GATE 幻想郷防衛軍彼の地にて斯く戦えり 作:にょろ35106
「すごいすごーい!牛車や馬車なんて目じゃない早さだよ!?」
クラウンピースが自衛隊車両の中ではしゃいでいた。
何故クラウンピースが自衛隊の車に同乗しているかというと・・・。
「博麗神社に行くの?じゃああたしもついてく!」と言い出したからだ。
他にも行くところがあるから博麗神社に行くのは日が沈む頃になると伝えたが特に予定もない彼女は一行と行動を共にすることになったのだった。
人里が一望できる小高い場所に着いた一行は写真を撮影する。
倉田や栗林が私的な撮影なら桑原や富田は日本政府に提出する報告書や簡易的な地図を撮影するために写真やビデオ撮影をしていた。
「それが外の世界のカメラですかー」
上空からの声に撮影を止めて上を見る一行。
天狗の姿格好をした少女がそこに居た。
「どうもー。清く正しい射命丸でーす。ちょっと取材させて下さーい」
「「「「取材?」」」」
自衛隊一同が同時に疑問に思った事を口に出した。
「はい。実は私、文々。新聞という新聞を発行してまして。是非とも外界からの来訪者である皆様を取材したいのです!あ、自己紹介が遅れました。烏天狗の射命丸文と申します。どうぞよろしくお願いします」
文が地上に降り立ちながら答える。
既にその手には取材ノートと愛用のペンが握られて居た。
「た、隊長、どうしますか・・・・・?」
「う、うむ・・・弱ったな・・・」
富田と桑原が困り顔で言葉を交わした。
ここにはロゥリィ、テュカ、レレィの護衛と言う名目で来ているが自分達の発言が日本の公式な意見として報道されたら困ると考えたのだ。
「あー、隊長さん。そんなに真剣に悩まなくても軽い気持ちで受け答えしていいと思いますよ?」
伊丹の言葉に少し拍子抜けする桑原。
「そうですとも!いやー、伊丹さんは分かってますねぇ!さっ!ズバッと聞いてスパッとお答えください!」
「文々。新聞はゴシップ紙なんで真面目に考えるだけ無駄っすから」
「ちょおおおぉぉっ!?ひ、酷い!ゴシップ紙なんて酷いです!」
「じゃあ、俺の時にはなんて書いたか覚えてる?」
何故かとても優しい笑顔と声で文に質問する。
「えーっと、確か・・・地霊殿でさとりさんとお会いした時の事でしたよね?YESロリータ!NOタッチ!ですね。意味は分かりませんけど」
「それだよおぉっ! ?意味も分からず書いちゃダメじゃん!里の人達も意味わからなくて放置してくれたけど一部の外界から来て定住した人達から暫く白い目で見られたんだぞ!?」
「ふむふむ、つまり後ろめたい言葉だと・・・これはスクープの予感です!」
藪蛇だったか!?と伊丹は後悔したがすぐに救いの手が差し伸べられた。
「あー、射命丸さんでしたっけ?その言葉、別に深い意味のある言葉じゃないっすよ?小さな子供は遠くから見守ってあげようって意味っすから」
「え?そうなんですか?なーんだ、期待して損しました」
再び文は桑原の方に向く。
グッと倉田が伊丹に向かってサムズアップをし伊丹もそれに答えた。
「安心してください!情報は鮮度が命なので極たまに誤報する事もありますが!」
自信満々に言う文に不安しか感じない桑原は当たり障りのない受け答えのみをした。
ピロロロロロッピロロロロロッ。
唐突にその場に似合わない電子音が鳴り響いた。
「あれ?電話?でも幻想郷って電波届かないっすよね?」
倉田が自分のスマホの圏外表示を見ながら言う。
「ああ、これは私のですね」
そう言いながらスマホを取り出したのはなんと文だった。
どこからどう見てもスマホだが背面に河童のロゴマークが刻印されている。
「椛、どうしましたか?え!?それは本当ですか!?大スクープの予感です!やっぱ椛にスマホを持たせて正解でした!あ、でも大天狗様には見つからないようにお願いしますよ?では!」
通話を終えスマホをしまう文。
「文さん、いつの間にスマホを・・・しかも河童のマークって・・・」
「にとりさんの新商売ですよ。すみませんが急ぎますのでこれで!」
飛び立つとあっという間に小さな黒点になる文。
幻想郷最速は伊達ではない。
「じゃ、じゃあ、次に行きますか・・・・?」
「え、ええ、そうですね」
まるで突風のようだった文に少し気圧された桑原が伊丹に答えた。
