Peace Maker   作:柴猫侍

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№2 二人三脚

 とある家庭のリビングにおいて、現在神妙な空気が流れていた。

 向かい合う少年と少女。共に淡藤色の髪を靡かせる姿から、血縁関係があることは容易に想像することができるだろう。

 

「それでねェー、ねえねえ聞いてー熾念くん。今日、合同授業があったんだよー」

So(それで)?」

「それでね、今日暑かったしたくさん汗搔いたの! それでね、聞いて! お母さん居なかったから、食べ物がなかったの」

「So?」

「お風呂上りに暑いなーって思って冷蔵庫探してたらね、美味しそうなバニラアイス見つけたの! ねえ、それでね、冷蔵庫にソーダもあったから、ソーダフロートにして食べたんだよ!」

「So?」

「熾念くんが楽しみにしてとっておいたアイス食べてゴメンねー」

Guilty(有罪)

 

 淡々と相槌を打っていた熾念は徐に立ち上がり、満面の笑みでお腹を擦る少女の両頬を抓って引っ張る。

 

ひへんふーん(熾念くーん)ひはいほー(痛いよー)

「Hey ねえちゃん。ねえねえ、ねえちゃん聞いて? そろそろ、俺が買い溜めたお菓子とかを勝手に食べるの止めてくれない?」

ほへんははーひ(ごめんなさーい)

「そう言って何回食べた? 今月入って五回だぜ? 聞いてる? ねえねえ聞いてる?」

ふぇーふぇー(ねえねえ)ひひへー(聞いてー)ひゃへひふはいほー(喋り辛いよー)

 

 ムニムニと『ねえちゃん』の頬を引っ張っては放し、引っ張っては話を続ける熾念。

 あう~っと制裁にうめき声を上げている彼女こそ、熾念の義姉―――正確には従姉だが―――『波動ねじれ』だ。

 彼の有名な雄英高校二年生であり、周りからは将来有望と称されている自慢の義姉……なのだが、如何せん私生活で残念な面が目立つ。

 

 一見、太腿まで伸ばした豊かな淡藤色の髪の髪を靡かせ、尚且つグラマラスな体形をしている美少女なのだが、内面の方に問題がある。

 

 幼児に勝るとも劣らない好奇心。

 秋空の如く、興味を向けた対象からまた別の対象へ向ける移り気な態度。

 相手の応答が返ってくる前に勝手に喋り始めるマイペースさ。

 

 幼稚園児がそのまま高校生になったような存在―――それが彼女だ。

 何故、熾念が彼女のことを『ねえちゃん』と呼ぶかと問われれば、それはねじれの口癖が『ねえ』だからである。

 傍目からすれば『姉』の方の『ねえ』と思いがちだが、あくまで問いかけの『ねえ』の方を愛称に用いていた。

 

 だからなんだという話であるが。

 

 もっちりほっぺたを暫しムニムニと引っ張った後は、楽しみにしていたアイスの喪失について溜め息を吐き、残念そうに肩を落として席に座る。

 

「ねえねえ、それは兎も角さァー。聞いてよー、熾念くん」

「Huh?」

「熾念くん雄英目指してるんだよねー? ねえねえ、筆記の方は大丈夫なの?」

 

 ねじれの言葉にハッとした熾念は、おずおずとした様子で模試判定の紙をカバンから取り出して手渡した。

 

「フムゥー……ねえ熾念くん、あんなに発音良く英語話してるのに、英語あんまりできてないんだね! 不思議!」

「HAHAHA! アクセント以外そんなにできてない感じさっ」

「威張って言えることじゃないよねー。熾念くんは数学と理科が得意だし……ねえねえ、社会は暗記だから大丈夫だとして、国語と英語は頑張んなきゃだめだよー。ねえ、聞いてるー?」

「……OK」

 

 的確に指摘され、先程のアイスの件よりも肩を落とす熾念。一重に、純粋無垢の100点スマイルで毒を吐かれたからだろう。

 彼はネイティブに勝るとも劣らない英語の発音ができるが、実際に問題を解くとなると、さほどできないという不思議な現象が起こるのだ。

 と、言うよりも文系科目が苦手なだけであるが。

 

