メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 投稿が遅れて申し訳ありませんでした。
 PCの不調から始まり、動く度に痛んだりヒヤッとする程に腰を痛め、花粉症で目と鼻と喉と思考能力をやられておりました…。


蝙蝠と狼は吹雪の中で静かに踊る

 リキッド・スネークが射手を担当し、隻腕のリボルバー・オセロットが操縦していたヘリを撃墜したスネークとバット、それとメリルはオタコンよりエレベーターが動くと報告を受けて、エレベーターホールに向かっていた。

 その際、戦闘ヘリをたった二人で撃墜した事に対して偉く驚き、まるでアニメのようだと興奮気味に騒ぎ出す。

 

 『ヘリを落としたなんて凄いじゃないか!』

 「そうか?毎回の事だけどなぁ…」

 『毎回って何!?しかも全部落としているの!?』 

 「あぁ、そうだが?」

 「そんなに驚く事ですか?」

 『えっ!?これボクがおかしいの?』

 「いや、オタコンの方が正しいと私は思うわよ」

 

 三人だった時にはスネークとバットが平然としている事から、変な疎外感があったメリルであったが、ここでオタコンの反応を見る事でやっぱり自分は正しかったんだと再認識する。

 登ろうとした際には動かなかったエレベーターだが、どうも修理せずとも動くようになったらしく、原因は誰かが止めていたのではと言う事に。

 一体どうやって、誰がと疑問は残るものの、とりあえず動くのであればと到着したエレベーターに乗り込もうとしたスネークをバットが制する。

 

 「一つ質問、ステルス迷彩ってオタコンのと忍者以外にもあったりする?」

 『あ!そうなんだよ。研究室に後四着残っている筈だから、皆にと思って取りに行ったんだけど無くなってて…』

 「四着無くなってたんだ。それと今エレベーターに乗ってたりしないよな?」

 『え、乗ってないけど…』

 

 質問の意図をオタコンが聞き返そうとする前に、バットが二丁のベレッタM92を抜くとエレベーター内へ銃口を向けてトリガーを引いた。

 突然の発砲に驚く一方で、眼前で起こった不思議な現象に目を見開いた。

 エレベーター内には誰も乗っていないというのに、撃った方向には血が飛び散って壁や床を濡らす。

 それどころか何かが倒れ込む様な音さえする始末。

 情報が一切なければ怪現象だがステルス迷彩が盗まれたというオタコンの発言から、エレベーター内にステルス迷彩を装備していた敵が搭乗していたのだと理解するのに時間は掛からなかった。

 透明化していた敵兵は己の血に濡れてシルエットを露わとする。

 

 「姿が見えないからって油断し過ぎ。それと敵が来たからって呼吸音荒く何なって。誰でも気付くぞ」

 「そ、そうよね」

 『さすがだね―――…ねぇ、今メリルの声震えてなかった?』

 「気付いていたに決まってるじゃない!」

 『ど、怒鳴らないでよ』

 

 完全にメリルは声色から気付いていないのは丸解り。

 ならスネークはというと答える事無く、バットが倒した敵兵を降ろして反応する気が無い…。

 敵を排除したエレベーターへ乗り込んだ一行は、一階へと降りて扉より雪原へ出る。

 後はメタルギアの下へ急ぐのみ。

 猛吹雪の中をメリルは先導しようと前へ出る。

 

 「さぁ、あと少しね」

 「メリル、スネーク、物影へ」

 「――…解った」

 

 なんで?とは聞かずにエレベーターの時と打って変るただならぬバットの雰囲気に、聞く事もせずに言われるがままに身を潜ませる。

 潜ませるとは言うが、現在猛吹雪の中に居るので隠れずとも隠れているようなもの。

 それでも警戒してそう言うと言う事は奴が居るのだろうと推測される。

 僅かながらの沈黙。

 聞こえるのは吹雪く風の音のみ。

 短時間ながら体感では長くも感じる中、無線が入って来た。

 

 『良く気付いたわね。それでこそ私の獲物』

 「やっぱりスナイパーウルフか。一度目は迂闊にも狩場に踏み込んでしまった、二度目はない」

 『貴方だけは私が狩る。今度は絶対に』

 『駄目だよウルフ!』

 『子供が出しゃばるんじゃない!!』

 『バットも頼むよ。彼女良い人なんだ!』

 

 オタコンの叫びにウルフもバットも苛立ちを隠せていない。

 いや、ウルフははっきりと言ったが、バットは言葉どころか口調でも伝えてないのでオタコンは気付いていない。

 けれど表情を見ているスネークとメリルは嫌と言う程に理解している。

 

