元傭兵が転生してヒーローを目指す話   作:マインスイーパー

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書き方を模索する日々。
漫画家さんのように書けば書くほど上達、みたいな感じになってくれればなぁ。

感想、評価ありがとうございます。


第十二話 親睦

 

 

 

 

「相澤ー。なんか食べに行かね?」

 

 

 外壁が硝子張りとなっている廊下で、恐らく戦闘訓練により因縁が爆発した緑谷と爆豪の青春らしい啖呵の切り合いを見ながら、安定した無表情で若干感動を覚えている壊斗に背後から上鳴の声が飛んできた。振り返るとその隣に耳郎もいる。

 

「いいけど、突然だな」

 

「おう、同じクラスだしもっと親睦深めようぜってな! 戦闘訓練もあったし丁度いいだろ? 今色んなやつに声かけてるよ」

 

「……成程」

 

 所謂親睦会というやつだ。今日行われた戦闘訓練に対する反省会をする目的も含まれていると聞いて流石はヒーローの卵と意気込みに感心した。いや我ながら何から目線だと壊斗は内心ノリツッコミらしい何かを入れる。

 

 先程の様子じゃ爆豪は来ないだろうが、緑谷はどうだろう。ギプス装着しなければならないほどの怪我だと難しいか。壊斗からすればクラスメイトであるし来れるのなら話してみたい。

 

 とりあえずは教室に置いてきている荷物を纏めようと踵を返した。

 

 背の高い教室の扉を通ると、室内には既に上鳴によって集められた生徒が何人か集まっていた。中には尾白や障子もいる。

 しかしもうひとりが見当たらないと、集団から目を離した。視界の先にはその後ろで荷物を纏めて帰ろうとしている轟がいる。壊斗はものの一秒二秒己の視線を横にやって悩み、謎の決意をして彼の背中を追った。

 

 

 

 

 

 

「轟、お前は来ないのか」

 

「…………」

 

 振り返った轟は壊斗の意図が読めないと言いたげな怪訝な表情を向ける。壊斗自身もこのような自発的な行動はあまり起こさない為に、自分が引き起こしたとはいえこの微妙な空気をどうしていいか分かっていない。だが戦闘訓練で手合わせをした身としては上鳴の言う親睦会という名の反省会に参加してほしいとは思う。自分の勝手な都合ではあるが。

 

「戦闘訓練の反省会もやるらしいから、お前に来て欲しいと思ってな……」

 

「……………」

 

「こっちの都合で悪いとは思っている。でも時間があるんなら参加しないか?」

 

 

「……………」

 

 通常運転である表情筋の無さでその顔に変化は無いが、壊斗は自他ともに認めるコミュ障に片脚を踏み入れている人間の一人。説得途中も漫画やアニメで"焦り"の表現で使われている、汗が飛ぶモーションが見える錯覚を覚えるくらいには動揺が滲み出ている。

 戦闘訓練の時に手合わせをした奴と同一人物とは思えない様に、暫くはだんまりだった轟も何かに折れたような表情と共に溜息をついた。

 

「分かったよ、参加する。……俺も少し大人げなかった」

 

「……そうか、助かるよ」

 

 何とか説得(?)は成功したようで、壊斗は安心したように息を吐く。というより大人気ないとは何の事だろうかと、戦闘訓練の件を柄にもなく引きずっていた轟の葛藤などこの男が察せられる筈もなく。

 結局、そういえばまだ荷物を纏めてなかったと轟と共に教室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 

 親睦会の提案時刻が放課後だった事もあって、各々都合の関係を考慮しながら集まれたのは上鳴、耳郎、蛙吹、切島、飯田、障子、尾白、麗日、轟、相澤の十人のみだった。挙句言い出したのはいいが店が決まってないハプニングもあったが、こちらはもんじゃ焼きの店が近いしそこにしようぜと平和的に解決した。

 

 

 

 

 

 