自動車の中では相変わらずクラウンピースが様々な機器に興味津々だったが栗林がここで思い切ってクラウンピースに聞いた。
「ね、ねぇ、クラウンピースちゃん。クラウンピースちゃんは何の妖精なの?」
サニーミルク、スターサファイア、ルナチャイルドの三月精達が何の妖精なのかは本人?達に聞いていたがクラウンピースにはまだ聞いていなかったのだ。
その陽気な性格や可愛らしいピエロの様な姿格好から夢のある答えを期待していたのだが・・・・
「あたし?あたしは地獄の妖精だよ?」
「ごめん、もう一度いい?」
「うん、いいよ?地獄の妖精だよ」
「・・・・・・・・き、聞き間違いじゃないーーーっ!?え?地獄!?地獄なのに妖精なの!?」
「うん」
聞いたことを後悔している栗林にかける声もなく車を進める。
暫く行くと荷車に仕留めた猪を載せて人里への道を進んでいる集団に出会い車を止める。
ほとんどが人里の人間だったが一人だけ目立つ格好をしている。
ピンク色の髪に片腕が包帯に包まれている人物・・・茨木華扇であった。
「華扇さん、お疲れ様です。護衛ですか?」
伊丹が降りて挨拶をする。
「えぇ、妹紅さんの都合がつかないと代理を頼まれました。最近、山で見慣れない妖怪を見かけたと言う噂話があるそうで・・・・」
「見慣れない妖怪・・・ですか?」
伊丹も興味を惹かれる。
人里内は安全だが人里の外に長時間出るときは華扇の様な仙人や妹紅の様に強い者か人間に友好的な妖怪にお願いして守ってもらう必要がある。
最近の妖怪は友好的な存在が多いがまだまだ未知の妖怪が潜んで居て人間を襲う場合もある。
妖怪に対する情報は知っておいて損はない。
「因みに、どんな妖怪なんですか?」
「私も直接見たわけではありません。人伝に聞いた伝聞なので正しいかは保証できませんがいいですか?」
「ええ、お願いします」
伊丹は頭を下げて頼み込む。
この情報がいつどこで役に立つか分からないからだ。
桑原や富田も貴重な情報かもとビデオカメラを構え撮影したりメモを取ったりする。
「わかりました。とは言っても近付いて見た者はいないそうですが・・・・。まず、身体は少し平べったい様ですが背丈は人の背丈より少し高いそうです。目撃者が見た時は吹雪いていた様で全体がはっきり見えなかった様ですが鼻と思われる部分が長かったそうです。目撃した者に害を加える様な動きはしなかったそうです。ただ・・・・」
「ただ?」
「ええ、目撃した者を人喰い妖怪が狙って背後から忍び寄っていたようなのですが・・・・件の見慣れない妖怪が雷のような音と衝撃で消し飛ばして助けたそうなんです。件の妖怪は唸るような声をあげながら立ち去ったそうです。その人物はお礼を言おうと追いかけようとしたそうなのですが吹雪と積雪で見失ってしまったとか・・・」
「うーん・・・・。分かったような分からないような・・・」
「飽く迄も噂ですから、尾ひれがついているかもしれません。話半分に聞いておいてください。では」
「いえ、貴重な情報をありがとうございます。みんなも気を付けてな」
「ああ、そっちもな」
華扇が話を切り上げると伊丹はお礼を述べ猟師たちとも軽い挨拶をして別れる。
「うーん・・・?何か引っかかる妖怪だな・・・・?」
伊丹は車の中でも考え続けたが答えは出なかった。
「これがその見慣れない妖怪の足跡ですか!」
パシャパシャと文が写真を撮る。
「文さん、まだ妖怪と決まったわけでは・・・・」
「じゃあ、幻想郷に新たなUMA現る!見出しはこれで決まりです!」
「しかし、もう少しズレていたら完璧に天狗の領域を侵犯していましたね・・・・。知ってか知らずか・・・」
その足跡を見ながら考え込む文と椛。
「でも、見事なまでにまっすぐな足跡ですね」
「うーん・・・・足跡なんでしょうか?これ・・・・。足と足の幅がかなりありますね・・・」
二人は真っ直ぐ続くその二つの足跡?を辿りながら考える。
伊丹達は文が自分達への取材を切り上げた情報と華扇から得た情報が自衛隊一行をも巻き込んだ異変に繋がることになるとはこの時点では知る由もなかった。
と言う訳で、異変有りに決定しました。
勘のいい人は正体不明の妖怪?UMA?の正体がもう分かっちゃっているかも。