間見える。これもまた彼の魅力ということであり、熾念もまたその魅力に惹かれた人間の一人だ。

 

『ゴホン! それでは結果発表だ!! 筆記の方は合格!! そして、実技試験の方は42Pでまずまずの高得点!! これでも君は合格―――なのだが、もう一つ加えて話さなければならないことがある!!』

 

 ズズズッ……と、オールマイトの話の合間に茶を啜る熾念。

 まだ他に何かあるのかと言わんばかりの表情で、待っていると『Umm……!』と次の言葉を溜めるオールマイトが、突拍子もなく拳を振りかぶった。

 すると同時に、彼の背後に『救助活動P』というテロップが浮かび上がる。

 

 そこで一旦首を傾げる熾念。確か、実技試験で競うのは仮想敵を倒してのPだけであった筈。

 救助活動Pという項目は無かった。

 しかし、その答えを話すべく、オールマイトが白い歯を煌めかせながら、話を再開する。

 

『我々が見ていたのは(ヴィラン)Pのみにあらず!! 審査制の救助活動(レスキュー)P!! ヒーローとしての基礎能力である、他人を救けようとする心意気!! 我々は映像越しに、しかと君の姿を見ていたよ!!』

「Wow、そうだったのかぁ」

『随所で見られる、誰かがケガせぬようにという心遣い……そしてなにより、町を蹂躙する0P敵を行動不能にさせたこと!! 客観的に見れば、君がわざわざ相手する必要もなく、無視しても良かったギミックだが……うむ、確かに『ヒーローが敵を見逃していい訳がない』!! 損得感情ではなく、ヒーローとして相応しい心根が垣間見える良い一言だったよ!!』

 

(Oh……聞こえてたのか)

 

 無論、ヒーローとして相応しい行動をするつもりで相手だったのだが、内心では『ここで倒した方がカッコいいんじゃないか?』という感情が無かった訳ではない。

 しかし、ヒーロー=カッコいいという方程式に当てはめて動いた面もある為、ヒーロー然とした行動であったことには間違いはなかった。

 

『よって、救助活動Pとして35Pを贈呈!! 合計77Pだ!! 私としてはもう少しあげたい気分なんだけど、私は審査員じゃなかったからね~!! 結果的に町を派手に壊しちゃったところで減点されたみたいなんだよねぇ。あ、言い忘れてた。私オールマイトは、僭越ながら雄英高校に教師として務めることになったんだよ!!』

「Really!?」

 

 衝撃の事実に茶を吹き出しながら身を乗り出す熾念。

 映像に対して返事をしたところで返答はないが、それでも熾念には驚愕せざるを得ない事実であった。

 憧れのヒーローになるための学び舎に、まさかその憧れたヒーローが教師として来るとは思わなんだ。

 

『そう!! ……あ、もっと巻きで? ゴメンゴメン、HAHA! という訳で、長々と話したが……波動熾念君、改めて言おう!! 合格だ!! 来いよ、雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!!』

 

 無骨な手が差し伸ばされる。

 幾人もの命を救った偉大な手だ。

 

 自然と熾念は、オールマイトの手を取るように手を差し伸ばし、手が重なり合った所で映像が途切れたのを確認した後に、グッと拳を堅く握った。

 

 改めて認識する―――英雄(オールマイト)の軌跡を辿れるという事実を。

 

(これで俺もヒーローに……!)

 

 湧き上がる歓喜で心を奮わせる熾念は、ジクジクと熱い炎が熾る感情を覚えつつ、自室を後にした。

 これから家族四人で卒業祝い兼合格祝いの外食だ。

 胸中の熱意は、家族団らんの時に吐露すればいいだろう。

 そう思いつつ、晴々とした顔で闊歩するのであった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

 麗らかな春の日。

 日差しが差し込んでくる部屋の中で、熾念は生まれて初めてのネクタイに、鏡の前で悪戦苦闘していた。

 雄英高校の制服は男女共にネクタイの着用が、校則として記載されているのだ。

 故に、スマホの画面を見ながら四苦八苦してネクタイを結ぼうとしていたのだが、五分間ほど格闘したところで諦めた。

 

「Huh……クールビズってことでいいか」

『ねえねえ、熾念くーん! 支度終わったー?』

「OK! 今行く!」

 

 玄関の方から聞こえてくるねじれの声に応え、足元に置いていたリュックを背負い、軽快な足取りで階段を下りていく。

 初日ということもあり、今日は姉弟一緒に登校しようと決めていたのだ。

 校内の勝手を知っている人物と共に……という観点で見れば合理的だろう。しかし、実際はねじれが『一緒に登校したい』と駄々を捏ねただけである。

 

「ねえ聞いて、定期券ちゃんと持った?」

「OK」

「ねえねえ、筆箱持った?」

「OK」

「お財布も持った? ね?」

「OK」

「うん、じゃあ大丈夫だね! それじゃあ大分早く着くと思うけど行こっか! ね?」

 

