メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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システムEGO

 ストラテロジック社の研究施設の最奥。

 極秘裏に開発された新型メタルギアを収納する格納庫に辿り着いた一行を待ち構えていたのは、メタルギア“カイオト・ハ・カドッシュ”と事件を起こしたコペルソーンとルーシーの姿だった。

 格納庫とはいうものの内部はだだっ広い空間に無造作にコンテナが置かれ、奥にメタルギアが鎮座しているだけの空間。

 これからメタルギアとやり合う事を考えれば遮蔽物があるのは幾分かでも有難い。

 ビンスの指示によって距離を取ったまま警備部の兵士達が左右に展開しては攻撃態勢を整えていく。

 人数では圧倒していてもメタルギアという強大な兵器を手にしているコペルソーンには余裕が伺え、展開しようと邪魔する素振りすらなくただただスネークを憎らしそうに睨みつけている。

 カイオト・ハ・カドッシュにルーシーと立ち並んで物理的にも見下ろすコペルソーンに対して、メタルギアとの決戦という事で緊迫感を漂わせながらスネーク達は見上げている中、ぽつりとゴーストが呟いた。

 

 「……事案かな?」

 「さすがに空気読もうやボス」

 「――良い加減怒るよ?」

 「おっと、口を慎むとしよう」

 「二人共真面目に」

 『やっと来たか!出来損ないの怪物、我が妻を殺した大罪人めが!!』

 『久しぶりねスネーク』

 

 緩い空気になった所にコペルソーンの怒号と、柔和なルーシーの声が向けられる。

 無表情で声さえ出さなかった今までのルーシーと異なる様子から最終段階を経て、ルーシーはルシンダとして孵化を果たしたと見るべきだろう。

 ただ一緒にいたタキヤマの姿が見えない事に僅かでも不安を感じる。

 

 『ルーシー(ルシンダ)は完全に目覚めた!だからと言って貴様の罪が消える訳ではない!!』

 『ハニー、彼は記憶喪失なのよ』

 『そうだったな。なら貴様が自身の罪に懺悔し後悔する為にも教えてやろう!三年前にセレナ共和国での“プラウリオの惨劇(民族虐殺)”は第二世代被検体の暴走により引き起こされた。事態の発覚を恐れたストラテロジック社は早期に事態を収拾すべく研究中の第三世代被検体(・・・・・・・)を送り込んだ!』

 「まさかそれが…」

 『第三世代被検体“スネークモデル”。優れたパーツ(・・・・・・)を組み合わせた身体(・・・・・・・・・)に伝説の傭兵と謳われたビッグボス(ネイキッド・スネーク)の戦闘データを書き込む事で私が創り上げた存在。まぁ、話を持ち掛けて来た彼ら(・・)の要求には答えれなかったけれどね』

 『貴様は確かに期待通りの戦果を挙げたが、戦いの果てに心が弱り正気を失って脱走を図り、止めようとした妻を殺したのだ!お前達(被検体)を造り出した母親であるルーシー(ルシンダ)をだ!!』

 

 怒りに満ち溢れるコペルソーンと記憶に無い過去を聞かされ戸惑うスネーク。

 そんなスネークを見下ろし満足そうに笑い、次の瞬間には溢れ出る感情のままに叫ぶ。 

 

 『三年間、私は地獄のような苦しみを味わって来た。妻を失った悲しみ、彼女を行かせてしまった自身への怒り、仇すら討てない無力感……だから私はルーシーを蘇らせるべくひたすらに研究に励んだ!そして彼岸は叶ったばかりか討伐隊が組まれて始末したと聞かされた貴様が生きていた!私は嬉しいのだスネーク!妻を殺した貴様をこの手で復讐が果たせるのだからな!!さぁ、大人しく殺されるが良いスネーク!!』

