メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 すみません。 
 体調関係なく単純に投稿が遅れてしまいました。


歩く武器庫、再び…

 ハラブセラップは異形なだけでなく、能力もバケモノ染みた強さを誇っている。

 巨漢ゆえに足が遅いかと思えば四足歩行で速度を上げ、弾丸は軽々と腕で防ぎきる防御力。

 肘から先を飛ばすもチェーンで繋がっているので巻き取る事も可能。

 

 スネークは舌打ちひとつ零す。

 厄介な敵に苛立っているというのもあるが、それ以上に何処の誰かは知らないが戦闘に参加せず眺めている奴がいる。

 ヴィナスという女性の工作員だろうか。

 スニーキングスーツらしい装備からそうだとは思うのだが、隠れていたダクトから落とされて以降、眺めるばかりで武器を抜こうともしない。

 

 「お前は戦わないのか!?」

 「力仕事は男の仕事でしょ」

 「勝手な事を!」

 

 撃つもやはり弾かれる。

 悪態をつく最中にヴィナスがちらりと見せるのは手裏剣状の投擲武器。

 

 「これ受け止められたら武器ないもの」

 「銃は持ってないのか!?」

 「潜入工作よ。音が出ない武器の優位性解ってる?」

 「だから傍観者気取りか!」

 「ソーコム持ってなかったっけ?」

 「誰かさんのせいで弾切れちゃった。だから頑張ってね」

 「そう言う事なら」

 

 腕を組んで眺めていたヴィナスにゴーストは両側前のインサイドホルスターより銃を抜いて放り投げる。

 急であったが受け取るとあからさまな呆れ顔を浮かべる。

 

 「戦えって事ね。全く」

 「待ちぼうけってのも存外暇でしょ」

 「暇潰しには良さそうだな」

 「手に余ってるんでしょうに!」

 

 鬱陶しいと言わんばかりに叫ぶヴィナスはCz75自動拳銃とシグザウエルP226自動拳銃を構えてぶっ放す。

 銃が増えた事でハラブセラップの脚が止まり、ゴーストが側面に回ろうとするのをスネークとヴィナスが援護するが、そう易々と許す道理は無い。

 片腕でガードしながらもう一方をゴーストに向けて飛ばす。

 それを待ってましたと言わんばかりにグロッグ17L RGカスタムを左側ヒップホルスターに戻し、右側ヒップホルスターよりスコフィールドを抜くと、目にも止まらぬ早撃ちで飛んで来た拳に全弾叩き込む。

 軌道をずらされた拳はあらぬ方向へ転がり、丸見えとなったチェーンを再び入れ替えたグロッグ17L RGカスタムで撃ち抜いた。

 これで片腕を潰した―――と思ったのだが、なんとハラブセラップは腕を生やしたのだ。

 

 「何てインチキ!!」

 「貴様が言うな!貴様が!!」

 

 確かにハラブセラップの腕が生えたのは異常な事だ。

 しかしながらグロッグもスコフィールドも弾切れで、拳銃を二丁渡していた事から武器はあってもナイフ程度だろうと思ったが、転がるようにして両足のアンクルホルスターよりFNポケット・モデルM1906小型拳銃とコルトM1908ベスト・ポケット小型拳銃を抜いているのだから。

 

 「歩く武器庫か貴様は!?」

 「懐かしいソレ」

 「懐かしんどる場合か!」

 「ふざけやがって―――グゥ!?」

 「へぇ、腕は頑丈でも他はそれほどでもないのね」

 

 ゴーストに気を取られている隙にヴィナスが側面に回って撃つと、今までうめき声一つ漏らさなかったハラブセラップの表情が曇る。

 弱点を見つけて冷やかな笑みを浮かべるヴィナスとは対照的にハラブセラップの表情には焦りが浮かぶ。

 三対一の状況下で前方以外を晒さないなど不可能である。

 それでもハラブセラップは諦めずに戦い、スネーク達は勝利を収めるのであった。

 

 勝利の余韻に浸る事は許されない。

 スネークとしてはヴィナスが何者なのかを知る方が優先である。

 とは言っても内容は呆気なくワイズマンの仲間―――潜入工作員との事だ。

 挨拶もそこそこに戦闘も終了した事でタキヤマを合流させて先に進もうと思うも、一行は先へと進むことなく足を止める事となった。

 

