メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 お久しぶりです。
 七月の投稿以来二か月ほど書けず、今月まで投稿無しとなり申し訳ありませんでした。
 今月より毎月一話投稿に戻ります。


第31話 「援軍襲来」

 ジーン。

 元FOX隊員で新兵器を強奪し、サンヒエロニモ半島のソ連兵を味方につけて己の目的を達成するが為に動いている今回の事件の首謀者。

 彼は現状の変化に疑問を抱いていた。

 未だ不明となっている“賢者の遺産”の半分を聞き出す為にスネークを攫い、それがなにかの不手際(・・・)で脱走してこちらの計画を邪魔しようと動いているのは分かる。

 凡そカニンガム辺りが噛んでいると見ているのだがそれだけではなさそうだ。

 他にも何者かが動いている。

 たった数日で数か所の施設が襲われ、かなりの被害が出つつある。

 問題はそちらではなくこちらの兵士が敵へと寝返っている件だ。

 それも一人や二人ではない。

 小隊単位で敵に移っている。

 あのザ・ボスが育てた男だ。戦士として引き付けられるカリスマ性は持っていよう。だが、それだけでこの短期間にあれだけの人員の心を掌握できるのか? 

 顎に指をあてながら考え込んでいると扉が開いてカニンガムが入って来た。

 

 「なにか分かったのか?」

 

 カニンガムはばつが悪そうに首を左右に振って否定した。

 そう期待はしていなかったが…。

 ()の意志が確かなものだったのはよく理解している。

 元々裏切っていた訳ではない。あの戦いで裏切ったのだろう。

 

 「良くも悪くも兵士だった訳か。面倒ではあるな」

 「はぁ?」

 「しかしこちらには痛手だな。補充の利かない兵士がやられるだけでなく奪われるというのは」

 「確かに…。こちらの戦力があちらに流れるなど」

 「スネークを侮っていたな」

 

 パイソンが駄目(・・)になった今となってはスネークを止められる兵士はヌルとウルスラだけ。

 しかしウルスラを単身で向かわせるのは難しいし、ヌルは“敵”との戦闘で精神が不安定に陥っている。

 となると私が迎え撃つしかないか。

 放っておいてもスネークは自らやって来るだろう。

 大勢の裏切者を引き連れて…。

 

 「一つ気になる事がある」

 「――なんだ。言ってみろ」

 「今回の件だがもしかしたら“蝙蝠”が入り込んでいるかも知れん」

 「“蝙蝠”…確かヴォルギンを止めた英雄の片割れだったか」

 

 噂ではヴォルギンの手下の多くを短期間に味方に引き入れ、最大の拠点に対して大規模攻勢を仕掛けたとか…。 

 厄介な相手ではあるが多くの兵士を連れてくるのであれば何の問題も無い(・・・・・・・)

 

 「どうする?何か手を…」

 「心配はいらん。それよりもカニンガム。いつまであいつを生かして(・・・・)おくのだ?」

 「もしかしたら奴はまだ何かを知っている可能性がある」

 「好きにしろ」

 

 ジーンは微笑ながら歩き始めた。

 己が望みが叶う瞬間がもはや手の届く位置にある事と、自身の勝利が揺るぎようがないと信じ…。

 

 

 

 

 

 

 微かな足音が斜め背後より聞こえる。

 気付かない振りをして二名の兵士が目線と小さな指の動きで伝え合う。

 これが普通の兵士ならば気づかなかったろう。

 しかしながらこの二人はジーンの部下のFOX隊員。

 実力が違い過ぎる。

 気付かない振りをして誘い出す。

 

 彼らは辛い訓練を耐え抜いた精鋭。

 彼らは過酷な戦場と任務を遂行してきた歴戦の勇士。

 培ってきた経験と技術に自負を持っている。

 ―――だからと言っていつまでも猟犬で居られるほど戦場は優しくない。

 そもそも何時から己を狩る側と錯覚していたのだろうか。

 

 「―――くぁ!?」

 

 足音とは別方向より伏せていたスネークがコンテナの上より飛び出して一人を背後から羽交い絞めに、対処しようと銃口を向けるが味方が楯になっていてトリガーが引けない。

 ここで普通の兵士なら立ち呆けていたが、彼は立ち止まっていては不利と察して咄嗟に付近のコンテナに隠れようとする。

 判断と行動は正しかった。

 ただ最初に位置を教えていた(・・・・・)バットが居なければだがね。

 

