GATE 幻想郷防衛軍彼の地にて斯く戦えり 作:にょろ35106
師走。
師も走るの字の如く忙しい事を意味する。
日本と幻想郷は暦も日付も全く同じだから年末年始は大忙しだ。
そして別の意味でも忙しいのが本位総理だった。
なにしろ内閣の大改造を決行したからだった。
与党内の派閥の力関係などを考慮して本来行われている組閣は今までの慣例をぶち壊す形で行われた。
当然派閥のトップ達はいい顔をしなかったが総理が自ら個別に会いディレルの遺品となったリストの内容を少し匂わせただけで不利だと理解し引っ込む。
官僚も大幅な人事異動が行われ、結果内閣で続投した閣僚は嘉納大臣一人だと言う状況になった。
そして現在、本位総理、嘉納大臣、防衛大臣と自衛隊の幹部数人が首相と会談を行っていた。
補佐官と外務省に役人が国会招致の日に会談を行ったピニャとボーゼスの二人が幻想郷へ亡命した事。
日本全国で確認されている行方不明者の内の十数名が幻想郷で確認された事。
半数近くは生存しているが残りは既に死亡している事。
死因は幻想郷で寿命を迎えたり事故で死んだり急病で治療が間に合わなかったりと様々であるが死者の大部分が銀座事件と同じ日付で死亡している事。
だがある意味それ以上の重要な事を話し合っている。
「総理、それは本当ですか?」
防衛大臣は聞き間違いでないかと確認をする。
「ええ、こちらの銀座ゲート防衛の為にレーザー砲台を用意できると。どうやら八雲紫と言うのはこちらの海外情勢にも相当詳しいようだ。何処かの国が潜水艦からミサイルを撃って来たりした時に備えてと河童が彼女の話を聞いて提案して来たそうです。こちらの反戦主義者の反発を想定して設置場所は銀座ゲート周辺のビルの屋上に限定。制御はAI制御で常時ステルス状態での設置が出来るとのことで」
「そいつは願っても無い話だが・・・・」
「即断はできません。熟慮に熟慮を重ねる必要があります」
この議題は持ち越しとなる。
そして幻想郷で生存や死亡が確認された人物の親族に安否が報告されていた。
生存者の家族には本人が同意すれば会うことが可能と言う事を伝え、死亡していた家族にはお悔やみを伝えた。
しかし何と言っても一番影響があったのは神社だろう。
大晦日の昼だと言うのに既に初詣待機の行列が日本全国で見受けられる。
八百万の神々が実在すると知った人々が初詣で神社に殺到すると予測されていた。
紅魔館・大晦日夕食時間。
現在紅魔館にいる全員が揃っている。
館の主人、レミリア・スカーレットが広間に集まっている面々を一望出来る場所から話しかけて来た。
「皆、今年一年は大きな出来事があったけど各々が力を尽くしそれらを乗り越えて来たわ。言葉にすると長すぎるから割愛するけど一言だけ言わせて貰うわ。良いお年を!」
レミリアの言葉に全員が「良いお年を」と返す。
ピニャとボーゼスも事前に聞いていた通りに言う。
「今日の夕食は年越し蕎麦よ。もちろんそれ以外にも用意してあるけど最初の一食は年越し蕎麦。後、食べ物と飲み物のお代わりは自由だけど今日はセルフサービスよ」
レミリアの言葉にペコリと私服の咲夜が軽くお辞儀をした。
咲夜だけでなく、美鈴も門番の仕事を終えこの場に来ている。
レミリアも自分の席に着く。
「いただきます」
レミリアが言うと全員がほぼ同時に「いただきます」をし食事を始めて行く。
ピニャとボーゼスは初めて見る蕎麦にどうやって食べるのかと少し戸惑っていた。
すぐ近くの魔理沙の食べ方を真似するがまだ箸の使い方がぎこちない二人には麺は難易度が少し高かった。
