メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 投降遅れました。
 すみません。


METAL GEAR2:ザンジバーランド騒乱
子蝙蝠再び戦場へ


 あれから四年は経ったのか…。

 宮代 志穏(みやしろ しおん)はぼんやりを思い返す。

 荒れに荒れた幼き日々を過ごし、恩人であり恩師でもある彼女(クワイエット)(ヴェノム)と再会したあの一時。

 夢のようだ。

 良い意味でも悪い意味でも…。

 再び出会えた事は嬉しくあり、クワイエットさんとの戦いは―――可笑しな話だが楽しかった。

 なんていうか心が滾った。

 結果は敗北であったが、俺にしては善戦したと思っている。

 幾らか…というか大きく幸運に恵まれたというのもあっただろうけど…。

 

 ヴェノムさんとの戦いは…悲しかった。

 だけど俺に彼の意思を歩みを戦いを止める術はなかった…。

 助け出す術すらも…。

 振り返る度に想うのだ。

 俺にもっと力があったならと。

 

 もし(if)たら(if)れば(if)を考え出したらキリがない。

 あの時の自分は至らなかった。

 ならば同じ局面では至れるように鍛えるしかない。

 いやだったが親父に頼んで幾度と無茶な高レベルのミッションを熟して来た。

 あるか知れない次回の為に…。

 

 実際あの一時の経験は事実だったのだろうか?

 確かにソフト(ゲーム)は届いたが終われば(ゲームクリア)、入っていたダンボールもだが記録そのものが消えていた。

 記録上は俺はそんなゲームをした事も経験した事も無い。

 けど未だに記憶に鮮明に、この身体には人を撃った(・・・・・)感覚が強く残っている。

 そして俺自身としては記録より記憶を信じている。

 これこそ可笑しな話だ。 

 俺は現実的な幻想や夢の可能性ではなく、非現実的で自身が人殺しであると肯定したがっているのだから…。

 この考えや経験は母さんには話した。

 すると母さん曰く、どういう意味か親父も死生観について疎い(・・・・・・・・・)ところがあるらしいから受け継いでいるのではないかとの事。

 親父と一緒と言われている様でなんか嫌だが、不思議な事に納得もしてしまう。

 

 なんにせよ四年と言う月日。

 数字にしては小さく、先が見えずに待つ身としては長かった。

 だけどようやく待ちに待った時が来たのだ。

 

 あの時同様にダンボールが届き、見知らぬソフトが同封されていた。

 早速起動させると意識を失うように遠退き、真っ白な空間に紫色の人影(シルエット)が立っていた。

 ただ以前と違って周囲には多くの戸棚が先に配置されており、(紫色の人影)がカウンターにて大事そうに銃を磨いていた。

 

 『よくぞお越しくださいました。大きく成られましたね。以前とは見違えるようです』

 「あれから四年が経ったから」

 

 当時十三歳だった俺は今年で十七歳になる。

 背も伸びて少しばかり大人っぽくなっただろうけど、顔立ちは親父と母さんの血筋なのか幼く見えるが…。

 磨いていた銃―――ベレッタM92を大事そうに置き、紫は嬉しそうな声色で声を掛けてきた。

 それもなにもが懐かしく、嬉しくも感じる。

 逆に紫は申し訳なさそうな雰囲気を纏う。

 

 『多分ですが聞きたい事はありましょう。私にはそれらを答える許可は下りております』

 「うん、聞きたい事はあるよ勿論。問い質したい気持ちもある」

 『では―――…』

 「けどいらない。別に白黒つけなきゃいけないって事もないから。それより無駄話するよりはゲーム(・・・)をしたいからさ」

 

 どうも俺は親父同様にホリック(中毒)らしい。

 返しに驚きながらも喜ばしい雰囲気を出す人影は、軽く手を叩くとカウンターがショーケースに様変わりを果たした。

 収められているのは前回使用した(・・・・)………いや、語弊がある。

 装備していた(・・・・・・)武器が納められていた。

 MP5とか装備しただけでほとんど…ってか使ったっけって感じだったな。

 

 『そう言う事でしたら準備に入りましょうか』

 「以前に比べて増えてない?」

 『四年が経過して使用できる武器も増えましたので。武器は前回と同様で?』

 「いや、ハンドガンはベレッタ(M92F)で。サプレッサーも用意してくれ。狙撃銃は…レミントン(M700)、やっぱりモシン・ナガンで頼む」

 『畏まりました』

 

