メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 待たせたな!
 …お待たせいたしました。

 夏バテだと思うんですけどダウンして投稿が遅れました。
 すみません。


蛇の拳は壁をも貫く!

 バット―――宮代 志穏は昔の記憶を思い出す。

 一年ほど前にイベント限定のレア武器を周回していたのだけど、効率が良い場所が遮蔽物の無い洞窟での乱戦という狙撃メインの志穏には難しく、ズルだとは思いつつも父親である宮代 健斗を頼ったのだ。

 近接戦闘に乱戦も戦闘スタイル的に得意で、難しかった周回は恐ろしく簡単な作業へと変化した…。

 ただ早撃ちは見事なのだが急所に中々当たっていない。

 (NPC)には当たっているのでダウンは取れるているし、復帰したとしても前衛として前に突出している親父を襲うし、弱った敵に止めを刺せば経験値も楽に稼げるから良いけどさぁ…。

 

 案外時間も掛からずにレア武器を手に入れた俺達は、軽く高難易度のミッションを周った。

 その際に静か過ぎたので話題が欲しいなと思い話を振ってみた。

 

 「そういやさ、親父討伐イベントあったじゃん」

 「あぁ、あったね。正直僕からしたら鬼畜イベントだったんだけど」

 「どうして敵を味方に引き込もうとか思ったわけ?」

 

 参加しなかったけれど話は聞いていた。

 ラスボス化していた親父の知名度とプレイヤーの意思を組んだ大型イベント。

 一対一五〇〇の無謀とも思える討伐戦…。

 運営側は勝利者に結構な額のゲーム内硬貨と上位装備一式を与えるとして、多くのプレイヤーがこぞって参加を申し出た。

 景品目当てもラスボスを倒してみたいという好戦的な奴も、記念に参加したいと言う者などなどの理由で、かなりの人数が申し込んで来たので抽選で一五〇〇名が選ばれた。

 

 イベント開始直後は親父が優勢だった。

 お得意の近接戦闘に早撃ち、それにイベントエリアに設定されたエリアを素早く行き来して翻弄し、参加プレイヤーを翻弄した。

 ただし、それも最初だけで撃てば撃つほど弾を消費する。

 銃弾の補充はエリアの数か所に設置された武器庫で補充できるのだが、それを見越して協力体制を取ったプレイヤー達が待ち伏せを行ったのだ。

 弾が切れれば近接戦しかなく、得意と言えどもさすがに時間内に一〇〇〇人以上のプレイヤーを相手にするのは難しい。

 そこで親父は敵を勧誘し始めたのだ。

 確かに協力体制を取っているプレイヤーも居るのだが、単独で動いている者や記念参加してみただけという全員に纏まりが出来てはいなかった。

 

 共に戦うのなら報酬のゲーム内硬貨を分けよう。

 装備は仲間内でじゃんけん大会でも開いて景品にしようか。

 使わないレア武器があるんだけどいらないかな?

 …などなどこっそりと勧誘し、景品を諦めかけていた者や何より面白そうと話に乗るものも現れて、最終的に二百名ものプレイヤーが親父側に回り、協力体制を敷いたと言えどもそれぞれが連携を取れているとは言えず、部隊ごとに各個撃破されて結果は親父側の勝利。

 その後のじゃんけん大会などで親父の趣味に合わないと言うだけで、超が付くほどのレア武器大放出祭りが開催されて大いに盛り上がったという…。

 

 「んー、だって武器や人員は現地調達が基本だったからさ」

 「まるで実戦を積んだみたいな言い方」

 「だって頼りになる戦友と積んで来たんだもんね」

 「あー、はいはい」

 

 親父の冗談を聞き流すとすぐふてた様に頬を膨らます。

 歳の割に一人称や仕草がどうも子供っぽいんだよな…。

 それに冗談にしても戦争なんて数世紀も(・・・・)行われていない(・・・・・・・)のに何言ってんだか。

 苦笑いを浮かべていると親父はどうやって仲間に引き入れたか、どうやって交渉をしたかを語ってくれたが正直よくやるものだと感心半分呆れ半分で聞いていた。

 

 「なんにしても親父が異常なのはよく分かったよ」

 「異常って…酷いな志穏は。意外に志穏の方が上手いかも知れないよ」

 「人外チートが何言ってんの?」

 「いや、ガチで言うの止めて。さすがに視線が痛い…。狙撃は志穏の方が上手いでしょうに」

 「そりゃあそうだけど」

 「もっと自信持った方が良いよ志穏はさ」

 「親父は根拠もなく自信を振り撒く(?)のやめような」

 「…善処します」

 「それ絶対しないやつじゃん」

 

