GATE 幻想郷防衛軍彼の地にて斯く戦えり   作:にょろ35106

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酒は飲んでも飲まれるな


ピニャ様、皇族やめるってよ

 

「やってられるかああぁぁぁぁぁっ!!」

 

「お客さん、もうそれぐらいにしといた方が・・・・」

 

「らいじょーぶら!金は沢山あるかりゃしんぱいするにゃっ!!」

 

「ま、まぁ、確かに異界の金貨や銀貨は使えるけどさ・・・・」

 

紅魔館脇に毎夜来る屋台。

 

その屋台の店主、ミスティア・ローレライは今日は厄日だと思った。

 

ここに店を出してそれなりに経つ。

 

最初は紅魔館でこの異界調査に来ている面々だけが客だったが最近では外出許可の出た非番の自衛隊員やここに避難して来たコダ村の避難民もちょくちょく来るようになった。

 

おかげで一台の屋台では足りず連結式の屋台で商売をしていた。

 

今日はそろそろ店仕舞いにしようかと思っていた時に来た二人組が酔ってひたすら愚痴っているのだ。

 

「ピニャしゃま、もう一杯ろーぞ」

 

「おっととと、しきゃし、こにょ熱燗っていうのはなかなかいけるにゃ・・・。あー、次はちくわちょーらい」

 

「わらしははんぺん〜」

 

「毎度〜」

 

まぁ、酔い潰れたら紅魔館の内側に入れておけばいいかと考え直し注文されたおでんを皿に出す。

 

 

 

 

時は遡り、その日の昼前。

 

前日夜に帝都に帰還したピニャは元老院で日本政府より渡された捕虜の名簿を公開し日本と戦うのは愚かな選択だと伝える。

 

「ですから!私はニホンを見て来たのです!帝国より遥かに進んだカガクと言う物の力を!なにより、門の向こうはニホンだけではなく、百カ国以上の国があるというのです!中にはニホンより強大な軍事力を持った国が幾つかあると!」

 

元老院で父であり帝国の皇帝であるモルトに訴えかける。

 

「もし門の向こうが本気でこちらの世界に来れば、この大陸が炎に包まれてしまいます!しかもゲンソーキョーには強力な力を持った神々やヨーカイと言う怪異の力を持つ存在が無数にいると言うのです!ニホンだけでも強敵なのにもしニホンと他の国とゲンソーキョーが同時に攻め込んで来たら帝国に勝ち目はありません!無辜の民が犠牲になるのです!」

 

「ピニャよ・・・・」

 

モルトが口を開く。

 

「貴様は、我が帝国が負けると本当に思っておるのか?我が帝国は危機に陥るたびにその危機を乗り越えて来た。此度もそうである。それに、ニホンには魔法を使えるものが一人もいないそうではないか。そのような蛮族共に我が帝国が負けると?」

 

「はい」

 

「・・・・・・本日の議会はこれまでとする。ピニャ、昼食を済ませて後ほど謁見の間に来るがよい」

 

そう言い残し議会を後にするモルト。

 

これと言った手応えを感じられない無力感に苛まされピニャも元老院を出る。

 

「ピ、ピニャ様・・・・」

 

ピニャを待っていたボーゼスが憔悴した主人の姿に戸惑う。

 

「相変わらず、父は石頭だ。昼食後に謁見の間に来るようにと仰せられた」

 

「わかりました。このボーゼス、どこまでもお供いたします」

 

 

 

ピニャとボーゼスは共に昼食を終え、謁見の間に向かう。

 

ボーゼスは謁見の間の前で歩みを止め、ピニャに一礼する。

 

呼ばれたのはピニャのみであり、ボーゼスは付き人としてここで待つ。

 

 

 

 

 

「父上」

 

「ピニャ、先程言った事だが今一度問う。お前はこの帝国が負けると本当に思っておるのか?」

 

「はい、確信しております」

 

「ふっ、まんまと敵の策に乗せられた愚かな娘よ。お前の見て来たものは大方薬でも盛られ見せられた幻であろう。我が帝国より進んだ国などあり得ぬ」

 

「なっ!?」

 

「しかも神々が実体を持っているゲンソーキョーなる世界だと?そのような物、あり得ぬ。恐らくは怪異と混血した卑しい者共がいるだけの世界であろう」

 

「ち、違います父上!」

 

なんとか説得しなくてはと焦る。

 

旅館と言うところのテレビで見た霊夢と魔理沙の弾幕ごっこと言う戦闘、更に月人と言う日本と幻想郷を遥かに上回る圧倒的な存在をなんとか言葉で説明する。

 

「ピニャよ、お主は少し疲れておるのだ」

 

可哀想な人を見る目でモルトは娘を見た。

 

