Peace Maker   作:柴猫侍

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№18 Perfect Gameを目指して

 雄英体育祭―――それはかつてのスポーツの祭典・オリンピックの代わりに、現代の日本に台頭した、日本における一大イベントだ。

 一見、未来のヒーローの活躍する姿を披露するべく開かれているようにも見えるが、実は生徒たちにヒーロー社会に出てからのシミュレーションを経験させている目的もある。このヒーロー飽和社会、都内においては所狭しと事務所が立ち並ぶ中で、如何に己の活躍を市民に見せていくかも重要なのだ。

 

 時には他を蹴落としてでも、活躍を見せる……それが第一種目の障害物競争。

 

 そして次に、商売敵とも言える他事務所と協力しなければならない事案も多数存在する。

 己の活躍は、手を組んだ者の活躍にも。

 相性や他人の“個性”の把握、持ちつ持たれつの関係。

 

 これらは相棒(サイドキック)との連携や、他事務所との合同“個性”訓練など、プロになってからは当たり前の生存術を、生徒たちは今まさに『騎馬戦』という形で学ぼうとしているのだ。

 

 

 

 ☮

 

 

 

(三位になった俺は200P、っと。でもまぁ……)

 

「チャコチャ、も~らいっと♪」

「えっ、私!?」

 

 チーム決めの交渉タイムに入った途端、熾念はすぐ近くにいたクラスメイトの麗日の肩に腕を回した。

 少々驚いた様子を見せる麗日と、早速熾念と組むチーム枠が一人埋まったことに、焦りを覚える他の面々。

 

 何故ならば、彼の“個性”は『念動力』。

 爆豪や轟に比べれば直接攻撃力は劣るものの、この騎馬戦に関しては大活躍間違いなしの“個性”だ。

 300メートルオーバーの射程は驚異以外の何物でもないことは、言うまでもないだろう。

組んだとすれば勝ち筋濃厚な彼に見初められた麗日は、喜色が混じった声を上げる。

 

「いいの!?」

「Yeah! チャコチャの『無重力(Zero-Gravity)』と俺の『念動力(Psychokinesis)』……浮かせて飛ばせて相性ばっちりだろ?」

「おぉ! 言われてみれば確かに!」

 

 指にある肉球で触れた物体が無重力となる麗日の“個性”を用いれば、熾念の“個性”の発動時間はほぼ短縮されずに行使が可能となる。更には、騎手に両方を用いたとすれば、宙を延々と飛び続ける遊撃兵の完成となるのだ。これだけでも、騎馬戦というルールの中ではかなりの戦力と言えよう。

 因みに、渾名は『チャコチャ』で固定したらしい。

 

「組むなら、できるだけ話しやすい相手の方がいいしな!」

「だね。となると……必然的に、クラスの人達と組むのがベストなんだろうけど……」

 

 ほぼ初対面のB組の面々と組むとなれば、普段から会話などで仲を深めているA組メンバーとは、作戦や“個性”への理解や反応に、少しばかり差が出てしまうだろう。

 

 そういった一瞬の逡巡が結果を別つことは、先程の障害物競走で痛いほど理解している。

 自分の“個性”の弱点へ対する理解。

 目まぐるしく変わる状況への迅速な対応。

 何が起きても平静を保てる胆力。

 

 先程、緑谷の思いもよらぬ作戦を前に最善とは言い難い行動をとってしまった熾念は、その失敗を糧にして騎馬戦に臨もうとしている。

 その為、自分が考えられる最善のチームを頭に描き、人員収集に奔走するのだ。

 相性の良い『無重力』を有す麗日と組むことは出来た。

 

「あと欲しいのは、っと……」

「え? もう組む人決まってるの?」

「ああ。―――出久!」

「組んでくれるの!?」

 

 1000万Pを有す緑谷が、熾念と麗日が歩み寄ってくるのを目の当たりにし、滝のような涙を流し始める。バックドラフトの“個性”の如き流れ出る滂沱の涙は、圧巻の一言だ。

 彼がここまで涙を流す理由は一つ。1000万という桁違いのPを有しているが故に、『一発逆転できるPは、保持し続けるよりも終盤に奪い取った方が理に適っている』という戦略的観念から、組もうと歩み寄る者達に須らく申し出を断られていたからだ。

 そこへ好意的に歩み寄って来てくれた、比較的仲の良い二人―――かつて友人といっていい人物がほとんど居なかった中学時代を過ごしていた彼からは、充分感涙を流すに足りる事由であった。

 

