上を向いて歩こう   作:バレンシア

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第一章
第二話


その日はここ数日でも特に暖かい日だった。暦の上では一月二十日。寮にある自室の窓から外を見れば、雲一つない青空が広がっていた。気持ちのいい朝だった。

 

「おはよー」

「おー・・・」

 

目覚めた和也が部屋から出ると、既にルームメイトである安達翔(あだちかける)が朝食の準備をしていた。味噌汁の匂いが鼻をくすぐる。どうやら今日の朝食は和食らしい。

 

「朝練か?」

「まあね。これでも期待のホープだからサボれないんだよ」

「毎朝大変だな」

「麻帆良なんていう強豪バスケ部のキャプテンやってる和也よりはマシだと思うけどね」

 

茶碗にご飯をよそった翔がエプロンをとる。翔は既に制服に着替えていた。今、起きたばかりの和也に比べれば雲泥の差だった。和也が時計を確認する。まだ午前六時を回ったばかりだった。

 

「さ、食べよう。お互い時間もあまりないだろ?」

「そうだな」

 

いただきます、と手を合わせて食事を始める。柔らかい白米と出汁のきいた味噌汁、目玉焼きはしっかりと半熟で、サラダまで添えてあった。贔屓目なしに美味かった。

 

「和也も急いだ方がいいんじゃない?朝練、七時からでしょ?」

「ああ。つっても、三十分もあれば体育館までつくだろ」

「体育館はいいよね、近くて」

「剣道場だって変わんねーだろ。五分、十分の違いだろ」

「分かってないなぁ。その五分、十分が大切なんだよ」

 

早々に食事を終えた翔は、食器を流しに持っていく。のんびりする間もなく、食器を洗い終わった翔は残る身支度を終わらせて鞄を持った。

 

「じゃあ先に行くよ」

「ああ。今日こそしっかり一本取ってやれよ」

「うん!」

 

元気に返事をして、翔は先に剣道部の朝練へ出掛けていった。なんでも、剣道部には滅茶苦茶に強い女子部員が一人いるらしい。男である部長にすら一本も許さない強さを超えるべく、翔は部活に燃えていた。

翔を見送った和也もまた朝練へ向かうべく準備を開始する。麻帆良学園高等部男子バスケットボール部の朝練は七時に始まり八時に終わる。約一時間と短時間ながら質の高い練習を行っている。部長自ら遅刻するわけにもいかない。

急いで身支度を済ませた和也が男子寮の部屋を出た時、時計の針は丁度六時四十分を指していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はここまで!!」

 

顧問の声が体育館の中に響き渡った。コートに立っている生徒たちは、みんながみんな滝のような汗を流していた。息の上がっていない人間は誰もいない。よく一時間の程度の練習をここまで濃密に計画できるものだと和也は舌を巻く。

 

「和也。お前は少しだけ時間いいか?」

「はい!」

 

部員のみんなが後片付けをしている中、和也は顧問と共に教官室へと足を踏み入れた。相変わらず無駄なものが一切ない見事に整理整頓された部屋だった。

それから約十分、和也は顧問と今後の練習予定や戦術方針などを話し合った。

顧問の名前は増岡剛(ますおかつよし)といった。体育大学を出て麻帆良学園に就職したらしい。大学生の頃は日本代表にも選ばれた大型のPGで、将来はNBAかと囁かれていたほどの逸材だそうだ。しかし本人にその気はなく、ずっと憧れだった教師の道に進んだとか。なんとも自由な生き方で羨ましい限りだ。

 

「じゃあそういうことで頼む」

「はい!ありがとうございました!」

「おう。お疲れさん」

 

頭を下げ、和也は体育教官室を後にした。

個人的に、和也は増岡のことが嫌いではなかった。いつだったか、増岡の指導方針は「褒めて伸ばす」であると聞いたことがあった。生徒は勝手に成長するのだから、自分はその僅かばかりの手助けに過ぎない。より良く成長するために手を貸すだけだ、と。麻帆良ほどの大規模校では、部員同士の問題もよく起こる。それらを自分達と一緒に考えてくれる増岡には感謝していた。

