メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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報復後編

 火は苦手だ。

 触れると簡単に皮膚は焼かれ、近づけるだけでも熱気で火傷を負う。

 直接的な暑さもあるが、視覚的効果もあって見ているだけで熱く感じる。

 体温調節機能が狂ったこの肉体には酷く堪える…。

 例え優れた耐熱性と液体窒素を備えた冷却機能を持ったスーツを着ていたとしてもだ。

 

 「ここは熱いな」

 

 周囲に人影はほとんどない。

 居るのは(パイソン)と燃える男と呼ばれている怨嗟の亡霊(ヴォルギン)のみ。

 奴が放つ炎がそこいらに巻き散り、地面が焼かれて熱され、所々で者や物に引火して火がゆらゆらと踊っている。

 冷気を放ちながら腕を振るって近くの火を鎮火された。

 

 どうして動いているのかと疑問は抱かない。

 死して十年以上の月日が経とうとも奴の怒りはこの世に留まり続けた。

 それだけの事…。

 オカルトの類であるが、超能力(エルザ)だって実在したのだから亡霊や幽霊だって居ても可笑しくないと思える。

 あれに限って言えば霊というよりは“呪物”と定義するのが正しいような気がするが…。

 

 「鎮魂には恨みを晴らさせるのが一番のような気もするが、させる訳にはいかんよな」

 

 例えバットとスネークを討ったところでアレが静まるとも思えない。

 あの火は目に付くものすべてを焼き尽くし続けるだろう。

 そうでなくとも討たせるつもりもないが。

 かといって生半可な覚悟で死んでも残る怨嗟の念を鎮めれるとは思えない。

 

 対峙する燃える男は恨みを晴らす機会を邪魔された事でこちらに殺意を向けており、放たれる炎がより一層高まる。

 近づくのは危険すぎるゆえ、出来る手立ては液体窒素入りの手榴弾で距離を保ったまま冷却するだけ。

 いずれは火も弱まるかと思いきや、寧ろ時間が経つたびに強まっている気すらする。

 相手の底が見えぬうえ、こちらは手持ちの液体窒素が切れれば敗北必至な事から持久戦は避けるべき。

 

 「代償無しは難しいか…」

 

 腹を括り、左腕を冷やすべく左肩より先のスーツ内を巡っている液体窒素を止める。

 怒気と殺気を向けながらズンズンと向かってくる燃える男に、冷却を止めた左腕が徐々に熱を持ち始めたのを感じながら近づいていく。

 スーツ越しにも熱く感じ始め、左腕がひり付き始める。

 近づくにつれて熱さが増し、残っていた手榴弾を全て投げつけて、冷気が視界を防ぐ。

 熱気が和らぎ、相手の視界も遮れたことで一気に距離を詰める。

 燃える男を止めるにはゼロ距離で凍り付かせるしかない。

 

 冷気の向こうより何故か熱気が強く伝わってきた。

 

 奴は身体を丸めて、徐々に赤みを強め始めていた。

 目で見て判るほど熱を上げている事を察するも、手の届く距離まで近づいた状態では回避も間に合わない。

 咄嗟に顔を護るように左腕を出し、右腕を隠すように背に回す。

 次の瞬間にはため込んだ熱が一気に放出されて、灼熱で周りごと焼かれる。

 

 完全に焼かれた。

 耐熱性が高い素材だろうとこの至近距離で奴の灼熱の怨嗟をもろに受けたのだ。

 ただでは済まないのは当然だろう。

 素材が溶けだし肌に張り付く。

 肌が焼かれるどころか張り付いた素材が熱を逃がさず、蓄積する熱だけで焼かれ続ける。

 骨身まで響く熱さと痛みで意識が経ち切れそうになるが、思いっきり噛み締めて精神力だけで奮い立たせた。

 もう今は(・・)左手は使い物にならない。

 

 だけどそれで構わない。

 勝敗は今決したのだから。

 

 放出された怨嗟は通り過ぎ、奴はため込んでいた怒りを吐き出し過ぎた。

 包む炎が若干陰りを見せるのも当然だ。

 冷気を放つことも無く、スーツの耐熱性だけで十分に持つ。

 左手を降ろして右手を伸ばし、燃える男の頭を掴む。

 

 「もう怒り疲れただろ。安らかに眠れ」

 