 駆け出したバットには(味方)は無い。

 気兼ねなくトリガーを引き、弾丸を撃ち放つがその弾丸の軌道を知っているかのように避けて銃に触れた。

 触れられたのは目で追えた。

 しかし手が離れると銃が解体されたのだけは見えなかった(・・・・・・)

 次の瞬間には視線が180度回転し、脳天から地面に叩きつけられて意識が飛んだ。 

 

 空港施設の入り口を警備していた二人を伸したバットとスネークは遠くへ向けてライトを数度点滅させる。

 遠くよりエンジン音が微かに聞こえ、バットは縛り終えたFOX隊員よりスコーピオン短機関銃を二丁、スネークはM16A1自動小銃を手にして空港施設入口より突入を開始する。

 

 「派手に行きますよスネークさん!」

 「一気に畳みかける!」

 

 もう彼らには時間がない(・・・・・)

 急いで空港施設―――否、空港そのものを制圧し切らねばならない。

 スネークとバットの力を行使すれば敵勢力の排除は可能だろう。しかしながら制圧となれば別問題で制圧する範囲が広ければ広い程人員を必要とする。

 すでに多くの仲間を得ており空港施設を制圧するだけの人員は確保しているが、そんな大勢が動けば敵にもバレてしまうだろう。

 …いや、そこは気にする必要はなくなったか(・・・・・・・・・・・・・)

 

 入口より突入した蝙蝠と蛇は突然の来訪者に対して戸惑いを見せた兵士に襲い掛かった。

 素早く小刻みに動きながら銃身がぶれないように支えながら、敵兵が銃口の先に合わさったらトリガーを引いて行くスネーク。

 対照的に時間がないことで慌てているのか、アグレッシブに駆けまわり銃弾をばら撒くように撃つバット。

 十秒も満たない間に一階ホールの兵士を倒した(・・・)がこれで終いと言う訳には行かない。

 

 「上を押さえないと」

 「管制室はお前に任せる」

 「こういう重要な仕事は大人なスネークさんに譲りますよ?」

 「肉体労働は若い者の仕事だ」

 「さすが大人汚い!!」

 

 悪態をつきながらもバットは走り出す。

 今は足を止めている時間さえ惜しいのだ。

 駆け上がりきると同時にCQCモードを起動して周囲を見渡す。

 管制塔には兵士が一人とスーツ姿の男性が一人だけ。

 銃口を向ける兵士を先に対処しようとそのまま駆け出し、CQCモードの指示するままに投げ飛ばして気絶させ、スーツ姿の男にはモーゼルC96を向ける。

 

 「ヒィ!?ま、待ってくれ!抵抗はしない!降伏する!!」

 「はぇ?」

 

 今にも失禁しそうなほど怯えた男性に変な声を漏らしつつ、どうしようかなと悩んだ結果、縛って転がしておくことに。

 周囲を一応問題がないかを確認して回り、大丈夫そうなので無線機を取り出してロイとの通信を試みる。

 

 「こちらバット。管制塔制圧しましたよ」

 『了解だ。そちらに人員を送る。滑走路の警備についてくれ』

 「了解です」

 

 短い会話を終えると無線機を仕舞い、来た道を駆け降りてゆく。

 道中味方となった兵士が占拠すべく所定の位置に配置され、その様子を横目で見ながら外へと出る。

 すでに滑走路も含めて空港にはジープや武装した味方が完全に制圧している。

 その滑走路付近にはスネークを含めた戦闘能力の高い味方の部隊が展開し、付近の警戒に努めている。

 中にはスコウロンスキー大佐の姿もあったが、大佐は警戒しているのではなくその性格からどの部隊にも入れずに暇を持て余しているだけなのだが…。

 そんな大佐を目撃したバットが歩み寄っていると、轟音が徐々に上空より近づいてくる。

 来たかと視線を向けると巨大な輸送機が電飾が灯り、照らされた滑走路に向かっておりて来る姿が映った。

 

 「おぉ…おお!アントノフだ。アントノフが来たぞ!!」

 「“キャット”でよく来れたものだ」

 

 着陸する輸送機にスコウロンスキー大佐が興奮気味に叫ぶ。

 理解できていないバットは葉巻に火をつけているスネークを見つめる。

 視線を感じて意図を察したスネークは苦笑いを浮かべる。

 

