メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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第28話 「先に進むと…」

 ジーンを筆頭にしたFOXの部隊によりサンヒエロニモ半島は占拠された。

 祖国ソ連に見捨てられた半島に駐留していた部隊は、兵士の為の国家というジーンの理想に惹かれて、大半が彼の下で新国家建設を夢見ている。

 

 尽くしてきた国に捨てられ、苦楽を共にした戦友は病気や現地勢力との小競り合いなどで仲間が死んでいく。

 なんと哀れで虚しい事か。

 基地を護れど国には帰れず、基地司令は荒れるばかりで兵士の士気は下がりっぱなし。

 兵士としても一人の人間としても無かった事にされた彼ら・彼女らにとってジーンの一言一言がどれほどの救いになった事か。

 人という生物は絶望の中では希望や夢がなければ生きて行けないものだ。

 ほんの僅かで途方もない光に俺は跳び付いた。

 我先にと跳び付いて彼の夢を…兵士を国の使い捨ての道具ではなく、兵士達の国を望んで立ち上がった。

 

 ここに居るソ連兵はかつての俺だ。

 スネークとバットに出会う前の俺達だ。

 解るよ戦友たち。

 ジーンの言葉は心に溶け込み、俺達に未来という希望で照らし、再び生きようと立ち上がるきっかけをくれた。

 

 ジョナサンは手にしているAK-47を力強く握り締め、同情などの感情を排してトリガーを引き絞る。

 放たれた弾丸は目標を掠めながら、周囲に撒き散らされる。

 敵兵(戦友)が傷口を押さえ、痛みから叫び声を挙げる。

 不思議な感覚に囚われ、身を隠しながら考えてしまう。

 どうして自分は戦友(敵兵)を撃ってまで戦っているのだろうかと…。

 

 「解ってる…解ってるさ!!」

 

 再び身を乗り出して向かってくる戦友の足に銃口を向ける。

 貫かれた太ももより鮮血が飛び散り、頭から地面に激突して呻き声がまた一つ上がった。

 

 辛い…。

 ジーンに従っていた時は楽で良かった。

 なにせ彼に従えっていれば自分達は夢を見続けられた。

 そう彼にさえ従えば何も考えなくてよかったのだ。

 

 けれど俺達はスネークとバットの手を取った。

 俺達に希望を与えたその口で俺達の祖国を脅迫しているジーンの手を払い除けてだ。

 

 軍人であるならば軍の命令に忠実でなければならない。だが、今の俺達は違う。すべて自身で吟味し、判断を委ねられる。命じられるだけのモノでなく己の意志で戦う兵士として。

 

 クスリと笑みを零す。

 

 今ジョナサン達は囮として動いている。

 スネークとバットは港に向かって移動する為に資材集積所で地図と港からの搬入リストを手に入れ(武器や医薬品は当然ながら入手している)、鉄橋を通って進もうとしたのだが、こちらの動きを察知して鉄橋はトラックを停車させて封鎖。兵力もかなりの数を揃えており突破は難しかった。

 なのでジョナサンを含んだ部隊が囮として各地で動かなければならなくなったのだ。

 本来なら爆弾を設置するだけだったのだが、ジョナサンが忍び込んだ研究所にて発見されて、戦闘が開始されたのだ。

 研究所は物資を搬送した後で兵力も大していなかったのが幸いして何とか凌いでいる。当然ながら長いすれば増援が駆け付けて壊滅してしまう。

 その前に別動隊に期待するしかないが…。

 

 「仕掛けは済んだ。あとは勧告だけだ」

 「了解した。勧告と同時に撤退する。誰一人死ぬんじゃないぞ!!」

 

 慌てて駆け寄ってきた味方の報告に頬を緩める。

 そしてバットの甘さに感謝する。

 

 囮として行動するにあたってバットは命じたのだ。 

 別に殺さなくて良いから無事に帰って来るように―――と。

 敵兵が戦友である俺達を気遣っての命令。

 戦争をしていると考えれば反吐が出るほどの甘さだが、そんな甘さによって戦友を殺さないという選択肢を得て、俺達は戦えている。

 好き好んでかつての同胞を殺したいとは思わない。

 無駄に殺戮がしたい訳じゃない。

 

 ジョナサン達は数分後に研究所を爆破すると勧告すると一斉に撤退を開始。

 逃げ出す敵兵に攻撃を仕掛けることは無かった。

 というか自分達が逃げるので精いっぱいで暇が無いというのもあるが、必要がないというのが大きい。

 なんにしてもスネークとバットが無事に突破してくれることを願うのみである。

 