 カットした左手分の液体窒素を含めた蓄積している量を出し切る勢いで噴出する。

 周囲が冷気に包まれ、あまりの冷たさにスーツの方が霜が降りて凍り始めた。

 そしてその最大出力の冷気を直に受けた燃える男は纏う炎を消し去られ、ヴォルギンは骨身まで文字通り凍り付いた。

 氷像と化したヴォルギンはもう動く事は無い。

 

 真っ白な冷気の中、視界の端で様子を伺っていたガスマスクの少年の姿が消失した。

 予想ではあるがスカルフェイスの下へと向かったのだろう。

 

 「さて、俺も……チッ」

 

 合流しようとするも左手の痛みがぶり返して足元がふらつく。

 片膝をついて右手の冷気で左手を冷やす。

 駆け付けた兵士に一応用意していた予備の液体窒素の用意と衛生兵の呼び出しを頼む。

 せめて決着には間に合わせねばとパイソンは歯を食いしばる。

 

 

 

 

 

 

 私の“報復”がようやく完遂する。

 これまでの人生で様々な事に巻き込まれ、今の“私”という人間が形成された。

 幼い頃に生まれ育った小さな村は外国の兵士達に占領されて、戦争が起こるたびに支配国が変わり、その度に支配国の最低限の教育と言葉を刷り込まれた。

 私の記憶が薄れている原因はその“言葉”が深く携わっていると私は考えている。

 言葉というのは意思疎通を図るだけではなく、その人を形成する一つの要素である。

 外見は兎も角常識や性格など“言葉”を植え付けられる度に私の内面は大きな変化を齎された。

 人は国に住むのではなく“国語”に住むとはよく言ったものだ。

 

 (言葉)が変わる度に記憶は薄れ、私に残ったのは混ざり合った思考と空襲で温度を感じる事すら出来なくなった焼け爛れた身体、心の奥底に宿る“報復”の未来だけ。

 

 成長した私はある事件に便乗して村を空襲した連中を抹殺し、西側に亡命してゼロと合流して副官として働く事となり、後に“スネークイーター作戦”に携わる事になる。

 …とは言ってもネイキッド・スネークやバットのように潜入工作を行う訳でも、ゼロ少佐やパラメディック、シギントのように無線を通して支援を行った訳でもない。

 作戦が失敗に終わった場合、現場の尻拭いをするという裏仕事。

 しかし作戦は見事成功して予備プラン(計画)は使用される事は無く、作戦にて得た情報は“ちょっとした”金になった。

 その金はゼロ少佐の考えを実現する為の組織―――“サイファー”の設立の一部として使われた。

 サイファーは…いや、ゼロ少佐はザ・ボスの意思から間違った(・・・・)統一世界の構想を抱いていた。

 電子的な手段で方向性を修正させて、大まかな思考も使う言語も何もかもを一つに纏め上げるというもの。

 それは散々私がやられていた事で、またも自身の過去すら忘れ去る所業。

 (ゼロ少佐)こそが(スカルフェイス)の報復すべき相手だと理解した瞬間だ。

 

 世界はありのままで、自由であるべきなのだ。

 

 だから私は長い歳月をかけて離反する時を準備を進めた。

 部隊を動かし独断で国境なき軍隊を襲撃し、左遷という事で飛ばされた先でゼロ少佐が設立した非正規部隊を手中に収め、声帯虫やサヘラントロプスの技術確保に動いてきた。

 声帯虫は特定の言葉を殺す事が出来る為、民族浄化などと囚われるかも知れないが、強大な力と影響力を持ちサイファーの基盤となる英語(・・)を消滅させることで、それに縛られている国家や民族を解放する手段。

 後は私が制御できる核と二足歩行兵器(ウォーカーギア)を世界各国に売り捌き、世界は自然と一つに纏まりを見せる。

 

 すでにゼロ少佐への報復は済ませてある(・・・・・・)

 後はこの計画を終了させ“報復”を完遂する。

 手にしている英語株の声帯虫と完成したサヘラントロプスがあればもう何も問題は無い。

 ダイヤモンド・ドッグズの連中でも私の報復心は止められはしない。

 

 スカルフェイスはスネークと共に完成されたサヘラントロプスを見上げる。

 大規模な陽動作戦を行ったダイヤモンド・ドッグズは、本命であるスネークを潜入させて私自身を狙って来たのだが、奴がトリガーを引く前に直属の兵士達に囲まれて、逆に銃口を向けられた状態でここまで連れてきた。

 

