メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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第20話 『山猫vs蝙蝠』

 ヴォルギンを乗せたままのシャゴホッドは炎上していた。

 体に巻き付けていた弾丸は暴発し終え、起こった炎はヴォルギンが握っていた配線を伝って内部へと燃え広がり、配線どころかすべてのパーツを焦がしている。

 もはやスクラップと化したシャゴホッドをバックにスネークは着陸しているヘリの群れを眺める。

 数十人単位ではなく数百人単位で輸送用ヘリに乗り込む。

 中にはこちら側ではなくヴォルギン側のまま捕虜として連行されている者も居て、完全にこのグロズニィグラードはヴォルギンの支配下から解放された。

 

 現在は残っている輸送ヘリや装甲車をかき集めここより移動しようと動いている。

 バットは上官に掛け合って手回しの状況を確認中で、それが上手く行っていれば全員がここより脱出を開始する。

 

 「あとは…」

 

 想うだけでも気持ちが暗くなる。

 それでも俺はやらなければならない。

 問わなければならない。

 戦わなければならない。

 あの人と―――ザ・ボスと決着をつけなければならない。

 

 「辛気臭い顔をするな。酒が不味くなるだろうが」

 「グ、グラーニン!?」

 「よぉ。元気でやっとったようじゃな」

 

 聞こえた声に驚きながら振り返ると杖をつきながら酒瓶を片手に満足そうな笑みを浮かべたグラーニンがゆっくりとだが歩み寄って来た。後ろには白衣を纏った研究員が荷物を抱えながら付いて来ている。

 研究資料を持っている奴も居るが中には酒瓶を持たされている奴らも居るのだが…。

 

 「お前さんも一杯どうだ?ヴォルギンの奴、良い酒を隠し持っててな」

 「いや、俺は勝利の美酒を味わうのはまだ先なんだ」

 「そうか。お前さんもやる事がまだあるんじゃな」

 「もってことは―――」

 「儂はバットの奴に作ってやることにした!」

 「メタルギアをか!?」

 

 二人がメタルギアに関して執着を持っている事は知っていたが、まさか個人に贈るように制作すると思わなかった。

 なにせメタルギアは核搭載二足歩行戦車。つまりは核弾頭を撃てる歩行型の兵器を個人が保持するのだ。核弾頭という大量破壊兵器を積む意味でも、大型兵器に保持する為の資金だったりと問題は山積みだろうに。

 上機嫌に酒を呷るグラーニンだったがスネークの問いに困ったように頬を掻く。

 

 「あー…いや、メタルギアではあるが儂が贈れるのは設計図だ。まさか一機造り上げれるだけの資金を持っとると思っとるのか?」

 「それはそうだよな」

 「スネークさん!皆の脱出準備完了しましたよ」

 

 バットがぶんぶんと手を振って手回しが上手く行っていた事を伝えて来る。

 片手を上げて返事をし、EVAへと視線を向ける。

 EVAはザ・ボスの元までの道案内をしてくれるとの事でサイドカーの様子を確認していた。

 

 「バット。俺はザ・ボスとの決着をつけて来る」

 「分かりました。では行ってください」

 

 違和感を覚える。

 行ってくださいと言う事は奴はココに残るような物言いだ。

 多くの輸送ヘリが飛び立ち、装甲車が移動を開始する中、45口径回転式拳銃を取り出し構える。

 

 バットの視線を先にはヘリのプロペラによって巻き起こった風にベレー帽が飛んでいかない様に抑えているオセロットの姿があった。

 

 「―――そうか…分かった。またあとで会おう!」

 「はい、またあとで」

 

 サイドカーに乗り込み、EVAがバイクに跨りザ・ボスの元まで走り出す。

 決して振り返ることなどせずに前だけを見て…。

 

 

 

 

 

 

 スネークとEVAが行ったことを確認してバットは覚悟を決める。

 彼とは二度ほど交戦したがどちらも不意打ち、もしくは奇襲の接近戦。

 銃撃戦では一度も挑んでいないし、強さも知っている。

 だからと言ってスネークさんに譲るつもりはなかった。

 

 だってラスボス戦を譲ったのだ。

 ならば彼との戦いを自分が貰ったって良いじゃないか。

 

 二ヤッと笑みを浮かべると同様に不敵な笑みを返してくる。

 

 「仲間は奪われ、部隊は壊滅。もはやヴォルギンに与する理由も無し。だからこそ私は私の意志でお前と決着をつけたい」

 「ボクとだけで良いんですか?」

 「無論スネークともつけるさ。その前にまずは貴様だ。………二度だ。二度も私は負けた。しかし今度は負けない」

 

 バットの為に残っているヘリよりニコライを始めとする反ヴォルギン派の兵士が銃を構えて降りて来るがジェスチャーで制止させる。その動きに出て来た兵士が戸惑うがまるで見世物でも見るかのように気楽な様子で酒を煽り、眺めているグラーニンを見て銃口を下げた。

