元傭兵が転生してヒーローを目指す話   作:マインスイーパー

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ヒロアカのアニメかっこいいですよね。

並行なんで更新自体は遅いと思われます。また今回は転生前の話なのでヒロアカ要素無しな上に暗いです。


▼ 傭兵:オリジン
prologue."井の中の傭兵は大海を知らずに死ぬ"


 

 

 side ■■■■

 

 

 未来など無かった。希望も無かった。慈悲も無かった。からっぽだった。

 

 歳なんぞ覚えてないくらいガキの頃にやけに体付きのいいオッサンに面白半分で拾われて鍛えられて育った。この前20歳という境目を超えたが、これから先のビジョンなんてものは全く浮かんでこない。頭の中にあるのはひたすら頭をブチ抜かれた死体が転がっている景色だけだ。

 俺は、そういう世界しか見た事が無かった。

 

 

 

 銃弾の数を確認する。ここ最近は特に消費が少ないところを見ると、やはり銃撃の腕が上がったようだ。喜ぶべきなのか分からないが、この世界で生き続ける気でいるのならまあ、褒められたものだと思う。

 

 俺は所謂、傭兵部隊の一人だ。

 地域など関係無く他組織、他国家に金で雇われて人を殺す輩。幼い頃から狙撃術と対人闘術を仕込まれた思考は、身体は、最早この道でしか生きてはいけないし、そもそも拾われた身の俺が未来を選択するなどという烏滸がましい行為が出来る訳もなかった。

 別に嫌で仕方が無いという事も無く、寧ろ学校に通うどころか明日の飯さえ保証出来なかったガキの頃に比べれば贅沢なくらい今の方がマシだ。

 

 銃を握る事さえ戸惑っていた頃が嘘のように戦争へと順応していく。人を撃つ、斬る、殴る行為に心を揺さぶる衝動は起きない。機械のように命を奪う。金のために、俺が生きるために命を奪っている。

 

 

 遠隔操作で爆弾を落とす小型ロボットや人束を一瞬で吹き飛ばす戦車。

 

 

「■■■■、ぼやっとすんな。そろそろ集中しねぇと死ぬぞ」

「……ああ」

 

 

 俺はそんな兵器と、何の違いがあるんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 

 新入りが来た。

 

 特別戦闘の心得がある訳でもなく、死狂いという訳でもない。ただの若い少年だった。

 

 初めて見た時は何とも思わなかった。経験無しに金稼ぎで入ってくる者は少なくない為特に珍しいとも感じない。そういう奴は大体すぐに死んでしまうが。そして俺はコイツの世話係になった。

 まあ鈍臭い奴だった。正直に言えば兵士に向いてない。覚えは悪いし狙撃は下手だし性格は臆病で喧嘩嫌い。何でこの世界に来たんだろうか。けれどそいつは決して、泣き言も言うことも、逃げもしなかった。

 

 鍛え始めて一ヶ月が経った頃の夜、一緒に晩飯を食っている時に、俺はそいつに聞いた。

 

 何故お前はそんなに頑張るのか。

 

 自分が何でこんなことを聞いたのかは良く分からない。どこかセンチメンタルな気分になっていたのか、単純に気になってしまったのか。

 辺りは静寂に包まれていて、広がる夜星と焚き火の橙色だけが視界を支配していたのを覚えている。少年は物珍しいものを見たように少しだけ驚いた顔をして、その後困ったように笑った。そいつがいつも浮かべている表情だ。

 

「……妹と母がいるんです。母は夜まで頑張って仕事をしているけど、稼ぎが少なくて。僕達を学校に連れていけるどころか、三人が食べられる食事も買えるかどうか、ってくらい。妹は我慢していたけど、学校に行きたがってたのを知っていたんです。妹にだけは、学校に行かせてあげたかった。……だから、」

 

 少年の手元にある食器がカタカタと揺れている。震えていたのだ。涙を流している訳では無かった。ただ、死への恐怖だった。

 次の戦場で、こいつはついに前線に出る。新人は経歴関係無く早い段階で戦場に駆り出され、その大半が帰ってこない。帰ってこられるのは見込みがある者だけだ。そうして生き残ったのもが数少ないベテランとなる。

 だが、どう考えても、

 

「僕……いや、俺頑張ります。必ず強くなって生き残りたいんです。だから■■■■さん、これからも特訓に付き合ってください」

 

 気の利いた台詞は言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 市街地に銃声が交差する。一般市民はとっくの昔に逃げたか、未だ建物の中で蹲って震えているかのどちらかだろう。しかしそんな事を気にするほど俺に余裕はない。