 ここはサヘラントロプスを格納している施設。

 自然の洞窟を利用しており、入り口は狭い岩場で囲まれて偽装も行われて秘匿性が高い。

 内部には最新鋭の機器を持ち込み、サヘラントロプスを収納する奥を隔たる分厚い隔壁が設けられている。

 今は隔壁が開かれて移動用の台車に鎮座するサヘラントロプスが眼前にまで運ばれていた。

 

 スネーク達により計画に支障や遅れ、計画外の問題も起こりはしたがここまで来ればもはや問題ない。

 この格納庫に至る道中にある基地に配置した部下はほぼ壊滅したと聞いたが、補充が可能な駒である為に多少の手間ではあるが手酷い痛手とはなり得ない。補充となれば条件次第ではPMCで事足りる。

 ダイヤモンド・ドッグズの旗印でもあるスネークはこうして私の直属の部下が取り囲んで銃口を向け、生殺与奪の権利は私が握っている。残りの雑魚はサヘラントロプスで一掃するのは容易。

 最悪サヘラントロプスを失おうとも二足歩行兵器の設計図と制御できる核兵器の製造法、そして英語株の声帯虫さえあれば報復は行える。

 最早私の報復を阻める者は誰も居ない。

 

 クツクツと小さく笑うスカルフェイスは、異音に気付いてその正体へ視線を向ける。

 向けた先にはサヘラントロプスを乗せた台座があり、何故か台車がゆっくりとレールを進む。

 私は指示を出してはいない。

 私の報復心は願っては(・・・・)いない。

 ならば何故と戸惑いが浮かぶも、サヘラントロプスをも操っている赤毛の少年が頭上を飛び越え、サヘラントロプス周辺を浮遊している事態に頭の中が混乱から真っ白に染まる。

 

 「待て…待て!止まれ!!」

 

 制止の言葉を投げかけるも誰かの報復心に反応した少年は、動かすのを止めはしない。

 台座から一歩踏み出したサヘラントロプスによって、近場に居た兵士が一瞬で踏み潰された。

 命の灯が消え失せ、皮膚によって内包されていた臓物に血液が撒き散らされて地面を汚す。

 私の動揺と理解出来ない状況にスネークが一番驚いているだろう。

 だが、そんな事(・・・・)は今はどうでも良い。

 

 サヘラントロプスを…あの少年が私以上の報復心に反応している…。

 それこそが私が一番問題視する所だ。

 

 「誰が動かしている!?これほどの報復心を……誰がぁああああ!!」

 

 問いかけには答えられる事は無かった。

 私は部下達に引き摺られる形で外へと連れ出される。

 半数が格納庫に残って対抗しようとしているようだが、装備している小火器では足止めにもならないだろう。

 外へ出ると急ぎ無線機を使い、格納庫周辺に展開していた部下に集結の命令を下す。

 サヘラントロプス格納庫の手前には発電施設があり、歩兵に重機関銃を搭載した装甲車、戦車に戦闘ヘリが駆け付ける。

 火力や戦力的に不利であるがアレを放置することは出来ない。

 

 慌てふためき格納庫より残った部下が駆け出し、その中にはスネークの姿も混じっていた。

 後を追うように狭い入り口を無理やり突破してサヘラントロプスが現れる。

 隊列を成した歩兵の火器と装甲車の重機関銃が弾幕を張り、現状最大火力である戦車の砲弾を撃ち込む。

 多少砲弾はダメージを与えているようだが、あれでは倒しきれない。

 それ以上にサヘラントロプスがそのままやられっぱなしなどという都合の良い話も無いだろう。

 地面を揺らしながら歩を進めるサヘラントロプスは、頭部の機関砲にて戦闘車両が次々と大穴を空けられてはスクラップに変え、腰より剣のようなものを引き抜いて近づく戦闘ヘリを突き刺しては吹っ飛ばす。

 発電施設に投げつけられたヘリは爆発炎上し、周囲を火の海と変える。

 

 瞬く間に手持ちの駒が減らされていくスカルフェイスは燃え盛る瓦礫に囲まれながら、声帯虫の入ったアンプルが納められたケースを抱えたままサヘラントロプスを見つめ、そのサヘラントロプスはスネークを追うようにして去って行く。

 この事態をサイファーは隠蔽するだろう。

 私の存在そのものも記録も含めて抹消される…。

 だが、サヘラントロプスが私の報復心を未来に残してくれる。

 計画を完遂する事は出来ずとも、野望の一部を遂げる事は出来得た。

 後はこれで…。

 

