Peace Maker   作:柴猫侍

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№49 経験と価値観の違い

 瞼を透り、朦朧としていた意識が覚醒する。

 倦怠感に満ちたまま瞼を開ければ、一番始めに入って来たのは真っ白な天井だった。少しずつ身体も感覚を取り戻していけば、鼻腔を擽る消毒液の臭いを覚える。

 

(ああ……―――またか)

 

 背中に奔る痛みを覚えつつ、反射的に“個性”で上体を起こしてみれば、簡素な白亜に満ちた空間―――病室に居ることを理解した。

 

 この感覚は三度目だ。

 

 通路の奥から聞こえてくるキャスターが転がる音に耳を傾けながら、酷い空虚感に苛まれる熾念は、硬くギプスで締め付けられている左腕を見下ろす。

 同時に、垂れ下がった前髪の陰から零れ落ちた雫が、下半身にかかっている布団に丸い染みを描いた。

 

 

 

 ☮

 

 

 

「お? 波動、目ェ覚めてたのか!?」

「Huh? 鋭児郎と……焦凍!」

「おう。もう動いていいのか?」

 

 目が覚めた熾念は、敵連合からの襲撃からどれだけの時間が経っているかもわからぬまま、居ても立っても居られぬ衝動のままに、軋む体にムチ打って病院内を歩き回ろうとした。

 そうしている内に、ロビー近くまで来てしまったのだが、そこで出会ったのは切島と轟だ。切島は私服だが、轟は熾念と同じ病衣を身に纏っている。それもそうだ、彼は腹部を刺されたりと重傷を負っていたのだから。

 

 となれば、私服の切島が怪我を負って入院した者達の見舞いに来ていることは、容易に想像することができた。

 まだ凝り固まっている表情筋を気合いで動かし、笑顔を取り繕う熾念であるが、向こうの反応はよろしくない。

 

「……みんなは?」

「クラスの奴らなら自分ん家だ。でも俺、ジッとしてらんなくてよ……」

「……俺と波動、緑谷、葉隠、耳郎も此処に入院してる。B組のガス吸った奴らもな」

 

 クラスメイトの所在を問えば、端的に答えてくれる二人。

 だが、肝心な一人の所在をウヤムヤにされたような気がしてならない熾念は、すかさず口を開いた。

 

「勝己は?」

「……行方不明……だ」

「……I see」

 

 悔恨に満ちた表情で、絞り出すかのような声で答えてくれた切島に、『アリガトな』と呟いて肩を叩く熾念であるが、彼の表情もまた悔恨に満ちている。

 

 それから、ロビーにて顛末を聞くこととなった。

 敵連合が爆豪を攫って撤退した十五分後、警察や消防らが到着し、倒された敵三名―――マスキュラー、ムーンフィッシュ、催眠ガスを扱う敵『マスタード』は現行犯逮捕される。

 他の敵が跡形もなく姿を消し、代わりに生徒を誘拐されるという最大の失態を犯した雄英へ、マスコミが殺到しているとのこと。

 

 ポツリポツリと呟くように語る切島を横に、彼が奢ってくれたサイダーで喉を潤す熾念は、まさに今雄英の校門前に屯しているマスコミが映し出されているロビーのテレビへ目を遣る。

 オールマイトが教師として就任した時とは、マスコミが上げる声色が違うのは、画面を通しても痛いほど理解できた。

 

 雄英へ向けられる非難・批判。

 

 例え、雄英の手落ちが100%だとしても、自身が所属している学校を悪く言われることは気分がよくない。

 『少し歩こう』と二人を誘い、当てもなく病院の廊下をウロウロと彷徨う三人。

 怪我は勿論、ガスで倒れた生徒たちなど、重体・重軽傷者合わせて二十名以上の人数が運び込まれた為か、心なしか病院内も慌ただしいような雰囲気が漂っている。

 

「Huh?」

「ん、どした波動」

「あれ、警察じゃないか?」

「えッ……あ、ホントだ!」

 

