GATE 幻想郷防衛軍彼の地にて斯く戦えり 作:にょろ35106
特地の自衛隊アルヌス駐屯地上空を飛ぶ一つの人影。
対空レーダーに反応が出て自衛隊は警戒態勢に移行した。
すわワイバーンによる偵察かと上空を双眼鏡で捜索する。
見つけた。
「・・・・・天使?」
最初にその姿を見た自衛隊員は思わず呟いた。
翼の生えた人影。
太陽の光で影しか見えない為、自衛隊員は天使かと思ったのだ。
「あやや、こんなものは見たことないですよ。これは文々。新聞の記事になりますよー」
地上を走る装甲車や待機中の戦車、烏天狗・射命丸 文にとって初めて見るものだった。
カシャカシャカシャ。
次々とシャッターを切る。
『ちょ、文さん何してるんですか!?』
霊力を込めた護符を使用した遠距離通話護符から慌てる伊丹の声がした。
「何って、文々。新聞のネタ探しですよ。何人たりとも真実を追求する文々。新聞の邪魔はさせませんよー」
『真実を追求って、ゴシップ・・・・げほんげほん!いいから戻って下さい!って、自衛隊が警戒態勢に入ってるじゃないですか・・・!』
「あやや、三十六計逃げるにしかずですね」
幻想郷最速を自負するだけあり、あっという間に文は自衛隊基地上空から姿を消す。
「ほ、報告書です・・・」
顔色の悪い柳田が特地方面派遣部隊の指揮官・狭間の執務室にて報告書を渡す。
「柳田・・・顔色が悪いぞ・・・」
そう言う狭間の顔色も悪い。
「いえ、少々胃が・・・」
「君もか・・・」
今朝見た報告書と映像。
小さな女の子二人が100人近い武装勢力をあっという間に皆殺しにした。
理不尽なほどの戦力差を手ぶらの少女・・・いや、幼女が未知の戦闘能力で覆した。
日本語を喋り、従者かその他か不明だが日本人らしい名前も口にしていた。
報告書には吸血鬼かも知れないと非常識なことが書かれていたが映像を見ればなるほど納得できる。
これをどうやって本国に報告するかと悩んでいたところにこの騒ぎだ。
「もう、何が起きても不思議ではないな・・・・。柳田、先に見ているんだろ?口頭で伝えてくれ」
「はっ。先ほどの未確認飛行物体ですが・・・」
「目撃した隊員達は天使だとか噂しているな・・・」
「恐らく、天使ではなく天狗ではないかと・・・」
「天狗?あの天狗か?」
「こちらが天狗と思われる未確認飛行物体の拡大写真です」
狭間は手渡された数枚の写真を見る。
全身の写った写真、引き伸ばされた写真。
「なるほど、姿は確かに天狗だな・・・」
カラスの様に黒い翼、修験者の様に見える服装と頭襟(ときん)を頭に乗せている。
「気のせいか、少し小柄に見えるな・・・」
「いえ、恐らくそのままです。分析した者の所見では、恐らく女性だと・・・」
柳田は引き延ばしの限界で顔は判別できないがスカートの様なものを履いていることと胸部が膨らんでいることから女性体ではないかと付け加える。
「なるほど、天狗と言えば男のイメージが強いが女性の天狗も伝承にいたな・・・」
「ますます、第二ゲート側の勢力の正体が分からなくなって来ました・・・」
胃を抑えながら柳田が言う。
「どうでしょうか、言語が同じなら接触は容易だと考えられますが・・・」
「うーむ・・・流石に私の一存では判断出来ないな。上に指示を仰ごう。政治的な交渉が必要になるかも知れないからな・・・」
「はっ」
紅魔館・幻想郷防衛軍作戦司令室。
とは名前ばかりで酒盛りしてる二人の鬼がいたりフリーダムな空間だ。
「以上が今回の概要よ」
そう言いながテーブルの上のお菓子を一口つまむ紫。
「伊丹をリーダーに、私と魔理沙の三人ではたての見つけた村を調査すればいいのね」
「そうなるな。でも、調査する村は二つだから一つにあまり時間かけられない。そして未知の生物との遭遇、戦闘が発生する場合も想定すれば・・・」
