寒さで指が動き辛く、その上何度も書き直しをしておりました。
出来れば来週二話書いて後れを取り戻したいと考えております。
復讐蛇に蝙蝠は飛び回る
私はどうしてこうしているのだろうか?
ストレンジラブは閉め切られたポッドの中で窶れて動く気力もなくした身体を眺め、ぽつりぽつりと思考を緩やかに動かす。
何処で間違ってしまったのかな…。
コールドマンの“ピースウォーカー計画”がスネーク達によって阻止された後に、
あの頃はまだ幸せだったように思う。
生まれた子供に貴方の意思を伝え、後世に残そうと夢見たものだ。
過ちがあるならば彼らの誘いに乗ってしまった事か…。
彼ら―――“ゼロ”の名を借りた連中による計画への参加。
後の世まで続くAIによって世界の管理統制を行う、ゼロの思惑と意思を宿した世界に寄生させるシステムの構築。
力を持つ彼らとの接触で私は再び彼女を取り戻せると願ってしまった…。
ママル・ポットの機能が移ったレプタイル・ポット…。
アマンダの協力を得て湖に沈んだピースウォーカーよりレプタイル・ポットを回収。
再び私の下に戻って来た
取り返しの利かない事を仕出かしてしまった。
繰り返し後悔する。
その後はヒューイの紹介でXOFという組織で研究を始めた。
まさかMSFを壊滅させた部隊とも知らずに。
いいえ、知っていたとしても拒みはしなかったかも知れない。
彼女の意思を売り払うような事を仕出かした当時の私は罪の意識から逃げ出したかった。
何かに没頭すれば忘れられる。
そんな勝手な想いに縋りついていたのだから…。
けど逃避を続けた研究生活も突然終わりを告げた。
ヒューイが実験にハルを利用したのだ。
母親としてそれは認められないと反対し、ヒューイから我が子を取り上げた。
結果がこの様だ…。
AIポット内で作業中にヒューイにハッチを閉められ、私はハルも自由も取り上げられてしまったのだ…。
もう出る事すら叶わない…。
出る事すら願わない…。
最初は出してと頼み込み、出れないと知ると殺してと懇願していた私はゆっくりと衰弱していく死に方を受け入れた。
自分がしてきた事への贖罪…。
ここには食料も水もない。
五日もすれば私は死ぬだろう。
もう四日が経ち、力は入らず視界はぼやけている。
死に際を悟るとどうして懐かしい光景が脳裏を過るのだろうか。
幼い頃に見上げた星空…。
彼女と過ごした日々…。
失った悲しみと怒り…。
ママルに彼女の意思を再現させようと研究を漬けだった毎日…。
マザーベースで騒がしくも楽しい思い出…。
あぁ、これが走馬灯と言う奴か…。
限界が近いと言う事だろうな。
幻覚まで見え始めた。
重く閉ざされていたハッチが開き、ぼやけた視界が外から注がれる光に暗み、その輝きを背に一人の青年がこちらを見下ろしてくる。
「可笑しな……もの…だな…お前が私の迎え…とは…」
乾いた笑みを浮かべながらだからいいのかとも思う。
彼女が迎えに来たのなら私に合わす顔は無かった。
だから彼で良かったのだろう。
差し出された手が頬を撫で、温かで優し気な感触を感じつつ、ストレンジラブは微睡みの中へと落ちて行った…。
CIA中米支局長ホット・コールドマンが本部へ返り咲く為にも発案し、それを利用しようとKGB工作員ヴラジーミル・アレクサンドロヴィチ・ザドルノフが出し抜くまでは協力していた“ピースウォーカー計画”を阻止して半年後。
伝説の英雄“BIGBOSS”率いる
高い練度を誇る兵士達に最新鋭の銃器に兵器群、さらに国に属さない軍隊であるにも関わらず核を保有している組織。
それがたった一夜で壊滅したのだ。
当時MSFでは二つの事案を抱えていた。
一つは作戦行動中に捕虜となり、キューバ国内に存在するアメリカ軍基地に収容された仲間の救出。
場所が場所なだけに大人数での強硬な奪還作戦は行えず、少数での潜入に任務が必要。ともなればMSFで最も潜入任務に長けた“BIGBOSS”ことスネークが赴く事に。
