Peace Maker   作:柴猫侍

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№20 GO FIGHT!

「なあ、波動! おまえ、チアは好きか!?」

「……Huh?」

 

 人混みでごった返している食堂。切島や瀬呂、砂藤たちと共に昼食をとっていた熾念の下にやってきた峰田と上鳴が、突拍子もない質問を投げかけてきたのだ。

 

「チアって、チアリーダーのことか?」

「ああ! ほら、あんな感じの!」

「Wow! まあ、好きか嫌いかで言えば好きだな」

「そうか! イケる……イケるぞ、上鳴!」

「おう!」

 

 本場アメリカから、雄英体育祭に赴いてきているチアリーダーを見た熾念は、丈が短く、スラリとした肢体が惜しげもなく覗く衣装に、興奮したような声を上げた。

 だが、何やらしめしめと悪い顔をしている二人に、熾念のみならず会話を聞いていたA組男子の表情は訝しげにゆがめられる。

 

 この二人のことだ。ロクでもないことを考えているに違いない。

 

 そんなことを考えていると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、熾念の肩をガッと掴んだ。只ならぬ威圧感に、騎馬戦一位チームであった熾念でさえ萎縮する。

 

「頼む、波動! A組の女子によぉ、応援合戦するなりなんなりって言い包めて、チアの衣装着るよう言ってくれ!!」

「……俺がか? Why?」

「俺達じゃあ女子たちからの警戒心が強いんだよ!」

 

 熱く語る上鳴。

 

 彼曰く、自分たちでは普段の軽薄な振る舞いから、それっぽい嘘を吐いてもバレる可能性がある。そこで他の男子たちに頼もうと考えたのだが、色々と問題があったのだ。

 飯田はその真面目さゆえに、『嘘を吐いて言い包めるなど言語道断!』と取り合ってはくれない。障子や尾白辺りも、興味がなさそうである。口田はまず無口で尚且つシャイなため、女子たちに面と向かって嘘を吐くなどできそうにない。

 常闇なども『下らん……』と言うに決まっているし、緑谷や爆豪、轟辺りはこういったノリに乗らない可能性が非常に高いのだ。

 切島は、ガチガチの硬派で男気を重んじる為に嘘が苦手そう。砂藤も、嘘を吐くときに挙動不審に陥る可能性が高い。瀬呂も同様。

 

 と、ここまで消去法で消していった時、最も今回の『女子にチアを着させよう』作戦を行うのに際し適任であるのが、程よく女子と距離を保ちつつ、普段からのノリの良さで作戦に賛同してくれそうな男―――熾念であったと言う訳だ。

 

「頼む~~! 挨拶代わりにほっぺにキスしそうなおまえのノリだったら出来るだろ~~!」

「チークキスはヨーロッパな。Hey, 実は俺にどんなイメージを抱いてるんだ?」

 

 人を何だと思っているだ、と言わんばかりの表情で、喚き散らす峰田を見下ろす熾念。

 

「そりゃあ毎日毎日、あのキレーな姉ちゃんと会うたび挨拶にハグしてるイメージをだな……っておい! 掌をこっちに向けるなぁ!」

 

 事実とかけ離れたイメージを抱かれていたことに憤慨し、フライドポテトを食べたばかりで油がギトギトの掌を峰田に近付ける熾念。

 ねじれとのコミュニケーションを図る際、熾念側からハグすることは滅多にない。つまり、向こう側から悪戯代わりにハグされる機会は結構あるのだが……

 

「悪ィ、波動。俺もそんな感じのイメージ持ってるわ!」

「俺もだ。仲が良くなったら、オールマイトみたいにHAHAHAって笑いながらハグされるもんだと……」

「実際問題、俺はオメーが何時クラスの女子に抱き着くかと、ハラハラしてるぜ」

「俺もだ」

 

 しかし、本人が自身へ抱くイメージなど、客観的なイメージと乖離していることなど少なくない。

 上鳴、切島、瀬呂、砂藤と続けざまに同じようなイメージを持たれていた事実に、熾念は驚きを隠せない様子で口をあんぐり開ける。どうにも彼等は、英語を会話に多用する熾念にアメリカンな印象を抱き、アメリカ=スキンシップが激しいという勝手な方程式を組み立て、今迄接していたようだ。