 抱えるケースを眺めていると銃声と共に肩に激痛が走り、咄嗟に手を放してケースを落としてしまった。

 撃ち抜かれた左肩を抑えつつ、振り向いて睨みつける。

 

 「ほぅ!お前が来るか蝙蝠!!」

 「ご不満ですか髑髏顔」

 

 SAAを構えるバット。

 私の幕を引くのがこいつとは皮肉(・・)が過ぎる。

 腹立たしさを隠しながら、余裕のある態度を見せつける。

 

 「もう遅い。私の報復心は解き放たれた。お前達でもどうする事も出来ない!」

 「寝言ですか?サヘラントロプスはここでぶっ壊すし、貴方の夢も計画も全て潰えるんですよ」

 「馬鹿な事を……何?」

 

 視界の端で閃光が走り、サヘラントロプスが映し出された。

 照明の類ではない。

 確認の為にも視線を向けるとサヘラントロプスに対峙する兵器群がそこにはあった。

 “スネークイーター作戦”時にソコロフが開発したシャゴホットに見た目が酷似し、サイズ的にはかなり小型化された“ピースウォーカー計画”にてヒューイが設計した兵器の一種。

 

 「ピューパだと?何故あんなモノがここに。いや、残っていたと言うべきか…」

 「正解です。採掘場に残っていたんで」

 

 ホット・コールドマンが計画した“ピースウォーカー計画”の肝は核を搭載してどんな悪路も走破出来る四足歩行の巨大兵器“ピースウォーカー”だったが、同時に設計された三種のAI兵器の一つで地上での高速戦闘に特化していた機体だ。

 以前は資源採掘が行われていた採掘場の地下に作られた偽装基地はピースウォーカーを整備する施設と共にピューパの生産施設も兼ねていて、内部に潜入したバットはそれを覚えていた。

 ゆえに内部構造を知っていて事情を心得ているストレンジラブ博士が出張に出向き、兵器としての性能を知っているカズヒラが大金と人員を叩いて回収したのだ。

 技術開発班総出での短期による改修作業と、パイソンとエルザによって回収されたAIポッドを繋げるネットワークとシステムの構築により、大量の導入が可能となった。

 本来ならAIポッドの数を揃えて各個体に配備させたいところだけど、入手したピューパの数に装着できるほどのAIポッドを揃える事は時間的にも出来はしない。

 なのでネットワークシステムが構築されたのだ。

 厚い装甲で覆われて防御能力を向上させ、左右に方向転換可能な大型ブースターにAIポッドを内装したスコウロンスキー大佐用に開発が進められ、AIポッドによる自動操縦・操縦補助システムが組まれてようやく完成した最新鋭大型ヘリコプター。

 そこから命令と行動が伝達され、ピューパは見事に連携してサヘラントロプスと対峙している。

 

 頭上を飛び回っているヘリを忌々しく睨み、スカルフェイスは無防備にバットに背を晒す。

 ただ晒している訳ではない。

 背中を向けて見上げながら右手を懐に入れているウィンチェスターとゆっくりと近づける。

 

 「アレでサヘラントロプスを倒すというのか。無駄な足搔きだな」

 「さぁ、無駄かどうかは今後の展開次第ですかね」

 「そう―――か!!」

 

 懐からウィンチェスターを取り出して向けようとするも、取り出した辺りで掴んだ右手が吹き飛ばされた。

 激痛に苦痛の塗れた声が漏れ出し、右手首を握りながら睨みつける。

 撃ったのはバットではない。

 衝撃から銃撃者は側面…。

 そこに居たのは狙撃用のライフルを向けるクワイエット…。

 

 「裏切ったなクワイエット。貴様の報復心はその程度…」

 「五月蠅いよ」

 

 連なって響く五つの銃声。

 両膝に両肘、そして腹部とどれも致命傷にはなり得ない箇所を撃ち抜かれて倒れ込む。

 関節部を潰されたことで動く事すらままならない。

 激痛と不快感だけが自身を苛む。

 バットはSAAに銃弾をリロードし、クワイエットは静かに銃口だけを向ける。

 

 「貴様ァ…わざと外したな(急所を)!」

 「貴方に対しては僕も報復心を持ってますけど、一人で晴らす訳にもいかないですし、この後を見届けさせるのも報復の一環でしょう」

 