「月に人が住んでおるだと?まず、どうやって月まで行くのだ?ピニャ、お前は公務から離れ好きなだけ静養するがよい。衛兵、ピニャを塔の部屋へ連れて行け。あそこなら見える景色も良い」

 

「はっ!ではピニャ様、どうぞ此方へ」

 

「なっ!?ち、父上!?無礼者!妾に触れるでない!」

 

困った様にモルトを見る衛兵。

 

「構わぬ、引きずってでも連れて行け」

 

「はっ!」

 

「はっ、離せ!離さぬか!」

 

「お前も手を貸してやれ」

 

大臣の言葉にもう一人の衛兵が頷き二人の衛兵がピニャを両脇から抱えて引きずって行く形になる。

 

「ええい!離せ!離さぬか!帝国が滅ぶかどうかの瀬戸際なのだぞ!!」

 

「ピニャ様!落ち着いてください!」

 

「皇帝陛下はピニャ様を心配しておられるのです!」

 

ボーゼスが見たのは衛兵に引きずられて謁見の間から連れ出される主人の姿。

 

「ま、待て!ピニャ姫様に何と言う無礼な!」

 

「下がっていろ!これは皇帝陛下の命令だ!」

 

「なっ!?」

 

ドアから見える皇帝モルトの姿を見ながら何が起きたのか想像を巡らすボーゼス。

 

「ボーゼスとか言ったな?」

 

大臣がボーゼスに近付きながら声をかける。

 

「ピニャ様はお疲れのご様子。皇帝陛下が塔の部屋での静養を申しつけられた」

 

「なっ・・・・?」

 

「静養中は会う事はまかりならぬ。お主はピニャ様が公務に復帰する時に備え騎士団の備えをしておれ」

 

そう言い残して大臣も消える。

 

「塔の部屋だと・・・・?あそこに入れられた者は・・・・・!」

 

 

 

塔の部屋。

 

モルトが命じてピニャを幽閉したここは乱心した者・・・いわゆる精神異常の皇族を軟禁する所であった。

 

今までここに入れられた者が次に出て来たのは棺桶に入れられて出て来たことしかない。

 

「ええい!開けろ!開けぬか!」

 

内側から扉を叩くピニャ。

 

しかし扉の向こうには人の気配すらない。

 

一番近くにいるのは塔の外で警備をしている兵士ぐらいだ。

 

夕方になり扉の横の小窓から食事と飲み物が入れられたぐらいだ。

 

「ああああっ、ここまで石頭だったとは・・・・。このままでは帝国だけでなく、無辜の民達が犠牲になってしまう・・・・」

 

空腹には勝てず少し冷めた頃に食事に手を伸ばしながら一人呟く。

 

「お困りの様ね?」

 

「ああ、困った、本当に困っ・・・えっ?」

 

聞き覚えのある背後からの声に振り返ればそこに紫がいた。

 

「貴女の頑張っていた姿は見ていたわ。説得は出来なかったみたいだけど」

 

「ああ、まさかあそこまで盲目的な石頭だとは・・・」

 

紫が突然現れるのは幾度か見て経験もしているのでピニャは紫が神出鬼没と言うことに慣れ始めていた。

 

「八雲殿、恥を承知で頼みがある。妾をここから連れ出してはもらえぬか?」

 

「お安い御用だけど、いいのかしら?貴女にもここでの立場があるのではなくて?」

 

「分かって聞いているであろう?ここに幽閉されたら最後だ」

 

「いいのね?」

 

「ああ、それから幾つか頼みたいのだが・・・・」

 

 

 

ボーゼス自室にて。

 

「ああ、ピニャ様・・・」

 

ボーゼスは部屋の中を意味もなく行ったり来たりを繰り返していた。

 

そんな彼女の元にスキマが開き中からピニャと紫が出てくる。

 

ピニャは持てるだけの荷物を持っていた。

 

「ピニャ様!?」

 

思わず声をあげてしまったがピニャが静かにする様にとのジェスチャーをするのを見て自分の口を手で塞いだ。

 

「ぴ、ピニャ様・・・・・ご無事で・・・」

 

「ああ、塔に幽閉された時は最後かと思ったが紫殿が来てくれたおかげで脱出出来た」

 

「ところで、そのお荷物は?」

 

「ああ、それを含めてだが・・・・ボーゼスに別れの挨拶をしたくてな」

 

「別れ!?ど、どういう事ですかそれ・・・・!?」

 

思わず大声をあげてしまったがすぐに声のトーンを落とす。

 

「妾は父上の石頭ぶりには愛想が尽きた。このままでは帝都の無辜の民草に血を流す者が出るかもしれん。妾はゲンソーキョー側に一度身を隠して妾に出来ることをしたいと思う。ボーゼス、本当ならお前も誘いたかったがお前の家名に傷を付けてしまうだろう。だから・・・」