 

「……Really?」

「「「「「リアリィ」」」」」

 

 五人の声が重なって響いてくる。ネイティヴな発音な熾念と比べるとちぐはぐな発音だが、それでも十分彼等の想いは伝わってきた。

 

「とにかくだ! 年に一回! 卒業までに三回しかないこのチャンス……いや、チアリーダーは今年しか来ないかもしれねえ!そんなチャンスに、オイラはクラスメートの晴れ姿を見てえんだ!」

「下心丸出しだけどな!」

 

 得も言えない表情で呆けていた熾念であったが、再び熱く語り始めた峰田と上鳴を前にして我に返った。

 

「想像してみろ! 八百万のはち切れんばかりのヤオヨロッパイ! 芦戸のエロい腰つき! 葉隠のガードの緩さゆえのパンチラ! 麗日のうららかボディに、蛙吹の意外おっぱい!」

「響香ちゃんは?」

「引きしまった太腿!」

「おぉ……」

 

 一瞬、貧乳の耳郎がハブられたのかと思った熾念であったが、峰田のレスポンスは異常に早かった。普段は『チッパイ』と口にしている癖に、見るところはしっかり見ているのが彼―――峰田実という男だ。

 余りの白熱した様子に、上鳴以外の話を聞いていた男子四名は全員漏れなく引いた顔をしている。

 だが、レベルの高いクラスメートのチア姿を想像した途端、案外悪い気もしないかのように頬を赤らめさせた。

 

「Hmmm……」

「なあ、頼むよォ。一生のお願いだ」

「……っよし! 折角のお祭りだし、そんくらいはっちゃけても怒られないだろ!」

「と、いうことは!?」

「ちょっくら女子の皆の所に行ってくるぜ!」

「「波動ォ!!」」

 

 悪戯っ子のような笑みを見せて重い腰を上げた希望の綱の姿に、峰田と上鳴は歓喜の声を上げる。

 そう、彼はパリピの気があった。お祭り男なのだ。賑わっている場所が大好きで、常にノリよく楽しく過ごしたいというスタンスをとっている。この体育祭も例外ではない。

 

 女子がチアリーダーの姿になって会場が大いに盛り上がるのであれば、とことん祭りを楽しみたい熾念は、努力も労力を厭わない。故に、当たって砕けろの精神で、女子一同の下へ駆け足で向かっていく。

 

 提案してきた二名のみならず、横で会話を聞いていた他の者達も『もしや』と期待を抱きながら、遠目から熾念と女子たちの話しあう光景を見遣った。

 

「おぉ、いきなり八百万から攻めていきやがった!」

「副委員長だからな……あの一角を攻め落とせば、他の女子たちも賛同するだろうな!」

「いや、なんの実況だよ」

 

 鼻息を荒くする性欲の権化とスパーキングキリングボーイの横で、冷静な様子の切島がツッコミを飛ばす。

 

「あぁ! やっぱしガード固ぇか!」

「くそゥ! ここは一先ず、ノリのよさそうな芦戸とか葉隠から攻め落とすべきなんじゃねえか!?」

 

 会話の内容までは聞こえない。

 熾念と八百万が話し合い、それを横で他の女子たちが耳を傾けているという状況。人混みの間を縫って辛うじて様子が窺える中、浮かない顔をした八百万の顔がやけにハッキリ見えた。

 その後も話し合う二人。彼等の間近に座っている耳郎や麗日は、顔を赤らめて首を横に振っている。

 

 少しおかしい。峰田と上鳴は、一つの可能性を懸念した。

 

「まさかアイツ、真正面から『チアの衣装着てくれ』って言ってんじゃねえだろうな……?」

「おい! それじゃあ波動に行かせた意味ねえだろ!」

 

 咆える上鳴。

 当初考えていた案は、『午後に女子は応援合戦をしなければならない』と、まるで相澤からの言伝であるかのように偽ることで、彼女たちにチア衣装を着させるつもりだったのだ。