 一通り持ち物をきちんと携えているか確認した後、ねじれは溌剌とした様子で玄関の扉を開ける。勢いよく開けた為、外の空気が家の中へ押し寄せるように入ってきた。

 朝の陽ざしによって温められた風は、仄かに桜の香りも含んでいた為、これから始まる出会いを予感させる。

 

 そして―――。

 

「ねえねえ、おはよ! 一佳ちゃん!」

「あ、波動先輩おはようございます!」

「Good morning」

「おう、おはよっ」

 

 家を出たところのすぐ近く。

 糊の効いた制服を纏い、見慣れたサイドテールを靡かせる一佳が、出てきた二人に挨拶を交わした。

 男子のネクタイとは違い、ボタンが付いているネクタイも靡かせる彼女であるが、男勝りな彼女にはネクタイが良く似合う。なんなら男子の制服―――とどのつまりズボンでも似合いのではないかと思う熾念であったが、口に出せば手刀が飛んで来るのが目に見えていたので、グッと堪えた。

 

It looks good on you(似合ってるぜ)。一佳」

「ん、ありがとな」

 

 ここは素直に似合っていることを褒める熾念。

 少しばかり小生意気で、尚且つ爽やかな笑みを浮かべれば、一佳も彼に応えるように溌剌とした笑みを浮かべる。

 しかし、突然何かに気が付いた一佳は、眉を顰めながら熾念の襟元を掴む。

 

 突然の出来事に、悪いことでもしでかしたかと自身を疑う熾念であったが、答えは至極単純であった。

 

「おい、熾念。ネクタイどうしたんだよ?」

「ネクタイ? Well……結べなかったから、クールビズってことでいいかなってな」

「はぁ。入学初日からそんなんでいいのかよ、ったく……貸してみ? 私がやるから」

「……Really?」

「お、おおう……何そんな嬉々とした表情浮かべて……」

「Never mind! アリガトな! じゃあ頼んだ!」

 

 パァッと晴天のように明るい表情で、リュックに適当に丸め込んでしまっていたネクタイを差し出す熾念。

 初日早々皺がついているネクタイに溜め息を吐きながら、『やれやれ』と呆れた表情で、幼馴染にネクタイを結んであげ始める。まだまだぎこちない所作ではあるが、熾念よりはテキパキとしていた。

 

 『ほら、襟立てろよ』と言いながら、顔を近付けてくる想い人の破壊力は中々だ。早朝のランニング後にシャワーを浴びているからだろう。フローラルな香りが、眼前に佇む髪からふわりと鼻腔を擽ってくる。

 思えば、こんなに間近に迫ったのは久し振りかもしれない。

 

『男なのにいつまでもメソメソしてんなよっ!』

 

 そう言って、真っ赤に照るランドセルを背負い、手を差し伸べてくれた小学生の頃の少女の姿が脳裏を過る。

 

「よっし、できた! 明日はちゃんと自分で結べよな?」

「ん……オーライ」

「? ……呂律にキレがないな。昨日、夜更かしでもしたか?」

「してない」

「そか? ならいいんだけど……」

「ねえねえ、二人とも聞いてー。熱々な所申し訳ないけど、早く学校いこー? ね?」

 

 ネクタイを結び終わった後も間近で会話していた二人であったが、ムスッと頬を膨らませるねじれが割り込んできて、強制的に終了となる。

 『熱々じゃない!』と何時もの息ピッタリな否定も交えながら、やっと学校への道のりへと戻った三人は、徒歩と電車を駆使し、ヒーローとなるための学び舎へと向かうのであった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

 その後、電車に揺られ、人混みに流されつつも辿り着いた雄英高校。

 仰々しいセキュリティゲートを潜った後は、教室の階層が違うねじれと別れ、一佳と共にヒーロー科一年生の教室へ足を運ぼうとしていた熾念。彼の表情は、やや曇っている。その理由とは―――。

 

「俺はA組」

「私はB組……おぉ、初めて別クラスじゃね?」

「Hmmm……」

「どした、その釈然としない顔は?」

「……Don`t worry。とりあえず、お互い一年間一緒になるクラスメートに挨拶に行こうじゃないか。それじゃ、またな」

「おう。じゃあな」

 

 まさか『また一佳と一緒のクラスになりたかったぜ!』と面と向かって言える筈もなく、なんとなしに流しつつ、異様に大きい教室の扉の目の前で別れた。

 恐らく、異形系などに多く見られる巨大な体に配慮してのサイズだろう。

 それを理解していたとしても、大きいと思わずにはいられない巨大さ。

 

 まだ予鈴が鳴るまでは二十分ほどあるが、既に来ている同級生と親交を深めるという意味では都合がいい。

 倍率三百を超える入試を突破してきた猛者。

 そんな彼らに会えるのだからわくわくするなという方が無理な状況の中、昂ぶる感情を抑えつつ、取っ手に手を掛けて扉を開いた。

 

(ん……意外と少ないな)

 