 どうやら、病院とは一風変わった雰囲気を覚えたのは、警察が居たからであるらしい。

 どこに行くのかと自然と尾行する三人は、『八百万百』と書かれているプレートが掲げられている病室へ警察が入っていくのを目の当たりにし、そのままひょっこりとギリギリ室内が見えるように顔を覗かせる。

 

 すると、目に入って来たのは頭に包帯を巻く八百万と、神妙な面持ちで彼女と話しているオールマイトや警察たちの姿であった。

 

「八百万、目ェ覚めてたのか」

「Shh! なんか話してる」

 

 襲撃の際、脳無と思しき敵に襲われて意識を失ったという八百万の回復に、表情には出ていないものの安堵の声をあげる轟。

 だが、そんな彼へ静かにするよう唇へ人差し指を立てる熾念は、オールマイトと八百万の会話を盗み聞きする。

 

 会話は数分ほどで終わり、盗聴がバレないようにと三人はすぐさまその場から移動を開始し、歩きがてらに聞いた内容を確認し合う。

 

「……Hey、二人とも。聞いたか?」

「ああ。八百万が敵の一人に発信機つけたみてェだな」

 

 大体の内容はこうだ。

 八百万が、襲撃してきた敵の一人に、B組の泡瀬と協力することによって発信機を取り付けることに成功した。さらに、その発信機に対応した受信デバイスを彼女が創造することで、ヒーローと警察が捜査にそれらを活用できる。

 

「と、いうことは勝己もすぐ見つかるんじゃないか!?」

「……そうだといいな」

「Huh? 何暗い顔してるのさっ。これで敵から勝己取り返せるかもしれないんだぞ?」

 

 爆豪救出に光明が見えたことに熾念が喜色に満ちた声を上げるも、応える切島も隣で静かに聞いている轟も、心ここにあらずといった様子で俯いている。

 まさか、爆豪が救出されて残念だとは思うまい。いくら彼の性格が『クソを下水で煮込んだ性格』だとしても、彼と一番仲良くしていたのは切島だ。喜ぶ理由はあっても、落ち込む理由はあるまい。

 

 すると、別の理由かと熾念が首を傾げていたところで、通路の角にて壁が―――否、巨大な人影が立ちはだかった。

 

「おや? 君は……波動くん。起きていたのかい?」

「あ……は、はい」

 

 やけに委縮した様子で返事をする熾念。

 それもそのはず、目の前に現れた白衣を着た男性は、オールマイト並みに筋骨隆々なのだから。普通の病院に居る、普通ではない人間の登場に、熾念のみならず切島や轟も目を点にして茫然となった。

 

「意識が戻ったのは大丈夫だが、動いちゃイケない。当日、雨が降ってたのとクラスメイトの応急処置で大事に至らなかったが、君は背中に火傷を負っているんだ。あと、ただでさえ左腕は粉砕骨折してるんだからね。午後にはリカバリーガールが来る予定だから、腕の方は心配いらないが……」

「はぁ……」

「分かってくれたならいいんだ。では、体に障らぬよう自室に戻るように」

 

 そのまま医師と思しき男性は、山の如き肉体を揺らしながら、清潔に保たれている通路を歩んでいく。

 医師―――生と死を別つ最前線に立つ者。体力勝負な部分もあるが故に、あれだけ体を鍛えていなければやっていけないのだろうか。

 

「なんか……握力ヤバそうな人だったな」

「指だけで神経引っ張りだしそうな雰囲気漂ってるぜ……」

「画風違かったな」

 

 各々の感想を抱いたところで、話は戻る。

 

「なあ、轟、波動。話あんだけど、俺たちでさ―――」

 

 

 

 ☮

 

 

 

「Hello? 一―――」

『もしもし、熾念!? 大丈夫なのか!?』

「耳がぁっ!!」

 

 病院の敷地内において、通話をしてもいい場所まで来て拳藤との通話を始める熾念は、耳に当てた傍から響く大声量に鼓膜をやられる。

 轟たちとの“話”を終えた熾念は、家族や友人たちに自分の目が覚めたことを通話アプリで伝え回ったのだが、中でも拳藤は『直接声が聞きたい』と電話を求めてきた為、疲れた体にムチ打ちここまでやって来た。それにも拘わらず、第一声で鼓膜に一撃加えてくるとはあんまりだ。

