Peace Maker   作:柴猫侍

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№14 再 救助訓練

 雄英高校各所の存在する模擬市街地。

 ヒーロー科の実技入試に用いられる場であるが、それ以外の期間は何に用いられているのかというと、専らヒーロー基礎学での演習や、ヒーロー科生徒の自主トレーニングだ。

 後者は事前に届け出が必要であるものの、自分の“個性”を伸ばす為に放課後は解放される。

 

 体育祭が迫る中、ヒーロー科の生徒のみならず、普通科の生徒やサポート科の生徒もちらほら見られ、普段とは一変し活気に満ち溢れている市街地。

 熾念もまた、大イベントに備え、自身の“個性”の限界を知る為―――そして伸ばす為に体操服を着て訪れている最中だ。

 

 体育祭は文字通り体育の祭りであり、あくまで学校行事の延長線上であることから、ヒーロー科の生徒は戦闘服の着用が認められていない。

 例外としてサポート科は自身が発明したもの、その他にも“個性”を用いる上で支障をきたす者に関しては道具の持ち込みの認可があるが、熾念にはそういった道具等は無い為、己の肉体と“個性”で臨むしかないのが現状である。

 

 スイスイと手当たり次第周囲の物を浮かせてみる熾念。身近にある物から、“個性”の射程限界ギリギリまで、一通り試していると、幾つかの事柄が判明した。

 

(遠いと、若干ラグがあるな……)

 

 自分自身は身の回りの物は発動した瞬間に念動力をかけられるのに対し、射程ギリギリ―――約300メートル離れた物を浮かすとなると、十秒以上のラグがあることに気が付いたのだ。

 雄英に入る以前、これほど遠くの物体を浮遊させたことが無い為に判明しなかった弱点。

 実戦において、300メートル離れた相手に10秒強で攻撃を仕掛けられるのは充分強力であるが、問題なのは届くまでの時間も発動時間に加算されるということ。

 現在の発動限界時間は約12秒。つまり、届くまでの10秒を計算に加えれば、実質的に念動力をかけられるのは2秒ということになる。12秒行使した場合に必要となるインターバルは2.4秒。3秒にも満たない時間であるが、クラスメイトである轟や爆豪の姿を思い浮かべれば、なんとなしに拙いと感じてしまう。

 

(Huh……だからボール投げの時、やけに“個性”の効きが悪かったのか)

 

 体力テストの種目、ボール投げを思い出して、あの時思った以上に距離が伸びなかったことに合点がいった熾念は、納得と言わんばかりに首を縦に振る。

 

 そしてもう一つ気が付いた点があった。

 それは―――

 

(遮蔽物があったら、念動力の効きが悪い……)

 

 壁なり砂埃なり、視界を遮る物体―――遮蔽物があると、途端に浮かせた物体が危なっかしくフラフラとした状態になるのだ。

 ガラス窓の先にある物体はそれほどでもないのだが、あからさまにコンクリートの壁などになると、極端に効きが悪くなる。あくまでも効かないのではなく、効き辛くなるのだ。

 

 そう言えば家に居る時に、ねじれの部屋から持ち去られた少年誌を“個性”で勝手に奪えるかを試したことがある。当時は発動時間に難があったことや、試しに一度だけやってみたのみで、深くまで試行しなかったことから、勝手に『できない』と結論付けていた。

 だがその日、『ねえ聞いて! ポルターガイストが起きたの!』と泣きっ面になったねじれが自分の部屋に駆け込んで来たことから、共に恐怖の心霊現象に姉弟同じ布団で震えていたのだが、今思えば一応は少年誌を浮かせられていたのだろう。

 

 何故なのか?

