メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 初回二話連続投稿


プロローグ

 地球…。

 それは生物を育んだ奇跡の惑星。

 未だに数多な生物が暮らし、生きては死んでいく。

 

 地球外から見たら青く美しい星を外から観測する者がいた。外からと言っても宇宙空間ではなく、人間の認識領域外からの話である。

 

 壁も床も解らない真っ白な空間で三つの人影は地球を囲んだ丸机に設置された腰掛に腰を降ろしていた。人影には人間らしい目も口も鼻もなく、ほんとうに人影と表現するのが正しい姿であった。それぞれには名前は無く、相手を認識するには相手の色しかない。

 

 「今日の作業は何処までだったか?」

 「A-45地区での死者供養27名の魂の行き先の選定」

 「27人か…。いつもより多いな」

 「しかし昔に比べれば良いではありませんか」

 

 落ち着いた雰囲気の灰色の人影の質問を三つの人影の中で女性らしいラインを見せている赤い人影が相手を敬った感じの口調で答えた。

 

 ここで行われているのは一つの世界を用いた実験である。多次元世界を創造して他の世界とは違う事象を起こしてどのような未来になるのかというもので、彼らはすでに1900年以上その実験に取り組んでいる。他の者の中には魔法技術を与えた実験や特定の文化を発展させた実験を行なう所があり、彼らが行っているのは度を超えた科学技術はどのような変化をもたらすかというものですでに結果が出来つつあった。

 

 「くぁ~…面倒臭いなぁ…」

 

 ジッと地球を見つめていた青い人影が欠伸をしながら心のそこからめんどくさそうにぼやいた。灰色はまたかと苦笑いしたが真面目な赤色は見逃さなかった。

 

 「面倒とは何だ!これは私達に与えられた職務。それを面倒とは…」

 「まぁまぁ、落ち着きたまえよ」 

 「しかし!」

 「職務つっても管理された人類の変わり栄えのない日常を覗くだけじゃないすか」

 「貴様はそうやって文句ばかり」

 「確かにわしも思うがな」

 

 地球を見つめながら灰色も半ば同意見だった。面倒だからと言って職務を放棄したい青色とは違い、職務は続けるも飽きがきているのは否めない事実であった。

 

 彼らは高度な科学技術を人類に与えた。その結果、人類は蒸気機関を走らせていた時代に無人車両を走らせ、安過ぎる賃金でほとんど強制労働に近かった仕事場には作業用ロボットが溢れ返った。人類の科学技術は進歩を止める事無くとことん突き進んだ結果、後の公害は回避し、地球温暖化も起こらなかった。他の多次元世界に比べて安定した生活を人間は手に入れた。

 しかし、良い所ばかりではなかった。人間が行なっていた仕事は機械がすべて肩代わりして、人間は自分の趣味などに没頭して己の部屋に閉じこもりっきりになっていった。働かなくとも月々に渡される生活する為のお金ではなく、ポイントにて何の問題なく暮せる為に余計に部屋に篭りっきりとなってどんどん堕落していった。

 

 千里眼を用いて適当に選んだ都会を覗くが道を歩く人は誰もおらず、随時掃除を行なう掃除用ロボットや警備ロボット、宅配ロボットが巡回しているだけだった。

 

 目を見張るようなイベントも事件もなく、ただただ部屋に引き篭もって体感型ゲームを楽しんでいるだけの光景を覗く作業など面白みが無さ過ぎて拷問に近い。

 

 勿論観察以外に魂の管理という仕事もある。大災害や大事故と呼ばれる天災・人災から戦争まで人が大勢亡くなった際には完徹必死の大忙しに見舞われるのだが、それも懐かしい思い出になってしまった。夫婦以外に実際に顔と顔を合わせる関係性がなくなってしまって喧嘩や殺傷事件が減り、家に篭りっきりな為に事故死もほとんどない。地震や津波などの自然災害は科学技術が向上しすぎた結果、予知・予測のみならず管理まで出来るようになっていた。予想外の死は極端に減り、彼らの仕事も減少した。これについては良い意味でなのだが暇なのは別問題なのである。

