メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

132 / 135
METAL GEAR:Ghost Babel
狐に追われた毒蛇


 何故、どうして―――…。

 目の前で行われている事が理解出来ない。

 俺達が何をしたというのだ? 

 耳に届くのは仲間達の悲鳴や絶叫。 

 鼻孔を擽るは鉄粉と血潮の生々しい死の香り。

 視界に映るのは次々と倒れ行く戦場を共にした戦友達。

 

 「何故だ……どうしてなんだ!!」

 

 二度と使い物にならないだろう痛む左腕を抑え、あまりの不条理に感情のまま叫ぶが飛び交う銃声で掻き消される。

 虚しさと怒りが心中を渦巻くも今の自分では状況を打開する事も、仲間を救う事も出来やしない。

 苦々しく殺意を込めて襲撃者を睨みつけると、視線を感じ取ったのか指揮官らしき男が目立つように堂々とジープ上に立ち、太々しくも見下ろして嗤い掛けて来た。

 

 「貴様らは――…」

 「お前は優秀だ。出来れば俺の手駒に加えたい所だったがこれも仕事でな。奴らからは目障りだったらしい」

 「出る杭は打たれる。違うわね、蜥蜴の尻尾切りかしら?」

 

 指揮官の横にはふんわりと可愛らしくも動き辛い服装を着用した少女が、目の前で行われている戦闘に然程驚きも見せず平静に

呟いて一人で納得している様子。

 戦場に似つかわしくない少女を思考から外し、現状を正しく理解した俺は殺意を抱いた。

 

 俺達は切り捨てられた。

 実力不足と判断された訳でも信用が出来ないなどこちらの落ち度では決してなく、俺達が優秀過ぎるゆえに問題を抱えた雇い主は口封じに及んだ訳か。

 納得した…。

 過酷で危険な任務を終えて疲弊している所を数を揃えての効果的な奇襲・強襲をされては、精鋭である俺の部隊であろうとも一溜まりはなく、雇っていた側の誰かがこの基地の情報と奴らに命令を下したのだろう。

 

 「誰だ…貴様らに命じた奴は」

 「それを聞いてどうする?お前はここで死ぬのだ」

 

 聞かねばならぬ。

 命じた奴も実行犯であるこいつらも許してはならぬ。

 明日、明後日、一か月後、半年後、一年後―――どれだけの時を掛けようとも構わない。

 見つけ出してあらゆる手段を講じて償わせてやる。

 

 憎しみと殺気を可視出来るほどに放つ様に襲撃した兵士は慄き、指揮官は「ほぅ」と感心したように小さく声を漏らした。

 

 「隊長を護れ!」

 「弾幕だ、弾幕を張るんだ!」

 

 残存していた仲間が助けようと駆け付ける。

 敵指揮官を討ち取れば指揮系統に乱れが生じ、反撃するにも撤退するにも有効。

 されど淡い期待は信じられない光景をもってして崩れ去る。

 

 仲間が何十と放った弾丸は指揮官を目の前に空中で制止したのだ。

 

 「馬鹿な!?」

 「なにかのトリックか!」

 

 驚愕を隠せない中、指揮官の背後にはガスマスクを着用した細身の男が何処からともなく現れ、こちらをジッと見つめながら宙に浮いていた。

 信じられない光景に戸惑っているところを悠々と白髪の老人が割り込む。

 次の瞬間にはホルスターから抜かれたリボルバーによる目にも止まらぬ早撃ちで、六名の仲間が撃ち抜かれて倒れ込んだ。

 老人はフッと笑いながら弾切れになったリボルバーを仕舞い、もう一丁リボルバーを抜いて俺に銃口を合わせようとしたところ間に朱い着物を着た女性を模した人形―――文楽人形“オサン”が庇うように割り込んで来た。

 急に割り込んだ人形に老人は照準を変えて撃つが、壊れるどころかカウンターの攻撃に忌々しそうに舌打ちをした。

 

 「クッ、小癪な人形遣いか!」

 「アウル…か」

 「ここは一旦退きます」

 

 現れたのは仲間で白い着物の文楽人形“コハル”を引き連れた、黒いロングコートに身を包むアウルであった。

 二体の人形を前に襲撃者は少し眉間に皺を寄せ、兵士達を終結させようと合図を送る。

 今を逃せば逃げ道も経たれる。

 アウルに肩を借りると背をコハルとオサンに護らせながら、必死にこの場から撤退しようと走る。

 

