メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 ようやく夏バテから完全回復しましたので投稿を再会します。
 不定期とは言え二ヶ月もあけてしまい申し訳ありません。


第04話 『蛇と蝙蝠の共同戦線』

 ラスヴィエットの廃工場に派遣されたGRUの兵士達は出来るだけ足音を立てないように慎重に進む。

 ヴォルギン大佐より与えられた任務はこの付近の調査。それは最近流れている噂の調査ではなく、昨日森で爆発した乗り物が発見されて、それの詳しい調査だったのだがどうやらそれは人を乗せて飛行する乗り物だった事が判明。乗り物の中や付近に死体がなかった事から搭乗者がどこかの工作員と断定して捜索していたのだ。

 居るとしたら可能性の高い廃工場にまで来たら大当たりだったようだ。

 茂みに隠されてはいたが別の偵察隊の連中の遺体を発見した。という事は少なくともこの近くに居る事は確か。

 オセロットの山猫部隊も付いて来ているが彼らは捜索する気はないらしい。役回りとしては猟犬役として俺らに獲物を見つけさせ、狩り出した所を仕留める――つまりは美味しい所だけを持っていく気らしい。

 

 辺りの様子を確認しながら声は出さずにハンドサインのみで意思疎通を行い進んでゆく。残るは奥の部屋のみになり、緊張が高まる。

 動き一つ一つに気を使いながら足を止めてトリガーに指をかける。静まり返った戦場でゴクリと唾を飲む音が周りに広がった。緊張で汗がタラリ、タラリと落ちて行く。

 するとバタンと大きな音を立てて扉が突然開かれると同時に何かが飛び出してきた。驚いた一人がトリガーを引いて発砲した。それに釣られたように皆が皆トリガーを引いて何発もの弾丸を撃ち込んでゆく。

 飛び出したものは力無く地面に落ちて動かなかった。

 

 「やったか?」

 

 撃ち尽くしたところでひとりが呟き、先頭にいた者が撃った為に煙舞い上がる中で近付いて確認する。飛び出した対象物を軽く蹴ると、ふわっと浮いて落ちた。

 

 「いや、ただの服だぞ」

 「なに?という事は…」

 

 飛び出したものが服だと確認が取れた事で焦りながら扉のほうを凝視する。これを投げた人物が確実に居るからだ。そう思って凝視したのが運の尽き。扉より今度は円筒形の物体が転がり目の前で破裂した。殺傷能力のあるグレネードではなく、一時的に視界と耳を不能にするスタングレネード。

 顔を背けるよりも早く破裂したスタングレネードにより目は強い光で焼かれ、耳は甲高い音により耳鳴りが起こって周りの音が聞き取れない。足元がおぼつかずに転げそうになり手を突いた。

 霞む意識に渇を入れて踏ん張るがAK-47を片手で二丁持った少年が現れたところで彼らの意識は完全にこの世から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 スネークが扉を開けると同時にバットは拾った野戦用の【レインドロップ】と書かれたユニフォームを広げて投げ出した。人型のユニフォームは相手に人が飛び出したと錯覚させるのには十分で、投げ出した瞬間に始まった猛烈な銃撃の嵐によりみるみる穴だらけになっていく。

 

 「うわぁ…銃弾の雨霰ってこんな感じなんですね」

 「傘では防げそうに無いな」

 「なに悠長な事を言っているのよ」

 

 撃ち過ぎて埃が舞い上がるドアの外を眺めながら呑気な感想と相槌を打った二人に呆れた表情で見つめるとバットはへへと笑い手に持っていたグレネードを見せてきた。それは強い閃光と耳を劈くような音を発するスタングレネードだった。

 意図を読んだスネークとエヴァは銃弾が止むと同時に耳に指を突っ込み、瞼を閉じた。

 まだ埃舞い上がる中にピンを抜いたスタングレネードを転がすと、すぐに破裂音が響き渡る。自身も喰らわぬように耳に指を突っ込んだのだがそれでも普通に聞こえるとなると対策出来なかった者は悲惨であったろう。

 

 「行くか!」

 「はい!」

 

 声掛けをしたスネークは出入り口より顔を覗かせて銃を構えようとしたが、その前に返事をしたバットが無防備に通路の真ん中に立って両手のAK-47二丁を構えた。

 

 こっちではなく耳と目をやられた兵士を見つめるバットの顔を見つめた。

 アジア系は欧米に比べて幼顔で幼く見えると聞いたことがあった。だから目の前に居るバットも見た目以上に年上なんだろうと思っていた。しかし話してみたり、観察してみると大人独特の雰囲気や感じではなくまさに少年といった感じがした。別に戦場に子供がいる事が可笑しいと思っている訳ではない。むしろ無法地帯に近い地域や戦場では大人に従順な子供は少年兵として使われることのほうがあるだろう。

