メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 また遅れて申し訳ありませんでした。
 最近遅れてばっかりで…。
 まだ先ですがMGS4のナノマシンで健康面も精神面も自身を管理したい…。


第07話 記憶の欠片

 列車の進路を塞ぐように立ち塞がる新型メタルギア―――“カイオト・ハ・カドッシュ”。

 収納されていた格納庫に向かっていたとは言え、突然の遭遇戦など想定していた訳もなく、全員が自身の得物を確認して火力不足に頭を悩ませる。

 加えて列車で移動する程に広大な敷地なだけに、周囲には建物どころか小さな遮蔽物すらない荒野。

 唯一身を隠せるものと言えば乗って来た列車だけ…。

 装甲列車ならまだしも貨物列車では銃火器を装備しているメタルギアの攻撃に耐えれるとは思えない。

 

 『全員無事か!?』

 「あぁ、まだ大丈夫だ。交戦状態に入ったら分からんがな」

 

 答えつつスネークは冷や汗を流しながらメタルギアを睨む。

 この状況もそうだがタキヤマやルーシーを護りながら戦うのは不可能だ。

 避けようとしても武装からして余波でやられかねないのだから…。

 それぞれ考えつつ警戒しているとメタルギアに内蔵されているスピーカーから音声が流された。

 

 『ルーシー!よく彼女を連れ戻してくれた。感謝するタキヤマ博士』

 「コペルソーン博士…」

 『いやはや、研究室からルーシーがいなくなった時は警備部の連中に捕まったのかと冷や冷やしたが…。護衛をしてくれた君達には感謝すべきかな?』

 「あなた、最初っから!?」

 「ごめんなさい…私は…」

 『さぁ、来るんだ。私には君が必要なんだ(・・・・・・・・・・)

 「いかせないわっ!」

 「――ッ、危ない!!」

 

 ルーシーの手を引いて駆け出すタキヤマに銃口を向けるヴィナスをスネークは突き飛ばした。

 直後、メタルギア腕部に仕込まれていた機関砲が火を噴いて付近に砲弾を降り注いだ。

 全員が直撃を避けれたものの、スネークは庇った際に爆風を受けてその場に倒れ込んでしまった…。

 

 『き。貴様はっ!?どうして…生きていたのか(・・・・・・・)…』

 

 倒れ込んでいるスネークを見て動揺を隠しきれないコペルソーンであったが、足元にルーシーとタキヤマが来たことで意識を切り替えて二人を乗せる為に屈む。

 その間に倒れ込んだスネークをゴーストが軽く見て応急手当(キュアー)を行い、外傷的には掠り傷や打ち身程度の軽傷であったがそれが見る見るうちに完治して行った様にヴィナスは目を丸くして驚くばかり。

 

 『帰ってロジンスキーに伝えろ!期限は残り二時間。リストに記した三年前の事件(・・・・・・)に関わった全員をここに連れて来なければ―――奴らが済んでいる街に核を撃ち込んで焼き尽くしてやる!!それが…それこそが彼女の望みなのだから…―――ん、来たか傭兵崩れ共が…』

 

 要求を告げるも周囲に響く駆動音とキャタピラによる走行音に忌々しそうに呟く。

 メタルギアに遮られた線路先に鉄橋があり、挟んだ位置にM1エイブラムス主力戦車が十台以上並んでいた。

 普通なら壮観な光景なれど巨大なメタルギアと対峙する様はとある怪獣映画を彷彿とさせるようで、不安の方が先に来てしまうのは致し方ない事であろう。

 指揮車両より身を乗り出したのは拡声器を手にした警備部長ビンスであった。

 

 『コペルソーン博士!直ちに武装解除し投降せよ!!投降すれば社長は寛大に対応してくれるそうだぞ!!』

 『それが大砲を向けといて言うセリフか?全く、邪魔をしてくれるな』

 『逆らえば砲弾の雨に晒される事になるだろう。これは脅しではないぞ!』

 『そっくりそのまま返すとしよう』

 『止むを得んな。砲撃開始!!』

 

 命令が下ると同時に戦車による砲撃が開始された。

 重く響き渡る砲声に続いて直撃したメタルギアは爆煙に包まれる。

 

 『――ッ、やったか!?』

 

 目標が爆煙に包まれた事で砲撃は止み、ビンスの期待の籠った独り言が拡声器を通して周囲に切なく広がった…。

 それをフラグ(・・・)だと本人は一切気付いていない様子。

 焦るようにしてゴーストはオープンチャンネルで呼びかける。

 