 「お前の獲物は俺か。なら俺が相手をしよう。スネークとメリルは先に行ってくれ」

 「ちょっと!スナイパーの狩場からどうやって…」

 「多分だけど俺も狼からも二人は邪魔なんだ」

 「邪魔って…」

 「ここは狙撃手同士の狩場なんだ。そうだろ!」

 『ああ、私の獲物はお前だバット』

 「行ってくれスネーク」

 「狼は任せたぞ」

 

 不安は残るがスネークはメリルを連れて先へ向かうべく進みだした。

 姿が消えるまでの間にウルフは確かに撃つ事はなかった。

 理由は一対一で正々堂々と戦いたいから―――なんてものではない。

 

 すでに二度に渡って腕の良さを見せた同じ狙撃手の獲物。

 下手に狙撃しては居場所がバレる可能性が高い。

 ブリザードで視界が悪かろうと、狙撃出来る自信があるがゆえに相手に出来ないと否定する事は出来ない。

 勿論邪魔が入るのが嫌だったのもある。

 

 「さぁ、始めようか」

 『どっちが狩るか狩られるか――勝負よ!』

 

 猛吹雪が行き交う白銀の世界で狼と蝙蝠は静かな戦いの幕を開けた…。

 

 

 

 

 

 

 スナイパーウルフの相手をバットに任せたスネークは、メリルと共に先へと急ぐ。

 先にあった建物へセキュリティカードを使用して入り、格納庫へ続くであろう道のりを進む。

 ただ道中には警備のゲノム兵は勿論ながら、地雷や監視カメラも仕掛けてあって早々に突破は難しい。

 バットがいてくれればとも思うが、口にしたらしたでまたアイツは怒るのだろうなと思い浮かべて苦笑いを浮かべる。

 急ぎながらも慎重に時間を掛けて解除や相手をやり過ごし、貨物用エレベーターにまで辿り着く事は出来た。

 

 「大丈夫かしら?」

 「バットなら問題ない」

 「信頼しているのね」

 「頼れる戦友だからな」

 「そう…」

 

 心配そうで呟くメリルにスネークはどう声を掛ければ良いのか解らなかった。

 数度に渡って来たからこそ信頼も信用もしているが、メリルは話では聴いているが初対面。

 腕も技術も多少見てはいるが頼れる仲間とは思っていても、絶対の信頼を向ける程までではない。

 共に戦った方が良いのではないかとも思っているだろうが、一度狙撃されて足手纏いになってしまった事からそう言う訳にもいかないと解っているのだろう。

 だからこそ彼女はこちらについて来た。

 今は割り切れずに燻ぶっている心情に苦しんでいると言ったところか。

 

 どう声を掛けるべきかと悩んでいると、マスターミラーより無線が届いた。

 

 『聞こえるかスネーク』

 「マスター?何か――…」

 『キャンベル達と繋いでいるのか?』

 「いいや、今は繋いでいないが」

 『なら良い。そのまま聞いてくれ』

 

 マスターの発言の意図に困惑する。

 無線は周波数によってかける相手が異なるものの、今回の件で言えば三つの回線があると思えば良い。

 ナスターシャにマスター、それとキャンベル大佐達。

 正確にはキャンベルとメイ・リン、ナオミは別の回線だが専用の周波数が当てられているだけで、司令部に一緒に居るのでほぼ筒抜けとなる。

 こちらから複数に繋ぐか、向こうが同時に繋ぐかしない限りは他の回線をスネークを中継して聞く事は出来ない。

 

 口調からしてマスター達に聞かれたら不味そうな雰囲気に眉を潜める。

 そしてその悪い予想はしっかりと当たってしまう。

 

 『ナオミが語った経歴だがあれは出鱈目だ』

 「なんだって!?」

 『まずナオミの祖父が囮特別捜査官だなんてのはあり得ない。マフィアへの囮捜査が行われたのは50年代ではなく60年代。それもニューヨークではなくシカゴからだ。日本人で採用されたってのも怪しいもんだ』

 「しかし、何故ナオミはそんなウソを…まさか」

 『彼女は元々フォックスハウンドの人間だ』

 

 脳裏に思い浮かんだのは彼女がこちらの動向を探るために派遣されたスパイであるという疑い。

 否定しようと思うも否定できる証拠や根拠はない。

 寧ろ彼女は単なるメディカルスタッフではなく遺伝子治療を行っている。

 最悪出発前の不凍液注入時に、何かを入れられていてもおかしくないとの不安さえ抱きつつある。

 心情を察してか語気が若干弱まった。

 

