メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 明けましておめでとうございます。
 今年も宜しくお願い致します。


独房にて…

 兵士の能力というのは個々人の能力に日々の鍛錬や経験によって大きく異なり、強弱は個体差に寄って大きな偏りがある。 

 遺伝子治療(ジーンセラピー)を施して視聴覚器官の鋭敏化。

 戦闘に特化している遺伝子―――“ソルジャー遺伝子”の移植。

 危険なく経験を積ませる集積されたデータから創り出したシミュレーションに、あらゆる事態を想定されたVR訓練。

 医学を用いて遺伝子から強化して、新兵でも数々の経験を叩き込み、安定した優れた能力を持った兵士を造り出す。

 それが次世代特殊部隊の“ゲノム兵”である。

 

 シャドーモセス島を占拠したのはそんなゲノム兵とフォックスハウンドという精鋭。

 陽動部隊に引っ掛かった事で幾分か敵の注意はそれているけれど、警備は変わらないのでそう易々と潜入させてはくれない。

 警備に加えてナニカを捜索しているらしき捜索隊。

 人の目が多いだけでなく施設には監視カメラが見受けられる。

 あれは元々警備で扱われていた物をそのまま利用しているのだろう。

 正面の入り口は巨大で見た目からも強固。

 強行突破は不可能そうで何かしら開ける事が出来ても人目を引くのは必須。

 別の侵入経路を探さねばならないが時間をかけていては見つかる可能性は高まる。

 潜入するにも中々厄介な状況だ。

 

 だからと言ってただただ立ち止まっている訳にもいかない。

 敵の注意が少しでも陽動へ割かれている今が好機。

 何とか警備と捜索の目を掻い潜り、定期的に左右に振られる監視カメラの死角を通り、正面施設外側に張り付けられた見張り小屋も兼ねた二階へと上がる。

 目が向きにくいとはいえ遮蔽物もない剥き出しの二階の為に、早々に新たな侵入経路を見つけなければならない。

 

 『どうだスネーク、侵入できそうか?』

 「ダクトを見つけた。これより施設内へ侵入する」

 

 キャンベル大佐の無線に短く答えると発見したダクトの中へ潜り、ソリッド・スネークは蛇のように這って内部へと侵入を果たした。

 ずりずりと擦れる音を耳にしつつ、音があまり出ないように注意しつつ進んでいると、またも無線が入って止まる。

 

 『久しいなスネーク!私だ、マクドネル・ミラーだ』

 「マスター!いや、マスターがどうして?」

 

 懐かしい人物に感情が高ぶってしまった。

 マクドネル・ミラー―――通称“マスター・ミラー”。

 ソリッド・スネークがフォックスハウンドに所属していた頃、教官として鍛えてくれた人物。

 会う機会はなかったが声を聴くのはザンジバーランド騒乱以来である。

 声が聞けて嬉しく思うがマスターは今回の支援メンバーには居なかった筈。

 何故だと疑問を抱えているとマスターはにこやかに続きを口にし始めた。

 

 『君と同じだよ。正確にはブーツキャンプの教官を辞めてアラスカで隠居生活を送っているんだ。まぁ、たまには教官をやってたりするがな。その話は今は良いか。キャンベルより話は聞いたよ。私もサポートさせて貰おう』

 「おお!マスターのサポートか。それは心強い!」

 『世代交代したとはいえサバイバル教官としての経験に知識は役立つだろう。それとアラスカでの生活は君よりは長い。環境や動植物の事もそれなりに詳しいつもりだ。何かあったら無線してくれ』

 「了解だマスター」

 

 心強い助っ人の登場に多少気が楽になる。

 無線を終えて先へと進み始めた途端、通風口よりダクト近くにいた兵士の会話が入り込んで来る。

 見つからまいと動きを止め、気配を潜めながら聞き耳を立てる。

 

 「―――“DARPA”の局長は地下の独房に移して置いたぞ」

 「通風口の掃除は?」

 「これからだよ。通風口を開けたからこれから鼠の駆除だ」

 

 これは良い情報を得たとスネークは小さく頷いた。

 スネークへの命令にはこの核兵器廃棄施設に訪れていた国防省付属機関先進研究局“DARPA”ドナルド・アンダーソン局長及び、軍事兵器開発会社“アームズテック社”ケネス・ベイカー社長の救出が含まれている。