 それに比べてねじれは、このような喋り方ではあるものの頭脳明晰。でなければ、雄英高校に入ることなど叶わないのだから。

 

「成績があれだったらー、士傑とか傑物学園とかもいいと思うけどさァー。ねえねえ、どう?」

「No! 雄英がいいっ」

「やっぱりー? ねえ、熾念くんオールマイトの大ファンだもんねー。ねえねえ、でも今の成績じゃ絶対落ちるよー?」

Ugh(うっ)……!」

 

 はっきり告げられる事実に引き攣った笑みを浮かべる。

 ここまで雄英に固執するのは、№1ヒーロー『オールマイト』の母校が雄英だからだ。

 

―――Symbol of Peace(平和の象徴) オールマイト

 

 颯爽とヒーロー界に現れ、その実力で不動の人気を博し、今や誰もが憧れるヒーローの一人。

 彼の母校で学ぶこと―――同じ学び舎に通うというだけでも、ヒーローになるという夢へのモチベーションを最高潮に維持できるというものだ。因みに、熾念の口調が英語交じりなのは、熱烈なオールマイトへのリスペクトに起因する。

 並々ならぬ想いをオールマイトに抱く熾念は、自身の勉強のできなさに頭を抱えた。

 

「これから勉強三昧だねー」

「……Hey、ねえちゃん。勉強教えてくれ」

「えー? ねえ聞いて、二年は仮免取得とか校外活動(ヒーローインターン)とかたくさんイベントあって忙しいから、私があれこれ教えるより熾念くん一人に頑張って欲しいの。ねえねえ、参考書はとっておいてあるけど、それなら貸すよー? 使う?」

「Yes」

「じゃあさァー、参考書の代わりに今まで食べちゃった分をチャラにしてねー! これってWin-Winの名案だと思うの!」

「Oh, my god!」

 

 無垢な顔してやってくれる。

 まんまと嵌められた熾念は、bonkと額をテーブルに打ち付けた。今までの分の被害額をチャラにするとなると、一番偉い人が描かれている札一枚分の金が吹き飛ぶと同義。

 

 アイスとソーダが好きな熾念。夏でも冬でもキンキンに冷やしたそれらを楽しみに家に帰るのだが、いつも一歩先にねじれに食され、何度涙を流したことか。何度ソーダフロートにされて食されたことか。何度食後のペ○ちゃんスマイルを見たことか。

 いつかはその代償を払ってもらおうとは思っていたが、まさかこのような形で持ちかけられるとは思わなんだ。

 

 泣く泣く了承した熾念は、翼を生やして天国へ羽ばたいていく一万円札を幻視しつつ、『絶対に合格してやろう』という気概を抱く。亡きアイスたちの為……。

 

「ねえねえ聞いて、熾念くん。そんなに落ち込まないでよー。差し入れにアイス買ってきてあげるから」

「Yeah! ねえちゃん、大好きだぜっ!」

「あ、聞いて熾念くん! そういうの、単純って言うんだって、ね!」

 

―――因みに、彼等は自他ともに認める仲良しだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 次の日、まだ日も昇り切らず、残った冬の寒さを身に染みて感じることのできる午前四時半。肌寒い風が吹き荒べば、路上に舞い落ちている桜の花弁がフワリと浮かび上がる。

 そのような中、軽快な足取りでランニングに勤しんでいるのは他でもない。

 

「はっ……はっ……」

 

 動きやすそうな青いジャージを着こむ熾念は、日課であるランニング中だ。

 体作りの為、小学校高学年になってから続けているランニングのお蔭で、足の筋肉はそれなりに引き締まっている。

 

 全てはヒーローになる為。

 

 その第一ステップとして雄英入学があるのだが、ねじれ曰く、実技試験はスタミナが命とのこと。

 