「────個性が強力な分ゴリ押しが効くからな。それにかまけて動きが単純化しやすい。相手の持ち球(こせい)が分かった時点でこちらが不利と判断した時に個性抜きの戦い方が可能になったら視野も広がって状況判断に余裕が出来ると思う」

 

「成程な……確かにあの時、氷塊をお前にぶつけるか防御に使うかしか出来てなかった。後手に回っていた焦りもあったが────」

 

 鉄板にもんじゃが焼ける音と、壊斗と轟の堅苦しい声が流れる。

 最早もんじゃそっちのけだ。店についてすぐに轟と壊斗は今回の戦闘訓練について互いの反省点について語り始めたのだが、止まらない止まらない。緑谷の呟き分析に引けを取らない程に間も入れない話し合いが続いている。

 流石に着いていけないと(壊斗に比べれば尚更)コミュ力お化けである上鳴の静止の声がかかった。

 

「ストーップ、お前ら。気持ちは分かるが一旦止めて。ついていけないから。つーかもんじゃ焼けてるから食べねえ?」

 

「そうか、悪いな。……頂きます」

 

 いつの間にかおちゃらけた性格だったはずの上鳴が苦労人の位置になりかけているが知ったことではない。誰のせいでそんなことになってる等微塵も自覚してない男は、食事前の言葉をきっちり済ませて出来上がったもんじゃをヘラで掬いながら「美味い」と平和な事を呟いていた。

 

「でもさ、凄かったよね! 二人共!」

 

 そこにピンクの髪の毛と皮膚、そして独特な角を持った女子生徒───芦戸が身を乗り出しながら若干興奮した声色で笑う。

 しかし自覚が無いこの男は、凄かったとは一体何か、あの轟のビル全体を凍らせた事だろうか、と全く意図を読み取る事が出来ずに、言い出した張本人の芦戸に向けて疑問を含めた怪訝な顔を見せた。

 

「相澤も含めてでしょ。自分の事になると途端に鈍くなるのどうにかなんないの?」

 

 耳郎が隣で溜息混じりの苦言を呈す。それに対して何となしに納得行かないという微妙な表情(のつもりなだけで明らかに変わってないもの)を向けて、もんじゃを口に運びながら悩むように眉間に皺を寄せた。

 

 そもそも壊斗はどの事柄に関しても自己に対する評価が低い。しかしプライドが無いという訳でも無く、相手と自分の力の差等は遠慮なく甲乙付ける。ただ設定したハードルが高い為に他人と自分の"凄い"が一致しにくいだけだ。そのハードルの高さの原因となっているのは某アングラ系ヒーローでドライアイのあの人なのだが。

 

「とは言っても作戦自体は単純な上に賭け要素が入っていたからな。褒められたものじゃないだろう」

 

 事実あの場面、もし障子が轟と共に行動をしていたら勝機は向こうにあった。勝負には読み合い騙し合いが常に付き纏う。それにifを求めるのは結果論とか言えない。しかし確かに上手くいった事は喜びたいけれど、今回の結果は精密に練られた作戦の上での勝ちではないのだ。偶然の要素が強い。故に内容面ではボロカスだ。

 

 

「自分の目標をより高く持っているのか……男らしいぜ! 相澤!」

 

「お、おう」

 

 後に飛んできた切島の熱い言葉はよく分からなかったが周りはあまり納得してないにしろ理解はしてくれたんじゃないか。と頭の中で完結し終えたところで、間が入らないまま入れ替わるようにして尾白の声が聞こえてきた。

 

「訓練の後映像見してもらったけど確かに凄かったよ。一つ一つの動作が洗礼されていたっていうか、……俺も見習いたいんだけどさ、何かアドバイスがあったら教えて欲しい」

 

 真剣な目を向けてくる尾白に対して真面目な奴だなとしみじみ思う。しかし戦闘に関してはその面が仇になる事もあるのだから報われない。壊斗は少しだけ思考を巡らせて再び口を開いた。

 