 「ビーンズかボンズだったか聞こえるか?」

 『ビンスだ!!誰だ貴様!?いや、誰だか知らぬが相手をしている暇は―――』

 「僕が誰だとかはどうでも良い。メタルギアがその程度で壊れる訳が無い!撃ち続るんだ!!」

 『そんな馬鹿な…105ミリライフル砲弾を一斉に浴びせたんだぞ?』

 「良いから動け!止まったら的だ!!」

 『――ッ、全車散開!急げ!!』

 

 爆煙が晴れると損傷を受けた様子の無いメタルギアが観え、機関砲を内蔵した手を向けようとしている事から慌ててビンスは指示を飛ばす。

 反応出来たのは半数ほどであったが、それでも砲撃の雨で全滅する事だけは避ける事が出来た。

 しかしメタルギアを無力化するには絶望的な状況に変わりない。

 

 「ヴィナスちゃんは彼を連れてこの場を離れるように」

 「貴方はどうするつもり…」

 「時間を稼ぐか多少はダメージを与えるさ。まだ彼らも居る事だし…」

 「彼らって敵よ」

 

 ゴーストの示す先には残存している警備部の戦車部隊。

 当然ながら彼らからすれば自分達も敵の筈。

 考え無し―――というよりは“敵の敵は味方”まではいかずとも協力は出来る筈という若干の希望論混じりの打算からだろう。

 それでも今後あのメタルギアとやり合う事を考えたら悪い手ではない。

 なにより怪我はないしても爆風によるダメージが溜まっているスネークが今すぐには戦えず、休ませる為にもこの場を離れなければならない。

 

 「力仕事は男の仕事でしょうに」

 「ごめんね。後で借りは返すからさ」

 「ハァ、勝手にすれば」

 「了解したよ―――上半身を狙って撃ち続けろ!」

 『一斉砲撃で貫けなかったんだぞ。狙うなら足だろうに』

 「戦車も戦車で動きながら足に当て続けるのは難しいでしょ。あのメタルギアは上半身を前後に揺らしていた。まだバランスが不安定何だと思う…それに装甲は貫けずとも内部にはダメージは蓄積する筈」

 『なるほど…ただでさえ揺れているなら、より揺れさせることで奴の命中率も下げれるな』

 

 ゴーストは無線をしながら戦車部隊と合流すべく鉄橋へ向かって走っていく。

 逆にヴィナスはスネークに肩を貸してその場を離れるべく距離を取る。

 ゆっくりながらも移動する背後で爆音が響き、鉄橋が崩れる様を目撃してゴーストも落ちたかと過るも、何となくアイツなら生きてそうだなと思って足を止める事は無かった。

 しぶとく抗う戦車部隊のせいでスネーク達に手を出せないでいるコペルソーンは苛立ちと歓喜を混ぜ合わせた感情を言葉に乗せて吐き出す。

 

 『リストに一人追加だ。まさか生きているとは思わなかったが、おかげで復讐を果たす事が出来る。お前だけは…お前だけは必ず私の手で殺してやる!!絶対にだ!!』

 

 そんな叫びを背に浴びつつヴィナスとスネークはメタルギアと戦車部隊との交戦域からの離脱を果たすのだった…。

 

 

 

 

 

 

 ここは何処だ?

 解らないが誰かが逃げているようだ。

 息を切らしながら負傷した個所を庇いながら必死に…。

 ナニカが背後から迫っているのを察して、焦りがより鮮明に伝わって来る。

 必死に逃げる誰かは逃げ場を失い振り返る。

 顔は解らないがナニカがそこに立っていた。

 追跡者だろうか?

 誰かとナニカは銃口を向けて撃ち合う。

 互いにかなりの腕前を誇っているのが観ていて良く解かるが、ナニカの方が誰かより強かったようだ。

 ナニカに撃ち負けた誰かは海に落ちていく。

 落ちていく先の海面に顔が一瞬ながら映し出される。

 

 アレは………俺の顔だった…。

 

 「―――カハッ!?」

 

 びっしょりと濡れている顔の汗を拭い、荒れた呼吸を繰り返しながらスネークは周囲を見渡す。

 ここが何処かは分からないが自分はベッドで休んでいたようだ。

 ベッド脇にはヴィナスが心配そうな表情を浮かべて立っていた。

 

 「大丈夫スネーク?」

 「あぁ、ここは…」

 『そこは居住区の一室だ。君が意識を失っている間にヴィナスが運んだのだが――ヴィナス、彼は使えそうか?』

 『お前なぁ、言い方ってものがあるだろう!』

 『今は一刻を争う状況だ』

 「まずは自分に何かあったか思い出せる?」

 