なんとなく術中にはまっているような気もするが、今は乗せられておいてやろう。部員が機嫌良く練習してくれれば自分への負担も少なくすむ。

 

「お疲れ、和也」

「ん。サンキュー」

 

体育館に戻った和也に副部長の飯島将希(いいじままさき)がタオルを投げる。

 

「剛さん、なんだって?」

「次の大会に向けてのミーティングで俺もなんか喋れってよ」

「ふーん。ま、いいんじゃないか?」

「簡単に言ってくれるなよ。俺が人前で話すの苦手だって知ってるだろ?」

「何事も練習だ、練習。やってみなくちゃ分かんないだろ?」

「ーーーそれもそうだな」

 

汗をぬぐい、着替えながら会話は続く。お互いに部長と副部長として部活を支えるもの同士、連携はしっかりととっておかなければならない。

 

「他のみんなは?」

「長くなるかもしれないと思って先に教室に行かせたよ」

「サンキュー。流石、分かってるな」

「もう何年一緒にバスケしてると思ってるんだよ」

「ははは。そうだったな」

 

着替え終わると、二人は体育館に一礼して教室へ向かう。これも顧問である増岡の教えだった。すべては礼に始まり礼に終わる。バスケットボールを通して生きる力を身に付ける。増岡剛はどこまでいってもコーチではなく教師だった。

二人は体育館から学校までの道を歩いていく。最近の部活やクラスでの事、話すことは色々ある。和也が麻帆良に来て二番目に出来た友人が将希だった。付き合いは長い。

 

「あ!おはよーございまーす!」

 

二人が歩いていると、元気な声が聞こえてきた。見てみれば、そこには女子中等部バスケットボール部に所属する明石裕奈の姿があった。隣には同じく水泳部に所属する大河内アキラもいた。

 

「おはよーさん」

「おはよう。いつも元気だな」

 

挨拶を返すと、裕奈は軽く手をあげた。和也と将希は顔を見合わせ苦笑すると、揃って裕奈と同じように軽く手をあげた。

 

「イェーイ!!」

 

ーーーパンッ、と小気味の良い音が二度鳴った。

 

「ほらっ!アキラもアキラも!」

「えぇっ!?私も!?」

 

戸惑いながらアキラも軽く手をあげる。

 

「イェーイ!!」

 

ーーーパン、と遠慮がちな音が二度鳴った。

 

「・・・すみません」

「いや、そんな一々気にすんな」

「そうそう。年下は下手に遠慮しない方が可愛い気があるってもんさ」

 

掛け声は裕奈。実際に手を叩いたのは和也と将希からだった。

 

「それより将希先輩、聞きましたよ!」

「ん?どうかしたかい?」

「また女の子を振ったらしいじゃないですか!?」

「ああ、それはーーー」

 

裕奈が颯爽と将希に絡みに行った。男子バスケ部きってのイケメンと称される将希は告白されることも多い。しかし一度も誰か特定の子と付き合っている姿を見たことがない。そんな曖昧な姿に一時期、男色の気が噂されたこともあった。本人は笑って否定していたが、この男のそんな姿勢は麻帆良男子高等部の七不思議に数えられていた。

さて、裕奈が将希と話をしに行けば、必然的に和也は残ったアキラの面倒を見なければいけないことになる。チラリと横から顔を覗けば、視線が見事にぶつかった。

 

「アキラちゃんは冬、どうやって練習してるんだ?」

「あ、えっと、外で学校の回りを走ったり、屋内練習場で体幹鍛えたりしてます」

「へー。やっぱり私立だけあって設備が良いな、麻帆良は」

「はい。私も恵まれてるなって思います」

 