 「お前は何をしているんだ?」

 「ん、治療以外に何に見えるんだい」

 「いや、敵だっただろうソイツ」

 「分かった、情報収集する為に拷問に耐えれる程度に回復させ……」

 「別に治してるだけだけど?」

 

 何を言っているんだと首を傾げるゴーストに対して、スネークもヴィナスも出会って間もないがシンクロしたかのように同タイミングでため息を漏らす。

 ダメージから動けないハラブセラップの治療をゴーストは行っている。

 

 『おいおい、そのバケモノの治療してどうするつもりだ?まさか飼うつもりじゃあないだろうな』

 「うーん、僕の家には入らないかな」

 『そういうことを言っているんじゃない!スネーク、お前からも何か言ってやれ』

 「無駄じゃないのか?」

 『だろ』

 「違う、こいつを説得するのがだ」

 「同意するわ。何処かネジが外れているのよ。頼りにはなりそうなんだけどね」

 『けど襲ってきたらどうするんだ!?』

 

 ダルトンの危機感が現場のスネーク達の方がより抱いている。

 いや、一番は離れた位置で隠れるようにしながら抗議の視線を送って来るタキヤマであろうか。

 対してゴーストは困ったように笑みを浮かべるばかりで、答えを明言する事はなかった。

 代わりに治療を受けているハラブセラップが薄っすらと瞼を空け、閉ざしていた口をゆっくりと開き出した。

 

 「同情…か。哀れみか」

 

 弱々しくも動きを見せた事で警戒心を強めるスネークとヴィナスを他所に、ゴーストは焦る様子もなくただ問いに対して考え、小首を傾げたままに応える。

 

 「さぁ?治したいなぁって思ったから治しただけなんだけど」

 

 これには誰もが驚きと呆れを合わせた視線を向ける。

 無線の向こうでダルトンも同様に考えているものの、ワイズマンだけは険しい表情を浮かべてやり取りを聴き入っている。

 何を考えて思考しているかは近くのダルトンは勿論、無線越しでは見えないスネーク達には解りはしない。

 

 「お前は俺が怖くないのか?」

 「別に。ただ人より見た目違うだけでビビッてらんないよ。背丈で言ったらビィ(クマ)とそんなに変わんないし」

 「―――お前はアイツらと違うんだな…」

 

 呆気からんと言う様に苦笑を漏らす中、扉が開く音がしてそれぞれが視線を向ける。

 自分達が警備室に入って来た扉に警備部の兵士達が入り込んで来るところであった。

 咄嗟にスネークとヴィナスが威嚇射撃を兼ねて発砲し、突然の銃撃に驚いて警備兵は一時外に退避。

 しかし引く様子はなく伺いつつ、銃口だけを覗かして発砲はして、警備室内には銃声と騒ぐタキヤマの悲鳴が響く。

 

 「ちょっと!どうするのよ!!」

 「五月蠅いわね。黙らないと撃つわよ」

 「わ、分かったわよ…」

 「あれは警備の連中ね。先を急ぐわよ」

 「先と言っても塞がれたがな」

 「馬鹿ね。誰が戻るのよ。あっちに扉があるでしょう」

 

 ヴィナスが示す方向には確かに扉があるが、並ぶ端末で身を隠している所からは一定の距離がある。

 走り抜けるのも手だがタキヤマやルーシーがいる状態ではリスクが高過ぎる。

 最悪一人が残って援護した方が良いのだが…。

 

 「行きなよ。ここは僕が担当しとくから」

 「良いのかゴースト?」

 「どのみち放置出来ないし足止めぐらいやっとくよ」

 

 視線の先には治療したばかりのハラブセラップ。

 ヴィナスなら囮にしようなどと言い出しそうであるも、さすがにゴーストの反感を買うと思ってか口にしなかった。

 ニカリと笑うゴーストが隠れている端末から飛び出すのに合わせて、スネークはタキヤマとルーシーの手を引きながら扉へと急ぎ、最後尾をヴィナスがついて行く。。

 ホルスターから抜かれたスコフィールドは目にも止まらぬ速度で―――六回カチャリという音だけを立てただけだった…。

 

 「…あれ?」

 「リロードは!?」

 

 完全にリロードし忘れていたゴーストに対して警備兵は持っていた銃口を向け、大慌ててコンソールを盾にしようと走るがその前にハラブセラップが跳び出す。

 また戦う気かとスネークとヴィナスが警戒する中で、ハラブセラップはゴーストを護るように割って入り、腕を盾にして銃弾を防ぎきった。

 

