Peace Maker   作:柴猫侍

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№17 爆走! 障害物競争

『さあさあ! 一足先に行くやつらはA組が多いぜ! なあ、イレイザー!?』

 

 屯する仮想敵を前に狼狽する者が多い中、圧倒的な脅威を前にしても足を止めることなく突き進むヒーロー科一年A組。

 USJ襲撃事件以来、上の世界を肌で感じた者、恐怖を植え付けられた者、対処し凌いだ者―――各々が経験を糧にして迷いを打ち消しているからこそ、他の科や同じヒーロー科であるB組よりも、立ち止まる時間が少なかった。

 

 立ちはだかる敵を氷結させて動きを止める轟を先頭に、緑谷はトリッキーな動きで攻撃を掻い潜り、爆豪に至っては直接戦闘を避けて相手の頭上を飛び越えていくというクレバーな戦法をとっている。

 

『……波動の奴、なにやってんだ?』

『ん? どうした……って、あれは~~~!?』

 

 呆れたような相澤の声に、訝しげに首を傾げるプレゼント・マイク。

 そんな彼らが見た光景は、如何せん障害物競走には似合わず、そして誰よりも楽しんでいる男子生徒の姿であった。

 

WHOOPIE(イヤッホォ)!!!」

 

 仮想敵から剥がれ落ちた鉄板にスノーボードのような感覚で乗り、空中を滑るように飛行する熾念が、満面の笑みで興奮した歓声を上げていたのだ。

 

『A組波動! 障害物競走で、まさかのサイド・ウェイ・スタンススポーツをしでかしてやがるぜェ―――!! 楽しそォ―――!!』

『アイツぁ“個性”で飛行するにゃインターバル挟まなきゃいけねえからな。その間、体一つで落ちるよりかはああした板に乗ってた方が、空気抵抗で落ちにくくはなるだろうな』

『ゴーリテキ判断ってやつだな、イレイザー!?』

『いや、あれは本人が楽しんでるだけだろ』

 

 要するに相澤の解説は、結果的には合理的になったという結果論だ。

 一方、彼等の解説を耳に入れていない熾念は、全身に風を受け止めながら、曇天の街中を飛翔する燕のようにスイスイと仮想敵を潜り抜け、あっという間に先頭集団の中でも上位陣の方へ食い込む。

 

 そうこうしている内にも、先頭の轟は新たな障害物に直面していた。

 無数に存在する断崖絶壁。身を乗り出せば、奈落のように底が見えない。それぞれの断崖からは太めのロープが伸びており、まさにここを渡って行けと言わんばかりの存在感を放っていた。

 

『落ちればアウト!! それが嫌なら這いずりな!! ザ・フォ―――ル!!』

 

 単純明快。第二関門は大げさな綱渡りであった。

 高所恐怖症の人間にとっては、見ただけで失禁しそうなほどに谷は抉れている。

 しかし轟はといえば、さほど躊躇う様子も見せずにツッーッと綱を氷結させながら滑るようにして渡っていく。

 

『轟やっぱ速ェ!! 流石は推薦入学者だぁ!! 因みにアイツの年の推薦実技入試はマラソンだったぜ!』

『今言う必要ないだろ、それ』

 

 軽い漫才のような実況は兎も角、轟の年の推薦入試が障害物競走と同じ趣旨のマラソンであったことは確かだ。つまり、彼にとっては一度同じような状況を経験にしているに等しい。

 判断力、応用力、機動力―――どれをとっても他とは一線を凌駕する轟は、経験も相まってかここでも先頭を走る。

 

「Toot♪ 面白そうじゃん! 俺もそれやろーっと!」

『おぉ、ナンだァ!? 波動、急に急降下し始めたがァ―――!?』

 

 轟を爆豪や他の面々と共に後ろから眺めていた熾念が、ニヤリと口角を吊り上げ、風の壁を突き抜けるのではないかという速度で急降下し、一本の綱に降り立つ。

 頑丈性を追求して鉄製になっている綱に着地すれば、そのままギャリギャリと人によっては不快な摩擦音を鳴り響かせつつも、特に危ない様子もなく渡り切った。

 

『フロントサイド50-50グラインドだァ!!』

『おい。アイツだけ競技違うぞ』

 

 しかし、ここで終わる熾念ではない。

 綱の先に見える留め具。そこへ、かなりの勢いのまま突っ込んで鉄板の先を衝突させる。

 

 調子に乗り過ぎてミスでもしたか?