「尾白は対人戦を心得て無い奴よりかは一歩前にいる状態だと思う。けど映像を見る限り正直過ぎるんじゃないか。何というか、姿勢が"競技"に近い。柔道は敵を最小限の損傷で無力化出来る有用な体術の一つだが尾白の場合規則に影響され過ぎているのかもしれないな」

 

「あー、うん。何となく自覚してるよ。多分それがいつも"普通"って言われる原因なのかもな」

 

「そうかもしれない。だからアドバイスをするなら"相手より優位な状態を作る為に手段を選ぶな"、だな」

 

 その言葉にクラスメイトの表情が若干固くなる。手段を選ぶなというのは偶像的なヒーローらしからぬ行動であり、まだヴィランと直接対峙したことのない卵からすれば好意的に取ることなど出来ないものだ。

 だからこそ今ここで自覚するべきなのだろう。現実はそんなに甘く無いということを。

 

「例えば今日の訓練で俺が轟の立場だったら、俺の個性の発動条件が視認だって分かって時点で必ず目を潰すために動く。……そうだな、それ以外の武器がないから必ず接近戦になるし、相手が近付いたタイミングで顔を掴んで直接凍らせる」

 

「か、顔を」

 

「そう、直接。目元ごと覆って掴めたら反射的に目を瞑るから、出来たら瞑った瞼ごと凍らせて接着させる。鼻の部分だけ残して凍らせとけば呼吸は可能だろ。成功すれば個性どころか視覚も潰せる。一体一ならほぼ勝てるだろうよ。……もし相手が自分よりも格上で、近付くことも難しいとするなら一旦引いて奇襲するって手もあるしな。氷塊使えば天井も簡単に壊せるだろ」

 

 周りの視線などお構い無しに、特別な事は何もないと付け加えて壊斗はまたもんじゃ焼きに手をつけ始める。その様子に切島が拳を握りしめて戸惑い気味に口を開いた。

 

「けどよ……流石に奇襲は男らしくねえだろ」

 

「ヒーロー業は競技じゃないからな。男らしいとか卑怯だなんて主張を聞いてくれる敵なんていない。こっちは捕獲がメインだけど、ヴィランは遠慮無く命を狙ってくる。その殺意に正々堂々なんて姿勢で挑んでたら命がいくつあっても足りないんじゃないか。────真正面で戦うならオールマイトくらいの実力を持ってないとな」

 

 そう、オールマイトは別格だ。あれは驚異的な身体能力だけでヴィランを退ける事が出来る。彼を引き合いに出されると全ての常識が吹き飛んでしまいそうな気がするので、今回の話にはカウントしたくない。

 ここまで言って壊斗は漸く、親睦会を開く為に集まったというのにまるでお通夜の様な雰囲気になっている事に気付き始めた。そしてそれが自分のせいだということも。

 

「……気を悪くしたんならその、謝る」

 

 忘れていたのだ。こういう歯に衣着せぬ発言のせいで過去のクラスメイトに敬遠されてしまった事を。対人関係に置いては本当に学習能力が無いと言うか、我ながら呆れると心の中で盛大な溜息が落ちる。

 しかし、

 

「────いや、素晴らしいと思う。高校生だと言うのにそこまで思慮深いとは、俺もその姿勢を見習いたい」

 

 予想していたような言葉が飛んでくることは無かった。代わりに聞こえたのは高校生にしては妙な堅苦しさを持った、だが真摯な声。その元である飯田天哉の方に珍しく驚いた表情を向けた壊斗へ、それ続くように声がかけられた。

 

「そうだな。俺も見直さないといけないと思ったよ。"普通"のままじゃヴィランに勝てないし」

 

「ケロ、一対多数の状況もあり得るわね。状況によりけりだけど、確かに一旦引くことも心得なきゃならないわ」

 

「己の信念を突き通すにはそれなりの実力が必要って事か。鍛錬あるのみってやつだな、燃えてきたぜ!」

 

