Peace Maker   作:柴猫侍

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職場体験が来た!
№27 その名も


「ん……んん……」

 

 寝ぼけた声をあげて寝返りを打つ拳藤は、カーテンの隙間からあふれる眩い日差しによって目を覚まし、依然夢見心地のままベッドから起き上がった。

 

「ふぁ……あれ?」

 

 欠伸を吐きながら自分の服装を見れば、いつのまにやら寝間着になっているではないか。

 昨日の記憶をたどり、最後に覚えていたのは鮮烈な幼馴染の告白から必死に逃げ去り、そのまま悶えるようにしてベッドインしたことだ。

 

(……あぁ、そういえば)

 

 はっきりとした記憶はそこまでであるが、朦朧とする意識の中で、日が完全に沈んだ夜中に目を覚まし、なんとなしに食事や入浴を済ませ、再びベッドに身を委ねたのだ。

 そのままスマホを手に取り電源をつければ、時刻はすでに八時。我ながら、体育祭の疲労があるとは言え、だらしない休日を過ごしかねない時刻に起きてしまったと、拳藤は自身に嘲笑のような苦笑を浮かべた。

 

 だが、ふと画面の上に出てきた通話アプリの着信欄には、彼女がここまで寝つきが悪くなる原因となった状況を作り出した張本人の名が堂々と出ているではないか。

 

「っ!?」

 

 虫の知らせのようなモノを覚え、大急ぎで内容を確認する拳藤。

 

『今日の返事の答え、本当に嫌だったなら返信しなくて大丈夫だからな』

「い!?」

 

 顔から血の気が引くのを感じた。眠気など、地平線の彼方へと飛んで行ってしまったように目が冴える。

 日付は昨日のもの。明確な返答期限を設けられている訳ではないが、送られた当日に返事をしないというのは、彼にとってみてすれば『拒否』以外の何物でもない行動だろう。

 

 自分が彼にしてしまった所業に、焦燥からくる胃酸が空の胃袋をどんどん責め立てていく。

 

(別に嫌いな訳じゃないんだよ! ただ、『喜んで!』って言えるほど明確におまえのこと異性として意識してないだけで……すぐに返事が返せなかっただけで……!)

 

 パクパクと口を金魚のように開け閉めし、震える指で返信を行おうとするも、上手い言葉が中々出てこない。

 だが、先程の時点であれば未読状態であったため『昨日は気づかなかったんだ! ごめん』というノリで話を切り出せたかもしれないが、既読してあたふたすること既に十分以上たってしまっている。既読した上で返事を返さなければ、それこそ完膚なき拒否。誰も幸せになどなれはしない。

 

 混沌とした思考。

 揺れる指先。

 焦点の定まらぬ瞳。

 荒ぶるスワイプ画面。

 

 彼女は最早、平静とは程遠い状態に陥ってしまっていた。

 

「ふぉ、ふぉああああ!!」

『ちょっと一佳! 朝から叫んでどうしたの!?』

 

 閑静な住宅街の一角で、仄かに意識した恋心に悶える乙女の叫びが響き渡るのであった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

「熾念くん? ねえ、聞いて! 熾念くんね、体育祭の打ち上げ会って言って出かけて行っちゃった!」

「え……?」

「昨日あれだけ頑張って疲れてるのに、凄いよね。ね!」

 

 玄関の軒先にて、一佳に熾念が出かけたことを告げるのは、他でもない彼の義姉・ねじれであった。

 結局、どのようなメッセージを送ればいいのかまとまらなかった一佳は、大急ぎで着替え、昨日の逃走が誤解であったことを直接伝えるべく波動家に訪れたのであったが、本命の人物は既に外出しているときた。

 

「っくぅ~! 遅かったかぁ……!」

「ねえねえ一佳ちゃん、どうしたの? そんな慌てて。熾念くんとなにかあったの?」

「えと……その」

 

 まさか、『あなたの義弟に告白されました』と言えるはずもなく、もじもじと指先を突く一佳。

 しかし、息を切らしてまで彼の居所を尋ねた手前、なにも答えずおさらばということも難しい。

 

「ちょっと色々あって……」

「ふーん……あ、ねえ聞いて! 当てるから! たぶん、熾念くんが一佳ちゃんに告白したことについてでしょ! ね!」

「ええ!? な、なんで……」

「本人に聞いたから!」

 

 えっへんと手を腰に当てて一佳が尋ねた理由を当てて見せたねじれに、流石の一佳も驚きを隠せない。本人から聞いているとは思わなんだ。とすれば、すでに波動家では彼が自分にフラれたことが伝わっているのでは……。

 

(ご近所付き合いの破綻が……!)