 

 観客がハッと焦って眺め続けるが、実際はそうではなかった。

 鉄板が留め具に当たった衝撃で、そのまま空中へ縦回転しながら飛び上がる熾念。クルクルと二度ほど回る彼の後方の手は、しっかりと鉄板の後ろ側を掴んでいる。

 そして、撮影機器を見つけたかと思えば、満面の笑みを浮かべながらピースサインを決めてみせたのだ。

 

『テールグラブのダブル・フロント・フリップもやりやがったァ!!! こいつァ点数高いぜ、イレイザー!! メディア意識もばっちりだ!!』

『おい、なんだ点数って。アイツだけ競技違くなってるぞ』

 

 他の者達が一生懸命綱渡りしている間、彼だけはスノーボードとスケートボードを複合した特殊な競技に臨んでいる。

 誰もが他人を出し抜こうと死にもの狂いで走っている最中、如何せん不真面目に見えるかもしれないが、あくまでこれは『体育祭』。誰が一番祭りを楽しんでいるかと問われれば、現時点でほぼ全員が(熾念)だと答えるであろう。

 

 更に、これはまだ学生の身分である彼らがプロヒーローたちに自分を目一杯アピールできる場。

 実力もそうではあるが、鬼のような形相で競技に臨んでいる者よりも、適度に笑顔を見せて臨んでいる者の方が好印象を与えやすい筈。

 悪鬼羅刹のような顔で轟を猛追する爆豪と、そんな彼等をいつ出し抜こうと考えつつも笑みを崩さない熾念を比べれば、与えられる印象の差は一目瞭然だ。

 

 その後、一通りトリックを決めて満足した熾念は、一歩先に最終関門に差し掛かろうとする轟を捉える。

 

『一面地雷原!!! 怒りのアフガンだ!!! 地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!! 目と脚酷使しろ!!』

 

 プレゼント・マイク曰く、威力は大したことはないが、音と見た目が派手らしい。

 地雷が埋まっている場所はこんもりと盛り上がっており、若干土の色も変わっている。確かに気を付ければ踏むことはないであろうが、誰かに追いぬかれるか分からない……同時に何位以上が勝ち抜けるかも分からぬ状況で、どれだけ冷静且つ迅速に抜けられるかが重要だ。

 

「ま、とりあえずここで……」

 

 地雷ゾーンに入った轟を高みの見物する熾念は、今迄愛用していた鉄板から飛び降り、念動力で鉄板を轟の前方目がけて投擲する。

 狙いは適当であったが、大体予想通り轟の眼前に墜落し、そのまま周囲の地雷を起動させて爆発を起こす。

 

「ッ……波動か」

「Yeah、焦凍! 宣戦布告に来たぜっ、とォ!!」

 

 爆風で轟の体を煽ることにより足を止めさせた熾念は、そのまま一気に轟の横へ並ぶ。

 更に、熾念のみならず轟の近くへ猛追してくる男がもう一人。

 

「半分野郎!! てめェ宣戦布告する相手を間違えてんじゃねえ!! あと似非バイリンガル!! てめェは邪魔だ!!」

「HAHA、勝己! 折角の祭りだぜ!? 皆でどんちゃん騒ぎしたいだろうが!!」

「るっせえ!!」

 

(爆豪もか……これは少し……ッ!)

 

 『爆破』の“個性”を用いて熾念同様空を飛び続けていた爆豪が、ここで一気に加速して二人と肩を並べるだけでなく、僅かに二人より前へ出る。

 

『ここで先頭が変わった―――!! 喜べマスメディア!! おまえら好みの展開だああ!!』

『推薦一人に実技一位二人……やっぱり前に出てくるのが速いな。お互い妨害し合ってるようだが、いつまでもやってたら後続に抜かれるぞ』

 

 他の集団より抜きんでた三人が三つ巴で一位を争う展開に、観客席は大いに盛り上がる。

 轟は氷結を、熾念は念動力を、爆豪は爆破を用いて各々の進行を妨げ我先に行こうと画策するが、如何せん実力が拮抗している三人では中々決着が着かず、次第に後方から遅れてやってきた者達が近付いてきた。

