元傭兵が転生してヒーローを目指す話 作:マインスイーパー
評価、感想ありがとうございます。
side壊斗
初っ端の個性把握テストのインパクトが強かっただけに、その次の日から行われる至って普通の授業に拍子抜けさせられた。
いや初めがおかしかっただけでこれが普通なのだろう。まさか授業もプロヒーローが教鞭をとってくれるとは思わなかったが。しかし贅沢な話だ。ヒーローの追っかけ辺りがこれを見たら激しい嫉妬を向けられそうだと思う。一方で緑谷は興奮して教師が現れる度に独り言を繰り返していた。
午前の授業も終わって午後の授業である"ヒーロー基礎学"が開始される時間になった頃合に、教室の前の方の扉がスパァン!! と勢いよく開かれた。
「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」
No.1ヒーロー オールマイト。
本当に雄英の教師をやっているとは。しかもヒーロー基礎学を教えてもらえるなどヒーローの卵冥利に尽きるの一言だろう。というか登場の仕方も凄まじいな。流石はナンバーワン。
「画風が違う……!」の声の中提示された今日の授業内容は"戦闘訓練"。基礎的な戦い方や経験を積まずにするのか、という声も上がったが、先に戦闘についての難しさを体感する事も重要なのだろう。
相手が同じクラスメイトで、尚且つオールマイトの監視や講評も恐らく聴けることだろうから有意義な授業になりそうである。
そして入学前に考えて作成してもらったコスチュームが各自に配られ、クラス中が沸き立った。
「着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!」
「「はい!!」」
▼△▼△
「上鳴のはコスチュームというか、ジャージみたいだな」
コスチュームを着替え終えてグラウンドβに向かう途中に零れたのは率直な感想だった。金髪も相まって見た目は不良のそれである。まあ個性に順応した作りだろうから普通のジャージとは一線を画しているだろうが。
「それいったらお前は……特殊部隊? みたいな事になってんぞ。ヒーローっていうより軍人じゃねーか」
その通りなので否定は出来ない。
自分の身体に個性が発動するわけではない為に、実技試験や体力テストの様に状況によっては個性の使用が制限される。その為に六年間も鍛錬をしてきたわけであるからそれを万全に発揮できる状態にしたい。ならば個性を差し引いて戦闘に特化している装備が最も適しているだろうと結論が出た為にこうなった。
簡単に説明するとSWATのそれと言える。全身黒のミリタリーデザインで、違いがあるとすれば、ゴーグルは有るが頭部装備であるヘルメット類がないことだろうか。流石に銃器類は持っていないが、災害時や対人戦非常時などの為に腰後ろの方に所謂軍用ナイフが備えてあったり、手元の仕組みに抗電、火、水、挙句耐久性の跳ね上がった主力武器である高機能の黒いコードも確認できた。ここまで再現してもらえるとは思わなかった為少し嬉しい。……前世の経歴とあまり変わらない見た目になってしまったがそれは仕方ない。
「まあ個性を考えたらこれが一番使えそうだからな」
「へー。ってか俺まだお前の個性知らなかったな。どんな感じなんだ?」
「それこそこれから分かるだろ。というか俺もお前の個性を知らないしな」
形式は知らないが、これから恐らく生徒同士の協力もしくは個人訓練になろう。その場合ならある意味体力テストで手の内を晒すことのなかった連中が有利になる状況。
上鳴と組み合わせで当たる可能性があるとすればここでベラベラと喋ってしまうことも無い。
「さあ!! 始めようか有精卵ども!!」