 『この事件は可笑しな事が多過ぎる。ベイカー社長とアンダーソン局長の突然の死に謎の忍者の登場』

 「確かに不可解な事が多過ぎるが…」

 『別に彼女がスパイだと断定するつもりもない。ただ用心はしておくべきだ』

 「分かった。大佐には説明すべきか?」

 『いや、まだだ。確定情報でもない。下手に猜疑心を撒いて司令部を混乱させるのもな』

 「了解した。注意はしておこう」

 

 無線が切れるとメリルが不思議そうな顔を向けていた。

 

 「どうしたの?」

 「いや、今回は不可解な事が多いから気を付けろと忠告を受けただけだ」

 「そう、その割には長く話していたようだけど」

 「向こうも想う所があるのさ」

 

 ふぅんと何処か不思議そうに見つめるも、逸らすように貨物用のエレベーターを起動させる。

 今はスナイパーウルフの相手を買って出てくれたバットの為にも先に進み、メタルギアによる核発射を阻止しなければ。

 エレベーターは二機あり、スネーク達が乗った一番エレベーターで中間地点まで上がると、途中で二番エレベーターに乗り換えねばならない。

 

 ゴンゴンゴンと機械音が響き渡る中、カァーカァーとカラスの鳴き声が混じり、エレベーター内に影を落とし始めた。

 

 「こんなところに烏が」

 「メリル、人の心配をしている場合ではないかもしれないぞ」

 「どうしてよ?」

 「この先で敵が待ち受けている可能性が高いからだ」

 

 あの戦車と戦った時も烏が飛んでいた。

 誰かが居るのは確かなのだろう。

 スネークの様子から気を引き締めて、メリルは上昇するエレベーターの先を見据える。

 

 

 

 

 

 

 行き交う吹雪と強風で視界は最悪。

 ある程度の音も掻き消える為に耳での索敵も不可。

 動く人も見えなければこの周囲に人がいるのかさえ怪しいところだ。

 だがウルフは感じ取っている。

 純粋な殺意や明確な気配といったものではない。

 肌がピり付く感覚。

 静かながらも騒がしいこの狩場が教えてくれている。

 お前の獲物はここに居ると。

 同時にお前を狩る者もここに居ると。

 

 何分何時間何日何週間であろうがウルフは耐え切る自信があり、相手も狙撃手としては優秀なのは二度の遭遇時に解り切っているので早々に尻尾は出さないであろうと踏んでいる。

 が、必ず奴は動く事になる。

 何故なら自分と違って時間だけは味方をしてくれはしないのだから。

 

 確かに狙撃手同士の勝負に全力で挑むのなら、彼が雪の中での戦闘に不慣れだったり持久力に問題が無ければ、十分に待ち構えれば良いだろうが、そうしていたらこちらは核を発射する。

 そう、彼は短時間の間にこちらを倒さねばならないという条件――いいや、ハンデを背負っている。

 

 小さく息を吐く。

 周囲に気を配り獲物が慌てふためくのを待つ。

 狩りは一瞬。

 

 「――ッ、動いたか…」

 

 突然の銃撃。

 それも狙撃用のライフルなどではなく、アサルトライフルの類。

 時間が無い事に焦ったのか、雪中での戦闘に不慣れだったのか…。

 無茶苦茶に乱射しているというよりは雪が盛り上がっている場所や木を狙って撃つ事でこちらの反応を探っているらしい。

 残念な結末だ。

 吹雪で視界が悪いと言えども銃声で位置は解かる。

 こんもりとした雪から覗く銃身があちこちへ向いては探りを入れる為の銃弾を数発ずつ発射している。

 狙うは頭部。

 一発で仕留めようとスナイパーライフル“PSG‐1”の銃口を向け、冷めた気持ちでトリガーを引いた。 

 放たれた弾丸は予想した軌道を描いてヒット。

 

 されど銃撃は続いており、凡そではあるがこちらに向かって銃撃してきた。

 外したかと二射目で確実に当てる為に胸元辺りを狙う。

 

 弾丸は雪の中を突き進み、着弾した事で銃撃は止んだ。

 雪の中からアサルトライフルのファマスと雑多な鉄材と配線を散らしながら。

 

 何あれは?

 

 赤い鮮血ではなく散ったのは何らかの部品。

 それらがセントリーガン―――つまり囮だったという事を理解するまで時間は掛からなかった。

 

 「そこか!?」

 

 ゾワリと直感的に感じ取ったウルフが状態を逸らすと、肩を狙っていた弾丸が遮蔽物にしていた木に命中。

 何とか回避出来たウルフは素早く反撃しようと、撃って来た先を睨みつけるとモシン・ナガンを構えたバットの姿が。

 身を潜まして狙撃手同士の撃ち合いかと思いきや、身を潜ませた直後にポーチより取り出したのは手榴弾。

 幾つかの手榴弾を放っては、様々な爆発を起こして視界内を騒ぎ立てる。 

 グレネードの爆発で雪が塊で舞い上がり、スモークグレネードは吹雪に煙幕を紛れ込ませ、スタングレネードは発生する高音よりも閃光が真っ白な雪によって乱反射を起こす。

 なんて騒がしい戦場か。

 これがスナイパーが作り出す戦場なのかと疑うもどこか懐かしさを覚える。

 

