元傭兵が転生してヒーローを目指す話   作:マインスイーパー

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開戦。しかし戦闘描写が難しくてどうにもなりませんでした。申し訳な。

感想、評価ありがとうございます。お気に入りが1000件超えたことにも重ねて感動です。


第十一話 戦闘

 

 

 side耳郎

 

 

 

 

 

 轟焦凍の規格外な個性の発動。

 それはビルの地下も例外では無く、そこに控えている生徒がいるモニタールームさえ瞬間冷却されて、まるで冷蔵庫の中にいるような気温に身体が震え息が白く染まった。

 

「ビル全体を凍らせやがった……」

 

 隣で上鳴が絶句している。こんな光景見せられれば誰だってこんな反応するだろう。自分だって声には出してないだけで歴然とした力の差を前にショックが隠せない。こんなの、反則だ。

 

 モニターには脚元や腕が凍りついて動けない相澤が写っている。彼は直前で轟の個性に気づき、相方である尾白を投げ飛ばすという荒業で凍結から逃れさせて裏手から下の階に向かわせた。尾白の行く先には、轟と別れた障子が上の階層に向かっているところだ。このままいけば鉢合わせするだろう。その意図も、二手に別れる前にしていた会話も分からない。だが、

 

「相澤、動いてないよ。氷をどうにか出来ないのかな」

 

「いくら相澤だって無理だろ。無理に出ようとしたら大怪我すんぞ」

 

 受験の時といい体力テストといい、満足に個性を使えてないと言っていたのに平然と高順位を叩き出していたこの男でも、やはり適わないのか。何故かは知らないが、自分の事では無いのに凄く悔しい。

 

 

 しかし耳郎の葛藤などお構い無しに、轟は核の元────相澤の前に姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side轟

 

 

 

 

 

 戦闘訓練開始が告げられてすぐにビルを凍結させた。尾白の能力を知る限り、力はあるだろうが凍りつかせりゃ問題は無いだろう。分からないのは相澤壊斗の方だ。

 

 体力テストの時に個性を使用していなかった為に未知数であり、担任の甥と聞く限り相手の個性に干渉する内容かもしれないのは否めない。だがこちらの姿を確認出来ないまま個性を使われれば対応出来ないのではないだろうか。この通り、半冷だけでどうにでもなるのだ。クソ親父の個性など無くとも俺は負けない。自然と眉間に皺が寄っていく。

 

 

 この時俺は相澤先生の個性である抹消の、相手を見ないと発動しないという点に固執し過ぎていたのかもしれない。

 

 

 

 障子と行動を別に、というより殆ど指示なく置いていく形で凍った階段を上る。ここまで来ても凍結が消えてないところを見るとこの状況を覆せるような個性持ちでは無いな。そして辿り着いた核の置かれた部屋の入口を潜り、予想通りの光景を確認して警戒を解いた。解いてしまった。

 

「……動くなよ」

 

 相澤の表情は動かない。その灰色の目は担任と同じで何を読むことも出来ない暗さがある。

 どうせ動けないだろうが、無理に動かれてエグい怪我を負わせるのも気分が悪い。全域氷に覆われた部屋を軽く見渡しながら、さっさと終わらそうと相澤の横を通り過ぎようとして、

 

(……尾白はどこにいった? 障子によれば尾白も同じ部屋に居、)

 

 

 バキッ

 

 

 瞬間、眼前だけじゃない、横後ろ上下全ての氷に亀裂が走る。自身の目が見開かれた事が分かった。どう見ても自然な壊れ方じゃない。恐らくその元凶であろう横で固まっているはずの男の方へとすぐに身体を構える。

 

 しかしそんな素早い反応も虚しく、轟の腹部に鋭い掌底が突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

「ゲホッ、カ、……クソ、嵌められたのか……!」

 

「───警戒はしてたんだろうが、詰めが甘い。自分の個性を過信しすぎだ」

 

 

 壁に背を強く打ち付け、肺の空気が全て抜け出た錯覚を覚える。止まらない咳を耐えて自分を吹き飛ばした男を睨みつけた。わざと俺が来るまで個性を発動しなかったのだ。油断を誘うために、この一撃を入れるために。そして俺はまんまとその罠に嵌った。自分の浅はかさに腸から苛立ちが込み上げる。

 

 悠然とこちらに向けられている相澤の目は、さっきと違い黄色い光を帯びているというのに、尚も感情は読み取れない。だが口振りには確かな呆れが含まれていた。

 

「納得出来ないって顔してるな。だがこの程度の襲撃でどうにかなるヴィランしか存在しないのなら世間はもっと平和だろうよ」

 

