職場体験五日目。
一日病院で大事をとった四人は、退院して各々が向かう場所へと戻っていく。
飯田は、母の迎えによって自宅に帰ることとなり、緑谷はグラントリノの下へ職場体験に、熾念と轟もまたエンデヴァーの下へと職場体験に戻ることとなった。
その時轟が、不本意ながらヒーロー殺しの逮捕に協力したこととされ、不満げなエンデヴァーの様子を見たいと口走った際は、流石の熾念も呆気にとられたのだが、これはまた別の話だ。
学べることはまだ残っている。残り少ない時間の中でも、一つでも多く得られるものを得てから学校に戻りたいと決意する二人。
彼らがやって来たのは、保須への出張を終えてエンデヴァーや相棒諸共戻ってきたエンデヴァーヒーロー事務所だ。
表情には出していないものの、エンデヴァーの仏頂面拝みを楽しみにしている轟。
一方で、そんな轟と機嫌を損ねているだろうエンデヴァーに戦々恐々している熾念。
しかし、待ちかねていたのは普段とさほど変わっていない№2であった。
「警察からの応援要請だ! 巷で強盗を繰り返しているボルケーノ盗賊団の犯行! すぐに現場に向かうぞ!」
『はいッ!』
「「……」」
職場体験中、何度か見た迅速かつ威厳ある指示。
変わらぬエンデヴァーの仏頂面拝み様子に、熾念はどこかホッと安堵の息を吐き、轟はつまらなそうに眉を潜める。
この仏頂面、新聞に載っていたエンデヴァーの不機嫌そうな顔にそっくりだということは、熾念はあえて口にしなかった。
閑話休題。
エンデヴァーヒーロー事務所に届いた要請の中にあった『ボルケーノ盗賊団』とは、ここ最近、巷で話題となっている敵グループのことである。
構成員は三人。
リーダーは岩田交馬。敵名『ボルケーノ』。“個性”は、体内の脂肪を燃焼させることによってマグマを生成し、それを専用の器官から噴射するという『噴火』だ。
次に風谷旋。敵名『ガストボーイ』。手首を回して風を生み出す『扇風』という“個性”を有している。
最後に灰田粉子。敵名『ダスティ・アッシュ』。体から灰のような粉塵を出すことにより、相手の目、鼻、口などをふさぐ『灰塵』という“個性”を有す。
リーダーのボルケーノ以外、さほど攻撃力に特化したメンバーはそろっていないが、ガストボーイとダスティ・アッシュはコンビネーションで灰塵を風で巻き上げ、複数のヒーローの視界を奪うという技をやってのけるのだ。
そんな彼らは数度、銀行強盗や宝石強盗を成功させているのだが……
「近づくんじゃねえぞ!! もし寄って来たなら、この子供ぶっ殺してやる!!」
「うわぁ~ん!」
とある宝石店の奥で、切迫した表情を浮かべる盗賊団の三人と、盗賊団の一人・ダスティ・アッシュによって喉元にナイフを突き立てられている小さい男の子が一人。
どうやら、調子に乗って勢いで強盗した際、偶然付近でパトロールしていたヒーローに目撃され、迅速に包囲されてしまったが為に、苦肉の策として人質をとったらしいのだ。
「いいか! 逃走用の車を用意しろ!」
「それまで一歩でも近づいてみせろ!? すぐさま子供殺してやるからな!」
「このナイフで、サクッとね! ほらほら、子供の命を助けたいなら、車を用意するんだよ!」
本格的に包囲されている三人の顔には焦燥が浮かんでいるが、それでもリーダーのボルケーノは己の“個性”への自信があるのか、どこか余裕がうかがえる。
―――エンデヴァーを前にしてもそうなのだから、肝はかなり据わっていると言えよう
「さて、二人とも。問題だ。奴らはああ言っているが、実際車を持ってきたとしてどのような行動に出ると思う?」
「……わざわざ手に入れた人質を返す義理はねえ。逃げ切る為にも、子供を人質にとったままどこか行くだろうな」
「正解だ、焦凍。では、仮に逃げ切れたとして、奴らの次に出る行動は?」