「私も浮かすだけやなくてちゃんと戦えるようにしないと……!」

 

 

 打って変わって意見を飛ばし合うクラスメイト達を前に、壊斗は驚きの表情のままで固まっていた。絶対に否定されると思っていた。まさか自分の言葉が肯定されると思わなかった。

 そんな珍しい顔を浮かべた壊斗を見て両隣に座る上鳴と耳郎が揶揄う様に笑い、同じようにもんじゃ焼きに手を伸ばす。

 

「俺も才能マンばっか言ってらんねえな。おし、頑張るか」

 

「同じく。単純に音波だけが攻撃手段じゃいつか手詰まりが起きそうだしね」

 

 両隣からの言葉を聞き、壊斗は驚きを表現した顔を漸く戻して、理解した。

 

 彼等は違う。今迄見てきた者達とは全く違う。目が、表情が、思いが、覚悟が違う。彼等は強い志を持って、狂った競争率を誇る雄英校生という権利を勝ち取った者達だ。それが少し道を塞がれた程度で引き下がるような奴等な訳がなかった。

 

 こいつらは確かに己がヒーローとなる事を心から望んだ、未来の英雄に相応しい卵なのだ。

 語り合いが議論に発展し、さらに熱を入れる彼等を見て、思わず頬が緩んだ。

 

 彼等と共に、更なる高みへ。

 

 

 

「流石ヒーロー科だ。意識が高い」

 

「嫌味かよ! お前にだけは言われたくねーわ!」

 

 

 上鳴のツッコミも早かった。いやボケたつもりなど無かったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、また明日な!」

 

「じゃーね!」

 

 

 あの後反省会兼親睦会は続いていき、それなりに時刻が過ぎてキリの良いところでお開きとなって各々の帰路の方向へと解散する。

 

 壊斗は時刻を確認してから、スマホを取り出して「遅くなる」と連絡をした自身の家主とのSNSの履歴を開いた。しかしどうせ消太さんは作らなければ栄養補給ゼリーで済ますだろう。帰った後に即席でもいいから栄養とカロリーをきっちり取れる内容のものを作らなければ。

 

「相澤」

 

 頭の中で冷蔵庫の中に入っているであろう食材を思い出しながら献立を組み立てていっていると、背後から声がかかった。振り向いた先には、普段通り無表情を携えた轟の姿。だが何となく親睦会に誘った時よりか柔らかい表情をしている。気がする。

 

 しかし先程には無かった、決意に満ちた強い眼差しが壊斗を射抜く。

 

「次は、絶対に勝つ」

 

 その瞳に過ぎる強い光を見た。

 

 確かに結果的にいえば、今日は壊斗が勝っただろう。しかし条件の変動があれば確実に優劣が入れ替わる程に些細な結果だ。いやそれだけじゃない。戦闘、救助、あらゆるヒーロー活動において轟の個性は遜色無く通用する。その性能を見る限り、オールマイトにも通ずるが、正直反則だと思う。

 

 だが、

 

 

 壊斗は顔だけ後ろを見ていた状態から体ごと轟の方へ向け、同じくその目に鋭い光を携えて、清々しい程に真っ直ぐな宣戦布告を受け止める。この一勝だけにかまけ、慢心して勝てるような、追いつけるような奴じゃない。己に対する叱咤さえ篭った声を、轟に突き付けた。

 

 

「お前の個性は凄い迫力だった。それだけじゃない。威力も見た目も汎用性も、桁違いにレベルが高い。けどな、────負けるつもりは一切無いぞ」

 

 

 宣戦布告には、宣戦布告を。

 

 

 数秒満ちた静寂の間の後、壊斗と轟は薄らと、しかし確かに笑う。目の前にいる打ち倒すべき仲間を見据えて。

 

 

 

 

 

 

 




天然の代表格である轟に気を使わせる奴。
原作見てて思うけど皆意識高い系だと思う。流石は雄英のヒーローの卵。

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