メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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灰色狐と裸蛇

 マルフ博士がロッカー奥に隠したOILIXの設計図が入ったカートリッジを回収すべく、バット達と合流したスネーク一行は何とか無事(・・・・・)にカートリッジを入手する事が出来た。

 …と、いうのも隠したマルフ博士の想いを酌んでか自然のトラップが形成されていたからに他ならない。

 グスタヴァより鍵である形状記憶合金のブローチでロッカーを開けたが、隠したとされるカートリッジは見当たらなかった。

 そして代わりと言えば良いのかロッカーの奥に小さな穴が空いていて、そこはハムスターの巣窟となっていたのだ。

 ハムスターと言えば可愛らしいイメージが強かった女性陣であるも、無線で聞いたところ猛毒を持つ“ザンジバーハムスター”という警戒心の高い種と聞けば、顔を青ざめて若干どころかガチで引いていた。

 巣を覗いてみればさすが鼠…。

 かなり大所帯で住み着いており、その奥の方にカートリッジらしきものが転がっていた。

 どうもザンジバーハムスターが引き摺っていったらしい。

 

 対処法はチーズでおびき寄せて対処せよとの事だった。

 ここは戦場…。

 それも敵地のど真ん中である。

 ショッピングに来ている訳ではないのだが…と口にするも、レーションの種類の中にはチーズ入りがあったのでそれで何とかする事が出来た。

 

 …それにしても鳩に濃硫酸にハムスターなどザンジバーランドでは、レーションを使わないと進めない事が多すぎやしないか?

 疑念を呑み込み、スネークはバットとグスタヴァと共に先へと向かう。

 さすがにここから先グレイ・フォックスやビッグボスが出て来ることを考えると博士たちは連れて行けない。

 なのでマルフ博士とマッドナー博士は脱出準備に入ったジェニファーと合流させる。

 無論博士二人で警備の目を逃れる術はないのでホーリーとシュナイダーが護衛兼脱出経路の確保に向かってくれる。

 

 クワイエットに関しては文字通り姿を見なくなった。

 正確には合流した後にバットとなにやら話をしてから姿を暗ました。

 凡そ彼女の目的に関する事なのだろう。

 ビッグボスへの報復…。

 それこそが彼女が協力する目的であり、ここに来た目的なのだから。

 

 「で、なんでこの面子なんだ?」

 「そりゃあ、俺はクライマックス逃したくないし、彼女はグレイ・フォックスに用があるからでしょ」

 「お前…メタルギア戦忘れてないか?」

 「任せますよ。マッドナー博士から聞いてたっぽいし」

 

 バットと合流したマッドナー博士はそれまで罪の意識に苛まれたのか、俺にメタルギアの弱点を教えてくれた。

 アウターヘブン時のメタルギアを改良したものなのだが、脚部と底部を繋げる足首部分が機体の設計上脆弱になってしまったとの事。

 どちらでも構わないが片方を破損させる事が出来れば自重によって潰える…らしい。

 元々裏切っていただけに誤情報を与えてきた可能性も考えられるが、出来れば娘の事も考えて改めてくれたと思いたいところだ。

 合流した一室から隠し通路…通路というよりは滑り台を通って地下へと辿り着いた三人は警戒しながら先にある扉を開く。

 そこは広い一室で、一機のメタルギアが待ち構えていた。

 

 『ここまで来てしまったか』

 

 動き出したメタルギアを見上げながら銃を構える。

 さすがに二重の意味で(・・・・・・)グスタヴァに戦えとは言えないので、スネークとバットは離れて待っているようにと指示して前に出る。

 

 『改良型であるこのメタルギア改Dは完成し、すでに量産型であるメタルギアGの生産体制は整った。もうお前達には止められない』

 「いや、例え量産されようともビッグボスさえ押さえれば問題はない」

 『ビッグボスはこの先に居るがそれは不可能だな。お前達に本物の恐怖と敗北感を教えてやる』

 

 口にせずともここは通さないと言う決意で立ち塞がるメタルギア改Dに、スネークはマッドナー博士の弱点を試そうと突っ込む。

 こちらを吹き飛ばそうとミサイルが放たれるが銃声と共に空中で爆発する。

 