支援を行う者も少なく、行き来を担当する輸送ヘリを操縦する操縦士に衛生兵を含めた数名のみ。
こちらは難易度は高いがスネークが対応するので問題はない。
もう一つはMSFの本拠地であるマザーベースに訪れるお客―――核査察団の対応である。
国際機関より信頼を得たいと言う話がMSF内部で上がったのもあり、当日には印象を良くしようと武装を解除したりも行われたりして受け入れの準備を進めていた。
そしてその当日訪れた核査察団………を偽装した武装勢力の襲撃を受けた。
いくら高い練度を誇る兵士でも素手で装備を整えた相手に勝つのは至難の業。
武装勢力は相当準備を整えていたらしく、真っ先に司令部を制圧して指揮系統を潰し、情報伝達能力を潰して各部を孤立させ、狩り始めて行った…。
多くのMSF隊員が訳も分からぬうちに倒され、異変に気付いても抵抗らしい抵抗も出来ずに撃たれる。
即座に抵抗できたのはサイコキネシスなどの超能力を使えるエルザと、スニーキングスーツ内の液体窒素を武器として使用できるパイソンのみ。
二人が粘ってくれたおかげで一部洋上プラントで防衛線を形成し、多少の抵抗を開始。
無理やりであるがエルザの力で武装勢力の輸送ヘリを引き摺り下ろして、パイソンたちが制圧鹵獲。
反撃を行うには戦力不足であるが脱出する分には問題ない。
しかし持ち堪えれられた時間は少なく、生き残った全員を逃がすまでの時間を敵が与えてくれることはなかった。
防衛ラインが確立されたことで生き残っているMSF隊員と敵武装勢力が集中。
副指令のカズヒラ・ミラーも合流したが戦力も武装も劣り、狩られるのも時間の問題となっていた。
そこに現れたのは翌日の昼頃に帰還予定だった筈が、予定より早く救出して帰路についたスネークだ。
輸送ヘリを強行的に着陸させて援護し、乗せれるだけ乗せてその場を離脱。
時同じくしてスコウロンスキー大佐が兵器格納庫ではなく研究プラントの試験兵器格納庫に収納していた新型ヘリを操縦し、エルザやパイソンを含んだ生存者を搭乗して脱出した。
多くの仲間が息絶え、安らぎを与えてくれた自分達の家であるマザーベースが燃える…。
そんな光景を網膜に復讐と共に焼き付け、離脱したところでスネークが搭乗していたヘリ付近で爆発が起き墜落。
爆発の原因はキューバ基地より救出した兵士の身体内部に爆弾が仕掛けられており、意識を取り戻した兵士がスネーク達を死なさぬように跳び下りたところで爆発したのだ。
墜落してミラーは片足と片腕を無くし、スネークも重症を負うも一命は取り留めた。
公に存在を明かしていない組織でも隠し切れないほどの事態によって、関係を持っていた国家間で火消しが行われるも一連の出来事は“カリブの大虐殺”として明るみに出てしまった。
MSFは力を持ち過ぎたうえに今回の件でスネークは生きていると知られれば命が狙われる状況に…。
それから九年と言う歳月が経ち、大事件は昔の出来事として新たな情報に埋もれて行った。
各国はMSFに頼っていた依頼を他で穴埋めするようになって急激に需要が発生し、MSFを見習ったかのように
カズヒラ・ミラーはその中に再び飛び込んだ。
あの地獄のような“カリブの大虐殺”を生き延びた者に、偶然にも任務で外に出ていた者などMSF残党を引き連れ“
エルザにパイソン、ジョナサンなどに加え、“スネークイーター作戦”ではスネークと敵対し、その後は協力関係にあったオセロットが合流した。
生き残ったMSF隊員の中には「スネークがいないなら…」と離れ、別のPMCに所属する者も多く居たが、ミラーはそれを無理に止める事はしなかったし、彼でもない限り止める事は出来ないだろうと職務に勤しんでいた。
兵士の補充に銃器や兵器の確保、新たに得た
そんな最中、カズヒラ・ミラーは反政府組織の訓練という仕事に赴き、ソ連第四十軍に捕縛されてしまったのだ。
護衛であった精鋭は壊滅し、攫われた現場には死体しか転がっていなかった…。
ソ連第四十軍は総勢十数万もの兵力を誇り、真正面からの奪還作戦は難しい。
