メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 投稿が遅れに遅れました。
 まさか風邪が治った直後にまた風邪をひいてしまうとは……。


急変する事態にマイペースな幽霊

 セレナ共和国でレジスタンスとして活動していた少女コンスウェラに助けられた記憶喪失の男―――スネーク。

 独裁軍事政権打倒に多大な貢献を成した彼は、麻薬王エスコバルと敵対する事によって新政権国務長官殺害の濡れ衣を着せられ、止む無しと合衆国へ逃げてきたのだ。

 しかし彼とその仲間たちはダルトンというFBI捜査官によって逮捕されてしまう…。

 逮捕された彼らは国務長官殺害容疑から莫大な資金にものを言わせたエスコバルよりの政府へと引き渡される………筈だった。

 

 

 

 民間の軍需企業ストラテロジック社。

 軍需系といえ民間の企業である事には変わりないのだが、軍の施設を転用した研究施設に軍事要塞並みの警備体制。

 さらには元特殊部隊出身者や腕利きの傭兵などが警備兵として勤めて居たりと厳重過ぎる程。

 そこまでして何かを守らねばならない、またはそこまでしないといけないようなナニカがあるのか…。

 FBI捜査官のダルトンはそのストラテロジック社の捜査を行っていた。

 だが調べようにも手詰まりだったのか難航し、スネークに対して捜査協力するなら見返りとして持っていた金も仲間達も見逃してやると取引を持ち掛けたのだ。

 

 正式に捕まるのならまだ良かったかも知れないが相手はあの麻薬王エスコバル。

 捕まれば何をされるか分かったものではない。

 いや、想像している数十倍の事柄をされるだろう。

 自分一人ならまだ強がりも言えようが、仲間がそんな目に遭わせられるのだけは御免被る。

 

 スネークはダルトンの取引に応じる形でストラテロジック社の施設への単独潜入を行っている。

 しかし腑に落ちない点が多い。

 施設内に潜入して端末にシリコンメディア(外部記憶装置)を接続すれば、LANにアクセスしてインストールされたプログラムが自動的にダルトンが欲しているとある(・・・)ファイルを探してコピーする事になっている。

 確かに目的の情報は手に入るとは思うが、入手方法は違法そのものなので証拠能力は皆無。

 発表したとしても疑う、または怪文書の類で片付けられるどころか逆に訴えられるだろう。

 そもそも“危険かつ重要な捜査”らしいのだが、ならば何故チームも組まれずに二人で事に当たっているのか…。

 一応身分証明書は見せてもらったが本物かどうかも怪しい。

 

 何らかを隠しているのは確かなのだが、意外と悪い奴という感じはしないのが不思議だ。

 こちらに命令を聞かす為に仲間を預かっているという事を強調するが、お互いに初対面で信頼関係など皆無な状態ならそう言うものだろう。

 それと指示を出すだけなら安全な場所で待機していれば良いものを、ダルトンは施設に隣接している港に停泊している小型船の中で待機して脱出路の確保をしている。

 取引や説明、無線で話した感じからなんとなく察してはいたが……。

 

 「暑苦しそうな奴だな」

 『なんか言ったか?』

 「いや、何でもない。ゲート前に…―――ッ!?」

 

 ここまでは何も問題は無かった。

 軍事拠点であった要衝トルメンタ要塞に単独潜入したスネークにとって、軍事要塞並みの研究施設に忍び込むのは簡単ではないが難しい事でもない。

 結果、誰一人にも気付かれる事無く入り込めたのだから。

 

 ふと考えたりはしていたが周囲の警戒を怠った訳ではない。

 だが何者かが自分の後ろに立っている事だけは分かる。

 何処から湧いたのか一切気付けなかった。

 ゆっくりと視線を向けると確かにナニカがそこに居る。

 完全に振り返っていない為に顔などは見えないが、黒いロングコートがマントのように風で靡いているのが視界に入る。

 

 「んー、似ているけど違うかな」

 

 声からして男性……それも感じから年上だろう。

 ぽつりと一言漏らすだけで敵意は一切感じない。

 寧ろ不自然ながら声に聴き入ってしまう。

 

 「警備の兵とは異なるね。っていう事は潜入工作員かな」

 「さぁ…な。俺はただの警備員だ」

 「警棒も持たずに?銃も持ってないようだけど」

 