 ヒーローとは、事件・事故・天災・人災といったあらゆるトラブルから人々を救いだすことを生業とする者。

 彼等に必要とされる能力は多岐に渡る。

 

 状況をいち早く整理するための『情報力』

 

 どのような状況でも冷静で居られるための『判断力』

 

 直ぐに現場に駆けつけるための『機動力』

 

 凶悪な敵に敗北せぬための純然な『戦闘力』

 

 急造チームアップされた他事務所のヒーローと連携を取り得るための『コミュニケーション能力』

 

 人々を引き寄せるヒーローとしての『魅力』

 

 その他にも『統率力』等必要な能力は様々だが、ランニングによって鍛えられるのは、機動力と戦闘力の基礎だ。

 体作りは増強系、発動系、異形系のどれにおいても大切。少しでも怠れば、全国のヒーローを夢見るライバルたちにおいていかれるというものである。

 このヒーロー飽和社会―――他を出しぬきたいのであれば、とことん自分にストイックではなければいけない。熾念については、勉強がいまいちだが。

 

(眠ィ……)

 

 そして日々勉強を怠ったのが、今を祟っている。

 昨日、深夜まで勉強に励んでいた熾念は、爽やかとは程遠い表情だ。

 

「うわッ、ひどい顔だな」

「Ah?」

「おはよーさん、熾念」

「……Good morning」

 

 熾念とは対照的に、溌剌とした声色で挨拶をしてくる一佳が、これまたスポーツに適したジャージを着こみ、路上で足踏みをしていた。

 彼女もまた雄英のヒーロー科志望。体作りの為に鍛えているのだろう。

 その途中で偶然熾念を見つけ、挨拶をしてきた次第といったところか。

 

 額に滲む汗を袖で拭う一佳であるが、その際にフワリと柔軟剤の香りと共に、女性特有の優しい花のような香りも漂ってくる。

 

「……腹減った」

 

 その結果、熾念の食欲が刺激された。

 

「いや、私を見ながら言うなよ。言っとくけど、今財布持ってないからな?」

「持ってたらなんか奢ってくれるのか?」

「奢らないよ。そんなに腹減ってるなら、出てくる前に食っとけばいいのに……」

 

 呆れたような息遣いの一佳は、そのまま空腹でげんなりとしながら走っている熾念の隣に並ぶようにして、ランニングを共にし始めた。

 

 暫し、軽快な足音と遠くの方から車が走る音のみが響く。

 

 一緒に走るのは兎も角、特別なにか用があって来た訳でもない為、会話が全然と言ってもいい程続かない。

 ランニング中なのだからと言ってしまえばそれだけだが、わざわざこうして並走しているにも拘わらずとなると、かなり気まずいことは想像に難くないだろう。

 

 元を辿ればこの微妙な空気は自分にある。そう考えている一佳は早朝の回らない頭で解決策を思い浮かべようとする。

 

(なにか話題は……あ、そうだ)

 

「熾念が習ってる足技なんだっけ? カポーエラ?」

「カポエイラ」

 

 カポエイラとは、ブラジル発祥の格闘術のようなものだ。

 

「あ、そうそうカポエイラ。なんで習い始めたんだ?」

「Huh……なんでって言われてもなぁ。なんでそんなこと聞くんだよ?」

「だってさ、ほら。おまえの“個性”があったらわざわざインファイトで戦わなくてもいいじゃん」

I see(なるほど)

 

 熾念の個性“念動力”は、傍から見れば万能。瓦礫を浮かせるなどして災害救助にも役立つ。そしてヒーローの華ともいえる戦闘面では、相手に何もさせずして圧倒することも可能だ。相手を直接浮かせたり、瓦礫を用いて攻撃したりなど。

 そのような“個性”を持つ彼が格闘技を習う理由が、一佳には思い当たらなかった。

 彼女自身は手が大きくなるという“個性”から、ある程度の格闘技は身に着けているだが、それはある面『仕方がない』という想いが強い。

 

 №1ヒーロー『オールマイト』のような規格外れの超パワーならいざ知らず、フレイムヒーロー『エンデヴァー』のような遠距離攻撃を持たない者は、それなりに近接戦闘についての心得ていなければならない面がある。