ならばと潜入しようにも潜入能力に長けた者は今のダイヤモンド・ドックスにはいない。
…そう、カズが捕虜となったその時は…。
カブール北方にあるワンデイ集落。
ソ連第四十軍が拠点として利用している大きな集落で、それなりの人員が警備に当たっている。
夜中でも警備の為、いつものように周辺警戒に努めていた兵士は首を傾げた。
集落前の舗装された道路は良く見えるように照明で照らされ、誰かが行き来したら発見が容易いようにしている。
その道を一頭の馬がゆっくりと横切っているのだ。
「ほれ、向こうに行け」
手を追い払う仕草をするも馬は一向に去る気配はない。
ため息交じりに手荒に追い払おうと思った矢先、警戒に当たっていた兵士は意識が遠のいて、そのまま倒れ込んでしまった。
倒れ込んだ様子を反対側より眺める男が一人いた。
片目を眼帯で覆い、左腕は義手、額には黒い角のような物を生やし、手には兵士を無力化した麻酔銃が握られている。
小さく口笛を吹くと道路に立っていた馬が近付き、跨るのではなく側面に張り付く。
ぽんぽんと軽く叩かれると馬は男を隠すようにして道路を渡り切り、集落へと入って行った。
男―――スネークは馬より降り、
“カリブの大虐殺”で重傷を負い、意識不明だったスネークは九年の歳月を経て蘇ったのだ。
出来れば穏やかに目覚めたいところであるも、それを許してはくれないらしい。
姿を隠すためにキプロスの病院で目覚めるまで匿われていたスネークだったが、意識が戻った事が外に漏れると武装勢力に襲われた…。
無関係の病人も医師も関係ない虐殺…。
武装した戦闘ヘリに武装を固めた兵士達。
どれだけ自分が狙われているか認識するには充分過ぎた。
数日前に目覚めたばかりで身体は処置を施されていたとは言え弱り、さらに武装もない状態で襲われて生きているのは単に運が良かったのと、同室でスネークを見守っていた“イシュメール”という包帯男が手助けしてくれたおかげだ。
武装も兵器も充実した武装勢力に、銃弾を受け付けずに火を纏った“燃える男”という訳の分からん奴の襲撃を受け、イシュメールと助けに来たオセロットのおかげで窮地を脱したスネークは、ここに訪れるまでの移動時間をリハビリに当ててオセロット曰く“肩慣らし”であるカズの救出任務に赴いているのだ。
到着してはソ連四十軍の拠点に潜入して情報を集め、よくやく居場所を掴んで潜入したスネークの様子にブランクを感じる者はいない。
暗闇という視界の悪さと建物の影を用いて集落内を移動し、次々と警備に当たっていた兵士達の意識を刈り取って行く。
周辺の安全を確保したところでスネークは目的地である建物へと向かう。
暗い室内をゆっくりと覗き込むと片腕に手錠をされてぐったりとしている人物の姿があった。
顔に袋をかけられて判別はまだつかないが、口元辺りが動いている事から呼吸をしている事が判る。
袋を取ると窓から入り込んでいる光に目が眩んで、苦悶の表情を浮かべるカズがはっきりと見えた。
生きていた事に安堵すると同時に手ひどく痛めつけられた痕に心が痛む。
「カズ?」
「そろそろ用済みか…」
「俺だ。スネークだ」
目の前にいるのに判別がつかないのは光で目が眩んだから―――と言う訳ではなさそうだ。
両頬を支えながら正面より見つめると、カズの目の周りは酷い怪我や跡があり、瞳は曇って見える。
どうやら尋問で目をやられたらしい。
「スネーク…なのか…」
「瞳をやられたのか」
「いや、眩しいだけだ…」
捕縛された際にその場に落ちていたカズのサングラスを調査隊が見つけており、それをオセロットを通して預かっていたスネークがかけてやる。
位置がずれていたのか自分で位置を直し、カズは真正面から見つめ返す。
「遅かったじゃないか…」
「話はあとだ。ここから脱出する」
弱々しいカズの言葉を聞きながら、手錠を外してやると動けないであろうことから担いでこの場をあとにする。
人を担いだ状態では戦闘は難しいが、周辺の敵兵はすでに無力化してある。