 確かにスネークは銃を持ってはいなかった。

 ダルトンは違法捜査ながらも捜査官としてのポリシーで銃を持たせなかったのだ。

 スネークもスネークで武器の現地調達にも慣れている事もありその事に不平不満を抱かなかった。

 肌にぴったりとしているスニーキングスーツを着用した場合、服の下に銃などを隠せば膨らみで見れば解かってしまう。

 そもそも抜くのに非常に苦労するので入れはしないが…。

 背負っているリュックを覗いて手にも外装にも銃が見えない事から判断され、軽く見通された上に笑われているが人を見下す嗤いではなく楽しそうに笑っている。

 少しばかりムッとしながらも背後を取られた事から不用意な行動は取れない。

 どうするかと悩んでいると横から銃が差し出された。

 

 「ここで出会ったのも何かの縁だ。使うかい?」

 

 言われている意味と意図が解らない。

 差し出している拳銃―――“ワルサーP99”。

 ポリマーフレームを採用された拳銃で弾は九ミリパラベラム。

 手に取って確認しながら今度こそ振り返るもそこには誰も居なかった。

 まるで端から何者も居なかったかのように…。

 

 「幽霊……の類だとでもいうのか?」

 『さっきからどうした?何があった?』

 「解らん。狐か狸に化かされた。そんな感じだ」

 『良く解からんが兎も角管理事務所に急いでくれ。外様の端末では入り込めないからな』

 「………了解した」

 

 一体何者だったのだろうかという疑問は残るものの、立ち尽くす事も戻る事も叶わない事から先に進むほかない。

 コンテナやトラックが置かれた出入り口から施設内に侵入し、広いロビーなどを通り過ぎて目的の端末を探す。

 意外とすぐに辿り着き、早速シリコンメディアを接続してファイルをダウンロードし始めた。

 自動でコピーしているとファイルの内容が見え、何らかのリストが眼に留まる。

 

 「これがお前が求めていたファイルか。リストみたいだが」

 『その通り、顧客リストと帳簿だ』

 「何のだ?武器売買とかか?」

 『いや、子供(・・)の………っと、その話は後にしよう。とりあえずデータを持って脱出するんだ』

 「了か―――ッ!?」

 

 返事を返そうとした矢先、施設内にけたたましく警報が鳴り響く。

 施設内の放送ではA区域と区分されている辺りは閉鎖し、レベル1以上のカードを所持してなければゲートを通過する事は叶わなくするそうだ。

 人の出入りを制限する内容と緊急事態を知らせる警報から何者かが侵入して発見されたと予想する。

 

 『なんだ?どうした!?こっちまで警報が聞こえるぞ!!』

 「侵入者警報のようだな」

 『見つかったのか?』

 「いや、俺ではない。もしそうであれば警備兵に囲まれている」

 

 返しに安堵しているようだが事態は不味い方向に転がっている。

 侵入者が捕縛、または排除されるまでは警報や現状が緩和される事はまずあり得ない。

 そうなればこちらも動き辛く、移動を制限されている事から脱出も厳しくなる。

 だが、見つかったのは誰なんだ?

 先ほどの男ほどの者が見つかるとは思い辛い。

 潜入工作しているのが俺や奴以外に居るというのも考えづらいが、ナニカがこの施設内で起きているのは確かだ。 

 

 『俺達は招かれざる客だ。捕まる訳にはいかない』

 「解っている。俺だって捕まる気は無いし、捕まると都合が悪そうだしな」

 『身も蓋もないがその通りだ。くそッ……施設内のゲートが閉まったせいで状況が掴め―――…おい、聞こ……ぅか?………』

 

 電波の状態が悪化したのかダルトンの声が途切れ途切れになる。

 ゲートを閉めたのは侵入者の移動を制限するもの。

 なら電波妨害は情報を漏らさない為か連絡をさせない為なのか。

 

 『――ファイルを優先しろ。施設北側の“通信棟”がぁ…………ェジタル回線を使ってぇ………』

 「脱出でなくファイルを…か」

 

 聞こえないように舌打ちを漏らす。

 これが脱出なら気にする必要はなかったのだが、ファイルを送るのであれば最悪受け取ってら切り捨てられる可能性が発生する訳で、自分が捕まる分には良いが仲間がどうなるかは分からない。

 しかしながら奴が仲間の身柄を握っている限り選択肢はこちらには存在しない。

 

 「良く聞こえないが了解した」

 