 「コイツ、馬鹿なんじゃないか?」

 「助かったよ」

 「癪だが借りは返そう」

 「おまけをつけてくれても良いんですよ」

 「フン、欲張りな奴だ」

 「そうですよ。とっても欲張りなんですよっと!」

 

 スコフィールドに弾を込めるかと思いきや、仕舞って両側のショルダーホルスターよりステアーGB自動拳銃と、VP70自動拳銃を抜いて撃ち始める。

 また新たな銃を取り出した様にさすがに困惑する。

 

 「ゴースト、お前なんで何丁銃を持ってるんだ!?」

 「リロードするより銃を変えた方が早く撃てるでしょうに」

 「その分、重量が増すのだけど……って、それでダクトから落ちたの!?馬鹿じゃない」

 「――ハッ、そう言う事か!?」

 「馬鹿は置いといて先に行くわよ…」

 

 本当に馬鹿なんだなという思いもあるが、それ以上に任せても大丈夫だという安心感も同居した想いを向け、スネークもヴィナスも先へ続く道を掛ける。

 追おうとする警備兵だがハラブセラップの防御を突破できず、数に任せて側面に回ろうとしてもゴーストがカバーする為に攻略できずにいる。

 逆にゴースト単体であれば一人突っ込んで潰せるが、ハラブセラップが居る為に早々に攻めに回れず持久戦に陥ってしまっているという訳で、どちらにしても決め手に欠ける展開。

 

 「貴様ら一体何をやっているのか!」

 「しょ、少佐!?」

 「おぉ、格好良いなあの衣装(・・)

 

 最奥より現れたのはハラブセラップ並みの巨漢で、黒い制服の上に黒いコートを羽織った人物。

 西洋甲冑のようなヘルメットとマスクで顔を隠している為に人相は解らない。

 格好に好感を持ったゴーストに対して「お前も同じような制服だろうが…」とハラブセラップは思ってしまうも、スネーク達も同様の感情を抱いたのであっただろう。

 その大男に対して警備兵達は敬礼を行う。

 

 「何度も言っているだろう。少佐ではなく部長と呼べ」

 「ハッ、申し訳ありません少佐(・・)。しかし被験体相手では…それに協力しているのがもう一人いて」

 「例の侵入者か!」

 「それがあちらより二人ほど先へ行ったようで今居るのは…」

 「足止めか―――お前たちは奴を釘付けにしろ。半数は俺について来い」 

 

 暫し悩んだようだったがすぐに指示を飛ばす。

 ゴーストとハラブセラップを倒すのは困難と言うのと囮であると判断し、先に進んだ本命を叩きに向かうつもりらしい。

 出来れば手榴弾で一団事片付けたいが様々な端末が並ぶここで使っては後に差し支える可能性がある。

 足止めをすると大見得を切って置いてこの為体。

 

 「僕も歳を取ったなぁ。一昔前だったら何も考えず突っ込むだけで良かったのに」

 「そいつは苦労しただろうな。周りの奴が…」

 「ひっどいなぁ…」

 

 半数を見送る事にはなったが残り半数ぐらいがきっちり仕事を熟そうとゴーストは苦笑する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴーストと別れた一同は研究ブロックにまで戻って来た。

 今後の事を考えるとゴーストと合流という事よりも先に相手の頭を押さえた方が良いだろうというのが大多数の考え。

 ダルトンはゴーストに対して不信感を抱きながら、見捨てる行為は出来ないという正義感から助けに戻るべきと訴えかけているが、性格は置いといてゴーストの実力は確かなのと数の差と利から渋々ながら了承させられた。

 もう一人、タキヤマも別の理由で合流派である。

 理由というのはヴィナスからの当たりが強く、ゴーストならそんな事もないどころか自分達を護ってもらうには扱い易い(・・・・)と判断しているからであるが…。

 

 「研究ブロック戻ったぞ。どこに向かったら良い?」

 『2‐3‐Eだ。分かるなヴィナス?』

 「勿論よ」

 『それで解るのか?』

 『彼女には潜入前に構造を覚えて貰っている』

 「はぁ…はぁ、それより何処かで休めない…」

 「置いて来た方が良かったんじゃないのこれ?」

 「そんなこと言っている場合か?」

 「足手纏い…」

 『オイオイ、見捨てる気じゃないだろうな!?』

 「彼女達の存在が私達の枷になるなら…」

 『ヴィナス、彼女達は保護したままだ』

 

