元傭兵が転生してヒーローを目指す話   作:マインスイーパー

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評価してくださった方、ありがとうございます!
主人公個性発動時期までぶっ飛ばします。


第二話 個性

 

 

 side壊斗

 

 

 

 俺が謎の赤ん坊になってから月日が経つのは結構早かった。

 

 

 

 

 

 どうやらあの時の俺は一歳にも満たないガキだったらしい。自由に動けるまでは、外に連れ出される時にとにかく周りを見た。ここが何処なのか知る為にだ。

 だがその前に驚愕の発見があった。

 

 

 ほぼ全ての人間が普通じゃない。

 

 

 何なんだこの世界は。なんで手から炎を出すんだ。なんで人間の身体に爬虫類みたいな頭が乗っかってんだ。なんで人間が自力で空飛んでんだ。

 

 言い出したらキリがないが、皆一様に"超能力"と言える不思議な力を持っていた。正直に言うと一度頭を打った方がいいのではないかと思って何度か転倒しようとしたが全て両親に止められ、「壊斗はよく転ぶなぁ」なんておっちょこちょい扱いされた。納得いかない。

 

 

 あぁ、俺の両親であろうこの人たちの詳細も少しずつ分かってきた。

 父親である男は相澤 破谷(あいざわ はやと)という黒髪黒目のまあ東洋人だろう容姿をした普通の人。驚く程自分と似てなくてビックリするが、若干その事を気にしているようだから口には出さないでいたい。

 

 母親である女は相澤 ユーリヤという白髪翠目で、西洋人のような顔付きをしていると思っていたがどうやらロシア人らしい。自分の母にあたる人物に言うのもあれだが、まあ美人である。そして鏡を見るに俺の容姿は母親似だという事が分かった。

 

 何故父が上玉と言える母を捕まえられたのかは俺の中でも最大の謎だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を戻すが三歳になった俺にも、その"超能力"が発生した。

 

 その頃にはかなり自由にテレビを見たり書物などを手に取る事ができ始めていたから、この世界について両親にバレないようにこそこそ情報を集めた。

 曰くここは「日本」。この身体になる前に聞いたことのある国名だ。やっと元の世界と共通した情報を見つけられてほっとした事を覚えているが、その後目にした文書でその安息は見事に消え去ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 発端は中国で発光する赤子が生まれたという事柄から始まったという。

 それ以降各地でこの"超能力"を持った人間が現れ始め、今では世界総人口の八割が能力を持ったものらしい。

 

 世間ではこれを「個性」と呼んだ。

 

 つまり俺が見てきた"超能力"は個性と呼ばれるごく一般的な事だったのだ。周りの無反応から薄々分かっていたが今この瞬間俺の常識は砕け散った。なんという滅茶苦茶な世界観。

 

 

 

 そして俺に発現した個性とは、「崩壊」だった。

 

 詳しく文章に起こせば、「視ただけで人の"個性"を崩壊させる"個性"」。

 この能力は発動型であり、ただ視た個性を無作為に壊すわけじゃない。分かりやすく言えるかは分からないが、スイッチをonにした状態で、特定の個性を視認するという条件をクリアした上で「崩壊させる」意思を示せば能力を使用することができるようだ。

 

 何かもう吹っ切れて、一年間こっそり色々試してみてきて分かったことは、

 

 

 

 一、崩壊させることができるのは個性だけで物体延いては生物は対象外(若干の抵抗はあったが生物については蟻に向けて個性を使用してみた)

 

 二、相手の個性が発動され"出現"した上で初めて崩壊させることが出来る

 

 三、能力を使用する際に分かりやすい徴候がある

 

 徴候というのは、普段灰色の瞳が黄色に光り、逆立つとはいかずとも髪だけが重力から逃れたかのようにざわめく……というか浮かび上がると言えばいいのか。

 

 

 ハッキリ言うと仮に対人戦を行うとすれば自分の個性を抜いた完全な力量任せとなる。これについては元の世界の記憶により、身体自体は慣れて無いものの心得と経験がある為にかなり有利に進められるとは思う。