「僕、1000万故に超狙われるけど……」

「Hey, Hey……これでも俺はお前のこと買ってるんだぜ? USJ然り、秘密特訓然りな」

「あっ……」

 

 ハッとする緑谷。

 緑谷の『ワン・フォー・オール フルカウル』の特訓に付き添ったのは、他でもない熾念だ。一度、オールマイトのサプライズ授業でも繰り出したが、あの時はたった十数秒。それだけの短時間で彼の成長を見抜けた者はほとんど居らず、唯一詳細を把握しているのは熾念のみといっても過言ではない。

 特訓の際、参考にしたのは幼馴染である爆豪の動き。そして、熾念に勧められたパルクールだ。

緑谷の動きの一端を把握している熾念であれば、フルカウルの動きにも対応できる―――熾念からすれば、緑谷のフルカウルが自分のチームに必要だと考えていたりと、Win-Winな関係である。

 

「俺とチャコチャの“個性”があればできるだろ? New(ニュー) Hampshire(ハンプシャー) SMASH(スマッシュ)とかな」

「っ……うん! できるよ、きっと!」

 

 フィンガースナップを鳴らし、具体的な技名を上げる熾念。

 彼もまた、緑谷と同じ熱烈なオールマイトのフォロワー。自分の必殺技に『SMASH』と付けていることから、それは理解できることだろう。

 故に、拳圧を推進力に急速移動できるオールマイトの技も知っていた。

 まだ5%の力しか扱えない緑谷であっても、二人のサポートがあれば爆豪並みに空中戦を繰り広げることができる。

 

 だが、ここで首を傾げる緑谷。

 

「あれ? でもそれって、僕が騎手やることになっちゃうけど……いいの?」

「ああ。俺が騎手やったら、ふとした時に騎馬へ鼻血が垂れるぜ?」

「あぁ~……」

 

 何とも言えない顔になる緑谷と麗日。例え、どのような人物の血液あっても、鼻血が掛かってくるのは好ましい状況ではない。

 熾念が自ら騎手を辞退する理由に申し訳なく納得した緑谷は、すぐさま気を取り直し、明るい顔で作戦立案に移る。

 

「ありがとう、波動くん! 麗日さん! そうだな……因みに波動くんはどんな作戦を考えてるの?」

「相手全部のハチマキをぶんどるっ!」

「ええ!?」

 

 逃げ切りを前提にしているかと思いきや、バリバリの攻撃スタイルを頭に浮かべていた熾念に思わず声を上げる緑谷。

 そんな爆豪的思想に呆気にとられた二人であるが、すぐに熾念はHAHAと笑う。

 

「……ってのは半分jokeだ、Huh!」

「半分ってことは、ホントに全部取る気はあるんだね。僕はてっきり、二人の“個性”で僕を浮かせて逃げるのかと……」

「まあな。でも、どうせなら他のP全部掻っ攫うっていうperfectな試合もやってのけてみたいだろ?」

「……うん!」

 

 飄々と笑ってみせる熾念であるが、口に出す言葉には形容しがたい気迫が感じ取れる。

 誰もがトップを目指している―――スタジアムへ入る前に轟の宣戦布告でも分かっていたことだが、今は己だけではなくチームメイトの想いも背負ってトップを目指すという所で、一味違った緊張感が身体中を巡った。

 その時、ふと憧れの人物が脳裏を過るがままに、首を縦に振っていた緑谷は、チームの布陣を盤石にするためにブツブツと呟き始める。

 

「麗日さんの“個性”で、彼女の体重以外の衣服や体重などの重さは省ける。となれば、波動くんの“個性”の発動時間も充分に発揮できて、他のチームにはできない全員での飛行が可能になる……」

「「お、始まった」」

「基本的には逃げ切りをメインに考えていきたいけれど、もしもの時の為に反撃に出ることができるメンバーが欲しいな。その時は、さっき波動くんが言ったみたいに僕が空中戦を仕掛けていけばいいんだけれど……もしかっちゃんみたいに空中戦に慣れてる人がハチマキを持っていったとすれば、僕じゃ到底太刀打ちできそうにない。波動くんも僕に“個性”を使ってる訳だし、それ以上の負担を掛けるのは悪手だ。だとすれば、僕や波動君以外にも攻めに出ることができる人が居てくれれば……―――!」

 

 その時、緑谷の目線がA組の二人へと向かった。

 

(瀬呂くんはもうかっちゃんと組んでる! じゃあ……)

 

「蛙すッ……ゆちゃん!」

「自分のペースでいいのよ、緑谷ちゃん。どうしたのかしら?」

「まだチームが決まってないなら僕たちと組んでほしいんだ! 勝ち残れる作戦ならあるよ!」

「あら、そうなの? じゃあ話だけでも聞いてみようかしら」

 

 彼が声を掛けたのは、未だチーム決めに悩んでいた様子の蛙吹であった。

 

 蛙吹梅雨:個性『蛙』

 カエルっぽいことはほとんどできる! カエルのように高く跳躍できたり、壁に張り付け、更には20メートルまで伸びる舌を有しているぞ!

