メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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ロビト島へ…

 ザンジバーランド騒乱が集結された翌年。

 FOXHOUNDを除隊したソリッド・スネークはアラスカにて登山を行っていた。

 これに関しては訓練として熟している訳ではなく、除隊後の趣味として行っている。

 このアラスカに移住してから寒く厳しい世界ではあるが、充実した日々を送っていた。

 騒乱終結を期に引退を決意したパイソンと移住し、思っていた以上に暇を弄んだ彼は俺に師事をしてくれる。

 ベテランの…それもビッグボスと共に戦場を駆けた最古参の手練れゆえに学べる事は多い。

 時折ビッグボスとの昔話を語ってくれて、今更ながら元上官の新たな一面を知ったりもしている。

 

 …ただやはりと言うべきか、ビッグボスの話をするとザンジバーランドでの事を思い出してしまう。

 ビッグボスが言ったように俺は戦場での生き方を知った人間…。

 こんな平時を俺は普通に(・・・)生きて行けるのか不安になる時がある。

 今はまだ良いだろう。

 だがこれから先、戦場を知っている俺がビッグボスのようにならないとは限らない。

 

 深く考え込みそうになった思考を振り払い、雪に覆われた斜面を一歩一歩踏み締めながら頂上を目指す。

 今日は天候も良く吹雪いておらず昇り易い。

 頂上に着けばさぞや良い景色を一望できるだろう。

 そう思っていたスネークだったが、山小屋が見えてきた辺りから顔が渋って行く。

 天候が良く、開けた場所だからか大型の輸送ヘリが山小屋近くに着陸していた。

 しかもすぐ側では防寒着を着た見覚えのある人物が赤い飲み物を飲みながら立っている。

 

 「ここは山登りに適している。それをヘリで上がるとは勿体ないぞバット!」

 「雪中行軍も嫌という程したので自主的には遠慮したいだけど」

 

 相変わらずな様子に笑みが零れる。

 防寒着を羽織ってはいるが、その下から覗くのはスニーキングスーツ。

 どうやらただ俺に合いに来てくれた訳ではなさそうだ。

 

 「去年ぶりだな。元気でやっていたか?」

 「ほどほどに…」

 「その様子だと大分叩き込まれたようだな」

 

 身体的特徴ではなく雰囲気が感覚的だが変わったように伺える。

 たった一年ほどでそんな変化したのなら相当な訓練を味わった事だろう。

 お互いに苦笑し合い、バットはグビリと赤い液体を飲み干す。

 装備に対して寒そうにしていない様子に多少気になった。

 

 「その赤いのはなんだ?トマトジュースか?」

 「(苦虫)とトウガラシで調合したホットドリンクです。いります?」

 「………また今度にしておこう」

 「寒いところでは重宝するんだけどなぁ…」

 

 勧められた飲み物を断わり機内へと向かう。

 中に入ると軍服に勲章をぶら下げた軍人というよりは、スーツを着こなした老紳士風の男性が待っていた。

 

 「初めましてソリッド・スネーク。私はCIA所属のロジャー・マッコイ大佐だ」

 

 そう名乗ったロジャーは向かいの席に腰かけるように勧める。

 大型の輸送機の割には搭乗者は操縦者を除いて五名にも満たない。

 人数が人数なだけに広い機内である。

 悟られぬように警戒はしつつ席に座り、バットもその隣へと腰を降ろす。

 二人が座った事でロジャーは話し出した。

 

 「今から約一時間前。326便が何者かにハイジャックされた。君達にはその解決の為に力を貸して貰いたい」

 「ハイジャック?俺に空を行く箱舟に潜入して救出作戦を行えと?」

 「いや、飛行中の飛行機である以上潜入は不可能に近い。私が依頼するのはハイジャック犯が要求する“ピュタゴラス”なるものを入手して欲しいというものだ」

 

 ロジャーは鞄より資料の束を取り出して差し出す。

 受け取ったスネークは目を通すと、それはある島の事情を書き記したものであった。

 ある島…南アフリカにあるモロニ共和国の“ロビト島”。

 近年まで紛争の絶えない国家で、現在は各国から支援を受けて復興に向けて動いている。

 そんなモロニ共和国のロビト島に設けられたロビト理化学研究所に、“ピュタゴラス”ものがあるらしいがその“ピュタゴラス”の詳細は載っていない。

 