 「ミサイルは任せて。そっちは本体を!」

 「デカイ口叩いて撃ち漏らすなよ」

 「全部叩き落してやるよ」

 

 軽口を叩きながら有線付きなら有線を、無しならそのまま弾丸を撃ち込んで行くのを目を向けず、スネークはただただ接近してグレネードを放り込む。

 繋ぎである足首で爆発が起こるたびにバランスが若干ながら崩れ、博士が言った攻撃が有効な事が証明された。

 

 『やるなスネーク!しかしこれで…』

 

 踏み潰さんと持ち上げられた足が頭上より振って来る。

 大慌てて駆けて回避するも、踏みつけた振動で身体が大きく揺れる。

 援護しようとしたバットにはミサイルではなく機銃を向ける。

 

 注意が完全にバットに向いた瞬間、スネークは今まで温存しておいたリモコンミサイルを取り出して発射する。

 誘導されたリモコンミサイルは足首に直撃し、爆発を起こして大きく破損させる。

 バランスが取り辛く、何とか踏ん張ろうとするも次いで二発目を直撃させる。

 

 『何故こうも…』

 「まだ不完全だったという事だろう」

 『―――ッ、マッドナー博士め!!』

 

 悔やむ様な叫びをあげるも、自らの重みを支えきれずに傾き始めたメタルギア改Dは、三発目を受けて足首が砕けて転倒した。

 立ち上がろうにも手がないメタルギアでは出来ないだろう。

 以外に呆気なかったメタルギア戦に一息つく二人。

 しかしそれで終わるには早すぎた。

 

 操縦室から出て来たグレイ・フォックスが飛び退くと同時にメタルギアが爆発したのだ。

 ミサイルや機銃など武器弾薬を詰んでいるメタルギアの自爆となれば規模は大きく。

 リモコンミサイルを放つ際に多少離れていたスネークは巻き込まれて地面を転がる。

 身体中の痛みを感じつつ、骨折などがない事を軽く確認して周囲を確かめる。

 爆発の影響で周囲は火の海となっており、囲まれている炎によってバット達やグレイ・フォックスがどうなったのかなどが全く分からない。

 

 「バット!グスタヴァ!無事か!?」

 「こっちは何とか無事です!」

 「――ッ、スネーク後ろ!!」

 

 言われるがまま振り返ると炎上するメタルギアを跳び越えてグレイ・フォックスが襲い掛かって来た。

 咄嗟にFNブローニング・ハイパワーを構えて撃つと、弾こうと射線に合わせたマチェットで防がれる。

 ただ向こうも跳び出した直後で狙いが甘かったのもあって弾くのではなく受け止める形で刃が砕けた。

 続けて二射目を放つとそれに狙ったかのように宙を舞う刃の欠片の一つを投げ、排莢口に見事に挟み込まれてしまった。

 

 「ジャム(・・・)った!?」

 

 襲い掛かって来るグレイ・フォックスを前に詰まりを直す事は出来ない。

 仕方なく投げ捨ててCQCで応戦する。

 跳びかかられた事もあって上段からの一撃が重い。

 負担を感じながら受け流して地面に叩き付けるように投げる。

 しかしさすがに簡単には行かず、グレイ・フォックスは身体を捻って上手く衝撃を殺すように転がって立ち上がる。

 一定の距離を保って対峙し、その様子を離れた位置から見ていたバットはモシン・ナガンを構える。

 

 「援護を――」

 「いらん。ここは俺に任せろ!お前はボスを!!」

 「……分かりました。前菜は譲りますからメインは頂きますよ。残って無くても文句は無しで」

 

 手出し無用と口にすると冗談交じりの返答に微笑み、目の前のグレイ・フォックスに対してベレッタを抜こうとすると制止された。

 

 「周囲は炎…良いステージだとは思わないか?――素手だ!素手で決着を付けよう!!」

 「良いだろう。フォックス、アンタの腐った性根を叩き直してやる!」

 「面白い。俺はお前とやれる時を心待ちにしていたんだ!」

 