「ん?なぁピニャ、別に無理して箸で食わなくてもいいんだぜ?フォーク使えば楽だしさ」
魔理沙が四苦八苦しているピニャ達に声を掛けた。
「ありがとう魔理沙。しかし妾はみんなと一緒の食べ方をしてみたい」
「そっか。頑張れよ」
そのやり取りを少し離れた場所から蕎麦を啜りながら見ていた霊夢と伊丹。
「どうなるかと思ってたけど、結構ウマが合うのかしらね?」
「意外と似た者同士だしな」
両方ともお嬢様で父親に反発して飛び出して来たようなものだと感じた。
魔理沙の父親は襲撃で亡くなっている。
何度か魔理沙と顔を合わせる事があったピニャは先日思い切って魔理沙に謝罪をした。
だが最初の魔理沙の返事は「は?」だった。
不機嫌でもなく相手を拒絶するのでもなく、ただ普通に何故ピニャが自分に謝って来たのかわからないと言う様なニュアンスの「は?」だった。
「悪い、なんで私は謝られてるんだ?」
「そ、それは・・・妾の父上が原因で・・・・そなたの父上が亡くなったから・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「いや、お前馬鹿だろ?」
「ば、馬鹿とはなんだ!妾は真剣に・・・!」
「いや、だってさ。それとお前に何の関係があるんだ?お前が襲って来いって命令してたなら私は絶対許さないけどそうじゃないんだろ?」
「あ、あぁ・・・。進軍に妾が口を挟む余地はなかった・・・」
「だったら尚のことお前は謝る必要ないじゃないか。あれか?親が極悪人なら子供もその罪を背負わないといけないって考えなのか?」
「い、いや、そうではないが・・・」
「ちなみに私ならそんな考えの奴がいたら思いっきりお前馬鹿じゃね?って言ってるな。親は親、子供は子供なんだからそこはキッチリと分けて考えるべきだと思うぜ?まぁ、その子供が極悪人の親を肯定する奴だったら救いようがないけどな」
「そ、そう言うものなのか?」
「ああ、そう言うもんだ」
「な、悩んでいたのが馬鹿らしくなって来た・・・」
「まぁ、あれだ。紫が見てたらプークスクスって笑われてたな」
「ぷっ、そうかもな」
「ああ、そうだな。じゃあ代わりにプークスクス」
「そ、そなたは・・・」
少し呆れ口調のピニャ。
「あー、いい加減そのそなたって他人行儀なのはやめにしないか?魔理沙でいいぜ?」
「うむ、それでは魔理沙殿」
「殿も不要だ」
「わ、わかった。じゃあ、魔理沙」
「おう、これからもよろしくなピニャ」
「ピニャ・・・・」
「ん?呼び捨ては嫌だったか?」
「いや、そうではない。父上や兄上以外から名前を呼び捨てにされるのが新鮮でな。うむ、悪くない」
満更でもない表情のピニャだった。
「って事があったのよ」
「ほえー。私が来る前にそんな事が」
年越し蕎麦をすすりながら霊夢と話している少女・・・宇佐見菫子が霊夢から説明され感心している。
外界に住み眠っている時に幻想郷に来れる夢幻病と言う特異体質の彼女の存在は異世界ではなく並行世界を実証する事になった。
最初は伊丹も彼女と知り合った時は外界に住む人物だと思っていた。
長期休みの時によく幻想郷に来る彼女は次第に友好関係を広めて行き今ではレミリアの館に招待される事もある。
冬休みに入り遊びに来た彼女は当然この異界の前線基地の役割を持つレミリアの魔力で構築された第二の紅魔館にも招待される。
そこで自衛隊の一行とも会った彼女が最初に言った言葉。
「何でこっちに自衛隊の人達がいるんです?まさか部隊ごと幻想入りを?まさか、紫さんが部隊ごと拉致ったとか・・・?」