 

 遮蔽物があることにより念動力の効きが悪くなるのは何故か、熾念はサイダーで糖分補給をしながら考えた。

 そこで辿り着いた例えがコレだ。

 

『自分の“個性”はクレーンゲームと同じだ』というもの。

 

 多少違うかもしれないが、クレーンゲームの『アーム』を『念動力』に例えよう。そして、浮かせる『標的』は『景品』だ。

 熾念の“個性”は発動した場合、目が緑色の光を帯びると同時に、淡い緑色の光の波紋を体から発する。ここでは光の波紋を『念動波』と呼ぶことにし、『念動波』は『アーム』を操作する『レバー』となるのだが、クレーンゲームもレバーによる操作がアームに伝導するのにラグがあるように、念動波にも標的へ届いて念動力に換算されるまでラグが出るのだ。

 

 ここでミソとなってくるのが、熾念の“個性”は『念』に関係しているということ。

 

 ここでの『念』は、単純に思いや気持ちを意味しているのだが、彼が物体を浮かせられているのは『浮かせたい』という思いを念動波に乗せているからこそなのである。

 具体的に、『何』を『どうしたい』のか―――その『何』が見えていなければ、必然的に念動波に乗る思いも曖昧になってしまう。

 

 『一念岩をも通す』という諺があるが、それは何を為したいのか明確な目的があってこそ。何を成就させたいのかが明瞭となっていなければ、結果も期待通りになる筈もないのは当然と言えよう。

 

 つまり、熾念は見ている物体に対しては強力な念動力をかけていられるが、見えなくなると一変、容易く剥がされてしまう脆弱な出力にガクンと落ちてしまう。

 要するに、熾念が現在進行形で見ている『景色』がクレーンゲームの『ケース内』となるのだが、プレイヤーはそもそも見えていない『景品』を取ろうとさえ思わない―――思えないということだ。

 

 精神に影響を受けやすい“個性”。

 動揺が隙となる“個性”。

 強い気持ちで臨まねば、容易く破られてしまう“個性”。

 

(Huh、浮かれてたかもしれないな……実技でいい成績とったからって。弱点が少し明らかになったら、途端に弱く見えちゃうな)

 

 緑色の光の輪が描かれる掌から視線を外し、近くにあった木を浮かせてみようとする。

 徐に淡い光に包まれ、ざわめき始める木葉。震動は地面を伝播し、熾念にも伝わってくるものの、抜ける気配は一切ない。

 

「ふぅ……なら今度は!」

 

 『浮かせる』のではなく、『引き抜く』とひたすらに念じながら掌を翳す。

 すると今度は途端にミシミシと軋む音を奏でながら、太い根を露わにし、身を委ねていた土をボロボロと落としながら一本の木が宙に浮遊し始めた。

 それを適当な場所に置いておき、流血寸前まで“個性”を用いてオーバーヒート寸前の脳に栄養補給する為、近くの縁石に置いておいたサイダーを手に取る。

 

「ん?」

「だぁらっしゃぁぁぁ!!」

 

 雄叫びが聞こえたかと思えば、赤髪の男子生徒がすぐ近くの建物の屋上から飛び降り、そのまま屋上ダイブして地面に激突する様子が見えた。

 思わずサイダーを噴き出し、『はわわっ』と口に手を当てる。

 

 かなりの速度で落ちたことから、凄まじい衝撃が体に伝わったことは想像に難くない。巻き上がる砂塵と、蜘蛛の巣のように広がる地表の罅がそれを示していた。

 

「うぉっしゃい!」

「なんだ、鋭児郎か」

「お? 波動か! お前もここで自主練してたんだな!」

 

 しかし、普段と一変してガチガチに尖った肉体をしている切島が、モグラのように飛び出してきた光景に、杞憂であったとホッと息を吐いた。

 『硬化』の“個性”を持つ彼であるならば、屋上ダイブしても死ぬ事は無いだろう。以前、USJへ向かう途中の車内で地味であることを気にしていた彼ではあるが、高度から飛び降りて無傷なのを鑑みると、体表だけでなく体の中まで衝撃に打ち勝つほど硬くできるらしい。確かに派手さはないが、かなり強力な“個性”であることは明らかだ。

 

「Yeah。調子はどうだぁ?」

「ああ、バッチシだぜ! このまま体育祭に向けて―――」

『わぁぁあああ!!?』

「「ん?」」

 

 フレンドリーに歩み寄る切島と話しを交わそうとした瞬間、再び近くから誰かの声が聞こえてくる。それも、切島のように気合いを入れたような声ではなく、切羽詰まったかのように焦った声が……。

 