「Hmmm……身代金の要求とかですか?」
「なくはない話だな。どちらにせよ、ここで逃げられでもすればヒーローの信頼に関わる。で、そうなるならば俺たちはどのような行動に出ればいい?」
「「……子供を助ける!」」
「正解だ」
不敵な笑みをエンデヴァーが浮かべると、手下の二人がゾッとしたように表情を引きつらせる。
「ヒイ~! №2が来るなんて聞いてねえよ!」
「ち、近づくなよ!? 炎出すなよ!?」
「フンッ、とんだ小物じゃないか」
ただ笑みを浮かべただけなのに恐れ戦く敵二人に、呆れたように鼻息を吐くエンデヴァー。
その間も、頭であるボルケーノは、仁王立ちをしたままいつヒーローたちが来てもいいようにと身構えている。
「ムゥ……」
人質が居る以上、下手に攻撃の手を出すことはできない。
己の“個性”については、人一倍把握している。ここから炎を放ってダスティ・アッシュを気絶させるのと、彼女が子供にナイフを突き立てるのでは、明らかに後者の方の実行が早い。
まったく、元々現場に居たヒーローが迅速に避難誘導をしていれば……と愚痴りたくなったエンデヴァーであったが、立ち向かったヒーローがボルケーノの“個性”で重度の火傷を負っているが故に、そのような軽薄な言葉も言えない状況にあった。
「エンデヴァー! 車の用意が……」
「了解した。では、車に乗るよう敵を誘導してくれ」
「はい!」
警察にも指示をするエンデヴァー。
この事態は既に予見していたため、ここから繋がる道路の先には全て相棒を配置しており、いつでも奇襲をかけることができる。
エンデヴァーに雇われている相棒は、軒並み実力が高い。奇襲をかければ、ほぼ100%の確率で子供の奪還は可能だろう。
しかし、好ましい状況は№2である自分が直接事件を解決すること。
盗賊団が、警察の用意した車―――トラックに乗り込んでいる間も、エンデヴァーはすさまじい威圧感で敵をけん制する。
「お、おらぁ! もっと下がるんだよ!」
「ガストボーイ、運転頼んだよ! ほらほら、この子供が目に入らないか!?」
「……」
ガストボーイが運転、ボルケーノとダスティ・アッシュが荷台に乗り込み、子供を人質にとっていることを見せつけ、尚且つすぐにでもマグマで迎撃できるように位置とる。
―――かに思えた
「ほいっ」
「へ?」
突如、ダスティ・アッシュの豊満な胸と腕の間に抱かれていた子供が、凄まじい速度でエンデヴァーたちのいる方向へと飛んで行った。
予想だにしていなかった事態に、ダスティ・アッシュは呆気にとられて硬直する。
その間にも子供は、そうさせた張本人である熾念の胸の中に抱かれた。
「“個性”で危害を加えなきゃいいんですよね、エンデヴァー? HAHA!」
「……上出来だ」
ニヤリ、とエンデヴァーの口角が吊り上がる。言葉を交わした二人は、背後で茫然としている警察官に目を向けて、意地の悪そうな笑みを浮かべて見せた。
熾念がしたことは簡単。念動力で子供を持ってきただけだ。もし、ダスティ・アッシュが子供にナイフを突き立てようとしたならば、それもまた念動力で抑え付けるだけであったが、余りにも呆気なく取り戻せたことに、熾念も間の抜けた表情で息を吐く。
これはエンデヴァーの指示。『できると確信したならば行動に移せ。失敗しても、俺が尻ぬぐいをする』……そう伝えられた熾念は、晴天の下、念動力の光が視認しにくい外に出たタイミングで、“個性”を発動したのだ。
「ひ、人質がぁ~!」
「舐めた真似を……ガストボーイ! ダスティ・アッシュ! 奴らの目を潰せ!」
「「は、はい!」」
ボルケーノの怒号に呼応し、運転席から出てきたガストボーイが手首を回転させて風を生み出し、それに合わせてダスティ・アッシュが体から灰のような粉塵を放出し、あっという間に灰色の竜巻が出来上がる。