恐縮したように会話を続けるアキラに、和也は頬を掻く。どうも、アキラは自分のことが苦手ではないかと和也は考えていた。

当たり前のことだが、亜子の友人の中で和也と面識のある人間は少ない。まき絵、裕奈、アキラ、あとはクラスメイトのインタビューとして顔を合わせた朝倉和美ぐらいのものだ。この中で、一度しか会ったことのない朝倉を除けば、和也が最も距離が空いていると感じるのがアキラだった。明確な理由は特にない。強いて言えば、その身に纏う雰囲気だった。

 

「体育館クラブはシーズンとかないですよね」

「そーだな。なんだかんだ一年中バスケは出来るからな。もう少し休みがほしいところだよ」

「増岡先生、厳しそうですよね」

「確かにな。やりたいことは分かるし、教えてもらってる身としては不満は言うべきではないんだろうけど」

「お休みはほしい、ですか?」

「ああ。そういうことだな」

 

クス、とアキラが口許に笑みを浮かべる。亜子と仲の良い三人のうち、この大河内アキラという少女が最も精神的に大人だろう。多弁な方ではない。沙織とはまた少し異なる空気感が二人の間を満たしていく。

 

「アキラちゃんも大変だな。裕奈ちゃんやまき絵ちゃん、それに亜子の相手まで」

「そんな事ありません。みんな大切な友達ですから」

「そう言ってもらえると、兄としては安心だな」

 

任せてください、と少し力を込めて言ってくれるアキラに、和也も感謝の気持ちを込めて笑った。言ってみれば、彼女はバランサーなのだ。ともすれば調子に乗ってしまいがちな裕奈やまき絵、物事をネガティブに捉えがちな亜子を正してくれる貴重な存在なのだ。

和やかな雰囲気を醸し出しながら歩いていると、丁度、女子校エリアと男子校エリアを分ける場所にやって来ていた。

 

「じゃ、また今度な」

「それじゃあまたね」

 

和也と将希の二人がそう言うと、裕奈とアキラも合わせて返す。

 

「はーい!それじゃあ和也先輩、将希先輩!失礼しまーす!」

「失礼します」

 

片や元気に大きく手を振りながら、片や礼儀正しく頭を下げながら。裕奈とアキラは去っていく。

 

「元気だねー、裕奈ちゃん」

「ホントにな。俺はあのテンションについていける自信はない」

 

二人と分かれた和也と将希は、男子高等部への道を歩きながら話を続ける。

 

「そうかい?俺は別に苦にしないぞ?」

「お前に苦手な奴がいれば見てみたいもんだ」

 

肩を竦めて和也が言う。人当たりの良さでは部内でも右に出るものはいないだろう。本当なら、将希がキャプテンをやるはずだったという、他の部員たちには隠された真実も過去にはあった。

 

「はっはっは。俺にだって苦手な奴はいるさ」

 

大袈裟に笑いながら将希が答える。

 

「例えば?」

 

さらに突っ込んでたずねてみれば、将希はニヤリと笑いながら答えた。

 

「決まってるだろ。バカでチビで強情な、まるで()()()()()()()()()()だよ」

「・・・なんだその頭痛がして痛い、みたいな日本語は?」

「ははは、違いない。和也の言う通りだ」

 

将希はまるで面白い玩具でも拾ってきたかのように笑っていた。コイツがこんな風に笑うなんて珍しい。

 

「楽しそうにしているところ悪いが、そろそろ時間がヤバイ」

「・・・マジで?」

「ああ。走らなきゃ間に合わないかもしれん」

 

腕時計を見てみれば、既に始業まで十分ほどになっていた。ここからなら歩いて十五分は掛かる。走れば十分弱だろうか。

 

「今日の一時間目ってなんだっけ?」

「あー・・・、確か英語じゃなかったか?」

「・・・英語は遅れると面倒だなぁ」

「なら潔く走るしかないだろ」

「仕方ないな」

 