 

 冗談はさておき、慌てて『スマン!』と謝ってくる彼女の声に、再び耳を傾ける。

 B組は特にガスによる被害が大きく、入院して意識が戻らない者達が多い。クラスをまとめる委員長という立場からしてみれば、気が気ではなかっただろう。

 ましてや、昔よりも親密になった幼馴染が、火傷の上、粉砕骨折で入院していれば尚更だ。冷静で居られないもの仕方はない。

 

「まあ、割と元気だし、明日には退院だからさっ……」

『なあ、熾念』

「Huh?」

 

 午後に治療しに来てくれるリカバリーガールの“個性”を以てすれば、火傷も骨折もあっという間に治る。後は眠って体力を回復すれば、明日にでも退院はできるという言葉を医師から聞き、気分が軽くなっていた熾念だが、そんな彼の高揚に冷や水をかけるかのような、拳藤の静かな声が響く。

 

『……お願いだから、いかないでくれよな』

「……は?」

『っ、すまん! 今の忘れてくれ!』

「……そか」

 

 一瞬、肝が冷えた―――それが熾念の感想だった。

 まさか、自分たちがしようとしていることが見透かされているのではないかと、冷や汗がだらだらと流れ始める。もし、眼前に彼女が居れば、長い付き合いからその異変に気付かれ、何を企んでいるのか根掘り葉掘り聞かれることだっただろう。

 それは幸か不幸か。

 しかし、電話を通してもひしひしと聞こえてきた悲痛な声に、つい先ほど固まったはずの決意が揺れ動き始める。

 

―――俺らで、爆豪救けに行かねェか?

 

 切島が言い放った言葉が、脳内でリフレインする。

 あの後、オールマイトたちが部屋から引き払ったのを確認し、八百万も交えて話した内容が、その『爆豪救出』についてであった。

 八百万に、オールマイトたちへ渡した受信デバイスと同じ物をもう一つ創ってもらい、自分達で彼の救出へ向かおうという内容だ。

 

 余りにも安易で、馬鹿馬鹿しい計画だ。

 しかし、あと一歩というところで爆豪を救けることができず、最後の希望であった緑谷を庇うことしかできず燻っていた熾念を焚きつけるには十分過ぎた。

 だが、拳藤の不意の一言が、猛々しく燃え上がっていた正義感を、危うげに揺らし始める。

 

 自分たちが思い立つ計画程度などよりも早く、プロヒーローや警察が動いているハズ。

 自分たちが向かうことで、逆に爆豪救出の枷になることはないか。

 万が一、気づかれて自分たちが殺害でもされれば、今度こそ雄英が潰れるのではないか。

 

 動くメリットはただ一つ。『自分たちが動くことで、爆豪が救かる未来があるのではないか』という希望的観測のみだ。

 抑えきれぬ正義感を加速させていた望みが現実的ではないと気が付いた瞬間、熾念は心臓を握り潰されるかのような幻痛を覚え始める。

 

―――まさか、失う恐ろしさを忘れた訳ではあるまい

 

 心臓が早鐘を打ち始める。

 忘れるなど、ある筈もない。だが、誰かを救けたいという想いが肥大化してしまった余り、見えなくなってしまっただけだ。

 

「っ……」

『? どうした、やっぱ具合でも悪いのか?』

「あ、いや……ちょっと疲れたかもな。また明日かけ直してもいいか?」

『ん、ああ。ごめんな、疲れてんのに電話して』

「Never mind。じゃあ、切るな」

『うん、無理すんなよ。ブツッ、ツー……ツー……』

 

 一分にも満たない会話だったかもしれないが、熾念へ与えた影響は大きなものだった。

 

 爆豪救出が、本当に正しいことであるのか―――それを多角的な視点から考えなければいけない。

 自分がなにをしたいのか、そして自分はなにをするべきなのか。

 二つの事柄を、一度確り吟味しなければならない。この時は、酷くそう思えてしまったのだ。

 