 苦虫を潰したような苦い感覚に覆われ、言われるように横たわったままサヘラントロプスに視線を向ける。

 スネークを追ってかなり距離が離れたサヘラントロプスは、周囲の火炎と瓦礫も相まってはっきりと見えない。

 だが巨体のために動向は伺え、音から戦闘を続けているのは察せられる。

 攻撃するに従い爆発音が響き渡る事から順調にピューパを殲滅しているらしい。

 この状況で奴らがサヘラントロプスを破壊できるとは思えない。

 しかし状況は大きく変化を見せる。

 

 陽動部隊としてスカルフェイスの部下達と交戦していた連中が、サヘラントロプス用に用意された主力の機械化混成部隊と合流し、一斉掃射がサヘラントロプスを襲う。

 スカルフェイスが対峙させた戦力が霞むほどの大勢力。

 並んだ戦車の砲撃に随伴する歩兵の機関銃にバズーカ、二足歩行兵器(ウォーカーギア)の武器の数々が集中される。

 ダメージが蓄積して反撃する事も出来ずにサヘラントロプスはよろめき、衝撃で後退するしかない。

 

 「アレがお前たちの自信か…」

 「僕達は一人じゃないんですよ。信用出来、信頼出来る多くの仲間が居るんです」

 

 作戦だったのだろう。

 サヘラントロプスを発見次第、高速移動可能なピューパで足止めし、本隊の一斉射にて葬る。

 地上戦力だけでなく、駆け付けた戦闘ヘリが頭上よりミサイルやガトリングの弾雨を降り注ぎ、何処へも逃げる事も出来ないサヘラントロプスは至る所で爆発が起き、あまりの数と火力によって大きく体制を崩す。

 弱っているであろうが決して撃ち方は止めない。

 砲身がいかれるまで撃ち続ける。

 反撃すら出来ない激しい攻撃に、装甲は破損し抉られ、損傷個所は大きく火花を撒き散らした。

 損傷個所に攻撃が直撃して内部構造にまで酷いダメージを負い、火花どころか炎が噴き出し、黒煙を撒き散らして大地へと倒れ込んだ。 

 地響きが横たわっている地面よりはっきりと伝わる。

 

 「…私の報復が…潰えるのか…」

 

 撃破されたサヘラントロプス。

 手元から転がり落ちた声帯虫。

 自由を捥がれた肉体。

 何もかもが私の掌から籠れ落ちていく。

 報復心に燃えていた心が絶望感に彩られる。

 

 そんな私の下にスネークが近づいてくる。

 他にもパイソンに(ビィ)に跨ったリキッド、降下したヘリより降り立ったカズヒラにオセロット、エルザにチコ、ヒューイまでもが囲むようにやって来た、

 

 転がっていたケースをスネークが拾い、中のアンプルを確認する。

 ここまでに向かう道中にスネークには私の目的や声帯虫の事を語っていたので、ケースを拾うと中身のアンプルを確認していた。

 三本収納できるようになっているのに中身は二つ。

 そこに注目した面々は怪訝な表情を浮かべる。

 

 「三本もあったのか」

 「もう一本の英語株は何処だ?」

 「お前の…すぐ側だ…」

 

 せめてとニヤリとほくそ笑みながら告げる。

 バットによって向こう側に渡ったのだろうが、報復心というのが簡単に消える筈はない。

 時が経てば経つほど報復心というのは熟成され、より強い想いとなってぶり返すだろう。

 …いや、それ以上に今回は私に対する報復心が勝ったという所か…。

 ならば何も問題は無い。

 後は託すのみ。

 

 そう思っていたスカルフェイスにカズヒラが報復する。

 転がっていたウィンチェスターを拾ったスネークの手を掴み、銃口を向けさせてトリガーを引かせる。

 銃声が響くたびに激痛が全身に響き渡り、悶絶する痛みが精神を焼く。

 何発も撃ち込まれて右腕と左足を身体から切り離される。

 痛みに悶えるも終わりは決して訪れない。

 

 「殺せ…殺してくれぇ…」

 

 これはあまりに惨い。

 助かる事はあり得ず、死んだ方が良いと思えるほどの痛みを与えられる。

 これが命尽きるまで続くなど考えたくない。

 しかしそんなスカルフェイスに都合の良い申し出(・・・・・・・・)を聞き届ける者は居なかった。

 

 「自分の仕出かした事を悔いて死ね」

 