お互いに頷き合った和也と将希は、とにもかくにも急がなければならないとばかりに走り出す。常日頃からバスケ部で走り込んでいる二人の体力は一般的な基準を大きく上回っている。しかし、それでも厳しい朝練のあとに再び全力ダッシュを行うのは想像以上にしんどかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後になり、生徒たちは三々五々、帰路につく。徐々に周囲から人が散っていく様子を見ながら和也は大きくため息をはいた。

 

「結局こうなるのかよ」

「あっはっは!バッカでー!!」

「うっせー」

「今時、遅刻して反省文書く奴なんて久しぶりに見たぜ!和也、グッジョブだ!!」

「いい加減に黙れ!達也!!」

 

本日の遅刻によって見事に今学期通算五回を記録した和也は、一人教室に残り、反省文を書いていた。これで麻帆良学園に入学してから合計十回目を記録していた。

 

「まぁそう言うなって。ほら、俺も手伝ってやるからよ」

「いらん。どうせデスメガネの奴に見破られて枚数が増えるってオチが最初から見えてんだよ。バーカ」

「バッ、バカってなんだ!?バカって!?」

「バカにバカっつって何が悪いんだよ。バーカバーカバーカ」

「さ、三回もバカって言ったな!?」

「お前と俺とじゃあ頭の出来が違うんだよ」

「ぐっ!?事実なだけに言い返せないっ!?」

「お前が武道を修練しているように、俺も勉強を頑張ってんだよ。こっちは生活が掛かってるからな」

 

成績優良者に与えられる授業料免除は和也にとっての生命線だった。これだけの大規模な学園に一年間通おうと思えば、果たしてどれ程の金が必要になるのか。考えるだけで頭が痛い。

 

「そもそも胴着に着替えるのが早いんだよ。いつのまに着替えたんだよ、お前。チャイム鳴った時にはもう胴着だったろ」

「はっはっは!なんだ和也、知らないのか?強い奴は行動が早いもんなんだぜ!!」

「・・・うぜぇ」

「ぐはっ!?」

 

和也の隣ではしゃいでいる男は中村達也といった。空手を得意とする武道派であり、学校ではよく和也とつるむ男の一人だった。この現代社会において、何故か時代に逆行するかのごとく強さを追求するーーー頭が残念なバカだった。

 

「くっ、やるなっ、和也っ!」

「もうお前、邪魔するならとっとと帰れよ、達也。どうせ今日も暇なんだろ?」

「暇じゃねぇよ!?俺には自分の技を極めるっていう重大な仕事があるんだよ!!」

「あー・・・、なんだっけ?「烈空掌」だっけ?」

「おう!今年中には連撃まで打てるように修行するぜ!!ちなみにこの後も山下たちと修行だぜ!!」

「勝手にやっとけ、この人外どもめ」

 

素振りを毎日していただけで「気」を使えるようになり、あまつさえ更に飛ばせるようになるとか、それはどんな漫画だ。その愚直なまでの執念は感嘆に値するが、仮に自分が同じことをしたとしても、彼らのような境地には至れないだろう。

 

「じゃあな!和也!俺もそろそろ行くとするぜ!」

「おー。行ってこい、行ってこい。暑苦しいのがいなくなって清々するわ」

「ぐはっ!?」

 

そう言うと、達也が心臓を押さえながら苦しんだ。

 

「くっ、相変わらず思ってもいないことを平然と口にする男だぜ!?」

「いや、割りとマジで思ってるからな」

「がはっ!?」

 

更に重ねて言えば、達也は更に苦しそうに呻く。

 

「ほら、慶一たちが待ってんだろ?早く行けよ」

「あっ!?おいっ!てめっ!蹴るんじゃねぇ!」

「おらおら」

「いっ、いたっ!?ちょっ!?そこっ、脛だからな!?マジで痛いんだからな!?」

「どっせーい」

「お、折れっ!?あだだだだだだっ!?」

 

そんな調子で達也と絡んでいると、既に誰もいないと思っていた廊下から足音が聞こえてくる。野郎しかいない男子高等部にしては高い音だった。

 

「・・・なにをしているんてすか、貴方たちは」

 