 ざっと教室を見渡すも、思っていたよりかは人が少ない。

 男子は六人で、女子は三人ほどであった。その中でも女子は仲睦まじげに固まって談笑している。

 やはり初対面でもコミュニケーションをとれるのが女子という生き物なのか。そのようなことを思っていると、一人の男子生徒が喜色を浮かべた表情で歩み寄ってくる。

 ツンツンと逆立つ赤髪が目を引く。

 

「おう、おはよう! おめーもA組か!?」

「Yes! 波動熾念だ、よろしくな。あー……名前は?」

「お、悪ぃな! 俺は切島(きりしま)鋭児郎(えいじろう)って言うんだ! よろしくな、波動!」

「You, too」

 

 留まることを知らない善人オーラを放つ男子・切島と握手を交わす熾念。

 不良的な外見とは裏腹に、かなり人当りがいい性格だ。

 

「席は五十音順らしいぜ! 波動は~……あの辺かっ! 窓辺だな!」

「Thanks、鋭児郎! ……お? もう人が居るな。Good morning♪」

「……あ゛ぁ?」

 

 切島が指差す先には、どこかで見たことがあるような爆発ヘアーの少年が、机に足を掛けて佇んでいた。

 切島以上に不良然とした外見の彼はネクタイも身に着けず、ドスの効いた声で挨拶した熾念に反応する。

 

「てめー誰だ、この端役がっ!」

「波動熾念だ。よろしくなっ」

「よろしくするかっ、ハッ!!」

「イライラは体に悪いぞ~? 朝は牛乳飲まないstyleか? カルシウムは大事だぞ、 HAHA!」

「あ゛ぁっ!!?」

「まあまあ、爆豪。そこら辺にしろよ、なっ!?」

 

 爆発ヘアーの少年―――爆豪と熾念の間に割り込む切島。

 どうどうと暴れ馬を宥めるように爆豪に押さえるような挙動を見せ、やっとこさ機嫌が戻ったところで切島は、苦笑を浮かべて熾念の方へ振り向く。

 

「こいつは爆豪(ばくごう)勝己(かつき)って言うんだとさ。見ての通り短気だが……ま、皆仲良くしようぜ?」

「OK♪ そう言う訳でよろしくな、勝己!」

「気安く名前で呼んでんじゃねえよ、似非(えせ)バイリンガルがっ!!」

「だーからっ、一旦落ち着け、なっ!? 爆豪!」

 

 何かこちらが悪いことでもしたかと疑うほどのキレぶりだ。爆豪がキレている一方熾念は、彼は将来禿げそうだな~と呑気に考える。現実逃避気味に、切島の爆豪を宥める気苦労は、想像の範疇に入れていない。

 

 それから爆豪がなんとか落ち着いた後は、別の男子生徒たちと会話を挟み、朝の自由な時間を有意義に使う。

 常時激おこスティックファイナリティ(ryの爆豪以外は、基本的に人当りも良く、これからも仲良くやってイケそうな雰囲気を感じ取ることができた熾念。

 

 男子に対して女子の割合が少ないとも考えたが、雄英の入試は男女比をそれほど重要視していないということなのだろうか。

 しかし、男子間での会話途中、峰田(みねた)(みのる)という小柄な男子生徒が、『ちくしょう……もうちょい女子が欲しかったァ……!』と唇を歯噛みしながら語る様には、周りにいた男子全員が居た堪れなくなったことを追記しておこう。

 

 そうこうしている内に、予鈴直前となった時―――飯田(いいだ)天哉(てんや)というTHE・真面目な男子生徒が机に足を掛ける爆豪に憤慨した辺りに、天然パーマな緑髪の男子生徒が教室の扉を開けた。

 更に数十秒後、茶髪で丸顔の可愛らしい印象を受ける女子がやって来て、緑髪の男子生徒と知り合いのような振る舞いを見せ始める。

 

 その時だった。

 

「―――お友達ごっこしたいなら余所へ行け」

 

 怠そうな男性の声が響いた。

 少し身を乗り出して、声の出どころを探る熾念が目にしたのは、廊下で寝袋に入りながら横たわり、ゼリー飲料を一瞬で呑み干す男性であった。ボサボサの髪、無造作に生えている無精髭、そしてくたびれた服。

 

「Wow……Like a bagworm(ミノムシみたい)

 

 義姉(ねじれ)から聞いたことがある。

 『合理性』を求める余り、『非常識』な男性教師が雄英には居ると。彼がそうなのだろう。

 

 それから寝袋を脱いで教壇に立つ男性は、充血した瞳で教室を見渡した後、小学校の頃によく先生に言われる『はい、皆が静かになるまで○秒かかりましたよぉ~!』というニュアンスの言葉を言い放つ。

 そして―――。

 

「担任の相澤(あいざわ)消太(しょうた)だ、よろしくね。早速だが、体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 こうして初日から、彼等のヒーローアカデミアは波乱の幕開けとなるのだった。

 


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