 

「何を言うのですか、私の主人はピニャ様のみです。何処までもお供いたします。すぐに身支度を整えますのでお待ちください」

 

「あ、あぁ・・・本当に良いのか・・・・?」

 

「もちろんです。八雲殿、済まぬが私の実家に一度行きたい。離縁の手紙を書く故」

 

ボーゼスが手紙を書き終え身支度を整え終えると紫のスキマで全員が移動をした。

 

ボーゼスの家の位置を聞き離れた場所へスキマを開きボーゼス自身が門番に手紙を預けるとすぐに紫の元へ移動し再びスキマ移動をする。

 

 

 

紅魔館には既に向かい合わせで二人の部屋が用意されていた。

 

「それでは、ピニャ様、ボーゼス様。何か分からない事や必要な物があれば遠慮なくお申し付けください」

 

客人として滞在する事になった二人に咲夜が挨拶をする。

 

「手間をかける」

 

「よろしくお願いします」

 

ピニャとボーゼスも返答をする。

 

「早速ですまないのだが、ちと妾達は帝国での出来事で愚痴を言いながら酒でも飲みたいのだが・・・・」

 

「成る程。それでは料金がかかりますが紅魔館ではなく外にあるミスティアの屋台が一番でしょう。ご案内します」

 

「屋台・・・とな?」

 

「移動式の飲食所の様な物と考えてください。こちらの世界での通貨でも支払いは可能ですのでその点はご心配なく」

 

「そうか。では手数をかけるが案内を頼む」

 

 

 

そして現在へ至る。

 

「もるろ様の石頭〜!」

 

「父上の石頭〜!」

 

酔っ払いが二人、紅魔館の内側に転がされていた。

 

幸いにしてスカーレット姉妹は一時的に幻想郷の紅魔館に私用で一時帰宅していたのでこの二人の醜態を目にすることは無かった。

 

「ピニャしゃま、ひっく、あしょこの小屋で休みましょう・・・・」

 

「そうりゃなぼーれす。ひっく。小屋れ寝るのりゃ・・・」

 

二人は泥酔者の足取りでよろよろと小屋に入るとそのまま地面で寝てしまう。

 

「ぐかー・・・ぐかー・・・」

 

「しゅぴー・・・しゅぴー・・・」

 

そして朝。

 

「ほぅら、ポチ、タマ、朝ごはんだぞー」

 

野菜やら肉やらを混ぜた餌を桶一杯に入れて伊丹がポチとタマの小屋に入る。

 

「酒臭っ!?」

 

最初に嗅いだ匂いは酒の匂いだった。

 

「ぐかー、ぐかー」

 

「しゅぴー、しゅぴー」

 

「えぇぇぇ・・・・・?」

 

ピニャとボーゼスが来ている事は咲夜から聞いていた。

 

ポチとタマに餌をやってから挨拶しようかと思っていたが酔っ払いと化した二人がポチとタマの小屋の中で地面で直接寝ているのだ。

 

出奔したとは言え、一国の皇女と貴族が酔い潰れたサラリーマンの様に。

 

「クルルルルルルッ・・・・・」

 

「キュルキュルキュル・・・・」

 

困った様に伊丹を見る小屋の隅にいる二匹の龍。

 

余りの酒臭さに隅へ避難した様だ。

 

「偉いな二匹とも〜。それに引き換え・・・はぁぁぁ・・・・」

 

大きくため息をつく伊丹であった。

 

 

 

 

「あっははははははははっ!!」

 

「ぷくく・・・・笑っちゃいけないけど・・・・無理・・・・・」

 

「ぷっ・・・・笑うなと言うのが無理・・・ぷぷっ・・・・」

 

「わ、忘れてくれ!頼むぅぅぅっ!!」

 

「こ、このボーゼス、一生の不覚・・・!!」

 

伊丹がなかなか戻ってこないので様子を見に来たロゥリィ、テュカ、レレィは小屋の中で酔い潰れている二人を見る事になる。

 

取り敢えず館に運び込み紅魔館にあった永遠亭の置き薬から酔い覚ましを用意すると少し意識を取り戻した二人に飲ませた。

 

どうやら昨夜酔い潰れて小屋の中で寝た事は覚えている様だ。

 

そして今、ロゥリィ、テュカ、レレィが思い出し笑いをし、ピニャとボーゼスが恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。

 




よくファンタジーものじゃ塔の上の部屋は幽閉に使われてるので帝国では精神に異常をきたした皇族が幽閉される場所にしました。
まぁ、現代みたいに精神医学が発達していない世界や時代では皇帝やらが都合の悪い人物を政治的に抹殺するために悪用したりとかもお約束ですし。

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