●罪人に罰を。
「ちょっと開けなさい!」
怒声の中に悲痛さが混じった声が僕の耳に劈く。
閉じ込められた
けれど決して開けることは出来ない。
いや、開ける訳にはいかないのだ。
「ヒューイ!」
彼女が僕の名を呼ぶ。
開けようと思えば今すぐにでも開けてやれる。
心が揺れ動き、手を伸ばそうとして必死にそれを抑える。
「開けてヒューイ………開けろ!」
願うような言葉から怒気の籠った命令に変わる。
震えながら首を振って否定する。
観ているのも辛い。
目を背けようとも声は心を突き刺し続ける…。
「お願い…開けて…」
弱々しく頼み込む彼女の声が酷く心を揺さぶる。
両手で耳を塞いで聞こえないようにするが、隙間から入り込む彼女の声が響き渡る。
違う…。
僕が閉めたんじゃない。
そうだ。
僕は悪くなんかないんだ。
彼女が悪いんであって僕は何も悪い事はしていない。
そう…悪いのは彼女と
「悪いのは君達じゃないか!」
罪悪感から言葉が口より漏れ出た。
これは正当な主張だ。
何より僕が責められるようなことじゃあない。
「
ミラーの低い声が鋭い視線と共に向けられてブルリと背筋が震える。
サングラス越しにも解る失望と怒り。
「あ…いや…違うんだ。今のは…」
訂正しようと口を動かすも出たのはそんな言葉。
自分の肯定も彼を宥める事も出来ない言葉はただ流れ、ヒューイの深いため息に掻き消される。
「元は違えど共に闘い抜いた仲間だと思っていたのに…残念だヒューイ」
冷たい言葉が圧し掛かる。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
感じる
「何やってるんですか…」
そこに現れたのは呆れた様子のバットであった。
この状況下で彼が来てくれたのは心強い。
ぱぁっと顔を輝かせて救援の来訪を心より喜ぶ。
バットはミラーとストレンジラブを視界に収めると大きなため息を漏らす。
「声が外まで聞こえてましたよ。二人共自業自得じゃないですか」
「私が何をしたと言うんだ?」
「熱で弱っていたパスちゃんの服をひん剥こうとしたと聞きましたが?」
「いや、あれは…薬を塗ってあげようと…」
「身の危険を感じたと本人が証言してましたが?」
独房の中でストレンジラブが言葉に詰まる。
彼女は現在バットが言った罪で牢に入れられたのだ。
数日の謹慎&罰と言う事で。
言い返す気満々だったのだろうけど、さすがにパス本人に怖がられていたと知って悪い事をしたと罰が悪そうにする。
対して同じく独房内に閉じ込められているミラーは堂々とした態度でバットに対峙する。
「俺は無罪だ」
「何が無罪ですか。勢いに任せてヒューイ博士に開けさせようと責めておいて」
「それでも俺はやっていない!」
「パスちゃんの前で座薬の見本と見せると言って下半身を露出しようとした罪。共用施設の乱用。複数の女性と関係を持ってマザーベース内幾人の人間関係を崩壊させたこと。スタッフの負傷。挙句にスネークと共に全裸で施設内を駆け回った件などなど。否定するのであればどうぞ」
「…すまない」
ようやく謝罪の言葉が出たことで大きく息をつく。
なんで独房内では暇だろうと差し入れを持って来ただけでこんな目に合うのだろうか…。
苦笑いを浮かべながらストレンジラブに視線を向けるとまだ諦めていない様子。
それに気付いたバットが釘を刺しておく。
「駄目ですよ。絶対に出しません」
「今日だけで良いんだ!いや、三十分だけでも」
「諦めて下さい。というか反省する気なしですか!?」
「アンダルシアンの世話もあるし…」
「
きっぱりと言い放つバットに続き、僕も独房を離れる。
…そんなに参加したかったんだ。
セシールとパスが参加する女子会に…。
●お酒はほどほどに…。
マザーベースは基本的に生産に向いていない。
研究開発班のおかげで武器や弾薬、アイテムの生産は可能であるも、原材料となるとやはり外より持ち込むほかない。
これは洋上に浮かぶプラントと言う限られた空間を拠点にしている以上仕方がない事である。
けれども頭では納得出来ても不満は募るもの。
中でも嗜好品である酒類は飲む者、飲まない者と別れるので種類が限られるために不満も大きい。