 しかしバットという少年はただの少年兵ではない。先に述べた少年兵は無茶な突撃などの勢いに任せた攻勢だけではなく、技術を持っていた。先ほどの服を使った囮のやり方もスタングレネードを投げるタイミングも確実に計って対処させる事もさせなかった。だが、エージェントにしては遊びが過ぎる。何とも評価しがたい少年だった。

 

 容赦の無い弾丸が激しい銃声と共に二つのAK-47より放たれ、眼と耳をやられたGRUの兵士達は抵抗らしい抵抗も出来ずに何発も貫かれて、糸が切れたマリオネットのように力無くその場に倒れ込み、血溜まりが出来上がっていく。火薬と硝煙と鉄の錆びた臭いが充満する中、バットは装弾数30発を撃ち切ったAK-47を放り捨て、ポケットよりマカロフを二丁取り出した。

 

 「良い判断だ。しかもタイミングも腕も良い。だが、先に一言欲しかったな」

 「あ!すみません」

 「まぁ、良いさ。俺は左から行く。バットは右から頼む」

 「了解です。では後ほど」

 

 肩をぽんと叩いて告げると申し訳なさそうに頭を下げ、指示した方向へと駆け出していった。

 撃たれた兵士を目視でだが確認すると完全に息を引き取っていた。出鱈目に撃っているかと思えば必ず頭か心臓付近に弾丸が直撃している。恐ろしい子供だ…。

 横から同じように死体を確認したエヴァは多少曇った表情を見せた。

 

 「あの子…戦場慣れしているわね」

 「エヴァは先に行ってくれ」

 「分かったわ。ここはお願いね」

 

 一応取り出していたモーゼルを短く息を吐き出しながらホルスターにしまった。そして素早くベッド下の隠し扉に入って行く。それを確認したスネークはM1911A1を握り締めながら部屋から飛び出す。

 通路の先には銃声を聞いて警戒を厳にした兵士がゆっくりと進んできている。

 エヴァの脱出を優先するならばここは派手に打って出るべきだなと苦笑いしながらM1911A1の残弾を確認する。

 

 「さて…行くか!」

 

 確認を素早く終えたスネークは一人に狙いを定めてトリガーを引いた。

 

 

 

 

 

 

 バットは笑みが止まらないでいた。

 今まで何種類ものゲームをプレイしてきたがこれほど自由の利くゲームは知らない。

 服装アイテムを投げるとか、アサルトライフルを二丁持ち出来たり、ポケットに入れることで他の武器を入れていけることなど初めてのことばかりだ。

 銃を撃つ反動、人を撃った感覚、初めて知った硝煙のにおい。

 これまでやってきたゲームのレベルが低く感じる。そしてこのゲームのリアリティに驚き、高揚感を覚えながら走る。一歩一歩踏み締める感覚を確め、身体にかかる疲労を感じながら窓より外へ飛び出した。

 飛び出した先には覆面を被った野戦服の兵士達数人が立っていた。

 

 「CQCモード!」

 

 咄嗟に叫ぶと同時に世界が制止したように動きが鈍くなった。

 窓から飛び出した状態で驚いた敵にゆっくりと動く時の中で引き金を引いて撃つ間もなく倒し、地面に転がりながら素早く立つ……………と、いうのを思い描いていた。

 これを使えばどんな状況でも勝つことが出来る。チートシステムとして疑わなかったバットだったがすぐにその考えは間違いだったと知る事になった。

 

 《CQCモードにエラーを感知。CQCが出来る体勢ではありません。5秒後にCQCモードを停止します》

 「ちょっと待っ!?」

 

 どうやら思っていたシステムではなくいろいろと条件があるシステムらしい。

 と、そんな事を考えている場合ではない。かなりスローであるが銃口がこちらに向きつつある。苛立ちからの舌打ちする時間も勿体無く、身体を捻りながら握り締めたマカロフの引き金を連続で引く。

 相手の数は3名。引き金を引く度に弾丸がゆっくりと向かって行き、当たると血飛沫を上げながら相手の身体が大きく揺れる。当たってから狙いを変えていたら時間が足りないからとりあえず撃つだけ撃つ。全弾撃ちつくす前に5秒は過ぎて、着地の事を考えておらずに左肩から地面に激突してしまった。激突する前に弾丸のほとんどが吸い込まれるように三名の敵兵を撃ち抜いて仕留めていた。

 

 「うおっ!?肩痛い!」

 