ならば問題なくここを離れ、ヘリの着陸地点に急ぐだけだ。
無線でオセロットにヘリの要請をしながら移動を開始すると、カズが弱々しく語り掛けて来る。
拷問の痛みを話しかける事で気を紛らわせようとしているのか、再会に喜んで声をかけているのかは分からない。
俺はただ周囲を警戒しながら話を聞く。
「あの…台詞を……言ってくれないか…“待たせたな”と」
「―――待たせたな」
言われるがまま返すと背負ったカズより乾いた笑みが向けられる。
そうこうしながらヘリとの合流場所に向かっていると周囲に霧が立ち込め始めた。
『ガスが急速に増大中。降下できません。一旦退避します』
無線を受けて離れていくヘリを見送っていると、霧と思っていた“ガス”の濃度が濃くなったのか視界が酷く悪くなっていく。
周囲を眺めると遠くに四つの人影が見えた。
遠くなので性別や装備などは確認できないが、足取りが覚束ない……違う、人が動くにしては不自然に身体を捻ったりして動くさまが不安を誘う。
「奴らだ…奴らが来る」
カズが言った瞬間、異様な動きと速度で動き出して高く跳躍して迫ってきている。
本能的にアレは不味いと判断し、見つからないように身を屈めながら口笛を吹いて待機させていた
パカラパカラと馬の蹄が地面を踏み鳴らす音が霧の中で響き渡り、その音を聞きつけたのか眼光を光らせた奴らが駆け出して来た。
「奴ら人間か!?」
そう言いたくなるのも無理はない。
スネークはカズを乗せたと言っても馬を走らせているのだ。
対して相手はこの視界の悪い霧の中で見失う事無く、追尾どころか走って追い抜いていく。
勿論銃を携帯して身もがっちり装備した状態で…。
走らせていた進行方向へと駆け抜けた敵四名は左右に分かれて立ち止まり、銃口をこちらに向けて来る。
さて、どうするかと悩む間もなく発砲音が響き渡った…。
連続して放たれた六発の弾丸を受けた
一体誰がと視線を向けるとそこには奴が居た。
十年の時が可愛らしく感じさせていた幼さを奪い、漆黒のようなロングコートを風で靡かせ、過度な装飾が彫り込まれた銀色のリボルバーSAAをホルスターより引き抜いた
「待たせた―――なぁ!?最後まで言わせてよ!」
格好を決めて言おうとしたところで別の敵に斬りかかられ、大慌てでCQCで投げ飛ばす。
そして残り二人が接近してくると左腰のホルスターに収まっていたカンプピストルを向け、躊躇う事無く小型グレネードを直接撃ち込んで爆発で吹き飛ばす。
戦場であるにも関わらず何処かコミカルな様子に安堵を浮かべてしまう。
宮代 健斗ことバットは住人が逃げ出してしまった廃村の一軒家にて珈琲を淹れていた。
メタルギアZEKE戦後の彼の人生は順風満帆だった。
最初は
書類などは何故かパスの戸籍が存在していて問題はなかったのは幸いだった。
さすがにそればかりは手が出なかったから…。
稼ぐために再びゲーム会社に新作のゲーム企画を通すために思案し、自ずと私生活をパスに支えて貰う事に。
慌ただしくも寄り添うように三年も過ごせば共に居るのが当然となり、生活が安定し始めた事で籍を入れて家族となった。
とても幸せな日々を過ごし、充実した毎日に両者とも心を満たされていった。
去年には子供が生まれてまさに幸せの絶好調。
子育てに協力する為に自由に時間が使えるようにゲームプログラマーから、“メタルギア”で鍛えられた戦闘技術を活かしたプロゲーマーと契約を変え、今ではシューティングやアクションゲームで世界トッププレイヤーとして名を馳せていた。
そんな最中、
子供が生まれたばかりで子育てを手伝い、これからの事を考えて稼がねばならない健斗は僅かながらでも迷ってしまった。
だから今メタルギアの世界に居るのはパスが背中を押してくれたおかげだ。
彼女のおかげで再び世界を渡り、取り返しのつかない後悔をせずに済んだ事を心の底から喜ぼう。
「珈琲淹れましたよ」
「あぁ、すまない」
バットはそう言って珈琲カップを
ザドルノフは運よくカリブの大虐殺を生き残った一人だ。