そこで副指令のミラーはビールばかりでは飽きるだろうと、ワインを購入してきたのだ。
…理由はセシールを口説くためにセシールの故郷であるフランスのワインを用意したなんて話もあるが、酒を楽しみにしていた兵士にとってそれは重要ではない。
美味しく飲めて、酔えればそれで良いのだ。
そう、
市場で格安だったワインを倉庫一杯に購入したのだが、その安い理由を気にせずに“酔えればなんでも良い”程度の考えで購入してしまった。
購入したワインは天候が原因で不作だった年代の物で、どれもこれも美味しくないワインだったのだ…。
試飲したセシールは中に美味いのが紛れてないかと希望を込めて飲み、最終的に自分が不味いと評したワインで泥酔してしまう。
確かに酔えればそれで良いと言う者も居るには居るが、出来れば美味しく頂きたいものである。
女性陣は特にその傾向があり、何とか出来ないかと頭を悩ました。
糧食班からはビーフシチューに使って処理するかという話が出たが、量が量だけに数か月は飯がビーフシチューに成りそうなので全ての処理は諦め、何らかの手段がないかを模索。
最終的に浮かばずにミラーが責任を負う事になり、そして最後の手段としてある意味常識外であるバットに泣きついたのである。
「…意外に美味しいわね」
不味いワインの解決策と消費を兼ねて行われたのが、ストレンジラブが参加したがっていた女子会である。
別にワイン目当てで参加したかったのではなく、ワインを飲んで酔うであろうセシールに、ジュースが出されるが万が一酒気で酔う可能性だってあるパス。
彼女達が酔った時に看病と言う名目でナニかしらする気だったのだろう。
そんな思惑は自分には関係ないとワインを口にしたアマンダは、酸味は柔らかくなり程よい甘みとフルーティな飲み易さに驚く。
泣きつかれたバットは“サングリア”というものを調べて来た。
シロップや蜂蜜を加え、果物を漬けるだけという手軽さでガラリと味わいが変わったのだ。
飲むだけではと言う事でカナッペやピザ、モッツァレラチーズとトマトなどバットが用意したつまみがテーブルに並べられ、肴を摘まんではゆったりと飲み、それぞれが会話を楽しむ。
「たのしんでぇるぅ?」
「えぇ、楽しんでるわよ。そっちも満喫しているようね」
「そりゃあもう」
人によっては炭酸水を入れてより薄めて飲んでいる中で、飲み過ぎてべろべろに酔っているセシールが絡んできた事に苦笑いを浮かべる。
満面の笑みを浮かばながらべろんべろんに酔ったセシールはそのまま千鳥足で会場内を彷徨っていく。
あとでバットに対処して貰うとしよう。
バットやスネーク曰く、酔いを治すのは食中りの対処法と一緒なのだとか。
※
「酔い過ぎね」
傍から見て絡まれないようにしていたエルザは小さくため息を漏らす。
彼女は後の事を考えて多少嗜んだら、果物のシロップ漬けを炭酸で割ったものを飲んでいた。
「纏めて面倒見るんだろう?」
「えぇ、久方ぶりに満室になりそうよ」
「同情するわ」
「あら?手伝ってくれても良いのよ」
「遠慮しとく」
短く言葉を交わしながら眺め会場を見渡す。
エルザと同じ飲み物を飲んで会話に参加しているパスなどは元気そうだがやはり飲み易さから酔っているのが何人かいるようだ。
会の名目は女子会となっているが参加すると表明したのが女性ばかりで、後から男性が来辛くなって今の形となっている。
その中に現れた猛者―――グラーニンが扉を開いた。
ワインに興味があったのかバットに一言二言告げて、果物を浸けていた瓶ごと持って立ち去ろうとする。
少し気になったエルザが声をかけた。
いつも酒を飲んでいる事は周知の事実であるも、グラーニンが酔い潰れた姿は誰も目撃した事は無い。
だからあれだけ摂取しておいて酔わずに飲む方法があるのかと気になったのだ。
「…二日酔いには向かい酒だろう?」
当たり前のように答えられた答えに、聞いたエルザとアマンダは酒の飲み方には気を付けようとグラーニンとセシールを見て強く思うのだった。
その後、酔い潰れバットの治療により酔いは抜けたが、少しばかり体調が芳しくない者達が医務室に集まるのであった…。
●去り際を探る者と居座る者