 前回は身の丈に合わないデザートイーグルで痛い目を見たからな。

 使いたい武器(・・・・・・)ではなく使える武器(・・・・・)で選ばないとな

 モシン・ナガンを頼むと何処か嬉しそうに返事をして、傷一つないベレッタM92Fと少しばかり傷が入った(前回使用)モシン・ナガンが用意される。

 続いて弾薬にサプレッサーも置かれ、それらを手に取って確認してから装備していく。

 

 『他に入用な物などはありますでしょうか?』

 「近距離での制圧力が欲しい…かな。取り回しの良い奴」

 『それならサブマシンガンかマシンピストルなどですかね。UZI(ウージー)は如何でしょう?』

 「あー…ならマイクロ(Micro UZI)を二丁。後は対メタルギア用の装備が欲しいところだけど重すぎるな」

 『狙撃銃を対物ライフルに変更。または対戦車用の手榴弾に致しますか?』

 「大抵対人なのに対物で撃てと?それに対戦用ってめちゃくちゃ重たいだろ」

 

 それにあまり持ち過ぎて動けなくなっては本末転倒だ。

 広い戦場で芋スナするならまだしも、前回と同じようなステージ(戦場)だったら範囲が狭められるので狙撃よりはマークスマン向けだろう。

 待ち構えるにしたって敵地のど真ん中で、それも時間制限とかありそうだし…。

 移動しながらの戦闘間違いなし。

 マークスマンライフルで制圧力を模索するならFALとか良いんだろうけど、単発(セミオート)なら兎も角連射(フルオート)は命中率悪いんだよな。

 そもそもアサルトライフル自体に慣れてないから、出来るだけ使わない方が良いだろうしな。

 

 「手榴弾と現地調達で何とかするしかないか」

 

 悩んだ末にそう結論出して、親父だったら裸装備で行っても何とかしそうだなとか思い、少しばかりイラッとする。

 そんな想いを他所に人影は今回の作戦内容の説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 原理が確立されてから競う合うように研究・開発が行われた核兵器。

 対抗する様に核を持つ国では威力や射程、小型などが施されて配備。

 持たぬ国は核の脅威に怯えながら持つ国の“核の傘”に入れて貰って、仮想敵国や不安要素に対して抑止力として働いてもらう。

 世界は不安定な均衡を保つために危機感を覚えながら核を求めていた。

 

 それも昔の話…。

 1990年代後半に入ると核を持つ大国同士の問題も解け始め、各紛争地域では和解が進んだ。

 ともなってか世界は急速に安定していき、即発状態だった核への危機と脅威はひと段落した。

 大きな大戦を経て現在は最も安定した時代に足を踏み入れたと言っても過言ではなかった(・・・・)…。

 

 そう…なかった(過去形)のだ。

 ソ連・中国・中近東に隣接する中東の小国―――“ザンジバーランド”にて軍事政権が樹立。

 小国でありながらも世界各国の“廃棄用核兵器貯蔵庫”を襲撃して世界で唯一核武装を施すと、隣国に対して無差別侵攻作戦を開始。

 

 ようやく核兵器の保有から解き放たれた世界に、核兵器に寄る脅威が迫っている。

 そんな危うい世界情勢下の中、アウターヘブンで活躍した後にFOXHOUNDを除隊し、CIAにスカウトされるも局に反発して半年で去り、カナダで養生生活していた“ソリッド・スネーク”は呼び戻されていた。

 ブリーフィングルームには自分以外の隊員は居らず、説明の為に現れたのは呼び出した張本人であり、現FOXHOUNDの総司令官である“ロイ・キャンベル”大佐。

 

 「資料には目を通したな」

 「あぁ、随分と無茶な作戦ではあるが…」

 「君なら完遂できると踏んでの作戦だ」

 「期待は嬉しいが俺一人で…か。グレイ・フォックスや他の隊員の協力は得られないのか?」

 

 作戦内容はザンジバーランドへの潜入工作。

 とは言っても別段ザンジバーランドをどうにかしろとか敵総司令官を倒せ、核兵器の無力化などという無茶で高度な任務ではない。

 簡単に言うとザンジバーランドにて捉えられているチェコの生物学者“キオ・マルフ”博士の救出。

 全世界に核兵器をチラつかせながら戦争を吹っ掛けたザンジバーランドに、悪く言えば生物学者の救助にアメリカの特殊部隊がわざわざ出向くなど通常ならあり得ない。

 勿論政治的関与によっては別であるが…。

 

