メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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第14話 『蔓延する疑いと憤怒』

 グロズニィグラード。

 ヴォルギン大佐の支配地域で一番の重要拠点。

 兵士の数は多く、熟練度も高い。

 人員だけでなく多くの弾薬に銃器に兵器と武装も充実。

 制服の士官からシャゴホッド開発を手伝っている科学者なども揃っており、まさに中枢と呼ぶにふさわしい要塞である。

 

 そんなグロズニィグラードの広場に五名の兵士が並べられ、司令官のヴォルギンが品物を見定めるかのような眼つきで眺める。

 兵士たちは顔を覆面で隠しているが表情や態度から怯えているのが見て取れる。

 

 「さて、言い分を聞こうか」

 「――――…」

 「どうした?はっきり言っても良いのだぞ?」

 

 ヴォルギンの問いかけに口をつぐむ。

 沈黙が解決するような問題ではないが、弁明しても聞き入れてくれる気が無いのは明白。

 だからと言って黙っていたらいたで問題が起きる。

 

 一人の兵士が胸倉を掴まれ持ち上げられる。

 服で首が締め付けられて苦しく、掴まれた手を必死に解こうとするがびくともしない。

 

 「言わぬのか?なら用はない」

 「―――がぁああ!?」

 

 ヴォルギンの身体が発光し、放電し始めた。徐々に掴んだ右腕の発光が強くなり、腕から伝わった電撃が兵士を焼く。ガタガタと揺れながら生きたまま焼かれる仲間を目にして恐怖で一歩も二歩も下がる。

 焦げた臭いが広がり嗚咽感を襲われる。

 電撃を浴び続けている兵士はすでにピクリとも動かずぶらりと垂れ下がっていた…。

 

 「まったく……で、次は誰だ」

 「アンタは――アンタは仲間の命を何だと思っているんだ!!」

 

 そうだ…。

 今死んだ奴はただ愚痴っていただけだ。大佐のやり口があまりにも理不尽で賛同しかねると仲間内でぼやいていただけだ。それをたまたま制服組に聞かれて密告された。

 反ヴォルギン派の奴らだと付け加えられて…。

 

 懐からマカロフを取り出し大佐に照準を向ける。

 手が震えながらトリガーに指をかける。

 

 「ほぅ―――その行動の意味を分かっているのだろうな?」

 「分かっている!分かっているさ!俺はもうアンタのやり方に付いて行けない!!」

 「ならば撃つがいい。私を殺せるというのなら」

 

 余裕を持った大佐の態度に苛立ちが高まる。

 撃てないと思っているのだろう。

 怒りに身を任せた兵士のトリガーは軽かった。

 マカロフから放たれた弾丸が大佐の身体に向かっていったが、当たる前に身体から放たれた電撃により打ち落とされた。驚きながら残弾を使い切るまでトリガーを何度も何度も引くが、結果は同じ…。

 

 「殺し損ねたな」

 

 殺気だった大佐はにこりと笑い大きな掌を兵士の頭に置いた。

 一瞬の輝きと同時に兵士は意識を失った。

 

 その様子を隣で見ていた残りの三人は恐怖に呑まれて奇声を上げて逃げ出した。

 鼻を鳴らし、弾丸を手にして電気を発生させる。手の上で銃声を発した弾丸は逃げ出した兵士を貫き血飛沫を撒き散らさせた。

 その様子を眺めていたオセロットは苦々しい顔を向け、凭れていた壁から離れる。

 

 「大佐。彼らは本当に敵だったのでしょうか?」

 「スパイ―─否、裏切者だったかもしれん」

 「かもしれん!?こいつらも同志ですよ」

 「だからどうした?疑いの芽は摘むに限る」

 「こんなやり方納得できません!」

 「納得だと?納得する必要などない。私が司令官だ」

 

 オセロットとヴォルギンが睨み合う。

 そもそもデイビークロケット(核砲弾)を秘密設計局に撃ち込んだ時から、ヴォルギンとはやり方をめぐって争っていた。が、軍人であり、ヴォルギンと行動を共にするオセロットは命令に従うしかなく、渋々ながらも引き下がる。

 