それは一直線に、自分達をハメたエンデヴァーへ向かっていくが、
「もう少し、考えて攻撃をするんだな」
「「へぁ? ぎゃあああ!!」」
粉塵を含んだ竜巻へ、さっと炎を発するエンデヴァー。
直後、エンデヴァーの放った炎は竜巻へくべられ、一瞬にして燃え上がった竜巻が爆発するかのようにガストボーイとダスティ・アッシュの身体を包み込む。
プスプスと煤けた体を露わにし、地面に倒れ込む敵二人に対し、エンデヴァーはつまらなそうに鼻を鳴らす。
「収束した風に粉状の物質を含ませる……粉塵爆発を起こす状況として十分だ。わざわざ俺たちに狙いを定めてくれたおかげで、風も粉塵もまとまっていた。俺の放った炎が辺りに飛び火する心配も少なかったという訳だ。この程度の芸当、俺の息子でも容易くできるな」
「……ふん」
鼻を鳴らして顔を逸らす轟。
一拍遅れてエンデヴァーのしたことを理解したが、あの一瞬でそこまでの判断には至っていなかったことは、口が裂けても言いたくないと言わんばかりだ。
「おのれ、エンデヴァー……貴様の炎如き、俺のマグマで焼き尽くしてくれよう!」
「ほう、面白いな!」
「喰らえ! 群がるバカな野次馬ごとなッ!!」
次の瞬間、ボルケーノの体から幾つものマグマの塊が飛散する。
エンデヴァーだけではなく、周囲に集まっていた野次馬など、無差別に放ったと思われる攻撃。
「わ、わぁー!」
「ヤバい! こっち来てるぞ!」
「逃げろー!」
「―――流れ弾で騒ぎ立てんなら、最初から逃げとけよ」
しかし、火山弾にも似た攻撃が市民に命中することはなかった。
何故ならば、市民とマグマの間に突如として出現した、氷河の如き巨大な氷壁が、マグマをすべて受け止めたからだ。
「……俺も“個性”で危害は加えてねえ。流れ弾守るためだ。エンデヴァーから火急の事態に際しての戦闘許可を受けてるし、これなら違反じゃねえだろ?」
「あ……ああ」
目まぐるしく変化する光景に唖然とする警察は、轟の問いに首を縦に振る。
まるで熾念と轟が行う行動は、以前の警察に言い放たれた規則違反に対する意趣返しととらえかねないものだ。
否、エンデヴァーの様子も見れば、彼の意趣返しも含まれているのだろう。でなければ、これほど生徒が積極的に事件に携われるはずもない。彼の後押しがあることは、予想の範疇を出ないが明らかなものであった。
形勢逆転。
そう表現するのが正しい状況を前に、ボルケーノはまさに憤慨した様子でマグマの生成に移る。
「ぐっ……ならば、貴様を倒すまでだ!! エンデヴァー!!」
「かかってくるか……しかし!」
再びマグマを噴出させるボルケーノ。
だが、エンデヴァーはその場から一歩も動かず、掌に灯した炎が青く変色したのを確認し、降りかかるマグマへ向けて炎を解き放った。
疾走する青い炎は、ドロリとした粘ついたマグマの中央を穿ち、ボルケーノの攻撃を無力化する。
「なッ……!?」
「貴様の敗因を教えてやろう」
はじけ飛んだ己のマグマに茫然とするボルケーノに、眼前まで迫って来たエンデヴァーが、拳を振りかざしながらこう口走る。
「単純に……格の差だ!!!」
「がっ!!?」
気持ちいい音を響かせる右ストレートが、無骨なボルケーノの顎にクリーンヒットし、そのまま意識を刈り取られるように彼は白目を剥いて倒れる。
ガタイは同レベルであるにも拘わらず、たった一発で伸せるところを見ると、やはり長年の鍛錬がモノを言うのだろうか。そんなことを思いつつ、戦闘不能になった敵を見下ろすエンデヴァーは、への字に口を曲げて言い放つ。
「他愛ない。それに今の俺は……機嫌が悪いんだ!」
実に鬼気迫った表情だ。
―――どっちかって言ったら、そっちが本命じゃないのか?