 確かに真正面から突破したのであれば、後々温厚に済むだろう。

 しかし、峰田たちにとっては後のいざこざよりも、今のチア姿。恥じらう女子共の姿を心のフォトフレームに取り残しておきたかったのだ。

 

「くぅ……こうなったらなんでもいい! 兎に角、チアコス着るように説得してくれぇ……!」

「頼んだぞ……俺達の希望をぉ……!」

「いや、九割方お前ら二人だけの希望だろ」

 

 ここでも冷静な切島が、午後の最終種目へ向けてスタミナを着ける為に、カツ丼のカツを頬張る。

 

 一日千秋の想いで、熾念が女子たちの快い了承を得て帰ってくることを夢見る男二匹。

 

 熾念が説得しに行って約五分。未だ話がまとまっていない光景に、これはもう諦めるしかないのかという不安が男子たちに広まってきた時だ。

 

 思わぬ助け舟が、エロスを求める男共に寄りかかってきた―――。

 

 

 

 ☮

 

 

 

『最終種目発表の前に、予選落ちした皆へ朗報だ! あくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!』

 

 昼休憩終了後、昼食を取った生徒たちがぞろぞろと会場内に入場している間にも、プレゼント・マイクの大声量の実況が空に轟く。

 変わらず天気は快晴。雨が降る様子もなく、まさに体育祭日和・観戦日和・応援日和の完璧なコンディションである。

 

『本場アメリカからチアリーダーも呼んで、一層盛り上げ……ん? アリャ?』

『なーにやってんだ……?』

『どーした、A&B組!!? どんなサービスだ、そりゃ!』

 

 プレゼント・マイクが頓狂な声を上げ、相澤が呆れた声を漏らした原因は、今まさに会場に入ってきたヒーロー科の女子たちの恰好であった。

 

 オレンジを基調とした裾の短いヘソだし衣装。少し屈んでから見上げれば、秘所が見えてしまいそうなほど丈の短いスカート。両手には、チアリーダーの象徴とも言うべきポンポンが握られている。

 

「Toot♪ So cute!」

 

 恥じらう女子たちに向け、満面の笑みで口笛を鳴らし賞賛の言葉を送る熾念。彼の後ろでは、衣装の強烈なインパクトに顔を上気させている男子も多々居り、中には不自然に足を交差させる者も……。

 

「たははッ……やっぱしハズいな、これ」

「ああ、このような大衆の前で徒に肢体を晒し出すのは矢張り……」

「無理しなくてよかったんだぞ、塩崎?」

「いえ、クラスの皆がやるからには、私もやらなければ……」

 

 頬を赤らめる拳藤と塩崎。A組のみならず、B組の女子も全員がチアの衣装を着ている理由は、昼休憩に遡る。

 

 それは熾念が何とかA組にチアの衣装を着るように懇願している時であった。

 峰田たちが懸念していた通り、真正面から『体育祭を盛り上げたいから、チアリーダーやってくれないか?』と頼まれた八百万たちは、酷く困惑した様子で決断を出せずに居た。

 一部の者は羞恥から反対し、また一方では『いいじゃん、やったろ!?』とノリノリとなり、残りの者達は『皆がやるなら……』と渋る。六人居るA組女子は、それぞれ二名ずつ―――均等に勢力が分かれてしまったのだ。三大勢力は互いに意見を譲ることはなく、時間だけがただ過ぎていく……。

 

 そこへやって来たのは、昼食を終えた拳藤を筆頭とするB組女子数名と、B組随一の煽り上手である物間寧人であった。

 熾念と幼馴染であるが故、真面目に彼の提案について拳藤が耳を傾けていれば、物間が下種な笑みを浮かべる。

 そして、こう口走った。

 

『チアリーダーの衣装着るなら流れで応援するんでしょ? だったら、A組とB組の女子でどっちがより会場を盛り上げられるか、応援合戦しようよ! あッ、でも着る段階で恥ずかしがって着れないなら、B組の不戦勝か! まあ、正々堂々やってもどうせB組が勝つだろうけどねッ!』

 

―――いや、お前女子じゃねえのに何言ってんだ?