 「モロニ共和国に協力要請は?」

 「我々は研究所の立ち入りや主幹研究員であるフレミングとの面会を打診したが、内政不干渉で断られた」

 「アメリカも支援しているのだろ?」

 「ロビト理化学研究所は“BEAGLE(ビーグル)”という表向きは屈指の複合企業が管理しているのだが、そのBEAGLEは復興事業で最大の支援者なのだ」

 「スポンサーは裏切れない…か」

 「我々合衆国はテロには屈しない。交渉も一切しないのが世界に示すべき姿勢だ。………だが、ハイジャック犯に“ピュタゴラス”を渡さなければ乗員乗客517名の人命が消えてしまう。それに326便にはヴィゴ・ハッチ上院議員が乗っている…」

 

 あぁ、そう言う事かと納得した。

 ヴィゴ・ハッチというのはジョージ・シアーズと並んで次期大統領候補に名が挙がっている一人だったはずだ。

 目の前にいるロジャーか、それとも上層部か知らないが、先を見据えて恩を売っておきたいというところか。

 権力闘争かと思うとため息が漏れそうになるも、実際渡さなければ関係のない乗員乗客の命が奪われてしまうのは確かだ。

 

 「それで何故俺に依頼を?」

 「ロイとはかつてグリーン・ベレーにて盟友でな。彼は君らを高く評価していた」

 「キャンベル大佐か」

 

 ロイ・キャンベルの名に少し寂しさを感じる。

 ザンジバーランド騒乱の後に想う所があって除隊した俺だが、キャンベル大佐とて想わぬことがない訳でもなかった。

 彼の場合は立場もザンジバーランドの後処理にも関わらなければならなかったので、すぐにとはいかずとも後処理が終われば除隊するつもりだというのは聞いていた。

 今回の作戦もキャンベル大佐の除隊の話が無ければ彼が頼みに来ていた事だろう。

 小さく息を吐き出して話を進める。

 

 「俺達だけで潜入作戦を?」

 「HRT(・・・)のスペンサー隊も投入される事になっている」

 「HRT?」

 「SWATの対テロ特殊部隊だな。制圧や人質救出を行う」

 「スペンサー隊の任務は研究所の制圧及びフレミングの確保だ。“ピュタゴラス”がなんであるかを知る為にはフレミングは必要不可欠だろうからな」

 「では俺達とHRTでの作戦だな」

 「後で紹介する事になるがサイ機能を持つアリス・ヘイゼルが協力してくれる」

 「サイ…なんだって?」

 「サイ機能。各機関で捜査協力しては多大な実績を残している超能力者だ。テレパシーとか幽体離脱とか…アレだ」

 

 特殊部隊の投入は理解出来たが、超能力などという眉唾に命を預けれるほど酔狂ではない。

 ロジャーの歯切れの悪さもあって、スネークは隠す事無く呆れたと言わんばかりの表情を晒す。

 

 「信用できるのかソレは?」

 「能力が本物なら頼りになると思うけど」

 「お前なぁ…」

 「目の当たりにした事があるんですよ。凄い超能力者に」

 

 何処か懐かしそうな瞳にそれ以上口にするのを止めた。

 両親やらクワイエットでこいつの知り合いがおかしい事にはもう慣れた。

 今更超能力者の知り合いが居たなどと言われた所で「そうか」と納得するほかない。

 さすがにドラゴンとか恐竜に会ったなどと言い出したら疑うがな。

 

 サイ機能に関してはこれ以上言わないとしても、別の事に関しては口を出させて貰おう。

 

 「ところでアレはなんだ?」

 「あぁ、彼の事か…」

 

 ヘリに乗り込んでからずっと気になってはいた。

 機内にはスネークにバット、ロジャーのそして離れた席にもう一人…。

 テンガロンハットを被り、スーツの上にチェスターコートを羽織り、ブーツと手袋、ズボンまで全てを黒一色に統一し、顔はフルフェイスのガスマスクで隠している異様な人物。

 これまで一切喋らず、性別すら隠しているかのような同乗者を気にするなという方が難しいだろう。

 スネークの問いにロジャーは肩を竦ませる。

 

 「今作戦を行うに当たって上から送られてきた護衛……という事にはなっているがね。こちらの動向を知らせる連絡要員、または監視役と言ったところだろう」

 