 

―――しかしご安心を。ねじれがその件について知りえているのは、昨日凄まじく落ち込んで帰って来た熾念に、執拗に質問攻めして問いただしただけなのだ。波動家で通っている彼女の技『ねえねえラッシュ』からは、たとえ如何なる者であっても質問から逃れることはできない。

 

 そんな事情があるとはいざ知らず、拳藤は戦々恐々として慌てふためいた様子を見せる。

 

「えっと、そのことについては」

「一佳ちゃんもたぶん好きな人居るんだろうし、仕方ないよね。ね! でもてっきり、私熾念くんと一佳ちゃんとだったらお付き合いすると思ってたよー? 不思議!」

「あのう、そもそも……フッた訳じゃなくて!」

「ん?」

 

 このままでは話がこじれてしまうと危惧した拳藤が、かくかくしかじかと事の顛末をねじれに説明する。別に交際の申し出を拒否した訳ではなく、急な告白にビックリして混乱してしまったがために、勘違いさせるような真似をしてしまったということを。

 その結果……

 

「え? ねえねえ、じゃあ一佳ちゃんはやっぱり熾念くんのこと好きなの? だったら付き合っちゃいなよー。ね?」

「そ、それは好きか嫌いかの二択で言えばの話で……! そもそも異性として見てなかったアイツと急に……」

 

 軽いノリで交際を勧めるねじれに、手をバタバタと振って焦りを見せる一佳。

 このままの流れだと、確実にねじれによって半強制的に熾念と付き合うことになるだろう。それが良いか悪いかの問題は置いておき、互いの気持ちをはっきりと伝えないまま男女の仲となるのは、自分も向こうも不本意だろう。

 大切なことは、直接相手と向かい合って話し合いたい―――彼女はそう考えていた。

 

「でもね、ね! 高校のお付き合いってそんなに深く考えることじゃないと思うの。私の中学の友達の子はね、別に好きでもない男の子に告白されて、なんとなく付き合ったって子も居るし!」

「そんなに軽いモンなんですかね?」

「ねえねえ、雄英のヒーロー科が特別そういう機会に恵まれてないだけで、他のヒーロー科の高校では割と付き合ってる子たくさんだよ! そこまで好きじゃなくても、お付き合いしてから好きになるっていうケースもあるし、深く考えなくていいんじゃない? ね!」

「う~ん……」

 

 いつもの二割増しで迫ってくるねじれに、流石のB組委員長も折れ気味だ。

 というか、雰囲気的には自分と熾念が付き合うことについては姉公認と言ったところか。

 

 しかし、中学の青春のほとんどは受験勉強に費やした彼女の中では、恋愛がいまいちピントこない存在となっている。『あの人素敵!』や『こんな人が大好き!』などといった、趣向が明らかでないのだ。

 つまり、土台がしっかりしていない中で熾念と付き合うことを良しとするか、その判断さえもままならぬ状態の訳である。

 

 一方、熾念の中では好意を向ける相手の像が拳藤一佳という人間で固定され続けてきた訳で……

 

「うぅ……」

「ねえねえ! もしかして、あながち悪い気もしてない感じ!? ね!」

「そーいう訳じゃ……」

 

 茹蛸のように真っ赤に染まった頬を手で押さえる拳藤は、動悸が激しくなるのを感じ取りながら、目の前できらきらと瞳を輝かせているねじれを一瞥する。

 

「……相談乗ってもらって大丈夫ですか?」

「おっけー! やったー、女子会だー! 恋バナだー! ね! 楽しみだね!」

「楽しむ余裕はないんですけど……」

 

 熾念が居ない間、波動家では拳藤とねじれによる会議が執り行われたのであった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