 何があったかか…。

 合衆国に入国してすぐにダルトンに仲間と共に捕まり、自由を得る代わりに違法な潜入捜査の取引を持ち込まれ、事態は大きく変化してワイズマンの指示でメタルギアの無力化に変更。

 列車で格納庫に向かう途中でメタルギアが現れて―――…。

 

 「俺は大丈夫だ」

 「そう、記憶喪失にはなってないのね」

 「それは元々だ…ゴーストは?」

 「彼なら警備部の連中と共にメタルギアに挑んで行って連絡が途絶したまま。かれこれ一時間も前の話だけど」

 「一時間前だと!?」

 

 確かコペルソーンは期限は二時間と言っていた筈。

 残り一時間以内にメタルギアを無力化しないと核は発射されてしまう。

 鮮明に思い出していく中、コペルソーンが最後に告げていた言葉に辿り着く。

 

 「奴は俺を知っているのか?」

 『スネーク?』

 「コペルソーンは俺を知っているような事を言っていた。そして奴は俺に憎んでいる?ワイズマン、三年前の事件とはなんだ?」

 『君には覚えがないんだろう。なら良いじゃないか』

 「貴様ッ!!」

 『待て、スネーク。今はこいつの相手をしているよりも核弾頭を止める方が先だ。あのコペルソーン次第では何も知らない一般市民までもが巻き込まれてしまう』

 『ほぅ、初めて役に立ったなダルトン君。彼の言う通り時間がないのだよ。タキヤマの裏切りは予想外だったが、メタルギアさえ破壊すれば核発射は阻止出来る。北の格納庫へ向かってくれ』

 「……列車は無いんだぞ。どうやってだ?」

 『方法は任せる。それより身体の調子はどうなんだね?』

 

 言われて確認するも怪我をしている個所はざっとだが見当たらない。

 直撃や破片を受けた訳ではなかったからあり得るかも知れないが、爆風による衝撃で気を失う直前のダメージを負ったのだ。

 何かしら怪我をしていてもおかしくないというのに…。

 若干ながら違和感を感じながらスネークは問題ないと判断する。

 

 「大丈夫そうだ。怪我どころか痛いところもない」

 『そうか…なら、やはり…』

 「どうしたの?」

 『何でもない。こちらの話だ。ヴィナス、スネークと連れて北の格納庫へ向かうんだ』

 「了解よ」

 

 動かない訳にもいかないスネークは、先の心配そうな表情など無かったように振舞いヴィナスに先導されて居住区を抜ける。

 ヴィナスも解っているのだ。

 身体は大丈夫でも爆風を受けた影響で具合が悪い事は…。

 なので面倒臭そうなのを隠そうともせず、悪態をつきながらでも先を進んで率先して敵を排除して行ってくれる。

 そんな彼女に誘導された先はストラテロジック社の社長室前。

 分厚く頑丈そうな扉で遮られている分、社長室というよりは銀行の金庫室のような入り口である。

 こんな状況下ゆえに鍵を開けっ放しという訳もなく、ヴィナスは開けれずに少しばかり困っているようだ。

 壁に凭れて少し休んでいると扉脇に取り付けられたモニターが点灯し始めた。

 

 『ロジンスキーだ。そこに誰かいるのか?』

 

 扉上部にカメラが設置されており、こちらの様子を窺っているらしいが角度的に自分は映っていないだろう。

 ジェスチャーでヴィナスが動くなと指示し、モニターに映ったロジンスキー社長に向き直る。

 

 「居るわよ」

 『助けが来たのか!?…待て、警備部の人間ではないな!誰だ貴様は!?コペルソーンの手下だな!私を始末しに来たのか!』

 「ハァ…逆よ。私はコペルソーンを止めに来たのよ。ビンス警備部長に頼まれてね」

 『ビンスに?それは本当か?』

 「事実よ。だから教えて欲しの。コペルソーンとタキヤマが向かった格納庫へ行く方法を」

 

 自身が狙われている事から警戒心を向けるロジンスキーであるも、ビンスの名が出るとかなり和らいだように見える。

 どうも雇った人間【いう事を聞く駒】というだけにしては、かなりの信用を置いているようだ。

 ヴィナスの機転のおかげもあって色々と聞き出す事が出来た。

 コペルソーンとタキヤマが向かった格納庫へ向かうには鉄橋を渡るのが一番の手段であるも、メタルギアによって落とされては向かう術がない。

 ロジンスキーも同様の考えで、次の案は空からというが一時間以内に航空機を用意して空挺降下など上が許可しない。

 なにより穏便に済ませたいロジンスキーとワイズマン側が認めないだろうからな。

 