 銃を抜く事無く互いに武器は拳。

 グスタヴァが離れた位置で見守るも、お互いそんな事(・・・・)に意識を向けてはいない。

 意識を向けるは眼前の敵にのみ。

 

 「フォックスの称号の貴さを思い知れ!」

 

 先に動いたのはグレイ・フォックスだった。

 素早い動きで距離を詰めて一撃を放って来た。

 無論CQCを用いて受け、反撃するが全てが全て防げるわけでもない。

 向こうも高いCQC技術を有し、こちらの攻撃を受け流して反撃しようと応酬を繰り返す。

 

 「何故だ!?何故こんなことを!!」

 「すべてはビッグボスの為だ!お前にとって単なる上官でも俺には二度も命を救ってくれた大恩人。裏切る事など出来ない!ベトナムで白人との二世だった俺は人種差別を受け、強制労働を強いられ、小さくして戦場で戦わされ続けてきた。その地獄がお前に解るか!?」

 

 重い(想い)一撃が入る。

 脚がぐらついて視界が歪む。

 そこを狙って拳を振り上げられる。

 

 「恩返しのつもりかコレが!!」

 

 俺が想像出来ないほどの体験だっただろう。

 だからと言ってビッグボスがやっている行為は世界を混沌とさせ、さらに同様の体験をする子供を生み出しかねない。

 何とか突き出された拳を躱し、踏ん張って殴り返した。

 

 一発、二発と叩きかける。

 向こうも殴られるだけには留まらず殴り返してくる。

 こうなってはお互いに殴っては殴られの殴り合い。

 殴られる度にダメージが蓄積されていくが、それ以上にグレイ・フォックスの方が弱っていた。

 なにせメタルギアの爆発を一番受けたのは操縦していた彼なのだから。

 火傷や裂傷は勿論、爆風や爆音で至る所を負傷しており、見た目的にも頭部から血を流している。

 弱り切っているグレイ・フォックスが先に限界に達するのは道理であった。 

 

 「俺は戦争が憎い!だが、俺達には戦争が必要なんだ。命のやり取りの場でしか生を見いだせない俺達にはな!!」

 

 すでに限界は迎えている筈だ。

 メタルギアの爆発をもろに受けていて、殴り合いでのダメージも加算して満身創痍。

 立ってられる状態でない。

 それでもグレイ・フォックスは立ち上がり向かってくる。

 

 これが最後だと構えるスネークの拳がグレイ・フォックスを打ち抜く事は無かった。

 振り被られた一撃は最早力が入っておらず、そのまま倒れ込むように凭れかかって来たのだ。

 

 「俺達は平和には馴染めない。所詮は戦争屋………戦わなければ己の存在意義を見出せない。そんな俺が誰かを幸せに出来る筈がないだろぉ…」

 「グレイ・フォックス…アンタは…」

 「どうやらフォックスの称号を譲る時が来たようだな。“ファン”の期待を裏切るなよ…」

 「ファン!?まさかお前が…」

 

 “ファンの一人”と言って無線で助言してくれていたのがグレイ・フォックスと知って驚く。

 その当人は凭れる事もままならず、力なくその場に倒れ込もうとするグレイ・フォックスを駆け付けたグスタヴァが受け止める。

 ゆっくりと横になれるように手助けし、彼女は包むように抱き込む。

 

 「グスタヴァ…」

 「…彼の事は私に任せて。行って」

 

 スネークは口を挟む事はせず、グスタヴァにグレイ・フォックスを任せて自分は先に向かったバットの下へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 ビッグボス…昔のコードネームで言う所のネイキッド・スネークは、メタルギアに搭乗して待ち構えていたグレイ・フォックスを抜いて、自身の前に現れた蝙蝠と対峙していた。

 会ったのは初めてだが、アイツとパスの面影があって懐かしさを覚える。

 しかし…だからと言って手を抜くつもりはない。

 立ち止まって追って来た蝙蝠と対峙すると眉を潜められた。

 