 「―――断る」 

 『……なに?』

 「俺はお前が言うように罪を犯したのかも知れない。ならばその罪を償うべきなのだろう…」

 『そうだ!そうだとも!貴様は私に殺されて罪を償うべきなんだ!!』

 「いや、償う方法は自分で決める。少なくとも今ここで殺される訳にはいかない。この命は俺一人のもの(仲間の為にも)ではないからな」 

 『ならば仕方ない。このメタルギアは本来お前達被検体を支配する存在(・・・・・・)。貴様のような出来損ないはカイオト・ハ・カドッシュで踏み潰してやろう』

 

 強い恨みを向けるコペルソーンに対して強い意志を持って返したスネークにヴィナスは微笑む。

 自ら懺悔して命を差し出さなかったことに苛立ちを見せながらコペルソーンはルーシーを連れてカイオト・ハ・カドッシュに搭乗して行った。

 

 『戦場で勝利する為には何が重要だか解るかね?』

 

 悦に入ったかのように語り続けるコペルソーン。

 彼の主張によれば敵の兵器の破壊や敵の排除よりも排除後に行われる制圧が重要との事だ。

 従来メタルギアは核兵器の発射に重きを置かれていたが、カイオト・ハ・カドッシュは中性子爆弾によって核汚染はなく、敵を排除した無人の廃墟を制圧する事が可能。

 そして大陸弾頭弾よりも勝利に必要なのは局地的戦術級核兵器なのだとカイオト・ハ・カドッシュの有効性を語り続ける。

 さすが科学者というべきか理論立てて語っているのだが、聞かされている兵士としては敵と対峙しているというのに何故長話に興じているのかと不思議でならなかった。

 スネークとヴィナスは聞き流しながらメタルギアの武装の確認を行っていたが、確認作業も終わっても語り続けている様子にうんざりし始めていた。

 その最中、何処から取り出したのかゴーストは前のビンス戦で拾ったRPG‐7を構えて、僅かな躊躇いも一切なくトリガーを引き、放たれた弾頭(会話スキップ)はメタルギアの頭部に直撃して爆発を起こす。

 

 「……お前、なにを?」

 「さっきからべらべらと―――話が長い!」

 

 ヴィナスでも耐えていた…いや、耐え兼ねてはいたがまだ口を挟まなかったというのに、まさかのゴーストが先に手を出すとは思わなかった。

 出来れば攻撃するならするで先に教えて欲しいところであった。

 ただ、退屈していたヴィナスだけはナイスと言わんばかり良い顔をしていたが…。

 

 『ハニー、私に()らせて。この子は私の―――』

 『いいや、君が手を汚す必要はないんだ。スネークに君を殺した事を償わせた後、あの惨劇の関係者も全員殺してやる』

 「攻撃開始!」

 

 カイオト・ハ・カドッシュの目が青く輝くと同時にビンスが指示を飛ばして散開していた部下達による集中攻撃が開始された。

 アサルトライフルにマシンガン、スナイパーライフルにグレネードと様々は銃火器で攻撃を仕掛けるが、戦車の装甲をも易々と貫いた両掌の機関砲で斉射されれば一貫の終わりである。

 その分、怨嗟を向けられているスネークが囮としても正面切って戦わなければならない。

 

 役割はスネークを正面からの囮で惹き付け、ヴィナスはスネークの援護を担当。

 警備部は持ちうる火力を持ってダメージを与え続け、ビンスは指揮官として指示を飛ばしながら好きならばRPGで支援を行い、自由気ままなゴーストはスネークよりの遊撃。

 右手機関砲がスネークに向けられて砲弾を雨を降らす。

 少しでも狙いを外させれないかとスコフィールドの早撃ちで全弾叩き込むも、僅かなダメージが入るばかりで砲身が揺れる事はない。

 何とかコンテナを多少ながら盾にしつつ必死に回避する。

 反撃もするべきなのだが正直にそんな余裕がない。

 

 『大人しく死ねスネーク!』

 「させる訳にはいかないんだけど…さぁ!」

 『そんな豆鉄砲で何とか出来るものか!!』

 