 壁に手を預けて立ち上がる。内蔵に損傷は無いだろうが、重い一撃だったのには変わりない。掌底が入った腹部は未だに痛みを訴えているし、息も満足には整えられていなかった。しかもコイツの個性の詳細が完全に明らかになったわけじゃない。仕方ないと、俺は地面に掌を向けてそれなりに威力を込めた氷塊を相澤に放った。

 

 しかしそれは奴を飲み込む事も出来ずに欠片となって弾け飛び消え失せる。それなりとは言うが、人ひとりは全身くまなく氷塊に閉じ込める事が出来る大きさの筈。それが、一瞬で。

 体を動かした様子は見られない。なら触れずに今のが可能なのか? あの担任は確か目で視る必要があると言っていた。なら視覚で認識するだけで壊すことが出来るのか。

 

 

「核兵器もヴィランもここに居るぞ、ヒーロー。どうした、さっさと来い。止めてみせろ」

 

 

 抑揚の無い声で叩きつけられる挑発。睥睨する轟の視界の先に写る黄色の眼光が、その程度かと嘲笑うようにこちらに向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 side壊斗

 

 

 

 多分挑発に乗ってくれたんじゃないかと思う。これで俺を叩きのめすまで意識はこちらに向くんじゃないだろうか。それを助長する要因として、何故かは知らないが彼はどこか切羽詰まっている気がする。

 その葛藤を利用するようで悪いが、戦闘訓練にそれを持ち合わせる轟も悪いだろう。別の事に意識を取られて勝たせてやる程俺はお人好しじゃない。

 

「クソッ……!」

 

 

 轟の声と共に再び向けられた氷の暴力。だが単調な手、そして相手も再び崩壊させられるだろうと読み込んでいる。真っ直ぐに進んでくる氷塊を手前ギリギリで横に避け、低姿勢のまま駆けた。恐らく相手方の視界は自身の作り出した氷塊により遮られている。

 見た目の派手さは圧倒的だとは思うが、それによって自分も不利を被っているのはいただけない。そんな僅かな隙は一体一の対人戦であればすぐに付け入れられるのだから。この様に。

 

「……くっ!!」

 

 端から現れた壊斗に対し、轟は即座に手を翳して凍結を試みる。が、当然のようにそれも崩壊させられ、個性の発動と突然の消失によって硬直した上半身に痛烈な飛び蹴りが入った。

 氷を張らせた腕でガードはするが、身体ごと再び壁に叩きつけられる。二度目の強襲、腕へのダメージが強いだろう。ガードに使った氷もあの瞬間に消してしまったのだから。

 

 しかし待つ気は無い。追撃をかける為飛び蹴りによって浮いた身体が地面に着いてすぐ、壁に打ち付けられた轟の方向へと走る。今度はあの氷塊を使ってこない。流石に学ぶか。ならば、と手元に纏まった黒いコードを指にかける。

 都合のいい事にこの部屋には、天井や壁に使えそうな配管がいくつか通っているのだ。消太さん以外での対人戦の経験は貴重であるし、コレを使わない手は無いだろう。

 轟は動かない。接近を待って迎撃を図ろうとしているのだろうが、こっちにとって止まっている的が捉えやすいのもまた事実。

 

 案の定轟は壊斗が接近したのに合わせて腕を横薙に振るい、近辺に氷塊を発生させた。だが壊斗は個性が発動される前に上方向へと跳躍する。そのまま頭の上に存在していた配管に片手で捕まり、轟の背後へ降りる。

 勿論反応するだろう。そして振り向きざまに再び個性による凍結。だがそれが施行される前に、轟の身体はバランスを崩して足から宙に浮いた。

 

「、!?」

 

 壊斗が何かしらの攻撃を仕掛けた様子は無い。ただ地面に降りて、不用心に背中を向けているだけ。しかしその右肩からは確かに黒いコードが見えていた。轟は張り詰めたそれを不可解に思うと同時に理解する。そのコードが天井につけられた配管を通って自身の左脚に巻き付いていた事を。

 

 轟に正面から突撃し攻撃が当たるギリギリで跳ぶ瞬間、手元に纏められていたコードを飛ばして轟の脚に巻き付けた。その時巻き付けられている本人は腕を横凪に振るって氷塊を生み出しているので視界が遮られ、また見える範囲でも正面突破してきた俺に注視している。その為に自分の手元にあったコードを見落としていたのだろう。

 その後掴んだ配管にコードを引っ掛け、重力に任せて垂直落下するだけ。そうすれば体重と勢いに合わせて轟は吊り下げられる。恐らくだが相手がコードの感触に気づけなかったはこの気温の急速な冷却で体温低下を引き起こし、追加の症状として現れた感覚麻痺のせいだと思われる。

 

 

 結果上手くいった。だがここで対処できない相手ではない。舌打ちと共に、轟はコードを導火線のように凍結させていく。そのまま掴んでいる俺ごと凍らせる気だろうが、そんな読める手を甘んじて受けるつもりは無い。

