元傭兵が転生してヒーローを目指す話   作:マインスイーパー

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やっぱ原作に入るとシナリオがあるから進みやすいね。
感想、評価、誤字報告ありがとうございます。




第八話 入学

 

 side消太

 

 

 

 入学試験が終わり、筆記実技共に生徒達の成績が割り出された。現在は雄英に携わるヒーロー達による適正選別をしているところだ。

 

 敵Pは得点無しながらも0P仮想ヴィランを破壊した緑谷 出久、敵Pは高得点ながら救助Pが皆無な爆豪 勝己など今回の受験生も人柄的な個性の主張が激しい奴ばかりだ。だからこそ期待できるとは言えるのだが、消太はあまり浮かない顔である。特に、緑谷の行動に。

 怪我人が居て巨大ギミックが迫った状態で咄嗟の判断だったとは思うが、もし日常的に個性を使用してその度に負傷しているとすれば見逃せるものではない。

 合格という判断が出た為に、今後の言動次第では除籍も有り得る対象と言わざるを得ない。

 

 

「で、次ね。相澤壊斗」

 

 

 チラリと視線がこちらに集まる。予想はしていたが、身内であるが故に俺はこの審議に参加することは出来ないのだから知った事では無い。これで落ちたとすればアイツが実力不足だっただけだ。まああの成績じゃ十中八九合格だろうが。

 

 

「敵P58点、救助P40、計98Pで一位。戦闘特化の個性じゃないなんて思えない成績だな……」

「どういう鍛え方したらあの歳であの動きができるようになるんだ」

「戦術も教えたんだろ、イレイザー。どういう教育したんだよ」

 

「知らねえよ。教えたのは教えたが、勝手に吸収してったのはアイツだ」

 

 

 質問責めをされようが、これは本当なのだ。謙遜だとかそんなものじゃない。壊斗はそれこそ乾燥しまくったスポンジの如き吸収力で俺の教えた戦闘技術を吸収していった。

 

(……というよりも、)

 

 

 どちらかというより()()()()()()()()()()()()()()()()()気がしてならなかった。初めのうちは大体、訓練と言えど相手に拳を向けるのは抵抗があるし、そもそも力の入れ方を間違えて威力が出なかったりという特徴が見られる筈だった。壊斗はそれが一切見られなかったのだ。

 対人における観察、攻撃、回避、立ち回り、状況誘導。本当にこいつは戦闘において無知な子供なのか? と疑いの目を持ったものだ。というか今でも持っている。結局は天才という他無いのだが。

 そんな圧倒的な才能によって築かれた基礎に、後は経験を練り込むだけだった。俺と同じく帯状の獲物を使用したいと言ってきたから見せて教えて実践させての三段階を終えた頃にはそれなりに出来ていたのを見て度肝を抜かれたものだ。

 

 そして今回、この六年間の鍛錬の成果をプロヒーロー達にまざまざと見せつけた。

 

 

「……うん、まあ何にしろ彼が合格なのは確定だね。おめでとう相澤くん。じゃあ、次の子に行こうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side壊斗

 

 

 

 受験は終わり、とりあえずは勉強は一旦休みとなった。個人的には前世で学校に行けなかった為多少スパルタでも勉強が出来るのは嬉しいと身がついていけていた。世の学生は集中出来ないと嘆いているのだそうだが、気の持ちようだと俺は思う。しかし前も今も、朝の苦手さというのは驚く程に改善できない。

 

 そうして朝を伝えるけたたましい音を立てる目覚まし時計を、自分が設定したのにも関わらず掌で壊すような勢いをつけて叩きつけてしまった事実に、深い溜息をついた。

 

 

 

 

 

 のろのろとベッドから抜け出すと洗面所で顔を洗い意識を覚醒させる。キッチンに入り込みトースターに二つの食パンをセットして次の作業へ。

 

 フライパンをコンロの上に置いて適度に熱するのを待っている間にベーコンを半分に切る。熱されたのを確認して切ったベーコンを投入、良い焼き加減になったところで冷蔵庫から取り出した二つの卵を片手で器用に割り入れる。殻を捨てて平らの皿を二枚手に取り、白身の透明さが無くなってきたところで水を少し入れて蓋をしてタイマーセット、一分間の蒸し焼き。