 弾切れになったスコフィールドからグロッグ17L RGカスタムに変えて撃つがメタルギア対して威力不足は否めない。

 ゆえにいくら命中率が良かろうとメタルギアの敵ではないと見下した。

 バックサイドホルスター(腰背中側)より最後の拳銃を抜いた。

 サイズも今まで扱っていた拳銃より大きく、長く銀色に輝く銃身が目標へと向けられ、.454カスール弾が銃声を轟かせながら放たれる。

 コクピットに表示されている各部位のダメージ表示に、明らかに先ほどと異なったダメージ量を浴びせられた事でコペルソーンは、敵ではないと除外したゴーストを再び敵として再認識した。

 

 「一応聞いてはいたけど反動デカイなコレ。連射はキツイか」

 

 ゴーストは紫から勧められた銃の中から、一応メタルギア用に使えるかなと受け取っていたトーラス・レイジングブル。

 まだ銃を隠し持っていた事に呆れと感心を向けつつ、スネークもヴィナスも頬を緩めながら応戦を続ける。

 

 コペルソーンにとってこの状況は予想外過ぎた。

 情報によればソリッド・スネークという工作員はメタルギアを少数で破壊したというのを耳にはしている。

 けれどそれは他人事。

 スペックから火力も防御力も全て圧倒している自身が造った傑作が、戦車も戦闘ヘリもない連中にこうも手古摺るどころか押されるなど微塵も思いはしなかった。

 …ただある意味では当然の結果とも言えなくもない。

 

 なにせ今のカイオト・ハ・カドッシュは未完成。

 武装面も装甲もシステムも完成はしていても、この機体がシステムEGOである人格を有したプログラムで動く以上、必要な条件を揃えた操縦者が必要なのである。

 確かに乗り込んではいても資格の無いコペルソーンが動かしていては本来の性能を十分に発揮する事は出来ないのだ。

 

 「動きが単調だな。メタルギアってのはこんなもんなのか?」

 「いんや、昔相手にしたのはもっと動いてたけどなぁ」

 「その口ぶりからして前にもメタルギアと戦ったように聞こえるが…」

 「結構戦ったと思うよ。あれ?でもメタルギア以外(ピューパなど)も混じってたような」

 「古そうな記憶を呼び覚ますより手を動かす」

 「了解ですっと!」

 

 弾切れとなったトーラス・レイジングブルに.454カスール弾を装填しながら駆け出すゴースト。

 チマチマとスネークを殺す邪魔をされて怒り狂うコペルソーンは、駆け出すゴーストに左腕の機関砲を向けるとそこに火力が集中し始めた。

 ビンスの指揮の下で警備部の連中による集中砲火。

 さすがにカイオト・ハ・カドッシュもダメージ蓄積がヤバイ。

 

 先の発言に駆けながら攻撃を加えている様にビンスは一つの答えを出す。

 確かにメタルギアというのは高い火力と強固な装甲を持つ大型兵器で、歩兵でそれを撃破するのは至難の業だ。

 だからといって火砲と装甲を備えた戦車や飛行能力を有した攻撃ヘリでは、一発一発有効打を与える事は出来ても与え続ける事は叶わない。

 メタルギアが装備している兵器群なら戦車の装甲は容易く打ち破られ、ヘリが飛行能力で優れて居ようとも撃ち落される。

 戦車部隊を引き連れて挑んだ自分達がそうだったように…。

 人()狩れるがメタルギアの武装は対兵器用の高火力のものばかり。

 機関砲にしても機関銃程の連射は出来ず、場所によっては遮蔽物などに身を潜ませれる人の方が良い………のか?

