Peace Maker   作:柴猫侍

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№39 昼に咲く花火

 熾念と常闇を取り囲む四体の分身。

 耐久力は兎も角、経験はご本人そのものであるため、真正面から渡り合うのは余りにも悪手だ。

 それを理解している熾念は、常闇へハンドサインを送る。

 

 自分を指さし、次に黒影を……そして最後に、もう一度自分を指さしてから二階部分へ。

 

「了解した。波動を咥えてから投げろ、黒影!」

「アイヨッ!」

 

 すると、黒影が熾念の体に噛みつき、そのまま彼の身体をステージの二階部分に辺り場所へ放り投げた。

 何もせずにいれば、壁なり床なりに叩きつけられるであろうが、熾念はすぐさま自身に念動力を行使し態勢を整えて着地してから、常闇に群がる分身の四体を“個性”で拘束する。

 

「今だ! Come here!」

「ああ!」

 

 常闇が黒影を操り、器用に二階部分へ飛び移ってきたのを確認してから、拘束していた分身を自分たちの進行方向とは逆の壁に叩きつける熾念。

 ようやく会話できる隙ができた。

 今の内に作戦を、と言わんばかりに走る二人は、周囲への細心の注意を払いながら、開始位置から離れていく。

 

「ふぅ、作戦会議といこうか。まず、今回の試験にあたっての最大の注意点から話そうぜ」

「そうだな……黒影、警戒を怠るなよ」

「言われなくてもヤッテルヨ!」

 

 常闇にとっての第二の目である黒影に、一先ず警戒を任せることにした二人。

 そのまま、神妙な面持ちで作戦会議に移る。

 

「個人的に……だが、今回で大事なのはペース配分さっ。踏陰の黒影は、光に照らされるとガンガン(体力)を消費する。で、いいんだよな?」

「ああ。続けてくれ」

「俺の“個性”はどっちも発動する時には発光する。つまり、俺が“個性”を使えば使うほど、黒影が弱体化しちゃうんだよなっ」

「……お前とチームになった時、懸念していたことだ。念の方は兎も角、炎の方を使ったとしたならば、黒影の闇が尋常でない速度で消費されてしまう」

「Yeah、それなんだが……っ!?」

 

 話の途中で、地面から湧き出るような形でエクトプラズムの分身が一体現れる。

 重りを着けているというにも拘わらず、軽やかなステップで肉迫してくる分身は、戦闘用の軽量義足を振りかざし、もっとも近かった常闇へ蹴りを加えようとした。

 

 だが、瞬時に熾念が“個性”で分身の動きを制止させ、その場できりもみ回転するよう振り回した後、アイアンソールで顔面部分を全力で蹴り飛ばす。

 蹴り自体にも念動力の補助がかかっている為、かなりの威力を発揮したのか、分身はバウンドしながら吹っ飛ぶ。壁に激突して倒れ込めば、風化するように消えていく分身。

 

 奇襲をなんとか潜り抜けた二人は、そのまま移動しながら会話を続ける。

 

「俺は発火能力で、今みたいな蹴りにバフをかけられるんだが、エネルギーが溜まるまでそれなりに念動力使わなきゃダメなんだ」

「成程な……俺の黒影の闇が減る一方で、お前は炎の力を溜めていくと」

「That’s right! でも、まだコントロールに慣れてない。一番やりやすいのは、満タンから一気にぶっ放すのなんだが……」

「……フッ。ならばやることは一つだ。お前は、来たるべき邂逅の時まで力を蓄えろ。それまでは俺たちが中心となって、襲来する分身を凌いでみせる」

「頼んだ! ま、センセーのとこまでたどり着いた時にエネルギー溜まってなかったらシャレにならないから、それなりに俺も戦うけどなっ」

「ああ」

 

 方針が決まった。

 常闇の“個性”は蓄えた闇を体力とし、戦っている間―――光に晒されている間は、延々とその体力を削られる。

 一方で熾念の“個性”は、使えば使うほど余剰エネルギーが溜まっていき、大爆発を起こせるほどの炎を放つことも可能。

 

 片や力を失い、片や着々と力を蓄える訳だ。

 

 最大威力は、凡そ爆豪の『榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)』に比肩するほど。例え、プロヒーローと言えども、まともに喰らえばただでは済まない威力だ。