 しかし、後続も後続で近くに居る者を引き摺り下ろそうと争い合っている。

 尚且つ、一人が誤って地雷を起爆させてしまえば、それが連鎖的に付近の地雷をも起爆させる悪循環となり、直接妨害されていない者であっても結果的に思うように進めないという混沌とした戦場が出来上がって来ていた。

 

 

 

 しかし、その時であった。

 

 

 

 けたたましい爆発音が鳴り響くと同時に、眩い先行が爆ぜたのは。

 

『後方で大爆発!!? 何だ、あの威力!? 偶然か故意か――――』

 

 予想だにしなかった出来事に、誰もが後ろへ振り返る。

 すると、爆発による閃光をバックにし、一人の男子生徒が仮想敵のボディであった鉄板に乗って、凄まじい勢いのままに先頭三人組を猛追する姿が、熾念たちの瞳に映った。

 

『A組緑谷、爆風で猛追―――!!?』

 

 

 

 ☮

 

 

 

 話は数分前に戻る。

 

(くッ……綱渡りじゃフルカウルの機動性を十分に発揮できなかった! その所為で、最初のゾーンよりも大分他の人に前を行かれちゃってる!)

 

 体に滾る血潮を思わせるような赤い光を光らせ、バリバリと緑色のスパークを瞬かせる緑谷は、ザ・フォールを攻略した後に、少しでもタイムロスをどうにかできないかと全力疾走していた。

 だが、次に待ち構えていたのは地雷ゾーン。ちょっとした衝撃で起爆してしまう場所では、跳躍系の者達も迂闊に飛び跳ねることができない。

 それ即ち、折角フルカウルで機動力が上昇している自分にも制約が課せられるということだ。

 

(フルカウルの力を信じて一気に駆け抜ける? いや、駄目だ! 飯田くんでも走り抜けられない場所を、僕が無理やり突破するのはまずできない! なら、他に出来ることは……んッ!? あれって、波動くんが乗ってた仮想敵の装甲?)

 

 そこで緑谷が目に付けたのは、地雷ゾーンの入り口辺りに突き刺さったままの鉄板。

 熾念が轟を妨害する為に投げ捨てた物であり、所々拉げ、尚且つ煤けてはいるものの、まだ十分使えそうではある。

 同時に、緑谷に一つの閃きが生まれた。

 

(そうだ、()()を使って……!)

 

 即断即行。

 緑谷はすぐさま鉄板を引き抜き、辺りにまだ埋まっている地雷を掘り出し始めた。一人地雷駆除を始めた彼の姿に、横を通り過ぎていく者達は『一体なにをしてるんだ?』と不審者を見る様な目つきを送るが、それでも気にせず一生懸命に掘り起こす。

 そして十個ほど集まった時、鉄板に身を委ねるように倒れ込み、そのまま地雷の山へ飛び込んだ。

 

(大爆速ターボ!!)

 

 脳裏を過るのは、体力テストの50m走で『爆破』を推進力として一気に駆け抜ける爆豪の姿。

 そしてもう一人。先程まで鉄板をボードのように扱い、空を疾走していた熾念の姿だ。

 

(“個性”の練度じゃ、僕は到底皆には敵わない……だけど、足りない部分は他で補えばいい! 発想を柔軟に……倣えるべきところはどんどん倣っていけ!!)

 

「―――だッ!!?」

 

 鉄板の下で巻き起こる大爆発のままに宙へ飛び出し、そのまま先頭集団が三つ巴を繰り広げている場所まで瞬く間に辿り着き―――否、追い越した緑谷。

 爆発の際に鉄板で額を打ってしまったが、今になってはどうでもいいことだ。

 

(このまま行け……って、着地どうするんだ!?)