 事はそう簡単な問題ではない。

 現在世界では深刻なエネルギー問題を抱えている。

 まだまだ持つとされていた石油資源の枯渇が見え始め、代理エネルギーを見つける事も出来ずに危機的状態に突入。

 そこに一人の救世主が現れた。

 彼は高純度石油を精製する微生物“OILIX”を発明。

 言わずもがなだがその微生物を発明したのがキオ・マルフ博士であり、博士はアメリカの学会で発表すべく渡米しようとして捕まってしまった。

 ザンジバーランドが核兵器のみならず“OILIX”まで手にしてしまっては、世界の均衡はよりザンジバーランドに傾いてしまう。

 中には核や武力の支配には抵抗しようと思う国でも、エネルギー問題の打開する方策をチラつかされれば否応なしに従属する国も出てくるだろう。

 ありとあらゆる経済大国もエネルギーが無ければ機能が停止するだろう。

 何処もだがそんな軍事的優位をザンジバーランドに与えたくはない。

 それも介入し易い咎めれる手段(・・・・・・・・・・・)用いた(誘拐)なら尚更手を出さないなんてあり得ない。

 無論救出成功した暁にはその技術を幾らか優遇、またはこちらのものとして国益にしたいという考えもあるだろうがな。

 

 問いかけに対して大佐は渋い顔を晒す。

 

 「すまないがうちで援軍は用意出来なかった」

 「何か問題が?」

 「あまり口にはしたくないが君なら問題ないだろう。グレイフォックスを始めとした幾人かの隊員が行方不明。中にはザンジバーランドに合流したと思われる者も…」

 「それはまた…理由は解っているのか?」

 「確証どころか一切解らないのが現状だ」

 

 隊員の中でも最強と謳われるグレイフォックスの消失に、隊員が敵方に属しているという事実。

 内容的に人数を増やしたいところであるが、身内に裏切者がいると思うとそれは難しい。

 それで俺一人という現状が出来上がった訳か。

 敵の繋がりは無いと信頼され、実力もあると認められて誇らしげにすればいいのか、逆に俺しかいないのかと嘆くべきか。

 

 「了解した。なら俺一人で行こう」

 「すまんな。だが無線の協力であるがマスターからの助力は得たぞ」

 「マスター?まさかマスターミラーか!?」

 

 思いがけない名に驚きを隠せない。

 マスターミラー………マクドネル・ミラーは色んな技術を叩き込んでくれた教官だ。

 彼の助力というのは確かに心強い。

 少しばかり余裕が心に産まれると大佐は微笑を浮かべた。

 

 「それだけじゃないぞ。今回の作戦は合同任務だ。バットという“狙撃手”が相棒(バディ)となる」

 「アイツもか!それはそれは…」

 

 また会えると思うと嬉しくもあり、狙撃手の援護は頼もしくなる。

 それが(バット)なら尚更だ。

 だがそれ以上に気に掛かる点が一つある。

 バット(・・・)と口にする大佐の声色は何とも言えない懐かしさを秘めていた。

 

 「大佐、一つ聞きたい事がある」

 「なんだ?」

 「マスターもそうだったが、蝙蝠(バット)とは何者なんだ?」

 

 前々だがポロっと彼らの昔話に登場する名前。

 コードネームとしてはただ蝙蝠を現したものなので、奴が大佐やマスターが言う蝙蝠ではないと思うも、少々気になって仕方がない。

 以前はそこまでではなくて聞いた所ではぐらかされても気にしない程度だった。

 されどあの蝙蝠と出会って興味は強く成った。

 これも問いかける機会だろう。

 

 「そうだな…いやはや…」

 「前もだが何故マスターも大佐もはぐらかす?」

 「違うんだ。どう言って良いものか解らんのだ」

 

 言い辛そうな大佐は少し悩む。

 その間にスネークは煙草を咥えて火を付ける。 

 吐き出した紫煙により薄っすらと室内が満たされる頃、ようやく大佐は重い口を開いた。

 