 

 一方、熾念は『エンデヴァー』のように遠距離攻撃を用いることができる“個性”だ。無理に近接戦闘に持ち込まなくとも、敵との戦闘は滞りなく勝利を掴めそうだが―――。

 

「アレだよ、アレ。俺の“個性”、使い過ぎたら鼻血とかさ……ほら」

「あぁ……」

 

 そこで一佳は、ある場面を思い出しながら血の気の引いた顔で応答する。

 

 思い返すのは小学校二年生。

 当時、実の姉ほどに熾念が一佳にべったりとしていた頃であったが、とある横断歩道で信号無視したトラックに轢かれそうになっていた子猫を一佳が助けようとした。

 しかし、傍目からすれば自殺行為のソレ。

 このままでは子猫諸とも物言わぬ肉塊になろうというその時、熾念の“個性”が発現して、咄嗟に浮かせたのだ。

 

 トラックの方を。

 

 

 

 

 

―――その結果、“個性”の反動で熾念の目、鼻、耳から血が噴き出した

 

 

 

 

 

 『念動力』のデメリット。それは、使い過ぎると脳がオーバーヒートを起こし、直視するのも憚れる流血沙汰になるというものだ。

 

 

 熾念の念動力の発動可能時間は、行使する出力にもよるが最大10秒。大抵の物は動かせるだけのパワーは有しているものの、発動時間がネックなのだ。

 さらに使用した後は、発動した時間の五分の一のインターバルを挟まなければならない。ここで無理に行使しようとすれば、脳への負担で鼻や耳の血管が切れ、出血してしまうのだ。

 

 トラックを浮かせた当時は、その後三日間病院で寝込むこととなった。

 強力な“個性”には相応のデメリットがあるという例の一つだ。千差万別の“個性”がある中で、明確なデメリットが無い方が寧ろ希少。

 しかし、そんな中でも上手く立ち回れるのがヒーローというもの。

 

「じゃあ、出来るだけ使わないようにってカポエイラやってんだ」

That`s right(そのとおり)。ま、趣味の延長線っていうのもあるけど……」

「ダンスだっけか? おまえ、三か月くらいで止めてなかったっけ?」

Shut up(うっさい)! そういうお前の趣味はなんなんだ!?」

「私か? ……ネットでバイク観賞?」

「Wow……休日のオッサンみたいだ」

「はぁ?」

 

 オッサン呼ばわれされ、額に青筋を立てる一佳。

 女子中学生としては当然の反応だろう。

 

 地雷を踏み抜いたと頬を引き攣らせる熾念は、無理やり今の発言を誤魔化そうと、手をポンと叩いた。

 

「バイクと言えば」

「バイクと言えば?」

「仮面ライダーでも目指してるのか? 現場にバイクでboom! ってな」

 

 仮面ライダー―――それは、超常黎明期よりはるか前に誕生した元祖ジャパニーズヒーローの一つだ。誕生したと言っても、特撮を作る際に生み出されたフィクションのヒーローである。だが、『悪』を倒す『正義』という現代のヒーローの基盤となる価値観を生み出した偉大な存在。

 そんな彼等の代名詞がバイク。

 大部分の仮面ライダーがバイクに乗って登場する為、『仮面ライダー=バイク』という式も成り立っていると言っても過言ではないほどである。

 

 そこから派生し『バイクに乗っているヒーロー=仮面ライダー』という式ができている熾念であるが、一佳はハァっと溜め息を吐いて答えた。

 

「ヤダよ、現場にバイクで向かうのなんて」

「Why? バイクで颯爽と駆けつけるヒーローなんて、超coolだろ!」

「……多分、自分のお金で買ったバイクは愛着湧くから、巻き込まれて傷がつかないようにって乗っていかないと思うんだよ」

「Oh……」

 

 成程、そういう感じか、と思う熾念。

 あくまでプライベートで乗り回したいタイプということなのだろう。

 