説明によって今回の訓練システムが明らかになった。これから行うのは二対二による防衛と奪取を目的とした戦闘。それぞれ"ヒーローチーム"と"ヴィランチーム"に別れ、ヴィランは核兵器を模した物体をヒーローに触れられぬように守り、ヒーローがその核兵器を確保する為にヴィランの妨害を掻い潜るという訳だ。
簡易的に状況設定を説明するとすれば、ヴィランは核兵器と共に屋内に立て篭もっている、そしてヒーローはそれを奪取し爆破阻止を目論む、という事である。
勝利条件はヴィラン側はヒーローを両方確保するか時間制限まで核を奪われない事。ちなみに核は触れられただけでアウト。対してヒーローは制限時間までに核を奪うか、ヴィランを両方確保すれば勝ち。
相手の捕縛については支給されたテープを巻き付けるだけで良いらしい。
そしてくじ引きより振り分けられた結果は、この通りとなった。
A 緑谷&麗日
B 轟&障子
C 八百万&峰田
D 爆豪&飯田
E 葉隠&芦戸
F 佐藤&口田
G 上鳴&耳郎
H 蛙吹&常闇
I 尾白&相澤
J 切島&瀬呂
「上鳴と耳郎は同じチームらしいぞ」
「ふーん、上鳴か。頼りなさそうだけど」
「何で入学してからそんな経ってないのに最底辺評価なわけ? 俺悲しいんだけど」
なかなかに辛辣な言葉を掛けられている上鳴はいいとして、俺の相方は尾白。まだ話をした事はないがそこはかとなくいい奴そうな雰囲気はある。話がしやすそうでよかったと思う。これで不良とか目つきの悪い人とか爆豪だったとすれば作戦など知ったことでは無いと突っ走られる未来しか見えない。
という壊斗の予想通りに、初っ端の緑谷&麗日VS爆豪&飯田の対戦で爆豪が暴走して負けていた。これは悔しい、というか恥ずかしいレベル。挙句には講評の時に容赦のない八百万の言葉、自信に満ち溢れていた彼にとっては相当突き刺さるものがあったのではなかろうか。
しかし一戦目だというのに見所のある戦闘だったな。緑谷も爆豪も単純に威力の強い個性であるからてっきり自分の力ありきの喧嘩じみたことになるかと思えば、二人共個性をうまく使って相手の意表を突いていた。
やはりヒーロー科を目指すだけあって鍛え方が違う。
順々に戦闘訓練は進んでいき、遂に自分のチームの番となる。チームは"ヴィラン"、相方は尾白。そして相手となるヒーローチームは"B"───轟と障子だ。
「まず自己紹介からかな。俺は尾白猿夫、個性は……言わなくても何となくわかると思うんだけどこの"尻尾"。一応移動にも攻撃にも使えるよ」
「なるほどな、俺は相澤壊斗。個性は"崩壊"で、目で視た個性を崩壊させられる。……で、早速なんだがこのチームでの敵の捕獲の線は捨てたい」
作戦に当てられた時間は少ない。さっさと話しておかないと訓練開始宣告されてしまう為、自己紹介も早々に方針について話し始めさせてもらう。
自分は方針や指示を出せるようなブレインの役目というのは出来ないのだが。残念ながら前世も指示を受けて動く立ち回りだった。
「お、作戦? 助かるな」
「いや、作戦と呼べるような立派なものじゃないんだ。前提として俺とお前は敵の拘束に悉く向いてない。尻尾も巻き付けるにしては長さの問題で心細いし俺も相手の個性壊すくらいしかできないからな。だから拘束は相手を崩せた時のオマケ程度で考えといての時間稼ぎが一番勝てそうな気がするんだ」
「……分かった。それで配置はどうする? この部屋に入ってこれるのは正面の階段からか裏手の二つだろうけど」
「初っ端の出方にもよるが、相手チームには障子がいるからな。確か体力テストじゃ自分の器官を多腕から発生させる事が出来ていたから、もしかするとこちらの位置が音でバレるかもしれない。この部屋で二人同時にエンカウントする場合は仕方ないが……なるべく互いに離れて闘えたら助かる」
「? 一体一に持ち込むのか?」