 まさかのワイズマンが待ったをかけたのには誰もが戸惑いを見せた。

 特にダルトンの驚きは大きかっただろう。

 こいつにそんな人間味があったのかと…。

 無論人情や打算的な判断では決してない。

 

 「…何故?」

 『ゴーストを味方にしておく為だ』

 「この二人を殺せば敵対すると?」

 『可能性は高いと思われる。そして最悪こちらが詰む』

 「―――分かったわ。指揮官は貴方だもの」

 

 納得はしていない為に渋々と言った様子であるも従う事には変わらない。

 が、ここで一つ疑問が出て来る。

 現地に居た者を協力者にしたとワイズマンに説明を受けた訳だが、ゴーストが何者なのかという説明は受けていなかった。

 ゴーストも工作員という疑いもあった為、ワイズマンも詳しい素性までは知りえていないと思っていた。

 けれども先の会話が確定でないにしても心当たりがある風な言い回しである。

 

 「ワイズマン、お前はゴーストを知っているのか?」

 『色々と知れる立場なのでな。ゴーストと言う名には聞き覚えがある。加えて―――いや、なんでもない。今は事件の解決を優先するとしよう』

 「――ッ、何か来るな…」

 「ゴースト!?」

 「解らんが先を急いだほうが良さそうだ」

 

 小さいながらも足音が聞こえて来た。

 それが一つや二つならゴーストの可能性もあっただろうが、それ以上である事から警備兵だろう。

 面倒なと舌打ちを零しつつも先を急ぐ。

 途中歩哨が居たがそれはヴィナスが投擲武器で音も立てずに排除したので、捜索している奴が銃声を聞きつけて駆け付けるという危険はなくなった。

 とはいえこちらの存在を知って捜索しているだけに、見つかるのも時間の問題であろう。

 

 移動していた四名は研究施設の北ブロックへと辿り着く。

 周囲に幾つもの液体が詰まった円柱状のガラスケースが並び、中央には大きな機械が置かれている。

 離れるべく移動してきたがスネークとヴィナスは余裕であるも、タキヤマは疲れが出ている為に走る事は難しい。

 否、それ以前に彼女らを連れてここから脱兎の如く逃げ出すのは至難である。

 

 「侵入者はお前達だな?」

 

 行き先を読まれたか、それとも偶然か。

 ゴーストみたく黒い制服にロングコートを着て、マスクで顔を隠す大柄な男が警備兵を連れて現れた。

 急ぎ近くの物影に身を隠すもすでに見つかっていてやり過ごす事は不可能。

 タキヤマとルーシーにも身を潜ませ、喋るなと伝えて見えるようにその場から別の遮蔽物へと素早く移動する。

 

 「俺はビンス。ストラテトジック社警備部長だ。弊社に何ようかな侵入者君?―――とは言ってもシステムEGO担当者であるタキヤマ博士を連れている事から狙いはアレだろうが」

 「システムEGO?何の話だ?」

 『ふむ、彼は警備主任というだけあって色々と内部事情を知っていそうだ。情報を得られると有難いが?』

 「聞き出せるようには努力しよう。だが、絶対かどうかは分からんぞ」

 「逃げ出す算段か?無駄だな、ここらは我々が制圧した。無駄な抵抗などせずにご同行願おうか?」

 「嫌よ」

 「そう言っていられるのもいつまでかな?」

 「しつこい男は嫌われるわよ」

 「ふははは、女性にはアタックあるのみだからな」

 「ウザッ」

 

 こちらにも事情がある。

 捕まる訳のいかないスネークとヴィナスは銃口を向けて来た警備兵と撃ち合いになる。

 二人に対して十数人近くの敵という事で数の差は向こうが有利で、なお腕も特殊部隊上がりというだけあって中々のものだ。

 それでも質に置いて二人を圧倒するものでもないし、物陰に隠れているとは言えタキヤマ博士とルーシーを捕縛したいと欲もあってグレネードなどの範囲攻撃は限定される。

 次々と返り討ちにあう部下を目の当たりにして手を出すまでもないと思っていたビンスは焦りを見せる。

 

 「ただの鼠ではないらしいな」

 「あら?逃げるのなら追わないわよ」

 「まさか、手段を選んではいられないというだけだ」

 「オイ、お前それは…」

 