 

 

 ☮

 

 

 

 轟たちとの会話、拳藤との電話を経た後は、有事で荒れている雄英から来てくれたリカバリーガールにより、治療を受けた熾念。

 雄英の看護教諭という立場ではあるものの、常に学校に居る訳ではない彼女は、各地の病院へと出張したりもしている。故に、他の動けない雄英教師とは違い、行動範囲に自由があるのだろう。

 

 その日は強めの治癒を受け、体力がなくなってしまい、そのまま一時間もしない内に眠ってしまった熾念。

 

 彼が次に目を覚ました時は、次の日の朝だった。

 部屋から出る気力も薄れ、前日に思案していた内容を反芻し、出来るだけ体力を使わないようにと静かにする。

 途中、姉のねじれと母の量子が見舞いに来てくれたが、その時はねじれに、見舞い品であるデラウェアを一粒一粒口に放り込まれ、精神的にも胃袋的にも疲弊してしまった。

 ある種の地獄を見た瞬間だった。部屋が葡萄臭い。フルーティとも言えるが、次第に消毒液の臭いと交じり、形容しがたい香りが部屋に充満する。

 

 あの義姉、とんでもないことをやらかしてくれたな―――怒りと呆れが、熾念の笑顔を修羅のそれへと変貌させた瞬間であった。

 

 閑話休題。

 

 臭いの問題は換気でどうとでもなる。

 二人が帰った後、窓を開けて爽やかな風を室内に入れれば、瞬く間に異様な香りを風が攫って行ってくれる。自身の中で悶々と立ち込める悩みも攫ってくれればなどと、柄にもない考えに耽っていれば、A組の面々が部屋に訪れた。

 しかし、彼らの表情に影が差さっている。

 

「死んだ訳じゃないのに、そんな葬式みたいなテンションで来られてもなっ……どうかしたのか?」

「……聞いたよ、波動くん。どうにも、切島くんや轟くんたちと共に、爆豪くんの救出に赴こうと考えている……と」

 

 重い口調で、飯田が一歩前に出てベッドに腰かける熾念に語りかける。

 他の者達も、彼の様子につられて暗い雰囲気なのだが、中でも切島は名状し難い居心地の悪さを覚えているのか、終始唇を噛み締めていた。

 様子を見る限り、飯田が救出に対して抱いている考えと、切島の考えは真向から対立している。それが分からない程、熾念も愚かではない。寧ろ、愚かを承知の上だったからこその、昨日の計画だ。

 

「ああ、考えて()いるさっ」

「っ~~~……分かっているのか? 君たちがしようとしていることの意味が―――」

「分かってる。だからさ、天哉……ちょっと話したいことあるんだ」

「は……?」

「皆、折角来てくれたのにゴメンなっ! ちょっと、二人で話したいから席外してくれるか?」

 

 唖然とするクラスメイトに対し、ニカッと笑みを浮かべてみせる熾念は、飯田以外の者達の退出を促す。笑顔を浮かべながらも、彼が発するオーラの重さは感じたのか、蛙吹を始めとした者達がゾロゾロと廊下の方へ出ていく。

 

 そして、静寂が部屋に訪れたのを見計らい、飯田に椅子へ座るよう勧めた熾念は、口火を切った。

 

「やっぱり天哉は、救けに行くのには否定的なんだよなっ?」

「当たり前だ……! 例え、級友の危機であったとしても、俺たち生徒が立っていい舞台ではないことは君だって分かるだろ」

「HAHA、やっぱそうだよな!」

「ただでさえ、雄英が有事の時なんだ。もし、君たちが爆豪くんの救出へ赴き、大事があったとすれば……一体誰が責任をとるかも分かるだろ。行動したことを知られれば、退学処分にされても文句は言えない! 雄英も……ただでは……」

「……やっぱ天哉は委員長だなっ。クラスの皆のこと考えてる」

 

 身に染みるような思いで呟いた熾念に、怒りにも似た熱を帯びて声を荒げていた飯田の視線が、俯く熾念を射抜く。

 