 「ビッグボスって聞いてたからもしかしてと思ったけど角がない(・・・・)。アンタ、誰だ?」

 「あぁ、そうか。お前が知っているビッグボスは“エイハブ”…“ヴェノム・スネーク”だったな」

 

 それはそうだな。

 この小さな蝙蝠にとってビッグボスはエイハブであり俺ではない。

 当然の疑問だろう。

 返した言葉に余計に眉を潜められる。 

 

 「偽者本物とかそういう話?それとも“ビッグボス”というのは受け継がれる称号なのか?」

 「いや、俺とエイハブの二人でビッグボスだった(・・・)

 「あぁ、そういう…」

 

 理解して何を想ったのか一瞬だが瞳に殺意が宿り、瞬きを挟むとその殺意は完全に消え去っていた。

 あの年で殺意の…感情のコントロールが幾らか出来ているらしい。

 いつも感情の赴くままだったアイツ(・・・)とは大違いだな。  

 クスリと微笑むも蝙蝠はピクリとも反応を示さない。

 互いに見つめ合う僅かな間を挟み、蝙蝠が先に口を開いた。

 

 「では、始めますか?」

 「そうだな」 

 

 こちらは知っているだけで初対面同士の戦いは悪意や恨み辛みの感情を抜きにして始まった。

 蝙蝠が手にしたのはモシン・ナガン。

 距離が離れていた分、こちらがやや不利であるが長距離と言う程ではない。

 狙いが定まらないように左右に素早く動いて距離を詰める。

 中々に腕はいいらしい。

 当てては来なかったものの、かなり際どい弾丸が通り過ぎていく。

 狙いは鋭く、動く相手にも結構合わせて来る。

 アイツに比べて狙撃の技術は上。

 だけどそれだけだ(・・・・・)

 ジ・エンド程の腕前は無く、動きも比較して遅い。

 年齢と経験に対して腕はかなり良くとも、今まで戦って来た相手と比較すると弱い。

 

 走りながら拳銃を構えるとモシン・ナガンでは対処しきれないと判断したらしく、マイクロウージー(Micro UZI)を二丁取り出して弾幕を張り出した。

 サブマシンガン二丁撃ちの弾幕に突っ込むのは辞め、コンテナに身を隠しながら応戦する。

 

 射撃に自信がある? 

 否と経験と感覚で判断する。

 自信はあるのだろうけど今の攻撃は近づけないようにするためのもの。

 接近戦はお好みではないらしい。

 ならばそれで攻めてやろう。

 

 片方のウージーが弾切れを起こした瞬間にコンテナより跳び出す。

 弾倉を交換しようとでも思っていたのだろう。

 突然跳び出された事に驚いて対処が遅れている。

 やはり腕はあっても実戦経験は存外ないのかも知れない。

 

 舌打ちひとつ漏らしながら弾倉の交換を諦め、邪魔な弾切れになったウージーを投げつけて、ベレッタを抜いていたが最早間に合わんだろう。

 薄くなった弾雨を突破してマイクロウージーを軽く弾く。

 慌ててベレッタをこちらの頭部に向けようとするも、それより早くCQCを用いて軽く投げ飛ばす。

 地面に叩きつけられた衝撃で呻くも、気にすることなくそのまま押さえつける。

 動きも取れなくなった蝙蝠は苦々しそうにこちらを睨む。

 

 「クソッ、アンタ幾つだよ!?少しは歳を考えろ!!」

 「ふっ、良い腕ではあったがまだまだ若いな。敗因はそれか?」

 「万全の状態で挑める方が稀だ。敗因を怪我のせいになんかしない」

 

 見た目はアイツに似ていても中身は異なるようだ。

 撃たれたのか左腕には手当てを施している。

 これがアイツなら痛みを感じる事無く怪我をする前の状態に戻していた事だろう。

 

 この子単体で見れば将来が楽しみ…いや、将来が危惧されるレベルである。

 しかし知っていればアイツの子供という目で見て(比較)しまう。

 CQCの心得は無し。

 奴が得意だった早撃ちの片鱗もなかった。

 

 「…銃の撃ち方、扱いは見事だったな」

 「教えてくれた教官が優秀(オセロット)だったもんでね」

 「そうか」

 