逮捕される敵と、彼らを倒したエンデヴァーを見やる熾念と轟は、そう思わざるを得なかった。
こうした具合で、残りの職場体験の日程もこなしていく二人。
機嫌こそ悪かれど、実に有意義な職場体験をさせてくれたエンデヴァーに対しては、互いに様々な感情を抱く結果となった。
そして、あっという間に職場体験は終了し、非日常は日常へ移り変わっていく―――。
☮
職場体験を終えてから、初めての登校日。
朝の時間に、各々で職場体験先にて何をしたかを嬉々として語る面々が居る中で、一方では口を結んで彼らの話を聞く側に徹する者もいた。
途中、上鳴がワイドショーを騒がせているヒーロー殺しの信念について、カッコイイと思うとの旨を口走ったことに、不穏な空気が流れる一場面もあったが、特に大きな騒動もなく一日のカリキュラムを終えて帰りのHRに至る。
「はい、今日一日ご苦労さん。慣れない職場体験で疲れてるのも分かるが、体調管理は各々の責任で行ってくれ。で、えー……そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが三十日間休める道理はない」
相澤が書類に目を通しながら放った言葉に、クラスが『まさか』とざわつく。
「夏休み、林間合宿やるぞ」
「知ってたよー、やったー!!!」
ワッと湧き上がる教室。級友と寝食を共にしたり、イベント盛りだくさんの合宿に、高校生が騒がないことがあるだろうか。いや、ない。
「ただし」
しかし、相澤の鶴の一声により、静まり返る生徒。
「その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は……学校で補修地獄だ」
「みんな頑張ろーぜ!!」
補修地獄……地獄というワードですでに不穏さがMAXであるにも拘わらず、そこに『補修』とつくのだから、並々ならぬ阿鼻叫喚が垣間見える地獄が待ち構えているということなのだろう。
冷や汗を流す切島や上鳴は、全員で合宿に行きたいがために、鼓舞するかの如く拳を握って吼える。
「それと、もう一つ連絡事項だ。再来週、授業参観がある。その時に保護者の前で日頃の感謝について、個々人で書いた手紙を朗読してもらう。ほれ、このプリント、保護者に必ず渡すようにな。後ろ回せ」
「手紙ー!? そんな小学生じゃあるまいし……」
「俺が冗談を言うと思うか?」
プリントを配りながら、鋭い眼光を走らせる相澤に、クラスの思いを代弁した上鳴を始め、全員が押し黙る。
次第に『恥ずいよね……』や『マジかー!』と声が上がる中、どことなく今日一日意気消沈していた飯田が勢いよく立ち上がった。
「静かにするんだ、みんな! 静かに! 静かにー!!」
「飯田ちゃんの声が一番大きいわ」
「む、それは失礼」
委員長としての責務をしっかり果たそうとする飯田であるが、いつも過剰に突っ走ってしまい、逆に迷惑な行動をとってしまうのが飯田という男だ。それも、生来の真面目さに起因する。
「しかし先生! 皆の動揺ももっともです。授業参観といえば、いつも受けている授業を保護者に観てもらうもの。それを感謝の手紙の朗読とは、納得がいきません! もっとヒーロー科らしい授業を観てもらうのが本来の目的ではないでしょうか」
「ヒーロー科だからだよ。お前たちが目指しているヒーローは、救えてもらった人から感謝されることが多い。だからこそ、誰かに感謝するという気持ちを改めて考えろってことだ」
「なるほど……ヒーローとしての心構えを再確認する、そしてヒーローたる者、常に感謝の気持ちを忘れず謙虚にあれ、ということを考える授業だったのですね! 納得しました!!」
「そーいうことだ」
棒読みで飯田の納得を肯定する相澤。
一方で、普段通りの飯田の姿にどことない安心感を覚えるのが、緑谷であった。まだ、ヒーロー殺しの件について、後ろ髪を引かれているかのような飯田のことを、彼は心配していたのだ。
だが、数日経った今、それは杞憂であったと思えるほどに、飯田はハキハキとしている。
心配は無用だったようだ、とホッと息を吐いた。
「ま、その前に施設案内で軽く演習は披露してもらう予定だが」
「むしろ、そっちが本命じゃねえ!?」
クラスの総意を代弁する上鳴の声が、天井を衝かんばかりの勢いで木霊する。
☮
HRも終わり、生徒がそれぞれ帰路につこうとする時、またもやA組委員長の声が教室に響き渡った。