 だが逆に他人の個性が関係ない場面となると、個性無使用と変わらない状態になるのは痛い。

 

 

(───それよりも)

 

 

 もう一つ、試せていない事がある。

 

 ここでまず前提となる話をしたい。

 

 個性は「発動系」「変形系」「異形型」という三区分に分けられる。内約は名称の通りで、発動型は火や水を生み出したり物を浮かせたりする"自分自身の体そのものとは無関係の空間で個性を使用する"というもの。変形型は身体に尻尾や羽を生やしたり、他の動物へと変化する"自分の身体に影響を及ぼす"というもの。この二つは、能力のオンオフが可能だ。

 

 問題は残りの一つ、異形型である。

 これは変形型の個性発動時と少し似通っている点があるが、決定的な違いは"常に個性が発動している状態"だということ。つまりオンオフが効かないのである。

 

 

 話を戻す。俺は個性が発現してすぐに隠れてその性能を試した。対象とした全く知らない人に個性を使うというのはまた気が引けたが、これからこの超常現象と付き合っていくには早い段階で詳しく知っておきたい……というか単純に興味が強かった。

 

 結果、発動型も変形型も見事に崩壊した。正直変形型はヒヤヒヤしたのだが、崩壊したのは個性だけで身体には何の異常も無かった。

 身体が動物へと変わる個性を持った人間だったが、猫の層がボロボロと砕け散って、元の人間の姿が外傷なく現れた時にはほっとした。発動型も言わずもがな、だ。

 

 そして今回の問題は異形型。俺はまだこの個性相手に自分の個性を試せていない。

 

 他の二つとは違いこれは本人の身体に完全に混ざりこんだ個性だ。個性=身体となっている事も有り得る。その法則が実として俺の個性をその人に使ったとしたら───。

 

 

 正直、過去に散々他人の命を奪ってきた俺が何を今更善人ぶって悩むかとは何度も思った。しかしどうしても個性を使うことが出来なかった。

 

 端的に言えば、恐怖だ。俺は生まれてこの方始めて、他人の命を奪う事に恐怖を覚えたのだ。どうやらたかが四年間、前とは考えられない穏やかな生活を続けて腑抜けてしまったらしい。

 

 いつの間にか子供とは思えない眉間の皺に気付き、指でその箇所を解しながら首を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 ふとまた、あの血みどろな記憶が浮かぶ。そういえば何故俺はあいつを、命までかけて護ったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side破谷(はやと)

 

 

 

 

 僕には最近悩みというか、少し心配な事がある。

 

 

 生活や人間関係に悩みがある訳では無い。寧ろ美しい妻と可愛い子供に恵まれた幸せな人生を送っている身だと自負しているくらいだ。だから少し贅沢な悩みになるかもしれないな。

 

 

 

 

 僕の子供、壊斗は時折年齢にそぐわない表情をする。

 僕や僕の妻───ユーリヤと話している時は表情こそ他の子達と比べると乏しいけれど、確かに子供らしい振る舞いを見せる。しかしふとした瞬間、何処か遠くを見つめているような、"悲しい顔"をする時があるのだ。それは既に諦めを悟ったような陰のある表情。誰が見たって、四歳の子供がしていいものではない。

 

 僕はついに不安になって、壊斗自身にやんわりと聞いてみた。

 

「壊斗は今悩んでることとか、ある?」

 

 

 漠然としているが、直球で聞いた方が子供にとっても理解が容易で答えやすいのではないだろうか。

 壊斗は灰色の瞳をこちらに向けて、思案するように左右へと目を揺らした。ほらまた、賢そうな仕草である。

 

 何度見ても思うが全く僕に似なかったなぁ。髪の色といい肌色といい、ユーリヤがそのまま男の子になったかのような容姿だ。ハーフっていうのは、もう少し日本人っぽい要素が出るもんだと思っていたが個人差というのは凄まじい。まあ、僕はユーリヤみたいな美形ではないし、彼女に似た方が壊斗も幸せだろう。瞳だけ若干灰色で、僕の黒を取り込んでくれたと思えばいい方だ。