「はぁ?ここを離れる?正気かお前ら?」
心底信じられないモノを見るような表情でスコウロンスキー大佐は二人の科学者を見つめる。
視線に困惑を示すソコロフは隣で気にすることなく酒を飲むグラーニンへどうするのと意思を向ける。
アルコールを体内に回しながら、酒気を元った息を吐き出し一息つく。
「正気も正気よ。そろそろ潮時じゃしな」
正面切って揺るぐ事のない瞳に本気と察した大佐は眉間にしわを寄せる。
考えが理解出来なかったのだ。
正直に大佐にとってはここは楽園でしかない。
高齢である大佐は年々身体能力は低下しつつある。
無論視力も体力も全てのステータスがだ。
軍隊や民間軍事会社に勤務していたら引退を宣言させられるか、後輩指導の名目で最前線を退けさせられるだろう。
絶対に自分の居場所である空からは遠退けられる。
だというのにここでは未だにヘリ操縦者として扱ってくれる。
さすがに戦闘機は無理であろうが、それでも空を駆けると言うのは嬉しいものだ。
自分がそうなのだから他の者もここが楽園であろうと思い込んでいた。
ソコロフの存在から研究所から資金まで奪われたグラーニン。
突出した技術を持つがゆえにどこまでも戦争に利用され続けるソコロフ。
居場所を貰い、十分な研究資金を確保出来るマザーベース。
しかもソコロフに至っては家族を保護して貰っているばかりか会う事だって出来るのだから。
「もう良いのか?」
考えが追い付かず、ようやく出た言葉にグラーニンは大きく頷いた。
一仕事終えた様に清々しい笑みを浮かべ、ゴクリと酒を飲む。
「そもそも儂はアイツにメタルギアを作ってやる約束を守る為だけだったしな。酒を飲むだけの余生に戻るさ」
「ただ酒を飲むだけの人生ならどこでも一緒だろうに。で、そっちのもか?」
「わ、私はニコライの所の社員だからね。それにそろそろ家族にも会いたい」
「戻るべき場所か…」
自分は得られなかった居場所を語るソコロフにクスリと笑う。
別に相手を否定するつもりはないし、それもまた良いのだろう。
が、一番理解できない点がある。
「で、なんでその話をした?」
「お前さんはどうするのかなと思ってな」
あぁ、そう言う事か。
この二人と同じくロートルを心配してくれたって訳か。
肩を大きく揺らして馬鹿笑いしてしまう。
「迷惑な心配だな。俺の居場所はここであり、俺が収まるべき棺桶もそこにある」
居場所は
そう心に決めている
スコウロンスキー大佐の発言にグラーニンは「そうか…」と呟く。
納得したような彼らは立ち上がり、研究棟に戻ろうと出口へと向かおうとするも、それをスコウロンスキー大佐が止める。
「まだ去らないんだろう?去る前に一度ぐらい飲もう。無駄に年食った分だけ
「おぉ、良いな。こんな酔い潰れた爺で良いなら付き合おう」
「私も少しなら…。それにあの子がどうなるのかも気になるしな」
「あの子?」
ソコロフが心配そうに呟いた“あの子”に対して首を傾げた。
誰だそいつはという表情にグラーニンもソコロフも面食らった。
「パスと言う少女がマザーベースで暮らすようになったじゃろうが」
「あ?…あぁ、何かそんな話聞いたような気がするような…しないような?」
「本当に知らないのか?」
「知らん」
別に自分に関わるものでは、グラーニンやソコロフのようにヘリの事で関わる者でもない。
もしもパスが研究開発班に居れば話は違ったかもしれないが、糧食班を手伝っている少女など興味が無かったうえに、パス自体もそれほどスコウロンスキー大佐に関わる事がなかったので当然と言えば当然なのだから。
そんな事もあるんだなと困ったように笑う二人は格納庫から去って行き、スコウロンスキー大佐は日課となっている愛機の調子を見ながら格納庫に居座るのであった。
●蝙蝠は悩む
ぶらり、ぶらりとマザーベース内を歩き回る。
甲板上で煙草を吹かしながら談笑しているアマンダとセシール。
訓練場では兵士達に指導をしているパイソンとジョナサン、そして紛れて訓練に参加しているチコ。
糧食班に入って調理の手伝いをしているパス。
難しい顔を浮かべながら会議を行っていたスネークとカズ。
メタルギアが完成した事でひと段落着いて各々好きに次の研究を始めているヒューイにストレンジラブ、グラーニンにソコロフの博士達。