「まあ、ヒーローが緊急事態だからってスピード違反して現場に向かうのもアレか」

「だな。それは兎も角、おまえはホントに雄英受けんの? 模試の判定Cって言ってたけど、せめてBは欲しいだろ」

「んー。だから、昨日ねえちゃんに参考書とかもらって夜中まで勉強してたさっ」

「あぁ、だから目の下にクマできてんのか」

 

 これ見よがしに目の下のクマを指差す熾念に、『適度に寝ないと頭に入んないぞ』と忠告をしつつ、タラりと零れ落ちる汗を拭う一佳。

 走ることによって温まってきた体に伴い、意識も寝起きの時よりも覚醒し始めてきた二人は、漸く地平線の向こうから上り、町を照らし始める朝日を身体中に受け止める。

 昼間ほどの暖かさは持っていない日光ではあるが、寝ぼけていた熾念の頭をはっきりと覚醒させるには十分であった。

 

「あっ、そういや一佳。You know? 雄英入試の実技試験」

「実技? 仮想敵を倒すって奴?」

「Yes! ロボットをどんどん倒してくって感じのな」

「ロボットかぁ……なんちうか、パワーある増強系とかに有利そうだな」

「結構脆いらしいぜ? ねえちゃんが言うからには」

「ねじれ先輩の感覚で言われてもなぁ」

 

 ねじれの“個性”は発動系に分類される。それも、かなり強力な。

 彼女の『脆い』が自分にとってどれだけのものか分からない一佳は、苦笑を浮かべることしかできない。

 

「一佳の“個性”もそれなりにパワーあるだろ? All right(大丈夫さ)!」

「ん~、そっか。じゃあ大丈夫そうだな」

 

 中三にもなって、ピースサインを掲げて満面の笑みを見せる熾念。

 なんの確証もない激励であるが、下手に言葉を濁らせられるより安堵した感覚を覚え、つられるように一佳も笑う。

 

 そこまで来て二人は、ハッとした様子で前へ顔を戻した。

 

 何時の間にか仲睦まじく談笑していることに気が付く、得も言えない羞恥が込み上がってきた為だ。

 

 元はと言えば、一佳が熾念の“個性”に嫉妬したことから始まった仲の拗れだが、今となっては些細なもの。しかし、子供染みた対抗心から引っ込みが付かなくなること数年、『今更』という感覚さえ覚えてきてしまっている。

 数年にも及ぶ期間で築き上げてきた関係は、そう容易く修繕できるものではない。

 

 例えるのであれば、絡みに絡まったイヤホンコード。

 丁寧に解きほぐしていかねば、さらにややこしく絡まってしまう。

 

 だが、仲が拗れている本質は別にある。

 

 

 

 

 

―――波動熾念は拳藤一佳を好いている

 

 

 

 

 

 『恋人』へと関係を昇華させたい熾念と、『親しい友人』へ戻りたい一佳のすれ違いが、現在の絶妙な関係を生み出してしまった。

 互いにつんけんとし、時折仲睦まじいかと思いきや、気付けば口喧嘩している。

 そして互いに信頼し合い、互いの力を認めようとするがはっきりとは認めたくない、傍から見れば痒い所に手が届かないかの如く焦れったい関係。

 

 雄英を志望校に入れた理由も、その小学校から続く純情に起因する。無論、オールマイトの母校だからというのも本心だが、四割方は仄かな恋心を追いかけているからなのだ。

 しかし、そんな彼の恋心を知る由もない一佳は、程よく息が上がってきた中で一つ提案してくる。

 

「お、そうだ熾念。私が勉強教えてやるか?」

「Really!? 俺、国語がどうしてもできなくてよ……」

「その代りさ」

「Huh?」

「私のスパーリング、手伝ってくれよ」

 

Awesome(ヤバい)。サンドバッグにされる……!)

 

 獲物を見つけた獣のような眼光を奔らせる一佳に、背筋を凍らせる熾念。

 ある種、二人三脚で雄英合格を目指す道のりは、こうして始まるのであった。

 


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