 親父とのなんて事の無い日常の一コマ…。

 それが役に立つなんて思わなかったなと志穏―――バットは世の中いつ役に立つのか分からないものだなと実感する。

 

 “メタルギア”というゲーム(・・・)は自由度が非常に高く。

 自身の行動如何で捕虜が味方になる事もある。

 無線越しに紫から聞いたバットは、記憶にあった会話を思い出してそれを今まさに実践しているのだ。

 …と言ってもいきなりの交渉術は拙く、スネークの手助けがあった事と交渉相手がレジスタンスでアウターヘブンの連中に対抗意識を持っていたのが幸いして、良好とはいかなくとも上手く行ってはいる。

 

 「すまない助かったよ。良かったらここに無線してくれ。連絡したらレジスタンスのダイアンがサポートしてくれる筈だ」

 

 何人目になるか分からない捕虜の交渉を何とか済ますとその兵士は礼を口にすると、ある無線番号を教えてくれた。

 こうしてレジスタンスと協力して攻略していくんだなとバットは、無線機の周波数を言われた数値へと変更して向こうが無線に出るのを待った。

 

 「こちらバット、応答してください」

 『こちらスティーブ』

 「スティーブ?ダイアンって人の周波数って聞いたんだけど?」

 『ダイアンなら買い物行って帰ってきてないけど…』

 「あ、そうですか。また無線します」

 

 涼しい顔で無線を切ったバットは無言で暫く震え、叫びはしなかったけど壁に蹴りを入れて八つ当たりをするのであった…。

 

 

 

 

 

 

 任務に挑む仲間として行動を共にしていたスネークはバットと対峙する。

 敵基地内を調べている中で、捕まっていたレジスタンスに対して二人掛かりで拙い交渉を行い、協力者として手伝って貰っている。

 そんなレジスタンスらの視線を集めている蛇と蝙蝠は剣呑な空気を漂わし、ピリリとひり付く空気感に周りの方がおろおろと慌てていた。

 ジリジリと腰のホルスター辺りにお互いに手が伸び、次の瞬間にはその手は互いに向けられる。

 

 手にはホルスターの銃が握られていた………どころか大きく開かれていた…。

 

 ガス地帯を手持ちのガスマスクで何とか突破したスネーク達は、室内をローラーが転がって行き来する罠を突破しながらプラスチック爆弾を入手したり、監視カメラと兵士の監視網を潜り抜けて電子ロックのレベル2を解除するカード2を手に入れたりしながら先へと進んだ。

 完全に信頼や信用を寄せた訳ではないが、スネークは無線で指示を出すビッグボス以上には信用するようにはなってきた。

 …いや、逆だな。

 ビッグボスに向ける信頼や信用が急降下していると言った方が正しい。

 

 なにせガス地帯の時もだが、床に高圧電流が流れる区画に踏み込んでから「言い忘れていたが」とアドバイスを出して来た。

 まだ高圧電流が流れるパネルを踏む前だったから良かったものの、下手をすればこちらは感電死していた所だ。

 蒸し返すならばガス地帯なんて毒ガスの区画に踏み込んでからガスマスクの必要性を問われても遅いというもの。

 さらに付け加えればガスマスクや高圧電流の罠を突破するのに必要なリモコンミサイルなどの在処はスティーブが知っているというものの、周波数を教えて貰えなければ無線をする事なんで出来やしない…。

 つまりビッグボスの対応によって不信感が生まれつつあるのだ。

 

 落ちるビッグボスに対して上がっているバットと対峙している理由は一つ。

 これもグレイフォックスと合流する為なのである。

 捕虜を救出する中で様々な情報を入手する事が出来て、グレイ・フォックスは無事で秘密の独房に入れられたとの事で、その独房に近づくには同じく捕虜として捕まる必要があると…。

 レジスタンスではなくグレイ・フォックス同様の工作員である事から、その秘密の独房またはその付近に収容される可能性が高いと推測される。

 

 ―――で、そこで問題となっているのがどちらが捕まるかという事だ。

 装備も取り上げられて捕らえられる事から普通はどちらも嫌なので、どちらが捕まるかでじゃんけんで決めようとしている。

 早撃ちのように何度も同じ手を出して、繰り返してようやくスネークの負けで決着がつく。

 

 「はい、俺の勝ちぃ」

 「…仕方ないな。ま、そのタッパ(身長)と若さでは工作員と言っても信じて貰えないだろうし」

 「一言余計ですよ」

 「どや顔を晒しといてよく言えたな?」 

 