休憩がてら診療所から出て、通路にある椅子に腰かけてニュークを撫でているエルザ。
格納庫にて愛機のヘリを眺めて満足そうに笑っているスコウロンスキー大佐。
周囲の人や状況を全く気にする様子もなく散歩をしているアンダルシアン。
こんな光景ももうすぐ見納めかとバットは何時になく暗い表情を浮かべる。
正直ここは楽しい。
食事は美味しいし、背中を預けれるほど信頼できる戦友が居て、自分が必要とされている実感が心地よい。
元の生活はこれに比べるとどことなく味気なく感じてしまう…。
けど僕は必ず向こうに帰らなければならないだろう。
この
三度目となれば…いや、一度目でそうだとは思っていたさ。
こんなのはゲームなんかじゃないって…。
言葉にすると恥ずかしくて言えないし、言っても冗談にしか取られないだろうが、僕はここが数字とイラストで出来たゲームシステムによって構築された仮想世界ではなく、生きて来た世界とは異なる異世界なのだろうと思っている。
決して定められたAIによって文字を吐き出しているNPCではなく、彼らはこの世界で生きている人間なのだ。
そう考えると僕は異物。
体内に入り込んだ病原菌のようなモノなのだろうな。
乾いた笑みを浮かべ、小さく息を吐き出す。
ならどうして僕は異世界に居るのか?
それはあの送り主が解らない荷物を送って来る主に聞かない限り解る事は無いだろう。
唯一解る事は僕がこのゲームとされる物語をクリアしてしまったら
コスタリカの武装勢力を排除して欲しいと言う依頼から、核弾頭発射阻止へと目標が大きく変わり、多くの仲間を得ながら強大なAI兵器やメタルギアを倒して、敵の計画を潰して任務を達した。
一見ゲームクリアしたように思われるが、それでも僕がここに居られる事からまだ
外部には敵らしいキャラクターは存在しない。
ならば味方の中にラスボス、または裏ボスと呼ばれるものが紛れて機会を窺っているのだろう。
悲しいなぁ。
それが誰であろうと殺し合う事になるんだろうな。
そしてその時が近づいているのが何となく解る。
最近よく逃げ出しているザドルノフは時間稼ぎか何か。
すでに六回も行われている事からナニカは解からなくともあまり時間はない。
『バットか…まただ』
「またですか?」
突然の無線に出るとスネークからであり、どうやらまたザドルノフが脱走したようだ。
声色から飽き飽きした感じが感じ取れるも、それを含んで楽し気な笑みを漏らす。
「すぐに行きます」
『あぁ、頼む』
なんにしても今はまだ楽しむとしよう。
別れである終局が訪れるその時までは…。
国境なき軍隊の総司令であり、兵士達の尊敬の念を集める
身一つで潜入しても武器弾薬の調達から敵兵を単身で味方に引き込むバット。
屈指の実力者である二人は完全武装の下、マザーベース施設内を警戒しつつ歩み続ける。
目撃した兵士は何事かと驚きの色を見せるも、本人たちにとってはそれほど大したことではない。
ただ独房よりザドルノフが脱走したと言うだけ。
監視している状態で何度も脱走されるのは大問題なのだが、最早それを大仰に問い詰めるのも飽き飽きするぐらい脱走された事で、監視を攻めるよりはザドルノフの脱走技術を褒めるばかり。
けどそのまま放置は出来ないのでスネークとバットが何度も捜索しているのだ。
飽き飽きしてため息を漏らすスネークにバットは楽しそうに笑みを浮かべる。
「パスちゃんから聞いたのですけど溜め息を吐くと幸せが逃げるそうですよ。ま、逃げたのは幸せより脱走マニア(ザドルノフ)ですけど」
「そいつのせいでため息を吐いているのだけどな…」
合計七回目の脱走…。
毎回独房を脱出するばかりかマザーベースより出て、コスタリカの地に潜伏する。
厄介で面倒な事をしてくれるものだ。
それに輪をかけて今回は余計に面倒なことになっている。
今まではマザーベースより出る事で足取りを追えたのだが、その足取りが今回は全くと言っていいほど追うどころか見つからない。
考えられる理由は二つ。
一つは奴が巧妙に隠しきったか、こちらの捜索が足りないのか。
もう一つは外ではなく内に隠れている可能性だ。
