本編とは何の関係もありません。
私は悲しい…。
出番がカットされた事ではない…。
いや、確かに悲しくはあるがそれ以上に悲しい事がある…。
潔白の花言葉を持つ白い花々に囲まれた中で戦い、死に絶えた私の最愛なる女性…。
ザ・ボスの死…。
触れる事の出来ない霊体の身では彼女の遺体を抱きしめる事も出来ない…。
あぁ…悲しい…。
いったい彼女がなにをしたというのか…。
彼女はずっと戦い続けてきた。
理不尽な命令にも命の危険に晒される任務にも文句を言わずにやり遂げたまさに英雄中の英雄。
だというのに彼女から産まれたばかりの子を取り上げ、まるでモルモットのように実験にも付き合わせ、今度はこれだ。
アメリカの潔白を証明する為に本来の任務を変更して死んでくれ?
あまりにも残酷だ…。
私は彼女に生きて欲しかった。
あの大戦後…敵味方に分かれた時もそう思い…死んだ。
私は悲しい…。
しかし私に何が出来ると言うのか…。
雨が降り始めたこの花畑でザ・ボスに寄り添うようにザ・ソローは立ち尽くす。
ピシッ―と何かが割れたような音が響いた。
ヴォルギンが放ったような放電が発生し、何かが上からどさりと落ちて来た。
「――ックハ!?」
落ちて来たのは人だった。
変わったボディスーツに身を包んだ若い兵士。
その整った顔立ちの青年はヴォルギンの部下であるライコフに似ている気がする。
否!
それはどうでも良い事だ。
彼の存在そのものが私にとって都合が良い!
「ここは!?―――花畑?スネークは何処に…ってなんだ!?」
『………私は…悲しい…』
「幽霊だと!?馬鹿な。そんなのあり得ない」
ゆっくりと近づく私に銃を突きつけ撃ってくる。
霊体には何の効果もなく弾丸は通り過ぎてゆく。
「来るなぁ!来るなぁあああああ!!」
引きつった表情で逃げ出そうとする青年にザ・ソローはにやりと微笑む。
ピシリと眼鏡にひびが入る音がした…。
「君こそ真の愛国者だ」
自身に向けられる拍手と喝采。
大統領からの賛辞を敬礼にて返す。
求められるなら握手にも答えて言われるがまま写真に撮られる。
大統領は偉業を達した私を利用してのアピールも兼ねているのだろうがそんな彼の考えなど関係ない。
ただ私は―――――…。
急に見ていた光景が遠のき、暗闇が訪れる。
その中でも薄っすらと明かりを感じ、重い瞼をゆっくりとあげる。
「おはようございます」
「あぁ…おはよう」
どうやら自室のソファに腰かけたまま眠ってしまったらしい。
歳のせいもあるのだろうがそれ以上に変な体勢で寝た事で身体の節々が痛む。
コキコキと肩を鳴らしながら身体を解す。
「ボスがうたた寝なんて珍しいですね」
「気が緩んでいたんだろうな。夢まで見ていた」
「夢ですか」
「懐かしい夢だ。ある意味転機になった事柄の」
「詳しく聞きたいです」
「その内な」
もたれ掛かった身体を起こして、窓からの光を塞いでいたカーテンを開ける少女に顔を向ける。
癖のある金髪に幼げな顔立ちの少女―――パス・オルテガ・アンドラーデ。
非政府諜報組織【CIPHER】を指揮するゼロ少佐より預かった工作員で、ここではEVAより工作員としての技術を学んでいる。
工作員の腕前よりも彼女の作る家庭料理が結構口に合って、そちらのほうで重宝していたりする。
「パス。少し来なさい」
ザ・ボスに二つ返事で答えたパスは微笑みを浮かべながら近づき、ボスに指示されるがまま隣に腰かけて後ろを向ける。
ポケットより取り出したくしで少し乱れている髪を梳き始めた。
この手に入れることなどないと思っていたこのような時間がとても心地よい。
まるで母娘のような関係もここでの生活もすべてはあの人―――ザ・ソローからの贈り物。
愛弟子であるスネークがバーチャスミッションを行っているとき、ザ・ボスはヴォルギンの下へ渡り、賢者の遺産を入手するべくソ連に偽装亡命した。
ソコロフをスネークより奪ったのち、ヘリにてグラーニングラードに到着した私は驚きの再会を果たした。
別のヘリに乗っていたヴォルギンが雨が降る中近づいて来ると後ろにザ・ソローの姿が見えたのだ。
ヴォルギンに取り付いたソローは教えてくれた。