 「ソ連で使っている輸送機だ。いや、もはや使っていたがほとんど正しいか」

 「どゆこと?」

 「事故が多い機体なんだよ」

 

 そう聞いては不安が過るのは当然だろう。

 降り立つまでバットが不安げに見守る中、ロイが何処となく上機嫌で近寄って来た。

 遠くからでも分かるほどで、スネークが怪訝な顔で問いかける。

 いきなり確信を聞くのでなく、まずは当たり障りないことから。

 

 「内部の制圧は完了したか」

 「お前さん達が張り切ったおかげでな。おまけもあったし」

 「おまけ?」

 「正確には管制室を制圧したバットだがな。情報を持ったお喋りな奴がいてな」

 「それでその上機嫌か…。で、情報とはなんだ?メタルギアの搬送先が分かったとかか?」

 「近いな。厳密に言うと搬入先を知っているだろう政府高官様だ」

 「それは文字通りVIP待遇をしてやらんとな」

 

 二人の会話を全く聞いてなかったバットは無事に降りた輸送機より、とある人物が出てきた事で駆け出した。

 

 「ニコライさん!」

 「バット!それにスネーク!」

 

 グラズニィ・グラードでの事件でバットとスネークと出会い、最初にヴォルギンに反旗を翻したソ連兵。

 ゼロより事の顛末を聞けたスネークならいざ知らず、ゲーム終了に伴って退出させられたバットには知る由もなかった戦友との再会に心から喜んでいた。

 

 「スネークさんの知り合い(シギント)から援軍に来てくれるとは聞きましたが本当に来れるなんて」

 「俺達は戦友を決して見捨てたりはしない。特に救ってくれた英雄なら尚更だ」

 「英雄だなんて。こそばゆいですね」

 「っと、また会えたら渡そうと思ってたんだ」

 「何ですかコレ?」

 

 ニコライから差し出された一枚のフロッピーディスクを受け取って首を傾げる。

 これに何が入っているのかと疑問に思ったのではなく、この四角い物は何なのだろうと疑問符を浮かべたのだ。なにせ彼の世界ではフロッピーディスクは扱われていない。記憶媒体と言う事すら分かっていない状態なのだ。

 それを中身は何かと問われていると勘違いしたニコライはどこか複雑そうな笑みを浮かべながら続けた。

 

 「グラーニンからのプレゼントだ。二足歩行とまではいかなかったがメタルギアの設計図を記録しているだとさ」

 「メタルギアの設計図!!嬉しいなぁ、グラーニンさんは今どちらに」

 「病院にずっと入院中だ」

 「大きな病気か何かですか?」

 「年を考えずに酒を飲み過ぎなんだあの爺さん」

 

 相も変わらない様子に笑みが零れた。

 ニコライはグラーニンの事だけでなくジョニーの事も知らせてくれた。なんでも一緒にソ連には行ったが、その後は家族の元に帰れたそうだ。

 それは良かったと相槌を打つと、そろそろ真面目な話をしようかとニコライの視線はバットから集まったスネークやロイにも向けられた。

 

 「それで俺達は何をすればいい?」

 「出来ればジーンの勢力圏を奪えれば良いんだが、こちらには司令部に出来る拠点もないし、武器弾薬も限られている」

 「何処かで調達したいところだな」

 「でしたら武器庫を襲いますか?」

 「あ!提案なんですけど港を押さえませんか」

 「港か。確かにあそこには武器弾薬はあるだろうな」

 「敵の補給路を潰す事も出来る。一石二鳥という訳か」

 「違いますよ一石三鳥です!大佐の私物を取り戻しますから」

 「小僧!良く言った!!アレさえ手に入れれば儂がジーンの若造を殺してやろう!!」

 「頼もしいですよ大佐」

 

 バットの言葉にご満悦なスコウロンスキー大佐は大声で笑う。

 ひとしきり笑い合い、彼らは行動する。

 この半島で起きた事件の元凶を叩くために。

 

 

 ―――と、その前にバットは休憩を取る為に言い訳をしつつ、この世界より退出するのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 カツン、カツンと薄暗く汚れた通路を一人の足音が大きく響き渡る。

 ゆっくりな足取りながらも着実にソレは私の元に近づいてくる。

 今度はなんだ?拷問か?それとも止めを刺しに来たか?