 

 ゴーストや現状有利に進んでいる事からメタルギアには歩兵で挑む方が良いと結論付けそうになったビンスは、常識的にどうなんだと結論に待ったをかけて首を傾げる。

 そんな事を考えつつもしっかりと指示を飛ばし、着々とメタルギアにダメージを与えていく。

 

 両掌の機関砲に正面に備え付けたレーザーでスネークを何度殺そうとしても、横から茶々が入っては邪魔される。

 ヴィナスは警備部から借りた狙撃銃で攻撃すると即座に場所を移して隠れ、ゴーストはこちらの攻撃が見えているのか機関砲の雨の中を掻い潜る。

 何故当たらないと憤慨する間にも警備部を含めた攻撃がちまちまとしながらダメージとして蓄積されていく。

 特に痛いのが時折撃ち込まれるビンスのRPGによる攻撃。

 焦りが募るコペルソーンにルーシーは焦り混じりに語り掛ける。

 

 『トミー、このままでは駄目よ。私にも手伝わせて!』

 『しかし君に…』

 『解っているでしょう?この子(メタルギア)は元々人が動かすようには出来ていない。システムと一体化出来る私とで全能力を発揮出来る』

 『いや、でも…』

 『私と貴方なら倒せるわ。終わったらここを脱出して何処か遠くで一緒に暮らしましょ。もう二度と離れないわ。いつまでも』

 『解かった。二人で倒そう―――システムEGO、起動!』

 

 システムEGOを起動したカイオト・ハ・カドッシュは青い瞳が赤く輝き、異様な威圧感と存在感を合わせた不気味さすら撒き散らす。

 決して撃ち方を止めろと命じていないのに、その空気に圧倒された全員が自然と撃つのを止めてしまう程に…。

 

 『今まで性能の半分も出していなかった。だが、これからは違う!ルーシーには貴様のような欠陥品とは違って最新型ナノチップエキスパンションが搭載されている!最早お前達に勝ち目はない!行くぞ!!』

 『―――手動接続系統解除』

 『なんだとっ!?』

 

 予想外の機械音声によって告げられた事にコペルソーンが驚きの声を漏らした。

 同時にスネーク達も戸惑いを隠しきれない。

 実際に手動での操作が出来なくなったらしく、今まで機関砲による砲撃を喰らわせていた両腕がだらりと垂れ下がり完全に動きを止め、警備部の兵士達も攻撃が止んだ事で首を傾げながらトリガーから指を外した。

 驚きの真っただ中に居るコペルソーンはルーシーに問いかける。

 

 『ル、ルーシー…これは一体…』

 『ルーシー?違うわ。私は貴方のルーシーでもルシンダでもない。死にたくないからそのフリをしていただけ』

 『ど、どういうことだ?お前は…』

 『貴方は私を買ってから(・・・・・)色々な事をしたわよね。頭を切り開いてシナプスをフォーマットして記憶・人格・自我を抹消したうえにナノチップエキスパンションなどを与えて、白紙に戻した上でルシンダの記憶やシステムEGOとして使えるようにシナプスを育て始めた。新たにシナプスを育てたのならそこに新たな自我が芽生えてもおかしくない』

 『馬鹿な!?今までそんな事は…』

 『今までは無かった。けれども何故か私の場合は例外だったよ。貴方がルシンダの記憶を植え付け始めた頃には私の自我【ルーシー】は形成され、ルシンダのデータは(ルーシー)の記憶の一部となったの。ついでに教えとくとルシンダを殺したのはスネークではないわ』

 『なん…だと…』

 『彼女はね。スネークの脱走を止めようとして殺されたのではなく、彼女は研究の為にと非道な事柄に行ってしまった自分と貴方に絶望し、スネークを憐れんで貴方達から逃がそうとしたのよ。例え被検体の脱走の手引きをしたら殺されると解かっていても…』

 『嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ!!』

 『私の中にいる彼女は決して蘇りたいとは思ってないもの。じゃあね、コペルソーン博士』

 