 狙うは、最大火力でエクトプラズム本人に対し攻撃を加え、そのまま隙を見せればハンドカフスを掛け、思うような効果が得られなければゲートを潜って脱出することを優先する。

 

 大体の流れはこうだ。

 

「そんでもって……コレ見てみなっ」

「! それは……」

「攪乱にはもってこいだと思わないか?」

「……ああ。存分に活用していくぞ」

 

 熾念が腰のマントを翻し、裏にぶら下げていた自前の道具を見せつければ、常闇は不適な笑みを浮かべてみせる。

 

 すると、またもやにじみ出るような形で、エクトプラズムの分身が現れた。

 今度は五体。常闇一人で二人分という数のアドバンテージも、それを上回る数の分身を生み出せるエクトプラズムの前では意味を為さない。

 

「っと……まともに戦ったら囲まれるなっ! 踏陰! 倒さなくてもいいから、牽制してくれ! そこから俺の“個性”で離してみせる!」

「そうか。よし……俺たちで道を拓くぞ、黒影!」

「アイヨッ!」

 

 そう言うと常闇は、慣れた様相で黒影を操り、迫ってくる分身を次々と実体を持つ影の爪で蹴散らしていく。

 彼の攻撃で怯んだ分身は、再び追撃を許すまいと言わんばかりに、熾念の念動力で持ち上げられて、下の階へ次々と投げられていく。

 

 エクトプラズムの“個性”―――『分身』は非常に強力だ。口からエクトプラズムを飛ばし、任意の位置で本人に化けさせられるというものであり、一度に出せる数は三十人に上る。

 しかし、繰り出せる分身の数はどれだけ多くても四十に及ぶことはない。それはつまり、上限がある程度決まっているということだ。ならば、逐一襲い掛かる分身を倒し、新たな分身を刺客として送り込まれるよりも、倒さずに避けていくことで体力の消耗を抑えつつ、最後に集まったところを一網打尽にする方が効率がいい。

 

 幸いにも、分身自体は本人と同じく練達な人間の域を出ない。

 炎を出すこともなければ、氷を出すこともない。電気も音も、その他特殊な“個性”で攻撃を仕掛けてくることはないということだ。

 それはつまり、熾念の“個性”の特徴である範囲制圧が生きてくる。

 

 次々と分身たちの襲来を潜り抜けても、絶え間ない攻撃が続く。

 作戦通り、前線は基本的に常闇に任せることとし、彼が牽制したor間合いに入られて対応できない分身については、逐一熾念が念動力でその場から引きはがすように放り投げる。

 分身と分かっているからこそ、遠慮なく投擲することができ、それなりに良心が痛むことはなかった。

 

「はぁ……でもさっ! エンカウントする敵全員ボス級って、どこのRPGのダンジョンだっての!」

「だからこそ、真正面からの戦闘を避けているんじゃないか!? 兎に角、大将の首を取るなり逃げ切れば、最後に勝つのは俺たちだ! 気を引き締めていくぞ!」

「ソウダ! 気合イ入れろヤ!」

 

 黒影の激励も受けながら、着実に前へ進んでいく熾念。

 しかし、順調に見えた進軍も若干の停滞を見せ始める。

 

「っ!」

「波動!?」

 

 今度は地面ではなく、壁からという奇想天外な場所から生まれた分身の蹴撃が、熾念の頬を掠った。

 試験開始以前に『教師を敵そのものだと考えろ』と言っていただけあり、向こうの攻撃にも一切の躊躇いがない。

 

 肝が冷える思いをしながらも、熾念は慌てることなく分身との距離をとり、確りと念動力で動きを拘束したのを確認してから、これまた念動力によって勢いをつけた後ろ回し蹴りを顎へ入れる。

 ボグ、と嫌な音が鳴り響けば、分身は首を明後日の方向へ曲げながら、ゆっくりと地面に吸い込まれるようにして消えていく。

 

「Never mind! ちょっと掠っただけだっ!」

「ならばいいが……くっ! 攻撃が苛烈になってきている! こっちの戦法に対応してきている!」

「時間かけたら不利になりそうだっ。急いでセンセーの所まで行こうぜ!」

 

 そう口走り、一層歩幅を広くして駆ける二人。

 絶え間ない分身の攻撃に辟易しながら前進するものの、次第にその勢いも衰えていく。

 

(黒影の攻撃のキレが無くなってきてる……闇が少なくなってきてるってことかっ!)