 

 初めて、A・B組の女子たち全員の心が通い合った時であった。

 その後、拳藤の手刀で一瞬の内に意識を刈り取られた物間を置いて、両組の女子たちは合議を開始するに至る。

 物間の煽りで、若干A組の心の中に『そこまで言われたら着るしかなかろう』という感情が生まれ始め、畳み掛けるようにして熾念が両手を合わせてB組の長である拳藤に頼みこむ。

 

 結果、B組女子が『どうせこれからヒマだから、着てもいいよ』となり、A組は『B組が着るなら……』とチア衣装を着る勢力が過半数を超えたことにより、現在のように初心な男子には見るのも憚られる衣装を着ることとなったのだ。

 衣装は全て八百万の“個性”で製造。プライスゼロだ。

 プライスゼロでこの光景。生徒のみならず、観戦に来ていた男たちのボルテージも最高潮に達する。

 

「ひゅ―――! いいぞ!」

「カワイイ、ヒーロー科カワイイよ!」

「ブハッ! 似合ってるぞぉー、もっとやれー!」

『リスナーからも好評のチア姿!! 将来ヒーローコス着るんだから、そのくらいの衣装は着れなきゃな!! それを抜いてもカワイイぜぇ―――!』

『さっさと進めろ』

 

 湧き上がる歓声にプレゼント・マイクの舌も良く回るが、合理性を求める相澤がドスの効いた声でプログラムの進行を促す。

 ここで断れば末代まで呪われそうなミイラ男の催促を受け、渋々進行に戻るプレゼント・マイクは、気を取り直してハイテンションな声を上げる。

 

『さァさァ、皆楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目、進出4チーム、総勢16名からなるトーナメント形式!! 一対一のガチバトルだ!!』

 

 今年の最終種目は、シンプルな“個性”を用いてのガチバトル。

 例年、形式こそ違えど、サシで競うことがほとんどの雄英体育祭だ。己の力のみを信じて勝ち進み、その手で優勝を掴みとる。これほどシンプルで心を奮い立たせる熱い展開はないだろう。

 

「……去年のチャンバラやりたかったなぁ」

「ガキか」

 

 切実な熾念の呟きに、すかさず拳藤がツッコむ。

 

「男っつー生き物は長い棒を振り回すのが大好きでなぁ―――」

「そろそろしつこいわ、峰田ちゃん」

 

 去年の最終種目であったスポーツチャンバラのことを思い出し、拳を握りながら語る峰田であったが、蛙吹の一撃を頬に喰らって沈黙した。

 

 閑話休題。

 

 トーナメントの組み合わせはくじ引きで決め、組が決まり次第レクリエーションを挟んで開始になる。ただし、進出者に関してはレクリエーションへの参加は各々の判断に任せると、主審のミッドナイトは口にする。

 息抜きしたい者も体力を温存したい者も居る事を鑑みれば、妥当な判断であろう。

 

 軽い説明も終え、いざくじ引き! と皆が動こうとした時、一人の男子生徒が徐に手を上げた。

 

「俺……辞退します」

「尾白くん! なんで……!?」

 

 尾白の突然の挙手からの事態宣言に、生徒たちの間にどよめきが奔る。

 最終種目のトーナメントは、予選とは違い各々の戦闘のセンスをプロヒーローに見てもらえる場。ヒーローを志す者であれば、最終種目への出場権は喉から手が出るほどに欲しい権限であるが、それをフイにしようとする尾白の発言にどよめきが奔るのは当然とも言える反応だろう。

 

 当人曰く、騎馬戦が始まってから終盤までの記憶がすっぽりと抜けているようであり、自分でも訳が分からず狼狽えている間に勝ち抜いたのだが、他の者達が全力を出して競った場で、自分だけ訳も分からず出場するにはいかないとのことだ。

 彼の発言に、A組の者達を中心に『気にすることはない』や『本選で結果を出せばいい』との擁護が飛ぶが、涙ながらに己のプライドがそれを許さないと尾白は語る。

 

 不穏な空気が流れ始めた頃、同様の理由で棄権したいと口にする者が現れた。

 

「実力如何以前に……何もしてない者が上がるのは、この体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか!」

 

 拳を握り語るのは、B組男子の庄田(しょうだ)二連撃(にれんげき)だ。

 

「なんか……妙なことになってきちゃったね……」

「Huh。本人の意見は尊重すべきだろうけど、ここはミッドナイト先生次第だろ」

 

 悔し涙を流す尾白を見て何とも言えない表情になる緑谷に、口を尖らせて熾念は主審に目を遣る。

 するとミッドナイトは、神妙な面持ちのまま武器である鞭を構え―――

 

「そういう青臭い話はさァ……好み!!! 庄田、尾白の棄権を認めます!」

 

 ピッシャァン! と乾いた破裂音を響かせ、二人の棄権を認めた。

 

(好みで決めた……!)