 別れの言葉を口にしたルーシーはコクピットを強制的に排出し、ミサイルポッドユニットから一発のミサイルを発射した。

 逃れる術もなく迎撃する術もないコペルソーンはそのまま直撃を受け、亡くなった妻の名を呟いて爆発の中に消えて行った…。

 

 スネーク達の任務は核発射の阻止のためにメタルギアを破壊する事。

 殺された妻の復讐の為に核を撃とうとしていたコペルソーンが排除された今、スネーク達はどうするべきかとルーシーの動きを警戒して見つめる。

 出来ればルーシーがメタルギアから降りてくれれば破壊するだけで事足りる。

 

 「ルーシー、メタルギアから降りてくれ。これよりそいつを破壊する」

 『嫌よ。私はやっと私の本当の身体を(・・・・・・・・)手に入れたん(・・・・・・)だから』

 「なに、本当の身体だと?」

 『私はルシンダを蘇らせる為の受け入れ先としても使われたけど、元々はメタルギアの制御システム(システムEGO)。この肉体はただの入れ物で、私の中身は身体であるメタルギアを動かす為に頭脳だもの。なのにコペルソーンはシステムEGOを起動してくれなくて難儀したわ』

 「難儀と言ったな!何をしたんだ?」

 『簡単な話よ。彼がメタルギアを起動せざるを得ない状況を生み出す。(ルシンダ)の仇を討って欲しい、三年前の復讐を…ってね。計画は順調に進んでシステムEGOが起動したことで私はメタルギアと融合を果たした。

 私の存在理由はメタルギアと同化する事。そう言う風に造られた本能。だから身体を渡すのは無理ね。それに私はこれからここから出て行く。眠っている被検体達を連れてね。私の計画を手伝ってくれた貴方達には感謝はしているけれども邪魔するなら殺す―――でもスネーク、貴方は一緒に来て欲しい』

 

 この事件に関しては彼女が黒幕だったのかとスネーク達と無線越しにダルトンも驚きつつ、会話が続いている間にジェスチャーでビンスは部下に配置を組み替えて攻撃準備に移る。

 

 『被検体は本能的に()を求めるの。貴方もそうなんでしょ?貴方となら良いわよ。このメタルギアで一つになりましょう?』

 

 外見は子供ながら色っぽく告げられた誘いの文言に、ヴィナスは熱烈に誘われてるわよ?と悪戯っぽく笑みを向ける。

 決して微笑む事はせずにスネークはしっかりと見つめて答えを返す。

 

 「断る。俺は俺だ」

 『そう、残念ね』

 「来るぞ!攻撃再開!!」

 

 ビンスが叫んだ通り、ルーシーは戦闘を開始。

 ただ先程までは撃つなら撃つ、動くなら動くで一つの工程を行っていたメタルギアが同時並行で動き出したのだ。

 それだけの事ではあるが巨体ゆえに当て易いとはいえコペルソーン操縦時は案山子同然だったのを考えれば、巨体のメタルギアが動きながら撃って来るだけでも脅威である。

 足でコンテナを踏み潰しながら頭上から機関砲の弾雨を降り注いでくる。

 さらに同時並行でカメラで周辺を確認しながらレーザーを撃って来たり、ミサイルポッドユニットを使用して範囲で吹き飛ばしに来る。

 

 「動きが変わったな、厄介な!」

 「ミサイル来るわよ」

 「任せて」

 「任せてって貴方!?」

 

 通常ミサイルなんて物は銃弾でどうこう出来るものではない。

 戦端の誘導装置を破壊なんてことは出来るのかも知れないが、撃破・撃墜と言ったものは携帯出来る小火器…特に拳銃でどうにか出来る訳が無いのだ。

 だからミサイル迎撃には弾幕を張るか照準性能の良い対空システム、迎撃ミサイルなどで対処する。

 そう解っているからこそゴーストを除く面々は彼の発言に驚きを隠せなかった。

 