腕組みをして考える伊丹。
「藍さん、にとりさんの例の研究はどうなっていますか?」
紫の側で橙の髪を梳いてやっていた藍に話しかける。
「ああ、例のあれですか。まだ量産体制に入ったばかりですが、試作品なら必要なら使ってもいいと言っていました」
「ありがとうございます。では、その試作品も使用しましょう」
「決定ね、伊丹足引っ張らないでよ?」
少し意地悪い笑いを浮かべながら霊夢が言う。
「おいおい、伊丹もかなり上達してるんだぜ?先生の腕がいいからかもな」
「自画自賛してる魔法使いがここにいるわ・・・」
魔理沙の反論に霊夢がうわぁ・・・と表情を変えた。
数刻後。
紅魔館の庭に伊丹、霊夢、魔理沙が集まる。
カチカチカチッカチカチカチッ。
そんな三人に向けてある人物が二つの物体をぶつけ合いカチカチと音を鳴らしていた。
「って、そこの尸解仙、火をつけようとしないでください」
伊丹が付け火が大好きな尸解仙もとい物部布都を制止する。
「むっ、無礼な。これはおぬしらの無事を祈願しておるのだぞ」
「そんな祈願方法、あったかしら?」
霊夢が記憶を手繰る。
巫女だけあって礼儀作法や祈願方法についての知恵はかなりの物だ。
問題は面倒臭がってほとんど実践しない事だが・・・。
「鈴奈庵で立ち読みした本に書いてあったぞ」
「あんた、貸本屋で立ち読みって・・・」
「そんな所より、紅魔館の地下図書館の方が本も多い上に貸し出し無制限なのだぜ」
「おおっ、そうなのか?では次からはそこに行くとしよう」
「いえ、魔理沙さん。世間一般ではそれ借りたって言わないのでは・・・・」
呆れる伊丹。
「ま、まぁ、祈願してくれてるならありがたく受け取ってさっさと行きましょう」
「だな。布都、ちゃんと火の始末はするんだぜ?」
魔理沙がふわりと浮くと霊夢と伊丹もそれに続く。
なお、動かない大図書館の心労がのちに増えることになったらしい。
「バレておったのか・・・」
さっきまで三人が立っていた場所の近くにこんもりと落ち葉が集められていた。
その中には芋。
「まぁよい、早速焼き芋を焼くとしよう」
手に持った火打ち石でカチカチと着火する。
「しかし神子様も酷いではないか。マッチを取り上げられてしまうとは・・・」
うまく火が付き煙が上がる。
「おお、後は焼きあがるのを待つだ(バシャーーッ!)わ、我の焼き芋がー!?」
「あなた、紅魔館の庭で誰に断って焚き火をしたの?」
咲夜が少し低い声で布都に話しかけた。
「むっ、断る必要があったのか・・・すまなかったな」
「あら、素直に謝るなんて意外ね・・・。じゃあ、ここは片付けて。外でなら好きにするといいわ。美鈴の分も焼いてあげなさい。お芋は準備しておくから」
咲夜の情けで焼き芋にはありつけた布都であった。
自衛隊偵察部隊。
「あれは・・・焼き芋か?」
「ええ、焼き芋ですね。食文化は似ているのかも」
グーっと誰かの腹の虫が鳴いたとか鳴かなかったとか。
「あら、本当に上手になったじゃない」
伊丹の飛行をしばらく見ていた霊夢が言う。
「ええ、感覚を掴むまで大変でしたけどね」
正直な話、伊丹自身の霊力は並みで相当修行しなければ浮くのも難しかった。
だが紫が霊力を込めた飛ぶための霊符を使って現在は飛行している。
「筋はいいし、紫の霊力が呼び水になれば霊符無しでも飛べるようになるかもな」
「そうかなぁ・・・・?あまり自信がないんだが・・・・」
自衛隊偵察部隊。
「飛んでますね」
「ああ、飛んでるな」
「一人は箒にまたがってますけど、巫女服と和服は何もなしに飛んでますね」
「ああ、そうだな。・・・・っと、すまん、薬の時間だ・・・・」
「隊長も胃薬っすか・・・・」
「ああ、お前もか?」
「ええ。それに狭間陸将もこの間大量の胃薬を出されてましたよ・・・」
自衛隊の胃が持つのか?