隠してある賢者達の遺産の在りかを。
信じられない事ばかりだった。
だが、私は信じた。
あの人の言葉を…。
ちなみに移動中のヴォルギンのヘリに突如現れたライコフ似の青年はオセロットによって独房へぶち込まれたとか…。
その後は取り付かれたヴォルギンが暴れ、兵士達に取り押さえられて隔離され、指揮官不在という局面に陥り、兵士達は私を頼るようになった。
私は祖国に銃を向けてしまって帰国が許されない兵士達をある地点に誘導し、匿うだけの資金と物資を持って行かせた。
そして私自身は昔教官をして知っているEVAを連れ、グラーニングラードより出て行った。
勿論だが任務であるシャゴホットの破壊は完遂し、EVAには賢者達の遺産を記録したマイクロフィルムを渡して帰国させた。
政府は賢者達の遺産を回収できなかったことは残念そうであったが、シャゴホットの破壊にヴォルギンの捕縛というアメリカの脅威とソ連に恩を売れたとして英雄として迎えてくれた。
だが、これはすべて偽りである。
EVAは祖国にザ・ボスに偽の情報を掴まされたと弁明し、秘密裏に私と合流した。
賢者達の遺産は私が確保した。世界を一つにする為の資金として。
アレこそが転機だったのだろう。
デイビッド・オウ――ゼロ少佐を巻き込み、信頼の置けるという武器関連のスペシャリストのシギントに医療の専門家であるパラメディックをも取り込み、EVAに愛弟子のジャック――ネイキッド・スネークで愛国者という組織を築き上げた。
途中ヴォルギンの下に居た山猫部隊の隊長でGRU・KGB・CIAのトリプルスパイであるオセロットも加入し、組織は大きくなっていった。
諜報工作活動を主に行う【CIPHER】をゼロ少佐が立ち上げ、私は傭兵部隊を作り上げた。
世界を一つにする為にはすべてを見通せる情報と如何なる武力にも対応できるだけの戦力が必要だと分かっているからだ。
【相続者計画】により生み出されたジーンを仲間に入れ、多くの【FOX隊員】を引き抜き、ヴォルギンの部下だった者らを合流させた。一介の傭兵部隊にしては十分すぎる戦力であるが対国家戦を想定するとまったくもって足りなさすぎる。
そこで提案されたのがメタルギア計画だ。
ソコロフが提案したミサイルの一段目のロケットの代わりをするシャゴホットのような兵器ではなく、自由自在に悪路であろうが走破する二足歩行兵器。それこそが必要だと…。
なら話は簡単だ。
ソ連に帰国したグラーニンを自由に研究が出来るという条件で勧誘し、彼の友人だという元NASA宇宙工学技術者のヒューイ博士を加え、メタルギアプロジェクトは動き出した。
ただし、問題も生じた。
現在の技術ではメタルギアの有人機は難しく、人工知能による操作を必要とされたのだ。
それ関係の技術は二人にはなく、私と共にマーキュリー計画に携わったストレンジラブ博士に声を掛けたのだ。
内容も聞かずに博士は二つ返事で乗って来てくれた。
彼女とは研究だけでなく、良くお茶を一緒にする仲になった。
良い関係を築けたと思うのだけれども、一緒に大浴場を使っていると妙に視線を感じるのだが…。
そしてようやくメタルギアの完成にまで漕ぎ着けた。
この海上に浮かぶ洋上プラントにメタルギアが収納され、今日はそれを祝うパーティが模様されている。
「~♪」
「その歌…最近よく口遊むわね」
「え?あぁ、この曲は今日歌うんですよ。ミラーさんの提案でね」
「カズヒラの?彼が歌う訳ではないのでしょう?」
「私が歌います」
「なら良かったわ。あの歌声を聞くぐらいなら欠席しようかと思ったもの」
「あはは…お世辞にも上手とは言えないですものね」
「おいおいそりゃあないだろパス。それにボスまで」
乾いた笑みを浮かべていると扉を開けてMSF副司令官を任せているカズヒラ・ミラーが入って来た。
その事にパスが不機嫌そうに表情を歪ませる。
「ちょっとミラーさん女性の部屋に無断で入るなんて不作法ですよ」
「いや、俺もノック無しで入ろうとは思わなかったさ。ただ部屋の中から俺の話が聞こえたもんでな。しかも悪い方の」
「気のせいじゃないかしら」