 最悪俺だけでも逃がそうと生き残った仲間達の多くは命を棄ててでも抵抗し、ほんの少しでも時間を稼ごうと奮闘してくれた。

 ジープで道を塞いで荷台の機関銃で相手の足止めを行う仲間は、タンクを背負った巨漢の男が手にするガトリングガンの掃射で全滅。

 空から支援しようとした仲間の戦闘ヘリは、何処からともなく狙撃されて撃墜。

 そんな仲間の姿と悲鳴、意志を刻みつけながら必死に堪えながら走る。

 

 追撃してきた敵兵はオサンやコハルの反撃、何処からともなく飛来する一メートルもある巨大なブーメランが蹴散らし、黒煙を巻き上げながら撒き散らす火炎放射器を持つ仲間が焼き払う。

 安全地帯まで退避したところで元より仕掛けていたブービートラップを起動させる。

 

 長らく部隊で使用していた基地のあちらこちらで爆音が響く。

 火の手が上がり、破片が舞い散り、施設だけでなく共に仲間と記憶まで崩れ落ちて行くようだ。

 

 「今はこれが精いっぱいだが、覚えていろよ。俺達は必ずお前達を――――」

 

 襲撃犯にあった狐のエンブレム(・・・・・・・)を記憶に深く刻み、死んだ仲間の怨念を背負い一匹の蛇が怨嗟の声に耳を傾けながらその場を離れる。

 

 偉大な蛇の子らとは出自も能力も異なるも彼もまた蛇である。

 得物を喰らうべく慎重に絶好の機会を陰に潜み続け、深く強い恨み辛みという毒を研ぎ澄ませた鋭い牙にを纏わせた毒蛇。

 二年の歳月を耐え忍んだ毒蛇は今まさに牙を向ける…。

 

 

 

 

 

 アフリカ中央にある小国“ジンドラ”。

 彼の地では少数民族が分離独立を求め、高いカリスマ性を持ち合わせた指導者“アウグスティン・エグアボン将軍”が率いる武装集団“ジンドラ解放戦線”を中心に、武装蜂起が行われて内戦状態に突入。

 紛争解決を掲げて国連より平和維持軍が派遣されているも、ジンドラ解放戦線は山岳部に難攻不落の武装要塞“ガルエード”を築き、ジンドラ政府軍も平和維持軍も迂闊には手が出せない状況が続いている。

 現在公にされていないがこの小国こそが世界を揺るがそうとしている。

 

 七日前、合衆国陸軍が極秘裏に開発した兵器の演習を南米で行おうと、積み荷を積載した軍用超大型長距離輸送機C‐5Bギャラクシーが飛行中消息を絶った。

 積み荷が積み荷だけに総力を挙げて捜索した結果、ジンドラへと運ばれた事が明らかとなる。

 単なる新兵器なら多少強引(・・・・)にでも処理する方法はあったかも知れない。

 しかし奪われた新兵器というのが核兵器―――核搭載二足歩行戦車“メタルギア”であっては事は慎重を要する。

 報復に使われる事も核と新兵器を強奪された事実を明るみに出る事も避けたい。

 すでにシャドーモセス島で一週間前にメタルギア強奪され、それを交渉の切り札に蹶起されたばかりなら尚更。

 

 事態は急を要すると言う事で国家安全保障担当のスティーブ・ガードナー大統領補佐官が総責任者となり、ガルエード要塞への単独潜入してメタルギアを破壊する作戦が計画された。

 

 情報支援要員としては本作戦の実質的な立案者でジンドラの情勢などに詳しい、CIA工作本部アフリカ局ブライアン・マクブライド情報官。

 新兵器強奪に関わっている“ジンドラ解放戦線”が凄腕の傭兵を雇い投入したという情報から、伝説の英雄(・・・・・)にも匹敵すると謳われ、傭兵の顔役も務めるなど武器や傭兵に詳しいウィーゼル(イタチ)と呼ばれるロナルト・レンセンブリンク。

 さらに作戦指揮官より推薦された高い技術力と情報分析能力を有するメイ・リンなどの面々が参加。

 