 「いいか冷戦という名の諜報合戦なのだ。スパイは見つけ出さねばならない」

 「同志を疑うなど!」

 「では貴様はC3爆薬が盗まれた件や反ヴォルギン派を名乗る連中がいるのに全面的に信用できると?」

 「それは…」

 

 出来るとは少なくとも言えなかった。

 すでにいくつかの支配地域の施設に反ヴォルギン派を名乗る同志が攻勢に出ないまでも物資の強奪や施設の破壊など行動を開始したのだ。一番大きな出来事はグラーニンを奪われた事か。ヴォルギン自身はもう必要のない男だとグラーニンに関しては言っていたが…。兎も角ヴォルギンだけでなく多くの兵士たちが仲間に対して疑心暗鬼に陥っている状況が出来上がってしまっている。

 

 「爆薬は例のアメリカ人の仕業では?」

 「いや、奴はまだこの要塞までは来ていないだろう」

 「では反ヴォルギン派のメンバーがここに?」

 「部下を疑い出すとキリがないぞ」

 

 突如気配もなく現れたのは白馬の手綱を引いたザ・ボスであった。

 手にしていたクロスボウをオセロットとヴォルギンの近くに放ると何処か悲しげな表情を浮かべる。

 

 「ザ・フィアーとジ・エンドがやられた」

 「なにぃ!?アメリカの犬め!!」

 

 怒りを露わにして近くのドラム缶を殴りつけるヴォルギンに目も向けず、クロスボウを拾ったオセロットは恍惚とした表情を浮かべる。

 一人一人が化け物染みた技量を誇るコブラ部隊。

 それをたった二人で三人も仕留めるとは…。

 オセロットに産まれた感情はそれほどの敵に対する恐れや替えの利かない戦士を失った焦りではなく、それだけの強敵であったことという事実に対する喜びであった。

 

 「伝説のコブラ部隊がいとも容易く…」

 「心配するなあの奴らは私がやる」

 「奴の狙いは何だ?ソコロフやグラーニンだけとは思えん」

 「アメリカの狙いはシャゴホッドの破壊と私の抹殺、そして大佐が受け継いだ賢者の遺産」

 「まさかッ!あの遺産を狙って…オセロット、ここの警備を強化するぞ」

 「私はデイビークロケットを取って来る」

 

 引いていた白馬に跨ったザ・ボスは颯爽と駆けて行く。

 その後姿を見送ることなくヴォルギンはスネークとバットに警戒を強めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ヴォルギンが警戒し、オセロットが待ち焦がれているスネークとバットは、クラスノゴリエ山頂からグラズニィグラード要塞へ侵入するべく地下壕を進んでいた。

 地下壕には食べれそうな動物が少なく、バットは食糧が増えないことに関して不機嫌だった。

 はっきり言って趣旨が変わっている気がするのだが、その料理を楽しみにしている自分が居るので口には出さない。

 

 「バット、分かっていると思うけど」

 「えぇ、食べれる動物が少ないですね」

 「…そっちじゃなくここの事だ」

 

 首を捻って不思議がるバットに呆れてため息が出た。

 

 「ここは敵の本拠地に繋がる道の一つだ。勿論向こうも警戒しているだろう」

 「あー…ここにも敵兵が待ち構えているってことですか」

 「そういう事だ」

 

 狭い空間で隠れる場所の無い通路。

 もしこの先に機関銃でも置かれていては突破は不可能だろう。狙撃銃で応戦できてもこっちが敵を排除する前に排除されかねない。

 最悪のケースを想像しながら進むと一本道の狭い通路から開けた場所に出た。

 広く、暗い空間に幾つものコンクリートの柱が並び立っていた。

 

 「うっわぁ~…ここでオセロットに出くわしたくないですねぇ…」

 「激しく同意するな」

 

 これだけ暗く柱が並び立っているところであいつと戦闘になればかなり不利だ。

 奴の跳弾を用いた銃撃はクレバス前よりもここでは活かされるだろう。

 暗くては視界も利かないし、耳に頼ろうとも跳弾と狭い空間で音が反響して特定は不可能。

 はっきり言ってオセロット以上の最悪な相手を思いつけない。

 

 二人とも同じことを考えているとかしゃり、かしゃりと何者かが近づいて来る足音を耳にした。

 一瞬オセロットかと警戒したが音が違う。もう少し軽かったような気がする…それに足音が近づいても口上が述べられないことから違うと判断する。

 