 

 蛙っぽい彼女をもう一人の候補であった瀬呂の代わりに引き入れた緑谷は、口元に指を当てて可愛らしく首を傾げる蛙吹に、コショコショと耳打ちをし始めた。

 中々気になる内容であったのか、しきりに首を縦に振る蛙吹。

 そこへ止めと言わんばかりに、波動が蛙吹のもう一方の耳へ呟けば、普段からぱっちりお目目の瞳がカッと開かれる。

 

「それは……とても面白そうな作戦ね。ちょうど私もチームを決めかねていたから、喜んでチームに入らせてもらうわ」

「ありがとう、蛙っ……ゆちゃん!」

「梅雨ちゃんと呼んで」

「Hey! Thanks、梅雨ちゃん!」

「どういたしまして、波動ちゃん。お茶子ちゃんも一緒にがんばりましょうね」

「うん! 私も頑張らんとね!」

 

 こうして誕生した緑谷チーム。

 『ワン・フォー・オール フルカウル』によって、以前とは一線を画した攻撃力と機動力を有す緑谷。

 『念動力』によって、自分たちのチームを浮かせるのみならず、攻撃と防御の両方を担う熾念。

 『無重力』によって、チームの機動力の底上げ、尚且つ動きにトリッキーさを付ける麗日。

 最後に、上記三人のチームにアクセントを加えるエッセンスとなる蛙吹。

 

 若干、フィジカルに関しての不安は残るものの、限られた時間の中で組み上げたチームとしては比較的まとまったと言えよう。

 位置取りは、緑谷が騎手。熾念が前騎馬。蛙吹が右騎馬。麗日が左騎馬となっている。

 その後は基本戦術について話し合い、大体の指針が決まったところで交渉タイムの終了が訪れた。

 

(一佳は、っと……)

 

 そこで辺りを見渡し、好意を向ける幼馴染を探す。

 彼女もまたクラスの面々と組んでいるだろうと予想しながら視線を遣れば、案の定彼女はB組の女子と共にチームアップを果たしていた。

 左の片目を前髪で隠す暗い雰囲気を醸し出す女生徒と、マッシュルームカットの小柄な女生徒。そして、爬虫類のように鋭く尖った八重歯が特徴の女生徒だ。

 

 女子オンリーで組むとは、他の男子で組んでいるチームと見比べるとパワーが劣っているように見えるが……。

 

(一佳には一佳の考えがある……俺が俺の好意だけで近付いても不本意だろうからな。試合である以上、全力で戦う。全力で叩き潰すのもアレだが、手加減して舐められてると思われてもなぁ……)

 

 一応今の布陣は、彼なりの葛藤があってのチームアップだったのだ。

 本心だけで言えば、何らかの口実をつけて一佳と組みたかったのである。しかし、以前に挑発をして焚き付けてしまった手前、言い出し辛いという中々に初々しい葛藤だ。

 それからなんとか理由をこじつけられないかとも思慮を巡らせたものの、男勝りな彼女にカッコいい自分を魅せるには、矢張り全力で相手するより他ないという結論に至った。

 しかし、未練はある。例えるのであれば、体の為にと一か月間お菓子を断食するような感覚だ。

 

 そんな思いのままポリポリと頬を搔く熾念は、ふと自分に気が付いた一佳の視線に思わず顔を逸らしてしまう。

 そのまま憎らしい程に晴々とした空を仰ぎつつ、胸の中で悶々と渦巻く想いを落ち着け、グッと右手で作ったピースで口角を押し上げ、笑顔を浮かべてみせる。

 

(本気で戦り合うなら……惚れられるくらいの完全勝利だっ!!)