 

 「そうだ!ここは一つ魂をちょろまかさないっすか?」

 「ちょろまかす?人の魂を盗ってどうするんだ?我々は悪魔ではないのだぞ」

 「違いますって。ほら他の部署でよくやるじゃないですか。人の書類にコーヒーぶちまけたり、間違えてシュレッダーかけたり」

 「よくあっては困るのだがな。寿命のきていない者を死なす事になるのだからな」

 「しかも上役にばれたら大問題だからな」 

 「それを回避する為に特典とかスキルを与えて異次元世界へなんて魂を別の場所に移動させたりするんじゃないですか」

 「まさかそれをやると言うのか?私は断固反対だ。わざわざ殺してそのようなことをするなど」 

 「そもそもそれにはかなりのコネが必要になるぞ。別の世界を管理する奴に転移の承諾を取り、間違えてしまった書類を誤魔化す為にどれだけの者を引き込まなければならないか…」

 「確かに手間と労力が掛かるんですけどね。安全かつ手間の掛からないなら乗ってくれますね」

 

 安全かつ手間のかからないという言葉に反応して赤色と灰色は興味津々に青色を見つめる。なんだかんだ言っても赤色も飽きが来ていて何かしら娯楽を欲していたのだ。

 

 「他の部署の知り合いが二次元世界の複製をしてたんすけど最近忙しくって管理できなくなったって事で貰ったんすよ」

 「貰ったって仕事じゃないのか?」

 「個人観賞用だったらしいっす」

 「別の世界は用意したのはいいがどうする?それを鑑賞するのか?」

 「それだったらオリジナルデータと変わんないじゃないですか。元の世界に無かった異物を入れることで面白くなるんじゃないですか」

 「だから殺すのは…」

 「では、VRとか言うのを改造した転送ならどうっすか?」

 「ほう。それなら問題はないな」

 

 ニンマリと笑った(雰囲気)灰色に満足そうに頷いて赤色を見ると、赤色も赤色で乗り気になったので青色は目の前の世界に視線を戻した。

 さぁて、誰にしようかな?

 

 

 

 

 

 

 宮代 健斗はこの世界でいう普通の人である。

 目元辺りまでさらさらの日本人特有の黒髪を伸ばし、18才にしては低い160センチの身長にコンプレックスを持つ。男らしいというより女顔っぽいことも気にしている。勉学はそこまで得意じゃないが運動系は結構好きだったり、悪いところもあれば良い所もあるごくごく普通の人である。

 

 「どうしようかな?」

 

 そんな彼の今最大の悩みが今日から始まった連休の過ごし方である。人生最後である学生の長期休みなのだが別段何かしなきゃとか今じゃなきゃしなきゃいけない事も無い。一般常識と最低限の勉学をさせる通信教育を終えて、ただただ自由に好きなように過ごす大人になるだけだ。生活する為の生活ポイントをもっと稼ぐなら数少ない職に就く必要もあるけれど別にそんな思いも無い。

 

 市から提供された一人暮らし用の部屋にVR用の体感ゲームを並べて眺める。

 ヴァーチャルリアルティゲームは現代の娯楽としては一般的な物で、百人の少年がいたら百人が持っていると答えるだろう。専用のゴーグルにヘルメット型電極パッド、専用のスーツまである。スーツには何万という電極が仕込まれており、ゲームの内容によって電気を流してそれ相応な演出を行なってくれる。ヘルメットの方はショッキングな映像や脳内パニックを起こすなどプレイヤーに精神的危険性が与えられそうな場面で緩和する為の機能を有している。

 

 小学生の頃に比べて格段に進化した技術のひとつではあるが何処か物足りない。いろんな企業がフルダイブというソフトジャンルを確立させようと頑張っているがまだまだかかりそうだ。

 