 「私が実際に見て理解している実績。噂程度の物も含めた情報による記録。それらを語ればアレはビッグボスに並ぶ英雄だ」

 「ビッグボスに並ぶ!?そんな奴が居たのか(・・・・)?」

 「居たのか(過去形)というのも正確ではない。正式な記録では奴の死亡は記録されていない。生きている確証もないがな。だけど多分過去形にするのは間違っている。そう私は…いや、蝙蝠を知る者は全員が思っているだろう。記録や実績は英雄染みている阿呆と間抜けと非常識を総動員したあの馬鹿はきっと今も何処かで………まぁ、縁があれば会う事もあるだろう」

 「あの狙撃手は関係者か?」

 「それは私には解らない。そもそも私が知っている蝙蝠は狙撃に向いているとは思えんのだがな。奴なら単身で突っ込んで敵も味方も混乱させただろうし」

 「本当にビッグボスに並ぶ英雄なのか?」

 「だから言っただろう。“記録や実績は”と。実際に関わってみると違うんだ」

 

 懐かしさからか楽しそうに笑う大佐に、スネークは疑問符を浮かべるもその意味を理解することは出来ず、任務の為の準備に入るのであった。

 

 

 

 

 

 

 ザンジバーランドは小国ながらも強大な力を保有し過ぎた。

 核という戦術兵器は如何なる大国であろうとも報復を恐れる脅威であり、質や練度が高いだけではなく傭兵や反政府組織などが自らの意思で(・・・・・・)傘下に加わろうとはせ参じる始末。

 正面からの敵と戦うだけでは済まない。

 何処から攻撃されるか解かったもんじゃない。

 

 ザンジバーランドを軍事政権として樹立させた者は、葉巻を咥えながら各地の戦況に目を通す。

 全部が全部思い通り…とまではいかなくとも戦況は優勢。

 超大国と言われる列強も核の前に動けずにいる。

 今は(・・)それで良い。

 目的を達する事を考えれば彼らには沈黙して貰っていた方が余計な手間が増えずに済む。

 

 「良かったのかこれで…」

 

 一人の戦士が敬いつつも友人に接する様に語り掛ける。

 他の兵士では恐れ多い相手なれど、彼はザンジバーランド内では最も信頼厚い存在。

 誰もが認め、咎めるものなど居よう筈がない。

 掛けられた当人もそれが望ましく、優しい瞳を向ける。

 

 「良かったさ。俺達は進まねばならない」

 「世界が敵に回る。アイツ(・・・)が居ればどれだけ心強かったか…。俺では代わりになる事も出来ない」

 「お前はお前だ。奴の代わりが務まらないようにお前の代わりもまた居ないんだ…それにアイツが居たら居たで別の問題起こしてそうだしな…」

 「違いない」

 

 懐かしい顔を思い返して二人は笑う。

 久方ぶりに心から笑い合った二人は

 

 「“山猫”は兎も角“狼”は良かったのか?参加したがっていたようだったが…」

 「それこそ構わない(・・・・)だ。アイツらが…いや、あの子(・・・)が戦うべきはここではない」

 

 この戦いは俺達が行うべきものだ。

 あの子…彼女が彼女の為に戦う時はいずれ来るかもしれないが、それは絶対に今ではないと断言しよう。

 “山猫”は別で動いているのでこちらには合流出来ない。

 奴ならば外の仕事を任せられる。

 

 胸中に懐かしさが漂っていたが、それを引き締めた矢先に無線機が音を発する。

 

 『緊急連絡!捜索隊の壊滅を確認。生存者は…ゼロです…』

 「またか…」

 「これで五件目か…」

 

 二人はうんざりしたように急な報告にため息を漏らす。

 ここ数週間で警戒していた部隊が突如として襲われる事件が多発している。

 姿も人数も捉え切れていない敵に対して、スカウト兵などで組織した捜索隊を派遣しているものの結果はこの様…。

 当初はある理由(・・・・)からレジスタンスか何かかと思ったが、これほどの強者となると違うのだろう。

 

 「合流した連中に任せるか?アレでも(・・・・)一流らしいが腕を見る良い機会だ」

 「止めて置こう。もし俺の予想が正しければ相手にもならん」

 「なら俺が―――」

 「奴の相手は俺だ。亡霊(ファントム)の相手は亡霊(ファントム)がしなければ怨念だけが残るだけだからな」

 「亡霊…そうか。そうだな」

 「警戒レベルを上げるか」

 

 まだ見ぬ魔弾の射手(・・・・・)を気に掛けながら、彼らは警戒を強める。

 いずれ来る奴ら(・・)からの刺客。

 こちらの本来の計画(・・・・・)を潰さんとする使者へ対して…。


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