 しかしながらゴーストの中での認識は異なっている。

 メタルギアの世界ではミサイルは拳銃であろうがアサルトライフルであろうが撃ち落せるし、実際にゴーストと名乗る以前には撃ち落した経験すら持っている。

 ゆえにミサイルとは落とせるという確信から近いものからトーラス・レイジングブルで対処し、弾が切れた瞬間にグロッグ17L RGカスタムと持ち替えてマガジンを交換すると即座に撃ち落していく。

 スコフィールドのようなリボルバーの方が早撃ちが出来るが、敵であり味方でもあった懐かしい戦友(オセロット)のように戦場のど真ん中でリロードしている余裕も度胸もない。

 …ここで弾倉を交換しているという事は隠し持っていた銃は品切れを起こしたのだなと関係なくもスネークとヴィナスは思ってしまった。

 見事ミサイルを撃ち落したゴーストはマガジンを交換するとスコフィールドとトーラス・レイジングブルの弾も装填しておく。

 

 「凄ぇな。本当にミサイル撃ち落しやがった」

 「そんな事言っている場合ですか?ビンスさん、(弾頭)切れじゃないですか」

 

 ゴーストが言うようにビンスが背負っていたRPG‐7の弾頭は無くなり、手にしているのは弾頭無しで棍棒と何ら変わらないRPG‐7本体のみ。

 対してビンスは可笑しなことを言うなと首を傾げ、「カラスたちよ」と声を張る。

 すると何処からか現れたカラスの群れに全身を覆われ、再び飛び立った時には背には充分過ぎる弾頭が補填されていた。

 

 「補填完了」

 「その補充の仕方はおかしいでしょう!!」

 「というか何処からカラスを呼んだ!?」

 「………企業秘密だ」

 「今、無職じゃなかったか?」

 「再就職先決まってるから良いんだよ!」

 『あら、無駄話している余裕はあるのね?』

 「貴方よりは多少あるわ」

 『――ッ、カメラを…』

 

 無駄話していたスネーク達に両掌からの機関砲を降り注いで注意が向いているのを狙って、ヴィナスがカイオト・ハ・カドッシュ頭部より伸びて周囲を確認しているカメラを撃ち抜いた。

 メインカメラではないものの目の一つが潰された事にルーシーの意識が僅かにだが逸れ、その隙に残っているコンテナに身を隠すとゴーストが一発撃って弾切れになっていたRPG‐7本体をスネークに渡し、弾頭は補給可能なビンスより受け取るとすぐさまリロードした。

 

 「さて、勝てるのかアレ?さすがにきついぞ」

 「確かにコペルソーンに比べて動きは格段に良くはなったが、乗り手が変わっただけで機体が全回復した訳ではない。ダメージは確実に響いている筈だ」

 「僕もそろそろ残弾心許ないから早めに決着決めたいですねぇ」

 「そこ!サボってないで働きなさい!!」

 

 ヴィナスに叱咤されて動き出す。

 カイオト・ハ・カドッシュにはかなりのダメージが蓄積している。

 性能を十分に発揮出来ない上にスネークばかりで他は眼中に無しと言ったコペルソーン操縦時に、スネーク達以外にも警備部の攻撃も受け続けていた。

 本来の乗り手であるルーシーに変わった事で性能は格段と上がり、警備部にもかなりの被害が出始めているがダメージは堪り続け、一部は黒ずんだり煙が漏れているところが見え始めている。

 これ以上の長期戦は弾薬的にも戦力的にも難しい。

 

 「攻勢に移れ!弾薬の事など考えるな!全て出し切れ!!」

 

 今まではどちらかと言えば支援よりの攻撃が一気に火力を上げて攻勢に移る。

 戦闘において後先考えず全てを出し切る状況は限られ、余剰戦力など余力を多少は残しておくものだろう。

 だが、これ以上の戦闘継続は不可能であり、ここで決着を付けれなければ勝機はない。

 出し惜しみなく火力を向けられた事で怯んで左腕を盾にして、右の機関砲で反撃する最中をスネークは駆け出した。

 蓄積したダメージから左腕が爆発を起こし、撒かれた黒煙の中から伸びた右手の機関砲が狙おうとするも、剥き出しの砲身にゴーストのトーラス・レイジングブルとビンスのRPG‐7が叩き込まれる。