 

「デクぁ!!!」

 

 此処までやって来て重要なことを考えることを忘れていた緑谷を、轟と熾念の二人と争っていた爆豪が、妨害を止めて前へ飛び出る。

 

「後ろ気にしてる場合じゃねえ……!」

「ッ……ホンット、crazyだな! 出久!」

 

 このままでは緑谷のみならず爆豪にも先を行かれると危惧した二人も、争うのを止めて前へ駆け出す。

 轟は、後続の追走を容易にしない為に作らなかった氷の道を作り始め、熾念は焦ってインターバルのことも忘れ、鼻血が出るのも厭わずに念動力で飛行を始める。

 

 そんな彼等に追いつかれかける緑谷は、爆風による勢いが死に始めて失速し続ける中、脳味噌をフル回転させて打開策を見出さんとし―――

 

「5%DETROIT……」

 

 依然として鉄板に身を委ねたまま、右腕を地面目がけて振るう。

 目標は―――地雷を起爆させての追い炊き。

 

(USJでコンクリートなら砕けるのは分かった……なら、土だったら充分衝撃は地雷に伝わる!!)

 

「―――SMASH!!!」

 

 ブオンと風を切る音と共に奔る拳圧は、三人が並んで緑谷を追いこそうとした場所の地面に衝突し、埋まっていた地雷の信管を作動させ、二度目の爆発を巻き起こした。

 緑谷を追い越す為に疾走した三人は、彼に爆風による妨害を受けるとは思っておらず、最短距離―――つまり、爆風を警戒することなく緑谷の近くを走ってしまっていた為に、諸に爆風に煽られて体勢を崩す。

 

 更には追い炊きにも成功した緑谷が、何とか三人に追い越しを許さぬまま先頭を行き、世話になった鉄板を捨ておきつつ、フルカウルの跳躍力で跳ねるようにゴールへ向かう。

 

 脱兎のごとく、奔り、跳ねて……そして遂には、

 

『さァさァ、誰が予想できた!? 今一番にスタジアムへ帰ってきたその男―――緑谷出久の存在を!!』

 

 ダークホースとしての頭角を魅せつけるように、一位に輝く緑谷が、スタジアム全体を揺らす歓声に迎え入れたのであった。

 

『さあ続々とゴールインだ! 順位などは後でまとめるからとりあえずお疲れ!!』

 

 一位(緑谷)に続いてすぐにスタジアムへ到着したのは、轟、熾念、爆豪という順でやって来た三人だ。

 

「また……くそっ……くそがっ……!!!」

「……」

「Huh、凄いな出久……」

「あ、ありがとう……って、波動くん!? 鼻血が!!」

「ああ。百ちゃん待ちだ」

 

 先に着いた四人。

 轟は無言のまま息を整えようとし、爆豪は三人にも自分の先を行かれてしまったことに憤慨し、熾念に至っては小鼻を摘んで鼻血が垂れないように奮闘している。

 ティッシュを創造してもらうべく、八百万が来るのを待つ熾念と付添の緑谷。

 数分程すれば、ジャージのファスナーを熾念同様全開にし、顔を上気させている八百万がオカシイ様子でゴールインした。

 

「Hey、百ちゃん。ちょっとティッシュ創造してもらいたいんだけど……」

「ハァっ……ティッシュですか? ハァっ……それは構わないのですけれど、ハァっ……まずコレをどうにかして頂けませんか?」

「Huh?」

「一石二鳥よ、オイラ天才!」

「「……」」

 

 クルリと振り返る八百万が見せてきたのは、“個性”のモギモギを用いて八百万の臀部辺りに張り付く峰田の姿であった。

 序盤に仮想敵にでも殴られたのか、熾念と同じく鼻血を垂らしている。

 しかし、何故だろうか。その鼻血は熾念の流すものと比べれば、酷く穢れているように見えてしまう。

 

「All right」

「ちょ、波動待ってくれ! もうちょいオイラは……って、こぉぁぁあああ!!?」

「Shut up」

 

(わああ、これ映画で見たことある……!)