 もうどちらでも良い。

 私は役割を果たせなかったが、己の役目は果たした。

 未練もない。

 後悔もない。

 あるのは身体中が焼ける感覚と妙に晴れやかな気分だけだ。

 

 「ご苦労様。食事をお持ちしました。捕虜の分も」

 

 どうやらジーンでもカニンガムでもなくあの女(エルザ)らしい。

 見張りをしていた兵士は食事を持ってきてくれた事から許可したが、彼女が提案した少し離れていて欲しいとの提案は却下した。

 それもそうだろう。彼女は非戦闘員で大事な絶対兵士の調整者。もしも私が危害を加えて怪我でもすればあの見張りの兵士は重い罰を受けることになる。

 しかしエルザが私に惚れているとか二人っきりになりたいのを察してくださいなどと言われて兵士は扉の近くに居るが覗かないとの条件で了承した。

 呆れ果ててものも言えなかった。

 多分だがあの兵士は私とあの女が二人っきりになったらナニをすると思っているらしい。

 見張り以前に兵士としてそうもあっさり了承するのもどうなのだ?

 FOXの隊員ではありえないなと思いながらトレーを手にしたエルザを見上げる。

 トレーを地面に置くと私に抱き着いて耳元に口を近づける。

 様子を覗いていた兵士をひと睨みするとあっさりと顔を隠し、壁の向こうで聞き耳を立てているだろう。

 

 「ここから逃がしてあげる」

 

 小声で囁かれた言葉にピクリと眉を動かす。

 何かはあると思っていた。

 この女が私に惚れてる云々は嘘だと予想できたし、求められたところでそのような肉体状況ではない。

 逃がすために見張りを少しでも遠ざける方便ならば納得は出来た。

 ――が、分からない。

 この女が俺を助ける意味が解らない。

 何を考えている?

 何故私を助ける?

 何故危険を冒す?

 

 「私はメタルギアを破壊したい。核を使わせては―――使ってはいけない。そして私の目的を達する彼らに貴方は必要だから」

 

 短い言葉だが彼女の想いが込められとても重々しく感じる。

 それに強い自信も窺える。

 これは噂に聞く予知からくるものだろう。

 だがそれが全てでは無いだろう。

 キョトンと驚き、彼女は「貴方は心が読めるのかしら」と楽し気に笑った。

 

 「もう一度会いたい子が居るの。とても興味深い人」

 

 それがこの女の理由か。

 私にも出来れば会いたい奴がいる。

 また共に肩を並べたいと願う戦友が。

 良いだろう。お前の思惑に乗ってやろう。だが、今の俺では脱出は不可能だ。

 武器は一切身に付けておらず、自身の生命とて最低限で保たれている状態。

 逃げ出すどころか見張りの兵士を倒す事すら難しい。

 

 「私に良い考えがあるの」

 

 恥ずかし気に言ったエルザは白衣を脱ごうとボタンに手を掛けた。

 何をしているのか解らなかったが、白衣の下より覗いたモノにより理解し微笑を零す。

 シュルリと衣服が擦れ、牢の中でエルザがはだけているであろうと聞き耳を立てていた兵士はゴクリと生唾を飲み込む。

 妄想に入り込み、覗こうかと悩む兵士にボトリと鈍い音が届いた。

 衣類にしては重く、銃器にしては軽すぎる落下音。

 首を傾げながらゆっくりと音の正体を探ろうとした兵士は目を見開いて驚愕を露わにした。

 

 そこには己が妄想していたような光景では無く、冷たい冷気を振りまく死神がこちらを睨みつけていた。

 大声を発して事態を知らせようとする前に死神の手が喉を掴んで声の発生を防ぐ。

 同時に冷気が伝わり、喉元から凍り付く(・・・・)

 完全に凍り付いた兵士は手を離すとコテンと転がって二度と動くことはない。

 もう不必要となった無いよりはマシだった厚着を脱ぎ捨てて、白衣を羽織ったエルザは牢より通路を見渡す。

 

 「車を回してくるわ」

 「あぁ、頼む」

 

 エルザが白衣の下に着ていた液体窒素の詰まったスニーキングスーツを着込んだ私は、死なぬようにギリギリの量しか入っていなかった液体窒素入りのスーツを忌々しく投げ捨てる。

 そして獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべる。

 

 「行くぞ我が戦友よ」

 

 冷気を纏った戦士は再び戦場に舞い戻る。

 今度は共に歩もうと…。


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