 

 前衛の常闇が、分身をさばけなくなってきているのを眼前にし、そろそろ頃合いだと察する熾念は、常闇に蹴りかかる分身に飛び込んでいき、その胴体へ思い飛び蹴りを喰らわせた。

 

「踏陰! こっからは俺のTurnだ! 俺が分身を浮かせて後ろに投げるから、それに攻撃して距離を離してくれ!」

「ム……了解した!」

 

 即座に前衛と後衛を交代すれば、当初の勢いが徐々に戻っていくのが目に見える。

 闇が減って来た黒影の消耗を抑えつつ、熾念の『発火能力』のエネルギーを急速にチャージしていく布陣だ。

 最初からこの布陣で臨めばいいのではないか? と思う時もあったが、それがダメなことは熾念が理解している。『発火能力』が担う役割は排熱。予想よりも早く限界近くにエネルギーが溜まってしまえば、『念動力』の発動時間が大幅に削られるなど、発揮できる力が減衰するのだ。

 

 この試験の要は『塩梅』。

 

 片方が前に出過ぎても、片方が温存し過ぎても最良の結果は得られない。

 

(フム……交代ノタイミングハマズマズダ。矢張リ、ヒーロー殺シト会敵シタカラカ、強力ナ“個性”ノ弱点ヲ把握シテイル)

 

 及第点ではある生徒の戦略に、頷きながら攻撃の手を緩めないエクトプラズム。

 

(確カニ、“個性”ヲドレダケ扱エルカトイウノモ非常ニ重要ダガ、ソレ以上ニ大切ナノハ、“個性”ニ見合ウダケノ身体能力。『黒影』……光トイウ要素ヲ抜ケバ、プロトモ十分ニ渡リ合エル“個性”ダ。シカシ、当ノ常闇自身ノ身体能力ハ中ノ上。決シテ褒メラレタモノデハナイ)

 

 常闇自身のフィジカルはさほど高くない―――それは、この数か月間の実習授業で分かったことだ。彼の“個性”の強みは間合いに入らせないことだが、逆に間合いに入ってしまえばフィジカルがさほど高くない常闇を伸せばいいだけになるから、倒すことは難しくなくなる。

 

 どれだけ“個性”が強力でも、本人が弱ければ宝の持ち腐れということだ。

 

 反面、ヒーロー殺しと会敵した熾念については、“個性”抜きでも体育祭上位者を一度に相手どれるだけの身体能力を目の当たりにしたことにより、“個性”を過信せずに戦いへ望むという心構えが自然と出来上がっていた。

 無論、常闇が“個性”を過信しているという訳でもないが、一度でも死線を体験したという『経験』が、他と一線を隔す要因であることは、お分かりいただけるであろう。

 

(一方デ、波動ノ課題ハ、戦場ヲ俯瞰的ニ捉エ、ドレダケ早ク思考ヲ回セルカダ)

 

 襲い掛かる分身を念動力でいなし、そのまま常闇が居る方へ投げ飛ばす熾念。

 いくらエクトプラズムと言えど、“個性”は空中移動できるものではなく、宙に放り出されれば無防備もいいところ。

 その隙を逃がさぬ形で、黒影が漆黒の爪を立ててくる。

 

(『念動力』トイウ“個性”ノ性質上、爆豪ナドニ比ベテ“個性”ノ発動ヘ移ルノニ、一瞬動キガ遅レテシマウ。戦イデハ、ソノ刹那ガ命取リ)

 

 文字通り、『念の力で動かす』のが熾念の“個性”であるが、反射的に動ける面々に比べて行動に遅れが出てくるという弱点がある。

 生徒である今の内は分からない遅れであろうが、プロになって強大な敵と相まみえて実感するのは、他でもない彼自身だ。

 

 “個性”の発動に際して、『どこをどう動かすか』、という過程を経なければならない『念動力』―――その弱点を改善するためには……

 