 

 ゴミを見る様な目つきで、熾念が腕を突出し、念動力で峰田を八百万から引き剥がす。

 その際、念動力を峰田の首だけに掛けるという熾念の所業を目の当たりにした緑谷は、某有名SF大作に出てくる超能力を思い出した。

 色もちょうどそれっぽいのが、不思議な感動に拍車をかける。

 

「フォースと共にあれ……」

 

 後からやってきた常闇も、熾念と峰田が織り成す光景を目の当たりにし、こう呟いた。

 

 どことなく感動を覚えたのもつかの間、続々と後続がゴールインを果たし、障害物競走は特に大きな怪我人も出ることなく、無事に終了する。

 

 

 

 ☮

 

 

 

 予選を通過できるのは上位四十二名。

 A組、及びB組はヒーロー科の面目を保って全員通過。他にも普通科から一名、サポート科から一名が通過するという結果になった。

 ここで四十二名と設定している辺り、予選通過がヒーロー科のみにならないという配慮がされている証拠だろう。

 

 それは兎も角、主審のミッドナイトから本選でもある第二種目の競技が発表される

 

「コレ!! 騎馬戦よ!!」

 

 個人競技ではなく、まさかの団体競技に予選通過者たちにどよめきが波立つ。

 

 ルールはこうだ。

 参加者は、二~四名のチームを自由に組んで、騎馬を作る。基本的なルールは通常の騎馬戦と同様であるが、予選の結果に応じて各自にポイントが振り当てられること。

 つまるところ、組み合わせによって騎馬が有すポイントが違ってくるのだ。

 

「与えられるPは下から5ずつ! 四十二位が5P、四十一位が10P……といった具合よ。そして……一位に与えられるPは1000万!!!」

 

 次の瞬間、四十一の双眸が一位である緑谷へ向く。

 蛇に睨まれた蛙とはこのことだろうか。目が点となり、青褪めた顔で途轍もない量の汗を流す緑谷は、『1000万?』と規格外の持ちPを反芻するように呟く。

 順当に5Pずつ加算されていた場合は210Pなのであったが、いきなり桁が増えての1000万。こうなるのも無理はないと言える。

 

 そんな緑谷を見て、嗜虐心が疼いて堪らないミッドナイトは、テレビに映っていることを自覚してなんとか表情に出すのを押さえつつ、話を続けた。

 

「そう……この騎馬戦は上位の奴ほど狙われちゃう下剋上サバイバル!! 上を行く者には更なる受難を。雄英に在籍する以上、何度でも聞かされるよ。これぞ、Plus Ultra!」

 

―――桁がPlus Ultraしてるんですが

 

 そんな誰かの呟きが聞こえた気がした。

 

 更にミッドナイトの説明曰く、制限時間は15分。

 振り当てられたPの合計が騎馬のPとなり、騎手はそのP数が表示された“ハチマキ”を装着する。因みにこのハチマキは、取り易さを追求し、マジックテープ式とのこと。

 それから終了までにハチマキを奪い合い、保持Pを競い合うのがこの騎馬戦だ。

 更に重要なルールは、ハチマキを取られたとしても、騎馬が崩れたとしてもアウトになることはないというもの。

 

 その為、15分の間は複数の騎馬が延々とフィールドを行き交う状況となるのだ。

 

 “個性”の発動はアリ。

 しかし、あくまで騎馬戦であることを考慮し、悪質な崩し目的の攻撃等は禁止で、行った者は一発退場となる。

 

「それじゃ、これより15分! チーム決めの交渉タイムスタートよ!」

『15分!!?』

 

 余りにも短い交渉時間に、参加者が驚愕の声を上げる。

 クラス内の者であれば兎も角、半数以上は初対面でもある中で15分の交渉時間は如何せん物足りない。

 しかし、立ち止まっているヒマなどはない。

 早々に立ち止まってしまえば、それこそ一人だけになり、人によってはトラウマが蘇るボッチ状態になってしまうのだ。

 ルール上、それはないとしてもチームを決めるのが遅ければ遅いほど、相性が微妙になる者と組む確率が高くなる可能性もある。

 

 そんな中、不敵な笑みを浮かべる者が一人……

 

「Huh! 得手に帆を上げられる時が来たぜッ!!」

 

 熾念が、目を燦々と輝かせ、拳を握りつつ言い放った。

 

 何故かと首を傾げるB組やその他が居る一方、緑谷(の持ちP)へ向ける目と同じような視線を熾念へ向けるA組の面々。

 

 そう、彼の“個性”は『念動力』。

 射程距離300メートルオーバーの、触れずして物を動かせるという騎馬戦において最凶の“個性”だ。

 

 

 

 障害物競走に続き、波乱の幕開けは既に始まるのであった。

 


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