 情報支援のないままに先へと急ぐ。

 通信棟までの道のりの警備をやり過ごし、赤外線の網を突破してデータを送る為の端末を探す。

 すでに施設内部で何か起きているだけに今後何が起こる事やら。

 丁度通信棟に入った辺りで回線を変更したのが雑音もなくクリアな状態で無線が届いた。

 

 『無事到着したようだな。俺が居なくて寂しかっただろう』

 「いや、そんな事はない。兎も角早く作戦を終えよう」

 『もう少し気の利いた返事をだな……まぁ、良い。データを――ッ、なんだお前たちは!?』

 「どうしたダルトン?」

 

 何が起こるか分からないとは思っていたが、まさかこちらではなくダルトンの方が何かがあるとは思わなかった。

 ただ情報が不足し過ぎて何が起こっているのか判断が出来ない。

 無線に耳を傾けるもガタガタと物音がするばかりで伝わってこないときた。

 分かるのはダルトンの身に何かがあった事と、言葉からして複数人に襲われるか何らかがあったぐらい。

 聞き耳を立てて待機しているとようやく無線に声が入る。

  

 『随分と狭っ苦しい司令部だ』

 『誰だ貴様ら!!連邦捜査局の捜査を妨害してただで済むと……』

 『おや?君は捜査から外されたのではないかね元捜査官ダルトン君。さて、聞こえているかなスネーク君。私は国防省統合参謀本部のワイズマンだ』

 

 ダルトンが元捜査官であった事もそうだが、国防省統合参謀本部―――軍が出て来た事に怪訝な顔をする。

 ワイズマンと名乗った男はダルトンとスネークに現状の説明を口にする。

 

 ストラテロジック社内部にて副社長であり主幹研究員のトマス・コペルソーンが社内の武器・警備システムを掌握。

 研究施設を完全に占拠するという事件が発生。

 軍と政府の高官、大企業の幹部など十数名の引き渡しを要求し、応じなければ核兵器を使用すると脅しをかけて来たのだとか。

 

 「核兵器だと?」

 『そんな馬鹿な…』

 『事実だよ。ここではストラテロジック社と政府との間で新しい核攻撃システムの開発・研究が行われていたのだ。その名も核搭載二足歩行兵器―――“メタルギア”』

 「…メタル……ギア」

 『おい、どうした?知っているのか?』

 「分からん。分からんが聞いた覚えがあるような…」

 『すでにメタルギアの開発は済んでいるらしく、演習の為に核弾頭が持ち込まれている』

 「いくら核があろうと安全装置がある筈だ」

 『無論あるがコペルソーンは情報技術の天才。起爆コードの解除など時間の問題だろう。当初の予定では大部隊で奴を刺激せず、少数の潜入工作員を派遣する手筈であったのだが、今となっては非常に厳しいと言わざるを得ない。そこでだスネーク君。君には調査及び事件の収束を頼みたい』

 

 把握するもそれに力を貸す理由は自身にはない。

 なにせここに潜入しているのは仲間の安全を図る為であり、仲間の身柄を抑えているのはダルトンであってワイズマンではない。

 協力する理由も道理も存在しない。

 そんなスネークの思考を解り切っていたのかワイズマンは薄っすらと冷たく嗤うように続けた

 

 『報酬は君が最も欲するものでどうかな?』

 「俺が欲するもの?なんだというんだ?」

 『君の過去―――記憶だよ』

 「俺を知っているのか!?」

 『多少はね。で、どうするかねスネーク君。勿論断わって貰っても構わないがその場合は心苦しいが反逆罪で逮捕させて貰う事になるがね』

 

 確かに記憶は欲しい。

 俺は何者で何だったのか知りたい。

 だが、素直に返事をしたくないのはワイズマンの物言いと性格からだ。

 こいつのやり口は頼みなんかではなく元々協力する他ないように道を断ち、嘲笑いながら上から強制で手伝わせる。

 ダルトンも仲間を盾にしたがそれでもワイズマンよりマシだ。

 まだ信頼関係をしっかりと築けてはいないが、それでもワイズマンに比べれば断然信頼は出来る。

 

 『沈黙は了承したという事かな。ダルトン君には悪いが別室に移って貰おう』

 『待て!俺は施設の内部情報に詳しい。協力出来る筈だ』

 『そうなのかね?』

 「どうだったかな」

 『オイ、スネーク!!お前の仲間は…』

 「冗談だ。確かにダルトンの言うとおりだったよ」

 『ふむ、なら君にも協力して貰うとしよう』

 