 

 

 

 ☮

 

 

 

『さあ起きろイレイザー(ミイラマン)! 15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が並び立った!!』

『おい、誰がミイラだ。まあいい……中々面白ぇ組が揃ったな』

 

 暇があればすぐ眠りに入る相澤と、そんな彼を起こして実況を再開するプレゼント・マイク。彼らが見下ろすフィールドには、今口にしたように12組の騎馬が各個と距離をとるように配置している。

 

『さァ上げて、鬨の声!! 血で血を洗う雄英の合戦が今!! 狼煙を上げる!!!』

 

 プレゼント・マイクの煽りを受けて、一旦息を潜めていた観客席の喧騒にも似た歓声が再び沸き立つ。

 

『よォーし、組み終わったな!!? 準備は良いかなんて聞かねえぞ!! いくぜ、残虐バトルロワイヤルカウントダウン!! 3!!!』

 

「狙いは……」

 

 切島を前騎馬に据えるのは、ぎらついた獣のような瞳を浮かべる爆豪チーム。切島の他に、芦戸、瀬呂と組んだ彼のチームのトータルポイントは645Pだ。

 

『2!!』

 

「一つ」

 

 一方、冷静沈着に目標を見据える轟。飯田、八百万、上鳴と、自身が騎手を務めるのに際し、最も安定した布陣を組んだようだ。彼等は爆豪チームより45P低い600Pと、区切りのいい持ち点である。

 

『1……!』

 

「麗日さん!! つッ、ゆちゃん!! 波動くん!! よろしく!!」

 

 気合いの入った様子の緑谷は、これから15分間共に戦う仲間たちの名を呼び、自身が負う責任の重さをひしひしと感じつつも、内から湧き出す恐怖を押し込むように、ぎこちない笑みを浮かべる。

 そんな彼等の持ち点は―――

 

『START!』

 

 10000475P。

 

「実質それ(1000万)の争奪戦だ!!」

「はっはっは! 緑谷くん、いっただっくよー!」

 

 騎馬戦開始直後、B組男子生徒である鉄哲の騎馬と、上半身が裸になっている葉隠が1000万P目がけて突進してきた。

 途中、鉄哲チームの前騎馬である歯が剥き出しの生徒の足の先から、フィールドが沼地のようにぬかるみ、緑谷チームの足を絡め取ろうとする。

 

「出久!」

「了解! 5%DETROIT SMASH!」

「Huh、これでも喰らいなっ!」

 

 序盤から二組に襲撃されるという事態に焦ることなく、緑谷は熾念の意図を汲んで、拳をぬかるんだ地面目がけて振り抜き、ぬかるんだ地面に穴を開けた。

 すると跳ね上がった泥が水柱のように湧き上がり、すかさず熾念が“個性”を用いて泥を牽制代わりに前方へ放つ。

 

「ちっ!」

「ほびゃあ!?」

 

 辛うじて鉄哲チームは腕で防いだものの、葉隠チームに至っては放たれた泥が前騎馬であった耳郎の顔面に直撃する。それによりバランスを崩した葉隠チームは、今にも崩れかねんとグラつき始めた。

 牽制は充分だ。

 

「飛ぶぜッ!」

「お願い!」

 

 牽制した時間を用いてインターバルを挟んだ熾念は、そのまま麗日の『無重力』で軽くなった自分を含めた四人全員を空の旅へ迎え入れる。

 

「どうだ!? そこらの遊園地のattraction(アトラクション)じゃ味わえない空の旅にご案内だっ、HAHA!」

「波動ちゃん、楽しむのはいいけれどしっかり周りを見てね」

「All right!」

 

 軽い分『念動力』での移動も早い四人は、そのまま襲来してきた二組と距離をとるように足を地に着けた。

 

「着地狩りだ、やれぇ!!」

「行け、黒影!」

「アイヨッ!」

 

 しかし、その隙を狙ってとある別のチームが襲いかかってくる。

 

「障子くん……あれ!? 一人!?」

 

 一人前のめりになっている障子が、緑谷チームへ突撃を掛けてきた。

 だが、先程聞こえた声は峰田と常闇+αのもの。その答えであるが、すぐさま障子の“個性”である複製腕の皮膜の陰から覗いた。

 

「危ないわ、緑谷ちゃん」

「わわっ! ありがとう、蛙吹さん!」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

 障子の背中から伸びてきた影―――常闇の“個性”である『黒影』を、寸での所で舌で打ち払った蛙吹。

 

「目蔵の背中に乗ってるのか……!」

「障子ちゃん、大きいものね」

 

 そう、A組男子の中でも比較的小柄である峰田と常闇の二人は、障子に一人騎馬を任せることにより、他のチームよりも自由な攻撃と妨害を行うことを可能としていた。さらに、障子の『複製腕』の皮膜で騎手を覆うことにより、全方位防御をする且つ黒影の体力である闇を補充するなど、かなり厄介なチームであった。

 

「オラァ、寄越シナ!」

「お断りだっ!」

「ひゃん!」

「Huh?」

 