マザーベースは人や機能が増える度に増改築を施しており、隠れれるところは多く存在する。
居なくなって日が立っている事を考えると巧妙に隠れているのだろう。
数日前に平和の日を予定より早めた結果、仕事に出向いている者が大勢居り、少ない人員で捜索しなければならない。
少ないっと言っても探したところに隠れられたらまた一からなので、捜索を担当する人間と捜索した区画を見張る人員に分かれればならず、捜索は能力の高いバットとスネークが全て行う事に。
これではスネークに溜め息をつくなと言う方が間違っているだろう。
居住区から研究施設、糧食班の倉庫なども探しに探し、二人は探していない施設である射撃訓練場に訪れた。
ここは普段訓練でも使っている為に居るような気はしないのだが“もしも”と言う事もある。
扉を開けて中に入って見渡すも誰も居ない。
射撃場は一回が射撃訓練場になっていて、二階からはその様子が窺えるように壁際に足場と手摺が設置されている。
「ったく、何処にいるのやら…」
「危ないスネークさん!!」
階段で二階へと上がってスネークは悪態をつきながら周囲を見渡すと、バットの叫び声が驚いて反応するよりも早くに壁際へと押しのけられる。
何事かと視線をゆっくりとバットに向ける。
世界がスローになったように瞳に映り、その中で銃声が響くと同時にスネークを押しのけたバットより鮮血が散った。
――バットが撃たれた。
壁にぶつかりながら銃声の方を向くと、二階の奥の柱に身を隠していたザドルノフが銃口を向けている姿があった。
今まで隠れるだけで抵抗らしい抵抗をしなかっただけに驚き、自身の油断でバットが撃たれた事実に怒りが滲む。
殺意を持って銃を抜こうとするが、それより先にバットはSAAでザドルノフに二発早撃ちで叩き込んだ。
弾丸は銃を握っていた左腕と右太ももを貫通し、踏ん張りが利かなくなったザドルノフは銃を手放しながらその場に崩れ落ちた。
「バット!大丈夫か!?」
「大丈夫――――じゃなぁい!痛いです!それもかなり!!」
左肩を抑えながら訴えかける様子に安堵する。
痛みで顔を歪ませているけどすぐさま治療をしているので、ものの数秒で完治するだろう。
「それだけ叫べるなら大丈夫だな」
「スネークさんは無事ですよね?」
「お前のおかげでな」
笑みを交わす二人は銃を手放し、倒れ込んだザドルノフに視線を戻す。
右手は指が稼働するも細かな動作は難しい義手。
銃を握れる左腕は撃たれて使い物にならない。
逃げるにも片足を撃ち抜かれて早々に動く事は叶わない。
無力化できたと判断するも、先ほど油断して撃たれただけに警戒は緩めない。
案の定ザドルノフはゆっくりと動き出した。
義手で
「――――ロケットピース!!」
「何ですかその機能!?」
煙りを立てて右腕の義手が発射された。
突っ込みを入れながらバットは伏せて回避し、スネークは壁際の柱を盾に防いだ。
最後の攻撃を呆気なく防がれた事に残念がるも、床の上に立った義手を眺めながら満足そうに微笑む。
「私の役目は終わった………ぐぉっ!?」
清々しそうに瞼を閉じたザドルノフ。
が、撃たれたことでキレたバットは背より水平二連ショットガンを抜いて問答無用で撃った。
まともに直撃を受けたザドルノフは衝撃で吹っ飛んで床を転がる。
あまりな光景に戸惑いが隠せない。
「…おい」
「非殺傷のショットガンだから大丈夫です!!」
「いや、そうじゃなくてな…」
「もう一発叩き込んどきますか!」
「止めてやれ。非殺傷とてやり過ぎると死ぬぞ」
荒々しく肩を揺らしながら呼吸をするバットを宥め、ザドルノフを発見・無力化した事をカズに伝えようと無線を開く。
「カズ。バットがザドルノフを発見。無力化した。これから独房にぶち込んでおく」
『了解した。あとはこちらで……ん?―――ZEKEが動いている!?』
「何だと!?」
『誰かが乗り込んでいるのが見える。メタルギアZEKEのデッキに来てくれ!』
「分かった。バット!」
「僕は教授を独房へ運んでおきます。スネークさんは先に!!」
脚を引っ張って引き摺ろうとするバットにザドルノフを任せ、スネークはメタルギアZEKEのデッキへと駆けるのであった…。