 怨嗟を含んだミラーの言葉を浴びせられ、私は一人痛みに耐え続ける。

 視界の端ではスネークがケースより取り出したアンプルを一本ずつ炎の中に投げ込み焼却する。

 その二本目は炎の中に消える前に空中で静止した。

 誰の視線に入らぬようにそこには赤毛の少年が居り、彼がアンプルを静止したようだ。

 それをどう使うつもりなのかは解らない。 

 が、持って行くことを良しとは彼女がさせなかった。

 

 存在を感知したエルザが咄嗟に少年の袖を掴み、駄目よと口にしながら首を横に振るう。

 赤毛の少年は振りほどいて奪い去る―――事はせず、掴んだエルザを見つめて驚くように肩を震わす。

 そしてジッと眺めると俯き、姿だけを消してアンプルは静止が解けて炎の中に落下していった。

 

 これにてスカルフェイスの報復は潰えた。

 血が流れて行くたびに痛みに苛まれていた意識が薄れ始め、報復心を向ける面々に見下ろされたまま息を引き取るのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●ちょっとした一コマ:精神が削られる移動

 

 スネークはジープに揺られ、座り心地の悪さに辟易とする。

 多くの仲間が陽動として注意を引いてくれている最中、スカルフェイスに近くまで潜入する事は出来た。

 しかし残念な事に目標とするサヘラントロプスはその場には存在しなかった。 

 スカルフェイスの周囲を固めている兵士達に囲まれた事と、サヘラントロプスの在処を探る為にも奴に従う形で同行する。

 自身は奴の話に耳を傾けながら、ただただジープに乗っているだけ。

 この間にも仲間が血を流しているというのに…。

 敵に囲まれた状況に、戦況が見えない事にも苛立ちを覚える。

 

 それと非常に近いのが嫌なんだが…。

 

 俺が乗っているジープには四名が乗り込んでいるが、席は運転席と助手席だけで後は荷台となっている。

 詰めれば荷台だけで四人ほど乗り込める。

 スカルフェイスの護衛は他の戦闘車両に乗り込んで、搭乗しているジープを囲む形で展開しているので、ジープに乗り込んだのは運転者と助手席に一人だけ。

 なので荷台に乗り込んだのは俺とスカルフェイスの二人のみ。

 荷台の端に腰を下ろして内側を向いて座ると、何故かスカルフェイスは俺に対面する形で腰を下ろしたのだ。

 

 …狭い。

 そして近い。

 ただひたすらに近すぎて息苦しい。

 少しずらせば良いのになぜこうも狭めるか…。

 さらに前のめりになるものだから顔が近すぎる…。

 もう鼻先が触れあいそうなのだけど。

 いや、話すたびに息が顔に掛かるので不快でならない。

 そもそもスカルフェイスに良い感情を一切持ち得ておらず、やられた事への憎しみしか無いので一緒に居る時点で不快なのだが…。

 

 スカルフェイスの身に降りかかった事件に村での出来事、ゼロ少佐との間での事柄などを語り、寄生虫のアンプルを見せつけられながら俺は返事もせずにただただ聞き続けた。

 話し終えたと言わんばかりに満足そうに座るスカルフェイズ。

 まだ目的地まであってか静寂が耳につく。

 そう思い始めた矢先、運転手が音楽をかけ始めた。

 

 良い曲ではあるがスカルフェイスの話に合わせたような歌詞で、少し考えるものがあるがそれはそれ。

 静寂と何をする事も出来ない暇を潰すのには丁度良い。

 

 …良かったのだがデカすぎる。

 ここいらを勢力下に置いていたソ連軍が居ないだけに、どれだけ音量を上げたところで邪魔が入る事は無いだろう。

 だからと言ってエンジン音すら聞き取り辛いほどの爆音で流すのは如何なものか。

 音を遮る扉も屋根もないオープンなジープであるに関わらず、音が聞こえないというのは非常に大き過ぎる。

 

 「音を下げないか?」

 「・・・」

 

 運転手に声を掛けたつもりだったのが返答すらない。

 否、運転手どころか正面のスカルフェイスですら聞こえてないらしい。

 

 「音を下げてくれないか!」

 「・・・?」

 

 大声で言ったところスカルフェイスだけが反応を示した。

 が、何か言ったか?と視線で聞くだけでやはり聞こえていないらしい。

 

 大きなため息を漏らして俯く。

 これはスカルフェイスの嫌がらせなのではと思いながら、早く到着する事を願うのであった。


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