 軽口を返しながらスネークは手持ちのアイテムをバットに渡しておく。

 拾った(・・・)ピストルにサブマシンガン、グレネードランチャーに一発減って残弾4になったリモコンミサイル、プラスチック爆弾に―――ダンボール…。

 

 そういえばリモコンミサイルを使用した際にバットがおかしなことを言っていたな。

 ビッグボスの伝達不足によりシュナイダーへの周波数が解らない為、カード2を持って来た道を戻って探し回りようやく手に入れた。

 高圧電流が流れている区域を突破する為には電源パネルを操作または破壊する必要がある。

 けれどその電源パネルは向かい側。

 それも障害物で隠れた先にあるのでバットの狙撃銃でも破壊することは出来ない。

 だが射出した弾頭を遠隔操作出来るリモコンミサイルならば障害物を躱して当てる事が出来るのだ。

 見事一発で破壊するとバットは「なんていうオーパーツ…」と称した。

 高い技術力が必要な武器ではあるが当たり前の武器に対して何故そんな感想を抱くのか理解出来なかったな。

 思い返しているとダンボールを掴んでひらひらと揺らし、怪訝な顔をして口を開いた。

 

 「このダンボール…捨てないの?」

 「なに!?お前は何を言っているんだ!!」

 

 予想もしなかったバットの発言と粗雑に扱う様子に驚いて思わず怒鳴る。

 なんでと視線で返されるが、それが余計にスネークは理解出来ない(・・・・・・)でいた。

 

 「ダンボールは敵の目を欺く最高の偽装。潜入任務には必需品なんだぞ!被れば敵兵の目は勿論監視カメラからも隠れれる。使いこなせるか否かで生死を分けた工作員は数知れない」

 「はぁ…」

 「必需品で潜入時には頼りになる相棒。素材が紙である事から雑な扱いをすればすぐに駄目になる。愛情を持って接しなければならない。なにより―――」

 「あー…うん、分かった。俺が間違っていたよ」

 「ん?そうか。解ってくれたなら良い。発言を改め細心の注意と愛情を注いで扱うように」

 「…ア、ハイ」

 

 改心した事に満足気なスネークであるが、バットはふりでも聞いておかないと不味いと判断して、口にしないだけでスネークをヤバイ奴と判定したのだ…。

 言われるがまま丁寧に扱って仕舞う様子を満足そうに見守って、スネークは決まった通りに囮として進みだした。

 わざとらしくない程度に敵の監視網に引っ掛かると、近場の区域を担当していた敵兵が殺到する。

 抵抗しないのはおかしいけど、殺してしまっては仲間をやられた怒りで何されるか分かったものではない。

 追われるがままに逃げ、自ら袋小路に入り込んで追い付いた敵兵に囚われる。

 身体検査をされて一応持っていた装備を奪われ、移動中は目隠しをされて連れ回され、尋問もなく牢に入れられた。

 縛られる事も無線に気付く事も無く、牢内で目隠しを外すと何と出入り口がないではないか。

 どうしたものかと頭を悩ますより先にビッグボスより無線が届く。

 

 『上手く秘密の独房に潜入出来たようだな。グレイ・フォックスの独房を探せ』

 「探せと言われても出入り口が…」

 『壁を調べてみろ』

 

 言われるがまま壁を軽く叩きながら歩き回ると、一か所音が軽いところがあった。

 なるほど、さすがビッグボスと落ちていた不信感が急上昇する。

 たった一言“出入り口が…”と呟いただけで見ても居ないのに、突貫工事で出入り口を塞いだことを見抜いたんだから。

 経験が段違いなんだ…。

 

 感心しながらも突貫工事で閉じられた壁をどうするかと悩むも、ハンマーどころか石の一つも転がっていない。

 となれば使える手段は一つだけだ。

 

 拳に力を込めて足は肩幅に開いて踏ん張り、膝に腰に肩に腕に捻りを加えながら殴りつける。

 突貫工事で簡易だとは言え捕虜を閉じ込める為のもの。

 そう簡単に壊せる訳が―――――あった…。

 

 数発殴ると耐え切れなかった壁は大きく壊れ、区切られていた隣の独房へ繋がった。

 そこには目の前の光景が信じられないと驚きと半ば呆れを瞳に宿すグレイ・フォックスらしき人物がそこに居たのだ。

 すらりとした体躯であるが歴戦の勇士を思わせる雰囲気と眼光が無意識に本人だと理解し得た。

 