 がばっと勢い良く起き上がったのと同時に肩に痛みが走り、急いで物陰に隠れつつ治療と呟く。脳内に音声が響くが《どうにかして冷やしてください》と返答がきた。どうやら持っている治療アイテムが足りないのか、打ち身程度は治療の中に含まれていないのか…兎も角今はこの状況を打破するのが第一だ。

 マカロフの残弾を確認するともうほとんどなかった。マカロフはマガジンが落ちてなかった事から入っていた残弾以上に補給は出来ないのだろう。勿体ないけど諦めるしかない。そう思ったらすぐにマカロフを捨てて、モーゼルを取り出す。拳銃タイプとナイフならCQCは使える事が分かっているからであるが、暇があるならもっと詳しい条件を調べなければ…。

 肩を擦りながら辺りを見渡しながら動こうとすると、スネークが向かった方向で重たい発砲音が鳴り響いた。

 どうやらあちらが本隊らしく時間が掛かっているのだろう。任務はスネークの手伝いなのでここでやられたらストーリーに大きく影響してしまう。急ぎつつ、周辺の警戒を怠らないように進む。

 回り込んで相手の背後より攻撃しようと建物の裏手を進んでいると銃声がパタリと止み、『ジュウドー』がどうやら『アクシデント』がどうやらと声が聞こえてきた後に少しするとバイクのエンジン音が鳴り響く。

 

 「終わったのかな?だったら今のエンジン音はなんだったんだ……あ!」

 「また会おう!――――なぁっ!?」

 

 いきなり目の前に今までの兵士とは明らかに違う男が飛び出してきた。

 黒い制服に灰色の短髪に踵に小さな車輪のような物を取り付けたブーツを履いていた。男の腕がホルスターに伸びる。速度はスネーク以上で焦りながら「CQCモード!」と呟く。

 指示されたように動くが男がホルスターに入れていた銀色のリボルバーを構えるほうが早かった。撃たれると諦め掛けていた時、男の表情が何かをやらかしたと言わんばかりに歪んだ。

 右手でリボルバーのシリンダーを固定するように握り、一歩踏み込んだ右足を軸にして男に背を向けるように身体を左に捻る。その勢いを加えた左肘打ちを鳩尾に打ち込み、背後よりスローな呻き声が漏れる。次に膝を多少曲げて男右手手首を左手で掴み、右腕は手を離して男の二の腕を前腕と上腕で挟み込む。そして右手を前に引っ張りながら下腹部の辺りを腰に乗せるようにして前に投げ飛ばす。背中から地面に落ちた男はカハッっと声にならない音を漏らして気を失った。

 

 「おお!見事」

 

 CQCモードが終わり、声をかけられた方向を向くとそこには軽く拍手をするスネークとバイクに跨りモーゼルをこちらに向けている不審者―――ではなく、口元をマスクで隠し、ヘルメットを被ったエヴァが見ていた。

 何がどうなっているのか理解できてないバットを気にせず、エヴァは気絶した男に対してトリガーを引こうとする。その前にスネークが銃口を手で押し逸らして邪魔をする。

 

 「待て!」

 「どうして?」

 「奴はまだ若い……バットはどうする?」

 「ボクはそれで良いですけど」

 「二人とも…後悔するわよ」

 

 呆れたような表情を浮かべたエヴァは速度を出しつつ曲がり、近くにあった階段へと突っ込んでいった。段差を物ともせずに駆け上がり、そのまま跳んで先の建物の屋根に飛び移る。決して速度を落とさず屋根から飛び降りた先は金網の扉があり、ガシャンと大きな音を立てて開け放って行った。

 見たこと無いような運転を目の当たりにしたバットは目を丸くして感嘆を漏らしていたが、ふと眼の前の男に視線を戻す。

 

 「えと…この人は?」

 「山猫部隊のオセロットだったか」

 「オセロット?何処かで聞いたような…ん?」

 

 そこで右手から落ちた装飾が施された銀色のリボルバーが眼に映った。

 銃器の中でモーゼルも大好きな事ながらリボルバーも負けないほど好きなのだ。スネークが生かすと言って同意してしまったのだからここで丸腰にするのも可愛そうか。予備で持っていたマカロフを持たせて、リボルバーを手に取る。

 

 「おいおい、それは観賞用の銃だぞ。その装飾には戦場でのメリットは何一つ無い」

 「そうなんですけどリボルバーも好きなんですよ。確かに戦場で装飾には何のメリットも無いですがこのぐらいの装飾だったらデメリットも無いでしょう」

 「はぁ…好きにしろ」

 「はい、好きにさせてもらいます♪」

 

 リボルバーの弾がない事を確認して先ほどの表情の意味を知りながら、懐に仕舞ってエヴァが開けてくれた金網のほうにスネークと共に進むのであった。

 これがこの地で何度も相見えるオセロットとの初の出会いだった…。


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