足蹴にしていた達也から廊下へ視線を向ける。そこには足があった。スラリとした脚線美だった。黒いタイツで覆われた足は、生地が薄いのか、よく目を凝らしてみれば奥にある肌色が見えそうだった。年頃の男にはあまりにも艶かしくも美しい景色だった。

 

「あれ?刀子先生じゃん。チィーッス」

「・・・どうして足を見ただけでそれが誰だか分かるのでしょうね、貴方は」

「ーーー達也の変態め」

「ぐはっ!?」

 

ーーー致命傷だった。

 

「和泉君は反省文ですね」

「はい。ちょっと失敗しました」

 

教室に足を踏み入れた葛葉刀子が手元を覗きこむ。

 

「貴方は学業も優秀ですし、交遊関係だって狭くはない。それに生活態度も悪いわけではないのですから、その遅刻癖をいい加減になんとかしなさい」

「時間にルーズなのはダメだと頭では分かっているんですが・・・」

「神多羅木先生も笑っていましたよ。毎度、貴方が遅刻する度に話を振られる私の身にもなりなさい」

 

まったく、と腕を組ながら刀子がたしなめる。

 

「いや、ホント、刀子先生が担任で助かってます」

「心にもないことは言わなくて結構です」

 

知的は瞳を細くさせながら刀子が睨む。どうやら、意外に本心という奴は伝わらないらしい。

 

「貴方が奨学金とアルバイトを活用して生活費をまかなっていることは知っていますが、それで生活リズムを崩すようでは元の木阿弥です。一度やると決めたのなら、シャンとしなさい」

 

厳しくも優しい言葉だった。確かに、和也が麻帆良の地に来てから既に五年の月日が経っていた。ある程度、この環境にも慣れた。少なくとも、中等部に編入してきた頃よりは随分と暮らしやすくなっていた。学業では確実に上位一割の中に入ってはいるし、部活も順調に強くなってきてはいる。アルバイトにも不満はない。ーーー端的に、弛んでいたのだろう。

 

「私はこれでも貴方のことは買っています。ですから後期の学級委員長も任せたんです。期待しているのですから、応えてもらわなくては困ります」

 

まっすぐな視線がぶつかった。それは本気の目だった。

 

「・・・珍しいですね、刀子先生がそこまで誉めてくれるなんて」

「貴方は直接告げた方が頑張れる子です。それに、たまにはこうしてプレッシャーを与えなければ怠けるでしょう、貴方は」

「よくご存じで」

「これでも二年間、貴方の担任をしているのですから当たり前です」

 

本当に男前な担任だった。葛葉刀子。刀子先生。嬉しい時は喜ぶし、悲しい時は泣きもする。悩みがあれば一緒に考えてくれるし、なにより、間違った時にはしっかりと叱ってくれる。

 

「ホント、お世話になってます」

 

和也は素直に頭を下げた。本当に、この人が担任でなければ自分はここまで頑張れただろうか。恐らく無理だっただろう。頭を上げた先で、刀子は嬉しそうに笑っていた。

 

「今の感謝は受けとりましょう。珍しい和泉君の本心でしょうからね」

 

何年経っても敵う気がしないとは、この人の事をいうのではないかと真剣に思う。

 

「それでは私は失礼しますね。和泉君は課題をしっかりと終わらせてください。中村君は山下君たちと修練ですか?」

「うっす」

「まだまだ気の練り方が甘いと思います。臍の下ーーー丹田に気を集中することをおすすめしますので、一度試してみてください」

「あざーっす!」

 

それでは、と刀子はスーツ姿を翻して去っていった。残された和也は達也と顔を見合わせる。

 

「頑張るか」

「おうよ!」

 

あそこまで言われて頑張らなければ男が廃る。一度、和也は大きく体を伸ばす。ここから先は休みなし。出来るだけ急いで、かつ、刀子の目に入っても怒られない程度の質で勝負しなければならない。腕を回しながら意気込む達也を見送り、和也は課題に取り掛かった。


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