今回は体調不良などではなく、ただ単に投稿しようとしたら今更ながら気に入らず、最初から書き直したので遅れました。
現在それに伴ってPW編三話目の書き直し中…。
何処までも続くようで、何処にも繋がってないような真っ白で壁や床、天井の一切が認識できない空間。
この何も無いような空間に居る存在によって、宮代 健斗はバットとしてメタルギアの世界に期間限定であるが転移出来るようになったのだ。
しかし彼らの役職は任された世界を観察する事であり、魂を別世界に転移させて変化を楽しむのは違法である。
バレない時は意外に堂々としていてもバレないものだし、バレる時は些細な事でも気づかれたりして明るみに出てしまう。
それは彼らとて変わる事は無い。
バレないように他には漏らさず、原作ストーリーが行われるまで干渉しなかったが、こうも簡単に知られてしまうとは…。
彼らには目や鼻と言った部位は存在せず、各自を現す色と
それらが三体のシルエットを囲み、言い分と解かり切った判決を共有すべく聞き耳を立てる。
囲まれた三体こそ
違反が知られ、こうして裁かれるときになっても慌てる様子は微塵もなく、逃げだそうとする素振りも見せはしない。
逃げても彼らより上位の存在には無駄なので抵抗しただけ無駄な徒労となるだけだ。
すでに覚悟は決まっている三名は上位個体であるシルエットと背景の境界線しかわからない半透明の存在を見つめる。
「君達は自分達が何をしたか理解しているようだね」
それは男性のようで女性、若者のようで老人と聴くモノそれぞれに違った印象を与える音を発した。
三名とも弁明や言い訳をすることなくただただ頷く。
「なにか言うべき事はあるかな?」
「宮代 健斗には罪は無い。彼には寛大なるご慈悲を」
灰色が問われ答えた。
観賞用の世界とは言え別世界に多大なる影響を与えた。
とはいえ自分達の娯楽のために無意識に関わる事になった彼には非は無いはずだ。
あったとしてもそれは自分達の仕出かした事であり、彼には何ら責を負う必要はない。
半透明は少し悩む
「彼を裁く気はないよ。これは私達の
歪んだ空間が黒ずみ、そこに光が灯る…。
ニカラグアの反政府組織で革命軍で、
が、今は違う。
街で
訓練を受けた統率のある部隊。
装備は全てが最新鋭。
持ち込んだものは銃器だけでなく装甲車に戦車、はたまた戦闘ヘリまで。
戦争でも始まったかのような兵器と部隊の投入。
勝ち目など無かった。
こちらの武器は奴らに対して雑多な小火器。
同志が徒党を組んでも奴らは容赦なく踏み潰す。
仲間はバラバラにされ、拠点は奪われ、
最後の拠点であったリオ・デル・ハーデにも敵が攻めてきて、あたし―――アマンダ・バレンシアノ・リブレを含めた全員が捕縛された…。
後は奴らに拷問され、情報を聞き出されると殺されるだけ。
皆が絶望を抱いている時、想いもよらぬ救いの手が差し伸べられた。
「奇跡って言うのかしらね」
ポツリと独り言を漏らし、アマンダは葉巻に口を付ける。
本当は
吸い込んだ煙を口の中で味わい、肺に行かすことなく吐き出す。
リオ・デル・ハーデは川沿いにある開けた場所で、そこには見張り小屋が二つにコンクリート製の小屋が数軒、川には一階は船乗り場となっている二階建ての建物が建ち、周囲には木箱や木材が積んであって一見すれば資材置き場と見えるだろう。
反政府組織の拠点だからこそ“そうは見えない”ように工夫してあり、拠点の武装として置いてあるのは二階建ての一階に取り付けられた軽機関銃のみ。
自分達の拠点でありながら数時間前まで敵に占拠されていたここを解放したのはサンディニスタの同志でなく、“コロンビアの写真家”と“料理人”と名乗る二人組だった。
最新の装備を身に着け、訓練を受けていた武装集団に対して二人で圧勝した事実だけでもただ者ではないのは明らかだ。
しかし、彼らがそう名乗っている以上無理に聞く事もない。