 護衛役と言われれば一応レッグホルスターに片手用に短身に改良したレバーアクションライフル“ウィンチェスターM1873”を納めている。

 けれどもガスマスクで視線は見えないが顔をこちらに向けている事から見てはいるが、護衛対象であるロジャーからかなり離れていては護衛として機能していないのは確か。

 推測しているように監視役なのだろうなとスネークも納得する。

 

 視線を感じた彼はゆっくりと立ち上がり、大型のケースを手にして近づいて来た。

 多少警戒しながら動向を伺うと、彼は首元のチョーカーらしきものを押さえる。

 

 「簡単な説明はお済で?」

 「あ、あぁ…本当に簡単にだが」

 

 押したチョーカーは変声機だったらしく、彼の声は機械の仲介によって性別すら分からない音声となっていた。

 説明が終わったと確認を取り、大型のケースをこちらに差し出す。

 

 「任務に当たり支給される装備一式です」

 「現地調達ではないのか?」

 「潜入任務全部が裸一貫でなければいけないなんて事はないでしょ」

 「それは確かにな」

 

 渡されたケースの中にはソーコムピストル(H&K MARK23)ファマス(FA-MAS)ブルパップ型ライフル、スニーキングスーツに軍用ナイフレーションや簡易医療キットなどが納められていた。

 バットは先に装備しているが、内容は異なるようだ。

 スニーキングスーツや軍用ナイフは一緒でもハンドガンはベレッタ(M92F)でメインはMP5(H&K MP5)を装備している。

 渡されたケース内を見てみれば医療系にグレネード系が充実している。

 建物内での戦闘が想定されている為か狙撃銃は無かった。

 銃をしっかりと確認作業を行い、渡して来た奴へと視線を向けた。

 

 「で、アンタの事は何と呼べばいい?」

 「…“リボーン・ゴースト(Reborn Ghost)”とでも」

 「リボーン・ゴースト……蘇った幽霊…か」

 

 疑わしい視線を向けたことろで反応は見えない。

 一抹の不安を抱きながらもスネークは任務を請け負い、モロニ共和国の“ロビト島”へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 326便ハイジャック事件により、非公式にロビト島にて作戦を行うにあたって不信感を抱く者が居た。

 CIA所属の捜査官であるチャールズ・シュマイザー。

 彼は前より独自ではあるがBEAGLEを追っていた。

 ゆえに今回の件は好機とも取れる。

 今まで閉ざされていた門が僅かながら開いたのだから。

 兎も角耳にした彼はその関連から自ら指揮を執ろうと名乗り出ようとしたところ、すでにロジャー・マッコイ大佐に先を越されてしまった事実を知る。

 不信感というのはまさにそこだ。

 何も自分が担当したいからという想いから生じたものではない。

 ロジャー・マッコイ大佐が関わった事に対して疑念を抱いているのだ。

 ここ数十年は実戦への参加をしていなかった。

 それが突然参加したばかりか、それは自ら名乗り出たというではないか。

 不審に思わない方がおかしい。

 

 最初こそ僅かな疑念。

 しかし上に呼び出されて調査(・・)を命じられればより深まるというもの。

 

 「少し気掛かりだな。“タブ(・・)”にはその辺りも調べさせるか…」

 

 上からの指示に従って調査を行うに当たって、シュマイザーは連絡を付ける。

 正直疑り過ぎとも思えなくもないが、最近身の回りで不審な動きも見え隠れしている事もあり、警戒を強めて置く事に越したことはないだろう。

 なにより今回の件はやっと訪れた好機。

 これを逃してしまっては元も子もないというものだ。

 

 

 

 

 

 

 スネーク達が説明を受けて数時間後。

 モロニ共和国の“ロビト島”にあるロビト理化学研究所に先に到着したSWATの対テロ特殊部隊“HRT”は予想打にしなかった事態に陥っていた。

 ブリーフィングにて研究所の規模と警備について知らされた。

 詳細なデータを入手できなかったが、さすがにこの短時間では難しいだろう。

 無い物強請りしていても時間が過ぎるだけで解決には繋がらない。

 寧ろ人質を取られているだけに悪化するだけだ。

 訓練で高めた腕と柔軟に対応するしかない。

 

 そもそも外から得られた研究所の警備からそれほど苦戦するとは思えなかった。

 任務は速やかに研究所を制圧してフレミングという人物を確保する………だけだったのだが…。

 

 “HRT”スペンサー隊は研究所に入ると予定通りアルファ()ブラボー()チャーリー()デルタ()エコー()の五つに別れて行動を開始。

 各自が速やかにポイントを制圧する予定だったのだが、思わぬ反撃を受けてしまう。

 