「いや、我々は銀座のゲートから特地に来ました」
桑原が答えたが菫子の頭には?マークが消えることはなかった。
「銀座のゲート?ゲートって?」
ここで伊丹も自衛隊の一行も違和感に気付いた。
何故、外界に住む彼女が異界門・・・外界ではゲートと呼ばれる存在を知らないのか。
「なぁ、菫子ちゃん。俺たちの姿、テレビで見たことある?」
「えっ!?伊丹さんテレビに出たんですか!?どのチャンネルです!?」
「いや、次の日には霊夢と魔理沙も出たしその日の夜には月面で月人が大規模軍事演習やったんだけど・・・・」
「ほぇ?」
理解が追いつかない菫子。
「宇佐見さん、銀座事件って知ってる?」
「ええ、あれは嫌な事件でした。確か無職の男が無差別通り魔をして何人か亡くなった事件ですよね?」
栗林の問いかけに対する答え。
ここで決定的になった。
菫子の知っている銀座事件は無差別通り魔事件。
国会のテレビ放送も知らず、世界中が目撃した月面軍事演習も知らない。
「まさか・・・・並行世界・・・?」
倉田が呟いた言葉が事実を物語っていた。
自衛隊が菫子から聞き出した住んでいる場所の住所。
日本の送られたそれはしかし似た地名があるものの該当する地名が存在しなかった。
彼女が在籍していると言う東深見高校と言う学校も似た名前の学校はあったが在籍者及び卒業生の中に宇佐見菫子と言う名前は存在しない。
幻想郷や特地の存在だけでも物理学者達はいっぱいいっぱいなのにここに来て並行世界の日本人が現れた。
ようやく慣れて来た物理学者達は再び胃薬と再会する羽目になった。
除夜の鐘が鳴り響く。
日本中の有名な神社は例年以上の参拝客が訪れている。
あまり名前を知られていないち地方の分社も新年の参拝客が大勢訪れる。
時計の針が一月一日の午前零時になる。
あちこちで参拝客が連れや知り合いに新年の挨拶をする。
次々と投げ入れられるお賽銭、飛ぶように売れる破魔矢やお守りの類。
「ねぇねぇ、ママー。あそこに着物を着た人がいるよー」
「誰もいないわよ?眠いのかしら?」
「パパー、時代劇みたいな格好をした人がいるー」
「どこにだい?」
小さな子供連れの参拝客の多くがそんな体験をする。
それは日本各地で多発した。
信仰心が少しずつ増えた結果、多感な時期の霊力が比較的強い子供達に見えた八百万の神達の姿であった。
「なんでよ・・・一体私がどんな悪いことをしたって言うのよ・・・・」
博麗神社、夕刻。
夜中から起きていた霊夢だが彼女は打ちひしがれていた。
賽銭箱の中は空っぽ。
元日の現時点での参拝客数、ゼロ。
「えぐっ・・・えぐっ・・・」
博麗神社、別名妖怪神社。
人里から離れているため人里から近い守谷神社に人々は参拝している。
「何やってるんだ霊夢・・・」
「ぐずっ・・・魔理沙・・・」
「よっ、初詣に来たぜ」
魔理沙の後ろには伊丹、ロゥリィ、テュカ、レレィ、ピニャ、ボーゼスと続き紫、藍、橙と続いていた。
伊丹、魔理沙、紫、藍、橙が賽銭を入れ二礼二拍手一礼する。
異界組もその動作を見様見真似する。
「さて」
紫がスキマから大量のお酒と食材を出す。
「宴会よ(はぁと)」
夜遅くまで宴会は続いた。
書き終えた後見直してて気付いた・・・。
最後の宴会のシーン、男は伊丹だけじゃないかと・・・。
ま、いいか。
そしてピニャと魔理沙の関係も改善しました。
改善というか一方的にピニャが引け目を感じていただけですが。
作者はメリー=平行世界の紫派かな。