元傭兵が転生してヒーローを目指す話   作:マインスイーパー

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評価してくださった方、ありがとうございます!

遅くなりましたが続きです。ですがまだ原作本編には程遠い時点になります。


第一話 転生

 

 

 side ■■■■

 

 

 目を覚ました。

 

 右横の窓から陽の光が伸びて、視界の端から眩しい刺激が入り込む。

 

 

 いつの間に朝になったのか。耳に届く麗らかな鳥の鳴き声を背景に、しかし朝方奇襲なんて計画は聞いていないからと再び目を閉じて微睡みに浸り始めて、

 

(いや待て、)

 

 寝起き特有の回らない頭で呑気な思考を回すこと約三十秒、漸くこの状況のおかしさに気付いてきた。

 

 

 

 思い返される血飛沫、歪む視界、海底にいるかの様に遠く聞こえる声。

 おかしい。記憶の通りであれば俺は確かに撃たれて死んだ。あの時確実に己の命の終わりを感じたのだ。そもそも敵地で心臓を撃ち抜かれたのに生きて帰られるわけが無い。奇跡を通り越して生命の理を超越していると言ってもいいのではないか。

 

 ならばここは、

 

(…死後の世界ってやつなのか?)

 

 正直くだらないと思うし、視界に写っているのは照明を見る限り明らかにどこにでもあるような部屋の天井であるのだがそう思うしか合点がいかない。死後の世界とはここまで現実味があるのだろうか。生憎聖書などに触れてこなかった人生であるのでそのような知識を持ち合わせてはいない。とにかく、何でもいいからこの意味の分からない状況から引き上げてくれ。

 最早懇願ともとれる、自分から見ても第三者から見てもグダグタな現状に溜息を零そうとしたのだが。

 

 

 

(……溜息どころか喋れねぇ。いや、身体も駄目なのか)

 

 

 自分の身体を自由に動かす事が出来ないのだ。正確に言えば感覚はなんとなくある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。普段戦車乗ってんのに突然小型車使わせられている気分。何だ、何だこれは。

 

 

「お、壊斗が起きたぞ」

「あら、さっきまでぐっすり寝てたのに」

 

 

 視界外から突然知らない男女の声が聞こえた。ますます状況が分からない。というか、壊斗がって誰だ。頭の中はもう大混乱だった。

 そしてフラリと現れた二人の見知らぬ人間。一人は黒髪と黒い目の男で外見からすれば東洋系と言えるか、もう一人は白髪と灰色の目をしたの女で隣の男とは違う西洋系の顔付き。彼等は揃って笑顔だが俺は全く笑えない。知らない奴らにこんな顔の近くで笑みを浮かべられて喜べる奴ななんているか。

 

 そんな俺の葛藤などお構い無しに、突然優しく身体を持ち上げられた。表に出ることの無い驚愕が思考を埋め尽くす。

 考えて欲しい。俺は知る限り21歳で、筋肉もかなり付いてる自信がある。なのにこのどう見ても鍛え足りない男にこうも軽々と抱き上げられたら怖いだろう。俺のリアクションは間違ってない。……いや待てよ。この男の腕に収まってる事自体がおかしいよな。

 

 徐々に核心に迫る思いで恐る恐る自身の手であろう部分を見る。それは成人男性のもので無い。プニプニとしてそうな可愛らしい大きさをした掌と短い指。息が詰まる。

 

「ほーら壊斗、お前は本当に可愛いな~」

 

 可愛い? もしかしてこの流れは俺か? いや、そもそも俺はカイトなんて名前ではない。…名前、は。何故だ。全く思い出せない。

 心臓に直接冷水をかけられたような嫌な予感。俺を持ち上げたままの男は徐ろに何処かへと歩み始め、何かの前で止まる。ゆっくり、ゆっくりとその物体に目線を寄越した。

 

 

 そこに居たのは、先程見た女と同じ白髪と灰色の瞳を携えた、年齢にそぐわない無表情をこちらに向けている赤子。誰だこいつは。そう思ってその子供を抱いている人物に目を向けると、さっきの謎の男。

 

 脳の理解がやっと追い付いてきた。なるほどつまり、この目の前にある物体とは鏡であって、俺のことをじっと見つめてきた赤子というのは。

 確信を持って、()()()()()自分の体の操作をした。

 

 

 

「……あう」

 

 

 

 

 

 

 

 俺じゃねぇか!!!

 

 

 絶叫が口から漏れる代わりに、俺は泣きたくもないのに泣き叫び始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 整理しようと思う。大丈夫だ、さっきより大分落ち着いた。

 

 まず大前提に、俺は何故か赤子の姿になった。しかも記憶の限り元々の"俺"じゃない。容姿が何もかも違う。死ぬ前、というより死んだ時も俺の見た目は褐色の肌と、金に近い髪色、目は薄い青だった。

 だが先ほど鏡で見た俺と思われる赤子は白い肌に若干青がかったような白髪、それに灰色の目。真逆と言っていいほど違う。つまりこれはタイムスリップみたいなものではないという事だ。

 

 それに名前。さっきから幾度と見るあの男女は、しきりに俺を見て「カイト」と呼ぶ。……元の、本当の名前が何故か全く思い出せないのだが、それは確かに俺の名前ではない。だが俺の目を見て言う限り、逃れようもなく自分の事なのだろう。

 

 そして言語。どういう原理なのか俺は彼等の話す言葉を完全に理解しているが、どう聞いてもこれは英語ではない。しかし何処の言葉なのかは学のない俺には全くわからない。そもそもここは俺のいた世界なのかどうかも分からないのだから知りようがない。

 

 総合して出した結論。

 

 

 "生まれ変わった"

 

 

 ツッコミどころが多すぎる。だがそうとしか考えられない。

 

 とりあえず色々試してはみた。まずは身体の操作。さっき動けなかったのは完全に順応してなかったと言っていいはずだ。今はなんとなく感覚が掴めてきて、腕や足を動かすことは可能となっている。だがここで問題点がひとつ。

 こうやって元の俺の年齢に沿った思考が出来ている以外は、すべての機能レベルがこの身体仕様となっている。言葉は喋れない。腕や足をグダグダ動かすことしか出来ない。定期的に意図せず泣く。挙句の果てにはたまに思考さえもそっちの年齢に持っていかれそうになるもんだから大変だ。

 いや、これは思考と身体の調和を図る上での一種の防衛反応なのかもしれないな。

 

 

 そしてあの二人の男女。恐らくだが、"今の"俺の両親だと思われる。時折仲良さげに会話したり距離が近いのを見ると好意的な関係にあるのだろうし、男の方がさっき俺に向かってパパだよーとか言い出したからほとんど確信は持てる。ちなみにかなり鳥肌がたった。

 

 

 

 

 

 ……キャパシティオーバー。

 

 最早眠気が出てきた。使い慣れない頭を使ったからか。有り得ない事のオンパレードで脳が驚かされ続けている。

 まだ分からないことの方が多いが、少しずつ情報収集していけばいいのではないか。寧ろ短時間でここまで状況整理できた俺を褒めたいくらいだ。今更現状を嘆いたって仕方が無いしな。

 

 

 

 

 若干諦め、というか深く考えるのも面倒になってきた俺は、自分に甘い評価基準で柄にもない自画自賛をしながら、放棄するように意識を手旗して眠りについたのだった。

 

 

 

 




主人公、若干のキャラ崩壊。
次点で個性についてぼちぼち判明していきます。

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