 ビンスという男は大柄なだけあって超人的なまでに力がある。

 戦い方も手数や技術というものを頼らない、良くも悪くも真っ直ぐなパワータイプ。

 消火器程度なら片手で軽く投げれる程で、燃料が詰まったドラム缶を相手に向かって投げるなど造作もない。

 そんなパワータイプのビンスの主武器は対人用信管に弾頭を改造したRPG‐7………つまりロケットランチャー…。

 

 「喰らえ鼠共!」

 

 気付いたスネークは残っている警備兵の銃弾に構っているだけの余裕もなく、隠れていた場所を棄てて走り出す。

 放たれた弾頭はスネークを隠していた遮蔽物を吹き飛ばす。

 危うく自分も吹き飛ばされていただろう。

 下手したら博士も巻き込みかねない攻撃に驚いたのは、スネークだけでなく警備兵達も同じであり、動揺して銃撃の制度が落ちたのは跳び出したスネーク的には有難かった。

 

 「少佐!?お止め下さい!博士に当たってしまいます」

 「問題ない。博士が隠れている場所は解っている。最悪子供だけでも残っていれば問題ない」

 

 次弾を装填し始めた事からスネーク達は焦り、攻勢に転じようとするも警備兵も解っていて、ビンスを援護する動きを取る。

 撃破ではなく銃撃を途切れさせないようにしたことで、攻撃に出るどころか身を出す事すら出来ない状況…。

 このままではもろにRPGの直撃を受けてしまう。

 焦る中、勢いよくかけて来る足音が耳につく。

 

 視線を向けるとビンスたちが陣取っているのとは別の扉より跳び出したゴーストであった。

 跳んだ勢いによって大きく靡くロングコートはまるで蝙蝠が翼を広げたようである…。

 右手にはグロッグ17L RGカスタムを、左手にはFNブローニングBDMを備えており、降り立つよりも前に警備兵に銃弾を浴びせる。

 突然の奇襲で一瞬乱れ、その隙をスネークとヴィナスが突く。

 

 正直ゴーストは牽制…というか急いで来ただけで遭遇は予想外のようで、慌てているのか命中率が下がっている。

 しかし奇襲の効果としては上々。

 その分、スネークとヴィナスが警備兵を倒すのだから。

 着地してすぐに弾が切れたのか咄嗟に近くの警備兵の顔面にFNブローニングBDMを投げつけて気絶させ、グロッグ17L RGカスタムを仕舞ってスコフィールドを抜く。

 同時に装填を終えたビンスのRPGがゴーストを捉える。

 

 放たれた弾頭は直撃するよりも前にゴーストに撃ち落され、爆発によって生じた破片は何か呟くとふら付くように動いて回避していた。

 つくづくバケモノだなと眺めている最中に、残っている四発を警備兵四名に叩き込んでいた。

 

 「待たせたなぁ……久しぶりに言えた」

 「言えたじゃないわよ役立たず。足止め出来てないじゃない」

 「えー、今のでちゃらにしてよ」

 『あの被検体はどうしたのかね?』

 「あの体躯だと見つかり易いからね。置いて来た」

 『置いて来たって無責任な…』

 「ほら、キャッチ&リリースだって」

 『返した後が怖いんだが?』

 

 ダルトンのツッコミに余裕を持って返していたが、連れていた部下を戦闘不能にされたビンスが余裕のある態度を見せる。

 良く観察してみるとビンスの背後にRPGの弾頭の先が覗いており、ゴーストほどではないがあいつもかなりの重量を抱えているらしい。

 装填では間に合わないと判断したのかその場に置いて、背負っていた中からRPG‐7を手にする。

 

 「弾頭を撃ち落すとはな。しかし弾切れだろう」

 「試して見ると良い」

 

 格好をつけているがスネーク達は解っている。

 多分であるがゴーストはリボルバーでの早撃ちを得意としている。

 自動拳銃でスコフィールドで行ったような目で追うのもやっとな早撃ちを披露した事が無い。

 所持している拳銃の大半が自動拳銃であり、リボルバーは先ほど弾切れになったスコフィールドだけ。

 不味いと判断して撃とうとしたスネークであったが、それより先にゴーストがトリガーを引いた(・・・・・・・・)

 

 ―――M686回転式拳銃(リボルバー)

 