 移動しながら撃ち返すが向こうの方が動きが良い。

 さすが創り出しただけあって慣れている。

 あちこちで騒がしく、瞳が無意識に動いては脳が認識をする作業が僅かに動作を遅れさせる間に、雪上を駆け抜けては狙撃ポイントを変えて狙撃を繰り返す。

 

 これではまるであの人ではないか!?

 

 脳裏に焼き付いた彼女―――クワイエット。

 狙撃地点がバレたら即座に常人ならざる身体能力を駆使して移動し、何事も無かったように姿を暗まして新たな狙撃地点より狙撃を行う。

 

 騒がしい視界内から情報を掻き分けながら、獲物を狩ろうと探してはトリガーを引く。

 島に住まうウルフドックが見守る中、けたたましい戦場から音が消えて静けさが戻り、雪原に右肩と横腹と太腿の三か所を撃ち抜かれたスナイパーウルフが倒れ込む。

 

 「俺の勝ちだ」

 「……ハハハ、私が狩られる側だったか…」

 

 伏したウルフをモシン・ナガンを背負い直して、ベレッタを構えるバットが見下ろす。

 痛みはあるが不思議と悔しさはない。

 寧ろ自身に対する自責の念だけ。

 自身は恩のあるビッグボスを失った事で復讐に身を投じ、傍観者から当事者へと成り果てた(・・・・・)

 狼の誇りを忘れて…。

 

 後悔交じりの大きな息を吐き出したウルフは、姿は見えないが雪を踏み締める足音が近づいて来た。

 戦っている事を知って駆け付け、ステルス迷彩を解いたオタコンは膝をついて崩れ落ちる。

 

 「これでようやく…解放される…」

 「そんなぁ…どうしてぇ…」

 

 自身の得物であるPSG‐1を抱いてスナイパーウルフは呟き、オタコンは彼女を失う悲しさと自分は何も出来なかった事から涙を零れ落とす。 

 そんな中、バットだけは険しい顔を浮かべる。

 

 「なに勝手に死ぬ方向で話進めてんだよ」

 「お前…何をして…」

 「治療に決まってんだろ。暴れんな。博士手伝え」

 「え、僕は治療は…」

 「違う、暴れないように抑え付けといてくれ」

 

 ポーチから医薬品や包帯などを取り出したバットは、淡々と始めるもウルフは抵抗を試みる。

 しかし三発も銃弾を受けたダメージから抵抗は弱々しく、鍛えてないデスクワーク主体のオタコンに押さえられただけで無力化され、渋々ながらも手当てを受ける他なかった。 

 応急手当を終えて武器を確認して立ち上がってから見下ろす。

 

 「俺は好き勝手に治療させて貰ったが、後は好きにすると良い。俺はスネークと合流しに行く」

 「ちょ、ちょっとバット!?」

 「ただアンタを観てると師匠を思い出すから出来れば(・・・・)死なねぇでくれると嬉しい―――もしも生きるのに理由が必要だってんなら、敗けた仕返しでも八つ当たりでも理由を付けて俺を恨んでくれても構わない」

 

 復讐心を糧に、楔にしてでも生きろ。

 敗者の生殺与奪は勝者が握る事が多い。

 狼は戦いを挑んで撃ち負けるも、勝者となった蝙蝠は殺さずに治療を施して生きろと言う。

 

 ただ絶対ではなく頼み。

 治療と言っても瞬時に完治させる医術など存在しない訳で、応急手当を受けたと言っても怪我の悪化や状況によっては死亡する恐れもある。

 応急手当で止血などはされたが、内部の損傷具合も解りはしない。

 後は運任せ。

 

 狙撃で負けた事は悔しくもあるが、恨むどころかどこかスッキリした気すらする。

 大丈夫?と心配そうにするオタコンから、去ろうとするバットに視線を移して声を掛ける。

 

 「一つだけ教えて欲しい―――お前の師匠の名は?」

 「――――…クワイエット。本名は知らないけどな」

 「……そう。そうなのか」

 

 今度こそ去って行ったバットに対しウルフはクスリと笑った。

 先程感じた懐かしさは間違っていなかったのだ。

 それにしてもあの人の弟子が自分以外に居たとは驚きではあるが…。

 

 また出会う事が叶うのならば、同じ師を持つ者同士として話をして…みたい……なぁ――…。


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