 

 

 

 

 

 研究所、資材集積所、市街地などなど各地で味方が武器庫や重要施設を爆破して注意を引いてくれたおかげでバットとスネークは無事に鉄橋を通り、港へと潜入することが出来た。

 出来たのだが…。

 

 「少し!少しだけですから」

 「五月蠅い」

 「後生ですからぁ」

 「喧しい」

 

 バットはスネークに首根っこを掴まれた状態で引き摺られて行く。

 人間とは誘惑に弱い。

 港には多くの物資が届き、各拠点に配られる。

 その為一時的に貯蓄する倉庫が存在するのだが、武器弾薬や衣料品、食料品など必要以上に収集する癖があるバットがこの場に来たらどうなるか予想に易いだろう。

 少し目を離したらコンテナを物色し始めていた。

 あっちへフラフラ、そっちへフラフラと落ち着きのない子供のように動き回るのでこうして引き摺る羽目になってしまったのだ。これでは駄々を捏ねる子供を相手にしている父親だな…。

 なんとも言えない感情に大きなため息を漏らす。

 

 寄り道をして時間を掛けずに探し物を探し出さなくては。

 地上面を捜索し、地下へと足を進めた。

 

 「―――レクションに触れるな!!」

 

 怒鳴り声が響く。

 苛立ちが際立つ少し掠れた怒号。

 身を隠しながら発生場所へと移動し、様子を窺う。

 

 そこに居たのはソ連軍の制服にコートを羽織った老人と、スニーキングスーツを着ている事からFOXの隊員と思われる男性が距離を置いて向き合っていた。

 

 「まさか基地司令ともあろう御方がこんなところに隠れていらしたとは」

 「黙れ!何時までも私の基地を好き勝手出来ると思うなよ!貴様らなぞ本国から援軍が来ればすぐにでも叩き出してやる!!」

 「人望の無い将校は苦労されますな…」

 「黙れ!!」

 

 手にしていたAK-47が火を噴いて弾丸を放つ。

 男性は微動だにすることなく、放たれた弾丸をその身で受けたが貫通することなくポロリポロリとへしゃげた弾が床に転がる。

 

 「ヒィ!?…なんだ貴様の身体は……化け物め」

 「え?あの程度で?」

 

 老人の狼狽えは当然のものだろう。

 銃弾を喰らって生きているどころか受けた弾丸は先端が潰れて転がっているのだから。

 だからと言ってバットの呟きが間違っている訳でもない事はスネークが良く知っている。

 否定はしないが気付かれては厄介なので、そっとバットの口を押さえておくことにした。

 

 「人を化け物呼ばわりとは…失礼極まる」

 「離せ!!…なぁ!?私の、私の腕が!?」

 

 向けられていた銃口を掴むとみるみる銃身が凍り付き、老人の腕にまで霜が降りた。

 多少だがそこから奴のカラクリは想像できる。

 いや、瞬時に凍らせるカラクリよりもその男性の方にスネークは注視している。

 似ている…否、似ているどころではない。

 昔の知り合いにそっくりな男性。

 何故彼がここに居る?

 記憶に残る仲間を思い出しながら、あり得ないと否定する。

 何故なら彼は…。

 

 「まったく…侵入者がこの辺りをうろついているというから出向いてきたというのにとんだ無駄足だった」

 

 男性は老人を捕まえたまま連行し、牢屋というよりは簡易な檻に放り込むと、入り口に触れて凍り付かせる。

 鍵が無くても凍り付いた事で扉は開かず、閉じ込めるには充分な働きをしている。

 気になる気持ちを抑え、離れたのを確認してから閉じ込められた老人に近づく。

 

 「誰だ!この俺を殺しに戻って来たか。警備兵!!侵入者を排除しろ!スコウロンスキー大佐の命令だ!!」

 

 地下に響き渡る叫びに答える者は居らず、響き渡った声を虚しく静寂の中に消えて行った。

 周囲を警戒するように視線を動かした二人を乾いた笑う声が包む。

 

 「お前たちはさっきの男と違うな―――安心しろ。今の俺に従う者など居ない。」

 

 向けられた笑みと裏腹に、寂しげな一言になんとも言えない表情を浮かべてしまう。 

 