 「うっ!?」

 「あっづ!?」

 

 柱の向こうより視界を覆うような火炎が前を通り過ぎる。

 腕で顔を熱気から守ろうと腕で遮りながら数歩後退する。すると柱の陰から宇宙服を着た人物が現れた。

 

 「私はザ・フューリー」

 

 名乗りを上げた人物を凝視する。

 コブラ部隊には四人の隊員がいる。ザ・ペイン、ザ・フィアー、ジ・エンド………そして最後のザ・フューリー。

 武器は構えている火炎放射器。確かにこの狭い空間でその武器はかなり厄介だ。オセロットの跳弾技術のようなものがないのなら一番適している。

 

 「私は宇宙からの帰還者!その際に灼熱の世界を見た……そこで見出したものは何だと思う?」

 「えーと…何を見出したのでしょうか?」

 

 律儀に問いの答えを聞いたバットの言葉を聞いたザ・フューリーは炎を撒いた。俺たちを焼き殺すのではなく、ただただ上や周りに撒いただけだ。

 

 「怒りだ!!」

 

 そう一言叫ぶと背後から腰辺りまで伸びていたバーを握り、背負っていたスラスターを点火させる。噴射光を徐々に強くしながら浮遊し上から見下ろされる。

 

 「生きる事への憤怒(フューリー)だ。お前にもあの灼熱のブラックアウトを感じさせてやろう!」

 「出来ると思うんですか?」

 

 どこか自信ありげなバットの言葉にザ・フューリーが片目を吊り上げながら睨む。

 何をいう気かと耳を傾けながら警戒を強くする。

 

 「無数の蜂を操ったと聞いたザ・ペイン。関節を自由に外し、透明化できるザ・フィアー。一世紀生きた老人なれど狙撃のエキスパートのジ・エンド。コブラ部隊の各々が他者に真似できない特技を持っていた。けれど貴方のは機械技術によるものだ」

 「だから?」

 「だから倒せる」

 「どこからその自信が出てくるんだか…」

 

 まさかの一言にこけかける。

 シャゴホッドを詳しく知らなかったりどこかずれているんだよな。

 しかし自信満々にAK-47を構える様子に任せてみようかと判断してM1911A1を下ろす。

 

 「怒りの炎で貴様を焼き殺してやろう!」

 「やれるもんならやってみろぉおおおっづぁあああ!?」

 

 挑発で怒りを露わにしたザ・フューリーの火炎を近づいた瞬間、バットは踵を返して猛スピードで逃げ出した。

 少し出遅れたが大慌てで逃げ出し抗議の視線を向ける。

 

 「逃げるなら逃げると言ってくれ!」

 「いやいやそんな時間なかったでしょうアレ!」

 「さっきの威勢はどうした!」

 

 二人そろって駆け出した後を追い掛けてくるのを気配で感じながら足は緩めない。途中、柱を掴んだバットが急旋回して柱の陰に隠れる。そこから伸ばされた手につかまりスネークも柱の陰に隠れる。

 それに気づかずに猛スピードでザ・フューリーが通り過ぎて行く。

 

 「…ふぅ」

 「それでどうする?奴はこの暗闇の中を移動している。後手で攻撃するならまだしも先手で打つとなると難しいぞ」

 「ふっふっふっ、暗闇ならこれを使えば」

 

 暗闇を見通そうと暗視ゴーグルを取り出し装着する。

 奴の視界は暗闇の中でもよく見えているだろう。少しの光を増大させる機器だ。それを火炎放射器を持った男に使うのはメリットとデメリットを考えての行動なんだろうか。

 確かに暗闇でもよく見えて敵の発見にはかなり役立つ。が――…

 

 「見っけた!」

 「服が破れた!?貴様ぁああ、焼け死ぬがいい!」

 

 俺は見えないがバットの視界の先にはザ・フューリーが居たのだろう。AK-47のトリガーを引き続けるが距離があったのか掠っただけのようだ。

 そしてデメリットの為にバットの動きが止まる。そのままでは丸焼きにされるので首根っこを掴んで柱の陰に引っ張り戻す。

 

 「目がぁ、目がぁあああああ!!」

 「火炎を暗視ゴーグルで見たらそうなるだろうな…」

 