(コレカラ何ガ起コルカ予測スル力。ソシテ、実際ニ何ガ起コッタノカ瞬時ニ把握スル、鷹ノ如キ炯眼。主観的デハ見エテコナイ世界モ、戦場ヲ俯瞰的ニ見ルコトガデキレバ、彼ハPlus Ultraスル筈)

 

 教え子たちにはまだまだ伸びしろがある。

 そう思うと、エクトプラズムという人間であれど笑みが止まらなくなってしまう。

 

 どれだけ“個性”が扱い辛くとも、経験を経てプロに勝るとも劣らない力を得た生徒を、彼は知っているからだ。

 

(サテ……―――)

 

 また一つ、分身が熾念に蹴り押されて怯んだところを念動力で投げ飛ばされ、黒影による爪の一閃を喰らって塵となって消えていく。

 自分もそうであるように、若干ながらも自分の動きに慣れてきた生徒。

 

 ちょうど、生徒の成長も垣間見えた時であった。

 

『報告だよ。条件達成最初のチームは、轟・八百万チーム!』

「Toot♪ さっすが……!」

「轟たち……ということは、相澤先生を下したということか!」

「こっちもウカウカしてらんないな! 全速力で、ゴール目指してくとしようかっ!」

「ああ! 風向きは若干俺たちに向いている! 乗じて突破するぞ!」

 

 クラスメイトが一組試験を突破したことに、疲労によって下がり気味になっていた士気が上がる。

 この勢いがなくなる前に自分達も突破せねばと駆ける二人は、分身による猛攻を退けていく。さらに途中で緑谷・爆豪チームも条件を達成した―――オールマイトを下したとあって、追い風は一層強まる。

 

 そして遂に、エクトプラズム本人が見える場所までたどり着いた。

 随分ファンシーなゲートの前に佇むラスボス。そんなギャップに一瞬微妙な表情になってしまう二人であったが、彼がこちらを視認したことを確認し、即座に身構える。

 

「アノ数ヲヨクゾ凌イダ……。ダガ、コレナラドウダ?」

 

 おどろおどろしい姿で口腔から、膨大な分身の元となるエクトプラズムを放出するエクトプラズム。

 これまでとは比較にならない量だ。一軒家であれば容易く呑み込んでしまえそうなエクトプラズムは、徐々に放った本人の姿へ変貌していき、一体の巨大な分身が大口を開けて二人へ襲い掛かる。

 

 

 

強制収容ジャイアントバイツ

 

 

 

「っ……踏陰! 投げる!」

「波動!?」

「Leave it to me!」

 

 瞠目する二人であったが、先に動いたのは熾念。

 このままでは二人とも避けられないと判断した彼は、隣に居た常闇を構わず念動力で浮かし、分身の攻撃が届かぬ高さへ放り投げた。

 

 これで相方の無事は保障されたものの、当の熾念は現在進行形で分身に呑み込まれかねない状況だ。

 

「数ハ出セナクナルガ、我ガ視認出来レバコレ一体デ事足リル。分身ノ解除ハ我ノ意思デノミ……サァ、ドウスル?」

「―――い~いコト聞いちゃった♪」

「ナニ?」

 

 巨大な分身の陰から聞こえてくる呑気な声に、エクトプラズムは怪訝な表情となる。

 

「『数は出せなくなる』……つまりこの逆境(ピンチ)って、最っ高の好機(チャンス)ってことさっ!」

「……ホウ」

 

 ならばやってみせろ。

 そう言わんばかりに、堂々と佇むエクトプラズムは、退避させられた常闇にも目を配りながら、自身の必殺技の行く末を見守る。

 

 一方で熾念は、既に分身の口で覆われて真っ暗な空間―――とどのつまり、口腔の中で息を整えながら何度もイメージを反芻していた。

 

(一点に……エネルギーを一点に……勝己の大爆破を真正面から相殺できるくらいの……)

 

 幻視する炎に臆さないよう強い心を抱きながら、自身から発せられる青色の念動波の光を頼りに、狙いを定める。

 ちょうど目に入ってきたのは口蓋垂。

 あれよりも先に呑み込まれてしまえば、あっという間に身動きがとれなくなってしまうことだろう。

 

 チャンスは一回。

 

 後に退くこともできない。

 