 冷蔵庫の下段からレタスとトマトを取ってまな板の上へ。食べやすいサイズへと切り分けておいて、タイマーにより一分終了を告げたコンロの元に移動してフライパンの蓋を開ける。香ばしい匂いが広がった。

 

 出来た二つのベーコンエッグに胡椒を適当に振り繋がった白身をフライ返しで切って皿に。トマト、レタス、そして先程トースターから飛び出してきた食パン二つを見栄えの良いように皿に盛り付けて、完成である。

 

 コーンスープの入ったコップ二つとジャムの瓶を何個か掴み取ってそれぞれ皿と共にテーブルの上へ運んだ。朝の仕事終わり。

 

 調理器具を流しに纏めておく。そして恐らくギリギリまで寝ようという魂胆であろう家主を起こさなければならない。

 

 

 

 その張本人の部屋に入ると、寝袋ではなくちゃんとベッドに入って寝ている姿を確認してほっとした。どんだけ寝袋を気に入っているのか分からないが、ベッドを購入しても構わず狭い寝袋で寝るのだから体を痛める可能性があるだとか合理的じゃないだとか色々丸め込んでベッドを使わせるようになったのだ。

 今でも目を離すと寝袋で寝る姿が時々見られるのだが。

 

「消太さん、起きないと。また栄養補給ゼリーで済ます気でしょ。早く起きて顔洗って朝食食ってください」

 

 という問答──答があったかどうかは定かではない──が一頻り終わっても動かなそうだったのでもう引き摺って行くことにした。席に座らせる。

 

 ここ最近は受験シーズンにより仕事が忙しいようで睡眠時間があまり取れていないのだろう。それは分かるのだが朝食をとるか取らないかで一日の活動効率が格段に上がるのだから、そちらの方が多少の睡眠が増えるより合理的ではなかろうか。

 

「で、試験はどうだった」

「……モニターで見てたんじゃないんですか」

「違う。お前はあの試験形式をどう思った」

「…………」

 

 パンを持つ手を下ろして彼を見る。絶望的に分かり辛いが、あまり納得していないような表情だ。まあ確かに消太さんならそうだろうとは思っていたけれど。実際俺もそうだったし。

 

「……筆記試験はまだ良かった。問題は実技の設定。ただ仮想ヴィランを潰していくだけなら身体強化系の個性が圧倒的に有利だ。逆に救助や災害への救命活動に特化していたりだとか、対人での拘束特化だとかの個性持ちが不利過ぎる。鍛えて道具使えば強化系個性と遜色なくやりあえるかもしれないが……。まあでも、恐らくそれ相応の救済措置があると思ってるけど。例えば仮想ヴィラン───特にあの最後のでかいロボットとかで破壊された建物やら怪我をした受験生へ救助活動を施したかどうかが何らかの加点に繋がっているとか。まあそれでも俺が振り分けられた演習場みたく巨大ギミックがすぐ再起不能になった場所があるとすればその機会も少なくなる。不利なのは変わりない。」

 

「───というのが俺の思った事」

 

 喋り過ぎた気は否めない。が、消太さん相手に出し惜しみは良くない。パンを再び口に運びながら叔父の方へと目を向けると、まあまあ納得してもらえたような表情だった。

 

「消太さんなら"合理的じゃない"って一蹴しそうな内容だな」

「……否定はしない。お前の言う通りあの試験内容には穴があり過ぎる」

 

 

 というような、朝とは思えない堅苦しい論議を交わしながら食事に手を付けていく、というのが我が相澤家の習慣となっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の昼、消太さんが仕事に出かけて勉強もそれなりに済ました為に室内でトレーニングをしていると、雄英高校の試験結果が届いた。特に感慨深い何かはない。受かっている自信がある訳では無いが、別にヒーロー科があるのは雄英だけじゃないからの精神である。

 封筒を開けて、中身がプリントではなく何か小さな機器が手に触れたことを訝しげに思いながらそれを取り出すして、スイッチらしきところを押した。

 

『私が投影された!!!』

 

 

 瞬間、某缶コーヒーCMの堺〇人の如く強い風に吹かれたような感覚。

 なんだ、なぜ飛び出した。画風が違いすぎて癖が凄い。幾ら一寸法師代の大きさと言ってもインパクトが強すぎる。

 というか、

 

「なんでオールマイトが……」

 

『それは私が雄英の教師として勤めることになったからさ!』

 