 邪魔が入った事で放とうとしていた機関砲は逸れ、近くには着弾したものの弾雨の中を抜けた。

 カイオト・ハ・カドッシュの赤い瞳が真下に潜り込もうとするスネークを捉え、頭部のレーザーで薙ぎ払おうとした矢先に片目がピンポイントにヴィナスの狙撃を受けて運良く(・・・)罅割れ歪む。

 真下に潜り込まれて焦るルーシーは凡そで踏みつけようとした所で、スネークは足を止めてRPG‐7を構えて見上げる。

 

 「これで終いだ」

 

 放たれた弾頭は振り上げた足の付け根に直撃し、疲弊と体勢もあってカイオト・ハ・カドッシュはそのまま後ろへと倒れ込み、限界が近かった為もあって各部で爆発と黒煙を噴き出し始めた。

 行動不能に陥ったメタルギアよりルーシーはよろよろと這い出るようにメタルギアを降り、息を荒げながら力尽きるように両手を地面につく。

 

 「…やったか」

 「搭乗者降りているから良いけどフラグだよソレ…」

 

 メタルギアから弱った状態で降りたとはいえ警戒は怠らない。

 銃を構えながら接近したスネークにルーシーは弱々しく顔を挙げて微笑みかける。

 

 「貴方の方が…強かった……優れたシステムが生き残る……当然よね…」

 「ルーシー…」

 「一つお願いがあるのだけど……タキヤマ博士を…」

 「生きているのか?何処に?」

 「コペルソーンがルシンダ・ライブラリと共に管制室に閉じ込めたわ…」

 

 ルシンダ・ライブラリの在処にヴィナスとワイズマンが反応を示すが、それ以上にスネークが気に留めたのはタキヤマへの殊遇についてだ。

 少なくともルーシーはコペルソーンを含めて実験として自身に色々とした連中に良い感情は抱いていないように伺えた。

 

 「何故彼女を殺さなかった?」

 「…子守唄をね……歌って……くれたから…」

 

 そう微笑みながら言い残すとルーシーはぱたりと倒れ込んだ。

 ゴーストは脈を確かめて深く俯いた。

 兎に角タキヤマの救出とルシンダ・ライブラリの回収がまだ残っている以上は、管制塔へ向かわなければならないのだが、ゴーストが中々に動く様子を見せない。

 見かねたヴィナスが若干苛立ちながら促す。

 

 「何してるの?行くわよ」

 「……僕には子供が居てね。もう大きいとはいえこういうのは結構堪えるんだよ」

 「ならずっとここに残るの?」

 「スネーク、ルシンダ・ライブラリとタキヤマ博士は任せるよ。僕は負傷者の治療とメタルギアの処分をしておく」

 「―――大丈夫かゴースト?」

 「あぁ、うん。大丈夫大丈夫」

 

 顔をこっちに向けずに告げる様にこれ以上口は出さず、スネークはビンスへと視線を向ける。

 ビンスも肩を竦ませるばかりでゴーストに対して何かを言うつもりはないらしい。

 

 「負傷した部下を置いて行く訳にもいかんし、俺らも手伝ってから逃げる事にするよ。早く逃げ出さないとそちらのお仲間か何かが押し寄せるだろうからな」

 「ふぅん…」

 「分かった。ならヴィナス行くぞ」

 

 確かにここに居てはビンス達は捕まるか最悪処罰の対象にされるだろう。

 協力した事もあってこれ以上事を構える気もないスネークは手出しする気はない。

 若干不満げというか悩んでいるヴィナスであったが、指摘される事はなくスネークに言われるがままについて行くのであった。


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