「おい、あれ緑谷じゃねえか!? ビルから落ちてるぞ!?」

「Really!? くっ……!」

 

 ビルの屋上から真っ逆さまに落ちているのは、他でもない緑谷出久だ。

 彼は増強系の“個性”。飛べるような力は持っていないことから、彼の現状が絶体絶命であるということは二人にも瞬時に理解できた。

 すぐさま熾念は念動波を奔らせ、緑谷を救出すべく『浮かせる』という思いを強く念じる。

 

 心なしか普段よりも早く走る念動波はそのまま緑谷の体を優しく包み込みように浮遊させ、地面と熱い口づけを交わす事態を避けさせた。

 

「こ、これは……あぁ、波動くん! 助かったよぉ……」

「……What were you doing?」

「え? ああ、これはえっと……“個性”の慣らし運転の為に屋上飛び移ってたら、足が滑って……」

「あれ? 緑谷の“個性”って確か、一発使ったらバキバキになるんじゃなかったのか?」

 

 “個性”の慣らし運転をしていたという緑谷に、切島が疑問の声を上げた。

 彼が“個性”を使う度に骨折するのは、最早クラスメイトにとっては周知の事実。それにも拘わらず、慣らしていたと豪語する彼の体には目立った傷は見当たらない。

 念動力による浮遊から解放され、数秒振りの大地を踏みしめる緑谷は、五体満足で戻れたことに生を実感しつつこう語る。

 

「うん。そうなんだけど、壊れない程度の出力を全身に万遍なく伝わらせて、そのまま一定時間保てないかなって……そうすれば身体能力を上げれるって思ってさ」

「おお、新技か!? 体育祭に向けてってか! 男らしくてカッコいいぜ、そういうの!」

「はは……でも、ちょっとでも気を抜いちゃうとダメになる感じでさ」

「それで死にかけたってか? HAHA、同級生の転落死を見る羽目にならなくてよかったぜ」

「うん。それはホントにありがとう、波動くん」

 

 ビルほどの高さから転落死しかけるのは、これで二度目。

 一度目は入試で、その時は麗日に助けられ、二度目はたった今熾念に助けられた。ここ最近で随分死にかけていると、緑谷は苦笑を浮かべることしかできない。

 おどける熾念の頬に汗が伝っていることから、割と笑っていられる状況でもないのだが……。

 

「お、そういや二人共聞いてるか?」

「Huh? なにをだ?」

「明日のヒーロー基礎学、USJに行って救助訓練するってことだよ!」

「Ah……そう言えばそうだったな」

「うん、三日前襲撃にあったばかりでまた行くなんて、なんというか……流石雄英って感じだよね」

 

 明日のヒーロー基礎学、A組は再びUSJで救助訓練をすると、今日の同授業内で伝達された。その内容が、以前敵襲撃で行われなかった救助訓練なのだが、あの事件からたった数日しか経っていないにも拘わらず、再び行おうという考えは驚愕に値する。

 既にセキュリティを大幅に強化したのかもしれないが、それでも生徒にしてみれば一抹の不安は拭えない。

 

 また敵が襲撃してくるのではないか?

 

 今度襲われた時、全員が生存していられるのだろうか?

 

 敵襲撃もあって、今年の体育祭も例年の五倍の警備体勢であたるらしいが、依然として拭えぬ脅威がある以上、生徒たちの身の安全を優先するべきではなかろうかという声も、保護者の間から上がっている。

 しかし、これを乗り越えてこそ雄英生だ。

 Plus Ultraである。

 

「まあ、鉄は熱いうちに打てってことだなッ」

「そうだな! 体育祭も大事だけどヒーローの本業は人助けだし、全力でやるっきゃねえな!」

「そうだねっ! ようしっ……困ってる人を助けられるように、もう一度慣らし運転を―――」

「だったら俺が手伝うか? 勿論、俺の“個性”の自主練も兼ねてだけどなっ」

「え!? いいの!?」

 

 意気が高まっていく中、再び自主練に戻ろうとする三人の内、熾念は緑谷の新技の練習に付き合うことにした。

 またビルの屋上から落ちてしまわれては堪ったものではないという、一種の懸念から生まれた考えであったが、予想以上に喜んでくれた緑谷を前に、本音を言うのが憚られてしまった熾念。