「緑谷くん! 轟くん! 波動くん! ちょっと来てくれないか!?」
ハキハキとした声に何事かとざわめく教室。
呼ばれた三人は、そそくさと飯田の下へ駆け寄っていく。その際、彼の右手になにやらチケットらしき物が握られているのが見えた。
「ど、どうしたの飯田君?」
「……ここで話してもいいことなのか?」
「Huh? そのチケット……『ズードリームランド』? 遊園地かっ」
「ああ。前の一件の時のことで、ネイティブさんがお礼にと四人分送って来てくれたんだ」
ヒーロー殺しと交戦している際に救出したヒーロー・ネイティブ。彼が、四人の為にとある遊園地のチケットを見繕ってくれたようだ。
『よかったら、四人で行かないか?』とロボットのような動きで手を差し出してくる飯田に三人は、悪くなさそうな表情で声色を高める。
「うん! いいね!」
「Toot♪ 遊園地なら大好きだぜ!」
「……俺も大丈夫だが、チケットの期限は何時までなんだ?」
「む、しまった! ええと……来週までだ。となると、来週の日曜日に集まれるかい?」
『来週の日曜日』。その単語に、三人は一変して申し訳なさそうに眉を顰める。
「あ……ごめん、飯田くん! その日、文化ホールでヒーロー回顧展やるから見に行く予定だったんだ! 黎明期のヒーローを網羅した見逃せないイベントなんだよ! 黎明期のヒーローってなかなか見られる機会がないんだ! それに入場者には特典で黎明期ヒーローの詳しいプロフィールがついたフォトブックがついてきてね……!」
「まったく緑谷くんは、本当にヒーローが好きだな」
自他ともに認めるヒーローオタクの緑谷。
そんな彼の性格を知っている飯田は、強く誘うこともできず『わかったよ』と頷いた。
「日曜日は俺も無理だ。母の見舞いに行く。悪いな」
「Sorry! 俺も、その日にもう友達と予定入っててさっ……」
忙しいヒーロー科は、休日が基本的に日曜日しかない。
故に、プライベートの予定はもっぱら日曜日に集中しているため、すでに予定が組み込まれていることが少なくないのだ。
そして、今回に限って三人とも来週の日曜日は埋まってしまっていた。
「むむっ……そうなってしまうと、折角のこのチケットも宝の持ち腐れとなってしまうな。他に時間がある人が居ないか、探すしかないか」
「あー、飯田! だったら俺付いてっていいか!?」
「オイラも!」
「上鳴くん! 峰田くん! もちろんさっ! よし、これで三人は決まったから、あとは一人だな……」
「飯田。ならば、俺も同行していいか?」
「常闇くん、君も予定が空いているのかい?」
「ああ」
周りで話を聞いていた者達が、三人分枠が余っていることを認識し、我先にと飯田の下へ駆け寄っていく。
あっという間に四人の定員が埋まり、厚意を無駄にすることがなくなった飯田は胸を撫で下ろす。
「ふぅ、これで四人決まったな! 済まない、緑谷くん。轟くん。波動くん。ほとんど君たち三人の為に用意してもらったものなのに……」
「気にしないで、飯田くん。なんて言うか、僕の用事だけは我欲の為って言うか……」
「……悪ィ」
「また今度、機会があったら頼むなっ、天哉」
「ああ! あらかじめ決まっていた予定取り下げるのは忍びないからな。四人で君たちの分まで楽しんでおくことにするよ! お土産も買ってくるから、楽しみにしていてくれ!」
そう言う飯田は、手に持っていたチケットを早速寄ってきた三人に手渡し、場所や集合時間などの詳細を話し始める。
すっかり普段通りになった飯田に軽く帰りの挨拶を交わした三人は、昇降口へ……
「あれ、波動くん? そっちB組だけど……」
「ちょっと用事があるんだ」
「そうなんだ。じゃあまた明日、波動くん!」
「Yeah! Goodbye、出久、焦凍!」
「ああ」
緑谷と轟とも別れを告げ、一人B組へ向かう熾念。
下履きを履いた足で廊下を軽快に歩む彼の視線の先には、心ここにあらずで天井を眺める女子生徒が一人佇んでいる。
「一佳~」
「お、来たか」
「一緒に帰ろうぜっ」
「おう」
ぎこちない動きではにかむ二人。
何とも言えない距離感を保って並んで歩く二人は、これまたぎこちない歩き方で昇降口へ向かっていく。
「Ah……それで、来週の日曜についてなんだけどさ」
「んー」
帰宅トークの内容は、