 スネークもダルトンも短時間ながらもワイズマンの事を嫌な奴(悪い奴)と理解しながら、お互いの目的の為に少し冗談を交えながら突如として現れたワイズマン指揮の下で協力関係を継続するのであった。

 

 

 

 

 

 

 ストラテロジック社に単独潜入していたのは蛇だけではない。

 現在“ゴースト”のコードネームで潜っている健斗(オールド・バット)

 前回は顔を隠す為にガスマスクを付けてはいたが、今回は顔見知りはいないとの事で素顔を晒している。

 加えて服装も昔同様に黒い野戦服に黒のロングコート姿に戻し、気分は若かりし頃なのだが異様に身体が重いのはやはり老いだろうか。

 考えたくないが実際そうなのだから認める他ないだろう。

 

 「一応鍛錬はしてたけど、老いには勝てないかぁ…」

 『如何なさいましたか?』

 

 大きくため息を漏らしながら呟くと、オペレーターとして“(シオンの担当)”が無線機を通して声を掛けて来る。

 心配そうな声色に苦笑を浮かべ、肩を軽く回しながら答える。

 

 「いえね、昔に比べて身体が重くて」

 『……あの、それは歳のせいではないかと…』

 

 呆れが声色に混ざる事だけは何とか阻止して優しめに紫は口にした。

 確かに老いた事もあるかも知れないが、身体が重くて仕方ないのは当然なのだ。

 なにせゴーストは弾薬や手榴弾を除いて十キロを超える武器を装備しているのだから…。

 これで身体が軽いよなどと口にされれば“人外”認定するところであった。

 

 装備品の重量の事をやんわりと説明されて、それもそっかとゴーストは呑気に納得する。

 今回は持ち込んだ銃の種類が多い(・・・・・・・)為、かなりの重量と嵩張っているのだった。

 おかげでモーゼルC96がホルスターに納めれずに困っていたのだけど、偶然にも出会ったスネーク似(・・・・・)の青年にワルサーP99を渡して空きが出来て納める事が出来た訳だが、次回があるならもう少し考えるべきか。

 

 すんなりと入り込んだゴーストは散歩するが如く気楽さを持って施設内を歩き回る。

 紫としてはその手腕に興奮気味であったけど、ゴーストは期待を裏切られて“がっかり”と言わんばかりに気を落としていた。

 

 今回の任務内容としてはストラテロジック社が秘匿している“ルシンダ・ライブラリ(・・・・・・・・・・)”という情報を入手または隠滅”する事。

 どちらかは任意に任せるとの事でどうするかは考えてはいない。

 寧ろゴーストとしてはその過程を楽しみにしていた。

 プレイヤーとしてどのような物語、過程が待ち構えているのだろうかと年甲斐もなく期待で胸を膨らませていた。

 

 説明では軍事要塞並みの厳重な警戒網と特殊部隊上がりの警備兵で固めていると聞いていたが、ゴーストにとってはそれほどのモノには感じ取れなかった。

 練度は高いのかも知れないが近づいても気配を察しないし足音は気付かない

 出入り口の警備は意外とザルで入り易く、コンテナやトラックが乱立して置かれている為に遮蔽物は十分。

 ゲートは素通り出来るなどなど物足りない。

 

 グロズニィグラードやサンヒエロニモ半島、コスタリカのピースウォーカー関連施設に比べれば楽なもんだ。

 

 『緊急事態発生、緊急事態発生!!』

 「ん……見つかった?」

 

 いきなり警報が鳴り響き始めた事で警戒を周囲に向けるも警備の兵が向かってきているなんてことはない。

 先のスネーク似の青年だろうかと首を傾げたところで視線に気付いて立ち止まる。

 

 「何か僕に用があるのか―――なっ!?」

 

 振り向きながらダクトを見上げると突如として撃って来やがった。

 狙いもばっちりで顔面目掛けて放たれた弾丸をひょいっと首を傾げるだけで躱す。

 撃たれたからには撃ち返す。

 左側のヒップホルスターよりグロッグ17L RGカスタム を抜いて居るであろう位置に三発ほど撃ち込むが、着弾する前にダクトより飛び降りながらソーコム(SOCOM)Mk.23を撃ってくる。

 