 暗視ゴーグルを外して目をこするバットを連れて移動する。

 離れて確認すると奴は炎を撒き散らしながら徘徊していて、こちらの詳しい位置までは特定できてないようだった。

 

 「…バット、回り込むぞ」

 「えっと、どうすれば?」

 「俺が右から回り込む。バットは左から。先に注意を引くから、奴が背中を見せた瞬間背後から撃て」

 「了解」

 

 ゆっくりと左右から回り込みながら様子を伺う。

 周囲に炎を撒き散らしながら進んでくる。暗視ゴーグルをかけて炎の光で目が潰されないようにしながらザ・フューリーを挟んだ向かいの柱より顔を覗かせるバットを確認する。

 視線を送って意思疎通を図るが伝わっているのか怪しい…が、行かないわけにもいかない。

 

 飛び出してM1911A1を構える。

 足音で気づいたのか振り向きながら火炎放射器の先が向けられる。

 その背後で柱より飛び出したバットが素早く銃をホルスターより抜いた。

 オセロットには及ばないにしても見事な45口径回転式拳銃の早撃ちだった。

 

 気付かれずに放たれた弾丸はザ・フューリーを通り過ぎ、スネークが先ほどまで姿を隠していた柱に直撃した。

 

 ここで外すか普通…。

 

 一発でコブラ部隊の一人を倒せるという好機を不意にした事で、敵味方関係なく静寂が支配する。

 二人が振り返った先に居るバットは暗闇で見えないが恥ずかしさで顔を真っ赤にして肩を震わしていた。しかも45口径回転式拳銃の残弾はゼロ。早撃ち優先で45口径回転式拳銃を使ったのだろうけど外したのならその優位性は零に帰した…。

 

 バットを無視してスネークから片付けようと火炎放射器を持ち直したザ・フューリーも、ザ・フューリーと対峙していたスネークもあることに気が付いた。

 ザ・フューリーの宇宙服が濡れ、ジョボジョボと水音がバットの発砲後から響き始めた事に。

 

 「隠れろバット!」

 

 水音の正体に気付いたスネークは叫び、濡れている地面に銃口を定めてトリガーを引く。

 放たれた弾丸は狙い通りの地点へと向かい、地面に当たって火花を散らした。するとその地点より一気に火が広がってザ・フューリーを包んだ。

 

 バットの放った弾丸は致命的なダメージを負わせていたのだ。

 確かにザ・フューリー本人には当たらなかった。だがその弾丸は火炎放射器と燃料タンクを繋げているホースを貫いていたのだ。穴が開いたホースより燃料が勢いよく溢れだし、火炎放射器を使用できなくなっただけでなく、自身が燃料を被ったことでスラスターを吹かせなくなり、反撃も逃げる事もままならなくなったのだ。

 地面に降り注いだ燃料に火が付いたことで火は燃え広がり、吹き出したホースへと瞬間的に達する。背負っていた燃料タンクの近くにはスラスターの燃料タンクもあり、大爆発を起こした。

 

 「やったか!?」

 「凄いですスネークさん!ですけどそれフラグですよ」

 「フラッグ()?旗がなんだ?」

 「そうではなくてですね……あれ?」

 

 何とか柱の陰に隠れて爆発に巻き込まれなかった二人は軽口を叩く。

 するとおかしな物を目の当たりにした。

 大爆発を起こした地点より大きな火柱が上へ上へと伸び、曲がってこちらに向かってくる。しかも炎の先端は人間の顔のように見える。

 

 「出口に走るんだ!」

 「なんでこうコブラ部隊はいろんな意味で人間離れしてるんですか!!」

 「口を動かすより足を動かせ!!」

 

 必死に足を動かして出口へと向かって駆ける。

 背後より熱気と殺気が近づいてくることから迫っていることを背中越しに感じ、振り返る余裕もなく駆け抜ける。

 焦りと熱気で汗が噴き出る。

 

 追い付かれる前に出口へと飛び込んだ二人の背後で、入り口に激突した人の顔を模した炎は『ザ・フューリー』と声を発し、入り口を崩すほどの爆発を起こした。

 引き返そうとは思っていなかったが。物理的に戻れなくなったことを確認した二人は、今まで以上に覚悟を決めて進むのだった…。


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