 

 緑谷曰く、『危ない状況でやった方がいい緊張感を持って臨める』とのことだが、その後彼の考えの下付き合った自主練中、数度ほど何かしらのミスを経て落下しかけていたのを、熾念が逐一“個性”で救助したのであった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

 後日のヒーロー基礎学は、予告されていた通りに再びUSJへ救助訓練赴いた。

 引率は、いまだ全身包帯ミイラマンの相澤。そしてUSJ案内は変わらず13号だ。

 

「って言うか、13号先生大丈夫なんですか!?」

「ちょっと背中がめくれただけだから大丈夫っ! さあ、今日は以前敵襲撃で行えなかった救助訓練をしますよ! まずは山岳ゾーンに向かい、山岳救助についての授業を行いますよ!」

 

 背中がめくれるとは、一生に一度聞くか聞かないかの文章に思えてしまう。

 麗日の心配を余所に元気に振る舞う13号は、以前の襲撃で八百万、耳郎、上鳴が居た山岳ゾーンへA組の面々を引き連れて行く。

 切り立った断崖を模して造られたと思われる山岳ゾーン。模して造られた筈なのに、崖の下から轟々と強風が吹き荒れる音が鳴り響く幻聴が聞こえてくる。

 

「うっわ、高ェ~!?」

「玉ヒュンしちまうよ、こんなん……!」

 

 身を少し乗り出して崖下を除く上鳴と峰田は、谷底が見えないほどの高さに股間を押さえる。

 

「上のか?」

「違ェよ! オイラのリトルミネぶほぉ!?」

「ちょっと黙って、峰田ちゃん」

「ちょ、おかしいだろ蛙吹!? 今のゼッテー波動の方が悪いだろ!?」

 

 下ネタを口走ろうとした峰田に、蛙吹の長い舌による鞭のような撓りの効いた一撃が炸裂する。

 その光景に、峰田の下ネタを引き出した確信犯である熾念は口元を押さえて笑いを堪えていた。

 

「男子あーいうの好きだよね」

「低俗な会話ですこと」

 

 その愉快な様に、少し後ろに佇んでいた耳郎と八百万が呆れた様子を見せる。

 

「オラ、さっさと始めるぞ」

「そうですね! では、救助訓練は事前にランダムで決めていた人たちに行ってもらいます。まずは救助する側を、切島くん、波動くん、八百万さん、葉隠さんの四人に! 救助される側には、飯田くん、緑谷くん、麗日さんに行ってもらうことにします! 要救助者の設定は、一人が頭を打ち付け意識不明。もう二人は足を骨折しているという設定でお願いしますね!」

 

 そんな生徒に対して溜め息を吐いた相澤は、さっさと始めるよう13号を促した。

 『そこにある道具は使ってもいいですよ』と最後に付け足され、救助する側はやる気MAXで前に歩み出し、される側の三人は近くの専用リフトで下に下っていく。

 

 スタンバイにかかること数分。

 

『おぉ~い!! 誰か助けてくれぇ!! う、麗日くんが頭をぶつけて気を失ってるんだ!! 俺も緑谷くんも、足を折ってしまった―――ッ!!!』

「Toot、迫真だな」

「おぉ……流石委員長だな、非常口飯田」

「うぉ~! なんだかこっちもやる気出てきたよー!」

「お真面目に、皆さん。私はまずプーリーを『創造』しますわ。それで倍力システムを作りましょう。あと、下に降りて患者を担架に入れる役も決めましょう」

 

 迫真過ぎる飯田の演技に各々の反応を見せる三人の横で、推薦入学者である八百万はテキパキとした挙動でプーリーを創造する。

 

「よっし! じゃあ“個性”的に考えりゃ、おめェは下に降りた方がいいんじゃねえか?」

「All right! じゃあ、下から押し上げるように浮かすから、皆は途中からロープ引っ張ってくれ。12秒が限界だから、それも念頭においてくれ」

「オッケー! 頑張って引き上げるよー!」

「出来ましたわ! さあ、この調子で続けていきますわよ!」

 