 片方とは言え所在が分かったのは有難い。

 あとは近くの兵士が離れるのを待って移動するだけだ。

 そう思いつつ待っていると兵士達は無駄話を続けた。

 

 「鼠と言えば侵入者が居たらしい」

 「侵入者!?」

 「すでに何人かやられたらしい」

 「本当かソレ?」

 「しかも噂では姿が一切見えないステルスらしい。他にも山猫や狼から逃げ切った奴も居るって話だ」

 「えぇ!?それってかなりヤバいんじゃあ…」

 「あぁ、侵入者の目的には局長も含まれてるだろうなぁ?」

 「おおお、おい、止めろよ!俺、この後警備なんだからな!?」

 「ハッハッハッ、そんなにビビるなって。また漏らすぞお前」

 「だから言うなって。…はぁ、離反者も出たっていうのに侵入者まで…」

 

 これから局長に警備を行うと言う兵士はがっくりと肩を落とし、揶揄っていたもう一人の兵士も談笑交じりに去って行った。

 自分以外の侵入者が二人も居ると言う話に戸惑うも、出来れば情報を得ると言う事も考えて離反者とやらには合流したいものだ。

 盗み聞きから得た情報から地下までダクト内を移動して行く。

 会話にあった開いたままの通風口よりこっそりと覗くと独房のベッドに一人の男性が俯いたまま腰かけていた。

 顔は見辛いが体格や様子から資料にあったドナルド・アンダーソン局長だろう。

 独房という事で鉄格子で遮ってあるような所を想像していたが、外からは出入り口の扉に設けられた小さな覗き窓以外になく、しっかりとした壁や扉で外と中を遮った完全な個室となっている。

 開いていた通風口から身を乗り出して独房内へ降り立つ際、いきなりダクトから人が現れた事で驚くも然程騒ぐ様子はない。

 

 「――誰だ?」

 「助けに来た」

 「助けに来ただと?貴様、何処の所属だ?」

 「俺はあんたらのようなロクデナシを救助する為に雇われた捨て駒だ」

 

 疑心を抱くのは当然。

 潜んできた事からテロリストではないと判断したとしても、急に現れた人物を即座に全面的に信頼しろという方が無茶な話だ。

 見定めるようにこちらを睨み、沈黙だけが互いの間を満たす。

 時間にしてみれば一、二分程度だろうか。

 ドナルド・アンダーソン局長は息を吐き出すと、硬く薄汚れたベッドに腰を降ろした。

 

 「確かにテロリストではないようだな。なら早いとこここから出してくれ」

 「安心しろ。だが、出る前に情報が欲しい」

 「なんのだ?」

 「テロリストは合衆国を脅迫している。受け入れなければ核攻撃をすると言ってな」

 

 早く救出されたいであるだろうが、まずは彼が知り得る情報を得る必要がある。

 フォックスハウンドと次世代特殊部隊は合衆国に対してビッグボスの遺体を要求してはいるが、この核兵器廃棄所を制圧したからと言って脅威になるかと言えばそうでもない。

 確かに廃棄前の核兵器を他国やテロリストに売り渡されでもしたら話は変わるのだが、その場合は時間を掛けずに要求された時点で大軍をもって包囲すれば事足りるだろうし、核兵器があろうが廃棄所であって発射施設ではないので撃って来るという恐れるような事態はない。

 だがテロリストは核攻撃という手段で脅し、軍部は人質救出のために潜入工作を選んだ。

 つまりここには大軍で押し寄せたら不味いナニカが少なからず存在する。

 それも人質とは別のナニカ…。

 

 局長から話を聞いてその疑念も晴れた。

 この核兵器廃棄所では国防省付属機関先進研究局“DARPA”と軍事兵器開発会社“アームズテック社”の共同計画で、核搭載二足歩行戦車“メタルギア開発計画”が行われていたという。

 単独で核兵器を発射する能力があるメタルギアがあるのであれば、表立っての大規模作戦は核の報復を恐れて行えない。

 シャドーモセス島という人目につかない場所で、核兵器廃棄所という事故で放射能が漏れようともメタルギアの存在を秘匿し易さから選ばれ、今回の事件が無ければ演習後には量産する予定もあったらしい。