 実働部隊には本来ならば元FOXHOUND隊員で高い戦闘技術に単独潜入に長け、シャドーモセス島でも活躍を見せたソリッド・スネークが選ばれただろうが、そのスネークはシャドーモセス島にて死亡(・・)

 そこでメタルギアの破壊経験を複数あり、スネークと共に敵地に潜入していたバットが選ばれる事になるが、存在が極秘なのか何処の所属なのかも分からないゆえに、接点のあるロイ・キャンベルを作戦指揮官に据えて作戦への勧誘なども任せる事に。

 

 速やか且つ迅速にこの危機的状況を打破しなければならない。

 世界が核の脅威に晒される前に。

 二度もメタルギアを強奪された事態が明るみになる前に。

 

 『作戦概要を再び説明します。ジンドラ解放戦線に奪取された新兵器(メタルギア)はガルエード要塞に運び込まれた事が確認されました。よって本作戦は敵要塞へ潜入及び破壊工作任務となります。第一目標奪われたメタルギアの破壊、第二目標捕虜になっていると推測される研究者の救出となります』

 「潜入は兎も角破壊工作って狙撃手の任務か?」

 『それは――…』

 『あまりメイ・リンを困らせないで欲しいな』

 「すまない大佐。ただちょっと精神が安定しなくて気が立ってた」

 『解らないでもない。すまないなバット』

 「……で、任務内容の確認だが奪還は考えないで良いんだな?それと開発者は生きていると思うか?」

 『上からは破壊としか聞いていない。奪い返す際のリスクと隠蔽を天秤にかけて証拠隠滅を優先したようだ。すでに陸軍総参謀長ジョン・パーカーによって特殊部隊デルタフォース先行潜入しているとの事だ』

 「あぁ、こっちも陸軍の管轄か。それにしても資金は何処から出ているのやら」

 

 今回奪われたメタルギアもシャドーモセス島のメタルギアREXも陸軍の管轄。

 万が一を考えてのセカンドプランだったのか、それとも別の指揮系統の下で開発されたかは知らないが、核弾頭を使う超大型兵器の開発を同時期に行うなどどれほどの資金を使ったんだろうか?

 メイ・リンもその辺は気になっているらしいが、シャドーモセス島の一件で目を付けられた事からある程度の間は監視が付くだろうから下手に動けない。

 オタコンことハル・エメリッヒ博士に調べて貰う手もあるのだろうが、肝心の博士との連絡手段を持たない上に行方を暗まし、内容が軍の資金の流れを追う以上は下手に人手は増やせないので探すのも困難。

 多少気になった程度でそこまで本気で調べようと思ってはいないが。

 

 『開発者に関しては解らないとしか言いようがない。ただ組み立てる前の状態で積み込んでいた事から、組み立てから調整までの間は生きている筈だ』

 「んー、まだ可能性はあるな。あとデルタフォースが証拠隠滅の為に動いているなら、隠滅対象(・・・・)に成り兼ねない俺は接触しない方が良さそう?」

 『いや、目標は同じだ。何とか説得して協力して事に当たって欲しい』

 「了解」

 『降下地点に接近しました』

 『頼んだぞバット。それと――…』

 「あぁ、行ってくる」

 

マスターの墓参りなどこちらに(・・・・)滞在していたバットは、会いに来たロイ・キャンベル大佐に任務内容を聞かされて了承したその日に輸送機に乗せられた。

 目的地であるジンドラまで陸路や海路で渡るほどの時間的余裕はないらしい。

 後部ハッチが空き、バットはパラシュート降下を行う。

 ゲームでは散々行った事はあるが実際には初の体験。

 普段なら色々感情が騒いでいたかも知れないが、今はそんな事も無く淡々と周囲を見下ろす。

 

 ジャングルに囲まれた先にガルエード要塞と思わしき要塞が見える。

 完全に一致ではないが、この地(・・・)での出来事を思い返すと気持ちは沈む。

 

 ―――ガルエード要塞が築かれたのはアウター・ヘブン跡地である。

 

 バットにとっては馴染みがあるヴェノム・スネーク終焉の地。

 あの日の事を思い出すと無意識に歯を噛み締めてしまう。

 