「そんな訳ないだろう!しっかりと聞こえたぞ」
「それより何か用事があったんじゃないの?」
「おっと、そうだった。ボスに食べて貰いたいものがあって来たんです」
本当に忘れかけていたのかは定かではないが、カズヒラは持っていたおぼんをザ・ボスへと差し出した。
「食べて貰いたいものってそのおぼんに乗っている物」
「そうさ。ようやく爺さんにお墨付きを頂いたんだ。ぜひ完成品をボスに食べて貰おうと思ってな」
そう言われたおぼんの上にのっているハンバーガーを見て二人共絶句した。
シルエットはどう見てもハンバーガーなのだが色がおかしい。
どうみても無理に付けただろうと突っ込みたくなるようなカラーリングをした食べ物が身体に良さそうには全く見えない。寧ろ毒々しさすら感じる。
「南米の毒蛙で似たような配色を見た事がある」
「み、ミラーさん!?」
「いや、待ってくれ。確かに見てくれは悪いが味は保証する―――爺さんが…。材料だって問題ない―――筈だ…」
「駄目です。こんなものボスに食べさせるわけにはいきません。それにボスの食事を作るのは私の役目なんです」
「いくらパスだからってそれは聞けないな」
睨み合う二人を他所に私はアレを食べないといけないのかと本気で我が身を心配する。
戦場であれば蛇や蝙蝠だって食べたりもするがここは戦場ではない。
私たちのホームで衣食住――特に食事では不自由することは無い。
生まれの違いは食文化の違い。様々な国より集まっているので食事も国々の料理が取り揃えられている。だからこのような怪しげなものに手を出さねばならないという事はないのだ。
別にカズヒラを信用していない訳ではない。
例えガゼルにスワンにドルフィンにピューマにコットンマウスにエレファントetc.etc…恋人が居ようが居まいが手を出しまくった不埒者であるが副司令官としてはそれなりの信頼を置いている。
スネークとサウナで殴り合いをしている事からその事実を知って、手を出した数だけ全裸でフルトン回収の罰を申し付けたが、それはどうでも良いとして信用云々よりもこのバーガーは不安を煽る色彩で躊躇われる。
どうやって切り抜けようかと悩んでいたらノック音が響いて扉をスネークが開け、状況を目にして怪訝な表情を浮かべる。
「ボス。パーティの時間です―――あー…何をやっているカズ?」
「スネーク!?ちょっと待て!なんか俺が悪いような言い方しなかったか?」
「―――違うのか?」
「違う!断じて違う!!」
「当たっているでしょうに…」
「悪いがバーガーの件は後だ。では行こうか」
スネークのおかげで活路が出来たのを見逃さずにザ・ボスは立ち上がる。
扉に手をかけた所で
さっきまで晴れていたというのにパラパラと雨が降り、一瞬だが雨具を纏ったあの人が見えた気がした。
穏やかな、満足そうな笑みを…。
私は作る。
誰かがあの悲しみを味わう事のない様に…世界を一つにして見せる。
例えそれが叶うのが私が死んだ後になるとしても、私の意志を継いで成してくれる。
そう想いスネークを見つめる。
理解できていないスネークはきょとんとした顔をするが気にするなと一言かけて進む。
だからザ・ソロー。私が逝くのはもう少し先になりそうだ。それまで待っていて欲しい…。
ザ・ボス―――ザ・ジョイは未来を想い描き、笑みを浮かべた。
―――あぁ、ゆっくりして来ると良い。
―――私は………嬉しい…。
―――君が戦場だけでなくこうした穏やかな日々を、新たな仲間――いや、家族と共に歩んでいる事に…。
ザ・ソローはにっこりと微笑むと徐々に姿を霞ませてゆく。
その様をガスマスクを被った少年を見つめ、ぶかぶかな袖を大きく揺らして手を振るのであった…。
ちなみに異色のバーガーはパスより話を聞いたスネークが「で、味は?」と問い、最後はスネークの胃袋に収まる事となったとさ…。
【おまけシークレットシアター:俺は…】
ソリッド・スネークは上官であるキャンベル大佐よりブリーフィングを受けて任務の難しさに眉間にしわを寄せる。
大佐自身も無理難題と分かっているからか顔色が良くない。
心を落ち着かせようと煙草に火をつけて一服する。