(爆発……爆発……爆発! そうだ―――)

 

 刹那、全体に広がっていた念動波が口蓋垂に収束し、溢れんばかりの閃光が瞬く。

 最後に脳裏を過ったのは、子供の時に観た、花火が夜空に咲き誇る光景。火が怖くて仕方なかった小さな時も、打ち上げ花火だけは素直に感動して見入ってしまえていた。

 

「花火みたいにっ!! 発火能力(パイロキネシス)最大解放……」

 

 一点に収束した念動波から、溜まりに溜まったエネルギーが―――炎が、逃げ場を求めて一気に膨張する。

 青い閃光が暗闇を照らし、焼き尽くし、一切を吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

「BIG BANG SMASH!!!」

 

 

 

 

 

「ムッ……!!?」

 

 その途轍もない光は外まで届き、分身を眺めていたエクトプラズムの視界にも、眩い閃光は嫌と言うほどに届いていた。

 直後、熾念を呑み込みかけていた分身の頭部が破裂し、中に佇んでいる熾念の姿を見ることが叶った。あれだけの爆発の近くに居た彼が無事か気になったエクトプラズムであったが、マントを被っていた彼が意気揚々とソレを翻し、満面の笑みを浮かべていたのを目の当たりにし、杞憂であったと自身を鼻で笑うにとどまる。

 

「ナル程……防火マントカ」

「Correct! ま、熱いモンは熱いですけど……ねっ!」

「ム!」

 

 すると次の瞬間、熾念の背後から緑色の光の尾を引いて迫ってくる、四つの手錠が目に入って来た。

 念動力によって迫ってくる手錠……ハンドカフスを凝視するエクトプラズム。

 

 この試験での生徒の目的は、ゲートを潜るかハンドカフスを教師にかけるかだ。

 偶然手錠を常備している熾念にとっては、自前の手錠をデコイとして用いることができ、教師の目を欺くことができる。

 

(本物ハドレダ……イヤ、()()ハ)

 

 分身を即座に四体前方へ展開し、視線を上へ向ける。

 そこには、手錠を携えた常闇の姿があった。

 

「コッチダナ」

「黒影!!」

「ソリャアア!!」

 

 雄叫びを上げて突進してくる黒影。

 彼によって手錠をかけられまいと細心の注意を払って一蹴するエクトプラズムは、特攻してくる常闇と黒影に備える。

 

「焦燥カ……アレダケノ光ヲ目ノ当タリニシタノデアレバ、黒影ハ相当弱体化シテイル」

「くっ!」

「間合イニ入ラセナイコトヲ強ミトスル君ノ“個性”……判断ヲ間違ッタナ」

 

 熾念の大爆炎の隙にゲートへ向かえば、勝算はあった。

 そう言わんばかりに呟くエクトプラズムへ、尚も黒影と共に肉迫する常闇は、そのまま義足を振りかざすエクトプラズムと激突する。

 

 刹那、ガチャリと何かが嵌まる音が響いた。

 

「……間合いに入らなければ、ハンドカフスはかけられない」

「俺タチは……一つダケド二人!」

「……コレハ、一杯食ワサレタナ」

 

 振りかざした義足に掛けられていたのは、黒影ではなく常闇が手にしていた手錠。

 本命は熾念でも黒影でもなく―――常闇であった。熾念が放つ複数のデコイからの、黒影が携える一つを印象付けさせ、一番近距離を苦手とする常闇に本命を任せるという、大胆な戦法。

 だが、常闇は丈の長いマントを身に着けていることから、手に手錠を持っていたとしても気付かれにくいという利点があった。

 

「フム……即席ニシテハ見事ナ連携。我ノ敗ケダ」

『波動・常闇チーム、条件達成!!』

「よし……任された責務はやり遂げてみせたぞ」

「Good job! 黒影もお疲れ様っ!」

「ホ、褒メテモ何モ出ねえヨ!」

 

 勝利に沸き立つ二人と一体。

 

 その後も、次々と条件達成の報告が響く。

 終わりの鐘が鳴った時、一歩進んだ者、壁に阻まれた者と明暗がはっきりする。

 

 ともあれ、こうして悲喜交々の中、期末試験は無事に終了するのであった。

 


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