 アウターヘブンではレジスタンスの救出によって仲間を増やし、ここザンジバーランドではこちらの勢力下で勢力を持ってはいたが、どちらも協力意思のあるレジスタンスが関わっての事。

 動物には異様に愛されるらしいが、アイツのように敵兵を味方に引き込むスキルは持っていない。

 厄介な兵士ではあるがアイツに比べたら格段にも劣る。

 

 これは決して落胆ではない。

 アイツとは確かに劣るがこの子はこの子で若くして才覚を発揮している。

 自陣営なら将来が楽しみで仕方がなかった事だろう。

 本当に敵である事が悔やまれる。

 

 「さて、何処かで見ているんだろうクワイエット!」

 

 バットにスネーク、グスタヴァの姿が現れた時点で警戒していたクワイエットの存在。

 逆恨みだとしても狙う理由を持っている奴の姿がない事に危機感を抱かない筈がない。

 姿を文字通り消すスナイパー。

 人間離れした身体能力を持つ彼女にこの老いた身でどれほど喰いつけるかは解らない。

 だが負けを認めてただただ敗北を受け入れる事なぞ出来やしない。

 

 俺はここに居るぞと訴えかけるも思ったほか反応のない事に疑問を抱く。

 すると押さえつけているバットがクツクツと嗤い始めた。

 

 「なにがおかしい?」

 「可笑しいでしょ。ここに居ない人を呼び続ける様は滑稽でしょう。クワイエットさんはアンタに報復しようとしている―――けど、誰がアンタを殺す事が報復内容って言った?」

 

 なんだ?

 この感覚はなんだ?

 ぞわりと背筋を撫でるような感覚。

 この俺が怯えている?

 違う、ただ怯えているのではない。

 何とも言えない懐かしさ………哀愁を感じているのか?

 

 視界に砂嵐が走ったように荒れる。

 無邪気に笑う様がバット(・・・)と被り、その笑みに見え隠れする不安が混じりながらの意思の強さにパス(・・)を見た。

 頭に浮かぶはマザーベースでメタルギア越しだが対峙した二人の姿…。

 重なる記憶と現実の狭間に入り込むも、それを呼び戻したのは基地を揺るがすような数度に渡る爆発らしい振動であった。

 

 「核を手に入れたのもメタルギアありきの話だろ。ならメタルギアが無ければお話にならないのでは?」

 「―――ッ、まさか!?」

 

 嘗めていた。

 アイツと比べて大したことがないと高を括ったツケがコレか。

 やり方こそ違うもこいつもこいつで厄介な事を。

 

 クワイエットが行おうとしていたのは俺への報復。

 なら俺の命が狙いとは限らない。

 奴は…奴らは俺の行動を潰しに掛かったのだ。

 すでに精鋭と呼ばれる連中は破れ、クワイエットを足止めできるような兵士はいない。

 彼女一人でも量産体制にあったメタルギアの工場を破壊する事は簡単だったろう。

 してやられたと苦虫を噛んだ顔をすれば太ももに痛みが走る。

 一瞬の隙を突いて押しのけられ、転がって距離を取られた。

 

 「俺の趣味ではなかったけど、持ってて良かったよ」

 

 何処に隠し持っていたのかジャングル・イーブル(プレデター)64式微声拳銃(ウェイ・ション・ショウ・シャン)を手にしていた。

 抑えられる直前に見られないように抜いており、腕も抑えていた為に何とか狙えた太ももを撃ったのだ。

 掠めただけだが効果はあった。

 

 「歳を考えろというならもっと年寄りを労われ」

 「俺より元気だろアンタ…それにその役目はあっちに譲るよ」

 

 もう疲れたと言わん雰囲気のバット(・・・)の示された先には、負傷しながらもこちらに敵意を向けているソリッド・スネークが立っていた。

 

 「…蛇は一人でいい……か」

 

 今日は本当に懐かしい事ばかり脳裏を過る。

 ネイキッド・スネークはソリッド・スネークと向かい合いながら、ここには生えていないオオアマナの香りを思い出すのであった。


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