元傭兵が転生してヒーローを目指す話   作:マインスイーパー

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ちょっとした家族交流回
早く雄英まで行けたらいいな




第三話 家族

 

 

 side壊斗

 

 

 俺は今驚いている。

 

 今の状況を簡単に説明すると悩み事はないかと聞かれ、とりあえず純粋に個性の把握が出来ていない事を伝えると突然抱き締められて泣かれた。

 全くもって訳が分からん。

 

 一瞬俺の演技がバレたのかと思った。便利な事に子供特有の舌っ足らずな口調は意識せずとも年齢に合ったように出る。子供の身体機能に確実に順応しているからかどうかは知らないが、ありがたい。

 だがこの様子を見るとそういう事でもなさそうだ。寧ろ深刻そうなのは俺ではなく父親のように見える。何か失言してしまっただろうか。人付き合いというのは前世から苦手であるから、こういう時何を言えばいいか分からない。そんな足りない頭を働かせて、なんとか口を開く。

 

「……だいじょうぶだよ」

 

 とりあえず父に応えて自分もその大きい背に手を伸ばし、安心させるように声をかけた。言葉を選ぶ為に脳をフル回転させている影響か、目が忙しなく動いている気がする。

 静かな室内に時計の秒針の規則的な音だけが流れている。

 

「ぼくがんばるから」

 

 何をと言われると言葉に詰まるが、こういう単純な事しか言えないのだから仕方がない。記憶も思考も20歳代だと言うのに言葉のボキャブラリーは小学生もいいところだ。自身が転生した身だと知っているのは俺だけだろうが、まあ普通に恥ずかしい。

 

 父が顔を上げる。その目には若干の驚きが含まれていた。

 何故かは知らないけれどこの人にも思うところがあるのだろう。突然謝罪をして涙を流すほどの悩みが。

 自分の個性についての不安が解消された訳では無いが、個性によって人を不幸にしてしまうというリスクよりも、個性について共に悩んでくれる父を悲しませるというのは何よりも嫌な気分になる。

 

「……壊斗は強いなぁ。ヒーローみたいだ」

「? ぼくはヒーローみたいに強くないよ。わるいひと、やっつけられないし」

「いいや、強いし優しいよ。悪い人を倒せる事だけが強さじゃないんだ。……ちょっと難しいかなぁ。まあ、これから分かるよ」

 

 

 これから分かる、という言葉にどこか重みの乗った感覚を覚える。今日の父はとことん様子がおかしいな。

 

 

 ヒーロー。この超能力が蔓延る世界で力を持った悪意から市民を護る、同じく力を持った正義。前世では現実ではないが、偶像のヒーロー達が沢山いた。それは国を背負った者や愛しい者を体を張って護る者だとか、この世界と同じように正義を貫く者だった。

 

 敵を倒す強さとはまた違う、強さ。

 実際は父が言うような子供では無いが、それでも俺には分からない。20と数年をを生きてきても、俺が知っているのは銃弾の飛び交う戦場で生き残る強さだけだ。

 

 そうではない強さとは何なのだろう。それがヒーロー(彼ら)の本質というものなのか。

 

 

「ぼくも、ヒーローになれるかな」

 

 雲の先を見るようなぼんやりとした思考の中で、何故か俺の口だけは自然と動いていた。

 別になりたいと思ったわけじゃない。俺はあんな表舞台で活躍できるような人間ではないし、する資格もない。いやまず出来る気がしない。

 

 けれど第二と思われる人生のスタートを切ってずっと清算しきれないと諦めてきた"過去"を、ふと見返したくなったのだ。

 

 

「───なれるよ。壊斗なら、絶対」

 

 屈託の無い笑顔。ただ少し、何故だろうか悲しそうな表情が少し残った顔。しかしその口から発されたのは場を取り繕った適当な返答ではない、力強さを含んだ優しい声だった。

 

 よく分からないが堪らなくなって、顔を父の胸に埋めた。じわりと熱くなってきている目頭を見られたくなった。単純に恥ずかしい。

 

 自分の頭に置かれる暖かい手を受け入れる。

 

 

 

 前の世界では顔さえ見たことない俺には分からなかったが、親の愛情の破壊力というのは凄まじいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相澤 破谷……彼が"先生"の御眼鏡に適った個性だと」

 

 

 薄暗い空間。

 

 

 表世界から隔離された、澱みを携えた寂れたバーカウンターの一角。人外の成りをしつつも、バーテンダーの服を異様に着こなした黒煙のような頭部を燻らす男───黒霧の声が陰鬱な空間に下りる。

 その手元には一枚の写真があった。そこに写る、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()男の姿。

 

 黒霧の言葉に、禍々しい黒マスクに顔の大半を覆われた先生と呼ばれる男が薄ら笑いを含めた返答を返す。

 

「そうだよ黒霧、彼は素晴らしい。その手で触れるだけで物どころか人間さえ、それこそ暴発させるように内部から破壊できる。彼ほど我々ヴィランに最適な個性を持った者はいないと言っても過言では無いだろう」

 

「……随分この男を買っているのですね」

 

「それ程価値のある個性という事さ。その持ち主も本質こそ排他的でラショナリスト……しかし残念、というより致命的なのはその立場が最もヴィランに遠い事と、今はもう表側の人間として腑抜けてしまった事かな」

 

 

 そう肩を竦めるが、表情はとても残念そうには見えない。執着しているターゲットをやっとの事で見つけた時のような、無邪気な子供とも全てを悟った大人ともとれる邪悪な貌。その邪気に、黒霧の背を這いずるような寒気が伝う。

 

 黒霧は彼の言葉を施すように、唯ひたすら無言に次の言葉を待つ。

 

 静寂が影とともに降りて、態とらしく残念そうに首を振る仕草を見せたマスク男は、期待通りに言葉の続きを零した。

 

 

 

「欲を言わなくても欲しいのだが、手に入らないというのなら───いっそ殺してしまった方が良いのかもしれないね」

 

 

 

 

 その隠された口元を、悪意に染まった笑みへと歪ませて。

 

 

 

 

 

 




平和な日々に忍び寄る闇
徐々に主人公以外の設定を浮き彫りにしていきたいと思っています

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