かつてパスのメタルギアZEKE改造の時間を稼ぐために幾度となく脱獄をしていた彼が、核査察団が訪れた際に何かしら問題を起こしては厄介だと判断したカズが、査察直前に無理を言ってニコライに預かって貰ったのだ。
おかげでザドルノフは生き残り、KGB工作員としての実力を買われてニコライのPMCにて工作員の顧問として雇われ、晴れて自由の身となった。
カップに口を付けたザドルノフは「あの頃は不自由だったが飲食だけは豊かだった。世界各国の美味しい料理に炭酸飲料、なによりコスタリカの珈琲があったからな」と懐かしそうに呟く。
メタルギアの世界に渡って半年が経ち、最近ザドルノフは過去を思い返す事が多くなってきた。
それもヘビースモーカーで煙草を吸いまくっていたツケが今になって回って来た事が原因だろう。
医者に肺癌と宣告されたのだ…。
ザドルノフは今回の仕事が終わればコスタリカで余生を過ごすつもりだったらしいが、偶然にも僕と出会った事で考えを改めて少しばかり付き合ってくれることに。
“カリブの大虐殺”の事を教えてくれたり、捕まっていたりしている元MSF隊員の所在の情報提供などしてくれる代わりに、ニコライからザドルノフに当てられた仕事の手伝いをする事で行動を共にし、多くの仲間を助ける事に成功。
さらには戦力の拡充にまで及んでいる。
「私にも淹れてくれるか?」
「勿論ですよ。けど無理はなさらないで下さいね」
二人で珈琲カップに口を付けていると松葉杖をついてリハビリに励んでいるストレンジラブ博士に頼まれて、再びお粗末な台所へと戻っていく。
半年ほど前にザドルノフと出会ったバットの最初の任務は所属不明の武装勢力の調査だった。
広い敷地内に多数の軍事設備、多くの兵士達の目を掻い潜って潜入して仕事を熟していると、見覚えのあるAIポットを発見。 懐かしさから中から記憶盤を抜けるかなと覗いてみると、そこには衰弱しているストレンジラブ博士がいるではないか。
焦りに焦ったバットは任務を切り上げて、ストレンジラブを背負って基地を離脱した。
当初こそ衰弱して体力の回復に努めるしかなく、徐々に回復したら車椅子で動けるようになって、最近は松葉杖で動けるようにリハビリをしているのだ。
彼女を助けられたのもパスが背を押してくれたおかげだなと心底思う。
もしもあとで知ったのなら死ぬまで後悔していただろう。
微笑みながら珈琲を淹れていると表が騒がしい。
何事かなとホルスターに手を伸ばしているとチコが駆け込んできた。
ピースウォーカー計画より十年の歳月で大きくなり、以前の幼さは完全に消え去って歴戦の兵士の風格を漂わせていた。
「ミラーさんの居場所が分かった!」
「―――ッ!?それは良かった。すぐに招集命令を」
「すぐに出ると思って集めておいたよ」
「さすが」
さっと珈琲を淹れてストレンジラブに渡しに行くと、椅子に掛けてあった黒のロングコートを羽織りながら表に出る。
表にはこの半年で味方に引き入れた元MSF隊員に現地の兵隊など二個中隊が装備を確認し終えて待機していた。
周囲には移動用のトラックにピックアップトラックの荷台に機関銃や迫撃砲を取り付けた戦闘車両“テクニカル”が数台並ぶ。
「じゃあ、ちょっくら行ってきますよ」
「心配するだけ無駄だとは思うが気をつけてな」
ザドルノフとストレンジラブの見送りを受けて蝙蝠は
ちょっとした一コマ:合流するチコ
チコはヘリの揺れを感じながら穏やかそうな海面を眺める。
カズヒラ・ミラーが新たに創設したダイヤモンド・ドックスの本拠点は“カリブの大虐殺”で壊滅した
苦い想いが脳裏に過る。
共に闘い、恩のある彼らが虐殺に合っていた時に俺は何もすることも出来なかった…。
知った時にはすでに事件の数日後。
俺は大切な戦友達を失った喪失感と何も出来なかった無力感から荒れに荒れた。
無力な自分を正そうとしたのか、やり場のない気持ちを一時的に忘れる為か、戦場と言う戦場を渡り歩く。
幾度もの戦場を潜り抜けた成果もあって、精神だけでなく技術も未熟だった“