「ああ、これについての問題は轟だ。最大出力にもよるが広範囲に氷を発生させることが出来たとすれば互いの戦闘中に轟と交戦してない片方が凍らされる可能性がある。その間に障子の怪力を受けるのは溜まったもんじゃ無いからな。……因みに俺は轟、尾白は障子を相手して欲しいんだが、どうだろうか」
「俺は平気だよ。けど相澤はいいのか? 轟って推薦入試で入った人だしこのクラスの中でも特に手強いだろうけど」
「逆だ。そうしてもらえると助かるのは俺の方なんだよ。障子は常に多腕状態のところを見ると異形型だろうからな。無闇に個性が使えなくなる。圧倒的に不利になるだろう」
これについては嫌というほど自覚している。昔よりはマシになったが、異形型の個性を壊そうとすると体まで一緒に崩壊させてしまうというのはいまだに制御出来ていない。
「多分、轟のような発動型……しかも物体の発生時間が爆豪の"爆破"みたいな一瞬ではない個性持ちからすれば、俺の個性は天敵になると踏んでる。だからこそ機動力のある個性持ちの尾白には障子の足止めないし撃退を頼みたいんだ」
「おお、なんかそう言われるとやる気出るなぁ。任せろ」
話は纏まった。互いに捕獲用テープを確認したところで、訓練開始の音声が響く。
相手方の障子によっては行動が変わるために、尾白が裏手の道に進めるためにその方向へ移動しようとした瞬間、
急速な空気の冷却を感じて、ほぼ無意識の反応で尾白のコスチュームの襟を掴んでいた。
「尾白、力入れろ!!」
足に力を込めて、全力で上に投げる。
尾白が首の閉まるようなコスチュームをしてなかった事に感謝したい。
そうして彼を投げる直前に正面のドアから侵食してきた氷によって、投げられた尾白以外の部屋も核も壊斗も一瞬で凍りつけられた。
相方は流石というか運動神経がいいらしく、無理やり投げたというのに綺麗な着地をしている姿を確認し一つ安心した。これで怪我をしてしまったとしたら完全に判断ミスになってしまう。
「いきなり投げて悪い。怪我はないか?」
「いや俺は平気だけど、相澤の方が凍りついてるし大丈夫か!?」
「俺は大丈夫だ。言ったろ、個性を崩壊させられるって。……で、恐らく轟はここに一人で来るんじゃないか。ビルを丸ごと凍らせたとすれば障子を屋外に避難させている。もし障子が入ってくるとすれば裏手の方が有り得そうだから、予定通りそこから鉢合わせてほしい」
「……分かった。本当に大丈夫なんだよな? いくよ?」
「おう、核は任せとけ」
手短に会話を切って、尾白に裏手から下層に向かってもらう。
そして自身は、自分についた氷を壊さないままここに来るであろう轟を待つ。向こうが来る前に個性を壊すと警戒を強めかねない。
まさかここまで爆発的な威力を持ってるとは、個性の才とは恐ろしい。しかしこれだけ膨大な出力を出したんだ。ヒーローチームは耐久戦に持ち込めないし、そもそも一撃一撃にここまで氷塊を発生させていたらスタミナが持たない筈だ。これで終わらせる気でいるのは間違いではないだろう。油断は少なからずあると見える。
格好の悪い形になろうが関係無い。過程より結果である。颯爽とやって来て、余裕綽々と見下ろす彼を引きずり下ろそうと思う。
まだ誰も現れていない正面のドアを見詰めながら、壊斗はほんの少しだけ口角を上げた。
やめて!轟のチート凍結で、全身カッチコチにされたら、個性を崩壊される間もなく凍死しちゃう!
お願い、死なないで壊斗!あんたが今ここで倒れたら、相澤先生とのスパルタ訓練の成果はどうなっちゃうの? 捕獲用テープはまだ残ってる。ここを耐えれば、Bチームに勝てるんだから!
次回「相澤壊斗死す」。デュエルスタンバイ!
嘘ですごめんなさい。やってみたかっただけ。戦闘訓練本番は次回に持ち越しです。主人公の察しが良すぎる気もしますが、話を円滑に進めるために致し方なし。