 AKS-74U(アサルトライフル)を装備した連中との交戦。

 それも特殊部隊と渡り合えるほどの練度を持つ敵。

 ただの研究所の警備というレベルではない。

 

 ブラボーチームのテリコ・フリードマンは苦々しい表情でM4カービンを握り締める。

 思いも寄らぬ苛烈な攻撃にあったブラボーチームは自身を除いて壊滅状態。

 他のチームに連絡を付けようとするも何処も戦況は不利。

 望むような返答は返ってこない。

 

 「こちらブラボー。合流地点を見失った!」

 『ブラボー、こっちは駄目だ!敵が―――ッ………』

 「応答を!切れた…」

 

 敵地内で味方と連携も取れず、狭い通路内では隠れる場所すらない。

 腕に自信があろうとも長期戦となれば弾薬が尽きるし、圧倒的な数で攻められれば否応なしに押し潰される。

 苛立ちや不安を募らせても事態が好転する事はない。

 通路の先より敵兵士二名が現れ、不意の遭遇ながらも咄嗟にM4カービンの引き金を先に引く事が出来、抵抗する間もなく二名は連射された弾丸の前に倒れて行った。

 敵兵は排除出来たのだが響いた銃声で敵がやって来るだろう。

 急ぎここを離れなくてはと休む暇など無く走り続ける。

 その間にも無線で呼びかけるも時間が経つごとに状況は悪化の一途を辿っている。

 すでにブラボーはほぼ壊滅してチャーリーとは音信途絶。

 加えてデルタとエコーはようやく繋がったと思った矢先に銃声とうめき声を残して通信が切れた。

 

 『…ぅラボー…無事か?……ちら、アル……応答せよ…』

 

 無線機から掠れながらも聞こえた声に僅かながら安堵する。

 ただ状況が状況だけにすぐには喜べない。

 通路先の角より少しだけ顔を覗かして先を確認すると、少しばかり距離はあるが敵兵が固まっている。

 M4カービンは先ほどの銃撃で弾切れで、残るはUSP(自動拳銃)と僅かばかりの手榴弾のみ。

 集まっている辺りに手榴弾を放り投げる。

 飛んで来たものが手榴弾と理解すると慌てて逃げ出してしまう。

 なので投げて注意が手榴弾に向いた瞬間、跳び出して手榴弾をUSPで狙撃した。

 逃げる間もなく狙撃された手榴弾が爆発を起こして集まっていた敵兵三名を吹っ飛ばす。

 上手くいった事を多少喜びつつ、無線を手に移動する。

 

 「こちらブラボー。アルファ、合流地点を」

 『無事だったか。良かった。合流地点だが西棟の倉庫だ。こちらは部隊が壊滅状態に近い。現在の状況では作戦継続は困難と判断する。長くは持てん。急ぎ合流せよ』

 「了解」

 

 主力であった隊長指揮のアルファですら壊滅状態なんて…と悲観する気持ちを押し殺し、急いで合流地点である西側の倉庫に向かう。

 倉庫までの道のりでは敵兵に遭遇する事無く何とか辿り着く事が出来た。

 扉をゆっくりと開けて、周囲を確認しながら入ると、アルファとの合流に歓喜するでもなく彼女は不快感に苛まれる。

 咽かえる様な血の臭い…。

 暗がりで良く見えなかった暗闇も慣れて見え始めると、床やコンテナ側面に飛び散った夥しい血痕を目の当たりにする。

 間に合わなかったと思うよりも早くに多方向より足音が聞こえる。

 慌てて踵を返そうとするも入って来た扉よりAKS-74Uを構えた敵兵が現れ、周囲のコンテナの陰より同様の敵兵が現れてこちらを囲む。

 最後に正面奥より一人の男が姿を現した。

 身長二メートル越えの巨漢に見合う対戦車ライフル“シモノフ”を手にしていた。

 睨みつけるも当の本人は全く意に返していないようだ。

 

 「最後の一人か?」

 「ハッ、すでに他の部隊は殲滅いたしました」

 「連れていけ。くれぐれも“クラウン”に見つかるなよ」

 

 謎の武装勢力に“クラウン”というブリーフィングにない情報…。

 それが何なのか知る事も調べる事も出来ず、テリコは銃口を突き付けられるがままに連行されるのであった…。


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