 呆れた事にまだ拳銃を隠し持っていたとは…。

 響いた銃声は六発。

 二発はRPG‐7本体に。

 残りは全て防弾チョッキを制服の下に来ていたビンスに直撃した。

 

 「おいゴースト、見事な早撃ちだったが………どこに隠していた?」

 「いやぁ、ホルスターが全部埋まってたんでポーチに」

 「グッ、なんて出鱈目な…何丁拳銃を持っているんだ…というか何故そんな重荷を背負う必要があるんだ?」

 「「お前(アンタ)が言える事か!!」」

 

 防弾チョッキで防いだとしてもダメージは有り、痛そうな態度を見せるビンスに思わずスネークとヴィナスが突っ込む。

 今度はちゃんとリロードしているゴーストはそんな二人に小首を傾げる。

 

 「さて、どうするんです?」

 「決まってるでしょ。止めを刺すだけよ」

 「まままま、待てお前ら!」

 「待てって…(何を?)」

 「間違えました。待って下さい」

 

 態度や体格から豪胆そうながら下手に出て来たことに妙な違和感を覚えて戸惑わずにはいられなかった。

 それでもヴィナス一人は決して警戒を解く事は無い。

 例えゴーストがビンスが背負っているRPG‐7弾頭の弾頭を一つ拝借し、放置したRPG‐7を拾っているとしても…。

 

 「何か情報があるなら早くしてね。私のトリガーはとっても軽いのよ」

 『待てよ!もう勝負はついたろ』

 「スポーツをしている訳ではないのよ。隙を見せたら殺されるの。貴方ではなく私達が」

 

 本当に撃ちかねない様子にダルトンが制止を口にするもヴィナスの返しに黙ってしまう。

 これに関してはスネークもゴーストも反論する事は無かった。

 手を挙げて無抵抗を示しながらどうするかと悩むビンスを天が見捨てていないように、部屋の上部に設置してあるランプが光り出す。

 

 『起動試験開始、起動試験開始。体制Bにシフト。担当整備員以外は格納庫より退避してください。繰り返します―――』

 

 突如として鳴り響く警報とアナウンス。

 何事かと注意が逸れた隙にビンスは巨体に似合わず素早く逃げ出す。

 

 「クソッ、コペルソーンめ!起動させやがったな!!」

 「逃がさないわよ!」

 「待った」

 

 ドアへ向かって走るビンスを撃とうとするヴィナスの銃口をゴーストが降ろさせる。

 当然ながらビンスを逃がす事と成り、ヴィナスは抗議の視線を向ける。

 

 「なんで邪魔をしたの?」

 「よく知らないけどあの人って警備兵に指示していた事から警備の中では上官か何かでしょ?」

 「警備部長らしいぞ」

 「なら反旗を翻したコペルソーンとは敵対関係な訳だ。なら今はこちらの対処よりコペルソーンが先決。敵の敵は味方って訳ではないけど、何かをし始めたコペルソーンの妨害はしてくれるでしょ」

 「有効活用しようというのね」

 「俺はゴーストの案に賛成だ」

 「甘い事ね」

 『どうも状況は芳しくないようだ。タキヤマ博士には詳しい事情を話して貰うとしよう』

 

 ばつが悪そうにするタキヤマに視線が集まるが、立ち止まって話し合いをするだけの余裕はない。

 事情を聴きつつもスネーク達はコペルソーンは居るであろう格納庫へ向かうのである。




○ゴーストの現状判明している装備一覧

●ヒップホルスター:腰の周囲
・右側:スコフィールド【所持】
・左側:ワルサーP99→スネークへ
   :グロッグ17L RGカスタム【所持】
●ショルダーホルスター:脇の下に吊るしてある
・ステアーGB自動拳銃【弾切れ】 
・VP70自動拳銃【弾切れ】 
 ・S&W M686【ポーチから入れ替え】 
●レッグホルスター(サイ・ホルスター):太もも側面に固定
・???
・FNブローニングBDM【弾切れ及び敵へ投擲】
●インサイドホルスター:ズボンと身体の間で固定
・Cz75自動拳銃→ヴィナスへ
・シグザウエルP226自動拳銃→ヴィナスへ
●アンクルホルスター:足首
・FNポケット・モデルM1906小型拳銃【弾切れ】
・コルトM1908ベスト・ポケット【弾切れ】
●バックサイドホルスター:腰後ろ
・???
●追加装備
・RPG‐7《一発》
 ・その他ポーチに…

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