 

 18禁ヒーローであるにも拘わらず、青臭いのが好みだというのは如何に、という疑問が生徒たちの間に走っていくが、主審の采配にどうこう言える立場でも、わざわざ強く止める理由もない為、申し出た二名の生徒の意思を尊重するに至るのであった。

 

「なんだか話が拗れてきていますが、私は棄権せずに出させてもらいますふふフフフ」

 

 無論、出たい者はそのまま出る。

 心操チームであったサポート科の発目(はつめ)(めい)という女子生徒は、棄権することなく出場する旨を公言した。

 

 そして、棄権した二名の代わりに出る者達は? という問題が同時に浮上する。

 本来、こういった場合には繰り上がりが適用されるのであるが、騎馬戦では終盤に緑谷チームが根こそぎPを奪った為、5位以下はすべて0Pであったのだ。

 

「ん~、じゃあ終盤までP保持していた鉄哲チームを繰り上がりとします!」

「いいんスかぁ!!?」

「ウフフ、体育祭の趣旨に鑑みての采配よ! なんなら、周りのみんなに聞いてみる?」

 

 ミッドナイトの言葉に肩を跳ねさせ、歓喜と戸惑いの混じった声を上げる鉄哲。同様に、鉄哲とチームを組んでいた塩崎、骨抜(ほねぬき)柔造(じゅうぞう)泡瀬(あわせ)洋雪(ようせつ)も最終種目への抜擢に、複雑な感情を表情に浮かべる。

 

 本当に自分たちでいいのだろうか?

 

 そう問いかけるかのような不安を浮かべた表情で周りを見渡した四人に、クラスメートであるB組を含め、ほとんどの者達が異論はないと言わんばかりの微笑みで彼等を見遣った。

 

「お……おめェらぁ……!」

 

 温かい視線に思わず涙を流す鉄哲。

 その後、四人の話し合いにより、出場する二名は鉄哲と塩崎の二名に決定した。

 

 漸く最終種目に出る16名が決まった所で、再開されたくじ引きは恙なく進み、スタジアムにデカデカと設置されているモニターに、トーナメント表が映し出される。

 

 

 

 第一試合 緑谷VS飯田

 第二試合 心操VS鉄哲

 第三試合 蛙吹VS轟

 第四試合 瀬呂VS発目

 第五試合 芦戸VS塩崎

 第六試合 波動VS八百万

 第七試合 上鳴VS爆豪

 第八試合 麗日VS切島

 

 

 

 気になる一回戦の対戦票が発表されたことにより、各々が十人十色な反応を見せていく。

 中でも顕著であったのが、第一試合を飾る緑谷と飯田の組であった。

 

「緑谷くん」

「い、飯田くん! えっと、初戦はよろし……」

「君に、一つだけ言いたいことがあるんだ」

「へ……?」

 

 挙動不審になる緑谷に対し、飯田は至って真剣な雰囲気を漂わせて言葉を続ける。

 

「入試の時以来、君には負けたり驚かせられてばかりだ。だから俺は……一人の親しい友人であると同時に、一人のライバルとして君の前に立ち塞がるつもりだ」

「飯田くん……」

 

 学校に居る間、仲睦まじく共に過ごすことが多い二人。

 そんな飯田の宣戦布告に、緑谷の表情も曇り、険しいものへと変わっていく。自然と、肌がひりつくように陽の光を熱いと感じてしまった。首筋を滴る汗が、牙を当てられた獲物であるかのような悪寒を錯覚させる。