 話を聞いたスネークは何故自分が選ばれたのかの理由を理解して、深いため息を吐き出した。

 

 「奴らの蹶起(・・)さえなければ…なんにせよレックス(REX)は奴らの手に渡ってしまった」

 「レックス…それがメタルギアの名か?」

 「そうだ。新型メタルギアのコードネーム“メタルギア・レックス”。奴らは核弾頭の装備を終えている筈だ」

 「お、おい!さっきから一人で五月蠅いぞ!」

 

 大声ではなかったが声が聞こえていたのか、見張りの兵士が声を荒げて注意してきた。

 …ただ声が上ずっていた事からそれほど強気な性格ではないらしい。

 現に覗き窓から睨み返した局長に怯んでそそくさと離れて行っていった…。

 扉脇に隠れてやり過ごしたスネークは行った事を確認して話の続きに戻る。

 

 「では奴らはいつでも撃てる状態にあるのか?」

 「いや、核弾頭には起爆コード入力式の安全装置“PAL”が組み込まれていてな。私とベイカーがそれぞれ持っているパスワードを入力しなければただの鉄の塊……なのだが私のパスワードは知られてしまってな…」

 「喋ったのか!?」

 「違う。サイコ・マンティスのリーディング能力(読心術)には抵抗は出来んよ」

 

 サイコ・マンティスの名には覚えがあった。

 フォックスハウンドでサイキック能力を持つと言われる兵士。

 メタルギアの存在だけでも状況は悪いというのに、局長同様にベイカー社長も奪われていると考えれば、奴らはいつでも核を発射できるとなれば最早最悪と言っても過言ではない。

 しかし一筋の希望を局長は握っていた。

 

 アームズテック社は緊急時用にPALキーという鍵を用意しており、パスワード無しで安全装置の入力・解除を行える事から核発射を阻止する事も出来る。

 ただしその鍵は三つ(・・)あって、一つをベイカーが持っているという。

 居場所については見張りの兵士が他の兵士と喋っていたのを聞いており、地下二階の何処かに移されたという事と入り口を塗り固めたというヒントのみ。

 

 「そうだ。これを渡しておこう」

 「セキュリティカードか?」

 「私のIDカードだ。こいつにはPAN(パン)という人体の塩分を伝導体としてデータ送信を行う人体通電技術が使われている。近づくだけでセキュリティレベル1の扉は開くだろう」

 「近づくだけでか…解った。なら脱出するぞ」

 

 一々カードキーを通すような作業が無いのは楽だなと思いながら、局長クラスでセキュリティレベル1の扉しか開けられないと言うのはどうなんだと悩むも、今はとりあえず局長を逃がすのが先決だろう。

 そうと決まればまず局長を連れて施設からの脱出を図ろうとした矢先、局長自身が戸惑うように止めてきた。

 

 「待ってくれ。他にPALを解除する方法などを聞いてはいないのか?」

 「いや、そんな話は聞かされていないが…」

 「本当に?」

 「くどいな。本当だとも」

 「……政府はテロリストの要求を呑む気があるのか?」

 「それは(政府)奴ら(テロリスト)の問題で、俺はアンタを助けるだけだ」

 「しかしそれでは国防省は――――グッ!?」

 

 焦る様に問い質して来た局長だったが急に心臓の辺りを押さえて苦しみ始めた。

 苦しみ悶える局長を前にして彼の主治医でも医療班でもないスネークは困惑するばかり。

 何をする事も出来ずに局長は倒れて息を引き取った…。

 混乱も困惑もする中でスネークは咄嗟に無線を繋ぐ。

 

 「局長が死んだ。何か持病持ちだったのか?」

 『モニターしていた感じだと心臓発作のようだったけれど解らないわ。詳しくは問い合わせてみないと…』

 『心臓発作!?まさか…』

 「―――大佐、何か俺に隠しているのか?」

 『…すまない。今回のテロに関してコード・レッドのセキュリティが敷かれている』

 「作戦の指揮官である大佐でも…か?」

 『本作戦の司令官は国防省長官だ。私は君のサポート役でしかないのだ…』

 「………解った。ベイカー社長の捜索にあたる」

 