 満足げに様子を眺めたオセロットはポケットよりコインを取り出した。

 

 「早撃ちで決着をつけよう。これが落ちた時が一対一の決闘の合図だ」

 「大昔のカウボーイ映画で見た事あります。背中合わせの奴ですね」

 

 コクリと頷くとコインをニコライに投げ渡し、ゆっくりと近づいて来る。バットも同じく近づきながら45口径回転式拳銃をホルスターにしまい込む。

 身長差のある二人が背を合わせ、大きく深呼吸を行う。

 いつでも抜けるようにホルスター近くに寄せた手を見て、ニコライはコインを握り締める。

 

 「二人とも良いな?では、行くぞ」

 「はい」

 

 バットとオセロットは背中を合わせ、一歩一歩離れて行く。

 酒をぐびりと飲みながら見つめるグラーニン。

 天を拝むようにバットが勝つことを祈るジョニー。

 コインを握り、ゴクリと生唾を飲み込みながら緊張を隠せないニコライ。

 三歩、四歩、五歩と離れていくのを確認し、コインを高々と放る。

 宙をくるくると回りながら上へと上がり、次は重力に従って落ちるだけ。

 二人の間をコインは落下して、地面にポトリと音を立てて落ちた。

 同時に振り返りながらもホルスターよりリボルバーを抜いて、トリガーを引く。

 銃声は重なることなく連続で辺りに響いた事から早撃ちでどちらかに軍配が上がったことが分かる。

 

 オセロットの左頬に一筋の線が浮かび上がり、たらりと血が薄っすらと流れる。

 逆にバットは左肩を押さえながら蹲ってしまった。

 勝敗は決したと言わんばかりに満足そうな笑みを浮かべたオセロットはホルスターにリボルバーを戻す。 

 

 対してバットは初めての痛みに悶絶していた。

 彼が知るゲームはリアルではない。例え腕が切り落とされようとも、ショットガンで腹を撃ち抜かれても痛みと言うものは存在しない。あるとしたらダメージを受けた振動がその部位で発生するようにしてあるぐらいだ。

 

 だが、この世界は彼が生きている世界から言うと異世界で、ゲームのような恩恵を受けているものの転移している事には変わりない。痛みはリアルのまま伝わり、激痛を脳が受け止める。

 銃弾で肩を撃ち抜かれた経験など初めてで、ゲームと思い込んでいた彼は痛みの概念など当たり前のように無いものと思っていた。ゆえに痛みに対して心構えもしてなければ耐性もない。痛む肩をぎゅっと掴むので精いっぱいだ。

 ベレー帽を被り直したオセロットは指をさしながらバットに笑みを浮かべた。

 

 「良い銃だがその彫刻には何の戦術的優位性もない」

 「そう…ですか………いつっ…でも好きなんですよこいつも」

 「ふっ、私ほどでは無いが早撃ちは見事だった」

 

 背を向けて歩き出し去って行こうとする。

 突然振り返って両手をこちらに向け「良いセンスだ」と言ったら走り去っていった。

 

 「大丈夫かバット!?」

 「――――大丈夫ではないです…」

 「どれ見せてみ」

 

 オセロットが去って行ったことでニコライ達が心配そうに駆け寄って来る。

 言われるがまま傷口を見せるとグラーニンは飲んでいた酒瓶を傾けて、酒を傷口へとかけた。

 悲鳴を挙げてのた打ち回るバット。慌てて追いかけるジョニー。

 

 「なにしてるんですか?」

 「うん?消毒だ。よく効くぞ」

 「えぇ、そのようですね」

 

 転げ回っていたバットはポーチより医療品を取り出して自身の治療を行う。

 触れる度に痛みが発生するが気にせずに終わらせる。

 

 「いぃ――――ったくない!行きますよ皆さん!!スネークさんの所へ!!」

 「やせ我慢か知らんが儂はもう乗っとるぞ。あとはお前さんとそこの兵士だけだぞ」

 「出すぞ!」

 「「ちょっと待って!!」」

 

 慌てて飛び乗るバットとジョニー。 

 治療した事で痛みが消えたバットは窓際の席に座り、窓より外を眺めるようにして顔を見せないようにした。

 隣に座ったジョニーはバットを見てどうしたら良いかと困惑すると、グラーニンがそっとハンカチを渡して席に着いた。

 礼を言うことも出来ずにバットはハンカチを目を覆うように押し付ける。

 

 ……負けた。

 

 痛みがあったとかはもうどうでも良い。

 ボクは負けたんだと実感が湧くと妙に悔しくて涙が溢れて来る。

 我慢できずに声が漏れる。

 それを誰も気にする素振りを見せずにただただ座っていた


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