 「よく来てくれたな新入り。俺がグレイ・フォックスだ」

 

 短く自己紹介したグレイ・フォックスは、アウターヘブンで開発されている新兵器“メタルギア”の情報を話してくれた。

 メタルギアというのは何と核を搭載した二足歩行兵器(重歩行戦車)の名前らしい。

 二足歩行が可能になった事であらゆる地を走破し、何処からでも核ミサイルを発射出来るというのはステルス性も高く、発射前に潰される可能性は非常に低い。

 グレイ・フォックスの調べではそのメタルギアはまだ完成前で破壊するなら今しかないとの事。

 そして破壊するには開発者であるドラゴ・ペトロヴィッチ・マッドナー博士の助力が必要で、博士はこのビル内に監禁されている様とも教えてくれた。

 

 「分かった。とりあえず博士を捜索するが…」

 「俺の事は放っておけ。暫く休めば問題ない。お前は博士の捜索だけを考えろ」

 

 そう言われて俺はグレイ・フォックスをその場に残し、再び壁を調べたうえで破壊して独房から脱出する。

 どうも出入口さえ塞げば逃げられる事は無いと高を括っていたようで、外には見張りの一人も居ない。

 これは好都合と隣の区画に移った瞬間、俺に対して散弾が放たれた…。

 

 

 

 

 

 

 アウターヘブンにて総指揮と執っている男は無線機を前に、視線はアウターヘブン施設内の映像を映すモニターに向けていた。

 一瞬だけ移り込んだ少年兵…。

 青い瞳に癖のある黒髪。

 なにより赴きのある顔に懐かしさを抱く。

 

 「蝙蝠の子か…懐かしいな」

 

 クツクツと一人笑い葉巻を咥える。

 ただ和やかに見ている訳にはいかないかもしれない。

 蝙蝠というのはいつも場を搔き乱す。

 潜むのは蛇と変わらぬが蝙蝠というのは突然慌ただしく飛び回ったり、病原菌を振り撒いて相当なダメージを負わせて来る。

 

 共に闘う戦友として戦うのであれば心強いが、こちらが受ける側になると話は違う。

 こちらがやる事は一つ。

 幾らか情報を持たせて(・・・・・・・)追い返すだけ。

 最悪この手で始末するしかない。

 そこに情などは一切存在しない。

 敵として立つのであれば知人であろうと対処しなければならず、その行為はあの人(・・・)への忠誠に繋がる。

 微かな気配を感じ取って振り向かずに声を掛ける。

 

 「どうした?」

 

 問いかけに気配は答えない。

 しかし纏っている雰囲気から何と無しに察する。

 

 「出番にはまだ早い」

 「…」

 「気持ちは解るがお前が出るとなるとこちらの素性を明かす事になりかねない。それにはまだ早い」

 

 僅かな気配はスーと闇に消え入った。

 まったくとため息を漏らすもやはり気持ちは理解出来るだけ仕方がないと思う。

 微笑みながらどうなるかなと楽し気にモニターを眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

●ちょっとした一コマ:エルザは見た

 

 あれから何年経ったのだろう。

 スネークとバットに出会ったのをきっかけに、自身の呪縛から解き放たれて自らの意思で彼らと共に進み、国境なき軍隊からダイヤモンド・ドッグズに所属した。

 キャンベルに「十年後が楽しみだ」と言われた自分も、今や少女から大人と呼ばれる年齢に達している。

 過去を懐かしむぐらいには歳を取ったのだなと思うと苦笑を零す。

 

 エルザは綺麗に整理整頓された自室を見返して一息をつく。

 現在ダイヤモンド・ドッグズは大きな組織改編、人員の配置転換を図らなければならない状況にある。

 これはひとえにオセロットとミラーの対立が原因となっている。

 

 ビッグボス…つまり私をバットと共に助けてくれたネイキッド・スネークは、ヴェノム・スネーク(エイハブ)に偽りのビッグボスを演じさせて別行動を取っている。

 オセロットはその共犯者であるが、ミラーは後にそれを知らされた…。

 それは国境なき軍隊などで上下関係のない対等、そして彼に付いて行こうと口にしないだけで想っていたミラーにとっては裏切り以外の何者でも無かった…。

 

 ここにはビッグボスは居ない。

 緩衝材となっていたバットも巣立った。

 ともなればミラーがここに居る理由もないというもの。

 最低限の引継ぎを済ませたミラーは“産み落とされた蛇の一匹(ソリッド)”に付くと言って離れ、今は教官業に専念しながら家庭を築いたと聞いた。

 結婚なされた女性には失礼だが、女性関係で色々と手を焼きそうで同情を禁じ得ない。

 