 踵を返し、緑谷の下から去っていく飯田。彼の背中には、毘沙門天を思わせるような闘志が宿っているように、緑谷の瞳に映る。

 

 そして、緑谷の感覚に違うことなく、飯田は去り際に宣戦布告するのであった。

 

 

 

「俺は、君に挑戦する!」

 

 

 

 熱風のように、焼ける温度の風に煽られた髪が、心中を表すかのようにザワザワと揺れる。

 

「なーにしけた顔してるんだ、出久?」

「うわっ!? 波動くん」

 

 しかし、そんな雰囲気をぶち壊すかのように明るい声を上げながら、緑谷の首に腕を回す熾念。

 昼休みにアメリカンなノリを指摘された熾念は、いっそのこと振り切ってみようという考えが頭に浮かんでいる為、いつも以上にスキンシップが激しいのだ。故に、ノリに付いていけていない緑谷は何事かとあたふたするだけだ。

 

「お祭りだぜ? もっと楽しまなきゃ損だろ!」

「そうかな……?」

「そーいうモンさッ!」

「は……ははッ……」

 

 ピースを右手で作る熾念は、そのまま人差し指と中指を緑谷の口角に当て、グイグイ釣り上げて笑顔を作ってみせる。

 余りのスキンシップの激しさに、緑谷の浮かべる笑みは苦笑でしかないが、それでも熾念は首に腕を掛け続け、こう呟いた。

 

「……背負(しょ)い込み過ぎはPunkするぞ?」

「え……?」

「昼休憩終わってから、なーんか暗い顔してるからな。また勝己になんか言われたか?」

「いや、違うよ!? なんでもかんでもかっちゃんが原因とは限らな、い……」

「煮え切らないなー、Huh」

 

 昼休憩以来、無意識の内に陰鬱とした表情が顔に出てしまっていたことに、緑谷はハッとする。

 指摘されたことは、緑谷が案じていた件とは外れていた事であった為、なんとか誤魔化すことは出来たものの、爆豪への風評被害は出てしまったかもしれない。

 

(轟くん……)

 

 緑谷が視線を向ける先には、トーナメントに向けて集中するべく颯爽と会場から去っていく轟が居る。

 

「出久、どうかしたのか?」

「あ、ううん! なんでもないよ! 波動くんはレクリエーション出るの?」

「Yeah! 折角だし、楽しみたいからな!」

 

 レクリエーションへ向けての意気込みを語る姿は溌剌としていて、見る者を自然と笑顔にするような雰囲気を発している。

 どことなく、いつも満面の笑みを浮かべるオールマイトと重なる面影に、緑谷も自分も笑わなければとイケない気になってしまう。

 

(そうだ、僕はオールマイトみたいに……―――)

 

 各々の情景。

 奇しくも、目標とする人物が同じ少年たちは、決戦の時へ向けて各々の時間を過ごしていく。

 

 神経を研ぎ澄ます者。

 

 緊張を解きほぐそうとする者。

 

 それぞれの思いを胸に―――時はすぐにやって来る。

 





【挿絵表示】

↑割とノリノリでチアやってる塩崎(ポニテ)
……これを描いて思ったのは、堀越耕平先生が仰っていたように、塩崎さんの髪がヤバいということです。
B組全員のチア姿が描けたらなーと思っています。




オマケ(レクリエーション)

借り物競争にて…
拳『んー…やっぱりチアコスは恥ずいな……』
小『ん』
塩『ですが、私たちの応援で多くの方々の励みになるのであれば、このくらいの羞恥……』

熾『一佳~~~!』

拳『うん? なんかこっち走って来てるな』
小『ん』
熾『Come on!』
拳『は!? 急に手ェ引いてなんだよ!?』
熾『借り物がチアリーダー!』
拳『いや、私衣装着てるだけで、チアリーダーっていう訳じゃ―――』
熾『Hurry Hurry!』

塩『……行ってしまわれましたね』
小『ん』
柳『拳藤に一直線だったな』
小『ん』
角『あの方ァ、拳藤サンの幼馴染と言ウ方ですカネェ?』
小『ん』
取『お、これはまさか~、脈ありパターン!?』
小『ん~……』

 こんなことがありました。

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