「俺、昨日ず~~~っと考えてたんだ。なんで、襲撃された時に居ても立っても居られなかったのか。多分それって、天哉も今ならわかってくれると思うんだ」

「……?」

「失う怖ささ。天哉の兄さんさ、死んでないけど……『インゲニウム』っていうヒーローは殺されたようなもんだろっ?」

「っ……ああ。だからこそ、俺は兄の名を継いで『インゲニウム』を殺させないように邁進してる。だが確かに……俺が憧れていたヒーローは……」

 

 『飯田天晴』としての『インゲニウム』は死んだ。それは紛れもない事実だ。

 幾ら飯田がその名を継いだとしても、追いかけていた背中を、理不尽な不幸に苛まれ、不意として失ってしまった。

 似たような―――否、比重としてそれ以上に重い経験を経た熾念としては、飯田にシンパシーを覚えていたのだ。

 

―――熾念は、失わない為に戦っている

 

 誰かの願いを背負い戦うというのが、彼のヒーロー像。だが、その根底にあるのは『失う』ことに対する恐怖だ。

 

 何を失うか?

 

 それは命であり、笑顔であり、生活であり……数えればキリがない程、多くの事柄を失わないようにと、彼は日々ヒーローになるべく精進していた。

 『生きていればイイことがある』。

 どこかで聞いたフレーズを頭に思い浮かべながら、第一に失わせない為に守るべきなのは、恐らく『命』と人々は言うだろう。熾念もまた、その例外に漏れない。

 

 万が一、自分たちが救出へ赴き、殺されてしまえば……。

 万が一、自分たちが救出へ赴いたことで、爆豪を救出できれば……。

 

 冷静に考えれば考えるほど、どちらのリスクが高く、どちらの可能性が高いかは痛いほど分かってしまった。

 

「だから……俺は……今は、天哉と同じ立場なのかもしれない」

「波動くん……」

「でもさっ……アイツら説得できないかって、必死に理屈準備しようって考えれば考えるほど……(ココ)が痛いんだ……ッ!!」

 

 徐に、胸のあたりに手を置き、病衣を皺が付くほど強く握り始める熾念は、震えた声で語った。

 

「きっと、俺ン中じゃ勝己を救けに行くことの方が正義なんだ! 勿論、勝己が心配じゃない訳じゃない! もしかしたら……俺らが行くことによっての『もしかしたら』が、体疼かせてるんだ!」

「しかし、それは……!」

「ああ、その『もしかしたら』で勝己救けても……責任問題で退学にでもされちゃあ意味ないんだ! 俺は、あのA組がいいんだ! そこは譲れない!! 見当違いな正義感で友達救けに行こうって思えるアイツらが好きなんだっ!! だから……誰が欠けてもさァ……」

 

 クラスメイトを束ねる委員長である飯田への吐露。

 震えた声で、歯をギリギリと食い縛り、笑顔も体裁も取り繕わずに思いを露わにする熾念に、飯田は口を開けたまま、茫然と佇む。

 

 後悔しない生き方をしたいと願っている熾念。

 彼にとって、爆豪がもし敵連合の凶刃にかかり死亡しても、救出に向かった者達が不幸で死んでも、救出した後に責任問題で退学処分にされても、どれも後悔する結末だ。

 ならば、一番後悔しない筋を選びたい。

 

「きっと俺一人じゃ、説得しようにも最終的に付いて行くって断言できる。だから天哉、力貸してくれ。俺と一緒に、焦凍や鋭児郎を説得できる策を考えてほしいんだ」

「波動くん……!」

「皆引き留めて……そんでもって俺は、ヒーローを信じたい!」

 

 自分が為すべきこと。

 それは暴走する正義によって行動を起こそうとする友を止め、将来自分達が所属する存在に、全幅の信頼を置くことだ。

 

 

 

 そう、英雄(オールマイト)に。

 

 

 

 しかし、この時熾念は知らなかった。

 救出に赴こうとする気の合う友人に、ここだけは価値観の違いが生じていたということに。

 


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