 

 背中を向けていた状態から向き直り、配管部分に通ったコードが凍らせられる前に、俺は躊躇無く()()()()()()()()()()()()()()()

 若干驚いた表情。コードから手を離すのは予測してたろうが、タイミングが早かったと思われたのか。いずれにしろその拍子抜かれが次の行動への遅れに繋がる。

 

 やはりというかこのクラスは遜色無くセンスが良く、不安定な体制からの落下にも関わらず轟は身体を捻らせて頭部強打を回避した。だが大体の人間は体制を崩されると持ち直そうが持ち直せないだろうが懐がガラ空きになる。

 その状態で対応してくるのは俺の今までの経験上、消太さんのみだ。

 

「悪いな」

 

 特に悪びれもせずにこれを言ったことに対する謝罪の方が有用な気もするが、ある意味こういう言葉も様式美だ。煽るつもりは無いけど勝者として言っておこうと思う。怒らないでくれ。

 

 そうして空中により対応の出来ない轟の懐に、捕獲用テープを広げて飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 

 

 

「さあ講評の時間だ!」

 

 

 オールマイトの声がモニタールームに響く。

 

 あの後結局轟の確保が済んで、尾白の状況を確認すると優位に戦闘を続けられている事が分かった。まあ確かにいくら握力測定500kgw越えの怪力持ちだろうが、どんな形であれ対人戦をある程度心得た人を相手にすればキツい。それこそ己も自身の体の使い方を知っていなければ軽くいなされしまうだろう。

 もし尾白が劣勢だったらこちらには捕虜がいる訳だしヴィラン役らしく脅迫からの降参をさせようかと思ったが、続ける方がより訓練になるのではないかと制限時間まで闘ってもらうことにしたのだ。結果、制限時間となりヴィランチームの勝利で終わった。

 

 

 というか何なんだこの重い空気。皆一様にして微妙な顔でこちらを見ている。戦闘訓練開始前はもっとこう、賑やかだったり浮かれた声があった筈だ。上鳴でさえそんな雰囲気をしているのだからツッコミを入れたくなる気分になる。お前はそんなキャラじゃないだろ。

 

「今回のベストは相澤少年だな」

 

 

 俺なのか。正直に言うと自分の中じゃ今回の戦闘でベストと言える奴がいない気がする。戦闘の方針を考えたのは確かだがあれは脳筋にも程がある。一体一の対人戦を推奨しただけだ。そもそも何で消太さんの指導を受けて拘束術が得意ではないのかと言うと、俺の技術がそこまで向上できていないからだ。

 あの人なら配管に武器を伝わせて一瞬で勝負をつけてただろう。神業と言える。そして六年で追いつけるような簡単な代物じゃない。今回は状況も相手の相性も良く拘束成功となったが、未だに俺はコードを攻撃と移動用にしか満足に使えない状態にある。精進あるのみとしか言いようがない。

 

 で、尾白だが行動も姿勢も理想通り、というか以上だったが他人任せな面が目立つ。俺の発言は思い返す限り中身がスカスカだったから素直に従うよかもっと反抗的に考えるべきだったのかもしれない。調和を図る上で肯定は強い武器だが、他人に身を任せすぎると思考が微睡んで自滅を招きねない。良くも悪くも"普通"と言える。

 

 轟は個性を過信しすぎていた。初っ端の攻撃は意表が付けていいと思うが、それに対応されると途端に崩れた。個性"崩壊"という天敵との遭遇を予期していなかったのは彼の慢心と言える。障子と共に行動し、共闘しつつだったとすれば勝機はBチームにあったかもしれないから。

 

 障子も同じく轟の強力な個性を過信していた。凍らせた後耳複製を使ってこちらの状況を確認しつつ共に行動していたら圧倒的に優位な状況を作り出せてたはず。だが音に対しての探索を使うこと無く尾白に単独遭遇し、作られることの無かった劣勢に自ら追い込まれた。

 

 

「……俺はこれくらいしか思いつかない」

 

 

 思い返すとブルーになる戦況だ。ヒーローになる上では戦略も考慮しなければ、と勝手に落ち込んでいる壊斗だが、その先でオールマイトが「言われた……」と同じく落ち込んでいる様子も、悔しそうに地面を睨む轟も、「また普通か」と苦笑いで頬を掻く尾白も目に入るわけもなく。

 

 

 結局そのまま少しだけ講評は続き、残りの試合を終えて戦闘訓練は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こと対人戦闘に関しては鬼。轟さんごめん。特に轟の様な発動型で氷形成するのに視認しやすいタイプは崩壊の格好の相手になるので。

次回は間話になるのではなかろうかと思います。

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