 疑心は残るがここは作戦を継続するしかない。

 コード・レッドは最高機密扱いでアクセスできる人間は限られるし、大佐も迂闊には話せない事もあるだろう。寧ろ知らされていない可能性の方が高い。

 聞きたい事も知りたい事も増える中、局長の死に際のうめき声に兵士が確認に駆け付ける事から一刻も早くここを離れなければ。

 覗き窓から周囲を伺って何故か開いた(・・・・・・)扉より出ると横合いよりプルパップ方式アサルトライフル“FA-MAS”の銃口を突き付けられた。

 

 「動かないで!――ッ、なんてことを。局長を殺したの!?」

 「違う。殺したんじゃない。心臓発作のようだった」

 「え、リキッド!?……いえ、違う…」

 

 銃口を向ける相手はテロリスト同様の制服とフルフェイスマスクで顔を隠しているが、どうも奴らの仲間ではなさそうだ。

 すぐ側には独房の監視についていた兵士がパンツ一丁の姿で転がされていた事から、制服や装備の類は奪ったと考えて良いだろう。

 加えて銃口を向けては居ても手は寒さではなく緊張で震え、視線が定まらず覚悟も出来ていない目は自信すら感じ取れない。

 訓練を受けていても実際に人を撃つ、または命を奪った事がない。

 

 「撃てるのか新兵?」

 「新米じゃない!」

 「安全装置が掛かったままだぞ?」

 「だから新米扱いしないで!!」

 

 声からして若い女性。

 激昂しているがこちらが一歩前に出ると臆してか下がった。

 隙をついてこの境地を脱しようとして窺っていると、出入り口の扉が急に開いたのだ。 

 音から彼女も気付いて振り返り、目にしたのは突入してきた敵兵。

 

 「撃て!撃つんだ!」

 

 急な出来事と覚悟が決まり切っていない彼女はトリガーを引けなかった。

 敵兵はそんな彼女に銃口を向けようとする中、スネークはパンツ一丁で転がっている兵士の近くに落ちていた、ソーコムピストルへと跳び付いた。

 跳んだスネークに意識が移り、銃口が追うように動くがその前にスネークが撃つ。

 突入してきた敵兵三名は入り口が狭かった事もあって、固まった状態で反撃も避ける事も出来ずに倒れて行った。

 

 「口先だけか新米!今度は怯まず撃てよ!」

 「―――ッ!?」

 

 通路より走って来る足音が響いてくる。

 敵の増援が向かってきているのは明白。

 決まり切っていなかった覚悟は未だ定まっていないものの、撃たなければやられるという選択肢を迫られる。

 再び敵兵が突入してきた事で彼女は自身の身を護るべくヤケクソ気味であったがトリガーを引いた。

 正直乱射であったが入り口が狭かった事が幸いして、少なかった増援を片付ける事が出来た。

 

 上々と判断すべきだろう。

 彼女はそのまま扉より通路の様子を伺い、敵兵が居ないと解かると振り返る。

 今度は銃口をこちらに向けずに。

 

 「ここにも(・・・・)あなたにも用はないわね。彼が居るかもと思ったのだけど…」

 「待て、お前は――っく!?」

 

 言い残して駆け出した彼女を追って跳び出そうとするも、通路先のエレベーターに乗り込むとこちらへ牽制射撃を行い、閉まる扉によって遮られてしまう。

 一対何者だったのか。

 そしてこの事件では一体何が起こっているのか。

 険しい表情を浮かべるスネークに明確な答えを渡せる者はいない。

 拾ったソーコムピストルの残弾などを確認し、ベイカー社長救出の為にも動き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●とある兵士の一幕

 

 今年は厄年なのだろうかと本気で悩む。

 幼い頃より軍人だった祖父より武勇伝を聞かされて育った。

 なんでも冷戦時GRU所属だった祖父は上官の名を受けて独房の監視を行っており、その際にリトゥーチヤ(オールド)()ムィーシ(バット)に出会ったのだとか。

 上官の命令とは言え想う所があった祖父はリトゥーチヤ・ムィーシに協力し、多くの仲間と共に立ち上がったと自慢げに語ってくれたものだ。

 ………ただ出会った時の事を語る度に若干言い淀んでいたのが気になるところではあるが…。

 