視線を向けると“コロンビアの写真家”と名乗ったスネークは、腕を組んで隣で壁に凭れていた。
バンダナを巻き、無精ひげを生やした彼は服の上からでも鍛え上げられている事が窺え、歴戦の雰囲気が隠しきれていない。
閉じ込められていた二階に現れた時は“エル・チェ”かと思ったわ。
そしてもう一人の“料理人”を名乗った可愛らしい童顔の青年バットは、鍋に食材と言う食材をぶち込んでスープを皆に振舞っていた。
料理人を名乗るだけあって雑多そうなスープであったが、非常に美味くて食べているだけで力が湧くようだった。
同志達は拠点に隠してあった銃器を探したり無事な物資を確認、またはバットのスープに舌鼓を打っていた。
「貴方達隠すなら銃器ぐらい何とかしなさいよ」
「護身用だ。気にするな」
気にするなと言っても気になる物は気になるものだ。
スネークの方は上手く隠しているが、バットの方は動くたびに黒のロングコートよりモーゼルC96と
物騒なようで話しかけやすい人物なので、
何処から取り出したのか
あとで注意しとかないと…。
煙と一緒にため息までも吐き出したアマンダはスネークに視線を戻す。
「吸い終わるまでよ」
「状況を教えてくれ」
彼らは情報を求めていた。
戦場カメラマンならまだしもコスタリカの写真家…それもケツァールを撮りに来たにしては矛盾が多すぎる。
けど、あえて突っ込まずに話を続ける。
と、言ってもあたしも奴らの事をちゃんと理解している訳ではない。
相手は市民警備隊ではなく装備一式を最新鋭で整えた雇われ兵―――それも
この辺りはほとんど敵の勢力圏となっており、この拠点こそ最後の隠れ家だった事…。
つり橋を渡った先に拠点としていた工場もあったのだが、そちらも奴らにより占拠されているので実質隠れる拠点は無く、装備は僅か、同志が援軍として駆け付ける見込み無しという最悪の状況で敵地のど真ん中に居る事などなど。
知っている情報を口にする。
「
「あぁ、艀なら上流の
「怪物?」
“怪物”という単語に疑問符を浮かべていた。
突然怪物と言われれば当然そういう反応を見せるだろうけど、これは冗談の類の話ではない。
思い出しただけでも酷く苦々しい表情を浮かべ、答えるまで少し間を空けた。
静かに葉巻を加え直し、ため息をつくように煙を吐き出す。
「
「英雄も指導者も自ら名乗るものではない。希望を継げば自ずと皆が付いてくる」
「そう?信用はされても誰もあたしを
「アマンダ!!」
悲壮感を漂わすアマンダの言葉に強く芯の籠ったスネークの言葉が重なる。
ずしりと届いた言葉に乾いた笑みを浮かべ、“司令官”ではなく“アマンダ”と呼ばれて「ほらね」と肩を落とす。
「コリブリ!!」
続いてチコが叫び、同時にアマンダの表情が険しく空を見上げる。
劈く様な高音を上げ、周囲に風圧を起こし、電子音で音楽を奏でながら
二枚の円盤状の浮遊ユニットを鳥の翼のように左右に広げ、三つ目となる円盤状のユニットが尾びれの様に後ろに伸びている。
顔ともいえる先端の部分には円柱のパーツがぶら下がっており、その左右には機銃の銃口が姿を覗かせていた。
「伏せろ!!」
咄嗟に携帯用の使い捨てロケットランチャーLAWに手を伸ばすも、それよりも早くに機銃が火を噴いてこちらに弾丸をばら撒き始めた。
スネークが叫びながら押し倒し、蜂の巣にならずに済んだが状況は最悪だ。
コリブリは
唯一反撃しているのはバットで、降下してきたチコリブリを撃っては同志を護ってくれていた。
覆いかぶさっていたスネークが立ち上がり、慣れた手つきでLAWで上空で待機していたチコリブリを二機も撃破し、コリブリへと一発放つもその一発はあっさりと回避される。
「避けた!?馬鹿な…」
「あれは“
「うわぁ!?」
