GATE 幻想郷防衛軍彼の地にて斯く戦えり   作:にょろ35106

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ジゼルさん再登場。


ハーディとジゼル

日本と幻想郷は忘年会シーズン。

 

当然アルヌス駐屯地の自衛隊員達も忘年会を楽しみにしている。

 

今回は何と言っても紅魔館主催の忘年会に自衛隊が招待されている。

 

一部だけでは不公平だとレミリアが提案し交代で数日間に渡り忘年会が行われる。

 

 

そんな浮き足立つ隊員達が多いアルヌス駐屯地の建物の一室。

 

ピニャ、ボーゼス、紫と日本で会談を行った首相補佐官と外務省の役人が話し合いを行なっていた。

 

「すまない、妾の力不足で・・・・」

 

「い、いえ、お気になさらず・・・・・

 

首相補佐官と外務省の役人はしばらく前に会談を行ったピニャとボーゼスの二人が幻想郷側に亡命してきたと聞き慌てた。

 

そして二人の方から再度会いたいと伝えられスケジュールを調整してアルヌス駐屯地で会談を行っていた。

 

「貴方方から頂いた名簿は元老院に見せた。だが父上・・・皇帝が頑固な石頭でな・・・。いくら説明しても帝国が負ける訳がないと言い張っていてな・・・・。あの根拠のない自信は何処から来ているのやら・・・」

 

前回と違い、今回の会談は幻想郷の河童が作成した翻訳機を通した自然な会話で行われている。

 

日本側は日本語、ピニャ達は異界語で話しているが自然に会話ができる装置に最初は補佐官と役人も度肝を抜かれていたが。

 

「挙げ句の果てに、妾を狂人扱いして幽閉したのだ。八雲殿が来てくれなければ死ぬまで閉じ込められていたであろう・・・」

 

「そんな事が・・・」

 

「期待に添えず、申し訳ない」

 

ピニャの謝罪に日本側は慌てた。

 

日本の要請で伝言を伝えた結果に親子関係が破綻したと捉えていたからだ。

 

「そちらでは後から帝国が皇女を拉致や強制連行されたと言いがかりをつけられてはお困りでしょう。幻想郷でしたら基本的に敵意がなければ来る者は拒まずですので受け入れられます」

 

紫の言葉に日本側は安心する。

 

何しろ日本は数十年に渡り拉致や強制連行と言う難癖を一部の国や国内の反日団体から言い続けられ、ある種のアレルギーの様になってしまっているからだ。

 

「話は変わりますが、先日のご依頼の件のご返答です。詳しくはこちらに書いてありますので・・・・

 

紫は先日日本政府より渡された行方不明者のリストを返却した。

 

リストの一番上には毛筆で稗田阿求確認済と書かれている。

 

「失礼します」

 

パラパラとめくると数は少ないが所々に毛筆と墨で書き込みが行われている。

 

生存や死亡の文字。

 

そして数名が行方不明と書かれている。

 

死亡の場合はいつ亡くなったかが記入されている。

 

そして首相補佐官は死亡者の大部分が同じ日付に亡くなっているのに気付いた。

 

その日付が何の日かはすぐに分かった。

 

銀座事件の日付。

 

幻想郷の人里にもほぼ同時に襲撃があった事は聞いていて知っている。

 

「ありがとうございます。こちらは日本に持ち帰らせていただきます」

 

「それと、河童の方から提案があるそうで・・・・」

 

河童からの伝言を伝える紫。

 

「それは・・・!分かりました。その件は確実に総理にお伝えいたします」

 

「ええ、よろしく」

 

その場では即答できない提案に首相補佐官は新たに緊張を覚えた。

 

 

 

 

紅魔館門番の紅美鈴は四六時中門番をしているわけではない。

 

食事の時や就寝時は当然ながら館の中にいる。

 

休日は幻想郷へ買い物に戻ったり近くの森で鍛錬をしたりしている。

 

その時も昼食の為に門を施錠し食事に向かう。

 

その紅魔館の塀を乗り越える影。

 

人の気配がしないのを確認し敷地に侵入する。

 