「超声かけられたよ、来る途中!!」

「私もジロジロ見られて何か恥ずかしかった!」

「俺も!」

「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

「ドンマイ」

 

 振替休日明けの教室。窓の外は生憎の雨であるが、じめじめとした湿気に負けぬ溌剌さを抱くA組の面々は、体育祭における反響について語り合っていた。

 やはり全国生中継の影響は大きく、たった一日で有名人扱いになるようだ。

 

「……」

「どうした波動? めっちゃ静かだな。なんか不気味だぞ……」

「体育祭二位なんだから、お前もめちゃくちゃ声かけられたろ?」

 

 普段であれば、HR直前まで席を立って友人との談笑に時間を費やす男が、雨の日の陰鬱さに比例するかのように暗い様子に、切島と上鳴が訝し気に眉を潜めて熾念に声をかけた。

 しかし、返事がない。

 

「お、おい……」

「……スピー」

「寝てたのかよッ!」

「へぁ?」

 

 キレのいい上鳴のツッコミが入ったところで、器用に頬杖をついて寝ていた熾念が目を覚ます。

 

「Oh, sorry。ちょっと昨日寝れなくて……」

「体育祭もう終わったぞ? そんな遠足前の小学生じゃねえんだから」

「学校なんて毎日イベントみたいなもんさッ」

「どや顔で言うことじゃねえと思うんだ」

 

 何やら目の下に隈を作っている熾念に、切島が呆れた様子で寝不足の友人を労わる。まさしく彼こそA組の良心。

 

(Hmmm……幼馴染の連絡で眠れなかったなんて言えないなぁ)

 

 なにかと心配してくれる面々に、少々申し訳ない気分になる。

 そう、熾念が寝不足になった原因とは、ちょうど体育祭が終わった次の日―――一昨日だ。拳藤にフラれたものだとばかり考えていた熾念に、一つのメッセージが届いた。

 

『この前の告白についてさ、もうちょい考えていいか? できるだけ色好い返事したいと思ってるからさ』

 

 様々なイベントで枯れた体に潤いをもたらす一言に、熾念は心の中で歓喜の声を上げた。

 だが、その歓喜に打ち震えた所為で、返事を貰った二日後の今日も、寝不足で辛い目に遭っているのだ。馬鹿馬鹿しいと言われればその通りだろう。

 しかし、一縷の望みが在るというだけでこれだけ救われたのだ。拳藤様様である。

 

 弾む心により、ついそのことについて誰かに話したく気分にもなったが、住んでのところで口を押える熾念。

 

(皆に言ったら弄られそうだしな……)

 

 『彼女ができるかもしれない』と言ったら、主に峰田や上鳴を中心に騒ぎ立て、あっという間に情報は広がっていくだろう。それは熾念としても拳藤に迷惑をかけてしまうかもしれないので、本意ではない。

 故に、必死に滑りそうになる口を押える為の手段として、不足した睡眠時間を補給することを兼ねて自分の席で居眠りをしていたのだ。

 

 『大丈夫?』や『具合悪い』などと心配する女子面々にも罪悪感を覚える熾念は、うまい具合に流してHRの時を待つ。

 

―――彼は知らなかった。この時のツケの代償が、巡り巡って数か月後に自分の身に降りかかることを。

 

 それは兎も角、教室の扉を開けて緑谷と飯田が一緒に教室に入り、既に集まっていた面々に挨拶を交わして己の席に腰を掛ける。

 

 数十秒後、予鈴が鳴ると同時に、肌色を取り戻した相澤が教室に赴いてきた。

 ボサボサの髪と首の捕縛武器の合間から覗く肌色は、彼のUSJの際に負った傷が癒えた証。

 

「相澤先生包帯取れたのね、良かったわ」

「婆さんの処置が大ゲサなんだよ。んなもんより、今日の『ヒーロー情報学』ちょっと特別だぞ」

 

 刹那、相澤の言い放った『特別』という言葉に、一部の者達に不穏な空気が奔る。

 『ヒーロー情報学』とは、『ヒーロー基礎学』とは別に設けられている、ヒーローになる為に覚えておかねばならぬ法律などについて学ぶ授業だ。

 そんな授業で特別等というのだから、担任が『普段から予習復習してれば簡単だろ』と言い放ち抜き打ちテストを行ってもおかしくはない。彼はそういう男だ。

 