突如聞こえたチコの叫びに反応して視線を向けると、チコリブリのワイヤーに捕まったチコが空中へと攫われている所だった。すでに高く引き上げられており、落ちれば命は無い…。
しかし躊躇う事無く銃口を向ける。
重いトリガーを引こうとした時、スネークによって銃口を下げさせられる。
「撃たせろ!!」
「あの高さだ!死ぬぞ!!」
「拷問されるぐらいなら…」
結局撃てずにコリブリ達が撤退していく様子をただ眺めるしかなかった。
ギリリと歯を噛み締めた音が鳴る。
「奴らは攫った同志を拷問して仲間の居場所を
「だからあれらは引いて行ったんですね―――だったら早くチコ君助けに行きますよ!」
突然の言葉にアマンダは戸惑い、ちらりとスネークに振り返るもため息を漏らしながら仕方がないと慣れた笑みを浮かべて前に出る。同志達は大きく頷いて仲間を助けに行く準備を開始していた。
「単なる料理人じゃなかったの?」
「作って戦える料理人です」
「最初に“可笑しな”がつくな」
「どういう意味ですかスネークさん!!」
抗議するもまったく相手にされない事に不満を露わにするもバットの様子に力が抜け、残っていた銃器で武装したサンディニスタの同志達が集結して笑いながら覚悟の決まった顔を見せる。
たった一人の為に大勢の同志を危険に晒す。
それが指揮官としての判断として正しいかどうかは理解している。
が、追わないという選択肢はアマンダになかった。
「
そう叫ぶと先頭を切って走り出す。
大切な家族を救う為に。
宮代 健斗は楽しくも物足りない生活をしていた。
前回の体験をもとに二作目のゲームを発表すると辞表を提出。
貯めに貯めた資金を元に作る側からプレイする側に回っていろんなゲームで記録を打ち立てた。
顔も知らぬ人々から称賛の声を贈られるも、どうにもこうにも物足りない。
やはりスネークさんと共に駆けた戦場ほどの思い入れは感じる事は出来なかった。
だから今回また届いた時は心の底から喜んだ。
まだ十代の幼いチコ君を助けに行かねばならない状況で不謹慎だと解っていても、スネークさんと戦場を駆けていると実感するだけで心が躍りそうになる。
気持ちは浮かれていても
ここは敵の勢力圏内。
こちらは増援も期待出来ない小部隊。
武装は貧弱、兵士は練度が足りない。
圧倒的な不利なのは百も承知。
だからこそ僕達が道を切り開く。
驕りではなく、そうするのが一番確率が高いからやらねばならない。
チコを攫っていた
その後、バナナ工場を突破する際には強行となったものの、こちらの被害は減った弾薬だけで案外上手く行っている。
ただし敵がそれを指をくわえて待っている訳もなく、排除しようと新手を派遣してきたのだ。
二十五mmの重機関銃を上部に装備した兵員輸送用可能な“
バナナ工場を抜けた先で現れたそいつにサンディニスタの面々は絶望を味わった。
なにせもう少し先にはコリブリ達が居るのだ。
ほんの数十メートル進めばチコに手は届きそうだというのにと悔やむアマンダの横顔を見たバットは、肩をポンと叩いて二カリと笑った。
「ここは僕らに任せて先に行ってください」
「二人で装甲車をどうこう出来るのか?」
「大丈夫ですよ。装甲車
この発言にその場の空気が凍る。
装甲車というのは文字通り厚い装甲で守られた車両で、アサルトライフルなどでは到底ダメージを与える事は出来ない。
真っ向から挑むのであればロケットランチャーやグレネードランチャー、対戦車ライフルなどが必要で、普通の兵士であるならばまず二人で戦おうとは思わない。それに対してハンドガンやアサルトライフルぐらいしか持っていないバットとスネークが相手をすると言っているのだ。
しかも瞳から侮りも驕りもなく、本気で言っているのが感じ取れる。
「まぁ、そうだな」
反対する訳でもなく同意するスネーク。
これは経験の違いであろう。
グロズニィグラードやサンヒエロニモ半島での
「行ってくれ。問題ない。すぐに後を追うさ」