 そんなミラーに誘われたパイソンは一週間ほどして離れる事になっている。

 理由は簡単で衰えた体力では実戦は難しく、身体の状態を考えると寒いアラスカの地は合っているからだとか。

 

 私も私でオセロットの誘いを受けて三日後にはここを発つのだけど。

 オセロットも別の“産み落とされた蛇の一匹(リキッド)”に付くと言ってダイヤモンド・ドッグズを離れている。

 なんでも“赤毛の少年”の能力向上を手伝ってほしいと連絡を寄越したのだ。

 確かにあの子の“力”なら私が適任でしょうけど、声帯虫の一件で私よりもあの子の方が力が強い気がするのだけど…。

 

 すでに荷造りは済ませており、今日は別れの挨拶を済ませるべくマザーベース内を巡るつもりだ。

 ついでにバットの子供という者に会ってみたいし。

 なんでもヴェノム達が怖がらせて以降は、ダイヤモンド・ドッグズ女性陣が面倒を見ている様で、女子寮にでも行けば会えるだろう。

 

 歩きながらあのバットの子供なのだからどうせ面倒事ばかり起こす問題児なのだろうと当たりを付ける。

 その場合は誰が面倒を見ると言うのか。

 オセロットとミラー、パイソンは連絡を受けて面白そうと一時戻って来るらしいが、その子がいる間ずっと面倒を見られる訳でもない。

 バットと付き合いがあって問題児の面倒を見られそうな者となれば、ストレンジラブもチコもここを離れているのでヴェノムかクワイエットしか居ないのではないだろうか。

 

 そんな事を想いながら女子寮に向かっていると、トンと小さな衝撃を受けて戸惑う。

 転ぶほどではないが突然足に衝撃を受ければ誰だって戸惑うだろうが、それ以上に視線を落とせばぶつかって転んだと思われる小さな子供に驚き、中性的で可愛らしい顔立ちの男の子がひらひらの女の子用の服を着ているのだから余計に困惑するというもの。

 同時に何処かで見たような光景である事も加算されている。

 

 「えっと…」

 「助けて!」

 「…あー、はいはい。こっちにおいで」

 

 やはりデジャブだったかと苦笑いを浮かべて、小さな子供に手招きをすると素直に駆け寄って、私を盾にするように身を隠そうとする。

 暫くすると女性物の衣類を手に持って掛ける女性兵士の一団と出会い、彼女らは男の子を見つけた事に笑みを浮かべるも、私にしがみ付いている事でばつが悪そうな表情をして衣類を背に隠す。

 

 「なにしてるのよ貴方達は…」

 「いえ、そのぉ…」

 「気持ちは解るわよ」

 「――えっ!?」

 

 フルフルとしがみ付いていた子は私の言葉にまさかと青ざめて困った表情をする。

 見た目もあるがそう言った反応が彼女達の感情を擽り、可愛がりたくなるんだろうなと理解はする。

 けどさすがにそれでは可哀そうだ。

 癖のある髪を撫でながら言葉を続ける。

 

 「けど玩具にして良い訳ではないわ。反省なさい」

 「「「…はい」」」

 

 しゅんとする女性兵士達…。

 対して追われていた子供は輝かんばかりの笑みを私に向けて来る。

 彼からしてみれば抵抗しても無駄だった相手が、一言で諫めた事と助けてくれたという想いで憧れや尊敬、感謝の念を抱くのは解らなくもない。

 同時にそう言った感情を向けられて、年甲斐も無く喜んでいる自分が居る。

 

 「この子借りていくわね。行きましょうか?」

 「うん!」

 

 先ので懐いたその子は差し出した手をしっかりと握り、小さな歩幅で離れないように付いてくる。

 目を離すと何か仕出かす可能性を秘めたバットとは違い、素直で良い子じゃないか。

 …いや、バットもある意味で素直なので違わなくはないのか…。

 

 「私の部屋でケーキでも食べる?」

 「やった!食べる!」

 

 にぱぁと満面の笑顔を向けて来る少年―――志穏につられて自分も笑みを浮かべる。

 その日エルザは美味しいケーキとジュースで、久方ぶりに楽しいお茶会を楽しんだのだった。




●バット(志穏ver)
ライフ4000 気力6000
スタッフ能力:実戦A
       医療A(準オート機能)
       諜報A

戦闘能力:射撃性能A
     リロード能力A
 投擲能力B
  設置能力B
 歩き速度A
 走り速度A
 格闘能力C
 防御能力C

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