 

 瓦礫に身を隠して、敵の意識が逸れた隙を付いて機関銃をばら撒き、再び身を隠す。視覚で確認してはいないが、聞き慣れた悲鳴が聞こえたところを考えると何人かは始末できたんじゃないだろうか。

 ふと横を見ると小動物みたいに銃を抱えて震えている少年が居た。そんなんじゃ標準も定まらないだろうに。

 

 その姿を見ているとまたこの前の夜の事を思い出した。あれ以降、こいつの覚悟を決めたような堅い表情がチラついて仕方がない。こいつは、自分の家族のために戦っている。

 なら俺は? 俺の為に戦っているのか? そうだとすれば本当に、俺はそれを望んでいるのか。答えに靄が掛かったまま今日までズルズルと来てしまっている。偉そうにこいつに対して戦闘術を指南しているが、俺は人に教えを与えられるような大層な奴じゃないんだ。

 

 らしくない程しおらしい気分に落ちていると、急に無線がノイズ混じりの声を上げた。何かおかしい。叫び声が響いている。

 

『ザザ……■■■…■、撤退し…、情報が漏れて…がる。雇い…の野郎が、グルだッ…!!てめぇ!…ソッ、逃げ、ブツ…ザーーーーー』

 

 後には虚しい砂嵐が流れるだけ。

 

 撤退、情報、グル、逃げろ。

 雇い主の裏切りというのは、予測の範囲内であって別段驚くことではないが、如何せん状況が悪い。ここは敵側の敷地内。地の利はあちら側の方が得ている筈だ。

 五体満足で撤退できる確率はグッと下がる。

 ふと後ろを振り返ると、先程の無線を聞いていた少年が真っ青な顔でこちらを見ていた。どうやら状況を説明する手間は省けたようだが、コイツも運が悪い奴だとつくづく思う。

 

「■■■■さん、ぼ、僕ら死ぬんですか」

 

 震えが俺の服を掴む腕から伝わる。初めて前線に立った奴にとっては余りにも酷な状況だろう。それを知っていて尚、俺の口から気の利いた言葉が出てくる事は無かった。何て無能な上司だろうな。

 だが何故だろうか。ここで少年を死なせてしまったら、二度と俺の"兵器としての人生"以外を見る事も聞く事も触れる事も出来ないような気がしたのだ。

 

 結局は自分の為という、俺は最悪な野郎だと思ったがそれでもこいつを死なせたくはなかった。

 

 

 逃走ルートを指で示し、行動を開始する。先程入った新たな無線では、まだ襲撃を受けていない味方が撤退用の車を回したらしい。そこまで逃げ切れば一応は安全を確保できるだろう。

 道中に潜んでいた敵兵の頭を撃ち抜きながら走る。ひたすら走る。足を止めるなと少年に声をかけながら、走る。

 

 やっとの事で味方と合流した。正直奇跡的だと言える。俺の運というより、神様がこいつの為に施しを与えたのではないだろうか。神なんて存在、信じていないのにふとそう思ってしまう。

 

 少年の安心した震え声を聞きながら乱暴に車内へと転がり込もうとして、

 

 路地裏に潜んだ敵兵の銃口が、こちらに向けられているのに気付いた。

 

「ッどけ!」

 

 思えばこんなに大声を出したのは久しぶりだ。ここ最近は誰に声を掛ける場面も無かったから仕方ないか。

 俺の前にいる、路地裏の存在に気づかない少年の首根っこを引っ張って投げ飛ばした。

 同時に銃声が響き、無防備となった俺の左胸に無機質な銃弾が撃ち込まれる。同時に自身も、敵兵に向けてオートマチックの引き金を引いた。

 我ながら見事なヘッドショットだ、ざまあみやがれ。

 

 力の抜けた身体が傾いて地面に叩きつけられた。少年や他の奴の声が聞こえる。おかしいな、まるで水中に居るみたいに遠く感じる。血が抜けていっているからか、少しずつ寒くなってきた。

 

 そういえば、なんで俺はこいつを庇ったんだろうか。

 咄嗟だったから全く分からない。少し未練があるとすれば、それについて考える事が出来ない事くらいだ。

 

 ああ、視界が少しずつ暗く、なって

 

 

 

 そうして俺の()()()人生は、21年であっさりと幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 




初めて自分の指導を受けた後輩を持って、その決意に触れて何かを動かされた主人公という話。

相澤先生の包帯みたいなロープ使った戦闘術が好き過ぎて甥にしたという適当さ。

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