「早くチコ君の下へ」
「すまない」
サンディニスタの皆を連れて、見つからないように遠回りしていくアマンダを見送り、再び装甲車に視線を戻すと随伴している兵士に気が付いた。
今まで哨戒していた兵士とは装備が異なり、頭はヘルメット、目元はゴーグル、口元はガスマスクで顔を覆い、防弾用だろうか服装は野戦服というよりもパワードスーツのように窺える。装備はM653アサルトカービン。
周囲を警戒しながら進む様子に疑問符を浮かべた。
「ねぇ、アレって
「
呆れたように呟いた二人はそそくさと移動を開始した。
コンテナ裏より右斜め前にある建物にこっそりと移動するが、途中には身を隠す所が無かったりするのだが堂々と歩いても装甲車一行が気付く事は無かった。
距離が遠いとかはなく、近い随伴歩兵百メートルも離れていなかったろう。
装甲車は左右にゆっくりと上部の二十五mmの機関砲を「敵を探してます!」と言わんばかりに振っており、ゴーグルで視野は極端に狭まった随伴歩兵は真正面ぐらいしか見えていない。
一応スモークグレネードを手にしつつ、もしやと思い死角に入るように動いてみればまさかの的中…。
楽で良いのだが本当にそれでいいのか彼らは…。
呆れながら建物に入り、そのまま過ぎるのを待つ。
過ぎると言ってもこの場からではなく、自分達が居る側よりだ。
通り過ぎた一行に後ろから歩み寄り、一人ずつ交代で背後より絞め落として行き、最後にはフルトン回収システムで宙に舞わす。
随伴していた歩兵は四人。
それを片付けてしまえば残りは装甲車のみ。
そう思った瞬間、後部ハッチが空いて新たに四名の随伴歩兵が出てきた。
機構を考えれば当然のことながら、完全に抜け落ちていたバットは目が合う前にスモークグレネードを投げつけて煙の中に走り込む。
マスクで敵は咳き込む事は無かったが視界を失って戸惑い、そこを
『どうした?』
周辺の随伴歩兵が居らず、新たな部隊を展開させるも後方で煙が発生した事に驚いた装甲車を操っていた部隊長が、上部ハッチを開けて上半身を晒したのだ。
これにはバットは驚きを通り越して呆れ果てた。
バットは新手にCQCを行った事で装甲車のすぐ後ろにおり、姿を現した部隊長の後頭部が見えた瞬間、装甲車後部をよじ登って後ろから締め上げる。
じたばたと抵抗するも位置的にも悪くて抵抗らしい抵抗はなく、部隊長は呆気なく気絶した。
ただこの部隊長は間抜けではあったが、無能では無かったらしい。
装甲車が警戒していた為にゆっくりながら走行していたのは間違いない。
随伴歩兵を排除していた時も新手を片付けていた時も、部隊長が上半身を覗かせた時も確実に動いていた。
なのに部隊長を倒すと装甲車は停止し、中を覗き込むと運転手が居ないのだ。
戦車などには下部に脱出用のハッチがあったりするが、外にいたスネークは脱出した者を見てはいないし、装甲車の下に隠れている者もいない。
つまりあの部隊長は上半身を出しながら装甲車を運転していたことになる…。
「………ま、いっか」
考えても答えが出ない―――というよりは考えるのが面倒になったバットは運転席に入り込む。
当然キーは挿さったままで、エンジンは温まっている。
「乗って下さい!」
「お前と言う奴はいつ装甲車の運転を習ったんだ?」
「うーん、
上にスネークが乗るとアマンダ達に合流すべく装甲車を走らせ、境にあった鉄の柵を無理に突破し、速度を上げてコリブリ達が飛び交う地点に向かう。
コリブリ自体は何もせずに浮いているだけで、サンディニスタの戦士に襲い掛かっているのは無数のチコリブリだった。
「援護する!ウォオオオオオオオオオ!!」
スネークさんの雄叫びに続いて、二十五mmの重機関銃が火を噴く。
チコリブリの装甲が貫かれ、砕かれ、削られて次々と空中で爆発または浮遊を維持できずに墜落していく。
「バット、速度を上げろ!チコを助ける!!」