 他に手段はないかと模索した際に、格納庫がある北側のエリアに抜けれる第二連絡橋がある事を思い出したのだが、第二連絡橋に向かうには地下水道を通らなければならず、現在では使われていない事もあって前の改装の際に地下水道の入り口をタイルで覆ってしまったらしい。 

 利用していなかった事もあって詳しい場所は社長であるロジンスキーでも覚えていないとの事。

 

 「それにしても……やはり(・・・)タキヤマは裏切ったか…」

 「やはり?どういう意味かしら?」

 「あの女が今の地位に就いたのは能力だけではない。コペルソーンへの公私に渡る“献身”もあってだ。コペルソーン曰く“上手かった”らしいぞ」

 「どうでも良いわ。タキヤマの事なんて―――三年前の事件で何があったの?コペルソーンは何故スネークを敵視するのかしら?」

 「奴が敵視するのは当然だ。三年前に奴の妻を殺害した(・・・・・・・・)のがスネークなのだからな」

 

 コペルソーンとタキヤマの関係性なんてどうでも良いと顔に出し掛けつつも、耐えたヴィナスであったがスネークの過去の事件の断片を聞いてそっと視線をスネークへ向ける。

 三年前という記憶喪失前の事件の断片に何があったのかと言わんばかりの表情を浮かべ戸惑っている様子。

 けれど取り乱して問い質すような真似は控えたようなので、視線を戻して話の続きを聞く。

 

 「あれからだ。奴がイカレタ研究を始めたのは。EGOプロジェクトを私的流用してあのような馬鹿げた研究を…」

 「どんな研究をしていたの?」

 「口にするのも憚られる。私は反対したのだ。何度中止させようとしても奴はあの手この手で強行し続けた。そこに国際刑事裁判所が捜査を始めるという話が持ち上がり始め、捜査が行われればもう誤魔化す事は出来はしない。だから私は取引をする事にしたのだ。しかし取引材料たるルシンダライブラリは実験の為に必要だと言って手放さなかった奴の元に…。何としてもルシンダライブラリを回収するのだ!会社と私の首が掛かっているのだからな!!」

 「貴方の為ではないけど、止めて見せるわ」

 

 言い終わるとロジンスキーはモニターを切り、それを確認したスネークは戸惑いを口から漏らした。

 

 「俺が…コペルソーンの妻を…」

 『三年前に何があったんだ?』

 『それは君が知る必要はないし、今は思い悩んでいる時間的余裕はないんだ。施設内の情報から入り口があるであろうエリアを絞る。君達は居住区を北へ抜けてくれ』

 

 立ち止まっている余裕はない。

 あと一時間以内に何処かも解らない地下水道の入り口を見つけて、第二連絡橋を越えて格納庫へ辿り着いてメタルギアを破壊せねばならないのだから。

 

 途中社長より追加情報を受けて範囲を絞り、地下への入り口を見つける事は成功した。

 その際に「私、幸運なのよ」とコイントスで表裏を言い当てた後に、ダウジングで入り口を見つけるとか言い出した時は、ヴィナスもゴースト同様に可笑しな(・・・・)奴なのではないかと視線を送ってしまい、不服そうなヴィナスより痛い一撃を受ける羽目になってしまった…。

 だが、一難去ってまた一難。

 地下水道から第二連絡橋に辿り着いたが、第二連絡橋は浮遊する無人航空兵器サイファーが警備しており、狙撃銃でもない限りは突破は難しい。

 そこでメタルギアの試作機を開発していた工廠である西側の試作工場へ向かう事に。

 方向から戻る事になるが止む無しだ。

 到着するまでの道中は然程の困難もなく突破し、辿り着くとメタルギアを開発していた工廠というよりは大きな倉庫のような内装に眉を傾げる。

 

 「メタルギアの開発をしていたにしては小さいな」

 『詳細は掴んでいないがここでは小型実験機による情報収集を目的としていたようだ』

 『情報収集って言っても小型機で意味あるのか?』

 『これもまた定かではないのだが何処からかメタルギアの情報を受けていたとかいないとか…』

 「曖昧な情報源だな」

 『―――それはこっそりと知らべておくね』

 

 盗み聞ぎをしていたのだろうB.B.が割り込んだ事に息が詰まるも、ワイズマンはまだ(・・)気付いていないようだ。

 ワイズマンもそうだがヴィナスにも気付かれないように小さく頷く。

 その合図を受け取ったB.B.は楽しそうに続きを口にする。

 

 『話は聞かせて【盗み聞ぎ】貰ったから調べておいたよ。コペルソーンの奥さんもストラテロジック社の研究者だったみたいで、確かに三年前に亡くなったらしいんだけどそれだけしか解らなかった。重要な記録は改竄されたり消去されていたりしてさ。何かあったのは確かなんだけど。あぁ、奥さんの名前は解かったよ――――ルシンダ(・・・・)・コペルソーン』