 祖父の話もあって俺は軍人になる道を選んだ。

 俺の家では代々受け継いで来たモノが二つあり、一つは親父や祖父もそうだったように代々長男には“ジョニー”と名付けるように、俺もジョニー(・・・・)佐々木と“ジョニー”を受け継いだ事。

 もう一つは遺伝なのか胃の調子が崩れやすいと言う事…。

 おかげで仲間内からは散々揶揄われたよ。

 雨の日の長時間訓練何か我慢できずに漏らしてしまった事もあった…。

 

 そんな俺だが今やエリートだ。

 別段何かしらの功績を立てたとか同期の中でも凄まじい好成績を叩き出したなんてことはない。

 次世代特殊部隊と銘打たれた部隊に選ばれる事になったのだ。

 選ばれると言っても入隊ではなく入隊出来るかも(・・・・・)という切符(被検体)

 まず色んな施術を受けて視聴覚を強化して、“ソルジャー遺伝子”とかを移植したりされ、VRやシミュレーションなどの訓練を受ける。

 上手くいって合格した者は“ゲノム兵”として次世代特殊部隊に入隊する事が出来るのだ。

 

 当然楽なものではなかった。

 注射嫌いだというのに何度も注射されるし、仮想訓練とは言え過酷なもの。

 合格して見れば何と同じゲノム兵の中には奇病で苦しむ者が居ると聞く。

 担当に俺は大丈夫なのかと検査を受けて見れば、どうやら奇病どころか遺伝の腹痛以外は問題ないらしい。

 なんにせよ無事にエリート部隊に所属出来たのは本当に良かった。

 

 などと思っていた頃が懐かしい。

 部隊が創設されて任務が下された。

 内容は新兵器との演習。

 それだけなら良かったのだけど場所が悪すぎるよ。

 雪が吹き荒れる極寒の地、シャドーモセス島。

 到着初日から寒さで腹を下すのは言うまでもなかっただろう…。

 

 いつまでこんな極寒の地で任務につくのだろうと思っていたら、任務先である核兵器処理施設の占拠するという話になった。

 フォックスハウンド所属のサイコ・マンティスから説明を受ける(・・・・・・)前までは異論とかもあった気もするけど、今となってはどうしてそんな事思ったのか微塵も解らない。

 

 納得して占拠に加担した俺は重要な任務を任されている。

 地下の独房に移した国防省付属機関先進研究局“DARPA”局長、ドナルド・アンダーソンの監視。

 彼の存在はこれからの作戦に必要な人材で重要人物。

 それなのに俺一人に任されるというのはそれほどに評価・信頼されている証。

 ……重要任務過ぎて胃が痛くなっているけれども…。

 

 ぼやいた所ですっきりもしないが、正直独房の警備も楽ではない。

 いつ起こるか分からない脱走や侵入者を待ち構えると考えれば気が気でないし、だからと言って何もないと思えば暇で暇で仕方がない。

 腐ってないで通気口を走り回っている鼠の駆除をする事にしよう。

 

 それにしても先程から局長が入っている独房が五月蠅い。

 暇なのは解るがさすがに独り言にしても喧し過ぎる。

 少し前に注意したばっかなのに…。

 

 ため息を零した俺は再度注意しに行こうとした矢先、背後より迫る気配と足音を察して咄嗟に振り返り、銃口を向けてトリガーに指を掛ける―――なんてことは出来なかった。

 

 

 見てしまった……いや、魅せられてしまった。

 ―――いいや、見惚れてしまった!

 

 さらっとしたキレイな赤毛。

 強く惹き付けられるような意志の籠った瞳。

 制服の上からでも解るスタイルの良さ。

 軸がブレない姿勢。

 なにより惹き付けられる美しさ。

 

 一目惚れだった。

 ある話では電流が走ったなんて表現するらしいが、俺の場合は落雷に撃たれたような衝撃。

 恋に落ちるというのはこういうものなのか。

 そして強烈な一撃を受けて、俺の意識は薄れて(落ちて)行った…。

 

 

 

 制服をひん剥かれて放置されたジョニー佐々木は、意識を取り戻すまで極寒の寒さに晒されており、お腹の具合は限界に達してトイレへパンツ一丁で駆けこむのであった…。


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