「了解」
「速度そのまま」
指示通りにアクセルを踏み込んで速度を上げ、スネークはチコを吊るしたチコリブリに近づく。
よく狙いを付け、大きく深呼吸をし、一発を放った。
放たれた二十五mmはチコを傷つける事無く目標のチコリブリを破壊し、チコは解放されて悲鳴を上げながら地上へと落ちて来る。
「少し右に…そうだ!ここで停車!!」
上が見えないだけに恐る恐る操作し、停車させるとスネークが上部に立ち、降って来たチコを抱え止めた。
受け止めた瞬間、膝を曲げたり、流れに合わせて転がったりと勢いを殺したようだが、普通は受け止めた者もただでは済まないのだが…。
チコを助けたことに安堵したのはバットやスネークだけではなく、少し離れたところで見ていたアマンダもであり、その安堵は僅かな隙を生む。
チコリブリが放ったワイヤーが腰にくっ付き、アマンダが空中へと引き上げられる。
急ぎ助けようとスネークが銃口を向けるよりも先にアマンダが自身のナイフでワイヤーを切断する。しかし着地の際に“グキリ”と足首が鈍い音を立てて激痛を発した。
足首を挫いてしまった。
痛みに悶える暇もなく今度は足首にワイヤーが伸び、またも空中に引き上げられる。
足を掴まれたダメージに顔が歪み、ナイフはワイヤーまで届かない。
「撃って!」
「落ちるぞ!!」
「
切れないと解ったアマンダはスネークに言うもチコの目も合って躊躇う。
しかし目標がチコリブリでアマンダに落ちる覚悟があると解ると迷うことなくスネークは、チコリブリに一撃お見舞いして見事空中で爆散させた。
今度は足からではなく腰から落ちたことでダメージが身体中に響き渡る。
即座に駆け付けようとしたバットは装甲車から出るとコリブリ達が近くに居ないかを警戒する。しかし周囲に展開していたチコリブリも姿が遠のいており、どうやら撤退するようだ。
「姉さん!!」
「
「分かってますよ。
グラズニィグラードで覚えたとおりに治療すれば数秒で
足首の痛みが急激に引いた事にアマンダは驚くも、怪我を治療で来ても身体に受けたダメージを消し去ることはバットには出来ず、落ちた衝撃によるダメージが残っている状態では動く事も出来ない。
「巻ける?」
震える手で銀色のケースを取り出すとスネークに差し出す。
中身は煙草の葉と紙などで、言われた通りにスネークが巻く。
「僕のせいで姉さんが…」
「あんたのせいじゃない。もしも誰かのせいだとすれば…護れなかったあたしの…」
涙を流しながら悔やむチコに、弱ったアマンダがぽつりと漏らし始める。
チコを子ども扱いしてよく喧嘩してしまった事。
祖国を自分達の手で再建するためにバナナ工場…否、KGB支援の麻薬工場で麻薬を生成して、それで武器や食べ物を買っていた事。
麻薬に手を染め、仲間を纏め、抗い続けていたというのに父さんを失い、仲間を失い、工場さえも押さえられ、自身に父さんのような資質は無い。
もはや革命どころではない…。
痛みに今まで積もりに積もっていた思いが決壊して溢れ出る。
ある程度吐き出したところで
「あぁ、少しは落ち着いた…」
「身体が回復するまで俺達の部隊に来い。負傷兵も受け入れられるし、ここよりは断然安全なところだ」
「貴方達…一体?」
「俺はスネーク。
「蛇?……もしかして偉大な
そう言うとアマンダの口より煙草が落ちる。
慌てた様子のチコがバットに視線を向けるも大丈夫だよと笑顔を向ける。
「気を失っただけだよ」
「良かったぁ」
「早速送ろうか」
「そうだな」
「へ?」
スネークはアマンダに、バットはチコにフルトン回収装置を装備させる。
気を失っているアマンダは反応を示す事のないものの、チコは何を取り付けられているのか分からずにキョトンとしている。
困惑している様子にバットが一言。
「鳥になっておいで」
次の瞬間にはチコの絶叫が空中へと消えて行くのであった…。
