元傭兵が転生してヒーローを目指す話   作:マインスイーパー

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余裕が出来たので連日投稿。
そしてこれでオリジンは終了。次回から原作に沿えれます。やったねたえちゃん!




第六話 覚悟

 

 side壊斗

 

 

 

 

 "破壊ヒーロー"ルーイン。

 アングラ系の中でも突出してメディア露出しない情報の少ないヒーローであり、その行動内容は()()()()()()()()()()()

 

 彼が標的としていたのは表沙汰で騒動を起こすヴィラン等ではなく、裏事情に繋がった闇世界の住人だ。その中には個性犯だけでなく、それなりに名の売れた企業の裏で糸を操り悪事を働くような者も含まれている。

 

 そして最も彼が問題視されていた原因となっていたのがヴィランに対する個性の使い方だった。

 "触れただけで物体を破壊する"という強力で危険な個性を持っていたルーインは、殺人さえしないが標的とした者の破壊を厭わず行った。事実彼と対峙したものは大体四肢の一つが無くなっていたりと悲惨な現状になっている。

 ヒーロー内では彼の行き過ぎた行動に苦言を呈する者も多かったのだが、それに応じるような男ではなかったらしい。

 

 そしてルーインは十年前に突然ヒーロー職から身を引き、それ以降この業界に姿を現さなくなった。

 

 

 

 そんなヴィランからすれば悪魔の様な存在の正体が、俺の父親。

 相澤 破谷。

 

 

 

 

 叔父から語られた内容は、言葉が喉から上に出せないくらいには衝撃的だった。父が、母に小言を言われてべそをかいていた父が過激な行動が目に余るようなヒーロー等と誰が信じようか。

 しかし叔父は冗談を言っているような顔じゃない。全て事実なのだ。

 

「昔とは随分変わったけどな。いや、別人って言ってもいい」

「…………」

 

 何も言えない俺の目を暫く見た後、叔父は息をついて軽く口角を上げた。思えば、これが俺が初めて見た消太さんの笑顔だった。

 

「変えたのはユーリヤさんと、お前だ」

 

「俺、ですか」

 

「お前が生まれるのが分かってから兄貴はヒーローを辞めたからな」

 

「……なんで」

 

 分からない。他のヒーローから糾弾されようとも止まらなかった父が、何故母や自分のために足を止めたのか。

 いつの間にかいつもの無表情に戻った叔父が、少しだけ目を細めて口を開く。

 

「───守るためだよ」

 

「ヒーロー業ってのはヴィラン側に恨みを買いやすい。ルーインみたいな裏社会に手を出す奴は尚更な。兄貴はユーリヤさんと共にいる上で、彼女とお前の安全を選んだ」

 

 その言葉に、あの夜ヴィランが侵入した時、父がしていた強い決意を物語る顔を思い出す。普段穏やかに弧を描く目が鋭く見据えられ、口は真一文字に固く閉じられていた。

 あれが俺の知らない、家族の為に隠されていた父だったのか。

 

「だからあの夜も命を懸けた。……だからその、なんだ。お前が幾ら大人じみた奴でも今回の事に関しての精神的な負担は大きいのは分かる。だがあまり自分を責めるなよ」

 

 どこか居心地の悪そうな表情をした叔父の顔を見て、俺はようやく彼の行動が腑に落ちた。

 消太さんが俺を引き取ってくれると言った時、俺は確かになぜ自分が生きているのだと口にしてしまっていた。無意識とはいえ、10歳の子供が言っていいことでは無いだろう。それを察した上での行動だったのだ。

 

(───"ヒーロー"だな)

 

 嫌味でもなんでもなくスッと入ってきた思いだった。

 

 身内とはいえただの甥の、人の目につかないような隅っこに燻る闇を察して、救う為に行動に移した。何の遜色の無いヒーローとしての姿。

 

 あの時の父も確かにヒーローだった。

 

 

「……消太さん」

「何だ」

「俺でも、その……」

 

 ヒーローに。

 言葉の最も重要な事を部分は出てこない。それもそうだ。戦場で興奮するようなクズがヒーローだなんぞ烏滸がましい。俺だってなれるかと言われれば、なれるわけないだろと言う。

 

 急に黙りこくって難しい顔をし始めた甥に、叔父は何かを察したのか盛大に溜息をついた。

 

「なれるかなれねぇかは、俺が判断できるわけじゃない。素質がある程度必要だし、表向き華やかだろうが夢が見られるような職じゃねぇ。ガキの夢を壊すようで悪いけどな。……ただスタート地点は同じだ。目指そうと思うのに資格は必要ない」

 

 10歳の子供に説明するには随分と現実的な口振りである。だがその分明確だ。中身が20歳など優に超えてしまった自分とすれば有難いことこの上ない。

 