 

 本気か。雄英の影響力は凄いな。まさかあの実力人気共にNo.1のヒーローを教師として迎え入れるとは。どんな権力を有したらそんなマネが出来るんだ。

 

 と、会話は続けられて結果俺は合格だった。とりあえずスタート地点に立てたようで良かった、などと思っていると悪くない誤算がオールマイトから伝えられる。

 

『筆記、実技ともに一位とは驚いたよ! 素晴らしい成績だ相澤少年! また実技では敵P、救助P合わせて100点近い数字を出している。オマケに最後の0P仮想ヴィランへの対処、起点、お見事だった! 文句無しの合格だ!』

 

 

 おお、まさかトップを取れるとは思っていなかった。消太さんのスパルタ教鞭のおかげとしか言いようがない。というか現役教師に教えてもらえる機会が多いというのは他の受験生からすれば狡かっただろうか。

 

 まあいい、とりあえず合格は合格だと中断していたハンドグリップを空いた手に持って、付属されていた入学式までの資料を読み始める事にする。

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 

 

 入学当日。

 

 真新しい制服に身を包んで、忘れ物がないか黒いリュックの中を確認する。初日から忘れ物などやる気が無いと思われても仕方がないだろう。

 

 ちなみに消太さんは先に出た。新入生への準備やらがあるのだろう。ところで家を出る前に俺を見て何とも微妙な顔を向けられたのだが、何だったのやら。特に聞くことも出来なかった為に真相は闇の中である。というかそろそろ出なければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相変わらず豪華な学校だ。巨大な門も恐らく一部の異形型に合わせられたものなのだろう。よく考えられている。

 さっさと校舎の中に入って、合格通知に付属されていたマップを見ながら配属されたクラス、1-Aの教室へと足を進める。高校の中を移動しているとは思えない程の距離なんだが。

 ふと誰かから背後から肩を叩かれて、普段の習慣で若干構えてしまった。肩を叩いた張本人である茶髪の女子生徒が強ばった顔を浮かべる。

 

「…っえ、」

 

 はっと我に返って手を下ろした。

 普段の消太さんに付いてもらう訓練中の癖である。あの人は隠密活動に特化している為に一度暗がりや物陰に隠れられると気配を察知するのも困難で、その為に訓練を重ねる内に妙に過剰な反応をしてしまうようになってしまったのだ。話しかけてきた人に悪いことをしてしまった。

 落ち着いて謝罪を述べる為に口を開こうとして

 

「え、えくすきゅーずみー……?」

「デジャブか、日本語話せるから」

 

 あの緑頭の少年を思い出させるやり取りを前にして思わずツッコミを入れてしまった。そんなに俺は日本人として認識されないのか。

 

「癖なんだ、驚かせて悪い。それで何か用か?」

「あ、うん! こっちこそごめんね! もしかして同じ一年生かなって思って。パンフレット持ってたから」

「そうだけど、じゃあお前も?」

「うん、私は麗日お茶子! クラスは1-Aなんだけど君は?」

「そうか、俺は相澤壊斗。俺も1-Aだ」

「ほんとに!? じゃあごめん、教室の場所分かるかな? 実は若干迷ってて……」

 

 

 何だか華やかな名前だと思いながら、第一村人ならぬ第一クラスメイトを発見した。迷っていたと聞いて、マップは持っていなかったのかと尋ねるとマップを見ても分からなかったそうだ。恐らく筋金入りの方向音痴なんだろう。

 その後緑髪の少年もマップを見ながらしっかり迷っていた事を壊斗は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君! 机に脚をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよ。てめーどこ中だよ端役が!」

 

 

 

 

 

 扉を開けた途端これである。

 この典型的な真面目と不良のやりとり。もう何回も小説や漫画で再現されているのだから今更そんなテンプレートなやりとりをしなくてもいいのではなかろうか。

 

 関わりたいはずがない。さっさとスルーして表示されている自分の席順を確認する。左から二番目の、前から三番目。ここか。

 席につこうとリュックを机に置いたのと同時に、俺の前の席の生徒がこちらに振り向いた。その黒髪、耳から伸びたコード。どこかで見覚えがある。

 

「、あ!」

「……あの時の、瓦礫に挟まれてた」

 