 

 あぁまた壊斗の良さについて脳内語りをしてしまった。話を戻そう。

 

 壊斗は少し困惑したような素振りを見せてうんうんと考え出した後、もう1度こちらを見つめておずおずと口を開く。そういえば壊斗は、大人びた行動と共に寡黙でもあるのだ。本当に子供らしからぬ行動が多い。

 

「……こわい」

「? 怖い? 壊斗は、何が怖いのかな」

 

 息子から飛び出した言葉はとても率直で分かりやすいものだった。

 怖い。一体何が壊斗の恐怖に繋がっているのだろう。ユーリヤの話では、壊斗は同い年の子供達と遊ぶより本を読みたがる場面が多いという。もしかして、友人関係で困っているのか。

 しかし僕の安直な考えは、全く見当違いであった。

 

 

「ぼくの個性が、こわい」

 

 

 

 少し、言葉を失った。

 壊斗は僅か四歳で、自分の個性に得意になる事も慢心する事もなく恐怖を覚えている。このくらいの小さな子だったら、何の戸惑いもなく個性の発現を喜ぶ方が普通だろうに。

 

「何でそう思ったんだ?」

「……ぼくの個性が、ひとの個性をこわすから」

 

(……あぁ……)

 

 そう悲しそうに目を細める壊斗を見て、酷く心が傷んだ。

 

 個性というのは遺伝的要素が強く関係する。もちろんその限りではないが、確率からいえば似たような系列の個性が発生する方が多い。炎なら火系列のものだとか、動物に関連した個性ならその通りに同じ種の生物が遺伝したり。

 

 

 

 そして壊斗も、僕の「破壊」という個性の派生のような「崩壊」が発現している。

 

 

 まだ改善されているとは言えた。壊斗が個性限定に壊せるというものに対し、僕は個性など関係なく"万物を破壊してしまえるもの"だったから。

 

 妻は今の社会では珍しい無個性であって、干渉し得るものではない。あと考えられるとすれば、壊斗の個性の特徴が、僕の弟の個性である「抹消」と共通点が見られるところも、恐らく影響していると思う。弟には感謝しないといけないかな。

 

 けれど決して拭えない責任。

 この子の個性を否定するつもりは無いのだが、その小さな心に黒い影を掛けてしまったのが自分だと自覚させられて、じわりと眼に浮かび上がるものを感じた。

 

 ゆっくりと壊斗を抱きしめる。壊斗の顔を見る事がないように、顔をその肩より後ろに寄せて。

「父さん……?」と腕の中から困惑したような声が聞こえるが、顔が挙げられない。更に深く抱きしめて、壊斗の頭を撫でながら、

 

 僕はただひたすら、「ごめん」と言い続ける事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




父親も思うところがあるという場面。

「崩壊」はいわば、相澤先生の末梢とは少し変わった"既に出現した個性の破壊"です。
崩壊自体は一瞬なので、目を開き続けている必要が無いというドライアイの味方。


主人公の両親を簡易的に説明。


相澤 破谷

「破壊」の個性持ち。壊斗の父親。
能力の物騒さに反比例するように穏やかな性格であり、弱気な部分がちらほら目立つ。弟は「抹消」の個性を持ったヒーロー。

相澤 ユーリヤ

無個性。壊斗の母親。
破谷と同じく穏やかだが、いざと言う時は肝が据わった度胸のある女性。列記としたロシア人、しかし日本生まれなので日本語は普通に流暢に話す。




父の「破壊」の個性は主人公と違い触れれば全てのものを文字通り破壊する事が出来ます。死柄木弔との違いは、彼が対象を"崩すように"壊すのと違って破谷は"派手に散らすように"壊すところでしょうか。

どちらにしろ危険な個性であることには変わりないですね。

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