「心構えが最も重要だと、俺は考えている。ヒーローを目指すのは強力な個性を持った奴が殆どだが、それらは大体自身の個性に慢心し過信している。そして自己中心的な行動を起こして殉職することも少なくない。その場合多くは、別のヒーローや近場にいた民間人を危険に晒してしまう」

 

「……我ながら10歳の子供になんつー説明してんだか。まあ俺が言いたいのは結局ヒーローになれるかどうかはお前の努力次第。そして蛮勇を働かない判断力を付けられるかってだけだな」

 

 全くもって説得力のある言葉だと思う。脚光を浴びる職業の裏側、そのほんの一角を話されているような感覚だ。叔父の表情を見る限り、子供の感性のままヒーローとして活動し始め生命を失った多くの同業者を看取ってきたであろう。

 それでも、

 

「俺はヒーローなんて呼んでもらえるような奴じゃないけど、それでもあの時の、ヒーローとしての父さんを見た。……今は全く先なんて見えない。それなら今見えてる父の影を、ヒーローの影を追いたい」

 

 壊斗のその言葉に、消太は逡巡するような表情を見せた。様々な感情が織り交ぜられているように感じる。その原因が自分の言葉と立場にあるという事は察しているつもりだ。それでも、

 

「ヒーローを目指したい」

 

 これは過去との決別と、自身に課した"矯正"でもある。戦いを己の利益と生命を得るために使ってきた過去を、このどっぷり闘争に浸かった理性を。清算しようとは思わなかった。それは余りにも都合が良すぎたから。

 ヒーロー業を自己の矯正に使うというのは不純な動機だというのも否めない。

 

「……そうか、なら努力しろ。半端になったら目指す前に俺が止めるからな」

 

 叔父の返事に、漸く壊斗はほんの少しだけ口角を上げた。他人が見れば普段の無表情と変わらないが、何故か消太は何となく理解することができた。

 そして話は終わりだとばかりに立ち上がり、再び自室に戻ろうとする。その姿を、ヒーローの背中を壊斗は強く記憶に刻み込む。

 いずれ己がヒーローであるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「因みに消太さん。なんでヴィドゥアーinゼリーがあるんですか?」

「何でって、晩飯だろ」

「……まさか朝昼晩これだったりします?」

「そうだ」

 

 

 同時に、料理を覚えようとも決意するハメになるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

「残念、けれど予想通りだ。彼があっさり言う事を聞いてくれるとは思ってなかったからね。始末出来ただけでも十分だよ」

 

 

 顔をマスクで覆われた男が内容に合わない実に穏やかな声で報告に訪れた手下へと語りかける。

 彼の手には一枚の写真が握られていたが、最早興味を無くしてしまったかのように手元から離し、紙切れが虚しくヒラヒラと地面に落ちた。

 

「でもまさか、息子まで似通った個性持ちだとは思わなかった。正直ルーインよりも彼の方が将来的には危なかったかもしれない」

 

「……では子供の方も始末を?」

 

「いや、流石に危険だね。ルーイン殺害によって警戒は強くなっただろう。下手に動くと悪手になりかねない」

 

 黒霧はマスク男の"ルーインよりも危険"という言葉に、訝しげな顔を浮かべるが、そんな部下の反応を楽しむかのように男はもう一方の、相澤壊斗の写真を取り出す。子供とは思えない冷めた表情が男を見つめるように写っていた。

 

「彼はルーインよりも闇が深そうだ。齢10歳にして一体何を見てきたのか。襲撃の映像を見させてもらったが、彼がヴィランを倒す時に浮かべた表情は子供が、……いや大人でも見れない」

 

「生粋の闘い狂いに見えたよ。いやあ末恐ろしい」

 

 静かに彼を見る黒霧の方へ顔を向けて、新しい玩具を見つけたような笑みを浮かべる、心の底から楽しそうに。邪悪に。

 

「彼は殺さないよ黒霧。それ以上に僕は彼を所有したい。それに、」

 

 その瞬間黒霧は戦慄した。

 悪党の笑みは幾らでも見てきたはずだった彼は、それらが今までどれだけ陳腐なものだったのかを一瞬で思い知らされた。彼の、先生の、邪を詰め込んだような深い笑顔を前にして。

 

 

「彼次第では、自分から此処()に堕ちてくれるかもしれない」

 

 

 闇もまた刻々と、音を立てずに這いずりだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




無理矢理感は否めない。しかし何とかしてヒーローを目指してもらわないと話が進まないから仕方ないね。

こうして無事に主人公はヒーローへの道を歩み始めました。長くてすみません。
なお悪への道も着々と建設されている模様。

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