 しかし、待ち受けていたのは、死屍累々を見ることになるテストなどではなく―――

 

「『コードネーム』。ヒーロー名の考案だ」

『胸膨らむヤツきたああああ!!』

 

 生徒たちの歓声が、室内に木霊するほどの喜びの波となった。

 数秒後、“個性”を発動する素振りを見せた相澤の眼力に黙らせられたが。

 

 

 

 ☮

 

 

 

『コードネーム』……又は『ヒーローネーム』とも呼ぶ。

 ヒーローとして活動するに当たって、必須事項である存在。とどのつまり、ヒーローとしての己の名である訳なのだが、このヒーローネームを高らかに宣言できてこそ、プロのヒーローという部分もある。

 名は体を表すという言葉がある通り、自分がどのようなヒーローとして活動していくか、どのようなヒーローであるのかということを善良な市民のみならず、治安を乱す敵たちに示すことで、己の存在を社会に知らしめるのだ。

 

 そして、やがて功績が積もりに積もっていけば、ヒーローネームはどんな武器よりも鋭い矛になり、どんな防具よりも堅牢な盾にもなりえる。

 名乗った瞬間、悪に恐れ戦く市民は希望を見つけたように笑顔を咲かせ、敵は打ち崩せぬ牙城を目の前にしたかのように、戦意の下となる悪意を抑え付けられるのだ。

 

 やがてはトップヒーローに生り得る素質をもつ生徒たち。彼らがこの授業でヒーローネームを考案するのは、後々に予定されている職場体験に関係している。

 

 体育祭は、ヒーロー科にとってプロに己の素質を見てもらえる場。一方で、プロは目を付けた生徒にツバをつけられるようにと、一事務所につき二名に指名を出すことができる。

 

「んで、今年のがこれだ。例年はもっとバラけるんだが、上位二名に注目が偏った」

 

 相澤が黒板に映し出す棒グラフ。

 一番指名が多いのは轟、次点で熾念。この二名は四ケタの指名を受けており、数多くの事務所に見込みありと判断されているという訳だ。

 以降は爆豪、上鳴と続いていくが、上位二名より下は三ケタか二ケタのみだ。

 

「意外と少ないな、出久」

「んん……」

「あれだよ! 轟戦でボロボロになったのが悪印象だったんだよ!」

 

 意外そうに眉を顰める熾念に、緑谷は煮え切らない様子で指名の数を見る。峰田に揺さぶられながら確認した自分への指名数は、三ケタに及ばない。とても三位に上った男の指名数とは思えない。

 しかし、入れられる指名の限度が二票である以上、上位二名に指名が偏ることは致し方なく、尚且つ自身が負傷するほどのハイリスクな“個性”の者を、わざわざ相棒に抜擢したいと考える変わり者も多くない。わずかに入る指名も、中堅かそれ以下の事務所が『自分は君のことを見ているよ!』とアピールすることで、妥協という形で指名してきているように思えてしまう緑谷。

 

(でも、あるだけマシかな……)

 

 あれこれ詮索するよりも、向かった先の事務所でどのような糧を得られるか。

 今の緑谷にとって重要なのは、その一点であった。

 

 指名がある者達は、己の指名数に悲喜交々な様子を見せているが、一方で指名がゼロの者達もいる。そんな彼らにも救済措置として、かねてより雄英がオファーしていた事務所に職場体験へ迎える算段となっていた。これで一安心……と言いたいが、指名がなかった者の僻みはそれなりのようであり、特に三位の緑谷を押しのけ指名数上位に食い込んでいる上鳴に、凄まじい睨みを利かせていた耳郎。

 体育祭でアピールできなかった者の苦労も、それなりのようだ。

 

 そして、待望のヒーローネーム考案。

 査定にと、18禁ヒーローであるミッドナイトが、いつもどおり際どい戦闘服で教室にやって来た。

 

「さあ、発表形式よ! 出来た人からジャンジャン発表してって!」

「じゃ、アタシ行きまーす!」

 