 予想外に腕を立つ相手に驚きつつ、弾丸を回避しつつ降り立ったところに銃口を向ける。

 

 「意外に腕が良いのね。それに勘も良い―――けどここの警備兵ではないわよねおじ様(・・・)?」

 「そういう君こそ違うでしょお嬢さん(・・・・)

 

 対峙した相手はブロンドのロングヘアーの若い女性兵士だった。

 警備兵ではないと判断したのはその服装にある。

 メカメカしく真紅と目立つがスニーキングスーツである事は間違いない。

 疑問があると言えば警備の兵としても侵入者だとしても目立ち過ぎる点だろうか。

 

 それにしてもスニーキングスーツも進化したのだな。

 メカメカしいデザインもだけど以前に増して動き易さを追求してかボディラインを強調し、ミニスカに太ももまでのブーツ型など国境なき軍隊とは大きく異なっている。

 

 「あら、私に興味があるの?」

 「所属的な意味ではね。侵入者にしても目立ち過ぎないソレ(スニーキングスーツ)

 「腕に自信があるのよ」

 「だろうね」

 

 お互いに向け合う銃口。

 若いからと言って舐めて掛ると痛い目をみるだろう。

 ほんの僅かな動きと反応から国境なき軍隊やダイヤモンド・ドッグズで多くの兵を見てきたが、彼女の実力は上位陣に喰い込むほどの腕前だと判断する。

 ゆえに不思議だ。

 どのような訓練や鍛錬、経験を積めば彼女程の若さでそれだけの実力を得たというのだろうか。

 

 緊張や恐れなどを一切表情に出さずに銃を構える女性兵士の向こうに警備兵の姿が映った。

 同時に自身の後ろの方にも同様に感じ取れた。

 ゴーストがそちらに視線をちらりと向けるように、彼女も遠いがゴーストの後ろに見えた警備兵に視線を向ける。

 察した二人共銃口を相手から逸らして互いの後方に姿を現した警備兵を撃ち抜いた。

 

 「まったく、腕は良いけどサプレッサーも装備せずに撃つから敵が来ちゃったじゃない」

 「そりゃあ失敬―――で、どうするの?続きするかい?」

 

 普通にジト目で叱られてゴーストは軽く笑みを浮かべるも警戒は解いてはいない。

 彼女も同じく微笑みながらも即座に撃てる体勢を整えている。

 違う所と言えばゴーストは楽し気に笑っているが、彼女は微笑んでこそいるがその瞳は一切笑ってなど居ないという事だ。

 

 一触即発の事態を前に対峙する二人の間に“くきゅるるるぅ……”と腹の音が通り過ぎた。

 ピリ付いていた空気が和らぐというか変な間が空き、彼女はため息交じりにゴーストを見やる。

 そう言えば昼食がまだだったと思い出しながらポリポリと頬を掻く。

 ポーチに弾薬や手榴弾のほかに用意して貰った食材もあるので調理して飯にするのも良いかも知れない。

 ただここで食べるというのもなんだかなぁ…。

 

 「緊張感とかない訳?」

 「いやぁ、お腹が減っちゃって。君もどう?色々と食材は持ってるし」

 「呆れた…抜けてるとか言うレベルではないわね。敵地のど真ん中で馬鹿じゃないの?」

 「けど外から見た時、結構見晴らし良さそうだったんだよね」

 「腕利きで底なしの馬鹿だという事は良く解かったわ。この状況下でピクニックって可笑しな人ね」

 「失礼な」

 「事実でしょ」

 

 否定したくも事実ゆえに何も言い返せれずガクリと肩を落とす。

 戦う空気ではなくなった事で彼女は銃口を下げる。

 ゴーストも空気が空気なだけにグロッグ17L RGカスタムをホルスターに仕舞う。

 そんな状況下で―――否、この状況下だからこそか女性兵士は腕を組んで面白そうに眺めながらクスリと笑った。

 

 「貴方、所属は?」

 「んー……今はフリーなのかな」

 「傭兵の類?」

 「どちらかと言えば工作員……が近いか?」

 「ふぅん、敵ではないようなら私達(・・)にも雇われない?人手が欲しいところだったのよ」

 

 別に掛け持ちがいけないという事はない。

 裁量はこちらに任せっきりなのだからこれも一つの選択肢だろう。

 断る理由も無いしゴーストは彼女―――ヴィナスと名乗る女性兵士の申し出を受けるのであった。


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