 名前が分からない。確か席順の紙には書かれていたはずなのだが、生憎そこまで確認していなかったのだ。首を傾げる壊斗に、女子生徒は快活そうな笑みを浮かべた。

 

「アンタも受かってたんだ、まあそりゃそうだよね。あの時は助けてくれてありがとう」

「お前も。気にするな、そんな大層な事はしてない」

「あれは大層な事に入らないのか……凄いね。あ、ウチは耳郎響香。よろしく!」

「俺は相澤壊斗だ。よろしく」

 

 ここまで女子としか話してないことが不安ではあるが友人には困らなさそうでよかった。皆いい奴そうなのばかりだし。

 

 

「あ、お前があの巨大ロボ止めた受験生?」

 

 間も入れずに話しかけてきた声。耳郎の隣に座っている金髪の生徒を見て思わず怪訝な顔をしてしまった。俺はこの生徒と同じ演習会場だっただろうか。

 

「試験が終わった後に噂になってなってたんだよ。でかいのぶっ壊した奴と止めた奴が居るってさ。さっき耳郎に教えてもらったんだけど助ける為に止めたんだろ? めちゃくちゃヒーローだよな」

 

 マシンガンとはこの事である。食い気味にかかってきたこの男子生徒の言葉に適当な相槌を打ちながら、そんなに噂になるのか……と学生の繋がりの広さに驚きを隠せなかった。いや自分も学生だけど。

 

「そうか、ヒーローってのはまあ言い過ぎな気がするが」

「いや言い過ぎでもないだろ。っと忘れてた。俺は上鳴電気! 相澤壊斗っつってたよな、よろしく」

「ああ、よろしく」

 

 コミュニケーション能力の高そうな奴で助かる。一時は不良かと思って身構えてしまったがこの手のタイプはムードメーカーと言った方がいいのかもしれない。

 

 

 そういえばそろそろ担任あたりが来ても良いんじゃないかと思う時間になってきたんだが、まだ姿を見せてないな。オールマイトが教師になったくらいだから担任ももしかすればプロヒーローの可能性が────

 

 

 

「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」

 

 

 

 

 

 体が固まった。

 

 この声。この低いやる気のなさそうな声。聞いたことあるぞ。いやもう聞き慣れ過ぎている。声のした元には、黄色い寝袋。芋虫の如き動き。

 少し予感はしてたのだ。勤め先が雄英というのは知っていたし、確率は低いとしても可能性は0ではないのだから。でもまさか、

 

 

「担任の相澤消太だ、よろしくね」

 

 

 

 前の席に座っていた二人がこちらに勢いよく振り返ってきた。何も言うな。多分お前らの想定通りだから。

 ふと消太さんと目が合った。身内だからって容赦しねぇぞという威圧感がひしひしと感じる。言われずとも、心得てる。

 

 ザワつく生徒達などお構い無しに、消太さんは寝袋を漁ったと思うと四次元ポケットのように体操服を取り出してボソリと呟いた。

 

 

「さっそくだが、体操服着てグランドに出ろ」

 

 

 

 雄英高校入学初日。1-Aの生徒達に待っていたのは入学式でも自己紹介の時間でもなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




相澤先生がご飯作らないんなら主人公が作るしかないからね。自然と手馴れるのは仕方ないね。




おまけプロフィール


相澤 壊斗 16歳
誕生日 10/31

個性「崩壊」

容姿→白髪と灰色の瞳、左目付近にある黒子が特徴的。鼻の高さといい色白さといい見た目はハーフどころか完全に外国人である。身長が180cmな為尚更そう見える。主張する筋肉というよりは引き締まった筋肉の方。相澤先生スタイルによく似ている。つまりは消太さんリスペクト。

性格→影響されたかのように若干合理主義。冷静であるが非情ではない。それなりに喜ぶしそれなりに悲しむ。ただ怒りメーターは10歳の悲劇の件があるので振り切れると洒落にならない。感情の起伏が乏しいわけじゃないのに、顔の表情筋が死んでいる為に無感情な人間だと思われがちである。隠れた闘い狂い。

戦闘スタイルは黒いコードを使用した対人闘術。移動、回避、攻撃、拘束なんでもござれ。結構オールマイティな武器である。中学の頃に持っていたのは本当にただのコードなのだが、高校でコスチュームと共に作ってもらい抗火、水、電、という圧倒的な優れものとなった。

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