 思わぬ発表形式に戸惑う雰囲気を切り抜け、可動式の角を揺らしながら教壇に立つ芦戸が、フリップを机にタンッと立てかけた。

 

「リドリーヒーロー『エイリアンクイーン』!!」

「2!! 血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときな!!」

「ちぇ~……」

 

 初っ端からのダメだしに、口をとがらせ席に戻る芦戸。

 

「敵っぽい見た目ヒーローランキング上位目指すならアリだよな、Huh? ギャングオルカとかもいる訳だし」

「うん、そうだね……」

 

 ヒーロービルボードチャートJPにおいては、一部ネタ枠のようなランキングも集計されたりもしている。その中で、人気の高いランキングが『敵っぽい見た目ヒーローランキング』だ。

 ヒーローであるのに、敵っぽい見た目とは如何に? と思うかもしれないが、見た目は正義の心とは関係ないことを如実に示し、尚且つそういった姿形を好む市民もいる訳だ。故に、このランキングは決して無視できるものでもなく、『寧ろこの路線で……』と狙っていっても良い存在だ。

 

 特に、そのランキング三位であるギャングオルカは、ギャングなのにヒーローというギャップ、そして兼ね備えている実力によって地位を確立している。無論、実際にギャングをやっている訳でもなく、見た目がギャングというだけであるのだから、芦戸のエイリアンクイーンというヒーローネームも、完全にダメという訳でもない。子供受けはよくないかもしれないが。

 

 その後も、蛙吹の『FROPPY(フロッピー)』や切島の『烈怒頼雄斗(レッドライオット)』などを始め、個々人のヒーローネームが発表されていく。

 

「考えてありました……『ウラビティ』」

「シャレてる!」

 

 ミッドナイトが絶賛する麗日のヒーローネーム『ウラビティ』。

 

「なるほど。重力って意味の『Gravity』からGを抜くことによって、“個性”が『無重力』であることを暗に示して、尚且つ麗日さんの苗字の麗と日を取り入れて、名前の茶もティの部分に入ってることで、『麗日お茶子』という人間のヒーローネームであることも示してる……なんて高度なヒーローネームなんだ!」

「惜しむべきは、結婚して苗字が変わったらそのシャレ加減が下がることだな、HAHA!」

「あの……詳しく解説せんといて」

 

 緑谷の詳しい解説に赤面する麗日。

 そんな彼女の横に佇むミッドナイトの眼光が、きらりと筆が止まっている熾念に目を付けた。

 

「波動くんも書き終わってるようだし、発表イく!?」

「Yeah!」

 

 指名されて席を立つ熾念は、『爆殺王』というヒーローに似つかわしくないコードネームを挙げて再考を喰らっている爆豪の横を通り過ぎ、教壇に立つ。

 

「俺のヒーローネームはこれだ! サイキックヒーロー……―――『Peace(ピース) Maker(メーカー)』!」

「『平和を創る者』……うん、シンプル且つヒーローの意気込みが見て取れるネーミングね! グッドよ!」

「あと、こっちのピースも作ってあげられるって意味で♪」

「フゥ! いいわね!」

 

 無邪気な笑顔でピースを作って見せる熾念に、ミッドナイトは甲高い声を上げてみせる。

 自身が考案したヒーローネームを誉められたことに意気揚々となって席に戻る熾念。次に飯田が『天哉』、緑谷『デク』と発表し、残るは爆豪のみとなった。

 

「爆殺卿ォ!!」

「違う、そうじゃない」

 

 頑なに『爆殺』と付けたい爆豪に、ゲンナリとした様子のミッドナイトが肩を落とす。

 

「『Bomber(ボマー)』とかでいいと思うんだけどなぁ、俺は」

「かっちゃんがダメ出し喰らってるのは、偏に『殺』って字を入れてるからだけどね……」

「出久もさ、『デク』ってヒーローネームだけど、意味なんて勝手に付けちゃえばいいのさっ。『Delete(デリート) Crime(クライム)』、略して『デク』! みたいな」

「ぶ、物騒……!」

 

「爆殺公ォオ!!!」

「そこじゃないの……!」

 

 他の者達が駄弁っている間、爆豪は数度の再考を経て、なんとかグレーゾーンにまで入ったヒーローネームに決まったと言う。

 


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