尖った氷でズタズタになった体が治癒した亜神ジゼルだ。

 

卵にマーカーの様な魔法を使用していたおかげで大体の場所がわかりこの館を見つけた。

 

魔法は何故か消えてしまったがその反応の場所が分かりやすいアルヌスの丘だった為に迷わず辿り着いた。

 

大きな施設が二つあったが片方は緑色の服を着た人間が大勢いる為侵入を断念。

 

人数の少ないこの館に侵入する事にした。

 

門番はほとんど目を瞑っているがかなりの使い手とジゼルは判断した。

 

ちょっとした動きでも気配を察しているのかすぐに気付かれ警戒を高める為とにかくじっと隠れていた。

 

その門番が姿を消したのをチャンスと言わないで何をチャンスと言うのかの様な感じでジゼルは紅魔館に侵入を果たした。

 

そしてまずは真新しい小屋を覗く。

 

「あれは・・・!!」

 

二匹の龍が首輪もつけられずに小屋の中で眠っていた。

 

「あの時の小娘、卵を食べるとか言っていたが先に孵ったのか・・・」

 

これはチャンスと小屋の扉に手を掛ければ簡単に開く。

 

小屋の中に入るとその気配から二匹の龍が起きる。

 

ジゼルの姿を見て首をかしげる様な仕草をする。

 

「二匹とも無事か。よし、こいつらを魔法で操ってけしかけてやれば・・・!」

 

「「グルルルルルルルッ!」」

 

だが一定の距離を超えて近づいた途端二匹が同時に唸り声を上げジゼルを威嚇する。

 

「ギャウギャウギャウッ!」

 

「シャーーーーッ!」

 

「ま、待てって!ひっ!」

 

噛みつかれそうになり大慌てで天井の梁の上に飛び乗る。

 

下では二匹の龍が威嚇を続けている。

 

「面倒だな・・・・。よし、魔法で眠らせ・・・・」

 

ギィッと扉が開き一人の男が入ってきた。

 

「おーい、ポチにタマ。散歩に行くぞー・・・・って、どうかしたのか?」

 

二匹の龍が天井を睨んでいるのに気付き上を見るが特に何もない。

 

ジゼルは上手い事梁の影に伏せていた。

 

「ん〜?変な虫でもいたか?こんどリグルに来て貰って調べてもらおうかな?っと、ははっ。分かった分かった。散歩に行くか」

 

伊丹が歩き始めるとその歩みに合わせて二匹の龍が着いて行く。

 

 

 

「くそっ、龍は後回しだ。無様な姿をハーディ様に見せられない・・・」

 

今回の潜入にはハーディもジゼルに期待をしていると伝えており、ジゼルの見聞きした物はそのままハーディに伝わると言うジゼルにしてみれば栄誉な任務だった。

 

魔法で気配を消し、館内部に入り込む。

 

 

レミリア私室。

 

「予定通りに館の周りをウロチョロしていた鼠が屋敷に入り込んだわね」

 

本を読みながら側でベッドメイキングならぬ棺桶メイキングをしている咲夜に話し掛ける。

 

「はい。しかし宜しいのですか?放置して」

 

「構わないわ。鼠は気付いていないでしょうけど、この館の近くに来た時から既に私の手の上」

 

ぺらりとページを捲る。

 

「あの亜神とハーディとやらにある種の絶望を教えて上げましょう」

 

鼠の姿をロゥリィに見せた時にこの鼠がハーディとか言う神の亜神と知った。

 

そしてこの策を考えついた。

 

レミリアの運命操作でジゼルは既にその運命に囚われていた。

 

「それでは、私は妹様のおやつの支度に入らせて頂きます」

 

「ええ、お願いね」

 

咲夜が退室する。

 

ジゼルは妖精メイドや屋敷にいる者に会わない様に移動をする。

 

もしこの時のジゼルの移動を第三者が地図上で見ればまるで誘導されていように見えただろう。

 

その誘導先は地下の大図書館。

 

大量の蔵書に目を見開くジゼル。

 

そして魔力を感じる小さな部屋。

 

大事なものがあると見てジゼルはその部屋に入り込む。

 