 「――ッ…」

 『声に出さなくても解るよ。ルシンダ(・・・・)・ライブラリと何か関係あるのかな?まだそこらへんは調べがついてないんだ。ついでにダルトンからゴーストの素性を洗うように頼まれたんだけど、ワイズマンが調べようとしていた情報のガードが固すぎて難しそう。まぁ、三年前の事件を優先的に調べてみるよ。気になるんでしょ?』

 「……あぁ、頼りにしてる…」

 『――ッ、うん!任せておいてよ』

 

 嬉しそうに通信を切るB.B.とは裏腹に怪訝な顔をしたヴィナスがこちらに視線を向ける。

 

 「何か言った?」

 「中々見つからないんでな。お前を頼りにしてると言ったんだ」

 「頼られてもねぇ…」

 

 ため息を隠す事無く吐き出し、苛立ちを露わにする。

 ヴィナスは内部構造を調べる際に狙撃銃がある事を確認していたのだが、何度探そうとも狙撃銃自体がみつからないのだ。

 最悪誰かが持って行った事も視野に入れているとカツン、カツンと誰かが近づいてくる足音が耳に入る。

 それもゆっくりとしたものではなく、こちらに明確な意思を持ってこっちに走っているような…。

 

 警戒を強めて銃に手を伸ばした矢先にそいつは現れた。

 迷彩服を着たドレッドヘアの男性兵士。

 見た目的に警備兵ではないのは明白で、武装らしい武装をしていない。

 ただ目を保護するゴーグルを付け、腰回りには四つのタンクを装着し、右手は大型のタンクを担いでいるという異常さはあるが…。

 警戒心を強めた瞬間、男は担いでいたタンクに口を付けるや否や、こちらに向いて火炎を噴き出したのだ。

 咄嗟に距離を取ると遮蔽物に身を隠す。

 ここは倉庫にもなっていただけにコンテナ類を合わせて遮蔽物に困る事はない。

 逆に武器弾薬の類もあるので誘爆が非常に怖いところであるが…。

 

 「俺は火を操る者、ゴブラ!貴様がスネークだな。会いたかったぞ兄弟(ブラザー)!」

 「手厚い歓迎だな。一緒に吹き飛ばす気か?」

 「フン、コペルソーンは捕まえて来いと言っていたが俺にその気はない。貴様を燃やし尽くして真っ白な灰を女王の生誕に捧げてやる!」

 「口は達者なのね」

 

 眼中になしと言った様子にヴィナスが不意をうつ。

 狙いは担いでいたタンク。

 口に含んだ後に火炎を噴き出したという事は中身はガソリンなどの可燃物。

 引火すれば一撃で戦闘不能に出来るし、引火せずとも穴さえ開けば奴の武器を無力化できる。

 しかしそう簡単に物事は進まず、ゴブラはヴィナスの不意打ちを避けて火炎を吹く。

 慌てて回避した様を見てゴブラは鼻で嗤い、ヴィナスは忌々しそうに殺意高めに睨み返す。

 

 「気の短い奴だな。安心しろ。兄弟(ブラザー)と一緒に燃やし尽くしてやろう」

 「…結構よ」

 「何にしても二対一では分が悪いな」

 

 そう告げるとゴブラは走り出して何かに飛び乗った。

 ゴブラが飛び乗ったのは全高三メートルほどの駝鳥を模したかのような兵器。

 だがそれは現行の兵器に類するものではない。

 胴体より鳥類のような二本の脚。

 前に飛び出したセンサー類を詰め込まれた頭部。

 右肩に取り付けられた12.5ミリ機関銃と左肩より前に砲身が付き出された20ミリ機関砲。

 類似兵器があるとすれば大きさや武装を無視するならばメタルギアに近い。

 それもマッドナー博士が生み出したメタルギア…。

 

 「こいつは新型メタルギア開発の試験データ収集の為に、僅かな資料(ザンジバーランド)を基に復元された“量産メタルギア・グスタフ()”―――さぁ、俺とグスタフに勝てるか!!」

 

 ゴブラが乗り込んだ核こそ搭載されていない小型化された量産型メタルギア・グスタフが、軋む様な駆動音に響かせながらスネークとヴィナスを威嚇し、二門の機関砲を向けて今まさに対峙した。

 目的のメタルギアではないが、最早戦闘を避けるのは不可能。

 意を決したスネークもヴィナスも本番前の前哨戦として、得物を構えて対メタルギア戦に突入するのであった。


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