 先に説明された通りに着地したバットはすぐさまジャングルへと潜む。

 現在武器は内緒で隠し持って来た一丁しかなく、しかも使い慣れない武器という事で実感では丸腰同然。

 スネークや父親のように近接格闘術を熟せない身では、敵との接触は捕縛されるか殺されるかの二択になる。

 

 懐からメイ・リンが開発したレーダー装置を手に急ぎ移動を開始する。

 レーダーにはサウンドシステムやらが積み込まれて近くであれば敵の位置――正確には動いている生き物と壁など動かない物が簡易的に表記され、中には特殊な発信機を持つ相手を自動的に認識するようになっている。

 認識されている点滅を追うようにして進み、レーダーに表記される付近を警戒しながら目的の人物を発見すると無線をOFFにした。

 

 「全く、装備無しで敵地に飛び込む人の気持ちが理解しかねる」

 「あれはあれで利点もある」

 「行き当たりばったりのように思えるが?」

 「敵の装備を奪えば敵地で補給する弾薬は同じ弾頭、口径の物が多い。何より潜入にあたって武器や薬莢を放棄しようと敵と同じでは証拠にならないからな」

 

 「そうですか」とバットは苦笑しながらソリッド・スネークに近づく。

 ロイ・キャンベル大佐はバットが有能であるとは認めるも、潜入任務であればソリッド・スネークを推すのは当然で、それも彼にも関わりのあるアウターヘブン跡地でメタルギアの事件となれば、彼も黙っている訳にもいかなかった。

 しかし公式ではソリッド・スネークは死亡しているので公には作戦に従事する訳にはいかない。

 なので今回は正式にはバットが単独潜入する手筈を整え、裏では現地協力という形でスネークが参戦する形になったのだ。

 キャンベル大佐がメイ・リンをオペレーター兼情報官として呼んだのは、優秀な人材であってシャドーモセス島での事情を知っているからである。

 

 「荷物は?」

 「預かって来たぞ」

 

 軍が用意した輸送機に搭乗させる訳にもいかず、金は掛かるが裏と呼ばれる別ルートで現地集合だったスネークは、バットが向かう前に出発して早めに到着。

 すると任務をバットが請け負った事で注文を受けた紫が、初めてのパラシュート降下で荷物が多く無い方が良いだろうと、現地近くに出張してスネークに注文を受けた銃器類を渡したのである。

 

 預かっていた銃器を纏めてスネークはバットに渡す。

 中にはベレッタM92Fが二丁に狙撃銃はいつものモシン・ナガンではなく――スカウトライフル(・・・・・・・・)“ステアースカウト”。

 

 スカウトライフルとは全長に重量などに制限が設けられた銃で、軽く短いという特徴を持ったライフルの事である。

 ただし軽量化と銃身が短いために有効射程距離も短い。

 長距離狙撃には向かないけれど短距離には有効で取り回し易さがある。

 取り付けられているスコープも低倍率でキャップ付き。

 銃弾はジンドラ解放戦線が扱っているアサルトライフルと同じ弾丸が使えるとの事。

 

 弾の説明に関してはスネークがしてくれたがその際に「銃の受け渡しより説明の長い奴だった…」と肩を竦ませていた。

 ちなみに受け渡しの時に顔を観たかと聞くと、人伝に呼び出されて曇りガラス越しに人影を見た程度だったらしい。

 

 「スネークの武器は?」

 「俺はいつも通り現地調達だ」

 

 再び苦笑を浮かべたバットはスッと視線を要塞へ向ける。

 

 「どう見る?」

 「――…さぁな」

 

 バットの主語を伴わない問いかけにスネークは肩を竦めながら応える。

 殺気を込めて睨んでいる様子から明らかに侵入の難易度や要塞への感想ではない。

 ヴェノムの墓標であったこの地を騒がせるどころか似たような真似を仕出かした奴らが何を想って事を起こしたのか。

 場所が場所なだけにビッグボスが求めていた兵士達の世界を自分なりに解釈した連中なのか。

 そんな事はスネークにも解らない。

 

 「本人に聞くしかないだろう」

 「なら首謀者の顔を拝みに行きますか」

 

 銃を装備したバットは周囲を警戒しながら前進し、スネークもそれに続く。

 毒蛇の巣穴に招かれた蛇(・・・・・)が足を踏み込み、招かれざる客(・・・・・・)がクスリと嗤いながら遠くより眺めていた…。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。