元傭兵が転生してヒーローを目指す話 作:マインスイーパー
主人公はそんな奴です。まあ状況が違うんだけどね。
感想、評価ありがとうございます。
side壊斗
「ふーん、相澤先生ってお前の叔父さんか」
体操服の袖に腕を通しながら上鳴が呟く。
あの後更衣室に向かった俺は上鳴からやんわり質問責めを食らっていた。なんということは無い。あの人はプロヒーローで雄英の教師で俺の叔父というだけである。
特に驚くことでも無く、プロヒーローの数は少なくないのだから身内にいたってなんら珍しいことではない。というかヒーロー科に入る奴は大体はそっちの方が多いだろう。
「ああ、……強いぞ。消太さんは」
「言われなくても雄英の教師として入る人とか絶対才能マンだろ知ってる」
「確かに才能もあるだろうが努力の人だから。この前だってな───」
と言った具合で完全に無意識の内に相澤消太という人物の凄さについて上鳴へ語っているといつの間にかグラウンドについており、若干呆れ顔になった上鳴に肩を叩かれた。
「うん、お前が相澤先生をリスペクトしてんのは分かったから。ほらグラウンドついたぞ」
「……おう」
リスペクトという言葉に妙な気恥ずかしさがあったが尊敬しているのは事実であるので否定はできない。代わりに微妙な返事を返しておく。
グラウンドには男女ともにクラスの全員が既に集まっており、彼らの目線の先で何やらタブレットを持った消太さんがこちらを見渡して生徒が揃った事を確認してから口を開いた。
「個性把握テストをする」
「「「個性、把握テスト!?」」」
周囲にざわめきが広がる。隣にいる上鳴も声を上げた一人であり、周りと同じく突然のテストに対して困惑の色を示している。壊斗はその中で表情を崩さないまま口元に手を当ててその意図を汲み取るために脳を回す。
入学式もガイダンスも吹き飛ばしてでも行うのだ。もしかするとそれさえも時間の無駄という事で学校自体が省いているのかもしれないが、どちらにしろ意味の無い行為ではない。
「爆豪、中学校の時ソフトボール投げは何メートルだった?」
「67m」
「じゃあ個性を使っていいからやってみろ。思いっきりな」
消太さんの言葉に目つきの悪い男子生徒が前に出る。あの真面目そうな眼鏡の奴と早々喧嘩をしていた男だ。
「そんじゃまあ────死ねえ!!!」
爆発と共にボールが彼方へと飛んでいき、彼は本当にヒーロー志望なのだろうかと疑いかけた所で消太さんがタブレットをこちらに向ける。画面に表示されていたのは"705.2m"。
「まずは、自分の最大限を知る」
その声に、困惑が支配していた空気が浮き足立つ。今までの体力テストどころか日常でさえ満足に個性を使う事は出来なかったからだろう。
しかし面白そうだとかやる気が出てきただとかと各々の反応で湧く生徒達の中で、壊斗は一人顔を強ばらせていた。いや殆どの者はその表情の変化に気付くことは無かっただろう。
そしてその貌にさせた張本人───相澤消太の、壊斗と同じく変化のない表情に静かな威圧がかかっていく。
「面白い、ね。……ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごすつもりでいるのかい?」
重い声。長い髪から除く瞳が黒い淀みを携えて、生徒の反応に対して明確な呆れを示している。嫌な予感しかしない。
「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
ということがさっきあった。
まああの時の消太さんの顔には全くもって納得してないと、生徒の殆どが浮かれた声を上げた時点ではっきりと出ていたのだから。
挙句除籍処分ときたが、アレは妥協を絶たせる為の虚言の意が強いだろうが半分は本気だと思う。あの目を見る限りまるっきり嘘でしたなんて生温い行為は考えられない。
「いや相澤先生の表情なんて読めねーわ。終始無表情か怖え笑顔してたかのどっちかだろ」
「よく見てみろ。分かるから」
「マジ? ……いややっぱ分かんねぇわ」という金髪の言葉を聞き流しながら、俺は最後の種目である長座体前屈を行っている。体の柔らかさならそれなりだろう。上半身を地面に付けることも容易である。対人戦を行う上で体の柔軟さというのは一種の武器だ。
他の種目もある程度こなしたが、やはり周りの生徒のインパクトは凄い。足についているエンジンにより50m走を3秒台で走った飯田や、浮かせる個性でソフトボール投げで∞という途方も無い記録を叩き出した麗日辺りの、自分の個性を最大限に発揮できている記録というのはまさに超人的だった。