●ちょっとした一コマ:マザーベースにて…。
「最高だったねぇ」
「何処が!?死ぬかと思ったよ!!」
バットはスネーク達国境なき軍隊の拠点である洋上プラント“マザーベース”に足を踏み入れていた。
と、いうのもひと目見た時からフルトン回収システムに興味津々で、自分も飛んでみたいと思っていたのだ。
その想いはスネークにバレており、指摘されると“サイコリーディング”かと疑ってしまったが、顔を見れば馬鹿でも解るとハッキリ言われてしまった…。
けど一度マザーベースに帰還しようとスネークは思っていたので、仕方ないと空の旅をプレゼントしたのだ。
チコと違って楽しそうな叫び声を上げたバットは満足そうであるが、急にチコリブリ並みに空に飛ばされたチコの恐怖は堪った物ではない。
ちなみにアマンダも完全に気を失っていた訳ではなく、薄っすらと見ていたらしい。
到着後彼女は一言―――「初めてヘリに乗ったけど嫌いになりそう…」とだけ漏らして安静にしている。
「ガハハハハッ、空は良いもんだろう小僧」
「はい、楽しかったです」
「そうか、そうか」
ヘリを運転していたスコウロンスキー大佐は高笑いしながら、嬉しそうにするバットの髪をわしゃわしゃと撫でた。
半島での一件後、祖国に帰還するにも事件の事で戻るに戻れず、スネークの下に身を寄せていたらしい。
戦闘機の操縦が出来ると言っても国境なき軍隊に航空戦力が今までなく、役目もなく日々を過ごすだけだったが、マザーベースに移動用のヘリが用意されてからは操縦士として仕事をしているのだ。
バットは大佐にチコ、そしてスネーク達は回収したサンディニスタ兵や捕虜になった敵兵たちから離れ、マザーベース司令塔の方へと歩いて行く。
その先にはグラサンをかけた男性が数名の兵士を連れて立っていた。
「おぉ、そっちのが噂に聞く蝙蝠か。思ったより小柄なんだな」
「…以前に比べて身長は伸びたんだけどなぁ」
「俺はカズ。ここでは副指令を務めている。噂に名高い英雄に会えて光栄だ」
「こちらこそ、よろしく」
差し出された手をしっかりと握り返しカズと握手を交わす。
カズはチコとも交わし、挨拶もそこそこに早速スネークと今後の打ち合わせに入る。
手持ち無沙汰になったバットはどうしようかと悩んでいると見知った人物が近づいてきた。
「相変わらずのようだなバット」
「パイソンさん」
「元気そうでなりよりだ」
「お互いにですね」
以前と変わらないスーツを着て近づいてきたものだから、ひんやりと冷気を感じてジャングルなどで火照った身体に気持ちが良い。
彼の実力は知っているのでもし一緒に行くのであれば心強い。
「パイソンさんも戦場に行くんですか?」
「いや、もう現役を引退した身だ。ここでは教官として若手を育成しているよ」
「おお、それは屈強な部隊が出来そうですね」
「出来そうではなく作っているんだ」
少し残念ではあるが、無理は言えない。
スネークさんはカズさんと話し中なので、パイソンさんに道案内を頼もうかと一歩踏み出す。
「あれ?」
動こうかと思ったバットは何かに押さえつけられているように身体が動けない事に気付く。
まったく動けないというのではなく、軽く押しつけられているよう…。
しかし周囲には押さえている人など居ない。
訳も分からない恐怖より明確な怒りを感じたバットは冷や汗を垂らしながらそちらを振り向く。
「お久しぶりね」
「ひ、久しぶりですエルザさん」
「本当に。急に消えて以来よね」
にっこりと微笑んでいるものの、空気は張り詰めたまま。
救援要請を求めようにもスネークさんもパイソンさんも皆が目を逸らして離れて行く。
これは駄目だなと諦めたバットは引き攣った笑みを浮かべる。
「少し待ちません?話せば解って貰えると思うんですよ」
「良いわよ。じっくりと聞きましょうか」
この後、バットはエルザと長い長い話し合いをするのだった…。