その部屋の中では本棚ではなく一冊一冊がそれぞれ別々の机の上に置かれ何らかの魔法がかけられている。

 

ジゼルは抗いがたい衝動に駆られその中の一冊を手に取り読む。

 

字は分からないのに何が書いてあるのかわかると言う奇妙な現象。

 

そしてその知識はジゼルを介してハーディにも伝わる。

 

そしてハーディは知る。

 

知ってしまった。

 

外なる神々と旧支配者の存在を。

 

宇宙の外に広がる邪悪と混沌の存在を。

 

この世界も今まで生物を連れて来るために他の神も行なっていた門を繋いだ異世界も、そして今現在繋がっている日本と幻想郷の存在する世界も。

 

そして自らを含めた全ての世界の生物と神々も。

 

全てが邪悪な神性アザトースが見ている長い微睡みの中でその存在を許されているだけの存在であり、一度目覚めれば抵抗する間も無く捻り潰される矮小な存在だと言う事を知ってしまった。

 

そして様々な世界で黒人神父や女子高生の姿になったりして暗躍している無貌の神、這い寄る混沌ニャルラトホテプの存在も同時に知ってしまう。

 

ジゼルの耳に幻聴が聞こえ始める。

 

そしてハーディにも聞こえ始めてしまう。

 

ふんぐるい むぐるうなふ くぅとるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん

 

いあ いあ あざとーす いあ いあ にゃるらとほてぷ いあ!いあ!

 

ジゼルは辺りを見回す。

 

誰もいない。

 

なのに聞こえる。

 

「な、なんだよ・・・なんだよこれぇっ!」

 

そして部屋の隅の角を見たジゼルの目が見開かれる。

 

遂にジゼルには幻覚が見え始める。

 

青黒い煙が見え、その煙が何かを形作る。

 

「う、うわあああああぁぁぁぁっ!!?」

 

恐怖に慄き逃げ出すジゼル。

 

ジゼルは地下から地上へ逃げる。

 

「げっ・・・・」

 

ジゼルの姿を廊下を歩いていて遭遇したロゥリィはあからさまに嫌な顔をし身構える。

 

「どけっ!どけぇっ!追って来る!追って来るぅうぅっ!!」

 

だがジゼルはロゥリィなど眼中にないかの様に悲鳴を上げて何かから逃げる様にロゥリィの脇を走り抜ける。

 

そんなジゼルの姿を見てロゥリィは首をかしげる。

 

「追って来るって・・・・なにがぁ?なにもぉいないじゃなぁい?」

 

ジゼルが来た方向を見ながらジゼルが何に怯えていたのか考えるが答えは出ない。

 

「一体、なにに怯えていたのかしらぁ?」

 

「怖い幻でも見たのかしらね?」

 

廊下を歩いて来たレミリアがクスクス笑いながら話し掛けてきた。

 

「狂えないって言うのは、ある意味残酷よね」

 

窓から館の外へ走って逃げてゆくジゼルを見ながらクスクス笑い続けるレミリアにロゥリィは追求を止める。

 

世の中には知らない方がいいこともあると直感で察したのだった。

 

 

 

紅魔館地下図書館。

 

パチュリーはレミリアの指示で緩めていた封印を再度強固な物に張り直す。

 

小悪魔はその助手を務める。

 

「終わったわ」

 

「狂えないって言うのはある意味不幸ですよね」

 

「ええ。でも、人間でも奴等の目を欺いた切れ者がいたのをあなたは覚えてるかしら?」

 

「ええ、よく覚えています。まだ紅魔館が外界にあって百年ほど前に道に迷ったアメリカ人旅行者を一晩泊めた時の事ですよね?確か名前は・・・なんでしたっけ?」

 

「ラヴクラフト氏よ。最初から狂っていたのか、それとも狂わずにいられたのかは分からないけどね」




SAN値マイナスになっても狂えないのは辛いよね。
ちなみに設定だけで本編にはクトゥルーとかニャルラトホテプ様とかは直接関わりませんのでご安心を。

と言う訳で、ジゼルさんとハーディさんは宇宙の真実に気付いてしまいましたとさ。

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