「大佐…本当にやるのか?」
「あぁ、やらねばならないのだ」
アラスカにあるフォックス諸島沖の孤島―――シャドー・モセス島。
そこにある核兵器廃棄所を
彼らの目的は依然として通達されていないが情報を知り得たアメリアを含んだ各国政府はこの件に関して何の動きも見せていない。
――ただこの件には特殊部隊FOXHOUNDの総司令官であるネイキッド・スネークが関与している。
彼は以前より言っていた。
「俺は――俺達は世界を一つにする。それが彼女の意志を継いだ俺の役目だ」と。
これがその世界を一つにするきっかけなのだろう。
アメリア軍が動けない理由は皆目見当が付かないが黙って見過ごせるわけはない。
だからこそ政府内で危機感を持った人物がキャンベル大佐に対応を秘密裏に頼み、大佐は俺に依頼してきたわけだが…。
シャドー・モセス島を占拠している相手が悪すぎる。
ハイテク特殊部隊FOX HOUNDに所属しているエース級の精鋭…。
サイキック能力を持つ、サイコ・マンティス。
天才女狙撃手、スナイパー・ウルフ。
変装の達人、デコイ・オクトパス。
巨漢のシャーマン、バルカン・レイブン
拳銃の名手だけでなく拷問のスペシャリストとしても知られるリボルバー・オセロット
FOX HOUND実戦部隊リーダーのリキッド・スネーク。
これだけでも相当厄介だというのに敵兵は実勢経験こそ無いものの遺伝子治療によってビッグボスのソルジャー遺伝子が組み込まれたゲノム兵達に現地の兵を味方に付けている。
それだけでなく核搭載二足歩行戦車であるメタルギアレックスを手中に押さえて兵器面でも圧倒的である…。
軍の援護もなくたった一人で潜入し、FOX HOUNDを倒して、メタルギアを破壊し、施設内の核兵器の有無を確かめ、メタルギア開発主任であるハル・エメリッヒ博士の奪還に、大佐の姪でありFOX HOUNDと行動をしているメリル・シルバーバーグの説得…。
これらの任務を厳重な敵地のど真ん中で行わなければならないのだ。
ため息を吐き出すのも仕方がないだろう…。
「すまないスネーク…君一人危険な作戦に…」
「言わないでくれ大佐。決心が鈍る―――行くしかないんだろう」
「本当にすまない―――本来なら軍の全面的なバックアップが無ければならないのだが…」
「そういう時もあるさ」
「君一人に
「――ん?今なんて言った!?」
聞き捨てならない言葉に目を見開いて食い入り気味に問う。
大佐はしまったと言わんばかりの顔をし、持っていた資料を背に隠した…。
怪し過ぎる行動に強硬手段で資料を奪い去る形で答える。
そこにはネイキッド・スネークが関わっており、シャドーモセス島と連動して動きを見せている拠点が数か所…。
兵の練度が高いだけでなくロボット工学の権威のヒューイ・エメリッヒ博士に元NASAの宇宙工学技術者で、DARPAにも所属していたストレンジラブ博士など技術面でも優れており、
MSFを組織した副司令官のカズヒラ・ミラーは
他にも中東のソ連、中国、中近東に隣接するザンジバーランドでもネイキッド・スネークと関係がある銃弾を剣で弾くほどの超人グレイ・フォックスが現地入りしたと。
「―――大佐」
「……なにか?」
「無理だ」
「そう言わず頼む」
「無理だこれはさすがに!!」
「ぬぅうう…」
「まさかとは思うが他には悪い話は無いだろうな!」
「………それがニカラグアで革命を成功させたサンディニスタ民族解放戦線の司令官とも関りがあって、ニカラグアは各国のように傍観ではなく協力を…」
「はぁ…」
無理過ぎてため息しか漏れない。
資料の最後の方には大戦時に誕生した伝説の特殊部隊【コブラ部隊】の名が書かれており、MSFとDDの兵士達は間接的でも彼らの教えを受け継いだ者達らしい。
そりゃあ強い筈だ…。
一騎当千とも言える兵士達に異常な精鋭たち。
対するこちらは俺一人。
「今回は他を当たってくれ大佐」
「待て!待つんだスネーク!!スネェエエエエエク!!」
逃げ出すようにブリーフィングルームから出て行くスネークはキャンベル大佐の叫びを聞き流し帰路につくのであった…。