この力があの時にあればと思う反面、遅すぎたと惨めにも感じる。
その考えこそ驕りであるとすぐに知る事となった。
ザドルノフの下でバットと再会し、数か月を経て行ったカズヒラ・ミラーの救出作戦。
予想外にも死んだと思われていたスネークとの共闘に驚愕よりも興奮の方が強かった。
そしてバットとスネークが異常な身体能力と異様な雰囲気を纏った敵を倒していく様はまさに圧巻。
同時に彼らの力の差を思い知らされた。
そんな俺でも力を貸してほしいと懇願されれば頷かない訳がない。
スネークと合流後して敵兵力を撃退し、今はダイヤモンド・ドックスの拠点“マザーベース”へと向かっている。
酷い拷問を受けたカズヒラはバットの治療によって痛みがある程度引いたのもあってぐっすりと眠り、その様子にバットは安堵しているようだった。
俺はフリーなので誘われるままダイヤモンド・ドックスに入るが、バットはどういう意図があってかは知らないけど入隊するのではなく協力者として手を貸すらしい。
それでも有難い話だろう。
国境なき軍隊でその力を十二分に見せつけた二人が戻ったのだから。
ヘリが着陸地点に到達し、徐々に降下を開始した。
揺れと音が激しくなって着地の衝撃がシートから伝わって来た。
着陸すると扉が開き、ヘリに集まった兵士達が出迎える。
「副指令ご無事で」
「あぁ、なんとかな」
捕まって拷問を受けていたカズヒラを急いで医務室へ運ぼうと担架が運ばれるも、揺れで起きたカズヒラは何事も無かったように杖をつきながら降り立った。
不思議に思うだろうなぁ。
尋問で受けた怪我の類はヘリの中で完治させましたって言ったら…。
苦笑いを浮かべながらスネークやバットに続いて降りると、集まっている者の中に国境なき軍隊でも見知った兵士が何人か見えて少し安心する。
集まった兵士達を掻き分けて見知らぬ人物―――オセロットが前に出てスネークとカズヒラを出迎える。
「よく戻ったなミラー。そしてさすがだ“BIG BOSS”」
朗らかに笑みを浮かべたオセロットにスネークとカズヒラが会話している中、手持ち無沙汰気味だったチコにパイソンが歩み寄る。
「元気そうだなチコ」
「パイソンさん!そっちも元気そうで」
「相変わらず熱さには弱いがな」
「他の皆は…」
「大半はカリブに沈んだ。だがジョナサンを含んだ一部は元気にやっている」
「そうか…そうか」
多くの戦友を失ったが、あの地獄より僅かでも生き残ってくれたことに喜びを覚える。
無論襲撃者には憎しみを、失った仲間には悲しみを抱く。
胸中を渦巻く感情に気付いてパイソンが優しく肩に手を置く。
「よく来てくれたな」
「―――ッはい」
どんな一言よりそれは心に響き、チコは力強い想いを瞳に宿して頷く。
そんな最中に離れた位置から近づいてくるエルザに気付いた。
バットも気付いたのか手を振って笑顔を向ける。
「エルザさん!おひさ――ぶぇ!?」
ぶんぶんと手を振ったバットは急に浮かび、そのまま甲板を三回ほどバウンドする勢いで投げ飛ばされた。
唖然となる中、エルザはにこやかに歩み寄って来る。
「大きくなったわねチコ」
何事も無かったように振舞われ、「え、あ、うん…」と小さく言葉を漏らしながら、チコも何事も無かったように振舞う事にする。
「…エルザさんはその相変わらず綺麗ですね」
「あら?お世辞でも嬉しいわ」
お世辞ではなかったのだがと苦笑し、相変わらずのチコにスネークもカズも苦笑し、誰一人バットを気にも止めていなかった…。
遠巻きながら眺めていたパイソンだけはバットの帰還を喜びつつ、これから起こるであろう事に同情していた。
「積もる話もあるでしょうし、あとでお茶をしながら話しましょう」
嬉しい誘いに大きく頷くと優しそうに微笑んだエルザの表情に惹かれる。
「またあとでね」
「あぁ、あと……で…」
話を一旦区切り施設内へと戻っていくエルザ。
その後ろではサイコキネシスにより引き摺られていくバットの姿が…。
先にするべき話もあるだろう。