対して壊斗は受験の時の実技試験と言い今回の個性把握テストといい殆ど個性を使う機会が無いのである。しかし他生徒の個性使用の邪魔をするなんて事は気が進まない。
一応それなりに鍛えてあるが故に最下位になることは無いのだろうが、やはり身体強化など単純に強力で発揮しやすい個性と比べれば状況の面で劣っているのは否めない。
そんな事を思っているとソフトボール投げの方向から何か騒がしい声が上がった。
「つくづくあの入試は…合理性に欠くよ。お前のようなやつも入学出来てしまう」
消太さんの髪が逆立っている、個性『抹消』を使用した証拠だ。だがなぜ今のタイミングで使用しているのだろう。その目線の先には緑谷がいた。
「無個性!? 彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」
ふとその周囲にいる不良と眼鏡がまた言い合いじみた事をしているのに気づく。実は仲良いだろお前ら。
盗み聞きする形となったが、話の内容を聞いてみると緑谷が無個性だとかそうじゃないとか。
それより印象に残ったのは、緑谷があの仮想ヴィランロボットの巨大バージョンを壊した今年唯一の生徒だということだ。「止める」ではなく「壊す」である。どんな強力な個性を持っていればそんなことが出来るのだと思った矢先に重ねられた無個性という言葉。
口振りからすると彼は緑谷を高校以前から知っているようだったから嘘ではないのだろうが、なら何でロボットが壊せたんだ。
「SMASH!!!!」
同時に緑谷の叫び声と共に勢いを付けて飛ぶボールを見て、何だ強化系の個性を持ってるじゃないかと脳内で爆豪の言葉にバツを付けかけたのだが、彼のボールを投げた方の手の指が痛々しく変色している様が見えた事で再び疑問が生まれる。身体を犠牲にして発動する個性なのか? けど幼少から発現しているならば力量のコントロールくらいつきそうな気もするが。まるで個性が発現してあまり時間が経っていない子供の様だ。
というかなんで爆豪は緑谷を無個性といったのか。馴染みがあるというのに謎である。あまり面識の無い間柄だったのか?
まあいいか。と考えるのも面倒くさくなってきたところで、爆豪が緑谷に謎の怒号を発して襲い掛かり、消太さんの捕縛武器で止められているところを見た。面識はあるが良い間柄では無かったらしい。まあ何かしら深い事情があるのだろう。
何だかんだであまり興味が湧かなかったので消太さんのドライアイ宣言を聞きながら耳郎と上鳴の所へ行く事にした。
「おっ、全部終わった? 俺は駄目だ。個性全く使えなかったしなぁ」
「ウチも。最下位じゃないかもしれないけどそれに近そう」
「俺も個性は使えなかったな。やっぱ単純な強化系個性が強いみたいだ」
俺含めここの三人は体力テストと個性の相性が全く合わなかったらしい。仲良く世知辛い気分になりながら、向こうの不良とオドオド系の騒動も終わったようで結果発表に移っていた。
順位基準であるトータルは記録の評点の合計値。口頭での説明は時間の無駄だからと相変わらずの合理性で表が空中に投影される。
一位 八百万
二位 轟
三位 爆豪
・
・
・
八位 相澤
(八位、か)
なんとも微妙な位置。まあ十位内に入れたというのはいい事なのではなかろうか。流石に個性無しで三位内になりたいとか無謀なことは思わない。
横で「上鳴に負けた……」と若干失礼な落ち込み方をしている耳郎を不憫に思って肩を叩きながら消太さんを見た。先程と打って変わってケロッとした表情を見る限り、生徒全員御眼鏡に適ったらしい。
「ちなみに除籍はウソな。───君らの本気を引き出す合理的虚偽」
絶叫響くグラウンドの中、八百万が一人冷静に有り得ないと呆れ顔をしていたが、心の中で半分は本気だろうよとツッコミを入れる。あの人がクラス全生徒を除籍処分としてしまった事があるという事実を知っているが故だ。最下位でなくとも消太さんが判断すれば除籍処分は現実となっていたかもしれない。
スタートラインに立った途端に失格処分など溜まったものではないので、取り敢えずは乗り切れた事を良しとしようと思う。
因みにその夜入学式が省かれたのは学校の意向かと聞くと、どうやらうちのクラス以外は普通に入学式に出ていた様だ。何やってんだ担任。
合理的になりすぎちゃってる先生に苦言を呈する癖にめっちゃリスペクトしている。それも主人公です。
そしてさらっと八位に入り込む。体力テストは主人公の個性が使えなくて特に特出する点が無いので省きまくりました。ごめんね