 充分な闇を補充できていて粋がっていた黒影であったが、熾念の“個性”を掛けられて全身を発光させられることにより、仔犬のように縮こまりどんどん闇を消費していく。

 勿論、黒影の弱点を知らなかった熾念は、ただ動きを止める為に放ったのであったが、知らぬ所で旨い具合に牽制を為し得たのだ。

 

「HAHA! 結構カワイイな、踏陰の黒影(Dark-shadow)!」

「くっ……おのれ!」

「さっきのお返しだ! これでも喰らいやがれっ!」

「いや、あれは実が悪いだろ」

「ほぶっ!?」

 

 黒影が怯んだのを見かねた峰田が、頭のもぎもぎを取って投げたが、そのまま熾念の『念動力』で受け止められた後に跳ね返され、顔面に直撃する。

 熾念の“個性”は、インターバルを挟んでいる最中に無理やり発動しようとすれば流血するのだが、延々と念動波を放ち続けてアクションを起こしているのであれば、流血沙汰になることはない。無論、その分後のインターバルが長くなってしまうのだが、フィールドに血痕を残しまわるよりかはマシであった。

 

「波動くん! 大丈夫!?」

「Yeah! まだなっ!」

「安心して、私がしっかりサポートに回るわ」

「三人とも! 左上!」

 

 互いの身を案じる緑谷チームに、爆炎を撒き散らしながら肉迫する影に麗日が気付く。

 

「調子乗ってんじゃねえぞ、クソが!!」

「っ……一旦離れるよ! SMASH!」

「あ゛ぁッ!?」

 

 騎馬から離れて襲来する爆豪が、右手の大振りを振るって緑谷のハチマキを奪おうとするも、フルカウルで身体能力が向上している緑谷はすぐさま拳圧を推進力に、一旦騎馬から離れて攻撃を回避する。

 その後、爆豪が瀬呂のテープで回収されたのを確認した熾念が、離れた場所に浮かび留まる緑谷を“個性”で回収した。

 

『おおおおぉ!!? 騎馬から離れたぞ!? いいのか、あれ!?』

「テクニカルなのでオッケー! 地面に足がついてたらダメだったけど!」

 

 皆の疑問を代弁するプレゼント・マイクに、ミッドナイトがサムズアップして認許している旨を口にする。

 もしこれでダメであったら、最初に熾念たちが話していたNew Hampshire SMASH云々が全て水泡に帰す為、爆豪チームのみならず緑谷チームにとっても吉報であった。

 

 その後も、他のチームの襲撃を幾度となく受けるも、辛うじて回避し続ける緑谷チーム。

 騎馬戦は混戦を極め、フィールドの各所で激しいハチマキの奪略が繰り広げられている。

 

 これらのような混沌とした状況も相まってか、当初予測していたよりも緑谷チームを狙うチームは多くなかった。

 7分経った後でも、各所の点数変動はあるものの緑谷チームのトップは揺るがない。

 

 残り時間は半分―――このまま逃げ切れるやも知れぬと考える緑谷チームの前に、一つの壁が立ちふさがる。

 

 

 

「そろそろ―――……奪るぞ」

「そう簡単に……奪らせない!」

 

 

 

 火照った体―――その中心を貫く背筋が凍てつくような威圧感を放つ轟を騎手としたチームが、今まさに緑谷チームの前へやってきた。

 戦いは、後半戦へ続く。

 




オマケ(没案)

麗『ねえ、葉隠さんとかはどうかな? 私で浮かして、波動くんの”個性”でビューんと飛ばしたら、見えない騎手の誕生じゃないかな? ほら、風の妖精的な感じで!』
熾『透ちゃんが全裸になってくれるならできるけど……やめた方がいいぜ?』
緑『ううう、うん、そうだよ麗日さん! とてもじゃないけど、全裸の女子を腕に乗せるなんて僕には……』
麗『いや、だからこそ私ので浮かして……』
熾『NO, NO, NO, チャコチャ。俺の”個性”で浮かしてる物体は、よく目を凝らさないと見えないけど、若干緑色に光るんだ』
麗『えッ、そうなん!?』
熾『ああ。だから、もしその案をやろうとするとなると、もれなく透ちゃんの全裸時のボディラインが全国生中継で放映されることになる』
麗『えぇ~~~!? そそそ、それはアカンよぉ!!』
緑『それに、緑色の光を纏って飛び回る人がハチマキつけてるって……中々にシュールじゃあないかな……』
麗『流石に私には葉隠さんのフルヌードの責任はとれんよぉ!』
熾『素直に、他の人にしようぜ』
緑『うん、それがいいよ』
麗『全裸……生中継……』

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