 上半身ほぼ裸の切島は、そのガチガチの肉体美を魅せつけて引き上げる側に回る。

 そして『透明化』の“個性”をもち、現在ほぼ全裸の葉隠も、ロープを引き上げる側に回る事となった。

 その後、プーリーと事前に用意されていた担架とロープを組み合わせ、引き揚げやすい救助用具を作った四人。

 

 途中、八百万が要救助者へ必要な行動が、恐怖を和らげるために声を掛けることだという説明も織り込んで、淡々と作業は進んでいく。

 

「おー、なんか見ていて安心だな」

「ここに爆豪が居たらと思うとゾッとするよな?」

「あぁ? なんだとこのアホ面」

 

 砂藤の言葉に、同意と共に爆豪への弄りも混ぜた上鳴であったが、キレッキレの暴言によって返り討ちにあった。

 そんな彼等に混じる峰田は、一生懸命動く葉隠(全裸)と、レオタードのようなコスチュームを纏う八百万の臀部を眺めながら、口から迸る涎を腕で拭う。

 

「はぁッ……はぁッ……ホント最高だぜッ……!」

「お前もそこらへんにしとけ。な?」

 

 そんな峰田に怒気を奔らせる相澤の気配にいち早く感じた瀬呂が、“個性”のテープを用いて峰田の口を塞いだ。

 

 そうこうしている間にも救助する側の準備が終わり、担架を抱えた熾念が崖の上からピョンと飛び降りる。

 飛び降りる時点では“個性”を用いず、地表が見えた頃合いに自身を念動力で浮かせ、穏やかな風を吹かせながら怪我人役の三人の下へ降り立つ様は、まさしく『ヒーロー』だ。エンターテイナー的な演出をしてやって来た熾念に、救助を待っていた三人は感心するように口を開いている。

 

I am here(俺が来た)! なんてな!」

「「「おぉ!」」」

「ようしっ! まずは意識の無いお茶子つぁ……茶子ちゃん……いや、チャコチャからだな!」

「待って! 噛んだからって、変な渾名付けんといて!?」

 

 基本、友人のことは下の名前で呼ぶ熾念。男子は呼び捨てだが、女子は幼馴染である一佳以外『ちゃん』付けであるのだ。しかし、今回はそれが祟って麗日の名前を噛んでしまった。

 その為、流れで呼びやすい渾名を即興で考えたのだが、本人には不評らしいリアクションをとられてしまう。

 

「じゃあチャコで」

「どんどん短くなってる!?」

「ははっ……小学校の頃、家庭科の授業でそんな感じの名前の色ペン使ったよね?」

「チャコペンシルのことだな? 緑谷くん」

 

 などと、気の抜けた会話をする四人であったが、その後は真面目に取り組み、大きなミスもトラブルもなく山岳救助訓練は終了した。

 

 13号曰く、最近のプロヒーローは適材適所がなっていない者も多く、『自分が!』と前に出過ぎたために事態が悪化することも少なくないらしい。

 時には、自分が一歩退く事によって―――今、自分が最もふさわしい行動をとることによって、解決に当たる。それがヒーローに大切なことだと、13号は力説した。

 

 今回の場合、八百万が担架を引き上げることを容易にする為の道具を“個性”で産み出す。熾念は、“個性”で怪我人に大きな衝撃を加えることなく、担架に乗せ、それを崖の上に持ち上げる。最後に、地力がある切島と“個性”を生かせそうにない葉隠が協力し引き上げるという、まさしく適材適所と言える働きを見せた。

 

「この調子で、引き続き倒壊ゾーンでの訓練に向かいましょう!」

『はいっ!』

 

 山岳救助訓練は終了し、次の訓練へ向かうA組の面々。

 

 この時、彼等は知らなかった。

 

 倒壊ゾーンで待ち受けている者の存在を―――果てしなく迷惑なサプライズを。

 




お知らせ
・『№11 ヒーローの卵』を少しだけ改稿いたしました。具体的に変わったのは熾念たち四人と死柄木たち三人が向かい合うところから、オールマイトが来るまでの流れです。

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