 「四週間だ。たったの四週間であのジーンとか言う若造に全てを乗っ取られた。アイツがどうやって部下共を取り込んだのか教えてやろうか?」

 「確か傭兵国家を作るとかなんとか…でしたよね」

 「あぁ、兵士の為の国家を作ると言っていたらしいが」

 「傭兵国家?馬鹿馬鹿しい。奴が使ったのはもっとシンプルな手だ。誰しもが持っている“欲望”…そして“恐怖”だ。そこらへんに転がっているちっぽけなものではない。お前たちに解かるか?あの男の恐ろしさが」

 

 ガタガタと寒さではなく、恐れから震えるスコウロンスキーから視線を動かし、周囲に高く積まれたコンテナへと移す。

 すると覚えのある名前が書いてあるコンテナを見つけて驚く。

 

 「ラボチキンlA-5…」

 「チキン?鶏のコンテナですか?」

 「違う!我が祖国の傑作戦闘機だ!!」

 

 鶏肉だと思ったバットの期待を含んだ瞳の輝きは、スコウロンスキーの怒声で打ち砕かれた。

 いや、鶏肉だったらどんな料理をバットは作ったのだろうかと、解っていながらも抱いてしまったスネークの想いもついでに叩き壊された。

 

 「俺のコレクション。Fw190やBf109とも互角に戦った…」

 「戦闘機乗りだったのか」

 「そうとも…そうだ!戦闘機だ!MIGでもスホーイでも構わん…誰か俺に戦闘機を持ってこい!!すぐにでもジーンを蜂の巣にしてやる。フハハハハハハハハハッ――」

 

 壊れたように笑いだしたスコウロンスキー大佐に背を向けて、スネークはエルザが言っていた港にあるという“探し物”を捜索しようとコンテナに目を向けた瞬間、ガキンと大きな音が鳴り響いた。

 振り返ると銃のグリップで凍らされた部位を殴りつけるバットの姿が…。

 

 「おい、小僧。なにをしている…」

 「なにって見れば分かるじゃないですか。氷を割っているんですよ」

 

 さも当然に答えたバットにスコウロンスキーはさらに目を見開く。

 

 「違うそうじゃない!」

 「何故出そうとするのかって顔ですね。そんなの決まっているじゃないですか。貴方がジーンの敵だからですよ。敵の敵は味方って言うじゃないですか?それに戦闘機乗りなんていないから有難いんですよね」

 「連れて行く気なのか?」

 「まぁ、本人次第ですけどね」

 

 戦闘機がなければ戦えるかどうか怪しい。

 色々と情報は持っていそうだが性格から難がある。寧ろこちらに付いた奴らと不和を生み出しそうで仕方がないのだが、バットは引き込む気満々らしい。

 

 「で、どうします?僕たちはジーンを止めます。多くの仲間を引き連れて必ず食い止めます」

 「無駄だ。奴が持って来た恐怖の前で何が出来るというのだ」

 

 諦めろと言わんばかりの一言に首を大きく振るう。

 

 「三人寄れば文殊の知恵…違うかな。三本の矢の方が正しいか。一人一人では無理でも皆が協力すれば何とかなりますって。貴方が見た化け物なんてあの人外達(コブラ部隊)に比べれば可愛いものですし、500キロの突っ込んで来る中距離弾道ミサイル搭載したシャゴホットを破壊出来たんです!

  それにトイレの個室内で男に襲われそうになった以上の恐怖はない…と思います」

 「貴様…」

 

 思い出したのか目の輝きが消え去り、ぼんやりと虚ろな瞳が虚空を見つめた。

 察したのか先までと違って憐れんだような瞳がバットに向けられる。

 嫌な記憶を振り払うように顔を左右に振ったバットは扉を開けて手を差し出す。

 

 「地位も立場も捨ててボク達と来ませんか?ボクにスネークさん、それにジョナサン達に加えて貴方が来たら百人力です」

 「―――ッ、クハハハハ。なら戦闘機を用意しろ!出来るなら俺がジーンの若造の首を獲ってやる!!」

 「解かりました。時間は掛かりますが絶対これを運び出して見せましょう」

 

 檻より出たスコウロンスキーはニヤリと頬を吊り上げ、にっこりと微笑むバットと握手を交わした。

 全くこいつは…と呆れながらスネークは眺める。

 ただどうやって戦闘機を手に入れるつもりなのかと疑問を抱いたが、それは言い出しっぺのバットに任せるしよう。


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