 並べられたゲームはこれまで何度も体験したゲームで新鮮味はない。やる事が無さ過ぎて何度かやり直してきたが今日はそんな気分でもない。かと言って新作ゲームを注文する生活ポイントはない。あるけれど後二週間ほど食事が栄養ドリンク三食になってしまう。これだから18才以下の生活ポイントは少なすぎて嫌になる。

 

 大きくため息を吐くとコトンと玄関の配達ボックスから物音がした。先ほど頼んだ食品類が届いたのだろうか?時計を確認するがまだ30分しか経っておらず、さすがに最速を謳い文句にしている宅配サービス会社でも無理な速度だ。いったいなんだろうと思いつつ宅配ボックスを開けてみると小さなダンボール箱が置いてあった。古い配達方法に妙な感動を覚えながら乱暴にガムテープを引き千切る。

 

 中からはVRゲームソフトと一枚の紙が入っていた。紙には『試作フルダイブ型ゲームの試験プレイの協力のお願い』と大きく書かれ、下には注意事項がずらずらと書き並べられていた。怪しさ満点のソフトだが新しいゲームと新鮮な刺激を求めていた健斗によっては甘すぎる誘惑であった。注意書きを読む事無くゴーグルを取り付けてソフトを差し込む。

 

 『ようこそ。宮代 健斗様

  今回はゲームプレイありがとうございます』

 

 ゴーグルに真っ白な空間が映し出されて透き通るような女性の声が脳内まで響き渡る。

 フルダイブと銘打っていたが結局ゴーグルからの映像だけかと多少がっかりしたがこんなものだろうと納得もしてしまっている。

 

 『貴方様のゲームキャラですが新規にキャラクターを設定しますか?それとも貴方様をモデルにした外装データを自動で読み込みますか?』

 

 早くゲームをやりたい健斗は迷う事無く後者を取った。白い空間に真っ裸の自身の姿が浮かび上がった時には心底驚かされた。が、音声はそんなことなど露ほども気にかけておらず続いて音声を発し始めた。

 

 『このゲームはメタルギアソリッドを主体とした体感ゲームです。

  ゲーム内容は潜入任務。

  ガンアクション。

  格闘戦。

  車やバイク、戦車や戦闘ヘリなどの乗り物も使う事が可能です。

  その中で貴方様の設定を決めてもらいます』

 

 設定と表記された中には主だった主要キャラが並べられていたりしたがそちらはパスしてオリジナルを開いていく。中には敵の大将の側近役やコブラ部隊の候補などもあったがいきなりのプレイで敵役を選ぶよりはやはり主人公側のほうが良いだろうと判断して『CIA』と書かれた設定を押した。コブラ部隊のほうには特殊スキルがあったがこちらはそれに比べたら現実味があった。ただCQCというのは解らなかったがとりあえず振れるポイントが配られたのでガンアクション系やステルス系を上げるついでにそれもかなり上げてみた。服装選択では黒っぽい迷彩服に漆黒のロングコート、黒のブーツに指だしグローブなどを選択し、武器なんかも結構な種類から選んだ。

 

 他にも注意事項やどういう機能があるかなどが説明されたが早くやりたい一心で耳から耳へと素通りして行ってしまった。

 

 『では、どうぞ我々を楽しませ…楽しんでください』

 

 最後の一言に違和感を感じたがそれを理解する前に健斗は絶句した。

 ゴーグルに映される景色ではなく、三百六十度自分の視界で確認できる密林。

 電極により再現された物ではなく、リアルに感じる陽の光に木々を通り抜けて吹く風の感触。

 熱されて水気を含んだ臭いが鼻で嗅ぎ別けられる。

 すべての感触や感覚がリアルそのものだった。

 

 「これがフルダイブゲーム……すごい!」

 

 

 

 これから始まるのは三つの暇を持て余した人影達によってメタルギアソリッドの世界に紛れ込んだ宮代 健斗と、その健斗により原作とは違った未来に進んで行くキャラクター達のお話である。


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